ん合成音に切りかわっていて、九、八、七、六・ 「ニンジンは全開です ! 」 「ゼロ」 「どうなっているんだ ? おい、何がおこったんだ ? 」 ぐわっと吐き気がこみあげて来た。全身がこまかい粒子に分解し「降下しろと誰がいった ? 」 「加速はつづいているはずだ。速度計の針はぐんぐんあがっている たような、まるで・ハランスのとれない浮游感。 それでも私は、スクリーンを注視しつづける。義務だからだ。 ? これはどういうこと のに : : : 畜生、地表が追いかけて来るのか 十秒とたたないうちに減感剤の効果は去って行き、スクリーン も、いつものように一度黒くなり、それがしだいに灰色へと変わり「最大出力にしろといっているんだ ! 」 ながら、小粒の光の泡をまき散らし : ・ 「ただいま最大出力です , しかし、何の甲斐もなかった。地表はみるみる迫ってくる。あと 私はかっと目を見開いた。 五十メート ル、あと十メート ル : : : やがて、やわらかな衝撃がった スクリーンは、瞬時にしてあかるくなったのだ。あかるくなったわって来た。 ばかりではない。揺れる影のようなものが映っていたのだ。 軟着陸したのだ。 が、それも、とっさの印象であった。またたきするかしないかの全航行装置がフル駆動しているというのに、船体は地表に静止し うちに、それはズウンという速さで、ちちまっていた。 たのだ。 私は悲鳴をあげたように思う。 艦はそれでもかなりのあいだ、唸り、震えていた。 というのは、今やスクリーンに位置を定めたそれが、地表の風ついに艦長が命令した。 景であることに気づいたためであった。 「むだだ。これ以上エネルギーをつぎこめない。全エンジンを停止 何がおこったのか、考えるひまもなかった。 せよ」 「全速離脱 ! 」 艦内はにわかにひっそりとなった。その静寂を感じとりながら、 という艦長の声と同時に、床ははげしく上下し、艦内重力はゼロ私は見たのだ。 になった。艦は、持てる能力のすべてを駆使して、その地表らしい そう。 ものから離れようとしているのだった。 スクリーンに濃い霧が流れているのを : : : その霧の湿地に、怪物 回路を開放したままのスビーカーに、怒号やわめき声が、どっとに似た何十という宇宙船が到着しているのを : 重なった。 それは、時間差をおいてオー ハードライ・フしたはずの、わが艦隊 であった。 「何をしているんだ ! 軟着するんじゃないぞ ! 上昇するんだ。 上昇だ ! 」 0 っ ~
トの傍には、泥だらけのヘルメットや脛当が置いてある。 「最後に会われたのはいつですか ? 」 「現像場へまわしといてやったよ ! 」 「昨夜 , ーー・です。今朝は電話で話しました。今朝、社で会った男も「そいつは申し訳ないー います」 「写ってるかどうかは保証しないぜ。マガジンにひびが入ってるそ 「昼すぎに、遊園地に女の子と二人でいたのを見かけた人がいまうだから。よほどひどくぶつけたらしいな」 す」と警官が言った。 「すぐ新品をとりよせるよ」 「女の子と ! 」あいつだ ! 僕は心の中でさけんた。 僕は電話を切るとすぐに現像場へ下りて、ちょうど上ったばかり 「なにか心当りがありますか 2 こ のフィルムを受けとり試写室へいそいた。そして映写機にかけるの しいえ」僕はあわてて答えた。 ももどかしくスイッチを入れた。 「とにかく、そんな短い時間のあいだに、こんな状態にまでなると だしぬけにスクリーンにうつったのは眠もさめるような、一冂であっ いうことは医学的に考えられないことです・ : : こ た。すばらしく澄んた、ほとんど紺に近いような青がスクリーン一 「なにをしていたんですかねえ、最後の目撃者によると、この人は杯、まさにほとばしるとでもいいたいような感じである。 腰にいープをまいて、その端をプランコの柱にくくりつけていたと「なんだろ・」島村氏がつぶやいた。 いうんですが : : : 」 そのとたんであった。画面の左隅から中央へ向かってなにやら白 「それにヘルメットについている泥はこのあたりのものじゃありま いものがーー、・鳥だ ! 鳥が飛んでいる ! カメラは空を向いたまま せんな」もうひとりの警官も言った。 でまわりつづけているのだ。 沼井はそれから間もなく息をひきとった。 「白鳥たそ、あれは ! 」島村氏が言った。「たくさんいるなあ」 あとから駈けつけてきた島村氏と二人でいろいろな手配をおわと同時に画面がだしぬけにめちゃくちゃに揺れ、がくがくと、な り、社へ戻ったのはもう明けがた近かった。 にやら地平線とおぼしきものが二、三度スクリーンを横切ったとお 「腰にロープを巻いていたというのが鍵だぜ」と島村氏が言った。 もうと、びたりと画がきまった。 「俺もそう思う」そのとたんに僕ははっと思いっきあわてて電話機「おおっ」われわれは思わずさけび声をあげた。おそらく、地面に をとりあげると、報道デスクの番号をダイヤルした。デスクがひど上向きになっていたカメラを沼井が拾いあげてフォーカスを合わせ く眠そうな声を出した。 たのだろう。見渡す限りしたたるような深い樹林がつづいているの 「死んだよ」と僕は言った。 をかなり高い丘の上から見下ろしたところである。地平線の彼方に 「なにをやったんだ、あいつは ? 」 は目のさめるような青空、そしてまぶしいような雲。 「わからん。ところで、カメラに入ってたフィルムはどうなってる「どこだ ! 」これは ? 」思わず僕はさけんだ。 9 9
・ : パソして、きまって : : : ほら。これだ ! 」島村氏はび 試写室の映写スクリーンにうつっている東京の空撮が新宿の人ごずうっと・ : つくりするような大声をあげた。 みにつづき、それが千住かどこかの狭い路地へと変って間もなく、 突然、座席のうすくらがりの中から″うッ″とも″ぎ・ヤッ″ともっ場所はたしか千住のはずれ、つい数年前まで″お化け煙突″と呼 ばれる東電の火力発電所の煙突が立っていたあたり、映画〈煙突の かぬ妙な声があがっておやっとおもう間もなく、中程にすわってい た映像監督の島村氏がまるではじかれたように立ちあがった。もち見える場所〉などのロケにも使われた、東京中でもっともごみごみ した地帯である。くずれかけた木造の工場とも住宅とも物置きとも ろんみんなは、一斉に彼の方を向いた。 「いや、どうも失礼、失礼」われに返ったように彼はあわてて頭をつかぬちっちゃな建物がごたごたと軒をく 0 つけ合わすように並ん さげ、なにごとかとスイッチを切って映写室から顔を出したアシスでいる狭い路地。東京都が目下直面している最大の難問ーー住宅難 タントの沼井に向かってつづけろという合図をした。映写機がまたを如実に象徴したカットである。そこを、ひとりのみす・ほらしい少 まわり始め、スクリーンに再びその路地がうつ 0 たとき、居合せた女がすー「と、ドプ板沿いにカメラの方〈や「てきて、そのまま脇 へきれた。 十人ほどのスタッフたちは、一体その画面にどんな異変があるのか 「あいつだ ! 間違いない ! 」島村氏は大声をあげた。 と眼をこらすように身をのり出したがべつになんの変啓もない画で ある。こ「そりと島村氏の方へ眼をやると、彼はスクリーンの反射あとにな「て考えてみると、それが事の発端だ 0 たのである。 光の中で顔をびきつらせるようにして画面に見入っている。 一一百フィートほどのラッシ・プリントだから三分とたたぬうちその約一カ月前のこと ちょうどピーターが二週間ほどパリへ行くというので、〈祭り にフィルムは終り室内灯がついた。 三 ! わっしよ、 ! 〉の彼のシ 1 ソだけを抜き撮りして、そのテー 「どうしたの ~ 島村さん」僕は思わず言った。「びつくりした ゾをやっとの思いで本編へつなぎおわり、とにかく飯でも食おうか よ。いきなり立ちあがるんだもの」 「どうもすみません。あんまりびつくりしたもんで」と島村氏は言とから外へ出たとき、局長から呼び出しがかか「た いながら映写室の方〈手をあげた。「ねえ、沼井君、わるいけども「仕事はいそがしいのか ? 」局長は僕と向かいあ「たとたんに言 0 こ 0 ういっぺんやってくれよ」 「なにしろ一時間もの 「はあい、今、巻き戻してますウ」映写室の中から沼井の声がし「〈 = 、まア」と僕は用心しながら答えた。 を毎週一本は苦しいです」 て、間もなく室内は暗くなり、再びそのフィルムがうつり始めた。 そして画面がさきほどの空撮から新宿の人ごみに変ると島村氏は中「視聴率もわるくないようだな」 「ええ、お陰さんでなんとか、ベスト 5 にはずっと入づてます」 腰になって食い入るように画面をみつめた。 「それは結構。お前はフプイトがあ・つてたのもしい」 「いい力し次のカットだよ。よく見てて、いし力、カメラが : -6
そこは、宇宙船の内部によく似ていたのである。曲線をえがく壁「飛び込んだ ? 」 ゴプトンが問い返した。 と、スクリーンの群。計器や機械類が、至るところに据えられてい 「そう、とらえられたといってもいい」 床の中央に、ゴ・フトンが立っていた。ゴプトンと : : : それからお「飛び込んだとか、とらえられたとかいうのは何だ ? 」 私も言った。あいかわらず将校がべたりとすわって泣いているば そらく途中で拾われたのだろう。例の将校がいた。それも、すわり 込んでしくしく泣いていた。 かりなので、私とゴプトンで答えるほかなかったのだ。「われわれ : この妙ちきりんな世界に ードライプをやった。すると : だが、安堵したのは、それだけである。スクリーンの前や機械類はオー の横には、巨大なもやしに手足をくつつけたような生物が、何匹も来たんだ」 いるのだった。 もやしの化物は、プウ・フウという音をたてあった。笑っているら 一匹が、私に赤い目を向けて、きいきい声で何かいった。同時しかった。 、ードライプだろう ? 」 「大がかりなオー に、部屋の隅にある機械が、音を出した。 「あなたたちは新顔だね。そのからだっきから考えるとオリジナル 一匹がたずねた。「小刻みにやらずに、一気に長距離を飛び抜け のようだが、そうなんだろうね ? 」 ようとしたんだろう ? 」 「その計算がまちがっていたんだ」 その機械は、自動言語変換機なのだ。しかもおそろしく高性能の 変換機なのだ。地球軍団の技術者たちは必要に迫られていくつか自 ードライプす 別の、もやしの化物が説明した。「それだけオー 動言語変換機を作りあげていたが、これとくらべると、玩具も同然るには、エネルギーが足らなかったんだ。だから、亜空間に飛び込 んで、出られなくなったんだよ」 「どうだ ? 「何たって ? 」 もやしの化物が、またたずねる。 「ここは、ふつうの空間ではない。亜空間の世界なんだ」 「言葉の意味が、よく判らない」 「ーーーそんな」 私は答えた。「新顔とは、どういうことだ 2 ・それに、オリジナ 私はうめき声をあげた。「亜空間なんて、あくまで理論的なもの ルとは、何のことだ ? 」 ードライプしているとき、宇宙船は だという話じゃないかオー もやしの化物たちは、一「三匹集まって、何事かを話しあい、そ現実には存在しないと聞いたぞ ! 」 れからまた、私たちに向き直った。 「だから、そのあいだ、宇宙船は亜空間にいるのさ。亜空間の世界 から見れば、そのあいだだけ存在しているのさ」 「あなたたちのような生物を見るのは、これがはじめてだ。あなた 「ーーわけがわからん」、 たちはつい最近、この世界へ飛び込んだんだろう ? 」 0
断なく計器をにらんだ。惑星本体からの反応をみているのだ。 たんだ ! 」 三十分たった。 「ははあ ? 」 「やったか卩」 「ははあーーじゃない。はやく逃げないと命がない。あの惑星表面 いっしょに息をころして。 ( ネルの計器をみていたヒノがどなつの密雲の振動は、あきらかに爆発の前兆だ ! 」 た。数字が変化したのだ。 「爆発 ? それはまたどうして : : : 」 「だめだ」シオダはかぶりをふった。「さっきから、エネルギー放「とにかくここを離れてくれ。全速力だ。この艇はフルスビードで 射はたしかに増大しているのだが、やはり情報をとりだせるほどのどのくらい出るんだ ? 」 ものではない」 「加速時間をかければ〇・七 0 はいくね」 「しかし、反応はたしかにあるんだな ? 」 「加速に時間をかけてはまにあわない。 にでてくる、ワープ 「若干の効果はあったようだ」 とかシャントとかテレ求ーティションとかいう方法はだめか ? 」 「じゃ、もっとじゃんじゃんデータを入れてやれ。ぜんぶウソのほ 「ワープやシャントはだめだが、超光速ならちっとはできる」 うがいいんじゃないか ~ 」 「それでいってくれ ! 」 「うむ、もうすこしやってみよう」 「なんだかわからんが、では、とにかく逃げのびることにしよう」 また三十分、シオダはさまざまな偽造データを流しこんだ。情報ヒノは、まだ目はばちくりさせたまま、とにかく、宇宙艇 公害を与えているようなものだが、 " コン。ヒ = ータ惑星。の性能を Atn—o 号。を、フルス。ヒードで " コンビ = ータ惑星。から遠ざけ 調べるためにはしかたがない。 た。土星に似た美しい惑星の姿はみるまに小さくなり、たちまちひ 「それいけ、やれいけ ! 」 とつの輝点にしかすぎなくなった。 容易なことではききめがあらわれそうにないので、ヒノがじれ数分後には、宇宙艇は、この星系の最外縁部にまで達した。 て、やけくそな声援をシオダにむけてとばしたときだった。 そこで爆発がおこった。 「おい、ヒノ、たいへんなことになった。はやくこの場所をはなれかすかな輝点となっていた″コン。ヒ = ータ惑星。が、スクリーン てくれ。逃げだしてくれ ! 」 の中で、とつじよ、数千倍、数万倍の明るさに輝き、おそるべき放 シオダがめずらしい大声をだし、ヒノの肩をゆすった。 射能を虚空にまきちらしたのだ。惑星の爆発であったが、その様相 「えに いまになって、どうして逃げだしたりするんだ ? 」 は、超新星の爆発に匹敵するすさまじいものだった。 自をばちくりさせるヒノにむかって、シオダは、自分がかわりに パイロットをつとめんばかりの勢いでいった。 「まえのいうとおりに逃げだしてよかった」爆発がおさまるのを 7 「スクリーンを見ろ ! 惑星全体がゆれだしている。振動をはじめ見とどけてから、ヒノがほっとした声をだした。
「ぼくの失敗だった。社には損害をかけたし、所有主が知ったらどの人工頭脳は、もちろん、われわれとは比較にならないほど高度な んなことになるか : : : 」 ものだったろう。われわれの知らない宇宙の真理に到達していただ 7 シオダはうなだれ、悲しそうな顔でいった。彼としては、入社以ろう。だから、なおさら、発狂しやすい状態だったんだ」 来はじめてといっていし 「なるほど : ・ しょげた顔だった。 。そこへ、おれたちが、でたらめな情報を与えた。 「心配するな。だれが来たって、あの星を利用する方法なんか見つ発狂を誘発したわけだったんだな」 けられなかったよ。会社の損害だってたいしたことはない。所有主「自分の知っていることを、これ以上、内に秘めていることは、と オい。なにしろおれたちを調てもがまんできなかったんだろう」 にも犯人がおれたちだとはわかりはしょ べたコンビ、ータが爆発しちまったんだからな。ま、ポーナスがち「気の毒に、その唯一の解決策が爆発だったとは ! よっと減るぐらいのところだよ」 情にもろいヒノは、涙ぐんでいた。 ヒノはニキビのあとに手をやりながら、シオダをなぐさめた。 シオダは、しだいに拡散しながらうすれてゆく放射能のガスを指 ふたりはそれからしばらく黙ったまま、スクリーンに拡大されたさして、しんみりといった。 ″コンビュータ惑星″の燃えがらを見つめた。 「あのエネルギーの中にコン。ヒュータ惑星″『マルチ・リング』 やがて、ヒノが視線をシオダの横顔のほうにむけて、きいた。 のすべての知識が、情報流となって放射されたにちがいない。しか 「失敗成功は別問題として、いったいどうして爆発しちまったんし、いまさらそれを集めるすべはないんだ」 だ ? 刺激がつよすぎたのか 2 ・」 ヒノはちょっとため息をつき、ふたたび、シオダをなぐさめるこ シオダはスクリーンを眺めたままで答えた。 とばを口にしこ。 「そのとおりだが、別のいいかたをしたほうが、わかりやすい。わ「いや、まったくむだに散ってしまったとはかぎらないぜ。あの、 れわれが、もし、暗黒時代に住んでいて、さまざまな知識をもち、すさまじいエネルギーが、やがて他の空間で新しい天体に再生する 大発見をしているのに、その発表を官憲に封じられたとしたら、どとき、そのエネルギーに運ばれているわずかな情報が、なにものか オしか。おれたちたって : : : もしかし ういう気持になるだろう ? すばらしい哲学、文学、絵画、方程を創りだすかもしれないじゃ 0 、 こら : : : その昔のこんな事件がきっかけで生まれてきた存在なのか 式、それから悪事の真犯人、事件の真相 : : : そういったものが頭のナ も知れないぜ : ・・ : 」 中にいつばい渦をまいているのに、外部に公表し、客観に投影し、 ヒノの話は途中で飛躍したが、シオダは小首をかしげ、きましめ 後世にのこるように記録することが許されなかったとしたら : : : 」 な顔でうなずいた。 「ううむ、おれだったら発狂するだろうなあ」 いようのない悔恨を虚空にのこしたまま、 「まさしく、それなんだ。あの″コンビ = ータ惑星石は、装置の故ふたりはそれから、 障のため、情報が入るばかりで、出すことを許されなかった。本体母星への帰路についた。
私とゴプトンは、ほとんど同時にボタンを押した。白光がひらめギーをほうり込んで、一挙に五十光年あまりを翔け抜けようという のだ。 き、鹿ははねあがると、横ざまに地に落ちた。 「よし、駐屯地まで運んで行こう。みんな、荷台を組み立てて、あ重いそーーーと、私は覚悟した。 「五十秒前」 れを載せろ」 将校の声に、私たちは、じくじくした地面に降り立った。 ハードライプのあいだ、われわれはどこにいることになるの 鹿は、まだあたたかかった。そして、その毛並みも形状も、高くか、と、かって私は技術将校に訊ねたことがある。技術将校はしば らく私をみつめてから、声をしぼるようにして「亜空間としかいい 張ったつのも、何もかもが、地球の鹿にことならなかった。 ようがない」と答えたものだ。 「ーーあり得ないことだ」 作業をつづけながら、私はそっと呟いた。 「四十秒前」 「なぜ考える ? 」 なぜそんな真似までして、宇宙を飛びまわらなければならないの ゴプトンがささやき返す。「説明しようのないことを考えてどう だ。といえば、これはもうはっきりしている。人類の絶対的優位を する ? 狂うために考えるのか ? 」 確保するためなのだ。 ゴプトンのいうとおりかも知れない。彼のように、あるがままを「三十秒前」 受入れるべきなのかも知れない。 そうなのだ。今のところ、人類に匹敵するほどの力を持った高等 や、発見されることはされているのだ だが : : : やはり私は思い出してしまうのだった。数時間前か十数生命は発見されていない。い 時間前か ( それさえもさだかではない ) にはじまり、今も理解を絶 が、それらはみな数万年なり、数十万年なりの遠い昔に亡んでしま した状況がつづいている、あのときのことを : ・ って、遺跡を残しているだけである。現存する異星の種族で人類を しのぐものはないのだ。 そのとき、私は、観測室で第六スクリーンを受け持っていた。 「二十秒前」 「ただいまから、秒読みに入る」 私はカプセルを切った。血管に減感剤が流れ込んで、ゆっくりと これは、オ ス。ヒーカーが、艦長の声を伝えた。「オー ハードライ・フ六十秒前」平安が訪れてくる。だがこの平安に甘えてはいけない。 私は、減感剤のカプセルを、腕にセットした。歪んだ空間の最短 ハードライプのショックを緩和するための作用なのだ。だから私 ードライ・フは、恒星間単位の航行に不可欠だにはいつのまにか、安息感といっしょに苦痛を予期する習慣ができ 距離を突破するオ 1 が、何度経験しても好きになれるようなものではない。しかも今回ていた。 は、軍隊であるがゆえに背負わされた実験をも兼ねていた。つまり「十秒前」 はじまるそ、と、私は鈍くなった意識の底で思う。秒読みはむろ 従来のように五光年や六光年ずつの繰返しではなく、巨大なエネル 9
あけ、利用できるかどうか調べることにするんだな 6 意外に高く売 んでいる。行先はどうやら、外側のリングらし、。こど : れるかもしれん」 シオダはちょっと眉をしかめた。 ヒノのことばに、シオダは首をふった。 「ただ、どうしたんだ ? 」 「それはだめだ。これまでこの艇の計器で調べたところでは、一個 とノがうながした。 シオダは、スクリーンにうつっているリングのパターンを指さし一個の物体は単純なアンテナと増幅器と符号変換装置にすぎない。 わざわざ第辺境恒星区まで買いにくる・ハ力はいないよ。広大なリ ていった。 ングに並べられてはじめて、効果を発揮するといった性質のものな 「ただ、外側のリングのほうは、どうやら、うまく動作していない んだ」 らしいのだ」 「だめか : : : 」 「ははあ」 「そんなことよりも、この巨大な王星型惑星が、いったい何を意味 「内側のリソグは、整然と配列された物体からなづている。しか しているのか、それを追求しなければならない」 し、外側のそれは、でたらめだ。ぼくの考えでは、これは最初から のものではなく、途中でなにかに荒されて、こうな 0 てしまったの「それがわかれば、利用方法も考えられるかもしれん 0 てわけだ」 「ぼくはそれについて、ひとつの仮説をたてた」 だ。リングの情報入出力作物は、物体がきちんと配列されたアレイ 構造をなしていることと関係がふかい。雑然とちらば「ていたので「仮説のできたことはさ 0 き聞いたよ。話してくれ。おれはその仮 は、相互の連絡がなく、入 0 てきた ~ 一ネルギーから、うまく情報を説とやらにしたが「て行動してみるよ」 キャッチすることができないんだ。これは、飛行機やケットの可 4 変ビーム・アレイ・アンテナと同じりくつだ」 「なるほど、情報はむだに宇宙に放出してしまっているんだな」ヒ この土星によく似た美し ノはしたり顔でうなずいた。「もったいない話だ。われわれにキャ シ矛ダは、宇宙の奇跡としか思えない、 ッチできないものかね」 いリングをもっ惑星の全景に視線をさまよわせ、そして、調査ノー トのつぎのペ 1 ジをめくって、自説を述べた。 「やってみようと思ったが、だめだった」シ矛ダはざんねんそうな 声をだした。「エネルギーが弱くなりすぎ、ノイズに埋もれて、検「これは″コンビュ 1 タ惑星″なのだ」 出できないんだ。それができれば、われわれの調査は完了したも同「おれもそのぐらいの見当はつけていたぜ」 といったふくれづつらをした ヒノは、あたりまえじゃないか 然なんだが : : : 」 「そうかとい・つて、百万キロメートルにひろがっちまった物体を並が、シ・オダはかまわず話した。 べかえるわけにはいかんし : : : まあ、サン。フルを持ち帰 0 て、中を「外側をとりまく十個のロポット衛星は、あらゆる種類の情報を、 ロ 0
姿を十分に観測して、あの衛星の中にある 0 ンビータに知らせるぬいながらの単調な飛行をつづけてきたので、アキがきてしまった のだ。 にちがいない」 しばらく間をおいて、シオダは説明した。れいによって、慎重な シオダはおちつきはらっていた。 口調である。 ヒノはニキビのあとをひっかいた 「なんだ、気がついていたのか。おれはリングに見とれてうつかり「これまでに得られたデータを整理してみると、つぎのようなこと 冫たかるにまかせておいてよかったんだな。さになる。第一に、この惑星『マルチ・リング』の最外縁に位置する していた。たしかこ、 十個の衛星は、すべて情報収集能力をもった高度のロポットだ。中 て、つぎにはどうする ? 」 「カッシ 1 = のすきままで、注意ぶかく前進してくれないか。すこはマシンだけで、宇宙人が住んでいるようなことはない。前回の調 査艇の報告にもあるし、われわれの到着早々の活劇から判断して しずつ、わかってきているんだ」 も、それはたしかだ。どういう情報を収集しようとしているのかは 「データ収集能力は十二分にあるからな、この艇は : : : 」 ヒノはシオダのいうとおりに、外側のリングにそ 0 て、艇をゆっよくわからないが、われわれを襲った能力から考えて、とにかく探 知できるものはすべて探知し、近づくものはすべて調べあげること くりとすすませた。 リングを構成する物質は、白く輝く結晶状の塊で、一個の大きさにしているらしい」 「おれたちの私生活までのぞきやがったからな」 は、直径一メートルそこそこだった。 大きさと形状が一定している点は、太陽系の土星とまったくちが ヒノがあいの手をいれた。シオダは淡々とはなしつづけた。 った特徴で、シオダが人工物説を唱えるのはとうぜんといえた。 「問題はその先にある。つまり、衛星がその情報をどうするのか、 そして、二重になったリングが何の役目をはたしているのかーーーと いうことだ : : : 」 3 「で、それがわかったのか ? 」 「それらしいフローがキャッチされた」 「そろそろ結論が出たんじゃないか ? 」 「フロー ? 一時間ほどそういう飛行をつづけたのち、ヒ / はたずねた。 シオダは、調査ノートとディスプレイとレーダーのスクリーンと「情報の流れだ。この惑星の周辺には、おびただしい = ネルギー が、さまざまな形態をとって渦をまくように、また放射状をなして を交互に眺め、小首をかしげてこたえた。 流れている。そのエネルギーの流れは、一見なんの意見ももたない 「だいぶつかめてきた」 ようにみえるが、艇内のコンビータにかけてよく調べてみると、 「はやくおしえてくれ」 ヒノはすこし声を大きくした。一時間のあいだ、結晶物質の間を全体として、巨大な情報伝送路を形成しているらしいことがわかる 8
のツォダが、はじめて口をひらいた。 んでいた隣のシート 理的なんだよ、『惑星開発コンサルタント社』は : : : 」 「ふうむ、しかしだね : : : 」 ヒノが不服そうに反論しようとしたとき、第二の攻撃が、ふたり 情報収集用の宇宙艇″号″は、その一撃をうけて、 をみまった。 キリモミ状態になった。 肉眼ではほとんど判別不可能なほど反射能率のわるい小型の衛星 。 ( イロット席でヒノが顔をまっ赤にした。 の一部分に孔があき、そこから、妙な物体がとびだしてきたのだ。 「ちくしようッ ! 意外に手ごわい相手だ・せ ! 」 それは遠目にはハエのように見えた。 ヒノの手はめまぐるしく動き、眼も耳もフルに活動した。 そしてじっさい、近くにきても、ハエのようだった。 半自動式の号″の操縦装置は、きたえぬかれたヒ ノの名人芸にあやつられて、制御ロケットをはたらかせた。数十秒直径一メートルほどの円筒型の飛翔体で、ものすごいスビードで 号″に近づくや、その周囲をぶんぶんまわりはじめ ののちに、艇は安定な状態にもどった。 たのだ。 「やれやれ : : : 」 「またいやなことがおこったぜ ! 」 ヒノは、ニキビののこるあから顔にしたたる汗をぬぐいながら、 ヒノはしばらくの間、なんとかそのハエから離れようとロケット 口をとがらせてしゃべった。 をふかしたが、効果のないことがわかると、シオダを非難するよう 「外観は土星にそっくりだが、内容はちょっとばかり、ちがってい るようだなあ。十個の衛星がみんなマンモス・ロポットだとは、思な口ぶりでいった。 「まえの攻撃は、衛星自体がアーム状の突起をつきだして襲ってき わなかったぜ : : : 」 ヒノの両眼はレーダーのスクリーンをぬけめなくにらみ、両腕はたんで、逃げることができたが、こんどはどうだ ! 逃げることす 衛星との距離がこれ以上ちちまないように、操縦用のパネルの上をらできない。なにしろ、相手のほうがすばやいんだからな。そし て、やつつける火器ももっていない」 動いていた。 「 : ・ : ・とにかく、この宇宙艇は節約型だから、攻撃をうけても反撃「こんどのも、前回のも、はたして " 攻撃。といえるかどうか、 くは疑問に思っているんだ」 する道具がついていない。逃げるしか手段がないんだから、こうい シオダはおちつきはらった態度でこたえた。 う場合は心細いよ。いつまでたっても、わが『惑星開発コンサルタ 「どうしてだ」 ント社』はケチの精神に徹していやがるなあ ! 」 ヒ / はニキ・ヒのあとをかきむしった。 「すばやく逃げられるのは、よけいな道具がついていないからじゃ ないかなーー、」それまで黙ってしきりに調査ノートになにか書きこ「前回のアームは、われわれの艇を、こわれないていどにつつつい 合