部屋 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年11月号
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1. SFマガジン 1971年11月号

に小窓があいているのが気にいらなかった円・、、 カ鉄格子がはまって た主人は・ほくにいった。 「そうか , と・ほくは陽気にいった。「おれは、しばらくここに滞いる。それへ、ぼくの位置は丁度死角に入っていた。露台のある位 在することにした。いいだろう」 置は、ぼくの右手前方にある。右利きの・ほくにとって、これは好き 「そりミむろん」 な位置だった。でももう少し、左側に寄って寝た方がいいだろう。 ・ほくは、主人に両替を頼んだ。出したのはパリ・ハリ の千ドル紙幣万一の場合は、べッドからすぐ床の上に転がりおちて、身を隠すこ だった。何者だろうといぶかっていた主人は、これでいっぺんに・ほとができる。・ほくは、目をつぶって、銃をその方向に狙う動作を二、 くを尊敬しだしたようだった。やがて、自分で両替屋のところへい 三度くりかえした。一度ごとに目をあけて確かめる。大丈夫だ。正 ってきたのだろう、汗をふきながら立ちもどってきた。おめあての面に対して右へ二五度。銃を反射的に発射する場合、ぼくの一番適 チップが相場以上だったので、主人は満足げだった。 中率のいいのがこの角度だ。問題なのは、肝心の入口の扉だった。 「他になにか御用は」と尋ねてきた。 この方は、ちょっと気にいらぬ位置にあった。狙いをつけると、左 「そうだな」と・ほくはいった。「もし、出ていったつれの女がもど手に三〇度。一番中途半端な角度だ。ただ、扉が内側に時計まわり ってきたら、おれはもういないといってくれないか。それから部屋に開くようになっているのがよかった。 をとりかえて欲しいな。もっと風通しのいい部屋はないか」 もし、仮想の敵がこの部屋に侵入してきたとしても、扉が邪魔に 「港のみえる側の静かな部屋がある。ぐっと涼しいし上等だ」 なり、一動作でもゆとりがあった。・ほくは、しばらく考え、鏡つき 主人はぐっと愛想よくなっていた。やはり客のふところ工合をみの洋服ダンスを扉と反対側の壁にずらした。敵は鏡の中に自分の姿 はからっていたのだ。この男が、金のためなら何でもするタイ。フのをみつけて、一瞬たじろぐだろう。時間がそれだけあれば十分だっ 男だということが、直観的にわかった。手なずけておけば、損はな た。もう一度、それそれの正確な位置を頭の中にきざみつける。戸 いだろう。 や窓やテー・フルやソファーや、スタンドやその他こまごました物の 早速、主人は・ほくの荷物を持った。ぼくはあとにつづいた。せま位置まで : : : 。全部、記憶して、また目を閉じた。全てが網膜にあ いしつくい塗りの階段をの・ほると、つきあたりに部屋があった。部りありと映っていた。これで、暗闇の中で闘うならば、・ほくの方が テラみ 屋は気にいった。簡素だが清潔だ。露台があり、主人のいったとお絶対に有利だった。それにぼくの銃には暗夜照準装置がついてい り港がみえ、船が何隻か入っていた。中央のつきあたりに、ばかで こ。・ほくの仮想している敵は、むろんミュータンツだった。 アンチ かいフランス風のべッドが、どかんと据えられている。一人でねる敵側が、逆ハンターを養成しているらしいという情報が、我々 のが、もったいないくらいだった。 ハンター側に入っていたのだ。・ほく自身はまだおめにかかったこと はないが、すでに仲間たちの何人かが暗殺されていた。ランクが上 それから、いっからこんな習慣がついたのかわからない。・ほく にいくほど、賞金が高いらしく、今年になって << ランクの者のみが は、べッドに自分の躯を横たえて、部屋全体を観察した。枕側の壁 幻 7

2. SFマガジン 1971年11月号

玄関の・フザーが鳴り、ばあちゃんが立って行った。すぐ戻って来示した。飛行機で行くという意味なのだろう。 ると、 啓一が部屋へ戻ると、高木はあぐらをかいて庭を眺めていた。 「どうしたんだ」 「啓ちゃま。高木さんですよ」 何かある : : : 長年のつき合いで啓一はそう察していた。 と部屋の入口に立ったまま告げた。 、よ、純日本風でな」 「お前んとこはいし 「高木 : : : 」 「そうでもないさ。陰気臭くって」 啓一は珍しく勢いよく立ちあがると玄関へ出た。 すると高木は弾けたように笑いだした。 「よう」 「ご本尊がそう言えば世話アない」 玄関で高木は逞しく陽焼けした顔に白い歯をのそかせて言った。 「めずらしいな」 気がついて啓一も思わず笑った。それを見て【高木はいっそう笑 「出るか」 「見事に陰気に笑いやがった」 「いや、暑いよ」 と言った。 「それもそうだ」 「おやおや、おにぎやかなこと」 高木は勝手知った様子で靴を脱いだ。 ビールと枝豆を運んで来たばあちゃんが啓一たちの笑顔を見て嬉 しそうに言う。 啓一は廊下の途中で待っている老女中にそう言うと、片手を振っ 「どうかしてる・せ、ここん家のきようは。死神が揃って笑ってやが て高木に自分の部屋へ行けと示し、叔父と母がいる居間へ戻った。 る」 「高木君が来たから : : : 」 相かわらず、ずけずけという高木に閉ロしたらしく、ばあちゃん まっ江は、「ああそう」と軽く答えたが、叔父の健吉はまた左手はさっさと退散した。 で盃を持っ真似をして、「こっちで一緒にどうだ」 グラスに冷えたビールが注がれると、小ぶりのグラスはみるみる と言った。啓一はニャリと笑ってみせ、首を一回半ほど左右に振外側に露を結ばせて行く。 最初の瓶が空になり、枝豆のからがこんもりと盛りあがる頃、高 「そうそう啓ちゃん、私たち静岡の叔母さんと、この夏ちょっと旅木はさり気なく言い出した。 ひさ 行するからね」 「弱ったよ、お久の奴」 まっ江が思い出したように言った。 啓一はやつばり、という表情で高木をみつめた。 「何かしたのか」 「北海道だ。北海道 : : : 」 叔父は羨ましがらせたいのか、大げさに言って顎で天井のほうを「俺はなにもしないさ」 4 7

3. SFマガジン 1971年11月号

ひと仕事をしたあとの解放感に、ひたりきれないのはそのためだ。 に差しこみながら、自分にいいきかせた。妙にさえきっている意識 梢にひっかかって、大空に逃れきれない、 ゴム風船みたいなわだかを、無理に眠らせようと努力しながら、目を閉じる。工 , リナの白い まりが、心の片隅に残っている。・ほくは、卵の、少ししめったよう嫗が、生々しく網膜に焼きついていた。〈ひと眠りしてから、この カサ・フランカの街を離れよう〉ぼくは、脳裏の映像をふり払うよう な光を眺めていた。その曲線はエリナの身のどこかの部分に似てい こ。・ほくは卵を調べている。腐ってはいなかった。ときどき、痛んに額にゆがめた。エリナの映像は、まだ消えない。身体だけが、鉛 だやつが混じっていることがある。エリナの驅も、もう時間の壊敗の散弾をつめこまれたずだ袋みたいに重かった。まだデ・パソナル 現象のおかげで、腐り出している頃だ。ロの中に放りこまれた卵効果を受けているためだ。・ほくは一旦閉じた眼をあけた。そこだけ は、胃袋におちつく前に、少しつかえた。寝不足気味の味覚には、斜めになった天井が、のしかかっていた。部屋全体が、石膏壁で白 、つこ。まくは、エリナの白さに、閉じこめられているのだ。いく 卵の味はむかついた。一緒にのみこんだ、コーヒーのにがさだけカナ ~ つかの壁のしみが、赤い血痕様に浮きあがる。異常な知覚。これも が、ロに残った : エリナのせいだろうか。それとも、何か、他に理由があるのだろう 〈エリナは死んでしまったのだ〉と、・ほくは、ぼんやりと思った。 : ぼくはまた射殺現場の惨状を想いうか・ヘていた。 脇の下に吊ってあるホルスターの中身が、妙に重く思えた。疲労のか。 ためだ、エリナのせいだ。・ほくは、疲れきっていた。 エリナは、うまく罠にかかった。愉悦の絶頂で、エリナは本質的 な部分を現わした。そのとき、デ ・・ハソナル型特有のあの時間の壊 「部屋は空いているかい」 敗現象がおきたのだ。はげおちる瘡蓋みたいに、時間が腐りだした。 早暁の礼拝をおえた店の主人に、ぼくは尋ねた。 あの異様な感覚は、ぼくにとって、初めての経験だった。とても予 「ええ」と主人は、無愛想にうなずく。 備知識なしには、エリナを仕とめられなかっただろう。ぼくは、一 「昼ころまで、休みたいんだが」 瞬過去にローリングしてエリナの時間の背後にまわりこみ、真白で 主人は、黙って部屋の鍵を差しだした。 うっすらと脂肪の浮いた背中を撃った。熱い鉛の弾丸は、壊敗作用 勝手はわかっていた。屋上へ抜ける階段の途中に客室がある。・ほ いで腐りはじめる前に、鼓動している心臓を射抜いていた。傷口に鮮 くは、一歩一歩かみしめるように踏段を昇り、部屋にたどりつ た。厚い壁に、くりぬかれたような、四角な窓がある。その外はス血の花がほとばしるように咲く。死は、瞬間的にエリナを襲った。 ラムだった。街の空は、まだねむっていた。シャツをぬぎすてるの Z 即死。ばくは、エリナの屍骸をあおむけに転がして、彼女の死顔 がやっとで、壁ぎわの簡易べッドに倒れこむように横たわった。こ ノナル型だったためだろを確認した。死は、そこに閉じこめられた時間を解放し、逆行しは の異常な疲労の理由は、エリナが、デ・パ、 じめていた。エリナの人格は、仮現的なものであったのだろうか。 〈さあ、眠るのだ〉・ほくは、ホルスターの銃を抜きとって、枕の上エリナの物理的な時間は、過去へたち帰る。ぼくはみた。エリナの かさぶた

4. SFマガジン 1971年11月号

つまり・ほくは、小説の中のムルソー氏の経験を、そのまま忠実に追 体験していたのだ。 それから、次第に、・ほくはムルンー氏に完全に同化していった。 この光に満ち満ちた鏡の迷宮のような世界では、これはいとも容易 なことだった。世界の一切が虚像であると同時に、実像なのであ り、いや虚像と実像とは一体化しており、区別することの方が誤っ ているのだった。時間もだ。また記憶もだ。期待もだ。一切が混在 し、いりみだれている。その全てが同時に、存在し、光の満ちあふ れたまま、きらめく万華鏡のように無限の像を結んでいたのであ る。 この世界の中で、・ほくは歓喜しつつ、最後の瞬間を待っていた。 あの小説では第一部のおわりである。その日がきた。マリイがき て、・ほくを揺りおこした。レイモンと郊外の海へ行く日だ。 光はきらめいていた。まどろむような岬。殺人への過程は、論理 的に組みたてられていた。正午の思想 ! 太陽の光は垂直に砂の上 にふりそそぐ。絶えきれぬような海面のてり返し。アラビヤ人の登 場。レイモンの怪我。 それから : ・ すべてが赤くきらめいていた。砂のうえに、海の無数のさざな みに息づまり、せわしい呼吸づかいで、あえいでいた。・ほくはし ずかに岩の方へ歩いて行ったが、太陽のために額がふくれあがる ように感じた。この激しい暑さが・ほくの方へのしかかり、・ほくの 歩みをはばんだ。顔のうえに大きな熱気を感ずるたびごとに、は がみしたり、ズ・ホンのポケットのなかで拳をにぎりしめたり、全 力をつくして、太陽と、太陽があびせかける不透明な酔い心地と に、うち勝とうと試みた。砂や白い貝殻やガラスの破片から、光 っすぐに出て行った窓というのは余 ンチ位あったが、高さはほんの二五 センチ位というせまいものであるにりにも高くて、到底そんなことは出 もかかわらず彼の下半身は、そこを来そうにない すなわち、部屋の内側から言う 通って全く水平に真っすぐに出て行 ったと夫人は言っている。 と、その窓敷居は、床から一米三六 センチ位で、その人の身長は約一米 そんな突拍子もない光景を目撃し たものだから、夫人はあわてて台所六〇センチ位あるから、窓から外を のそけないわけではないが、とび出 の外へまわってみた。すると、その して行ったという一番上の窓枠は床 窓の外側にある台所の入口につづい ている階段の一番下に夫は背中を下から一五二センチ位もあり、到底、 その人が内側から自力で、体を水平 にして倒れていたが急に跳び上る よ / ノにして立っと、何か大声で叫び状態にしてすーっと外側へ抜けて行 くなどということは出・来 - っこない。 ながら、家の後方にある収穫物の堆 そしてその部分の窓ガラスのかけ 積の方へ向って、体をガタガタ震わ らは、全部窓の外に落ちて散らばっ せながら走って行った。 この出来事を聞きつけ、現地で詳ていて、部屋の内側には一かけらも しい調査を行なったのは、米国の落ちていなかった、というのだから、 cæO 研究団体良 0 ( 空中現災研その窓は、外側からぶち破られたの ではなく、内側から何かが突き破っ 究機構 ) の現地調査員ドナルド・・ て出ていったのだ、ということは明 クライン氏であるが、同氏はこの出 来事が起った部屋の内外の具合をよ瞭である。 しかも、その人の体には、一方の く調べた上で、こういう出来事は当 人一人だけのカでは到底出来ないこ手にだけ、後でほんの一針だけ縫わ なければならなかった程度の切り傷 とだと結論している。 というのは、その奇怪な顔がのそがあっただけで、他には何のけがも なかった、というのだ。 いたという台所の窓の敷居は、窓の だから、まるで、何らかの力によ 外の地面からは約一一米二七センチは どもあって、到底外側から人ののそ ってその人の体が空中に水平に持ち けるはずのないものである。しかし上げられ、そのままの形で窓ガラス その外側に前述のような階段があるをふち破って外へとび出して行った ので、それにのぼって、そのとちゅ としか考えられないのである ! ま ことに奇妙奇天烈な出来事である うから体を窓の方へもたせかけれ ば、不可能ではない。一方窓の内側が、一体実際には何事が起ったので から言うと、その人が水平状態でまあろうか ? ( 近代宇宙旅行協会提供 ) 世界みすてり・とびつく 227

5. SFマガジン 1971年11月号

叔父はそう言って盃をほす仕草をしてみせた。 「マイナスとマイナスならくつつかねえ筈なんだけどなあ」 まっ江の兄で不動産業者である叔父の健吉は、よくそう言って不「駄目よ。この子は相かわらずなんだから」 思議がったという。 まっ江は何の感情も見せずに言った。 「それにしても、外は暑うございますわねえ」 ばあちゃんがとりなすように口をはさむ。 と答えて啓一は本を閉じた。そこはやはり呉服屋のせがれで、立 ちあがると手早く浴衣に着がえ、うす青色の夏帯をきゅっとしめる「まったくだ。どういうわけか夏の暑すぎる日ってえと、戦争が終 った年を思い出しちまうんだなあ。このところ何年か、まい年それ と居間へむかう。 ばかりだ。としなのかな」 「よう陰気坊主。景気はどうだ」 叔父の健吉は威勢よくそう言って啓一をむかえた。啓一は黙って「暑かったわねえ」 まっ江は仏壇が置いてある隣りの部屋のほうを眺めながら言っ 坐り、黒い漆塗りの座卓の上の煙草人れから一本抜きとると火をつ こ 0 けた。 「今は気違いじみてる・せ。なんでもかんでもあり余ってやがって。 「とうとうまた夏だな」 こないだなんざ、テレビを見てたら、なんとか言う喜劇役者たちが 叔父は啓一を探るように見ながら言う。 メシを投げつこしてふざけてやがるじゃねえか。テレビだから怒鳴 「うん」 ったって仕様がねえけど、やつばり怒鳴りつけてやったね。なんて 「海水浴へでも行って来いよ。陽にやければちっとは威勢よく見え え世の中になっちまったんだろうかねえ」 る・せ」 「そうよ」 啓一はうふふ、と笑った。 まっ江は勢いこんで相槌をうった。「貨車にぶらさがって買い出 「ほんとにねえ、もうお盆だもの」 しに行ったの、ついこの間のことじゃないの」 まっ江は麦茶のコツ。フがつけた座卓の丸いしみを左手で拭きとり 叔父とまっ江とばあちゃんは、感慨をこめてひどかった昔の想い ながら、ちょっとしんみりした言い方をした。 そうか、それで叔父が来たのか。啓一はそう思った。七月十一一一出ばなしに入って行った。戦災のこと、焼死体のこと、飢えたこ 日。きようはお盆の入りであった。それで気がつくと、隣りの部屋と、たたかったこと : : : それはもう何百遍も聞いた昔がたりであっ た。だが啓一には、かすかに空腹の記憶があるだけで、それも果し からかすかに線香の匂いが漂って来ている。 て自分の経験したことなのか、何度も何度も聞かされる内に経験し 「地獄の釜の蓋もあこうって時た。年に一度くらいお前もこう、 アッと派手にやらかしたらどんなもんだ。何ならつれてってやるたように思いこんでしまったことなのか、夢の記憶を追うように奥 3 のほうはさたかでなかった。

6. SFマガジン 1971年11月号

静かで魅力的でった。 なっていたのだが、この壁に花束が置いてあ の霊魂が、今なお家の中にただよっているとい ところが怪奇な事件は、引越してきたその夜る。愛人にたずねると、置いたお・ほえがないと う。自撃者も多く、村の人々は白壁の家に近づ から起った。どこからともなく、奇妙な音がき かないようにしているということだった。 いう。しかも居間に置いた大きな古い戸棚が、 こえてきて、広い家の中をさがしあるいても、 突然倒れて、愛人はすんでのところで下敷きに その夜、画家は、また同じ妖夢を見る。その 夢に現われる家は、同じこの家であり、女は村 音源を見つけることができないのだ。さらにアなるところたった。 人が怖れている死んだ美女らしかった。目ざめ トリエに置いたキャン・ハスが、いつの間にかズ 怪事の連続にがまんできなくなった画家は、 ると夢の女が暗い家のなかをうろついている。 タズタに切られ、絵の具が散乱している。 村人たちをつかまえて、白壁の家の過去をきい この家の白壁には、銃弾のあとが残ってい てまわる。ロのかたい村人が、やっと語ってくそして画家が使っているクシには美女の金髪が る。第二次大戦中につけられた弾痕で、戦争がれた話によると、一九四四年の空襲で死んだ美数本、まつわりついていたのだ。 画家は再び村へおりて、生前の美女の恋人の 終って家を改装したときも、塗り忘れたままに しい未婚の美女 ( ガプリエラ・グリマルディ ) 一人といわれる肉屋から、死 の模様をききだそうとする。 孝でた ュ 肉屋が白壁の家を訪れると、 : ) 2 曩ま・ーは一 ) 顰一吸 ン 女が占領中のドイツ兵を寝室 原 ・カを コ 病 , にひきこんでいる。カッとな ら - った肉屋は、スコツ。フでドイ る にタ ・入 , ッ兵を叩き殺したが、一一人と どれ - っ ・第真とも興奮からさめると事の重大 よ 、・体写 れか のさに恐れおののき、庭に死体 コ だ 人ン し ゲを埋めようとする。そのとき で ? た置 空襲があり、機銃掃射をうけ 正 はンダ はっ装 ん き 字ポな 型レメて女は即死した。白壁の弾痕 ? と な 文サ 7 ・ 人のドはそのときの銃弾によるもの くをャ の来 ・カ すえ 体未だ。 五す「 た仕る・ 奇妙なことに画家は因縁噺 きを たつの っド。、 つう中をきいて感動する。亡霊とな 第 - つイぐ つを開 訳限 公ってうろっく女に再会したい - っ ~ っ にガす ン子 によれと、惨劇のあった部屋で寝起 一電と 一もずきするようになる。小部屋の リるる・ . 、ー タるい ニす上なかには、肉感的な空気が漂 クかす、、」 こタ モ殖以 ( っているような気がしてなら 《③ ② ① ( 、い。心配して様子を見に戻 日ロー 当

7. SFマガジン 1971年11月号

られていた。・フェノスアイレス通りに面した高台インデアン区の彼 「じかに逢ったことはあるか」と・ほくはきいた。 のアパートは、投げこまれた手投爆弾でめちゃくちゃになってお 「いや、ない」とセレストはこたえた。「人の噂た」 り、まだ現場は野次馬や消防車、パトカーでごったがえしていた。 「本当だな」 「そうだ」 余燼のまだくすぶる部屋にかけんだ・ほくは、惨状のすごさに眉を 「お前はそのを誰からきいたのだ」 ひそめた。だが、奴は一体どこから入りこんだのだろう。連絡員の 部屋は、二重の鋼鉄製の扉で防禦されていた。二つの窓は、表通り 「みんながいっている」 に面して高いビルの壁にあったのだ。ばくは、すべすべしたタイル 「わかった。おれが来たことは黙っていてくれ」 「わたしもだ」とセレストはいった。「わたしからきいたとはいわばりの外壁の面をみながら考えた。 ないでくれ , ミュータンツの中には、身体疇型を併発している者もおり、やも りみたいな吸着板をもったやつもいた。連絡員が、それを知らぬは 店を出て・ほくはあちこち歩きまわった。情報は似たりよったりな ものだった。一様にそのサイコミ ュータントの話をするカス・ハの住ずはなかった。事実、彼は二つの窓に警戒装置と共に、イベリッ 民たちはおびえていた。中にはいくら・ハクシーンを払うからといつをぬいつけて防禦していたのだ。 ても、いやだという者もいた。いずれにしても、ぼくの来たことは たが、こうした念入りな防禦装置そのものが、逆に彼の命取りと なったのだろう。装置に対する安心感が、人間の生来的な防衛本能 噂になるだろう。やがて口からロに伝えられるうちに太って広が る。カス・ハの奥にも、それはとどくだろう。「サイモンズの仲間がをかえって麻痺させるからだった。・ほくはこの事実を教訓として、 来ている」と : : : 。敵の正体のわからぬうちに、・ほくの方から姿を見えざる敵を待った。 現わすのは、冒険だったが、手早く相手をみつけるには、これ以外 敵はポリビャ鉱山へいく高原のハイウェイの途中で、・ほくを襲撃 に手はなかった。つまり・ほく自身を、罠の餌にしたのだ。 した。目前で橋が爆破されて、・ほくの車は、渓谷へおちていった。 こいつは、前にも使ったことのある手だった。一度はケープタウもし脱出装置がついていなかったら、爆発して炎上した車と共に里 ンで、もう一度は、・ホリビアのラバスだ。ケー。フタウンのときはう焦げの屍体となっていただろう。墜ちる車から、シートごと、・ほく まくいったが、ラバスでは危うく殺られるところだった。 は空中にとびだして、運よく谷の急斜面の灌木にひっかかった。奴 奴は、あそこの銀鉱山にもぐりこんでいた。あとから判ったことが現われたとき、・ほくはまだ、ヨウョウみたいに、そこにぶらさが だが、インカ王家の血を引いた狂暴なミ、ータントだったのだ。そっていた。 力あんな強力な妄想タイ敵の黒影は、こうもりのように空中を滑走してきた。そして腰だ いつは典型的な脅迫型の一分種だった。 : 、 。フは類例がなかった。ぼくの到達を予知していて、事前に行動を開めの姿勢で、銃を乱射しながら近づいてきた。灌木がしなやかで、 始していた。到達してみると、一足ちがいで、ラバスの連絡員が殺ひっかかったぼくの身体が、まだ揺れていたので助かったのだ。ぼ 幻 9

8. SFマガジン 1971年11月号

しい光があふれていた。二匹のモンクマ・ハチが、窓の焼絵ガラスに ら、・ほくは「そうですーといっこ。 ぶつかって、うなっていた。それから、この門衛と大いに喋り、通 養老院は村から」二キロのところにある。・ほくはその道を歩い た。すぐママンに会いたいと思ったが、門衛は院長に会わなけれ夜にきたママンの友達たちとコーヒーをのんで、夜をあかし、あく ばならない、 彼の手がふさがっていたので、しばらくる朝、中庭のすずかけの木の下で、待ちながら、さわやかな大地の 待った。その間しゅう門衛が話しかげてきた。それから院長にあ匂いをかいでいた。・ほくは、ママンの許嫁だったという老人に逢 柩車と共に行列をつくって墓地へむかった。ひどく暑かった。 った。その事務室で彼はぼくを迎えた。小柄な老人だ、レジオン いとすぎ ・ : 。たえがたい空 ・ドヌールを着けていた。明るい眼で、ぼくを見た。それから・ほ丘々まで連なる糸杉の並木、こげ茶の緑の大地 : くの手を握り、どうして手を引き込ませようかと困ったほど長く、のきらめき。太陽、車についた皮や馬糞の匂い、ニスの匂い、香の 離さずにいた。彼は書類の頁をめくって、「マダム・ムルソーは匂い、お通夜の疲労 : ・ それからあとは、すべて、ごく迅速に、確実に、自然に事が運ん 三年前にここへこられた。あなたはそのたった一人の御身寄りで だので、もう何も覚えていない。 したね」といった。 そして、・ハスがアルジェの光の巣に入ったときの、・ほくの喜び。 ・ほくは、何か・ほくがとがめられているのだと思い、事情を話した が、彼は・ほくをさえぎって、「弁解なさることはありません。あそのとき、・ほくはこれで横になれる、十二時間眠ろうと考えた。 なたのお母さんの書類を拝見しました。あなたにはお母さんの要 求をみたすことができなかったわけですね。あの方は護婦をつ事実、・ほくは十二時間たつぶりと眠った。きようは土曜日だ。ひ ける必要があったのに、あなたの給料はわずかでしたから。でもげを刷って海水浴場へいき、水のなかで、マリイ・カルドナに逢う 結局のところ、ここにおられた方が、お母さんにも御幸せでしたのだ。 ・ほくを ろう」「その通りです、院長さん」「ここには同じ年配の方、お友・ほくは電車に乗って港の海水浴場へ行った。潮の香りが、 だちもあ 0 たし。そういう方たちと、古い昔の思い出ばなしをか麻痺させた。それから浜辺の大勢の若者たちの群にまじった。・ほく は水の中に身を投じ、沖へむかった。 わすこともできたし。あなたはお若いから、あなたと一緒では、 ぼくはマリイに再会した。水着姿のマリイは綺麗だった。・フイへ お母さんはお困りになったでしよう」と院長はつけ加えた。 それから、・ほくは院長につれられて中庭を横切って小さな建物の登るのを手伝ってやりながら、今夜この女を抱くのだと思った。部 中へ入り、そのひとにあ 0 た。大層明るい部屋で、石灰が白く塗ら屋を出る前に、あの小説を読みかえしてきたので、何をしたらいい ひつぎ かわかっていた。ぼくは、ふざけるような振りをして、マリイの腹 、 - 彼女は棺の中に入っており、 れ、一枚の焼絵ガラスが入ってした。 , 5 ふたがしてあ 0 た。アラビヤ人の看護婦がいた。門衛が入ってきの上へ頭をのせた。マリイは何もいわなか 0 た。眼の中に、空の全盟 ・ : 。・ほくはものうさの中に埋没し た。入れかわりに看護婦がでていった。部屋には午後の終わりの美体が映った。すべてがものうい :

9. SFマガジン 1971年11月号

を一三上 、まッー 々 1 ー - をいイ クの光も彼はおぼえている。 そのつぎの記憶は、溝と朝と寒さ。衣服を身ぐるみ剥ぎとられ、 おまけに皮膚までかなりすりむけているので、寒さはひとしお身に しみた。彼は動けなかった。じっと横たわって、目をあけているだ けだった。 彼は人びとがそばを通りかかるのを眺めた。きのう話しあった人 びと、愛想のよかった人びと。彼らはちらと彼を眺めただけで、す ぐに目をそらしてしまった。宿の女中がそばを通りかかるのも見 た。彼女は彼に一警すら与えなかった。溝の中になにがあるかを、 もう知っているのだ。 ロ・ハットの姿はない。彼は困子へ最後の希望をつないで、 それに思考を投げかけようと試みた。 トマスがはじめて見る男が、外套のボタンをいじりながら近づい てきた。小さなボタンが十個、大きなボタンが一つ、男のくちびる は声なく動いている。 男は溝の中をのそきこんだ。一瞬立ちどまって、あたりを見まわ した。どこかあまり遠くないところで、だれかの高笑いがきこえ キリスト教徒は、ボタンのロザリオをまさぐり、敬虔に祈りを捧 げながら、足早に小径を歩去っていった。 トマスは目を閉じた。 つぎに目をひらいたとき、そこはこざっぱりした小部屋だった。 トマスは視線を動かした。荒削りな板壁から、彼をくるんだ、ごわ ごわしているが温かで清潔な毛布へ。そして、そばでほほえみなが ら立っている、頬のこけた、色の浅黒い顔へと。 「気分はよくなったかね ? 」低音の声がいったつ「わかってる。

10. SFマガジン 1971年11月号

きっていた。景色はいま、この真空状態の中で、時間ごと停止して いた。動いているのは、・ほくのうなじの下で静かに脈うつマリイの 腹だけだった。世界が静止し、動いているのは彼女だけだった。マ リイだけが固有の時間を生きているのだ。 ばくはロの中で、一度せりふを反復してから「映画にいかない か」と誘った。「フェルナンデルの出る映画がみたい」とマリイは こたえた。フェルナンデルが誰なのかは・ほくは知らない。が、それ は、用意されているだろう。 夜、マリイはすべてを忘れた。フェルナンデルは大きなずうたい をした喜劇俳優だった。はじめは面白かったが、次第に馬鹿らしく なってきた。映画を出てから、マリイはぼくの部屋にきた。 そのあとのことについては、改めてのべる必要はないだろう。何 もかもが、あの小説のとおりだった。ぼくは本の中のムルソーのよ うにふるまった。・ほくにはわかっていた。もし、あの本の筋書き通 りにいくと、・ほくは海辺で、アラビヤ人に五発の弾丸をうちこむこ とになっているのだ。このアルジェの敵は、きっと心やさしい奴な のだ。彼のやり方は、優雅だった。ぼくが潜在的に欲していたもの を、ちゃんと用意してくれているのだ。だから・ほくは、この鏡によ って投影されているような、小説的な世界を破壊しようとは思わな かった。この世界は美しい。美しいものを破壊するのは罪悪だ。ぼ くはこう思った。 それから色々なことがあった。マリイと何度かっきあったことや レエモンが彼の女にしかえしをしたことや、サラマノ老人と大のこ とや : ・ ・ほくにあの小説の内部時間と同じだけの時間が経過し て、あの有名な太陽による殺人の劇的なシーンへ高まっていった。 高い窓を水平に抜けた男 心霊研究の歴史に少しくわしい人傘のようなものの下に吊り下げられ たちならよくご存じのことだと思う ており、煙を後に曳いていた」とい が、一八六八年の十二月十三日、英うのであるから、奇怪である。 国で、マスターオプ・リンゼイ ( 後 たとえば、同地に住むアリサ・グ のクロフォード卿 ) 、アデア卿 ( 後の レンダ・サマービル夫人という人 ダンラバン伯爵 ) 、それにそのいと も、それを見た一人であるが、その このキャプテン・ワインの面前で行光ったものは、同家からほんの一五 われた心霊実験において、世界的に米から一八米位しか離れていない所 有名な英国の物理霊媒ダニエル・ダ を約三〇米程の高度で通過したが、 ングラス・ホームは、目に見えない そのさい、前述の「落下傘のような 力に操られて、ほんの少し押し上げもの」と「煙の尾」とをハッキリ見 られた窓のすき間から水平に出て行たという。ところで、問題の出来事 って ( 実験の行われたのは三階の居は、同日の午後十時十五分ごろ、そ 間である ) 、別の窓からまた入って の人が ( 人から後ろ指をさされるの 来たという。 を恐れて本名は発表されていない ) それとまるで同じ出来事が、本年水を呑みに台所へ入ったところ、明 四月二日の午後十時すぎ、オースト るく輝いた、円くて平べったい顔が ラリアのニュー・サウス・ウエルズ 一つ、窓ガラスの向う側からべった にある町ケンプシイで、霊媒でも何りと押しつけられているのを見て仰 でもない土着民の一人に起った。 天してしまった。度胆をぬかれて、 しかも、その日の夕刻 ( 午後六時にげ出そうとしたが、次の瞬間何も から六時半までの間 ) 、同地の住民わからなくなって、気がついた時に 約二十五名が、一個のダイダイ色に は、窓の外の地面の上にひっくり返 輝いた光が約一 0 〇フィート の高度って倒れていた ! で西の方向にまるで漂うように移動 その時、彼の妻が、何かガラスの して行くのを目撃していたので、ひ 割れるような音がしたので、あわて よっとしてその >ßO とこの奇怪なて台所へかけこんでみると、ちょう 現象との間に関連があるのではない どその部屋の低い方の窓の一番上の か、と盛んに取りざたされた。 窓枠の中を通って彼の尻と脚が、外 しかもこのナゾの光というのが、 に出て行くところだった。 目撃者の証言によると、「何か落下 その窓枠の大きさは、巾は八一セ 226