ヘンソン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年5月号
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1. SFマガジン 1971年5月号

! 」 0 民からは「こうもりの鐘楼、と呼ばれるこの都市は、八世紀前に大「それじゃ、もう彼らは取りかかったのか . と彼はいった。「考え 陸塊から遠く離れた島の上に建設されたものだった。 られることだったな」 ペイトンは機体を着陸用エプロンに着け、もよりの入口へ歩いて「何のことだ」ペイトンはびつくりして訊ねた。 いった。百ャード彼方の岩に砕ける怒濤の響きは、いっ聞いても心生物学者は抽斗から封をした封筒をとりだし、その中から、さま をそそるものがあった。 ざまな長さのスリットが平行に数百本刻みこまれた二枚のプラスチ 彼は広場で足をとめ、潮の香のする空気を吸いこみ、塔のまわり ック板を抜きだした。彼はその一枚を友人に渡した。 を飛ぶ朗や渡り鳥を眺めた。彼らは、人間がまだ夜明けを不思議そ「これが何だかわかるかー うに眺め、それを神の出現だろうかと思っていた頃から、この猫の「性格分析カードのようだが」 のような土地を休息の場所にしていたのだ。 「そのとおり。実は君のなんだ」 遺伝局は塔の中央部近くの百フロアーを占領していた。ペイトン 「何だって ! これは少し違法なんじゃないのか」 が科学の都市に行き着くには十分かかった。何立方マイルもある事「そんなことはどうでもいい。下の縁に記号が刷りこんであるたろ 務室や実験室の中から目指す相手をみつけるには、これまた同じく う。美術鑑賞カから始まって才知までが並んでいる。最後の項が知 らいの時間が必要だった。 能指数た。の・ほせるんじゃないぜ」 アラン・ヘンソン二世は、ペイトンよりも二年早く南極大学を出 ペイトンは食い入るようにカードに見入った。そのとたん、彼は て、彼のような工学をではなくて生物発生学を研究していたが、今少し赤くなった。 でもペイトンの最も親しい友人の一人だった。困ったことがおこる「どうしてわかったんだ」 と ( それは少くなかったのだが ) 、ペイトンはこの友人の冷静な分「どうでもいいじゃないか」へンソンはにやりとした。「今度はこ 別に大いに力を得るのだった。この際、彼がサイエンティアに飛んっちの分析カードを見てみろ」彼は二つめのカードを渡した。 できたのは、自然のなりゆきだったし、ヘンソンがつい昨日、至急 「だって、これは同じものだそ」 に会いたいといってきたからには、なおさらのことだった。 「ちょっと違うが、 ~ まとんど同じだな」 生物学者はペイトンの顔を見て喜びもし安心もしたが、迎える彼「誰のものだ」 の様子には何か心配事がありそうだった。 ヘンソンは椅子に深々ともたれて、ゆっくり言葉を選びながらい 「来てくれて嬉しいよ。君にも興味がありそうな話があるんだ。しった。 かし元気がないなーーどうしたんだ」 「その分析カードはだね、ディック、君の父方の直系をたどって二 ペイトンは、ありのままを話した。ヘンソンはしばらく黙りこん二代目のひい祖父さんーー・つまり大口ルフ・ソルダーセンのものな んだ」 2 2

2. SFマガジン 1971年5月号

ほかあるまいな。我々が恒星間飛行を達成した暁には、社会はまた 膨張を始め、沈滞は当分回避されることになるだろう」 3 野生のライオン 「生きているうちにそうなってほしいもんだな」とべイトンはいっ た。「それにしても、いま僕に何をしろというんだ」 「こういうことさ。コマールへ行って、そこに何があるかを見てき ペイトンの乗った機体がインド洋を西に越えた頃には、あたりは てほしいんだ。他の者たちは失敗しても、君なら成功できると我々日が暮れていた。遙かな下界に見えるものといっては、アフリカの は信じている。計画はすっかり立ててあるんだ」 海岸に砕ける波頭ばかりだったが、航行用スクリーンには下の土地 が細かく手にとるように映しだされていた。今日では夜だからとい 「で、コマールはどこにあるんだ」 ヘンソンは、につこり笑った。 って遮閉にも保護にもならないことはもちろんだったが、人間の眼 そをもってしては彼が見えないことも確かだった。監視を続けている 「たねをあかせば簡単なことさ。可能な場所は一つしかない の上を飛ぶ航空機もなく、住む人もなく、旅はすべて徒歩によるしに違いない機械については、これは他の者たちが手をうっていた。 ヘンソンと志を同じくする人々は大勢いるもののようだった。 かない唯一の場所だ。大保留地だよ」 計画は巧妙に立てられてあった。その細部は、明らかにこの仕事 老人は筆記機械のスイッチを切った。頭上には ( あるいは眼下にが楽しくて仕方がない人々の手で、周到に考え抜かれていた。彼は 、はといってもよい。どちらでも同じことだ ) 巨大な鎌状になった地機体を、森林の外れのエネルギー障壁にできるだけ近い所に、着陸 球が星を隠していた。この小さな衛星は、永遠の公転を続けながさせることになっていた。 ターミネータ ら、いま地球の明暗界線に追いっき、夜の中に突入した。暗くなり彼の未知の友人たちといえども、疑いを招くことなしに障壁のス かけた下界の土地のそこここには、都市の灯火がちりばめられてい ィッチを切ることは不可能だった。幸いにも、コマールはスクリ 1 ンの端から広々とした平地を越えてほんの二〇マイルほどの所にあ その眺めは老人の心を悲しみで満たした。それは彼の胸に、自分った。旅の最後の部分は徒歩ですませねばならないのだ。 小さな機体が眼には見えない森林に下降すると、枝の折れる音が の齢があといくばくもないことを思いおこさせたーー・ーまたそれは、 一しきり響いた。機体は水平に着地し、ペイトンは薄暗い室内灯を 自分が守りとおそうとしてきた文化の終焉を予言するかに思えたの 消して窓から外を覗いた。何も見えなかった。いわれたことを思い である。あるいは、若い科学者たちがやはり正しいのかもしれぬ。 長い平和は終ろうとし、世界は自分には見る由もない新しい目標にだして、彼はドアを開けなかった。彼は体ができるだけ楽になるよ うにして腰をおちつけ、明け方を待ったのである。 向って動き始めているのだ。 眼が覚めると、明るい日光がまともに射しこんでいた。彼は友人 8 2

3. SFマガジン 1971年5月号

前もって打合わせておいた合図は、もう一時間以上も遅れていた。 ることのない星は、輝く宝石のように瞬きもせずに空に光り、今は アラン・ヘンソンは、辛抱しきれない様子で跳びあがった。 忘れた地球の星空よりも一段とすばらしかった。 「何とかしなければ ! 彼を呼びだすそ」 だが、ペイトンの思いは別の美に注がれており、彼はまたも砂の 他の二人の科学者は、不安そうに顔を見あわせた。 上に横たわる姿に身を屈めるのだった。その姿は、まわりに何気な 「呼出しが探知されるかもしれないそ」 く振り乱した髪と同じく、もう金色ではなかった。 「連中が実際に我々を第視しているのでなければ大丈夫だ。もしそその時、まわりの天国は揺れ動き消えてしまった。彼は、愛する うだとしても、変ったことは何もいわないつもりだ。。 ヘイトンにはものが何もかももぎとられる苦痛に、大声をあげた。ただ転換の速 通じるだろう。彼がそもそも答のできる状態ならばだが : : : 」 さだけが彼の正気を救ったのだ。それが終った時、彼は、エデンの 門が後で音をたてて永遠に閉じられた時のアダムの気持がわかった リチャード・ペイトンに時間の観念があったとしても、今やそののだった。 知識は忘れさられていた。現在だけが現実のものであり、過去と未 だが、彼を呼び戻した音というのは、世にも平凡きわまるものだ 来とは、広大な風景が叩きつけるような雨の壁に包まれるように、 った。実をいえば、おそらく他のものでは、逃避の場所にいる彼の 向うの見えないスクリーンに隠されていたのである。 心に届くことはできなかっただろう。それは実に、ここコマールの 。ヘイトンは、現在の喜びにひたって、心から満足していた。かっ都市の暗い部屋で、べッドの脇の床に置かれた通信機の金切り声だ て少々頼りなげではあっても新しい知識の領域を征服しようとしてったのである。 いた、止まるところを知らぬ闘志に燃えた魂は、今やその片鱗もな 無意識に手を伸ばして受信スイッチを押すと、騒ぎは静まった。 かった。彼にはもう、知識など何の役にも立たなかったのである。彼は、この正体不明の相手 ( アラン・ヘンソンとは何者だろう ? ) 後になってみると、島での生活は何も思いだせないのだった。彼を満足させるような答を何かしたに違いない。ほんの暫くで、電話 はたくさんの仲間と知りあったが、その名前や顔は忘却の彼方に消はまた切れたのである。ペイトンはまだ茫然としたままべッドに坐 えていた。愛情、心の平和、幸福ーーーすべてが僅か束の間ながら自り、頭をかかえて、この状況に順応しようと努めた。 分のものだったのだ。ところが、その天国での生活は、最後のほん 自分は夢を見ていたんじゃない。それは確かだ。むしろ、今まで の一瞬だけしか思いだせないのだ。 第二の生活をすごしていて、いま記億喪失症から蘇ったかのように それが始まった時と同じようにして終るというのも不思議だっ 昔の人生に戻ってきた、といった方がいいだろう。彼はまだ茫然と た。彼はまたもや礁湖の岸辺にいたが、今度は夜で、一人きりではしてはいたが、それでも或るはっきりした確信が頭に浮かんだ。コ なかった。いつも満月のように思える月は、海の上に低くかかり、 マールでは二度と眠ってはならないのだ。 リチャ 1 ド・ペイトン三世の意志と個性は、徐々に追放先から戻 その長い銀色の帯は世界の果てまで延びていた。決して位置を変え 9

4. SFマガジン 1971年5月号

う琳だった。全く、「あいつはコマールに行っちまった」という文の試みはずっと続けられていた。だが、今日にいたるまで、コマー 句は、通常の会話の中に溶けこんでしまっていて、ほんとうの意味ルから帰ってきたものは一人もいないんだ」 も忘れられかけているくらいだっこ。 ヘンソンは身をのりだして、次第に熱を帯びた口調で話すのだっ チャード・ ペイトンがロ述するにつれて、傍に控えるロポット は彼の言葉を音声群に分解し、句読点を打って、この覚え書を自動 「ここが奇妙なところだ。世界評議会はコマールを消減させること的に適切な電子ファイルに送りこむのだった。 もできた。だが、そうはしなかったんだ。コマールが存在するとい 「議長へ一通と、私の個人用ファイルへ。 う確信は、社会に一定の安定作用を及・ほしている。我々のあらゆる貴下の覚え書一三号および今朝の我々の会談について。 努力にもかかわらず、今でも精神病患者がいる。彼らに催眠状態で 息子に会いましたが、・三世には逃げられました。 , 彼の決意 コマールについての暗示を与えるのは、何もむずかしいことじゃな は堅く、強制しても逆効果を招くだけと思われます。このことはソ 、 0 そこが見つかることはないにしても、それを探し続けるかぎり ルダーセンの事件から学んだはずです。 彼らは無害なんだ。 彼に必要な一切の援助を与えて感謝の気持を植えつけゑという この都市が建設されて間もなくの最初の頃、評議会は密偵をコマ のが私の意見です。そうすれば、無難な研究の方向をとらせること ールに潜入させたが、 / 彼らは一人も戻ってこなかった。何も汚ないも可能です。・ e が自分の祖先であることに気づかぬかぎり、危 手が使われたわけじゃなく、ただ彼らが残っていたかっただけなん険はありますまい。性格上の類似はあっても、彼が・の研究を だ。そのことが断言できるのは、彼らがメッセージを送ってきたか繰返そうとするとは考えられません。 らだ。たぶん、密偵が故意に抑留されるようなことがあれば、評議何よりも、彼がコマールの所在を知ったり、そこを訪れたりする 会は都市を。ハラ・ ( ラにするだろうということが、デカダン主義者に事態を防がねばなりません。もしそんなことになったら、何がおこ はわかっていたんだろう。 るかは神のみそ知るです」 僕はこのメッセージの一部を見たことがある。これが、ただごと ではないんだ。有頂天としか表現しようがないんだな。ディック、 ヘンソンの話は終ったが、。 ヘイトンは黙ったままでいた。彼は驚 コマールには何かがあるんだ。人に、外部の世界も、友人も、家族きのあまり口をはさむこともできなかったのだ。そこで、しばらく も、何もかも忘れさせるものがあるんだ。これがどういうことだ 間をおいて、相手は続けた。 か、考えてみろよ。 「ここで話は現在の君自身のことになる。ディック、世界評議会は 後になって、デカダン主義者が一人も生き残っていないことが確君の遺伝形質のことを一カ月前に知ったのだ。我々は彼らに話した 実になった頃、評議会はまた試みを繰返した。五〇年前までは、そことを後悔しているが、もう手遅れだ。遺伝学的にいえば、君は、 6 2

5. SFマガジン 1971年5月号

人物なんだ」 ペイトンは、まるでロケットのように跳びあがった。 。ヘイトンは、半ば開いた唇からこの言葉を呟き、そ 「何だって ! 」 「まるで一町四方に聞こえるような声を出すんじゃないよ。誰かがれが意味するものと異様な感じとを噛みしめた。それでは、コマー ルはやはり存在していたのか ! 人によっては、そのことさえも認 入ってきたら、昔の大学時代の話をしているふりをするんだそ」 めようとしなかったのだが。 「だってーーーソルダーセンだなんて ! 」 ヘンソンよ、一 再び口を開いた。 「なに、誰だってうんと昔まで遡れば、同じくらい有名な御先祖さ まに出くわすさ。でも、これでお祖父さんが君を警戒するわけがわ「君はデカダン主義者のことを、あまりよくは知るまいな。歴史の 本はかなり入念に検閲してあるからな。だが、そもそもの話という かったろう」 「ずいぶん遅くまで放っておいたもんだぜ。僕は事実上、基礎課程のは第二次電子時代の終焉と関係があるんだ : : : 」 を終っちまったんだからな」 地球の表面から二万マイルの上空には、世界評議会を収容する人 「それについては感謝してもらっていいな。ふつう我々の解析は一 〇世代、特別な場合に二〇世代遡ることになっていゑこれは大変工衛星が、永遠の道に沿ってまわっていた。その議場の屋根は、 な仕事なんだ。遺伝形質ライブラリーには、二三世紀以降に生まれ疵一つないクリスタライトの一枚板でできており、評議会のメン・ハ ーが議事を行なっている時には、彼らと遙か下界で回転している巨 た男女について誰でも一枚ずつ、全部で数億というカードがある。 この二枚が一致することは、一カ月ぐらい前に偶然の機会に発見さ大な球との間には何ものも存在しないかに見えた。 れたものなんだ」 それが象徴する意味は深いものがあった。このような環境の中で 「ごたごたが始まったのは、その頃だぜ。でも、まだどういうことは、偏狭な地方意識などが長く生き残ることはできないのだ。ほか ならぬここでこそ、きっと人間の精神は最大の事業をなしとげるこ なんだか、すっかりは呑みこめないな」 「ディック、君の有名な御先祖さまについて、いったいどんなこととだろう。 リチャード・べイトン老人は、地球の運命を導くことに生涯を捧 を知っているね」 「たぶん、誰でも知っていることだけだな。君のいうのが、彼がどげてきた。人類は五百年の平和を保ち、芸術や科学が与えられるも うして、またどうやって姿を消したかということなら、僕はもちろので、足りないものは何一つなかった。この惑星を治める人々は、 自分たちの仕事を誇りに思っていいはすだった。 ん知らないよ。彼は地球から出ていったんだろう 「違う。何なら、世間から出ていったといってもいいが、彼は地球それでも、この老政治家は不安だった。あるいは、前途に横たわ を離れたことはないんだ。ディック、このことを知っている人間はる変化が、すでにその影を自分たちの上におとしているのかもしれ 3 ない。あるいは、仮に潜在意識としてではあっても、五世紀間の平 ごく僅かなんだが、ロルフ・ソルダーセンこそコマールを建設した

6. SFマガジン 1971年5月号

言葉の科学的な唯一の意味でソルダーセンの再来なんだ。何百年かがたくさん入っているんだよ。 に一回だけどこかの家族におこるような、この自然界でも最も稀な評議会とその下で働く科学者との間には、昔から友好的な対抗心 ことの一つがおこったんだ。 が働いていたもんだが、この数年間というもの、両者の考え方の違 ディック、君にはソルダーセンが放棄せざるをえなかった仕事を いはいっそう大きくなってきた。我々の多くは、評議会が永遠に続 続けることができるんだぞーーその仕事が何だったかはわからない くと考えている現在の時代を、単なる空白の期間だと思っている。 んだが。ひょっとすると、もうそれは永遠の謎なのかもしれない 我々の信条からすれば、あまり長いこと安全が続くと退廃が生まれ が、何かの手がかりが残っているとすれば、その秘密はコマールのる。評議会の心理学者たちは、それを防ぐことに自信を持っている 中にある。世界評議会は、そのことを知っている。だからこそ彼らがねー は君を運命の定めた道から逸らせようとしているんだ。 ペイトンは眼を輝かせた。 それを怨むんじゃないよ。評議会には、人類がこれまでに生みだ 「それこそ僕が前からいっていたことじゃないか。僕も仲間に入れ した最も立派な人々の一部が集まっているんだ。冖 彼らは君に対しててもらえるかい」 何も悪気はないんだし、君の身に危害が及ぶようなことは何もおこ「後でだ。まずやらなくちゃならない仕事があるんだ。いいか、我 らないだろう。・こが、 / ナ彼らは自分たちが最善と信しる今日の社会構我は一種の革命家だ。我々はいくつかの社会的反応を惹きおこそう 造を維持しようと無我夢中なんだ」 としている。そして、それをやりとげれば、人類全体が退廃におち ペイトンはゆっくり立ちあがった。一瞬、彼は自分が局外の第三こむ危険は何千年か先に延びるだろう。ディック、君は我々の触媒 者で、このリチャード・ペイトン三世と称する人形を眺めているよの一つだ。唯一の触媒というわけじゃない。といってもいいだろう うな気がした。それはもう一個の人間ではなくて、一つの象徴、世な」 界の未来を開く鍵の一つだったのである。そこから自分を取戻すに彼は、ちょっと一息入れた。 は、強い意志の力が必要だった。 「もしコマールの件が無駄だったとしても、我々にはもう一枚、切 友人は彼を黙って見つめていた。 り札がある。五〇年以内に、恒星間エンジンが完成すると予想され ているんだ」 「まだ話してくれないことがある・せ、アラン。これだけのことを、 どうやって知ったんだい」 「とうとうできるのか ! 」とペイトンよ、つこ。 冫しナ「完成したらどう するんた」 ヘンソンは微笑んだ。 「そういうだろうと思っていたよ。僕はただ、君とっきあいがある「それを評議会にプレゼントして、こういうんだよ。『ほら、見て ください という理由で選ばれた代表にすぎない。他の人たちのことは、君に これで星へ行けますよ。僕たちはいい子でしよう』評 もいえないんだ。でも、その人たちの中には、君の尊敬する科学者議会はただ弱々しい微笑を浮かべて文明をひっくりかえしにかかる

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ちは、これに共感するものは多くなかった。第二次ルネッサンスの彼の研究所からは、二〇年以上にもわたって、すばらしい発明の 火は、まだ最期の揺めぎを始めてはいなかったのである。だが、歳数々が溢れでてきた。それから、突然、彼はいなくなったんだ。彼 月を経るにつれて、デカダン主義者の考え方に共鳴するものは次第は星に行こうとしたんだという話が流布された。だが、真相はこう に増えていった。 / 彼らは内惑星の中の秘密の場所に、その夢の都市なんだ。 を建設していった。 ソルダーセンは、自分の作ったロポットが ( それらの機械は、 一世紀というもの、それらの都市は見慣れぬ異国の花のように全まだに僕たちの文明を支えているんだが ) ほんの手始めにすぎない 盛を極めたが、こうした都市の建設を駆りたてた宗教的に近い熱情と信じていた。彼は、人類社会を一変させるような或る提案を持っ も醒める時が来た。それはなお一世代は続いたが、やがて一つまたて、世界評議会へ出かけていった。その変化というのが何かは我々 も知らないんだが、ソルダーセンは、それが採用されなければ人類 一つと人類の知識からは消えていった。こうして死減しながらも、 いま我々の多くが、まさにそう は遂には行詰まると信じていた 都市は後世に多数の物語や伝説を残し、それは何世紀かが過ぎる間 なったと思っているようにだ。 に数を増していったのである。 評議会は猛烈に反対した。わかるだろう、その頃ロポットはまだ 地球には、こうした都市が一つだけ建設され、それをめぐる謎は 外部の世界によって遂に解かれることはなかった。世界評議会は、文明に組みこまれたばかりで、文明は徐々に安定をとり戻しかけて いたところだったーーその安定というやつが五百年も続くわけだが ある意図のもとに、その所在に関する知識をことごとく抹殺した。 その場所は謎だった。ある者は北極の荒野だといい、他の者は太平ね。 洋の海底深く隠されているのだと信じていた。確かなことは何もわ ソルダーセンは、ひどく失望した。デカダン主義者たちには天才 からなかったが、その都市の名が「コマール」だったのだ。 を惹きつける才能があって、彼を抱きこんで世を捨てるように説き 伏せた。ソルダーセンは彼らの夢を現実のものにできる唯一の人間 だったんだ」 ヘンソンは話をやめて、一息入れた。 「彼は承知したのか」 これか 「ここまでは、新しいことも世間の常識以上のこともない。 ら先の話は、世界評議会とサイエンティアのたぶん百人ぐらいの人「誰にもわからない。だが、コマールは建設された , ーーそれだけは 確かだ。我々はそれがどこにあるか知っているんだーー知っている 問だけの秘密なんだ。 君も知ってのとおり、ロルフ・ソルダ了センは世界はじまって以のは世界評議会も同じだがね。世の中には、どうしても秘密にして 来の偉大な工学の天才だった。エジソンでさえ彼とはくらべものにおけないことがあるものなんだ」 ならない。彼はロポット工学の基礎を築き、最初の実用的な思考機そのとおりだ、とペイントは思った。こんな時代になってもまだ 行方不明になる人があり、彼らは夢の都市を探しにいったのだとい 械を建造した。