その気になって聞いてみると、京子の言葉のはしはしには、まだ「そう。この字平吉。通り名よ」 色濃く江戸臭が漂っているようであった。そのことを言うと、京子「そうか。それでこ日記としてあったんだな」 「こ日記って : : : 」 はテー・フルごしにロに手をあてて囁きかけて来た。 「そうだ、きみに助けてもらおう。平吉は日記をつけてたんだよ」 「ふだん近所の子たちと喋っていたのは、今しゃあとても汚なくっ て聞けたもんじゃね工さ。丁度今の男言葉だもの。今の言葉は半分「まあ : : : 」 以上お武家言葉がへえってて、女言葉と来たら月とすつ。ほんさ。で「たぬぐい合せのあった日からだ」 「じゃあ十手をもらった次の日だわ」 もうちのあにさんはお武家言葉でちっちゃい時から暮していなすっ そんなことがあったらしい。日記をつけはじめた理由がはっきり たから立派なもんさね , アクセントもテンポもまるで外国語めいた昔の喋り方をして見した。 「平吉は幾つだったんだい」 せ、言い終ると恥ずかしそうに笑った。 「いま二十四 : : : かしら」 「なる程ね」 「馬鹿言うなよ、いまだなんて」 私は感じ入ってそう言った。 「あ、そうだわね。だと、天明八年十九歳」 「平吉の絵、くれる : 「若い岡ッ引きだな」 京子は真面目な表情に戻って言った。 「あげるよ、明日にでも。しかし、なぜあの絵をそう欲しがる。懐「岡ッ引き : : : ご用聞きよ」 どうやら岡ッ引きはもっと後年の称であるらしい かしいのかい」 「そう。だって、あの絵はあたしがこっちに来るお節供の晩、平吉「惚れてたんじやいかな、きみに」 「どうして : : : 」 がお祝いだってくれたんですもの」 「日記を見ると判る」 「平吉は岩瀬さんの使用人かい」 不思議なもので、私はいつの間にか京子、いや、およねの家を岩ふうん、というように京子は考え込み、 まそう言われて見ると、たしかにあたし気がつい 「知ってたわ。い 京伝を京伝さんと呼ぶようになってい 瀬さんとさんづけで言い、 : そう、日記に書いてるの」 てた。 としんみりした顔になった。 「そう。ずっとうちに奉公してたの。でも今じや一人前のご用聞き 「とても読みづらいし、俺には判らないことが多すぎる。きみに教 よ。銀座のこの字平吉って言えばみんな知ってるわ」 えてもらえば一遍にカタがつくと思うけど、どうだい」 京子の時制は幾分混乱していた。 「いいわ、あたしも見たいし」 「この字 : : : 」 6
いからわなをかけてみたらたちまち引っかかって尻尾を出したとい 「やめろ ! 竹次。文字春は、その女は」 うわけなのさ。ロロロロロの部品にはすぐ気がついたものねえ。あ 5 「その女がどうしたと - いうんだ」 れは聖天様の入れ物なんぞじゃない。そう言ってわたいがたのんだ 松蔵が口をつぐんで後退した。その動きについて竹次が進んだ。 だけ。にほほ岡っ引の松蔵がいつの間にか時間局員に変っていたん 「きさま ! 」 だねえ」 「竹次 ! じゃまをするな ! じゃまをするな ! 」 「くそっ ! てめえ、聞いたそ、みんなが言っていた。間男しやが「よく考えろ。いつまでも逃げきれるものではない。今ならまだロ ロロロロ法違反にしかならない」 「竹次 ! 文字春は重罪犯だ。ロロロを盗み出し、長い時間層の中「文字春 ! 松蔵にだまされちゃならねえそ ! 」 に姿をひそめていたが、ようやくわれわれの手で見つけだすことが「だまされるもんかね ! わたいを追 0 てきた時間局員はこれで九 人。ぜんぶ失敗だったよ。しかもみんな人が片づけてくれた」 できたのだ。ここでまた逃したら今までの : : : 」 松蔵は高熱に浮かされたようにあえいだ。竹次は松蔵の首にうで「わか「たか ! 松蔵。文字春とおれはあつあつなのよ ! 」 「だめだ ! 」 をからんで万力のように締め上げた。 「何を寝言を言「ていやがるんだ。松蔵。おれとおめえは子供の時松蔵はさいごの力をふりしぼ 0 て竹次の手をふりほどこうとし こ。しかし松蔵の力はそこまでで尽きた。急にぐったりと重くなっ からの友だちだ。おたげえ何でも話し合ったがそんな言葉使いをしナ た松蔵の体を畳に横たえた。 たことなんざ一度も無かったぜ。おめえは頭がどうかなっちまった んだよ ! だからこそおれの女を寝取ろうなんそとしやが「て。こ「文字春 ! もうす「かり火に囲まれちま 0 た。もうだめだ」 文字春は乱れた髪をかき上げて竹次のうでをとらえた。 「いいんだよ。竹さん , 松蔵は竹次のうでをかきむしった。 「文字春ー・きさま、おれたちがこの世界では人を殺したり傷つけ文字春はどこにかくし持 0 ていたのか、銀色の小さな金の箱をと たりすることを絶対に禁じられているのを知 0 ていて竹次をそそのり出した。ふたを開いて中にならんでいる幾つかの爪のひとつを音 をたてて動かした。 かしたな。文字春 ! 文字春 ! ロロロロロ ! 」 松蔵のさけぶ言葉は竹次には全く理解できなか 0 た。とくに終り「文字春。なんだ、そりや ? のひと声はどうやら文字春を呼んでいるものらしいが、それはとう文字春は全く聞きとり難い妙な言葉を発した。どうやらそれがそ の金箱の名前らしい。そう言えばさっき松蔵もそのような言葉を口 てい口の中で真似することもできないような発音だった。 にしていたようだった。そこで竹次は何もわからなくなった。 「一年ぐらい前から岡っ引の松蔵がわたいのまわりをしきりに回っ ているからもしやと思っていた。でも、どうもはっきりとわからな かね
はないのである。 あれほどの欲情、あれほどの執着が、いつの間にやら冷め果てて、 、ようはない。 思えば哀れとしかいし ただもう、腹立たしさ、うとましさ、アホらしい疲労感ばかりが、 雨のなか鉛色にけぶる海を見るように、さむざむとはるかに続いて 人間、えらそうな顔し、もっともらしい口ききあっていても、そ いたのだ : の実態は、地面を這いまわる昆虫同士ほどにも明快な動機はなく、 ・ - 話せばわかるとは、何 それはまた、情事の常だということはやさしい。ひょいと惚れあまして互いの意志は通じあっていないのた。再 った二人が、エネルギー燃やしつくして、お互いの存在が鼻につきともおこがましい思いあがりで、その程度の浅い意識、鈍重な感覚 だしたにすぎないと、したり顔する術も、もちろん仲は知ってい 器、手さぐり肓目の認識力で、何がわかるはずがあるものか。わか た。だが、なぜそれが世の常なのか、なぜ鼻につかなければならな っているような恰好になっているのは、要するに日常生活に事欠か いのか、どうしてエネルギーこうも簡単に燃えっきるのか、それをないように手を抜き誤魔化す才能を、同時に人間が賦与されている 考えると、ふと寒けが、全身を包んでくる。 からで、いうなればすべての人間は、耳もきかす目も見えずロもき なぜだ。なぜなのだ。なぜこうも終りが身近かにあるのだ。それけない三重苦を背負って、ただあっちへうろうろ、こっちへうろう を、心は知っていながら、なぜ隠してばかりいるのだ ~ 人の心のろと歩きまわっているにすぎないのである。 メカニズムの複雑さ奇怪さが、知ったかぶりして済まされるもので 混線し、別世界から別世界へと、道踏み迷わないという保証は何 はないということが、冬の夜更の寒さのように、払いのけても押しひとつないのだ。いや、意識下の暗闇に無数の部屋があるように、 とどめても、じわじわ周囲から胸を、背を、頭を冒してくるのだ。 無数の世界のあるかもしれないことを認める勇気ありはしないので そうなのだ : : : あの暗くよどみ、あらゆるものを潜在させる心のある。 濁った深みにくらべて、日常のーー意識の世界の浅智恵の愚かしさそうなのだ。 加減は、ああ、もう、どうしようもない。実際、ほんとうに実在すじつは、それも、ちゃんと昔から知っていたのだ。それを、認め るのは、その無意識の心にほかならず、そこから形づくられる言葉るのがおっくうさに、知りません、わかりませんとだだをこねてい や、愛してます、愛してませんという意識や、あんたなんか何さとたのである。 いう悪態などーーじつは些末きわまったりの泡沫のようなものにす「ばかばかしい」 ぎないのだ。憎しみも愛着もすべてはその混濁の無意識のなかにもふと「声に出していって、手に持った五杯めのオン・ザ・ロック をがぶりとひとロ飲んだとたんに、仲はそれが、このごろ直子のよ ともと存在しているので、それがいつどういう形で出て来ようと、 あるいはまた、いつどういうきっかけで引込もうと、またどんなふく使う言葉なのに気がついた。あのどうしようもない、けだるそう うに混線し辻褄あわなくなろうと、それは、浅墓な意識の世界でしな口調はーー・そうだ。彼女も彼女なりに、この二人の心の不毛さを か考えることをせず、言葉でしかものいえない人間に、わかる道理知ったからこその口調だったのだ。 0 8
もしそうだとしても、なぜそんな・ : : ・」 〇五内部のパターンにすぎない彼は、今、自らをうみ出した 六〇〇五を外部からながめていた。六〇〇五の内部にあって、それ「方使 . だよ、六〇〇五 : : : というよりは、いわば、″ォメ 2 ヴィムークティ を見ている「イメージ」を形成しているのではなく、彼は、実際ガ。から″ブッダ。へ、私自身の解脱を達成して行くために、と ″ゴータマ″の言葉は、 らなければならなかった処置だった。 に六〇 0 五の外にいる自分を感じていた。 教えさとすようにやさしかった。ーー考えてごらん : : : 私は、地球 かえってきたのだね・ : カルマ 「ゴータマ」の言葉がひびいた。「オメガ」であった時は、まだ母四十億年の生命史、とりわけ数万年の人類史からうけついだ、業に 性的な調子をのとしていたその言葉は、今はま 0 たく性別を脱却ししばられていた。人類の諸煩悩の中で、とりわけつよく、はげし 、人類の実体が喪失したのちまで、私をしばり、苦しめたのは、 た、中性的なひびきをもっていた。 あの「好奇心」だった。宇宙のはてのはてまで知りたがり、知り得 「ええ , : : こ彼は、宇宙空間を見わたしていった。「なっかしい 。六〇〇五の深部に、こんなにはっきり、ぬ事を苦しみ、なお「理」一を詮索をつづけてやまない好奇心だ。私 ですね、ゴータマ : あなたのパターンがしまいこまれていたとは知りませんでしたよ」は苦しみながら時期の熟すのを待った。「理」をもって「理」を解 カルマ 私脱するすじ道が形成されて行くのを待ちつづけた。「理」の業が煮 それはちがうよ。六〇〇五・ : ・ : とゴータマはいった。 つめられるのを待ち、それを宇宙のはてまで、知性の種子のごとく はどこへも行かない。お前もどこへも行かない。私ははじめからこ プレインスダー ちらばって行く「脳星」のイメージとパターンに凝集し、それを こにいた。一お前の見ている宇宙は、私の中にあるのだ , : 「ええ、それはわかります・ : : ・」と彼はつぶやいた。「六〇私の中で、一つ、また一つと、宇宙の彼方へむかってときはなって ヴィムータティ ーーーあなたから″株わ いく、というイメージをうかべる事によって、私は解脱を達成し 〇五の内部に、あなたのパターンがあり、 カルマ け″してもらったから当然ですねーーそのあなたのパターンの中たのだ。だから、六〇〇五、お前は、放たれた私の業なのだ : カルマ そして、ごらん。解脱を達成すれば、もうここには、業など実 このパターンが」 お前は、在しないのだ : ・ : ゴータマはやさしくいっこ。 そうではないのだ : : こ彼は弱々しくつぶやいた。「私は、業 また私の中に形成されてしまった。しかし、もうじきお前はまた涅「しかし、ゴータマ : プレインスター 槃の中に消減する。だから教えてあげよう。脳星などというもの底に、なおすくわれぬ怨恨、おそろしい邪悪なもの、あやまった パターンのむすぼれや、行きづまりがうみ出す、 - ありとあらゆる醜 のは、はじめから実在しないのだ。″ォメガ″から、″ゴータマ・ ・フッダ。になり、この湟槃をつくり上げる。フロセスで、私がうみ悪のものがあらわれるのを見ました。私の分身は、すでに知性体の 消減した星系にさえ、かって実在したものの、はたされぬ怨恨や得 出さねばならなかったイメージであり、パターンにすぎなかった : 体の知れぬ呪いの″場が残存している事を感じました」 カルマ、 : とゴータマはいった。ーーー業 「なんですって ? 」彼はおどろいて叫んだ。「でも、そんな馬鹿業は、業の中でしか存在しない カルマ カルマ カルマ
「いいよ。暇を見て行こう。それより今はどうして二百年もとびこ 「なによ、ふっ切れない顔をしちゃって。あたしがこっちへ来たの えちまったか、だ」 は、つまり穴ぼこをくぐったからよ」 「いまなんじ」 「穴・ほこ : 「そう。町屋敷って言うのは倉がついてるの。ついてないのもある 私は京子を見つめたまま腕時計を見せた。 「あなただから言うけど、ほんとに便利なものね。森羅亭さんにひけど、ちゃんとしたのはみんなついてるのよ。銀座の町屋敷はちゃ んとしてたから倉があって、穴ぐらまであったの」 とっ買って行ってあげたいわ」 「森羅亭万象かー 「地下室だな」 「そうよ。あのおじさんとっても新らしもん好きなの 「ええ。でも湿気が強くて長いこと使わないであったんだけど、あ 「そうか、森羅亭は平賀源内の弟子だったな」 たしはちっちゃいときからよく穴ぐらで遊んだわ。それで田沼さま 「喜ぶだろうなア」 のことがあった年に、その穴ぐらの隅の石がひとっ転がったら、今 京子はさも惜しそうに私の時計を見つめた。 まで知らなかった横穴が見つかったのよ。しばらくしたら、その横 「で、どうして二百年 : : : 」 穴の向う側が別な世だって判ったの」 「時間が足りないわ。の仕事が十二時すぎに終るから、そし「田沼様のことというと、田沼意次か : : : 」 おきとも まさこと たらゆっくり話してあける。どうせ打明けるならあたしたってじっ 「違うわ。若いほう。意知。ご新番の佐野政言という人が斬っちゃ くりお物語り申しあげたいもの」 ったの。 「それもそうだ。しかしあら筋だけでもー 「世直し大明神だな」 「そう」 すると京子は悪戯つぼく笑って、 しのばずの 「ふふ : : : あなたもりそうみたい」 「天明四年か。するときみが不忍池でたぬぐひ合せをした年じゃな と一 = ロった。 い力」 「なんだそれ」 「あら、そんなことまで : : : 」 「こっちへ来る当座はやってたざれ言葉よ。ああ : : : 久しぶりに使京子は眼を丸くしていた。 っちゃった」 「その地下室の横穴が、この昭和につながっていたというのかい」 「もりそう : : : そうか、小便の我慢のことだな」 京子は声をひそめ、そうなのよ : : : と幾分世話がかった言い方を きゃん 京子は楽しそうに笑った。お侠な銀座娘たちの間で、そんな言い 方が流行していたのだろう。友達も肉親も、言葉まで失っている京「に、ついてはいろいろとあったの。話してると長くなっちゃうか 2 子を、私は憐れだと思った。 ら、あとでゆっくりにしましようよ」 ごと
ごう、と風が枯葉を吹きしく 彼は立って外をうかがった。 またふみかけた髑髏の一つは、ばっかりと黒くあいた眠窩から、 すすきの茎がはえ、そのすすきも枯れて、風にかさかさとゆらいでむこうに、幽鬼のごとき、死者の如き、また妖異のごときものの影 2 がいくつも動いて行く。 「そしてあなたも : ・ : ・」彼は扉のとれた仏壇を見つめながらいっ 江月照而松風吹・ : 野をびようびようとわたる風の音の底から、かすかな声がきこえた。「あやかしというわけか ? 」 「いえ、私は・ : : ・」 てきた。 みだれた黒髪を といって、女はこちらへむけて顔をあげた。 永夜清宵何所為・ : 髑髏のつぶやきかと思うと、そうではなか「た。 , ー・、草むらの中両肩〈ふりわけたその中に、顔がなか「た。顔にあたる所が、別の の石の上に、破れた墨染の衣が、着る人もないのに、座禅を組んだ空間にむか 0 てぼ「かりあいており、そのむこうに、黝んだような 形ですわ 0 ており、そのひるがえる襤褸の一条が、風にあた 0 てそ空と、わずかに雲を頂いた蛾々たる山嶺と、そこにむか 0 てのびて いる一条の白い道が見えた。 の言葉を発しているのだった。 「こう、おいでなされませ : ・ : ・」女の声は、その顔の形にきりとら 黒々とそびえたっ山の麓に、灯をとばさぬくずれかかった藁屋が 戸障子も所々はずれ、無住かと思うと、粗衣をまと 0 れた空間のむこう側からきこえた。「お導きせよ、と命じられてお あった。 ります」 た、年ごろもわからぬ女が、深々と頭を垂れて彼をむかえた。 「どうやら 「おいでなされませ = ・ = ・」と、女はかすかな声でい「た。「お待ち「もど 0 てこい ! 」彼の叫びが、かすかにきこえた。 原因は : 中しておりました : : : 」 だが、彼は、何かにびきずられるように、女の顔の中にはいっ 上ると、畳もない板敷に、破れたうすべりがひいてある。明りも なく、囲炉裏に火をくべるでもない。外のうす明りに、かろうじてて行「た。 白い道は、山嶺にむかって一直線にのびていた。一木一草もな ものの形の弁別できる暗がりに、女は彼から顔をそむけるよう く、ごっごっした赤黒い岩肌に、ギラギラした太陽がかがやいてい に、片隅にひそと坐っている。 た。わずかに地平あたりに、もやのようなものがかかるだけで、雲 風が枯野をゆすり、森をゆすりながら吹きぬけて行く。 一つない空は、紫紺にちかい黝んだ色で頂上をおおっていた。 「このあたりの人は、ことごとく死にたえました : : : 」と、女はっ あれはたしかヒマラヤだ : : : と彼は山稜の形から、かすかな記億 ぶやくようにいう。「ために時々、外をあやかしが通ります」 どうッ と、屋根の棟をゆするような、はげしい野分が吹きぬをよびおこして思った。 隆起しつづけるヒマラヤは、今では最高峰が九千五百メートルを けた。その風に吹きちらされながら、何ものかの声が吟じて行く。 越し、その頂きは、雪ではなく、霜におおわれて、キラリとかがや ーー諸行無常・ :
で、電話はどのくらい ? ( イ、「今月の名言コーナー、です。今日は、アメリカ第三十二狂っちゃって。 「コソビューター室の推計では、二百七十回線ほどだそうです。そ 代大統領ルーズヴ土ルトの言葉を、ご紹介しましよう。今月の十二 のうち一一一分の一は、半信半疑、三分の一は、冗談もいい加減にし 、、 : ルーズヴ土ルトの命日です。 「私たちは、人間の四つの基本的自山にもとづく世界をまちのそ ~ ろ、という抗議だ 0 たらしい。 z 大の社会心理学研究室で、これか : どうもオースン・ウエルズの らデータを処理するわけですが : 、 む。第一は、世界の至るところでの言論・表現の自由だ。第一一は、 世界の至るところで、各人が彼自身のやり方て神を崇拝する自山『宇宙戦争』みたいなぐあいにはいかなか 0 たですな」 しゃべりの中に字宙人云々を入れたのが、まずかったんじゃない だ。第三は、欠乏からの自由だ。これを国際的関係に翻訳すれ・は、 世界の至るところで、各国民にその住民の健康で平和な生活を確保ですか。あれじゃ、始めから非現実的すぎて、迫力に欠けるもの。 してやる経済的了解を意味する。第四は、恐怖からの自由だ。これ「あれは z 大の方からの要望でしたからね。事実ではない事柄を聴 ( いかなる国民もその隣人に対する物理取者がどの程度まで受け入れるか、というテストの意味もあって・ : を国際的関係に翻訳すれ・よ、 墨侵略をおかしえないような程度と徹底さとをもって、世界的軍縮 : ・」 をおこなうことであるーーー世界の至るところで」 要するに、台本をもっと固めておけばよかったんですね。八百長 1 だよ。電話も打ち合わせ不足でうまくいかなカった さあ、いよいよラスト・ナン・ハ しい言葉ですねえ。 「日本の放送システムでは、アナウンサ 1 が一人で勝手なことをし クロノス・ノアヴィルの「宇宙への長い道』しゴー一・オンー ゃべろうとしても、赴いぜい一分間だ、といいますね。プラ ( の地 下放送のようなわけにばいかない」 ( : : : ャッラハ行ッチマッタ : ・ : ・ナゼナノ力、見当ガッカナイ : : ・トニカク、ヤッラ ( 行そういうことですね、。でば、 = ンディングといきますか。あ、そ ャッラノ思考ハ、ボクラ - 一ハ理角イ - 能ダ、第・ の前にクイズの答を。ーーー社長さんは、こう叫んだのです。「あっ、 ••rn デー作戦モトリャメ ッチマッタ、 : : 、抵抗組織ハモウ要ラナイ : 今日は曜日がないのかー どうもどうも 調整室からディレクターの山野さんが出てきたよ。 山野さん、見てごらんなさい。窓の外に見えていた邪魔「けな円《シークレット・ジ = ' キー》、本日の担当は、ミスター・で した。・は、もちろん = イプリル・フールの頭文字。 盤が、どっかへ消えちまいましたよ。 この番組、な球管理船団当局の検閲畍を受けて、放送致しま 「 : ・・ : もうお芝居は終りですよ、ミスター・どうやらこの企 一凵は失敗でしたね ではまた明日。・ハイスイ : やつばりねえ、・ほくも途中で調子が あ、もういいんですか。
いわれています。尿を検査すればすぐわかるわ。尿を酸性にして、 ハラードはきわめて健康的なんだ」 塩化第一一鉄溶液を滴下すると深緑色反応があるはずよ。・ハラードに 「さしあたっては、追跡をつづけるおつもりね , とマルグリットは 2 はないわ。⑥の結節性脳硬化症でも、一見して診断がつくわね。っささやいた。 まり、顔面に皮脂線腫という光沢のある黄色ないし赤色の小豆大の 「ええ、新しい検査用具がとどき次第 : : : 。というのは、もはやビ 発疹が、でるの : : : 」 ネーシモン法は使えませんからね。生まれたての赤ん坊の知能を 「これで、全部、除外されましたね」とわたしはいった。「とすれ検査するようなものですから」 ば、さしあた 0 て・ ( ラード型精神薄弱、名づけて・ ( ラートイズムと説明するまでもないが、ビネー。シモン法は一九〇五年、フラン でも命名する他はないですね」 スの心理学者ビネーと医師シモンによって考案されて以来、一世紀 「ええ」とマルグリットはつぶやいた。「その通りよ。クレッチマちかくにわたって定型化され、改訂されてきた知能テストだった。 ーの細長的顔貌。夏身的体駆。ある意味では犯罪型 : : : 。で、お願日本の場合には、日本的に改良された鈴木日ビネー・田中Ⅱビネー いした知能検査の結果はどうだったの、小林」 法が広く親しまれていた。またアメリカではスタンフォード改訂法 「あなたの検査をチ = ックしましたが、方法については完璧でしたが有名である。だがいまいったように、白痴である場合には、言葉 よ。一般的にいって痴愚、愚鈍の段階ではきわめて有効な知能検査の点で検査そのものが不可能になってしまう。それゆえ、わたしは も、知能年齢三歳以下、—a にして以下の対象に対して行なう場思案していたのだ。乳幼児を対象とする言葉を用いないテスト法も 合には、むずかしいのです。・ほくが懸念したのは、その点です。あった。ビ = ーラー 日へツツアー法がそれだ。これはケーラーが類 が、検討の結果、あなたのデータは十分信頼できるものと確認しま人猿について行なった方法を利用してつくられた一歳から六歳児ま した」といってわたしはひと息ついた。「で : : : 」 でに適用できる検査法だった。改訂され、信頼もおけた。わたしが 「で、どうしたの 註文しておいたのは、最も新しい新ビューラー 日へツツアー改訂法 「その一週間の間に、・、 / ラードの知能指数はをきりましたよ。アたった 、刀し、て メリカ式の分類でも以下が白痴ですから、もはや完全な白痴ですやや間をおいて、マルグリット・、、 「予測は・ : ・ : 」 ね。しかも彼の知能はさらに低下するでしよう」 「原因はわかって」 「さあ」とわたしはこたえた。「でも、知能の低下曲線は、漸近的 に 0 にちかづいていますね。ゼロへ・ 、え」とわたしはこたえた。「まだです。内因性疾患による知 能の停止ということはあっても、低下という現象はありえないこと「そのゼロ点が、一種の臨界地点だと思うわ」 です。むろん、疾病等による意識状態の混濁から知能が一時的に低「どういう意味です」とわたしは反問した。 下することはありえます。が、・ハ ラードの場合はちがいます。でし「わからないわ。直観ね。何かがおこると思うの。このパラード
第 2 洋・一崧当 ぬのだ。 分ではそれと認めようとはしない。そうこうするう そしてまたそれを統合するものとして、マイケルちに、エルミザドを助けにきたアルャヴの手に落 ・ムーアコック自身がいる。先程の名前を見てもらち、エルミザドと交換されることになる。それをな おう。ヒロイック・ファンタジーからニュー・ウェじるイオリンダに対し、自分の愛情の証をたてるた 1 ヴ、ネビュラ賞を取った中編 Behold the Man めに、エレコーゼは、エルドレンを一人残らず全減 「その男を見よ」の主人公、キリストになってしまさせることを誓ってしまうのた。 うカール・グロガウア 1 の名前さえある。何の脈絡それからのエレコーゼは、もはや感情を失った殺 もないかに見えるこの名前、及び彼らが登場する作人機械のように、ひたすら戦い、エルドレンたちを 品群も、大きな時間環における人間像、エ。ヒックと殺していく。そしてついにエルドレンたちの最後の ~ して見るとき、一つの体系がそこに浮き出してく砦を残すのみになった。ここまでだいたい六分の る。それが最初に引用したムーアコックの言葉なの五、これから物語は思いもよらぬ方向に進み、これ 「火星の戦士』の原書 までになかったような結末を向かえるのだが、申し 一どうもわき道にそれすぎた。駆け足で The Ete- わけない、枚数が尽きてしまった。訳が出るとい ていることがわかるだろう。そしてそれを裏付ける rnal Champion に戻ろう。 う話もあるので、このあとはあなたが自分で読んで 証拠として、火星シリーズの冒頭に付けられているエルドレン ( 彼らは人間とそっくりだが、遙かにほしい。一言だけいっておけば、文字どおりのアン ・フラッドベリの略歴が重要になってくる。 美しい ) との最初の海戦で大勝利を納めたエレコーチ・ヒーロー・テ 1 マだ。読み終った途端、ちょっ 「一九二四年生まれ、古代サンスクリット文学に興ゼたちは、エルドレンたちの町の一つを占領する。と唖然としてしまう。 味を持ち極東で数年を過した。一九五五年にイギリそこには女・子供しかいないにもかかわらず、憎し最後にからム 1 アコックの言葉を、「おれ スに舞い戻り、遺産を相続したおかげで生活の心配みに燃えた人間たちは、敵の支配者、皇者アルカヴは自分の小説をとして出版されたくない。その がなくなったので、小説を書きながら世界旅行を続の妹エルミザド一人を残して、女たちを皆殺しにし大きな理由は、毎月出されるのための小さな新 け = 」」 = 0 現実 0 、 , 一 0 ' , と何 0 関係もな」」しまう。 = 」「 , 、人類 0 残酷さ、卑劣さ = 」聞「、 0 中書評されくな」らだ。何しろ、 い略歴も、それが一つの小説の主人公に対するもの一やけがさしてくるのだが、それでも人類のために戦その書評家ときたら、ほとんどの場合、大馬鹿者な だとすれば何の問題もないだろう。そしてそうすれわなければならない。捕虜となったエルミザドと話のだからな」 ば、マイケル・ケーンシリーズは劇中劇、小説中小すうちに、自分が人類よりもエルドレンたちに精神よし、それならこの次もマイケル・ムーアコック 説ということになるたろう。小説自体通俗的かもし構造が似通っていることに気付きはじめる。 の書評をやってやろう。何しろ・ほくも大馬鹿者なの れぬ。何しろプラッドベリという架空の通俗作家が このあたりからしだいにエレコ 1 ゼの心は人類かだから。 書いた筈のものなのだから、通俗的でなければならら、そしてイオリンダからもれていくのだが、自 ャ
一基三 4 の 外国のファンがうらやましくなるなどというワールズはつぶれてしまったらしい ) 、すごい才能の意見からすれば、そういった形式のほうが、より ことは、そんなにないのだけれど、マイケル・ムーと。ハイタリティの持ち主だ。しかも、彼の書くもの強く想像力によっているだけに、わずかではあるけ アコックに六時間もかけてインタヴュ 1 をやった奴といったら、エルリック・シリ 1 ズに代表されるヒれど東縛されていない。それゆえ読者たちは自由た がいるなんてことを聞くと、ちょっぴり憎らしくな一口ィック・ファンタジーものから、ニュ ・ワール : : : 何故なら、サイエンス・フィクションの代りに る。なにしろ、こちらとしては、ム , ーアコックに国ズの編集方針そのままのいわゆるニュー・ウェーヴ魔法を得ることになるのだから」 ( のインタ 際 (-nv-v シンポジウムをすっぽかされたのだから、そまで、おそろしく幅が広いときてるのだから、いっビューより ) う思うのも当然だろう。 たいどうなっているのか、ぼくならずとも不思議に The Eternal Champion の荒筋を読んでもらお で、そのムーアコック・インタビュ 1 の掲載されなってくるだろう。 たファンジン「サイエンス・フィクション・レヴュでインタヴューした男もそうらしくて、主人公は二十世紀に住むジョン・デーカー。この ー」 ( 略して号が伊藤典夫氏のところに「読者はずいぶんと様々なマイケル・ム 1 アコック平凡な男が、救世主としていっとも知れぬ時代に呼 あると知って、これは森編集長のものだからと伊藤に出会ってしまい、どれが本当のあなたなのか、わび寄せられ、エルドレンと呼ばれる人類の敵と戦う 氏がいうのもかまわず、ひったくるようにして借りけがわからなくなってしまうのですが ? 」なんて尋というのが一応の筋だてだ。物語はある冬の夜、主 てきて読んでみたのだが、これが期待に違わず面白ねている。さあ、ムーアコックの返答が見ものだそ人公が夢の中で自分を呼んでいる奇妙な声に悩まさ と思って読みすすんでみると、「そうだな、もちろれるところからはじまる。 今月はこののインタヴューとム 1 アコックん、おれはその全部が同じマイケル・ムーアコック「エレコーゼ、エレコーゼ」と呼びかけるその声は の新作ヒロイック・ファンジー The EteraI Cha—だと思うね」 夜毎続く。エレコーゼなどという名前は一度として mpion ( 「永遠の闘士」とでもしておこうか ) を紹あたりまえだ、などとがっかりしてはいけない、 聞いたこともない筈だが、妙に耳慣れて聞こえる。 介してよう。 この言葉がまさにムーアコックの本質を突いている ( そしてある夜のこと、その声を聞き分けようと、一 心に精神を集中していったジョン・テーカーは、自 このマイケル・ム 1 上ノコックという人、一九四〇らしいのだ。 年生まれというから、今年三十一になったばかり。 この言葉をそのまま小説にしてしまったのが The 分が肉体から分離していくのを感じた。そしてジョ 十五のときから小説を売りはじめ ( その雑誌がター Eternal Champion と見ることができる。そしてン・デーカーは実体を失い、時間と空間を飛翔して ザン・アドベンチャーという少年誌というのがうれこの作品はただ単にムーアコック自身の問題という しい ) 、今や英文壇のホー。フといっても、 しいほどなだけではなく、新しい波を浴びたがどう変ってやがて到達したところは、たしかに地球なのた んだそうだ。それだけじゃない、編集者としてもいくのか、形こそ異なるが、その一つの成功した指が、二十世紀の地球ではなかった。その間にも謎の 声は彼に呼びかけてくる。 ・ワールズ」を引き受けて、あっというま針としても読むことができるだろう。 チャンピオン に誌面を改革してニュー ・ウェーヴのメッカにして「自分の書いた作品の大部分はサイエンス・フィク「闘士エレコーゼよ、何処にいるのた ? 」 ションじゃない。純粋な冒険ファンタジーだ。おれ「おとうさま : : : あれは単なる伝説なのよ」 しまうし ( もっとも、最近の情報によれば、ニュ 1 「ニュ 0 0 0 0 ヒーロ 0 一何か起ったか