答え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年3月号
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1. SFマガジン 1971年3月号

間の筈です。ご一緒に観測室へ行きましよう。ところで、外はもう「そうですな」アルバイト学生は天球儀から顔をはなし、南の地平 暗くなっていましたか」 線を眺めながらゆっくりと答えた。「町が山麓へ攻め寄せてきたか 「ええ。星が出ていました」 らでしよう。あのネオンの明りが、アルゴを早く沈没させてしまう 「そりやいかん。早く行きましよう」台長は立ちあがり、おれをうのです」 / 力 / 「おい。君」と、台長は第一助手に呼びかけた。「コーヒーをふた つ、持ってきてくれ」 「時計を、お持ちじゃないのですか」観測室へ昇る小さなエレベー ターの中で、おれは台長に説ねた。 第一助手は箒を床に叩きつけ、不貞腐れた様子で何ごとかぶつぶ 「時計ですと」台長は一瞬眼を剥き、はげしくかぶりを振った。 っ呟きながら、エレベーターで階下へ降りていった。 「あんな、いまわしいものは、絶対に持たないことにしています。 「さあ。こちらへどうぞ」台長は天球儀の傍の向きあった椅子のひ 「なん この天文台には、時計はひとつもありません。もしあなたが時計をとつにおれを掛けさせ、自分も腰をおろしておれを眺めた。 お持ちでも、それをわたくしの眼の前にさらけ出すような、いまわのお話でしたかな」 しい振舞いはなさらないでください。原則的には、この天文台へは「時間のことです。では、この天文台には、時刻を決める機械もな 時計を持ちこむことを禁じておりますので」 いのですか」 それでは星の観測ができないでしようといおうとした時、エレベ 「子午儀のことですか。もちろん、ありません」と、台長は答え ーターが停止し、ドアが開いた。台長とおれは広い観測室に出た。 た。平然たる態度をとりつくろうため、けんめいになっていた。 観測室は天井がガラスのドームでできており、すでに周囲は黒地「じゃあ、時刻をどうやって決めているかを、自分の眼で確かめる の錦を思わせる星空だった。巨大な天体望遠鏡が観測台と観測中のことはあきらめましよう」しかたなく、おれはいった。「しかし、 人間の重さにさからって南に傾いていた。三人の男が、あるいは観あなたは天文学者だ。天文学者である以上、どうやって時間をでつ 測台で望遠鏡をのそきこみ、あるいは部屋の中央の巨大な天球儀にちあげているか、それをどこでやっているか、そのくらいはご存知 何かを書きこみ、あるいは床の掃除をしていた。以前来た時と、同でしような。常識的な知識を求めているのです。まさか、それも知 じ顔ぶれだった。床の掃除をしているのが台長の第一助手、望遠鏡らないとはおっしやらないでしようね , をのぞきこんでいるのが第二助手、天球儀に何かを書きこんでいる「この国の中央標準時なら、 、川、の周波数でコールサ のは正式の職員ではなく、アル・ハイトの学生である。 インが昼夜放送されていますよ」 台長はアル・ハイト学生の傍へ行って話しかけた。「アルゴ探検隊「それは、どこからですか」 がもう見えないな。年ごとに、だんだん早く見えなくなっていくよ「郵政省からです」 「郵政省はその時刻をどこで知るのですか」 うな気がしないかね」

2. SFマガジン 1971年3月号

ノートをばらばらめくってみたりしていた。 再びぼく達は仕事にかかった。こんどは、なんとか無理やり思い 出しては、単語や文章をゆっくりと書いていたが、妙なことは、そ「どうだ、なにか発見できたかね ? なんかいいニースでもあり そうじゃないか ? おい、きみ達、どうしてそんなにぼくを見詰め れが頭の中ででっち上げた絵空事だということが分っていながら、 ぼくには変に重みのある、充分根拠があることのように思え始めてているんだ ! 」 いたことだ。 いわれた通り、たしかに、・ほくとクチェレン、コは、初対面の人で クチ = レンコも昨日よりスビードが落ちているような様子だつも見るようにかれを見詰めていた。すると突然クチェレンコが、ど た。かれは、時々、ノ ] トを置くと、目を閉じて、しばらくそうし うしたわけか、かれらしくもなく興奮して尋ねた。 ていた : 「ほく達にニュースを持っておいでになったんでしょ ? 違います ? ワシーリイ・ステパーノヴィチ」 はっきり言って、仕事は捗っていなかった。頭の中に鉛が入ってか いるみたいで、時たま、うんざりするような考えが浮び、重苦しい 「そうだが : : : 」答えがあった。「もう誰かきみ達におしゃべりを 空白が占めていた。 したらしいな ! 」 「ええ、そうなんです」 「終ったよ」・ほくがいった。「ビールと肴を取ってくれ」 しかし、誰一人として、そんな情報を流した者がいなかったこと ・ほくがビールをやっている間に、クチェレンコは、・ほくのリュッ クサックから大きな天色の紙袋を二枚取り出すと、それに・ほくのとを、私が一番よく知っている : 自分のノ 1 トを入れて、紙袋のロをセロテー。フで封をすると、ひと実は、これが事の始まりであった。 つをぼくに渡してよこした。 ・ほくは見ていなかったが、かの女が入ってきたのも、ささやくよ 「・ほくのやつをきみが持って、きみのをぼくが持っていることにしうな小さな声で挨拶したのも、そして、ステパ 1 ノヴィチ氏が、い よう。開封するのは九月十二日の夕方にしよう」 やに声を強めて「ナジェージダ・イワーノヴナ、この優秀な連中 妙だった。ワシ 1 リイ・ステ。 ( ーノヴィチが実験室へ入って来たと、これからは一緒にやってもらうことになってる。あそこがきみ 時、ぼくはどうしたわけか身震いがした。いつもは無頓着で、だらの机だ」というのも、あらかじめ先に感じで分っていた。 しのないクチ = レンコも緊張して、なにか警戒しているみたいな様かの女の机は、どうやらぼくの隣りらしかったが、ばくは自分の ノートに没頭していて、かの女と視線が合うのが躇躊われた。 子だっこ。 パと呼んだことなど、仲間内「きみたちに、素直にいっておきたい」科学的研究上の上司である 「やあ、息子達 ! 」かれのことを、 「これは、・ほくの姪にあ かれの声は、非常に紋切型になっていた。 でさえ一度もないのに、これが・ほく達に対するかれの挨拶であっ たる。したがって、ここへかの女を採るについては、所長を説得す かれは一人一人ぼく達のところを回り、器具をのそいたり、作業るのにいささかてこずった。というわけで、諸君もナジ = 1 ジダ・ こ 0

3. SFマガジン 1971年3月号

はないよ。これはでたらめというんだ ! ええ、わかるかね君ー ほう。満点をとったのか。良く勉強したんだな。よし、それじゃ 次の日曜日に、どこかに連れて行ってやろう。どこがいし力な ? 角の山田さんで、カレーライス三つだそうです。青木さんはラー メン大盛。いや、川野さんは五目チャーハン二つですよ。 逃げていた。みんな逃げていた。助かる可能性などありはしない ええ、では友人を代表いたしまして、一言御挨拶させていただきのに逃げていた。 ます。新郎の松本君とは中学時代からの親友であります。 女が逃げていた。男も逃げていた。 老人が逃げていた。青年も逃げていた。 どうですか ? このまま別れるのも何ですから、お茶でも飲んで路地という路地を、 ( イウ = イという ( イウ = イを、道という道 行きませんか ? 遅くなったら僕が送って行きますから。 を逃げていた。金持ちが逃げていた。貧乏人も逃げていた。 先生が逃げていた。生徒も逃げていた。 ねえ、奥さま。田中さんの御主人。不動産会社の重役やってらっ時間は目前に迫 0 ているので、必死になって逃げていた。 しやるんですって。、 しえ、そこまでは存じませんのよ。どちだか。 妻が逃げていた。夫も逃げていた。 親が逃けていた。子供も逃げていた。 あっ、それロンだな ! ええと、リーチ三色ドラ三・ハイハンとハ こわくて、こわくて、ただひたすらに逃げていた。 ネ満だな。わるいねえ、東の一局でいきなり一万二千点なんて。 政治家が逃げていた。国民も逃げていた。 皇族が逃げていた。平民も逃けていた。 マー坊ったらさああ。まじめな顔してカー・セックスしようって何がなんでも、生き残ろうと死にもの狂いで逃げていた いうのよう。あたい吹き出しちゃったあ。冗談じゃあじゃないわ。 共産主義者が逃げていた。資本主義者も逃げていた。 反戦論者が逃げていた。好戦論者も逃けていた。 お呼びだしを中しあげます。練馬区からお越しの牧野さま、牧野他人はどうでも、自分だけは助かろうと夢中になって逃げてい さま。至急、一階フロントまでおいで下さい 犯人が逃げていた。警官も逃げていた。 もう少し発見が早ければ良かったんですが。ガンですね。間違い ありません。手術をしても、半年から一年というところでしよう。 十人寄りますてえと、気は十色なんてことをいいましてな。中に はずい分、いろんな気性の方がおりますようでな。 こ 0

4. SFマガジン 1971年3月号

る筈がありません。当然です。『航時機計画』が始ま 0 た頃ですかかし彼女は吐き捨てる様に、私ではなく、他の誰に向 0 てでもな く、言いました。 いや、航時機を見 ら。そして昨日も一日中、ここに来て、彼を : ておられたでしよう。航時機に興味がおありなのですか。いや、悪「私 : : : アキに捨てられたのです」 私は露骨に興味を示さない様に、かなり注意していました。 い事じゃあないです。変じゃないですよ。世の中には色んな人がい る。昔のべンケイとかが好きだという人もいれば、自動車なら「というと、あなたは彼の、いやアキという人の」 フォルクスワーゲンぞなけりやとか、それを一日中見ていてもと「すみません。下卑た言い方をしてしまって。でも他に言い様があ りませんわ」 力しいろんな人がいる : : : 」 私は、文法的にも意味も支離減裂な事を、ロ走った様です。しか今度の答えは、私に向ってのものでした。私は話題を変えようか し、彼女は微笑んでいました。それは、今迄私が屡々受けてきた嘲と思 0 たのですが、急に変えるのも白じらしいような気がしました し、折よくコーヒ 1 も沸き始めていました。 笑とは全然別のものでした。 「ああ丁度コーヒーが入ったようですから。どうそ冷めないうちに 「よく、憶えていらっしゃいますのね」 : お飲みになるでしようね」 彼女は、それだけの言葉を、ゆっくりとつぶやくように言いまし 私は『お飲みになりませんか』では断られると思ったのです。 小さく頷くと、もう一度彼・・ーーアキー・ーの顔を見やる どことなく彼女の笑みの中に翳があるのを私は見逃しませんでし彼女は、 た。私は調子に乗って彼女をお茶に誘ったのです。航時機の斜め前と、ゆっくり椅子に腰をおろしました。 「さあ、遠慮なさらないで」 には私専用の中食用テーブルがあるのです。 「立ちつばなしでは足も疲れます。お茶でも如何でしようか。いや彼女は私をじっと見つめ、次の瞬間、面喰う程の激しさで、堰を インスタントコーヒ 1 ですけれども」 切ったように話し始めていました。 私が、そそくさとポットで湯を沸かし始め、カツ。フを並べたてた「アキは : : : アキは、私の事を忘れてしまったのです。アキは私に 会う時は、何時も微笑んでいました。あんな虚ろな眼差しじゃなか 時、彼女は歌う様に一人言を言ったのです。 「私、航時機なんかを観にきているんしゃありません。航時機なん 0 た。アキは航時機に : : : 未来に憧れて、私を忘れたのです。私 も、あなたの事を忘れてしまいたい : それは今迄溜っていた何かを一せいに発散させたのだということ 顔をあげると、航時機の彼の虚ろな視線が目に入って来ました。 「あなたは彼のお友達なのでしようか。彼には家族はないと聞いてが、私にも解りました。 彼女は、わっとテー・フルの上に泣き伏したのです。 いた@.ですが : : : 」 その質問は、実にいやらしい回諄さに満ちていたと思います。し彼女の差し伸ばした細い指の間から何か白い小さな輝く玉が転げ に 9

5. SFマガジン 1971年3月号

は、ひどいことにはこれが逆になり、退屈していた方が時間が短 さいわいなことに、。、おれはこの世界の天文台を一軒だけ知ってい た。以前取材に行ったことのある『大部分天文台』である。町からく、いろんなことのあった時間の方が長く思えるんだ」 四十五キロほど離れた統制山の頂きにあるから、タクシーに乗って「そんなどえらい、大変なことが、人間の時間知覚に過ぎないとい 行かなければならない。 うのか」おれは興奮して、身をのり出し、前部シートの凭れに両手 おれはビルを出た。あの、みどり色の尾行者は、いないようだっ左巖いた。「尾行者は、あんたか。そしてす・ヘての時間の乱れを人 た。念を入れて確かめたから、それでもあの病弱者的な尾行者がお間の時間知覚の問題にすり変えて、おれを納得させようとたくらん れの気づかぬところで張りこんでいるということは、まず、ない筈でいるのか」 だった。タクシーを拾い、走り出してから振り返っても、町の通り「尾行者だなんて、とんでもない。おれは時間に尾行されているだ のどこにも、おれを尾行しているらしい人間の姿はなかった。 けの哀れな軍艦だ。下駄ばきの社会人だ」彼は平然としてそう答え 「統制山の『大部分天文台』まで行ってくれ。と、おれは運転手にた。本心から言っているようだった。 いった。「時間流の乱れの原因を探りに行くんだ。ところで、この車は町を出て、山道を登りはじめた。あたりが次第に暗くなり、 世界でもやつばり、時間というのは力学の法則を基礎にして目盛を空には星が四つほど、またたきはじめていた。 決めているんだろうな」そうでなければなんにもならないことを、 「ほうら見ろ。もう夜になりはじめた」と、おれは叫んだ。「さっ おれは思い出したのだ。 き朝だった筈たぞ。こんな馬鹿げたことも、あんたは時間知覚のせ いにするのか」 「そうだよ」と、中年の運転手が答えた。「おれの腕時計には、た しかそう書いてあった筈た。運転中だから見せてあげられないのが「そうだよ」と、運転手は答えた。「タクシーに乗っていると誰で 残念だがね。つまり、例の古典物理学のニュ 1 トンの運動の法則でも、心理的現在の幅が大きくなるんだ。だから時間が短く感じられ もって決めているんだ。しかし、おれが思うには、時間の目盛の決るんだ。ふつう人間が、現在として感しる時間は五秒から六秒どま めかたには、どうも受動的なところがあるね。むろん原則的には、 りだ。それが人間にとっての一瞬間だ。ところがタクシーに乗る 相当の任意性を持たされているとはいうものの、こちらから働きかと、料金メーターがカチャといってあがってから、またカチャとい つまり人間の時間知覚を、 ってあがるまでの間が心理的現在になってしまう。息をつめている けて決めるべきところがひとつもない。 目盛の上に働かせることができない。そうだろう。だからこそ、退からだろうな。これはやつばり六秒以上あるわけで、たいへん長 屈していたり、人を待っていたり、興奮剤をのんでいたりしている 、。その長い時間を一瞬間として感じているから、時間が短くなる 間はやけに時間が長く感じられ、仕事に没頭していたり、鎮静剤をんだ」 のんでいたり、苦手な計算をしたりしている間はやけに時間が短く「おれは説得されないぞ」おれは叫んだ。 感じられるんだ。しかもこれを過去の回想として振り返った時に「叫ぶことはないよ。説得する気もない。ところで、もう天文台ま 2

6. SFマガジン 1971年3月号

ろうとしなかったのか、どうも見当がっきませんね」 「海中にあるあのものを引きあげようというのです」教授が答え 「あなたは、そのものが地球外のものだと思っているのですか ? 」た。「そして、あれがやってきたところへ連れ帰ろうとね」 ダン・ヘンリーは悪態をつきはじめた。 ダン・ヘンリーは教授を見つめた。「そうは思いませんか ? 」 「もしそうなら、わたしはすぐにも方面隊司令部へ直行するでしょ天空にあるほうのそのものが滑るように降下してくる。大気が震 ハリケーンが荒れ狂っていようと、いまいとね」教授はつつけえるのを、彼らは感じることができた。しばらくすると、その音が んどんにいっこ。 彼らにきこえてきた・ーー遠くで、ごろごろ転がるような音、そし て、甲高い金属的な悲鳴。海中にあるそのものが身をもちあげた。 「そうは思わないんですか ? 」ダン・ヘンリーは重ねてきいた。 岩場に抵抗してのたうっている。 教授はいらいらをつのらせた。「思いませんね」 「そう思いたくないんでしよう ? 「われわれは、引き返したほうがいいです」教授がいった。 遠くからの物音は次第に強くなり、彼らの鼓膜を打った。教授と 教授は、ちらと沖合のほうを見やった。 「それ」警官がいって、ダン・ヘンリーに平べったい茶色の半パイ警官は、車のほうへとしりそいていく。 ントびんを差し出した。「鎮静剤だ」片目をつぶって見せる。 しかし、ダン・ヘンリーは動かなかった。背をしゃんと伸ばし、 ダン・ヘンリーは、警官の手からそのびんを叩き落した。コンク筋肉を収縮させた。黄金色の火が降り注いできたとき、彼は、ガー ドレールを飛び越えて海へ突っこんでいた。 リートの路面にあたって砕け散った。 「ごらんなさい ! 」教授がささやくようにいった。ふたりが頭を上波に叩きつけられ吸いこまれ、翻弄されつつも不屈の闘志を燃や に傾ける。なにか巨大な平べったい、多くの翼をつけたものが星々して彼は泳いだ。息を吐き出し、足をばたっかせた。たとえそれで にくつついたようにシルエットとなって・ほんやり見えた。 も、彼は、そのものに到達してはいなかっただろう。しかしそのあ たりの海面は、そのものをがっちり掴まえているエネルギーに影響 「おどろいたな」警察官がいった。 と、そのとき、海中にあるそのものからいきなり鐘を打ち鳴らすされて、丸味をおびてふくれあがっていた。波はくずれていた。ダ 音が湧き起こり、すみれ色の光波カ / ; 。、ツバッと海水を突き抜けて立ン・ヘンリーの双腕は死に物狂いに、だが的確に水を切った。そし て、そのものが海面から浮きあがろうとした直前、彼はその上にい ち昇ったと見るや、天空にあるそのものの下面へ突きあたった。 「だめだよ」突っ張ラの一本を片手で握りしめながら、彼は文 それに応えて、黄金色の光が矢のように降り注いできた。海中に あるものが身動きした。岩々の揺れるのを、彼らは見ることができ句をいった。「わたしのおいてけぼりはいけないね。われわれは、 た。「牽引光線だ」教授がかすれ声でいった。「理論的に不可能なずいぶんとおっき合いしてきたんじゃないか」彼らが宙に浮かんで ことです」 いる船に会合すべく舞いあがったとき、ダン・ヘンリーは、その船 「あいつはなにをはじめようというんです ! 」警官がきいた。 にむかってニャリと徴笑って見せた。 トラクター・レイ こ 0 232

7. SFマガジン 1971年3月号

それはアキの足元から十センチ程上に、宙に浮んでいました。そし 詫びしなければ。本当に : てそれは、かすかですけど確実に落下しつづけていたのです。 お詫びしなければ 「ねえ、おじいちゃん。シンジュでしよう」 お詫びしなければ 女の子はまだ自分の主張を続けていました。 お詫びしなければ いや最初からアキは美亜 「彼は美亜の事が解ったんだ。だから : ・ お詫びしなければ を愛し続けていたんだ」 お詫びしなければ お詫びしなければ 私の胸に、何か、じーんとする物がこみあげてきました。もう、 私には、頷く事しか出来なかったのです。 「ねえ、シンジュでしよ。ねえったら」 こおおおおおおおおおおん 私はかすれそうな声でやっと答えていました・ 「ああ、真珠だよ。おまえのおばあちゃんの為の真珠なのだよ」 「シンジュ。シンジュよ」 美樹が何歳になった時、彼は航時機から出てくるのでしよう。そ 私はふっと現実にたちかえりました。そっと孫の手のひらの真珠う何十年も先の事ではない筈ですが : : : そう思いました。しかしそ を指さして言いました。 の時まで、私は生きている事は不可能でしよう。 「これがどうしたの」 もう、その時は美樹達の時代なのです。 孫は「ううん」と大きく首を振ったのです。 いや、そんな事はどうでもいい・アキは、本当は美亜を愛してい 「ううん。ちがうの。あっちにもしんじゅがあるわ。ほんとにしん たのですから。 じゅよ。これとおんなじ」 「ほんとに、きれいだわあ」 美樹の指さした方角にあったのは航時機でした。 美亜の面影が、ふっと幼い孫の横顔をよぎりました。 「さっき説明してあげたでしよう。あれは航時機と言ってね : : : 」 七色に輝く真珠は殖え続けていたのです。 「ううん。それはわかったの。あのなかにしんじゅがあるの。ね アキの顔は歪み、ロは大きく開かれようとして。 え。みてよ。ねえってばあ」 最初の真珠は床の上でゆっくり王冠を形造りました。まるで本当 私達に航時機の前へ歩みよりました。そして美樹は勝ち誇った様の真珠のように : ・ に言うのです。 それは、アキがまだ持っていた、美亜の為の真珠なのです。 「ねえ。これよ」 「とってもきれい」 それは確かに真珠でした。陽に輝いてキラキラ光る透明な真珠。 私も : : : そう思いました。 ゖ 6

8. SFマガジン 1971年3月号

第表示月号こす 3 月でが第実際には編集ー、 年末ぎりぎり ; ・発売が年を越して第一号一一 というわけす仕事のかたわら過ぎにし一年 の出来事をふりかえってみました。まず筆頭 ・があの画期的な国際 SF シ / ポジウム , つい で日本 SF 大会開催心 WSF に象徴される ューウェーヴ運動の本格化 , ハヤカワ S F 文庫の発刊・・一などなど十大事件とまではい かないが , 今後の日本 S F 界に大きな影響を もたらすにちがいなし咄来事が , : 、多々ありま 0 ・その国第 S 下シンポジウムの挙げた成果の 第一 0 、なん ! も連 SF 界 0 初 0 国 際参加ですが、 , ~ 識させらんたことに第、ここ数年間に , かれら の SF が質量もに予想以上の変貌をとげ た , ・ということでしたよ冫マポジウムの席上 で , 参加者の一人 = レイ第、一レノフが「科 学よりも人間が S F のテ々だ』断言した ことが , 今でも印象深く思いされす。そ 0 点で , 各国 S F 0 紹介を使命の ? す を率直に認めざるを得ませんが , 今年はひど つ , その補いをつける意味もこめて , アメリ カ以上に巨大な S F 市場を開拓しつつあるソ 漣 S F の紹介を , 怠りなくやっていきたいと 考えます。 第その第一弾が本号巻頭のく現代ソ連 S F 最 新傑作選〉。もとより , 500 枚では中篇あっか い , 1 , 80 枚を越えてやっと長篇というお国 柄です力、ら , 30 枚 ~ 80 枚程度の短篇ばかりで は , かれらの SF の一端をうかがい知ること もむずかしいでしよう。しかしその不満には 後日別の形でお応えすることとして , まずは この特集をお楽しみく大さい。 ・ SF 漫画に対する強いご要望にお答えし て , 撕界第一の巨匠手塚治虫氏が , いよいよ 本号よりします。そのタイトルからもご 想像がつくよのに , 名作『ジャングル大帝』 や『火の鳥』にも劣らぬスケール雄大な長期 連載超大作です。「必ず日本 S F 史に残る ものを」と氏も力強く宣言してくださいまし た。みなさんとともに , われわれもこれから 毎号が楽しみです。 ■同じく本号から , 新進科学ライターで医学 者の渡辺氏の「空想不死術入門」がスター トします & 科学と空想の接点に立って , “生 命とは何か当を追求する意欲的な科学読物。 専門知識に裏打ちされた氏の該博なペダント リーぶりをお楽しみく = たさい。 ・もうーっ , 日本全国からよられる同人誌 - 、 の中から , 若さあふれる佳品を二作選んで紹 介します。このような将来性豊かな新人に門 戸を開放するのも今年の課題の一つ。その線 にそった大企画も考えていますので , どうか ご期待ください。 (M ・ M) 5 ド MAGAZINE SCIENCE SPECULATION & 日 ( 刊 ON FANTASY VOL. ー 2. 0. 3 19 7 ー MARCH

9. SFマガジン 1971年3月号

ほらみろ おとなしい もんだ よしそんなに い、つんなら から出して やる おまけにオ・つかり 、ったをおばえちまっ て : : : ど、つだいー あっ くわえてつ たよっ 十っ′、ー ) よ・ やつだー ンユ にげたもん ねえ : 五千円は したせ

10. SFマガジン 1971年3月号

彼女は一度、常緑樹の力を見てから、つぶやくように言いまして老けこんだという印象をうけるのです。膚はかさかさと音を出し た。「とすれば、悲しいですわ。彼はスラップステックス映画の観そうな程乾きはて、瞳だけが昔と同じに寂しそうな輝きを放ってい 7 客で、私達がそれを演じてみせている。そんなことでしよう。いやました。 「アキは : : : やはり私を忘れたのではないでしようか。頭の中は航 だわ。声は、どうなんでしよう。聞こえているでしようか」 時機の理論や、詰めこまれた情報ばかりが渦まいていて : : : 」 「きっとかん高い音がするのではないでしようか。周波密度が高く なっていますからね。いや、音は全然聴く事はできませんよ。彼が私は、又始まったのかと思い、難聴をいい事に新聞を読み続けま 外部の音を聞かないですむように航時機の周囲で吸収してしまってした。 いるのです。でないと危険ですからね。彼にとって」 「あなたは、昔、科学的探究心だけで航時機へ乗るのは偽善だとお っしゃいましたね。私もそうだと思います。アキは、本来の意味で 何故、危険なのかという事を説明しようとしたのですが、彼女の 「そうですか」という落胆した返事に遮られると、それでもう何ものタイムマシンが発明される遠未来迄、この航時機に乗っている積 りでしようか」 言えなくなり、又、会話は中断されてしまいました。 私は相変らず黙ったままでした。美亜は、暫く考えこみ、 「真珠かあ」 「やはりタイムマシンなそ発明されませんわね。もし発明されるの 私が思わず呟くと、美亜は、ふふっと悪戯つぼく笑い、テー・フル なら、彼はそれに乗って帰ってきます。私のいる今へ : : : 私を愛し の上の真珠をとりあげて見つめました。 「私も本当にアキを愛していたと言えるのかしら。捨てたのは、私てくれていたならの話ですけど。でも、今まで帰ってこないのは、 私を愛していなかったからではないでしようか。 の方だったかもしれない : : どうしたら、アキが 「もし、そうなら、私は、惨めですわ。 私を愛してくれていたか確かめられるでしようか」 こう書いてくると、とても、数十年前の事とは思えません。まる「さあねえ」 で、二、三年前の出来事だった様な気がするのです。あれから正確 やっと、私は返事をしたのですが複雑な気持でした。他に言いよ うもなく、もう一度「さあねえ」と繰返して考え込む振りをしまし に、どの位の時が流れたものでしようか。 ファイ・フ・オクロック・シャドウと言う表現があります。アキのた。美亜は何時ものようにテー・フルから頬杖を外すと真珠をとり出 ほおにその髭が、うっすらと影を持っ程です。かなり経つのでしよしました。 「私にアキが残したのは、この真珠だけです。もう、私にとって今 う。私も耳が遠くなり、時々、自分ながらふと年令を感じてしまい の望みは、彼の本当の心を知りたいという事だけですわ。私が何を ます。 美亜からは、年令の為老けこむというより、精神的な疲労によっやってもアキには解らないと思うと情なくなります」