生命 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年3月号
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1. SFマガジン 1971年3月号

み二千低の太陽たぢの多くが、その生成過程で、こうした生 こマーソン隕石そ分も分 命構成物質を、太陽系の場合と同じように生産したと考えて は、木星と火星の中間にある、 も、すこしもおかしくないからだ。 いわゆる小惑星帯に属する隕石 とすれば この厖大な宇宙空間のそこ、ここには、大自 で、四五億年前に発生したもの 然が生産したアミノ酸その他の莫大もない蓄積があって、チ と推定されているーーーこれは、 石 ャンスに恵まれれば、いつでも生命の誕生にむかって進化を 地球はもちろん太陽そのものも とはじめる準備をしていることになるのだ。そして、そうした まだガス状物質の塊りの段階か ら凝固して間もなくの頃であ 。二チャンスを持ったあちこちの太陽系で、さまざまの宇宙生命 り、もしこの頃からアミノ酸が マが発生し、生物が、そしてわれわれと同じような高等生命で 、っそうの現実性をも すらが進化しているであろうことが、し 隕石に附着していたとすると、 ンって想像されるのである ! 従来の生命起源説は完全に新ら ナ的といって、これほどみごとに的な状況が、また しく考えなおされなければなら とあったろうか ? なくなる。 その的な状況を、新しい生物学の分野の一つである 従来の定説ーーこれとてここ 「地球外生物学ー・ー・宇宙生物学」がつくったということは、 一、三十年のものだがー・ー また興味ぶかい。現在この学問は、アメリカが研究の中心に ると地球上の生命の起源は、地にー " なっているが、ヨーロッパでも、日本でも、その傾向はした 球生成ののち、つまり今から三 いに拡がってきているという。生命の起源を問う科学が、多角的な拡がりを 〇億年あまり前、地球表面の地殻がかたまり、内部から水蒸気が噴出して、 原始大気ができた頃、窒素、炭酸ガス、メタン、アンモニア、硫化水素、燐求めているうちに、宇宙生命の存在にまで発展してきたのである。 ツ・トヒートぶ . り . は、 ( それにしても、こうした新しい、画期的な理論のデ 酸などに紫外線や放電が刺激を与え、複雑な化学反応をくりかえした結果生 ったく驚くべきものがある。ついこのあいだは、生物の遺伝をつかさどる物 じたアミノ酸その他の有機成分から生まれた蛋白質である、と説明されてい 質が、だけでなくでもあり得ることを証明する革命的な実験が る。だが、もしポナンベルマ博士たちの提出した〈証拠〉が正しいとすれば、 アミノ酸はそうしたプロセスのはるか以前に、すでに太陽系の混沌とした物行なわれて、分子生物学の定理がくつがえされるかもしれないという「事件」 が伝えられたばかりである。科学はいまや、日に日に、あらゆる分野におい 質塊のなかに混在していたことになるのだ。 そこでもしこの推測が当っていれば、宇宙における生命の可能性は、従来て、従来の世界像の修正を求めつつある。地球外生物学という一見と見 まがうようなこの新しい科学の分野で今日またこうした「事実」が起ったの よりもいっそう : : : いや飛躍的に増大するだろう。太陽系の生成。フロセス が、宇宙で最もありきたりなパターンであることを思えば、銀河系を構成すだ。明日はどんな「事実」が発見されるだろうか ? 、、 SC I 0 目、 JOÜR 岩ト . 5

2. SFマガジン 1971年3月号

た三人の化学者が、この隕石中から、メタン系の炭化水素化合物を発見し 読者ならば、まず例外なく地球外の生命の可能性を認める立場に立っ て、これを、宇宙のどこかに、生命の存在する証拠かもしれないとして発表 だろうが、それをノン読者に認めさせようとすると、これまた例外な く、ひどく難渋した経験を持っているはずである。なぜなら、彼 ( または彼し、非常なセンセ 1 ションをまきおこした。つまり、生命伝播説を裏づける 女 ) が生命発生のメカニズムを、いかに詳細刻明に説明し、それゆえ宇宙の手がかりかもしれないというのである。 これに対し生物学や生化学界は否定的で、その炭化水素は、オルゲイユ隕 他の天体に生命が存在するはずだと力説したところで、それは飽くまでも確 石が大気圏に突入して以後に附着したものにちがいない、と主張し、証拠と 率論的な推論の域を出ずーー・・したがって説得力に欠けるからである。 ーリン博士らは、隕石が宇宙空間を飛 しては認めなかった。またソ連のオパ ところが最近、そうした読者に強力な武器を与えるトビックが伝えら れた。宇宙に生命の可能性を裏づける有力な証拠が、去年オーストラリアに 行中に太陽放射線にたたかれて偶然発生するという可能性もありうるとし というセンセ—ショナルな発表を 落下した隕石によってもたらされた て、生命伝播説をしりそけた。 だがもちろん、今度のポナンベルマ博士らの研究は、これらの事実を踏ま アメリカ航空宇宙局の科学者が行なったのである。 えた慎重なもので、彼自身発表に際して「アミノ酸はビーカーに指紋をつけ のエ 1 ムズ研究センタ 1 の地球外生物学研究局化学進化研究部長 彼よ去年水を入れてかきまわしただけでも検出できる」といって、分析中に地球上の でセイロン出身のシリル・ポナン。ヘルマ博士がその当の人物だが、 , し アミノ酸が混入するおそれが十分にあることを認め、にもかかわらずこれが 九月二十八日オーストラリアのヴィクトリア州マーチソン附近に落ちた隕石 をガス・クロマトグラフィ 1 をはじめとする種々の慎重な化学分析にかけた地球外のものでありうる理由として、つぎのような幾つかの分析結果を示し 結果、その表面から、他の有機分子とともに、十六種類のアミノ酸と多くの 一、発見された十六種のアミノ酸のうち五種類は、地球上の生体細胞内で 炭化水素を発見した。 アミノ酸は、いうまでもなく地球上のあらゆる生体細胞のもとである蛋白発見される二十種類のアミノ酸と同型だが、他の十一種類は地球上の生体内 では機能を果さないものだった。 質の構成物質であり、また炭化水素は、通常生体のなかで発生する物質であ 二、地球上のアミ酸は、すべて左旋回性ーー・・結品体にしたとき、光をあて る。こうした生命の母体となる物質が宇宙空間から飛来した隕石で発見され ると、かすかに左に光を旋回させる性質ーーだが、この隕石中から発見され たということはーーーっまり、宇宙空間にも、生命が存在するかもしれないと たアミノ酸は、左旋回性のものと右旋回性のものとが、ちょうど半々に混っ いう証拠になるわけだ・ : ていた。 隕石にアミノ酸や炭化水素が発見されたのは今度がはじめてではない。な 三、炭化水素を分析した結果、地球上のものよりも、炭素片の含有量がは かには、原始的有機物の化石そっくりのものや、生きたパクテリアが発見さ るかに多かった。 れたと伝えられた場合もある。たとえば読者ならば、すぐに、オルゲイ こうした理由からポナンベルマ博士は、この隕石中のアミノ酸と炭化水素 ュ隕石を思いだすだろう。 とが地球起源のものではないと推測したのだ。これは、かってのケースとく ォルゲイユ隕石は、一八六四年五月にフランス、ツールーズ近郊のオルゲ らべて、はるかに信憑性のある発表とみていいだろう。 イユ村に落下した二〇個あまりの隕石だが、一九六一年、これを研究してい 4

3. SFマガジン 1971年3月号

、、ニいみを こ、 AABnEiE 淵既 3H 開 生命の圧力 ートリイ・ビレンキン 訳 = 町田実画 = 岩淵慶造 火星の荒野に不時着し 絶体絶命の窮地にたったとき ー一生命の神秘な摂理が 彼にもたらしたものとは ? ・ - , 年第 1 第ツす ぐっ !. ノムよ・一

4. SFマガジン 1971年3月号

もしも時間が消えてしまったら : : : なんと実につき当るのだ。それは、一九六〇年代 プロローグ 死以降、ものすごい大発見や、まったく新し もおかしなことになるそ ! こいつは、一 ということで い概念の創造があまりない、 んでも死にきれないじゃあないか。 一九七〇年代ーーーこれが、きみやぼくの もともと、・ほくは人間の修理屋だ。当世ある。もちろん、個々の専門領域について 生きている現代だ。 いえば、急速に発展している分野もある 風に表現すれば、医者とかドクターといっ 人々は忙しく行きかい、情報は氾濫し、 たところ。だから生命を、いつもそばに寄が、えてしてスケールが小さいのだ。そこ でぼくは考えた。たまには別の見方をして なんとも騒がしい。だが、この″今″はおって眺めている。それでもたりぬときは、 かしな時代である。ヴァイタリテ ィーに満顕徴鏡をのそきこんで、もっと近づこうとみるのも、大切なのじゃあないのかな : ちているようでありながら、生きていると努力するわけだ。その結果、生命を讃美し いう実感にとぼしいのだ。生きものの意味て、人間中心主義。ハンザイである。それもそこで遠くから眺めてみると、宇宙にお ける生物界、わけても人間という存在は、 を考えるなんて、馬鹿げたような気もして決してわるくはないが、まやかしのヒュー くる。 マニズムは鼻につくし、こうした作業ばかひどく不自然で不埓なものに思われだし た。だってそうじゃよ、 オしか、たいていのも りつづけていると、近視的になってしまう しかし一方では、小さな戦争や公害のニ のが「秩序から無秩序」の方向へ動いてい ュースはあとを断たず、きみだって、いっかもしれない。 そんなにひねくれてとらなくても、医学る。エントロ。ヒーの増大する方向ーー・熱カ 昇天しないともかぎらない。そのくらいは ・生物学の歴史を調べていると、残念な事学の第二法則どおりだ。それなのに生物 まだいいが、もし宇宙人がやって来たら、 、、第、新声 ( : をゞに相 ) 時入、 渡辺、 ~ 、普 8

5. SFマガジン 1971年3月号

金星とデートも・ 火星旅行も・・ 頭脳移植も・ スペース・レストランも・ CREDIT CARD 1 ~ 3 - 5 ト 1-8901 実に 75 万メいちばんたくさんのお店で使え、いちばんたくさんのひとカ吏って ' ばたいていのことはできるのですから。現在 JCB 加盟店は 6 万 5 千店。会員 といってもこれは夢のお話ではありません。いまでさえ JCB カードが一枚あれ JCB カードでて OK ! ! ? 永久生命維持薬い レンタ・ロケットも・・ タイム・マシンも・ 月の別荘も・ ~ そトイチ 0 ク いるカードです。現金にかわる JCB カード、 SF ファンこそ持っていただきたいものです。 みなさまのお役に立っ 三和行

6. SFマガジン 1971年3月号

うだった。 にしてくれる。数百万年昔、恐竜の筋肉を流れていた化学反応のメ トウーキンが・ハ・トソを引き継いで、 ' 熱心にしゃべりだした。 カニズムを推測で描きだすことも出来るだろう尸われわれは、進化 「この粘土から、どうやってぼくらが有機物を抽出したかというこ の樹の枝の発展の力学をどれでも説明できるようになる。その上、 その説明は分子のレベルで、即ち最も高い精度のレベルで行なわれとは、きみも知ってるね ? きみ自身が、始めの頃はそれで苦労し るようになるということだ。なにしろ、将来は、ただ酵素だけでなていたんだから。でも途中で、個人的なことで抜けてしまったが、 く、ポルフィリンもスクレオン酸も化石蛋白も、その他多くの物をそれは非常に重要な用件だったからだと信じている。そこで、きみ われわれは自由に管理できるようになる。そうなれば、なぜ、どのが抜けた後に、ある物質から発酵性のある化合物が分離できたん ような方法で、どんな生理的減成の結果、動物が死減したのか、どだ。それに、きみも知っているマヤ族に敬意を表して、酵素と呼 んな種についても明らかに出来るようになる。われわれは、自然のぶことにした。たしかに、それとマヤ族とは何の関係もないけれど ケミズム 過失を知り、その過失の化学作用を見抜くようになる。進化の樹はね。 均等に成長してきたわけではない。枝によっては枯れてしまったもその構造を調べたあと、その酵素を動物で実験してみて非常に面 のがあるのはなぜか ? 大昔の巨大なトカゲ達の生存競争で、どの白いことが分った。この酵素は、奇妙な風に第一と第二次信号系の ような化学的メカニズムが役に立たなかったのだろうか ~ どの分相互作用に影響をあたえた。丁度、動物の頭を切り取ったみたい 子がへまをやり、逆に、どれがよくやったのだろうか ? スクレオで、最初ぼくらはそれを麻酔剤だと思った。その後、脳半球の外皮 が、一番『生命力がある』のだろの活動を鈍らせる物質を作るために、この酵素が手掛のになること ン酸に記憶されているどのコード うか ~ これはどれも大きな問題だ ! 将来、分子生化学の専門用が明らかになった。動物の生命は、基本的には、自律神経系統によ 語で書き表わされる進化の樹は、現代の生物学の教科書のページのって保障されている。いうまでもなく、様々な種類の動物で、その 上で枝を伸ばしている、今日われわれが知っている樹とは全然違っ断絶過程は様子が違っているが、結局、最後の結果は、きわめてよ たものに見えることだろう。その樹から、有機界全体の発展につい く似ている。動物は『思考』をやめてしまい、ほとんど、何にも記 憶しておらず、原始的な生命形態に変ってしまう。つまり、脳の信 ての、豊かで、実際的な結論が引き出されるに違いない・ ストップ 「待った、それまで。お説ごもっとも、感動しました。降参しまし号と応答反応は酵素によって作り出される化合物によって遮断さ たよーー私はさけんだーーでも、そのたいそうな演説は、きみ達のれてしまうわけだ。酵素の作用は、その時、異常な周期的従属関係 未来の可能性にしか触れてないじゃないか。今までに、やれたことに支配されており、したがって、動物は夢遊状態で意識的に集中さ コントロール は何なのだ ? 」 れる最後の命令にしたがって行動する。それは、すでに制御が失 「かれに話してやってくれ」ジーマがいった。かれは、突然展開しわれているのに、惰性で動いているようなものである。確かに、新 た、世界認識の壮大な可能性を弁じて、息が切れてしまって苦しそしい反応が、対象に依って可能であることも分っている。だから、 6

7. SFマガジン 1971年3月号

スーパーマンとの結婚を夢みる ロイス・レーン ( 下図 ) 。フトナイトは、ときとして、地球の近くを浮遊し、地表に ーマンの コミックスの世界 ページよりつづく ) 達することもある。だから、悪人たちは、スーパ 唯一の弱点である、クリプトナイトを手にいれて、この超 は、おとなしくて小心な新聞記者クラーク・ケントだが、人を、ほうむり去ろうとするのだ。 そうしつ ーマンは、故郷喪失者であ クリ。フトンなき現在、スー。ハ いざというときには、ご存知のコスチュームをまとって、 ーマンとなり、世の悪と対決して大活躍・ーーという り、宇宙の孤児となってしまった。しかも、彼は残存する のが、これまでの、いきさつである。 ただひとりの、男性 ジェリイ・シーゲルとジョ ・シャスターのふたりの合のクリ。フトニアンで 0 イ 作により、スーパ ーマンというマンガの歴史上、最初のスあり、したがって、 ・ヒーローが誕生したのが、一九三八年六月号のコ彼が結婚して子孫を アゞ ミック・・フック「アクション・コミックス」の誌上であっ作らなければ、クリ た。それ以来、三十三年の歳月がすぎている。 。フトン民族の血統 は、断たれてしまう ーマン ( 本名のだ。 男ざかりの三十三歳だというのに、スー ~ / にメ 0 カル・ = ~ ) は、まだ独身だ。そして、彼が、まだ女を知「ただひとりの男性嫋 . らない童貞であることも、まず、疑問の余地がない。 の : : : 」といったの粛 これは、深刻な事態ですよー には、理由がある。 なにしろ、生まれ故郷の惑星クリプトンは、彼の脱出直実は、もうひとり、 後に大爆発をおこし、四散してしまった。その破片は、危クリプトニアンが残 険な宇宙物質クリプトナイトとして、暗黒の宇宙をさま存している。スーパ よっている。なぜ危険かというと、クリプトナイトの放射ーガールだ ! あとえ 0 能は、地球の人間に対しては、まったく何の作用も及・ほさからわかったことな なしが、クリプトン人に対しては、恐ろしい影響を、及・ほのだが、彼女は、カ ル・エルの姪にあた すからだ。クリ。フトナイトには、さまざまな種類がある り ( だから、スーパ : 、なかでも、グリーン・クリプトナイトは最も危険で、 この放射能を浴びると、クリ。フトニアンであるスーパ ーマンは、彼女のお . 8 ンは、生命の危険にさらされる。また、ゴールド・クリ。フじさんになる ) 、ク トナイトは、生命はうばわないけれども、あらゆる超能力リプトンからのもう ひとりの生存者とし を、永久にうばいとってしまう作用をもつ。これらのクリ

8. SFマガジン 1971年3月号

19 7 1 年 3 月号目次 ストルガッキー兄弟 アライドの白い柱 ハフノフ 『オー ! 』にご注意を ドニエプロフ 予言者 ビレンキン 生命の圧力 エムツェフ & パルノフ 酵素 深見〉蹕ⅱ 手塚虫。 --J ・スプレイグ・一イ・キャンプ 命令 アルジス、、、ハドリス ナゾゴ礁にて 長期連載異能作家 zo ・ 1 のニューアイーリンク最新作ー 解説・現代ソ連の 巻頭特集Ⅱ現代ソ連最新傑作選 第六回 脱走と追跡のサンバ 脱出への鍵は「時問流の乱れ」の秘密をとけばい 筒井康隆 ーそれを知ったおれは天文台へ : 11 129

9. SFマガジン 1971年3月号

たことがある。レンズの下は、しばしば戦場を想わせるものがあっている。だが、・絶対に故障がなければ、死傷も全くないはずであっ た。毒物や紫外線の放射で殺された。 ( クテリアの屍が累々と横た た。しかし、絶対的な楯などという代物が、過去にも存在したこと わる様。ここと同じように、微塵も物の動く気配はなかったが、 はないし、そういうものはあり得るはずがない それは欺瞞であり、錯覚である。幾百万、幾十億の中のひとつの セヴェールギンは自分に残された最後の数時間で何を考えること ・ハクテリアが無傷で生き残っていることも稀れではないし、新しい が出来るか、急に思いついて、そのことを考えた。無意識に、本能 ミュ 突然変異の種の出発になったこともある。すべてのものから区別さ的にかれは慰めを探した。、それでかれは気持ちが落着いた。まる れる、その未知なるものは、事態を克服し、、、 し力なる手がかりもなで、そうすればもっと気が軽くなるとでもいうように。 いようなところで、生存するための新しい環境を獲得していった。 かれの周囲は無限の静寂が支配していた。月は互いに接近し、二 常にそうであった。水の中で誕生した地上の生命は、陸を支配下っの眼のように、天空からかれを見つめていた。この静寂の世界に におき、空気中に出て、地層深く潜っていった。 あっては、どんな微かな動きでも聖なるものを冒濱するように思え いく億年先、地上に人類もあるいはいなくなった頃、生命の圧力た。セヴェールギンは足を速めた。 が、新しい人類の芽であるものを、宇宙へ送り出し他の惑星へかれ だが、今となってはもはやそれすらできなかった。呼吸困難が始 らを連ばないと誰にいいきれるか ? 海の住民にとって陸地は破減まったら、。ヒストルを抜き取り、引き金を引くこともできないに違 の荒野である。事態によって起る波は怒濤の如く押し寄せ、幾兆の いない。生きている者にとっても、かれが死ぬことはどうでもよい 減び去るものの中で、ごくごくわずかなものだけが、新しい環境に ことにはならない。かりに、かれの心臓に孔があいたまま発見され 適合し、生き残る。 たら、友人達にひどいショックをあたえることになるだろう。臆病 いや、そうではない : : ただ人にはいまはの その存在が正当化されるチャンスはたたひとつである。なぜなら者の見本だろうか ? ば、日常的な規準からすれば、落下傘部隊員は一般の人より早く死きわまで闘う義務がある。人間の意志の強さは、個人の意志の強さ ぬよう運命づけられている。鳥の群が大吹雪に遭遇した時、死はたしだいである。ただ、それだけのことである。 だめくらめつぼうに犠牲者を選ぶわけではない。幾百万年の進化の今、かれは歩きながら、友人達のこと、かれがかって愛した人達 過程でつくり上げられた規準は、過去にあった幾千回もの大吹雪がのこと、やり遂げたこと、遂げられなかったことなどに思いをめぐ その規準の琢磨に加わったからこそ、大吹雪に逆らい生きのびるこらしていた。こうなる以前には、非常に大切なことのように思って とが出来るのである。だが規準にあわないものは惨めである。 いたことは、ほとんど今ではどうでもよいことになっていた。 かれ、セヴ = ールギンも規準外の人間であった。だから、かれが人に死が迫っている時、なにもかもがその人間の心の支えになる 山をではなく、山がかれをうちまかしてしまった。他の世界へ行くものではない。人間は他人のためにした善行によって生きているも 場技術は、人間が死傷するのをほとんど避けられるようになっ のである。友情、感謝、そして愛たけが人生の総決算をする時に、

10. SFマガジン 1971年3月号

7 残照が男の背後の、つい数日前まで雑踏でにぎわった街並を照し微塵の暖かさも持たない冷い仮面の美 出していた。 潮風はいっか冷い北風に変り冷気を運んで来た。けれども男は断彼は考える 崖に腰を下したまま、動こうとはしなかった。全身で平和に浸りな ″未完成だ″と がら、眠っているようだった。 彼は演出を続ける 星が満天に輝きはじめ、月は青白い光を海に、男に投げかけた。 ある時は衝突する二つの銀河を 突然、男の背後遠くで建物の崩れ落ちる音がした。続いて今はその ある時は生まれいずる新しい命を 目的を全く失った甲高いサイレンの音が、波の音を打消してあたり彼はまた演出を変えてみる . ぐしュノ 超新星を 断崖の先端に腰を下していた男の身体が、前方に傾き、崖を離れ暗黒星雲を て海に向って落ちていった。 彼は何度も何度もくりかえしまたやり直す 青白い月の光が一瞬、落ちていく男の顔を捉えた。すでに息絶え より美しい究極の美を求めて ている男の顔は強度のケロイド状態で、半ば崩れかかっていた。だ彼の主役は星々そして生命 がその表情には、真の平和に浸りきった満足感が溢れていた。 彼はしかし満足することはない やがてサイレンの音も止み、また波の音だけが、あたりを支配し また配役を変える 生と死と 月の光が、海と男を失った断崖と、そしてその背後の廃墟を、こ いつの日か″と彼は考える うこうと照しだしていた。 ″地球を″ 冷気を運ぶ北風が吹き抜け、満天の星が一斉にまたたいた。 宇宙は漆黒の墨の流れ 星は燦然と輝く金剛砂 漆黒の墨の流れにも似た果しない宇宙 その中にまるで金剛砂のように輝く星々の群 それは美 自然という演出者の描く底知れぬ美 宇は美 に 4