た ! 」 のだ」 ふたりをのせた宇宙艇は、こんどはカッシーニのすきまをこえ、 「どういうぐあいに伝送されてるんだ ? 」 ヒノは艇の正面にきた結晶体をかるくかわすと、シオダに顔を近内側のきらめくリングをななめによぎり、そしてい厚い雲におおわ れた惑星の表面にまで近づいた。 づけた。 艇は表面すれすれの所でトンポがえりをうち、何回か曲芸飛行を シオダは調査ノートを見せた。いまどき、こんな古くさいノート を使う調査員もすくないのだが、シオダは平然としてクラシック趣して、大きく周回し、逆の側からふたたびカッシー = のすきまにむ っこ 0 、刀十ー 味をつらぬいているのだ。 ヒノはたのしそうに終始ロ笛を吹き、シオダはあいかわらずのマ 「こうなっている」彼はそのノートに描かれた図の上に指をはしら せて説明した。「情報収集用ロポット衛星からは、強力な中性微粒イベースでデータを集めつづけた。 子群が放射され、その一部は他の衛星に行くが、大部分は中心方向「どうだい、わかったかい ? 」 ヒノがたずね、シオダがうなずいた。 へとむかう。その行先は、はじめは外側のリングかと思ったが、ど うやらそうではないらしく、内側のリングに吸いこまれているよう「わかったよ」 「こんどはぜんぶわかったんだろうな ? 」 なのだ」 「仮説をたてるところまで到達した」 「ふうむ、で、そのまた先は ? 」 「はやく話せ」 「カッシーニのすきまから内側にあるリングは、外側のリングみた シオダはゆっくりと話しだした。 一個一個の構成物体は外側のリン いに希薄で雑然とはしていない。 「やはり、内側のリングからは、簡単な処理をうけた情報が、惑星 グと同様だが、並び方が規則正しいし、密度がずっと濃くなってい る。その整然とした構成によって、エネルギー流から情報をとりだの表面へ向かっているようだった。かなり強烈なガンマ線ビームが し、その先は、おそらく、惑星自身にむけて、情報のフローがあるすべての構成物体から中心にむかって放射されており、そのビーム と予想されるし、事実それらしい放射もみられるが、ほんとうのとの強度の変化が、。 ( ルスの形での情報フローとなっているのだ。っ ころは、そこまで行ってみないとわからない。それから、啓星からまり、ロポット衛星で収集された情報は、内側のリングで中継・変 のエネルギーがどのように情報をはこんでいるのか、それも、もう換されて、惑星『マルチ・リング』の雲を通し、その内部のどこか に流れこんでいるというわけだ。つぎに問題になるのは、惑星から すこし近づいてみないと : : : 」 「はやくそれをいってくれよ ! 」ヒノは、シオダが " そこまで行っの情報の流出だが、これも、いまの曲芸飛行でかなりはっきりし て : 。としゃべ 0 たとたんに、 = ンジンをふかしはじめた。「近た。紫外線から線にいたるスペクトラムが雲の中から断続的に放 されており、そのひとつひとつが、・すべて符号化され、情報を含 づいちゃいかんのかと思って、こんな外側でうろうろしていて損し射
の重力、もやもやとした厚い雲におおわれた表面、十個の衛星 : ・ た。そして . こんどのハエは、ただ周回しているだけだ」 これらも土星にそっくりだった。 「ふうむ : : : 」 しかし、なんといっても、この惑星『マルチ・リング』を″辺境 「ほら、げんに攻撃なんかしてないじゃよ、、 リング シオダのこのことばに、とがっていたヒノのクチ・ハシが、すこしの土星″といわしめているのは、その環の存在だった。 きわめて薄く、そして幅の広い円環が、二重になってとりまいて ひっこんだ。ヒノはあきらめたように、スクリーンをゆきかってい いるのだ。 るハエを眺め、そしてたずねた。 「じゃあ、相手はなにをしているんだ ~ 」 内側のリングは比較的はっきりした形をなしていて、恒星からの シオダは、小首をかしげながらいった。 光をあざやかに反射していた。 「これは、コンビュータに関係がふかい事件だとにらんでいる」 外側のリングはこれに比較すると、やや散漫な形で、よほどよく 「そりや、もちろん関係はふかいさ。この宇宙艇は情報収集用につ観察しないと、円環状をなしているのかどうかわからなかった。 そして、内外ふたつのリングの間には、土星のカッシーニのすき くられていて、外部からの情報をコンビュータで自動的に処理する イラネット・インフォーメイシ第 ことができるんだ。という名称も、惑星開発情まに相当するギャツ。フがあいていた。 ン・イロセッシング 報処理システムの略号なんだからな : : : 」 十個の衛星はそのふたつのリングの外部に、行儀よく並んでい 「いやそうではない。 この舞台全体がさ : : : 」 シオダはまた小首をかしげ、調査ノートをひろげた。 このような奇妙な惑星は、宇宙広しといえども、めったに存在す るものではない。 経済的な宇宙開発計画設計やその売り込みで有名な『惑星開発コ だから、この惑星を発見し、『マルチ、・リング』と名づけた人物 ンサルタント社』の若手調査員であるヒノとシオダのふたりの眼前 は、たいへんな喜びかたで、すぐに地球にもどると、『惑星開発コ にうかんでいるその惑星は、たしかに土星によく似ていた。 ンサルタント社』に売り込みに来た。 場所こそ第辺境恒星区で遠くへだたっているが、ニックネーム 自分で探検するのは苦労が多いし、開発して商品にしあげるのに を『マルチ・リング』とされているぐらい、太陽系にある土星と酷は資金が不足していたからである。 似しているのだ。 むろんコンサルタント社は、こういう掘り出しものの惑星を見つ 中心の恒星は絶対等級四・八五でスペクトル型が c.5N> の太陽類けて開発・転売するのが専門だから、ぞんぶんに値切った末、所有 似だったし、その恒星からの距離や公転周期も、十四・八億キロメ権、開発権を買いとった。 ートル、三十八地球年ー・・ーといったぐあいに、土星なみだった。 そして、第一回の調査隊を送った。 七万キロメートルの半径、水の〇・七しかない平均密度、約一 O ところが、その調査隊は、なんの成果も得られずにもどってきて 5
あけ、利用できるかどうか調べることにするんだな 6 意外に高く売 んでいる。行先はどうやら、外側のリングらし、。こど : れるかもしれん」 シオダはちょっと眉をしかめた。 ヒノのことばに、シオダは首をふった。 「ただ、どうしたんだ ? 」 「それはだめだ。これまでこの艇の計器で調べたところでは、一個 とノがうながした。 シオダは、スクリーンにうつっているリングのパターンを指さし一個の物体は単純なアンテナと増幅器と符号変換装置にすぎない。 わざわざ第辺境恒星区まで買いにくる・ハ力はいないよ。広大なリ ていった。 ングに並べられてはじめて、効果を発揮するといった性質のものな 「ただ、外側のリングのほうは、どうやら、うまく動作していない んだ」 らしいのだ」 「だめか : : : 」 「ははあ」 「そんなことよりも、この巨大な王星型惑星が、いったい何を意味 「内側のリソグは、整然と配列された物体からなづている。しか しているのか、それを追求しなければならない」 し、外側のそれは、でたらめだ。ぼくの考えでは、これは最初から のものではなく、途中でなにかに荒されて、こうな 0 てしまったの「それがわかれば、利用方法も考えられるかもしれん 0 てわけだ」 「ぼくはそれについて、ひとつの仮説をたてた」 だ。リングの情報入出力作物は、物体がきちんと配列されたアレイ 構造をなしていることと関係がふかい。雑然とちらば「ていたので「仮説のできたことはさ 0 き聞いたよ。話してくれ。おれはその仮 は、相互の連絡がなく、入 0 てきた ~ 一ネルギーから、うまく情報を説とやらにしたが「て行動してみるよ」 キャッチすることができないんだ。これは、飛行機やケットの可 4 変ビーム・アレイ・アンテナと同じりくつだ」 「なるほど、情報はむだに宇宙に放出してしまっているんだな」ヒ この土星によく似た美し ノはしたり顔でうなずいた。「もったいない話だ。われわれにキャ シ矛ダは、宇宙の奇跡としか思えない、 ッチできないものかね」 いリングをもっ惑星の全景に視線をさまよわせ、そして、調査ノー トのつぎのペ 1 ジをめくって、自説を述べた。 「やってみようと思ったが、だめだった」シ矛ダはざんねんそうな 声をだした。「エネルギーが弱くなりすぎ、ノイズに埋もれて、検「これは″コンビュ 1 タ惑星″なのだ」 出できないんだ。それができれば、われわれの調査は完了したも同「おれもそのぐらいの見当はつけていたぜ」 といったふくれづつらをした ヒノは、あたりまえじゃないか 然なんだが : : : 」 「そうかとい・つて、百万キロメートルにひろがっちまった物体を並が、シ・オダはかまわず話した。 べかえるわけにはいかんし : : : まあ、サン。フルを持ち帰 0 て、中を「外側をとりまく十個のロポット衛星は、あらゆる種類の情報を、 ロ 0
姿を十分に観測して、あの衛星の中にある 0 ンビータに知らせるぬいながらの単調な飛行をつづけてきたので、アキがきてしまった のだ。 にちがいない」 しばらく間をおいて、シオダは説明した。れいによって、慎重な シオダはおちつきはらっていた。 口調である。 ヒノはニキビのあとをひっかいた 「なんだ、気がついていたのか。おれはリングに見とれてうつかり「これまでに得られたデータを整理してみると、つぎのようなこと 冫たかるにまかせておいてよかったんだな。さになる。第一に、この惑星『マルチ・リング』の最外縁に位置する していた。たしかこ、 十個の衛星は、すべて情報収集能力をもった高度のロポットだ。中 て、つぎにはどうする ? 」 「カッシ 1 = のすきままで、注意ぶかく前進してくれないか。すこはマシンだけで、宇宙人が住んでいるようなことはない。前回の調 査艇の報告にもあるし、われわれの到着早々の活劇から判断して しずつ、わかってきているんだ」 も、それはたしかだ。どういう情報を収集しようとしているのかは 「データ収集能力は十二分にあるからな、この艇は : : : 」 ヒノはシオダのいうとおりに、外側のリングにそ 0 て、艇をゆっよくわからないが、われわれを襲った能力から考えて、とにかく探 知できるものはすべて探知し、近づくものはすべて調べあげること くりとすすませた。 リングを構成する物質は、白く輝く結晶状の塊で、一個の大きさにしているらしい」 「おれたちの私生活までのぞきやがったからな」 は、直径一メートルそこそこだった。 大きさと形状が一定している点は、太陽系の土星とまったくちが ヒノがあいの手をいれた。シオダは淡々とはなしつづけた。 った特徴で、シオダが人工物説を唱えるのはとうぜんといえた。 「問題はその先にある。つまり、衛星がその情報をどうするのか、 そして、二重になったリングが何の役目をはたしているのかーーーと いうことだ : : : 」 3 「で、それがわかったのか ? 」 「それらしいフローがキャッチされた」 「そろそろ結論が出たんじゃないか ? 」 「フロー ? 一時間ほどそういう飛行をつづけたのち、ヒ / はたずねた。 シオダは、調査ノートとディスプレイとレーダーのスクリーンと「情報の流れだ。この惑星の周辺には、おびただしい = ネルギー が、さまざまな形態をとって渦をまくように、また放射状をなして を交互に眺め、小首をかしげてこたえた。 流れている。そのエネルギーの流れは、一見なんの意見ももたない 「だいぶつかめてきた」 ようにみえるが、艇内のコンビータにかけてよく調べてみると、 「はやくおしえてくれ」 ヒノはすこし声を大きくした。一時間のあいだ、結晶物質の間を全体として、巨大な情報伝送路を形成しているらしいことがわかる 8
星々や近づいてくるのからかき集め、それを内側のリングに送りれない」 こむ。つまり、コンビュータでいえば、オンライン端末装置の役割 「コン。ヒュータのモデル・チェンジははやいからな。だけどシオ をはたしているのだ。キー・求ード、カード・リ 1 ダ、 ooc< 、テダ、これが出力装置を失った″コンビータ惑星だったとして、 1 ラ・リ ーダなどに相当する機能をもつが、さらにそれにオペレー おれたちはどうすればいいんだ ? 」 タがついていたものといえるだろう 0 つぎに、内側のリングは、ロ 「まだ二、三考えてみたいことがある」 ット衛星から流れこんでくる生の情報を、センターにあるコンビ 「まだ考えるのか ? 」 ュータに入力できるように制御・変換する、一種の入力用制御装置「本社にもどって報告するためにも、もうすこし仮説を整理してお にちがいない。中心にある惑星本体は、もちろん、コン。ヒ」ュ 1 タのく必要があるよ」 本体ーーっまり中央処理装置 (OP*D) だ。まわりを厚く囲んでい シオダは、いらいらしはじめたヒノをなだめるようにこういっ る雲は、記憶装置の役目をしているーーーー・と、・ほくはにらんでいる。 て、とじた調査ノートをまたひらいた。そして、メモを」ヒノに見せ インイ . ット アウト・フット 以上は入力のほうだ。コンビュータには出力もなければならな ながらしゃべった。 い。計算結果を外部にうちだすプリンターなどに相当する装置だ。 「第一は、この惑星をつくったおどろくべぎ才能の宇宙人たちが、 外側のリングがその一部であることはたしかだと思うが、そのほか いまもどこかにいて、やがてここに戻ってくるかどうかということ にぼくは、出力用の衛星があったはずだと推測している。つまり、 だ。第二は、出力装置を失ったこの″ゴソビュータ惑星は、 惑星本体で計算され、情報処理された結果は、まず、外側のリングま、何をしているのだろうかーーということだ」 にむけられ、そこで変換、調整されて、出力用のロポット衛星に行「たしかにその二項自は重要だな。いずれも『惑星開発コンサルタ く。そして、そのロポット衛星から、このコンビ = ータの利用者まント社』の利益を左右する問題だ」ヒノは納得したロぶりだった。 たは所有主に、その結果が渡されるのだ」 「で、おまえの見解は : : ・う・ 「それではっきりした」ヒノはどなった。「ある時悪漢がやってき「ぼくはつぎのように考えてみた」シ矛ダは自分の頭の中を整理す て、その出力用の卩ポット衛星を略奪していったんだ。そしてそのるような口調でいづた。 づいでに外側のリソグをぶつこわしてしまづたこの″コンビュー 「第一の問題は、イス・ーーの可能性が何パーセントかあるだろ タ惑星″が存在するとつごうの悪い宇宙人のし - わざにちがいない」う。空想的な推理になるかもしれないが、この″コン。ヒータ惑 「そのへんのことになると、憶測の域をでないようになる」シオダ星″をつくづた宇宙人は、そのまえの宇宙探検で太陽系を訪問した は / ートをとじながらいづた。「所有者自身が、出力用端末装置をことがあり、そのときに見た土星のすばらしい形状にヒントを得 改修するためにもっていってしまったのかもしれないし、また、こて、その形をまねてみたのではないだろうか ? ともかく、これだカ の″コンビュータ惑星″の型式が古くなって不要になづたのかもしけの大規模な構造物をつくりあげた種族が、そう簡単に滅びてしま
は、衛星と常に無線で連絡されており、われわれの様子を撮像管で宇宙艇号″は ( 工をたからせたまま、すすみはじ うっしとって、送っているのだ。あのハエの大目玉の構造がそれをめた。 証明している。すべては情報収集活動なんだ。もしそうでないとし第一目標は外側りリングだった 9 たら、号″はとっくにこわされているはずだ」 艇は衛星の軌道を、なんの妨害にもあわずに横切リングに近 「なるほど、たしかにそうかもしれん」 づいた 9 ヒ / はシオダのこの説明に、うなりながらうなずいてみせ、そし それは、まことに壮大な光景だった。 てたずねた。 半径七万キロメ . ートルの自色の密雲にとりかこまれた球体の周囲 「その推理が正しいとして、おれたちはこれからどうしたらいい 2 に、百万キロメートルもの円局をもっ広大な円環がとりまいている むこうも情報収集用の衛星、こちらも情報収集用の宇宙艇だ。情報のた。 収集競争をやるか ? どちらがよけいに相手の内容をすいとるか艇の近くは、黴小な粒子が散在する姿であり、遠方は、ンンプレ ロ、テンガロ / ハット の縁だった。 「いや、それはためだ」シオダはかぶりをふった。「負けるにきま「自然の芸術品たな」 っている。とにかくむこうは衛星なんだ。かオし よ、つこない。 ヒ / があらためて嘆戸を発した。 これも ぼくの推測たが、第一回の調査隊のロポットが行方不明になったの 「いや、人工物である可能性がつよい」 も、この衛星とまともに情報収集競争をやって、敗れてたおれてし シオダが応じた。 まったためではないかと考えられる」 「衛星が卩ポットだったんだからな。しかし、もし人工物たったと 「じゃ、どうすりやいいんだ ? 」 したら、リングはいったいなんの為にあるんだ ? 」 「知らん顔をして、もっと敵の本陣に接近するんだ。それが最善の ヒノは首をひねった。 方法だと思う 「それを調べるのが目的だよ」 ヒノはからたを起こした。 シオダ . がこういって、計器をにらみ、艇内のコンビータ - をつか 「衛星がなにをしようと、われ関せずーー -k. 一いった顔つきで前進すってデ . ータを処理しはじめたとき、ヒ / がびつくりした声をだし こ 0 ・ るわけだな。意外におもしろいかもしれん。やってみよう ! 」 行動派のヒノは、とにかく本陣に近づ くーーーというシオダの提案「おい、シオダ、行っちまったぜ」 に、また元気をとりもどした。当面の相手をやつつける方法がない ハエのように窓にしがみついていた奇妙なロポット艇が、いつの 以上、それをほうっておいて前進するのは、次善の策だとなっとくまにか、消えてしまっていたのだ。 したのだ 9 「衛星の軌道をよぎったすぐあとで、離れていったよ。われわれの め 7
うかどうか疑問だ「まだ生存しているとしたら、よほど慎重にかか らないと、とんでもないめにあう。これだけの科学力の持主をおこ らせたら、コンサルタント社なんか一撃でぶっとばされてしまうだ ろう。さて、第二の問題だが、これはぼくはぜひ知りたいと思う。 いまこの超マンモス・コン。ヒュータが何をやっているか、それがわ かれば、第一の問題も自然にとけるかもしれないからだ。また、も しかすると、それを知ることによって、われわれは大変な知識を得 るようになるかもしれないからだ」 「なるほど、すごい大発明や大発見をしているかもしれないってわ けだな」 「宇宙の真理を悟っている可能性だってあるんだ」 「しかし、どうやれば、コンビ、ータがいまやっていることを検出 できる ~ 出力装置がぶつこわれちまってるんだぜ , 「・ほくの考えでは : : : 」と、シオダはちょっと小首をかしげた。 「もうすこし刺激を加えてみたらどうかと思うんだ」 「刺激 ? 」 「そうだ。いまでも、中心のコンビュータからの情報の流れは、存 在することはするんた。さっき調べたようにね。しかし、出力装置 のリングがちゃんとしていないため、空中に放散され、弱すぎてそ の意味はキャッチできない。だが、外部からの刺激に応じて惑星本 体からのエネルギー流が増大したとしたら、リングが動作していな いとも、われわれの艇の情報収集装置で検出できるかもしれない。 「なるほど、そいつは名案だ ! 」ヒノはとびあがった。「やろうじ ゃなしか、どういう具合に刺激を加えるんだ ~ カミカゼ式にやる のか ~ 」 「刺激というのは、つまり、情報の入力のことだよ。刺激的な情報 円盤からの閃光で盲になった守衛 〃空飛ぶ円盤″の搭乗者たちが本来る一連の窓あるいは穴状のものから 地球人類に対して敵意をもっている輝き出しているものであることが、 かどうか明らかでないが、少くも地わかった。 球人類側からの攻撃によって正当防 そこで彼が、その正体をつかもう 衛上からか、地球人類に危害を与えと、発電所のそばを離れた時、突然 たという例は、いくつも起っている。大きな爆発の音がし、それらの光点 昨一九七〇年の八月三 0 日の夜、プが一せいに消えた。 ラジルのリオ・デ・ジャネイロ州の 次に二、三秒後その光がバッとっ イタティアイアにあるファーナ・エ いた時、彼は、その物体が五〇メー レクトリック・センタ 1 の発電所、 トルから六〇メートルのところまで バラへム・ド・フニルで起った出来接近しているのに気がついた。そこ 事はちょうどそういう実例の一つとで、彼はなおもその物体のそばへ近 言うことが出来るだろう。 づこうとダムの所を這い進んで、遂 その日の午後九時四十五分ごろ、 にその物体から十五メートルの至近 同発電所の守衛であるアルミロ・マ距離まで来た。 ルティンス・デ・フレイタス ( 三十 初め彼がこのナゾの飛行物を発見 一歳 ) は、ダムのある崖のそばに立した第一印象は、こわいということ っている発電所の所定の場所で巡回と、逃げようということではあった 警備の任務を果していた。 が、何しろその物体はダムの上空ま で来ており「もしこのダムがこわさ ふとその時、夜空に、少くも十五 くらいはあろうと思われる、一列にれたら、川下の四つの町と、そこに 並んだ黄色と青色の光点をみとめ住んでいる何千人という住人が非常 た。それらの光点は、黄色から白、 な被害を蒙ることは明らかであった 白から青、青からまた黄、ついで橙から、いったいそのナゾの飛行物が 色、そして又黄、それから青・ : ・ : と何をしようとしているのか、よくよ いうぐあいにたえ間なく交互に明暗く見きわめようとして前進したので ある。 を繰り返す。ことにその青の美しさ に、フレイタスさんはうたれた。 しかし、ここまで来た彼は急にた さらに観察を続けるうちに、それまらなくなって、自分の拳銃を取り らの光は、単なる光の列ではなく、 出し、その物体をねらい一発ぶつば 夜空を飛ぶ楕円形の物体についていなした。すると、それらの光点がば
「ぼくの失敗だった。社には損害をかけたし、所有主が知ったらどの人工頭脳は、もちろん、われわれとは比較にならないほど高度な んなことになるか : : : 」 ものだったろう。われわれの知らない宇宙の真理に到達していただ 7 シオダはうなだれ、悲しそうな顔でいった。彼としては、入社以ろう。だから、なおさら、発狂しやすい状態だったんだ」 来はじめてといっていし 「なるほど : ・ しょげた顔だった。 。そこへ、おれたちが、でたらめな情報を与えた。 「心配するな。だれが来たって、あの星を利用する方法なんか見つ発狂を誘発したわけだったんだな」 けられなかったよ。会社の損害だってたいしたことはない。所有主「自分の知っていることを、これ以上、内に秘めていることは、と オい。なにしろおれたちを調てもがまんできなかったんだろう」 にも犯人がおれたちだとはわかりはしょ べたコンビ、ータが爆発しちまったんだからな。ま、ポーナスがち「気の毒に、その唯一の解決策が爆発だったとは ! よっと減るぐらいのところだよ」 情にもろいヒノは、涙ぐんでいた。 ヒノはニキビのあとに手をやりながら、シオダをなぐさめた。 シオダは、しだいに拡散しながらうすれてゆく放射能のガスを指 ふたりはそれからしばらく黙ったまま、スクリーンに拡大されたさして、しんみりといった。 ″コンビュータ惑星″の燃えがらを見つめた。 「あのエネルギーの中にコン。ヒュータ惑星″『マルチ・リング』 やがて、ヒノが視線をシオダの横顔のほうにむけて、きいた。 のすべての知識が、情報流となって放射されたにちがいない。しか 「失敗成功は別問題として、いったいどうして爆発しちまったんし、いまさらそれを集めるすべはないんだ」 だ ? 刺激がつよすぎたのか 2 ・」 ヒノはちょっとため息をつき、ふたたび、シオダをなぐさめるこ シオダはスクリーンを眺めたままで答えた。 とばを口にしこ。 「そのとおりだが、別のいいかたをしたほうが、わかりやすい。わ「いや、まったくむだに散ってしまったとはかぎらないぜ。あの、 れわれが、もし、暗黒時代に住んでいて、さまざまな知識をもち、すさまじいエネルギーが、やがて他の空間で新しい天体に再生する 大発見をしているのに、その発表を官憲に封じられたとしたら、どとき、そのエネルギーに運ばれているわずかな情報が、なにものか オしか。おれたちたって : : : もしかし ういう気持になるだろう ? すばらしい哲学、文学、絵画、方程を創りだすかもしれないじゃ 0 、 こら : : : その昔のこんな事件がきっかけで生まれてきた存在なのか 式、それから悪事の真犯人、事件の真相 : : : そういったものが頭のナ も知れないぜ : ・・ : 」 中にいつばい渦をまいているのに、外部に公表し、客観に投影し、 ヒノの話は途中で飛躍したが、シオダは小首をかしげ、きましめ 後世にのこるように記録することが許されなかったとしたら : : : 」 な顔でうなずいた。 「ううむ、おれだったら発狂するだろうなあ」 いようのない悔恨を虚空にのこしたまま、 「まさしく、それなんだ。あの″コンビ = ータ惑星石は、装置の故ふたりはそれから、 障のため、情報が入るばかりで、出すことを許されなかった。本体母星への帰路についた。
ヒ / はダンスでもするような調子で、そのア 1 ムたちに艇を近づは : : : 〉 け、すれすれにとびまわらせた。 〈 /P I P S ー 0 F I NA L VE R SON 0 0 1 Y け 、・賃、。いヾ ) \ 0 0 0 6 7 さ十 最初このア 1 ムに一撃をうけたのは、逃げだそうとしたためだっ 0 3 (A 、 / 7 、ー 4 、ヾー F/ 7 当 \ 7 。み乂 ( P A R T) 、 たーーーということはたしかにいえそうだった。こちらから機体を近 づけると、逆にむこうは逃げだすのである。このアームたちが、情 PPLIED MECHANICS) 当 02 (COMMUNIC AT I ON S YSTEM) 契 報収集用のアンテナだというシオダの推理も、まちがいなかった。 \ 7 。灯、ト当い = Y* に \ 2 0 7 「では、そろそろ刺激を加えてみよう」 眼前をふらふらするアームを眺めて、シ矛ダが無線送信機のスイ 1 ・ 0 2 ・ 0 7 い 5 0• 5 0 . 4 0 ⅱ斗 7 、 , 山 ッチを入れた。こちらの信号をアームが探知したことは、すぐにあ、当 0 1 . 0 1 . 0 1 〉 〈たいへんだ ! あなたを破壊しようとする反コンビ 1 タ教徒の きらかになった。あちこちをふらついていた数本のアームが、いっ せいに、艇の送信アンテナに近づき、そして静止してしまったの字宙船が近らいた。われわれが阻止する ! 〉 〈あなたと同じ″コン。ヒ、ータ惑星″は太陽系にもあるが、あなた だ。耳をかたむけているーーといった風情である。 ほどの天才ではない。教えをうけたがっている〉 シオダは無線送信機に、用意したデ】タをたくわえているメモリ 〈宇宙を記述する新しい方程式を発見した。正しいかどうか教えて ーを接続した。じきに、無数の情報が、無線送信機からアームへ、 はしい そしてロポット衛星へと流れこみはじめた。 別の計器によって、ロポット衛星から内側のリングへ、そしてそ こから惑星本体への情報流が急増したことが示された。 、・斗、 0 男。 9 X6X 90 日◎ 7 ー詹ミ〉 ″コンビュータ惑星″の入力装置は忠実にその役割をはたしている〈新しい素粒方が発見された・ 000 のだ。シオダはデータをつぎからつぎへとアームにそそぎこんだ。 たとえばそれは、つぎのようなものだった。 ^ あなたの存在に対〈あなたは神様だ。万能だ。大発見をしているにちがいない。みん な知りたがっている〉 して、この宇宙のすべての知的生命が敬意を表している〉 < あなたの偉大な頭脳の中にあるもろもろの真理を、すべての宇宙〈 : ・ 人が知りたがっている〉 入われわれは、ここからは観測不可能な宇宙の果てについての知識〈 : ・ をもっているが、情報処理能力がないので理解できないでいる。デ シ・オダはこういった真偽とりま・せたデータを送りこみながら、油 そのデータと 1 タをお渡しするから、わかりやすく教えてほしい。
うか ? われわれの数学は : : はたして、普遍的なものだろうか ? が、息たえだえにあざ笑っているような、なんともいえない、不気 ゲーデルの不確実性原理によれば : 味な笑い声だった。ーー彼は、きっとして室内を見まわした。 灰色の鬚の男は、突然凍りついたようにだまりこんた。 一座室内の中空で半分消えかかっていゑ一番若い、度のつよい眼鏡 の連中も、それぞれの姿勢のまま動かず、一番年をとった男から、をかけた男の顔が、妙な恰好に口をあけて笑っていた。いくつもの その姿は次第にうすれ、消えはじめた。議論は、いつもそこから先リングのはいった、・ ふあついガラスの奥で、灰色の眼が・ハセドー氏 は進まなくなるのだった。消失をとめるために、連中の姿を、ふた病のようにとび出して、きちがいじみた光をおびていた。半月型に たび励起しなければならなかった。ようやく鬚の男がそのまま、若あけた唇には、歯が一本も見えず、その暗い、洞窟のような口の奥 い男と肥った男が、半透明の形でのこった。 から、まるで床下からひびいてくるような、しわがれた、気味の悪 い声がもれてくるのだった。 「ちょっとたずねるが : : : 」と、彼はいった。「さっきちょっと、 気になる情報をつかんだんだ。 どこかで、妖怪が出たそうだ。 「アーチボルド ! 」と、灰色の鬚の男はさけんだ。「どうしたん なにも気づかなかったか ? 」 「知らない・ : ・」と鬚の男は首をふった。「古いものか ? スト 若い男の下半身はもうすっかり消えてしまっており、首から下 クにあるやっか ? 」 も、ほとんどうすれかけていった。どちらかといえば、青白 . い方だ 「それもわからない。 しかし、ストックにあったとしてもおかった顔面は赤らみ、それだけが赤つぼい光につつまれたように、空 しい。妖怪なんか出るはずがないだろう ? 」 中にただよっていた。ヒッ、 というような、痙攣しているよ 「じゃ、あたらしくうまれたのかね ? 」 うな毒々しい笑い声が、その首からたえ間なくもれつづけた。 ウォードという肥った男が、半分かすれた声できいた。 そして、次の瞬間、その首はささえがはずされたように、どすんと 「もしそんな事があるとすれば : : : 」といいかけて、彼はロをつぐ床におちて、ごろごろと部屋の隅にころがり、そこで一「三度、息 んだ。 づくようににぶく、赤く、光り、ふっと消え失せた。あとには、う そんな事があるとすれば : す青い、半透明の液体が、絨毯の上に小さなたまりをつくり、かす それは″危機だった。 かな笑い声だけが、まるで長い一本の髪の毛のように、執念く、部 どんな種類の危機かわからないが、 とにかく、何か、「よくない事」が起りつつあるような感じがし屋の中にただよいつづけた。 たたがいったい、どんな″危機石なのだろう ? どんな「よくな ウォードという、肥った男の姿は、凍りついたように青ざめ、そ い事」なのだろう 2 ・ れから消えていった。灰色の鬚の男だけが、汗の粒を顔中にうかべ 突然、部屋の中にうす気味わるい笑い声がひびき出した。 地て立っていた。 「いったいどうしたんだ の底をはうような、低い、いやらしい笑い声だった。歯のない老婆「アーチイ : ・」と鬚の男はつぶやいた。 しうね 田 2