「まさになしだ」と、ジョージは ( ンモックの中で向き直りながら彼らはいつも、ポビーが成長して、ジョージの考え出した組織の ぼそ・ほそっぷゃいた。 どれか一つの中で暮らしていけたらと望んでいた。そうなったら何 「あなた、何ですの ? 」 と素晴しいだろう。しかし今や残っているのはウエストビル地区の 「日の下に新しきもの無し」と、ジョージは大きな声で吐き出しみで、あの駄目なジョージでさえ、ウエストビルはあまりぞっとし よかっこ 0 「ねえ、ジョージ」と言って、ロイスはあたりさわりのない声でし彼女は彼の寝ている」 ( ンモックに近づき、櫛を入れてない髪をや ゃべろうとした。 さしく撫でた。どうして彼の髪の毛の色が変わってしまったのか、 「いちいちおれの耳をわずらわさないでくれ ! 考え事してるんだ彼女には奇妙に思えた。髪の三分の一ほどが雪のように真白にな から」 り、残り全部は二人が学生時代に会った二十年前とまったく変わら ない茶色だった。 「分ってるわよ、ジョージ」 「フン。その通りだ」ジョージは言った。 「どうかしたの ? 」彼女はおだやかに聞いた。 再び静寂が流れこんで動かなくなった。 「今さらそんなこと言ってみても仕方ないだろう」 ジョージはいらだたしく息を吐いた。 「あまり思いつめないで下さいな」 ロイスは爪の手入れをしていた。 ジョージは何やらぶしつけにつぶやいていたが、やがて改まって 「お前は、今それをしなくちゃならないのか ? 」とうとうジョージ彼女の方に向き直った。 が口を切った。 「ロイス、俺達はあらゆる手を打ってきた」と、彼は言ったが、そ ロイスは無邪気に顔を上げた。 の眠はひどく疲れていた。「そうしたことは世間の連中はちゃんと 「お前の爪だよ」と、ジョージは怒鳴った。「ヤスリがうるさくて知ってるんだ。だがな、最近じや選挙民に強烈な印象を与えるに かなわんよ」 は、ただ心情に訴えるだけじゃだめなんだ。具体的な方策を持ち出 「あらそう」彼女は手入れの道具を下に置き、つとめて静かに坐りさなけりゃな。だが今となっちゃ、くそ ! 俺は常に変わっていく 直した。外は、雨がますますひどくなっていた。彼女は、早く雨が変化などというものに飽がさしたよー 止み、ポビーが外に出て遊べることを望んだ。夫のジョージについ 「たぶんその線でいった方がいいかもしれないわね」と、彼女はあ ては少し心配していた。彼はもはや若くはなかったし、ロイドやプ いづちをうった。「おそらく長く伝統として残るもの、ええと、つ リガムのように、すでに功なり名遂げているわけではなかった。自まり大地にしつかりと根をはったものを青写真に描いてみたらどう 分の能力に自信をなくし、そのためにシャープな考えをひねり出すかしら」 こともできないのだ。 「いい力い、俺は年取っているかもしれないさ。しかし誇りはちゃ システム
んと持っているんだ。とにかく、ロイドはちょうど去年マイアミの「今は駄目よ、ポビー」と、ロイスは言った。「パパはお仕事中な 選挙に出た時、《古き良き時代に帰ろう》式のお題目を唱えたんのよ」 やっこ ポビーは机で書いているジョージの大きな体を見て肩をすばめ だ。だが奴さんでも成功できなかった。困ったことに、お天道さま た。そして興味なさそうに自分の部屋に戻っていった。 の下には世間をあっと言わせるような新しいものなんてまるであり やしない」 三週間後、再び月曜日。予報通り雨は降っていたが、今はうんざ 「今に始まったことじゃないわよ」 りする霧雨に変わっ・ていた。それはジョージ・セイジのムードにび 「何だって ? 」 ったり合っていた。 「あたし達が結婚する前、あなたはよく言ってたじゃない。政治な んて小説を書くようなもんだなんて。基本的な構想なんてそういく宣伝係のウイル・ノーランは大きな机にだらしなく寄りかか ) つもないのよ。それをどういうふうに組み合わせるかが間題だっ眼に当てていたレンズを取り出して・ほんやりと天井を凝視めた。 「ジョージ、素晴しいそ」彼は率直に言った。「まったく素晴しい て」 三一口画た」 「そりやそうだーと、ジョージはうなずいた。「ホメロスの大昔か ジョージは冷汗が出てきた。《トナカイ遊牧計画》を発表してか らジョイスの時代まで物書きはたくさんいた。だが主人公を誰がど うこねくりまわしたところで、結局はユリシーズになってしまうじらノーランとのつきあいは十五年になるが、それはその内で最もお となしい誉め方だった。そうひどいものではなかったろう。しかし ゃないか」 ジョ 1 ジは常日頃にもまして懸念をいだいていた。 ロイスはいらいらして待った。 「本当に素睛しいよ」ノーランは続けた。「もちろん、特許局とは 「ウーム」ジョージはうなっていたが、 ( ンモックの中で起き上っ システム て言った。「事によると、あちこち違った組織から項目をかき集めある程度いざこざが起るかもしれないがね」 てきて : : : それを出鱈目に分類しちまって : : : それそれ働かせてみ「言いかえれば、それは特許を得られるような独創的な代物と思わ んことだ。だがもし特許を受けられなきや、市場へも流せなくな ると : : : 」 る。そうだろ ? 」 ロイスは笑みを浮かべ、再び爪の手入れを始めた。 ジョージは図書館直結の電話のところへ行き、数多くの本を漁ろ「なあ、ジョージ」と、ノーランは面倒くさそうに体を動かした。 うとダイヤルを回し、送信されるのを待った。そして机に向い、使しばらく会話がとぎれた。「ジョージねえ」彼は繰返した。 「ウイル、これはどうしてもやり通さなけりゃならないんた。君が 箋に急いで走り書きし始めた。 どんな方法でやろうとかまわないが、何しろ努力してみてくれ」 ポビーが金髪の頭を部屋に突き出して、あくびしながら聞いた。 「まあ、ご心配なく」と、ノーランは誠意なく応えた。 「ママ、ここで遊んでいし あさ マーケット ー 47
彼がフル・サークル計画を掲げてナチズビルの選挙で勝利を得て 4 5 から十年たった。だがそれ以来、彼の考えはどれ一つとしてうまく 「おい」と・ジョージ・セイジは長いこと辛抱した振をするのにか運んだことはなかった。さらに悪いことに、彼は自分自身と竸争し なり成功して言った。「パ。ハの下でおはじきをしなきゃならないのていた。 そして敗れた。 かい ? 」 パパ」と、ポプは答えて、居間の敷犢に彼は ( ンモックを下りると、机に向って便箋に何やら書きつけ 「だって、外は雨だもの、 た。それからウイル・ノーランを呼び出した。宣伝係は渋々とスク チョークで丸をもう一つ簡単に書き加えた。 リーンに現われた。 「いつも降っているよな」と、ジョージは半ば自身に言うようにつ ・ヨ 1 ジ、また会ったな」と、彼は恐ろしく無愛想な調子 「やあ、シ ぶやいた。 でしゃべった。「何だい ? 」 「フン、百万年も降り続いているさ」 「それはこっちが聞きたい事だよ。ところで我々のフランケンシュ 「そうふさぎこまないでくださいな」と、ロイスが言った。 「お前はすぐ文句を言う ! こんな五月繩い所じや仕事ができっこタインについて何か新しい数字が出たかい ? 」 ないじゃねえか ! 」 「あれはフランケンシュタインじゃなかった・せ」と、ノーランは眠 からレンズをはずしながら訂正した。「あれはフランケンシュタイ 「ジョージ、ポビーの前でどならないでちょうだい」 ンの怪物の方だったよ」 「ああ分ったよ」と、言ってジョージは息子を睨んだ。「ポビー お前はそれよりもっと悪い言葉をたくさん知っているな ? 」 「怪物 : : : ああ怪物か。そっちの成行はどうだい ? 」 「知っているとも」少年は真面目くさって答えた。「それに・ほくの ノーランは天井を睨みながら溜息をついた。「あんたのちょっと 名前はボ・フだよ。ポビーじゃないからね」 した創造ーー今じや一つの固有名詞にまでなっちまったがねーー過 「勝手にしろ ! 」ジョージは再び口に出した。 去二週間の間にさらに六つの地域に拡がっていったよ。選挙のたび 「ボ・フ、こっちへいらっしゃい」と、ロイスは言った。「ヘリコ。フに勝っているんだからな。素睛しい計画としか言いようがないさ ! 」 タ 1 に乗ってママと買物に行くのよ」 「全くな」と、ジョージはすっかりやけになって言葉を合わせた。 「・ほくが操縦していいの ? 」 「相変らずなのか ? 」 「もちろんよ」と、ロイスは息子の乱暴な操縦に対して震えを隠し「その通りだ。最初の時にしか金は入ってこないから、投票用紙に ながら言った。 はもう誰もその名を刷ってくれないんだ。だが記名投票の候補者と して勝ち続けているんだ。広告も宣伝も何もしないのにな ! 」 二人は急いで屋上へ上っていった。 ンヨ 1 ジは一人きりになった。 「一番の広告は」と、ジョージは飽き飽きしながら言った。「満足
ンは「セックスはいつもいいもんさ」と、ノーランはあいづちを打っ ジョージは宣伝係を怒るより同情の眼をもって見た。ジョー・ 自分自身についても幻想などほとんど持っていなかった。発明家とた。 してのキャリアが二流の域を脱しなかったことも分っていた。当然、「それが全てじゃないんだ・せ」と、ジョージは話に夢中になり、先 彼は大物ではないので、彼の宣伝を引き受けてくれる一流の代理店を続けた。 彼とウイル・ノーランは同じ舟に を期待することはできなかった。 , 「俺がちょっとした仕事をどんなふうに配分しているか考えてみ のっていたが、それも不沈艦といえるような代物ではなかった。 ろ。子供達は道具を造りハイスクールやフットボールチームに売り 「楽観してみようじゃないか」ジョージはノーランに負けじと自分さばくんだ。農村の子供は昼食のワゴンを用意するし、都会の子供 を売りこみながら言った。「それは破壊的なものじゃない。そうだは銀行で事務を取りやいいんだからな」 「自由企業はいつもいいもんさ」と、ノーランが言った。 ろう ? アメリカ人の生活様式を壊したりなんかしないだろう ? 「そりやはっきりしているよ、ジョージ。全く明らかだ」 「その通りさ。それに精神面でもちゃんと手を打ってある。日曜学 「オーケー。そこにはたくさんの利点があるんだ。分るだろう。そ校をみろ。巡礼教会はどうだ。そうだろ、ウイル。この計画には欠 れは地方の店との取引、人づきあい、それにゆったりとした歩調のけているものなんて一つもないんたそ」 とれる理想的な小都市計画なんだよ。伝統が生れる。安定。いいか「名前はついたかい ? 」 ね、市の中心部に世界的な核ができて、市のたつ日と休日には十分「いや、まだだ」 効果をあげている。それで地方の人が都市に入ってくると、彼らは 「名前をつけなくちゃ、ジョージ。分っているだろう。名無しの権 都会人のような気分になりながら行動することができる。退屈な気兵衛じや売りこめないぜ。それにスローガンも要るしな」 分はなくなるのさ、分るかい ? 一種の交流社会組織だよ。だから「そりや分っているさ。だがそれはお前さんの領分じゃないかー 市の中心部では、どんなふうに成長しようとも農村生活を好まない ウイル・ノーランは眼にレンズをあてて、何やら書きだした。 人間の相手をする職員が十分必要となってくる。大都市は連中を指「素晴しいよ、ジョージ」と、彼は言った。「もしかして、子供を 導し、面倒をみてやるんだ。ところでた、ウイル、セックス面では使って特許が取れるかも」 都合がいいそ。君も認めなくちゃならんそ。十代のクラブじや子供「奴等は拒否できないんだ。そうすれば、法律に背くことになるか 達に健全な吐け口を与えるし、名誉・ハッジによって若者の身分は証らな。いったい奴等にどんな根拠があるというんだ」 明されるんだ。それだけじゃない。年上の大人にも付添のシャベロ 「奴等にや弁解する根拠なんかありやしないだろう。もちろんこん ンが相手をし、貴重な人生体験を持っことができるんだ。子供達がな素晴しいアイデアなんて持ち合わせていない。新しいものーーーそ 一人前になり結婚するようになれば、自分自身の判断でやっていけんな結構なものはまったく見当りやしない。そうだろう」 るようになれるんだよ」 ジョージはさして感動したふりもせす、自信を持って手を振っ ティーン 8
「フン。。ヒラミッドやローマの円形競技場が何だっていうん「静かに坐っているのよ。ポビー」と、ロイスは言った。「投票し 、。、。、は一生懸 エンパイア・ステ ートビルにしろ、土人のテント小屋にしろ新ている内はこのヘリコ。フターが町へ入らないように しいものなんか何もありやしない。しかし、そういったものを一つ命になっているのよ」 の社会に持ってきてみろよ。まったく性質が違ったものができるじ「フーン」と、ポビーはうなずいて、またいたずらを始めた。 ゃないか」 ジョージは左手の中指が折り曲げて人差し指の上にしつかりと重 。ヨージ。と、ノーランは言った。「心配しないでなっているのに気がついて、いささか嫌気がさした。なにしろ、そ 「俺はやる・せ、シ の選挙は彼にとって重大であった。もしもナチズビルが鼻もひっか くれよ」 ージ・セイジは他人が彼に心配するなという忠告にいささかけてくれなければ、彼は田舎へ帰って百姓にでもなった方がよかっ 飽きがさしていた。しかしそんなことにいちいち腹をたてている暇た。ノーランはやっとこさ特許局をごまかせたし、ジョージ・セイ ジ氏にしても最近じやワシントンの附近ではもはや金髪の若者では が無いことに気がついた。彼はロイスに習ってあたりさわりのない よ、つこ 0 / を力ー 声を出した。 事実、頭の禿げた醜いミイラだった。 「あとで電話するよ」と、ノーランは言った。 ジョージ一家ののったヘリコ。フターは陽射を浴びてゆっくり飛ん 宣伝ビルを出てから、ジョージはワシントン記念碑を通りすぎ、 あてもなく歩いた。雨はまだ降っていた。なんともうんざりするうでいた。ジョージはノーランがどこかで見つけてきた旧式の飛行船 に近づきすぎないようにわずかに方向をそらした。飛行船は長い空 っとおしい雨だった。 彼はポケットに手をつつこみ、歩き続けた。最後には成功でもな中広告を引っぱりながらナチズビルの上空を徘徊していた。 ただ存在しているという虚しさを感じるだけな く失敗でもない 子供にはより良き社会組織を ! のた。 フル・サークルは皆様に いまいましい雨だ」と、彼は吐き棄てた。「おもしろ 「くそっー より充実した生活を くない ! 」 お約東します ! 投票日。 悪くはないな、とジョージは心の中でつぶやいた。じつに結構 これ以上ないという天気に恵まれたので、何かいいことが起るの ・ヨージはった。さわやかな陽射しがナチズビルのだ ではないかとシ 9 4 眼下には、ナチズビルがおもちゃの町のように並び、左の方には 周りの田園にふりそそぎ、ぎらぎらとうだるように暑い夏の風がス こじんまりした村があって、陽の光を浴びて白く光る家々が点在し ィート・ゴムの木を通り抜けて、けだるい音をたてていた
ていた。メ規模な綿のプランテーションが村を囲んでいた。最近、く一つ見つかった。 ナチズビルは南北戦争以前の南部諸州のやり方を真似したのだっ た。よくよく見てみると、クリナリーンのスカート姿の美人が柱の 人生の曲り角に来たら あるべランダで飲物をすすっているのや、奴隷小屋では灰色のロポ 恐れず、落着いて ットがダンスをしているのが分るだろう。 新しい人生設計をたてましよう ! フル・サークル 役場は投票が行われている間、ハチの巣のように人でごったがえ 「。、。、、ぼくあれ好きだよ」と、ポビーが言った。「とてもきれい ジージは e のスイッチを人れた。思っていた通り、まだ七チ ャンネルで放映されていた。白い丸が点減し、交互に低音の単調なだね」 声が流れてきた。 フル・サークルー本当に生きるための人生そう遠くないところに月並の看板がたっていた。しかし市の境界 設計ーーーフル・サークル 線に近すぎるところにあるため、彼はあえて近づいて見ることはで ハンカチでぬぐっきなかった。どうやら、色々なサークルで満たされた将来を尊敬を ジョージは手が汗ばんでいるのに気がっき、 こめて眺めている健康そうな子供の絵が描かれているようだった。 ジョージは再び下の連中に手を振り、ヘリコプターを上昇させ 「競争率が激しくないのは運がいい」と、彼が言ったのはこれで十 回目だった。「ロイドもブリガムもこの選挙戦には政策を打出してた。 はいない。ナチズビルは連中にとっちゃっまらないものになるだろ「ちくしよう ! いらいらするな」と、彼は言った。 チャレンジャー 「あなた、あまり気をもまないで」と、ロイスが言った。 う。あそこには、たった三人の挑戦者が集まってきたんだからな。 だが、我々は農村のア ジョージはさかねじを食わそうと思ったが、長い間の結婚生活で クラウスのアー ハニアの仕事はまあよい ビールも十分考えてやらなくちゃならないんだ。ジンジャートン老その気もすぐ失せた。 ル」メ、り 人のグリニッチ・ヴィレッジ計画はかなり古くさいし、マンモス 日が暮れて夜のが大地に下りる頃、ヘリコ。フターは昆虫のよう に空気を・フン・フンふるわせて飛んでいた。北の方から冷たい空気が ケイ・フの登録だって正にダーク・ホースだ」 吹き上げてきた。ポビーはひどく空腹を覚えてきた。 ロイスは素直に笑った。 ヘリコ。フターの中のの画面がちらっき始めたのは真夜中近く ジョージはヘリコプターを道路すれすれぐらいの高さまで落して 飛んだ。下には荷馬車と数頭の馬がナチズビルに向ってとぼとぼとだった。 ほてり 歩いていた。彼は笑いながら手を振って挨拶した。だが彼の頭の中ウイル・ノーランだった。ジョージは彼の顔の火照ぐあいで結果 は自分の作った選挙用の道標を見つけることで一杯だった。さっそが読めた。 に 0
に生きる為の戦いがあった。ロンドンには昔からの猟師は残ってい これでお分りになったと思いますが、親父が我々の生活様式を考 なかった。各地方の変化を強調するアメリカ式のやり方は、残りのえ出してからというものは、すべていいことづくめというわけじゃ 5 ート・セイ ものよりずばぬけて秀れた社会組織が現われるまで動き続くだろなかったんですよ。 ( 三杯目のビールを空けながらロ・、 う。それから ジは歴史家に言った ) 移り変りが激しかったんですよ。フル・サー そしてそれから拡がった。 クルは人気を博しても、多くの人は親父のあっかましいところをき 誰もがその秀れた組織を欲した。時代の終りだった。 らったんです。この世で年金生活というものは楽じゃなかったです よ。また、我々は皆餓死するのではないかと思った時もありまし 「結局、俺は何もならなかったんだ」と、ジョージは言った。 空になった部屋は彼のいらだちを増した。彼は雨具を羽織ると戸た。わたしがその事を口にすると人々は怒りだすんです。彼らは、 口から裏通りへ出た。外は雨で灰色にけむっていた。ワシントンはわたしが嘘をついちゃ喜んでいるわがままながきと思っているんで すね。でもそれは本当なんですよ。 雨の中にひっそりと静まりかえっていた。 ジョージは目的もなく歩した。 , 一 : 彼の足は濡れた歩道に溜った水を例の建国の父に祭り上げられるなんて騒ぎはずっと後のことだっ はねかえした。彼はタ ' ハコを吸う気にもならなかった。 たんです。実際は今までしゃべったことなんですよ。あなたが事実 彼以外の人間に始めて会ったのはそれから二時間してからだったを知りたがっているのが分ったので、正直に申し上げたんです。お た。最初、薄暗い影が彼の方に近づいた。その内、姿、形がはっき話ができて嬉しかったですよ。 りしてきた。 ししんですか ? 何ですかそれは ~ あっ、わたしが払いますよ。、、 0 、、ヾ ヘンリー・ ししてすね ? ロイドたった。彼は、数年前国で最も成功した発明家でもこの次はわたしが持ちますからね だった。ロイドはかなり老けてみえた。 実を言うと、ジョージ老人はここから近いところに住んでいるん 「ハンクと、ジョ ージはどなった。「会えて嬉しいよ」 です。ご存じのように母は死にましたけど、今は父一人でいます。 ロイドは冷く彼を見た。 親父はいまだにすべてが終ったということを自分にどうしても認め 「独占者め , と、彼は言ってジョージを避けて通った。それ以上何ようとしないんですよ。それが芸術家の生き方っていうもんなんで も言わずに濡れた歩道を消え去った。 しようね。たぶん古い机に向って天気の悪態をつきながら、何やら ノートに書きつけているはずですよ。忙しそうに見えます。でもだ ージ・セイジは項垂れた。 彼は灰色の霧雨の中をゆっくり歩いた。町に夜が訪れるまで歩いまされちゃいけませんよ。 た。やがてロイスが心配していると思って家の方に引返した。ここ親父は寂しいんです。それに人と話をしたいんですよ。わたしは まで来た理由は特に無かった。他に行くあてが無かったのだ。 今そこへ行くところですが、よかったらいっしょに行きませんか ?
この世の中で本当に有名な男の息子であることは、これでなかなとを望んでたわけではないんです。わたしにしてもそうですがね。 か大変なものなんですよ。 ( ビールのグラスを傾けながら、若い男親父のありのままの姿をお教えしましよう。そういった父が気に入 が歴史家に言った ) るか気に入らないかは知りませんがね。 さて、親父とわたしはいつもうまくやっていました。わたしにや 今じゃ《平和の月曜日》と呼ばれているでしよう。例のすべてが さしくしてくれたし、今でもそんな親父がとても好きなんです。し始まった日です。わたしはほんの子供だったけど、まるで昨日のこ かし、世間で建国の父と言われていたジョージ・ワシントンに代わとのように覚えています。 って親父がその座につかされてからこれまでずっとわたししょわ 二〇六一一年、その年は雨降りの多い年で、その月曜日はまったく されてきた苦労がどんなものであるか、あなたにも分ってもらえる典型的な二〇六二年の一日でしたよ。外は雨で灰色にけむ 0 ていた のではないでしようか。なにしろ《建国の父、ジョー。 シ・セイジ》し、風もかなり吹いていました。でも部屋の中はそりやもう暖かく なんですからね。 て気持のいいもんでしたよ。 世間の連中はいつも、わたしを追いかけまわし、親父のことを聞 き出そうとするんですよ。あなたもひょっとして父を聖人か何かと 思っているんじゃないかな。感違いしないで下さい わたしだっ ジョージ・セイジは途方に暮れていた。 て親父は素晴しい男だと思「ています。しかし連中の知りたが 0 て太 0 てはいないがかなり腹の出た彼の体は ( ンモックの中で微動 いるのは英雄なんですよ。そんなおかしな連中になんでわたしが話すらしなか「た。灰色の髪は一日中櫛を入れたことがなか「た。遠 さなけりゃならないんですか 2 ・もし本当のスクープになるような くで風の音がした。わずかに眼をあけていたが、その視線は何も追 ことを話したら、わたしとしては親父があなたやわたしと同じようっていなか 0 た。 な人間だ「てことを話したつもりなのに、連中はわたしが生みの親壁にスローガンが貼られていた。 を侮辱しているととるでしよう。 常に革新を ! もう本当のことを話すのはほとんどあきらめちゃっているんです よ。近頃じゃ父の理想にささげた生涯について、ただぼそぼそしゃ 妻のロイスは言葉の意味を知っていた。彼女は父にうってつけの べってお茶を濁すことにしてるんです。 女房だった。彼女は夫のさまざまな感情に対して敏感に振舞わなけ でも、あなたは歴史家だし、事実を知りたいでしよう。い、・ もてしればならなかった。なにしろ部屋の中では床に卵の殻が盛大にまき よう。お力になりますよ。 ちらされているみたいに抜き足差し足で歩きまわった。 , 彼女はポビ しかし、これだけは忘れないで下さいよ。親父はごくありふれた ーが部屋の中で遊んでいるのでうれしかった。 男でしたし、今、世間でやっているように聖人に祭り上けられるこ静寂が深まった。 ー 45
「当選したぜ ! 」と、ノーランが言った。「地滑り的な勝利じゃな 二つの基本的な考えを取り上げてみよう。個人主義と進歩だ。君 い。だけどジョージ、立派な勝利だよ。お目出とう ! 」 は個性という観念及び個人の上に築かれた価値あるアメリカ文化に ージは感謝の笑みを浮かべ、ロイスをそっと抱き寄せた。そっいてはかなり馴染が深いだろう。だが進歩という考えが比較的最 れからへリコ。フターを一路家の方へ向けた。ポビーは後の座席で軽近のものであろうとは思ってもいないだろう。非常に多くの人々が 常に変化することが必ず改善につながるということに気がっかなか い寝息をたてていた。 いわんや、今自分が持っているものが過去のものより秀れ 夜空に星がきらめき、満月が上りかけていた。 「あなた、とても誇りに思うわ」と、ロイスが言った。 ているとどうやって知ることができるんだい。そして君の言う、よ 「なーに、こんなのは大したことじゃないんだ」と、ジョージが言り秀れているとはどんな意味なのかね ? しかし、アメリカ人は進 った。「だが、来年のコンコードバーグの選挙まで待ってくれ。世歩の存在を信じた。それは彼らの貴重な制度の一部だったんだね。 間の奴等をあっと言わせる素晴しい計画を考えているんだ」 もし君が進歩していないのなら君は死んでいるのも同然だし、個人 ヘリコ。フターは穏やかな夜の空気をふるわせて飛んでいた。 的な観念も国家的な観念と変わらないということになってしまうん 。こ 4 よ 0 科学技術のように、し 、くつかの分野で進歩を示すことは可能だっ もちろん、君のお父さんとフル・サークルに起ったことがどんな た。もし君の言う進歩が効率を意味するならば、ある道具を他のも ものであるか、社会的にも歴史的にもその背景を知っていなけれのと比べてより能率が良いことを証明できるだろう。進歩を文化の ば、なかなかっかみにくいと思うんだがね。 ( 歴史家は二杯目のビ他の領域で定義することはもっと難しかった。だけどアメリカ人は ート・セイジに言った ) もう少し掘りそのような進歩も有りうると信じていたんだよ。君がもしその時代 ールを飲みながら、若い口く 、君はき 下げて説明させてもらえば、わたしの言う事が君に分ってもらえるまで戻って、当時の歴史の本を読んでみればね、ロく と思うんだよ。 っと、精神的な成長と社会の改善に対して、常に彼らが追求してい 今、″その完全なもの″を見てみると、ちょうど他に方法が見つたことに心を打たれると思うよ。 からなかったかのように、一種の偽の必然性というものを示してい ところで、文化ってものはおもしろいものなんだよ。あらゆる文 るんだ。それはまったくお粗末な目的論的な考えにすぎないし、我化は変わってゆくんだが、文化自体が元来保守的なものなんだな。 我としても十分気をつけることが必要なんだ。 またそうじゃなくちゃならないんだ。君は一つの文化、つまりいっ しかし、過去七十五年間、つまり西暦一九二五年から二〇〇〇年ペんに十カ所の違った方向に突き進んでいく一つの統合された組織 に至るまでのアメリカ文化の持つある傾向を考えてみると、それが というものを持っことはできない。アメリカで例のスローガンがこ引 のようであったのは無理からぬ話だ。性質が違っていてもみな同じ 君のお父さんに起ったことを説明するヒントになるんだよ。
し ど の ん に ー 1 -- 1 ー 1 ウ 立ナ 0 イ奄 やすだあ な だ の あ イ派 で . 勝、 お は トリエステ S F 映画祭 0 ルだ客 て何怪 か 終て そ のも の な . る つ シ ち 今年もイタリアのトリエステで , この 7 月 11 日から ノ さ ん 歓カ 内 り ヨ や びも 世疑 だ な 1 週間 , 恒例の国際 S F 映画祭が開かれた。世界映画 、備例 と イ奄ラ 界問 ジ 祭と名のつくものはたくさんあるが , S F 映画専門と だ よ を い 生 冫よ つ の いうのはこのトリエステ S F 映画祭だけ。今年で第 8 。ん 活 何は 接 オょ つ て フ 回目を迎える。 収 あ にそ な し、 / レ 今年の審査員はギュディオ・ビオペーネ ( 伊 ) , ラ し葉 の立 て し な る ホス・マトス ( ハンガリー ) , アンドレ・ラバールト て と っ化 サ ( 広 ) , ジョージ・ウオラック ( 米 ) そしておなじみ 、た物な る き困 し プライアン・オールディス ( 英 ) の 5 人。オールディ も ま ウ らを 田 ク 0 と ィ最 の ー鬮ノレ て う ス以外は各国のそうそうたる S F 映画関係者である。 ル 後が に生カ 今年の出品本数は 16 カ国から 62 本 , SF とはいって は う躇 ど活良 に考 じ も範囲は広く , ファンタジイから音と映像だけの実験 ん う のす ノ オよ や 映画までさまざまだ。参加国は日本が日活の「大巨獣 命 ちやすぎ だた な る ガッパ』 ( 67 年度製作 ) を出品したほかはすべて欧米 2 ん フ べ る し、 勢。 ナど っ て ン て ん 力、 結局ベスト・ワンに選ばれたのは , イギリスの有名 や俺素 ーよ た Ⅱみ な の な な監督ビーター・ワトキンズがわざわざ招かれて作っ は晴 あ 大 て歓 ん 真 びそ し だ る たスエーデン映画 GLADIATORERNA ( 剣闘士 ) 。 面 、れ ん か ストーリイをかいつまんで紹介すると , 設定は近未来 当よ だ 都カ 目 ら で , く平和ゲーム NO ・ 2 56 ンという長文の報告書 2 会欠 で り の形をとって始まる。そのころ国連は , 人類の宿命的 く 生点 目リ な戦争への本能に別のハケロを与えるため , 戦争をゲ 俺活な そ の ーム化して毎週全世界へショー番組として公開するこ とを決定した。そして , 2 組の兵士たちをコンヒ。ュ ターによって準備された戦闘状況に投げこんで戦わせ - ー 1 いそナ ほ彼 じ シ で と う あ ゃ く ぶ は者 ど っ ヨ 劇中ひんばんに出てくる士官や兵士たちの議論を通 に神神 ま れを 明 . 馬生を ち ん じて , 戦争と人間の真実をみごとに抉りだした点を高 の俺 に様 確鹿存 な ジ ナこ 冗 く評価され , 最高賞のゴールデン・アステロイドを得 っ祈 り 方 オよ じは いよ に でカ、 た。 年 事は つ出を た画 ナこ 第 2 位のシルヴァー・アステロイドは , 一切の記憶 し当金 も 彼が面 て をな ウ ち を失った中年の男がまったく新らしい人間として再成 んも 把 っ を は ナこ イか 力、 だ手 壁く て も っ 長していくまでを描いたテナンス・スタンプ主演のイ ま屋 ル ら の ら すはみ し た 冫こ ギリス映画 THE MIND OF Mr. SOAMES ( ソ 、つ る 俺 う れ る て 。向ろた ームズ氏の心 ) 。 っげ か さ だ い イ可 か な ベスト短篇映画に与えられるトリエステ市ゴールデ ね がてなそ ら ん た ン・シール賞は , 異星人によって高い壁に囲まれた闘 0 だ俺と 。起言か し 技場にほうりこまれた 3 人の地球人の行動を描いたハ 我 社 って ンガリーの ARENAC 闘技場 )。 会てたたふ 々 つ 特別賞は男とクモとの争いを動画で描いたユーゴの な は ヨ あ も 器 PAUK が獲得した。 0 ら ジ 用 ら の か 異色はドイツで 2 年連続ベストセラーになったエリ は 貧 そ 中知 と い ッヒ・フォン・デケンのノンフィクション「未来の 乏 った 記憶』 ( ハヤカワ・ライプラリ既刊 ) に基づくセミ に 1 っ な ち 世 も て し、 ドキュメンタリー , 字宙人が太古の地球を訪れていた た かか の 界 というそのテーマの映像化に成功して , 観衆に強い印 さ ら ら 物ナ ツ 象を与えたという。 S 呼な 世 し ク (M) 0 全 び ま 出最 く と恐 で 情 さ初 戻 同 ろ 報 ど な冫 様 し ためら 0 に 5