言葉 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年7月号
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1. SFマガジン 1971年7月号

うも調べてみてほしい。ぎみがび「くりするような気がするよ。・ほでください。自由の鐘だ 0 て、ひび割れているんですからね」 ファール医師はロ髭をさわ 0 た。どうもその感触を楽しんでいる 8 くの義弟は、・ほくより変な考え方をしているよ。つまりだな : : : 」 らしい。かれはリズミカルにさわりながら尋ねた。 「どう ? 」 「どうしてそんなことがわたしにわかるね、・ホ・フ ? わたしの患者 メルトンは詳しく話した。 の半分までは、ちょ 0 と頭がおかしいが、それに気づかない限り ギャレ」ットはひどく興味を示した。 「なあ、かれが考えている機械のことは、別に非論理的なものじゃちゃんとや 0 ていけるんだよ。ただ、給料にどう合わせてゆくかと いう問題たけのことさ , あないよ。これから次第に機械は単純化されていくんだ。たとえば くそくらえ 「匹文字の言葉ですよ」 クライストロンだが : : : ちょっとした真空管よりも簡単なものだ。 ファールはノートを見ながら言った。 われわれが電磁波 = ネルギー、 = ートロンとかそういうものを相 「テストによると、きみはちょっと神経症にな「ているのかもしれ 手にするとき、よく発見するんたが、それらを扱うのにいちばんい ないな。特に環境への順応についてだね。それが特に目立っている い機械は : : : そう、ただの金属棒ということがある」 徴候さ。しかしわたしはきみを何年も知っているし、わたしも評判 : ペンキは ! 」 「だが : ・ 「機械にな「ている。〈キがあるよ = ・・・・照明用なんだ。日中に日光を賭けることになるんでね。 0 まり、この商売は客観的なもので を吸収して、それを夜になると放出するんだ。きみの義弟とかの話主観的なものじゃあない 0 てことさ」 、・、、・まくの趣味にしているほうから「では、家が ? 」 を信しるというわけじゃあなし力を 「それが引金によ「ているかもしれないよ。精神分析でいう未成熟 考えてみるとだね : : : いずれ未来の世界では、そう大きくて複雑な 機械はなくなると思うよ。すべてがごく簡単なものにな 0 て・ = = ・あ期における人や物〈の病的愛着による成熟の早期停止というところ だよ。どんなもので現われるかわからない。きみの場合はそれが家 るいは、ごく簡単に見えるものによって、二十世紀から来た男も、 になっただけさ。そこから出ることだね」 すごく気分を楽にしていられると思うよ。その結果は別としてね」 「そのつもりですが」 「ああ。ずいぶん変わっているだろうな」 ディ・フマ ファールは背をそらして、壁にかか「ている学位記を見た。 「相当なもんたろうな。さてと、もう行かなくちゃあ。電話する よ、メルトン。でも・ほくの忠告を聞いて、医者に見てもらうんだ「きみの友達が環境について言 0 たことは正しいね。子供を暗い押 入れに閉じこめると、それ以後暗闇を怯えるようになりやすい。で な」 つまりそれは、合わない環境だからさ。もしその家 も、な・せだ ? で気持が乱されるなら、荷造りをして出てしまうことだね」 「家内とフィルはどうなんです ? 」 メルトンは言った。 「ほくが鐘のように元気 ( 註・非常に元気の意 ) だなんて言わない

2. SFマガジン 1971年7月号

THE 、 " WOR ル 0 OF を SF«、 ?COMICS クレーの自己表現の方法は、クレー自身の有名なことばででは、彼は、幻想的な画家ではない。というのは、彼は、 簡潔にいいつくされるーーー「美術は、眼に見えるものを、実在のもの以外は描かなかったからである。それらの実在 0 複写して与えるものではなく、見えないものをも、見せさのものが、他の人々には、彼の幻想の気まぐれのように見 せるのである」 えることもありえたが、彼自身は、次のことをよく知って いた。つまり、それらのものは、存在の十全さを授けられ クレーの場合、目でとらえたものを、そのまま模写し て、作品に表現するということはしない。表現技法こっ 、冫いていると、われわれの通常の手段によっては、決して測り ても、型通りのわかりきった方法や、伝統的な方法に合わえない空間のなかに、また、われわれの扱いなれた時間の せてすることもしない。彼は、視覚でとらえたものを、自計算法では、役に立たないような、時間のなかに、有効に 分の内面の底を通過させ、その操作のなかで、自分の心実在するのた、と」 を、はっきりと保証させるような、象徴にして、表現す「しばしば、象徴的な現実というものが問題になる。とは る。その象徴は、単純な形をとるが、その単純さは、クレ ーが事物のかわりになっていると え、それは、アレゴリ ーの心の奥で、とらえられた、さまざまな複雑なものが、 いう意味においてではなく、クレーの絵画の造型上の現実 綜合化され、みがきあげられた結果による単純なので、そ が、つねに彼自身の現実の象徴だからである。この点に関 れは、ある高みに達した単純になっている。 しては、現実とか、象徴とかいうことばは、その通常の語 ーが、彼の感覚によって幻想の義を失っている。というのは、象徴とは、存在の十全の極 私たちは、それを、クレ 世界、夢の世界から、つかまえてきた収穫として楽しんで限の到達であり、実体と形象との、いちじるしい完成だか 見ている。実際、クレーの作品にはユーモアがある。インらである , そうだろう。 クによる素描には、宇宙人が、ねそべっているような絵ま であるのた。それは、楽しい クレーにとって、現実を描いているのでないとしたら、 しかし、クレーのような作品を見るとき、幻想的でああれほどの作品を、あれほどの澄明さで、ゆるぎなく創り り、象徴的であるーー・ーということを、つい、気安くいってあげていくことはできないだろう。それらを、事物の内面 しまうが、それは、通俗的に、夢の世界を描いている、とをも含めた、十全の姿として、創り出すことができるとこ いうことではすまなくて、クレーは、描こうとするものろに、クレーの天才はある。 の、すべての姿を、見える部分たけでなく、そのものの内 クレーのような天才にとっては、「幻影の扉」は、いっ 的存在をも描こうとして、これは、結果的に、到達した象でも、現実のものとして、描くことが、できたのにちがい 徴的な表現なのである。 ナい。いつも、事物の向う側を、見ることのできた者にと このいきさつについては、マルセル・・フリョンの論を、 っては、幻影の扉は、木戸御免なのた。つまり、言いかえ 引用しておく。 れば、あやふやな、中途半端ではない、確固とした幻想 「通常、幻想的という言葉に、人が与えているような意味を、彼は、作りあげることが、出来ていたのである。その

3. SFマガジン 1971年7月号

ーっと螢光に近い光を放つ。全くそうだというわけではないが、 なことになってしまいそうだわ」 メルトンは笑いもしなかった。 カエラもメルトンもその照明の下でおたがいを見たくなかったの だ。電球が悪いのではない。そのことなら、新しいので何度か試し てみたが、光の質は変わらなかった。 乾からびたような小男がとっぜん階段の踊り場に現われて、メル いったいどうして トンを眺めた。だぶだぶのズボンにスエードの上着という姿だ。メ 昨日のことだが、メルトンが冷蔵庫に氷を取りにゆくと、ひどい ルトンが面くらって見かえすと、その男は話しかけた。 ショックを受けた。明らかにどこか電気的な故障があるのだろう「ポイラーがおかしいってね ? あんたにはわけがわからないんだ か、家の中の冷蔵庫に北極光が現われているのを見るのは気味の悪 って奥さんに聞きましたよ」 いものだ。そのほかにも、感覚とか情緒の点で微妙な、言葉に現わ ミカエラの姿が現れた。 メ せないところがある。この家に幽霊が出るというわけではない。 「こちらガールさん。今日電話したの」 ルトンの感じでは、むしろ、単に能率が良すぎるーー極端に脱線し ガールのがさがさした顔が笑いにくずれた。 た形でだが、というものだった。 「電話帳を見りゃあ、あらゆるものにあっしの名前が出ていまさ 窓もかたくてあけられなかったーーしばらくは、ひどくかたかつあ。配線、配管、ペンキ仕事 : : : 何やかやと困ったことのある人が たのだ。ところが、これといった理由もないのに、グリースでも塗っ多いもんで。あんたんところのポイラーみたいにね」 たように開いた。メルトン夫妻が、暑くなりすぎた家の中から新鮮そいつはポイラーのところへ調べに行きながら話し続けた。 な空気を吸いに外へ飛び出そうとしたのを防ぐようにだ。メルトン 「プリキ屋 : : : ポイラー屋 : : : 電気屋 : ・ : ・こういうことをやるに は、インスター電気会社の仕事をやったときに知った友人にあたつは、何でも屋でなきゃあいけないもんでしてね。それで、こいつの てみようと決心した。その男は何かの技術者だということだったかどこが変なんです ? 」 ら、いくつかの妙な事態を説明できるかもしれない。鼠だよという メルトンは、ミカエラのだめよというような視線を避けながら答 ようにだ。もし鼠がいればの話だが。夜になると何かが走りまわるえた。 音がするのだ 北欧神話に出てくる小人にしては小さすぎる音た「送風機が動かないんだよ」 そして、メルトンが仕掛けた鼠取りには何もかからなかった。 ガールは懷中電燈を使って、電線をたどり、ドライ・ハーで何かし ミカエラはこう言ったものだ。 た。火花が散った。それから最後にポイラ 1 の上にある水量計を調 「ふつうの鼠じゃないわね : : : 賢すぎるもの。ある朝あなたが地下べ、そのキャツ。フをはずすと舌を鳴らした。 室に下りてみると、鼠取りが仕掛け直してあるのに気づくことにな「漏れてまさあ。蒸気が出てくるのがわかるでしようが ? 何もか るのよ。餌に小さなウイスキーのグラスをつけてね。あなた、そんも錆びてるね。電線はアースしてまさあ」 4 9

4. SFマガジン 1971年7月号

老人は、その場で命名をおこなった。王子の誕生を知った大王 大和王家の代々のしきたりであった。 は、碓にとびのって臣下にむかって発表した。それにちなんだ命名 0 「兄上さま、たった今、二人の王子が、生れましたぞ」 うす やまと 高床の下から兄の大足彦を見あげ、倭姫は王子誕生のことを伝えであり、穀霊のやどる碓には、魔除けの力もある。 「しかしながら、大王よ。往にし方より、双児の生まれるのは、不 かもい 吉なものとされておりまする。双児に生まれた者は、鴨居に手のと 「なんと、双児が生まれたというのか ? 」 新しい大王に決ま 0 た王子は、こおどりしてよろこんだ。疎遠でどくほどに成人いたしますると、肉親に仇なすといわれ、忌むべき あった父の死のことなど、この王子の心から消しとんでしまった。生まれとされまする」 老人は、大王の喜びに水をさすように、不吉なことを話しはじめ 大和の支配者として承認されたうえ、今ここに二人の男子にめぐ まれたのである。大足彦は、そこにあ「た碓のうえにとびのり、大た。それをきいて、新大王の顔色が、さ 0 と蒼ざめた。喜びの絶頂 から俄かに奈落へ引きおとされたようであった。 声でわめきはじめた。 「皆の者、よく聴くがよい。わが后に二人の男子が生まれたのじ「どうすればよいのじゃ ? せ 0 かく二人の王子に恵まれたという ゃ。のすべてに酒をふるまおう、肉をあたえよう。今宵は宴をのに : : : 」 大王は、ロごもりながら尋ねた。 もよおそう」 新しい大王は、喜びのあまり、父の喪のことすら忘れはて、不謹「どちらか一方を殺すほかに、道はありませぬ」 慎な言葉を吐きちらした。御殿のまえに集ま「た人々は、大王の言老人は、冷たく言いわたした。 葉をうけて、いっせいに歓呼の声をあげた。 いやさか 、もカ 「弥栄 ! 」 ひしろおおきみ 2 殯りの宮 「日代の大王の世に栄えあれ ! 」 口々にさけぶ人々の声をききながら、大足彦の大王は、得意の絶 頂にあった。 大足彦の王子が、日代の宮において王位にの・ほるという知らせ まえつぎみ ようやく、人々の興奮がおさまったところで、新大王は、石占のは、大和にいる豪族のもとに伝えられた。珠城の宮の群臣たちも、 横立を見おろし、誕生した王子の命名をたのんだ。かれらのあいだ新しい大王に仕えるため、日代の宮に移ってきた。こうして、日代 では、名は大きな意味をも 0 ている。もし、命名を誤まれば、一生の大王の治世がはじめられたわけだが、まず第一に手をつけねばな らないのは、死んだ珠城の大王の殯りのこと、および生まれたばか の不幸を招くと考えられている。 おうす おおうす りの双児の処置のことであった。 「大王よ。二人の王子を、大碓の王子、小碓の王子と、名のらされ これまで、王子、王女の住む仮宮にすぎなかった日代の宮を、正 るがよろしゅうございまする」 ささ みあらか

5. SFマガジン 1971年7月号

りを唱えるうち、彼はいくらか気持がおちついた。それからは、 「数学的には充分納得できるな」とソールターよ、つこ。 をしナ「もし、 『古典名作全集』からひたすら目をそむけていた。 一人っ子の因子以外になんの因子も働かないとすれば、一世紀五世 グレーヴズ夫人は、それらすべての浪費と、選ばれた人、至純な代のあいだに、二十億の人口は一億二千五百万に減少する。つぎの る純化者マーデカと説明のあゑ出目で鼻のひしやげた醜男の写真一世紀で、人口は四百万以下になる。もう一世紀で十一一万一一千・・ にむか 0 て、フンと鼻でせせら笑 0 た。テープルが二つもあるなん三十二世代目には、最初の二十億の子孫である最後の一組が一人の て、ばかげているわ。どうしてテーブルが二つもいるのよ ? 近よ子供を生み、それでおしまいだ。さらに、ほかの因子がある。自分 0 てそれをよく見ようとした彼女は、その片方が実は血痕のついたの選択で子供を作らない人間もいるだろうし」ーーと、ジ = ル・ 鞭打ち台であることに気づいて、かすかな吐き気を感じた。ネーム フライトから目をそらして 「ここの階段や、廊下や、部屋で見 プレートには、〈矯正家具製作所。六号。十ー十四歳用〉と書かれたような事件も、その一つだ」 ていた。そりや正直にいって彼女も、子供たちが親の考える正しい 「では、それが答ですわ」とグレーヴズ夫人がいった。彼女はそれ 基準からはずれた行ないをしたときには、一度ならずお尻を叩いた がなんであったかを忘れて、忌わしいテープルをびしやりと叩い ことがある。しかし、その血痕を見たせつな、彼女は隣りの部屋にた。 横たわった親殺しの骸骨に、ちょっぴり同情の念をもよおした。 「わたしたちの船を岸づけして、みんなを陸地に上げましよう。こ ルター船長がいった。 こをきれいにした上で、陸で生きるために必要なことをまなんでい 「では、手はずをきめよう。まだ連中が生き残っていると思うものけばーーー」声がとぎれ、彼女はかぶりを振った。 「すみません、ばかなことを言いました」と、彼女は陰気な口調で 「生き残ってはいないでしよう」とグレーヴズ夫人。「これでは生詫びた。 き残れるわけはありません。きっと世界はきれいさつばり全減した牧師は彼女のいう意味を理解しながらもいった。 すみか んです。彼らはおたがいを : : : 殺しあったけれど、問題はもっとほ「陸地は多くの住処の中の一つにすぎない。だいじようぶ、まなぶ かにあります。この夫婦は、十歳から十四歳のあいだの子供を一人ことはできるよ ! 」 持っていました。この部屋も、一人の子供を目安にして作られてい 「いや、政治的に実現がむりだ」とソール ターがしった。「いまの るように思えます。もうすこし、よその部屋を調べてみれば、一人形態では」 っ子の家族が普通なのかどうかーー・・普通だったかどうか がわか 〈契約〉を彫りこんだマストの影で、船内会議の席にその提案を持 るでしよう。かりにそうだとすれば、彼らは : : : 全減か、全減に近ち出すことを考えて、彼は無意識に小さくかぶりを振った。 いと見ていいと思います」彼女は適切な言葉をひねり出した 「一つ方法がありますわ」とジエル・フライトがいった 「種族自殺です」 。フラウネル組がとびこんできたのは、そのときだった。十八人の 9

6. SFマガジン 1971年7月号

れたのじゃ ! 土掘りと汚れ、産みすぎと病いから去って、清く厳四十人の男が舵柄を押すのといっしょに、船はきしりを上けた。 格な海の生活へ向かえ、と」 最初はそれとわからぬほどぼっ・ほっと、背後の航跡がカープを描き これは一同の意見でもあった。 はしめた。 「わたしの子供たちはどうなるのよ ? 」と、検査主任が詰問した。 右舷梯隊第三〇号船は、旧位置から離脱した。その隙間を埋める 「それも神さまのご意志かい ? あの子らが飢え死にしたり、それために帆を張った第三一号船から、掌帆長のホイッスルが海上一マ とも それともーー」 イルを渡ってきこえてきた。 彼女はその質問を言いおえることができなかったが、ロにされな「なにか信号ぐらい送ってくれてもよさそうなものだ」最後に、ソ かった最後の言葉は、みんな心の中に鳴りひびいていた。 ールターは双眼鏡を胸におろして、そう思った。右舷梯隊第三一号 それとも、だれかに食べられたりするのが : 船のマストは、船団旗のほか、まったくの空白だった。 これが、たまたま高齢者が過半数を占めている船や、何世代か前 彼はホイッスルで信号係士官を呼び上げ、自分たちの船団旗を指 の狂信家が〈憲章〉を強力な教義にまで高めた船なら、自殺というさした。 票決が出たかもしれない。また、これが、六世代のあいだ取り立て「あれを下におろせ」 ていう事件もなく、生活が安楽で、厳しい決断をくだす要領や伝統 かすれ声でそう命令すると、マストを降り、船室にむかった。 の失われた船なら、混乱と無策、そして避けられない残忍さへの堕新しい針路は、海図にニ = ーヨークと書かれた場所の沖合へ、彼 落がはじまったかもしれない。 ソールターの船では、調査のため、 らを届けるはずだった。 海岸へ小人数の隊を送り出すことが可決された。彼らはこの行動を 表現するのにあらゆる婉曲語法を使い、六時間かかってようやく決 ソールターは、彼の最後の命令と考えているものを、ズウイング 心したのち、空から電撃のくだるのを待ちうけるように、身をすく リ大尉に伝えた。捕鯨ポートは、かぎ柱に吊されて待っていた。ほ めて船尾甲板にすわった。 かの三人はもう乗りこんでいた。 上陸隊のメイハ ーは、船長のソールター、古文書係のフライト、 「できるだけ、この位置から離れないようにしてくれ。もし生きて 牧師のペン・、 ートン、検査主任のグレーヴズ、の四人ときまった。 いたら、二カ月のうちに帰ってくる。もし、われわれが帰らなかっ ソールターは金曜マストの指揮やぐらに登り、古文書庫にあった たら、それは船を接岸させて陸地にたよって生きようとすることへ 海図をのそきながら、伝声管をつうじて操舵班に命令を伝えた。 たが、そのときには、それは の、強力な反対論拠というわけだ きみの問題であって、わたしの問題じゃない」 「航路変更、左舷へ四度」 ふたりは敬礼を交わした。ソールターは捕鯨ポートにとび移り、 信じられないと言いたげな口調で、復唱がかえってきた。 ロープのそばに待機した甲板員たちに合図した。長い、きいきい音 「かかれ」

7. SFマガジン 1971年7月号

「 : : : 海とその賜物の代償と ソールターは、デジャランドにむかって驚きをあらわした。 - を〈憲章〉の字句が駆けめぐった して : : : 陸地を放棄することをここに誓う : ソールターは、十「あれだけの大物がまだ残っていたとはね。いったい何トンのジャ 歳になるまで、大陸と島々の存在を知らされなかったぐらいだ。彼コを、あいつはこれまでに食べたことだろう ! 」 の驚愕は顔に出たにちがいなかった。 よそ者は陰鬱にいっこ。 「土の民が、われわれを死へ追いやったのですよ」と、よそ者の船「われわれはクジラを殺し、サメを殺し、スズキやタラやニシンを 長はいった。「われわれには再補給が許されない。彼らは大洋を緯殺しーー・海に住む、われわれ以外のあらゆるものを殺してしまっ 度二度すつのベルトに分け、それそれのプランクトン資源の豊かさ た。やつらはジャコを食い、おたがいを食い、それをあんなによく に応じて、大小の船団をそこに割り当て、われわれを送り出したの締まった、うまい肉に濃縮する。だが、われわれには、その長い食 ち、いっさいの縁を切ったのです。いずれはどの船にも、破減をも物連鎖に浪費されるエネルギーがねたましかった。そこで、その連 鎖を、ジャコから人間へのつながりたけに切りつめてしまったので たらす嵐や、不漁や、網の流失や、死が訪れることでしよう」 ソールターは、デジャランドがこれとおなじ言葉を、これまでにす」 ももっとたくさんの聴衆にむかって何度か話したことがあるらし ソールターは、もう自分の盆に料理をよそい終わっていた。 「しかし、ジャコのほうが信用がおける。船団には、昔の漁師のよ という印象を受けた。 うな運だめしはできないからね」彼は湯気の立った一口を、うまそ 船団司令がメガホンでどなった。 うに頬ばった。 「よく聞け ! 」 その大声は、広間のすみまでらくらくと届いた。旗や燈火の信号「安全がすべてじゃないでしよう」とデジャランドがいった ルターよりもゆっくりした食べかただった。「船団長は、おたくの を補足するため、メガホン一つで一海里も先の海上へ声を届かせる ことを無鉄砲な船乗りといってましたが」 のが、彼の日ごろの仕事なのだ。 「あれは冗談。もし、おやじが本気でそう思ってるなら、とっくに 「よく聞け ! テーブルの上に大きなマグロがあるーーー海のつわも 船長をクビですよ」 のにふさわしい大物だーー」 船団司令が、ロのまわりをハンカチで軽くたたきながら、ニコニ ニコニコ顔の給仕が、テープルにかかったフェルトの覆い布をさ っととりのけた。おお、神さま ! おとなの脚ほどの長さのある魚「顔でふたりに近づいてきた。 の丸焼が、海草のあしらいの上でホカホカ湯気を立てている。すき「おどろいたろう、ええ ? 」と彼は感想を求めた。「グラスゴーの 、っせいに歓呼の声を上げた。船長たちは積み上げ船の見張りが、きのう、半キロむこうにこのデカブツがいるのを発 っ腹の一同が、し られた盆をめいめい手にとり、ナイフとフォークで切り分けに忙し見したんだ。彼が信号で問い合わせてきたので、ポートをおろして 漕ぎよせろと命令した。ポートの連中は、餌を食っているこいつに い給仕の前へ行列を作った。 ー 47

8. SFマガジン 1971年7月号

っている娘に、何がいえる ? 最後の瞬間を待っ彼女に。 思考を追い続けた。それは、ロリーンの思考のなかに、彼女を死へ 「何もいわなくていいのよ、ジョニイ」その声には、もはや緊張はと導いた何ものか、彼女を行動へとかりたてていた捉えどころのな よ、つこ 0 / 力学ー い何かが、いまだ薄らぎもせず力強く息づいているのを知った。 破城槌がふたたび打ちつけられ、ドアが内側にむかってひしやげ死の訪れのさなかにあっても、彼女はまだ行動の理由、未知の因 た。このつぎには破られるだろう。彼は銃をあげた。 子への糸口をあかそうとはせず、その好奇心はかきたてられた。あ 「何もいわなくていいのよ」彼女はくりかえした。「さようなら、 りったけのロジックを用いて、それは理解しようとしたが、すべて 失敗だった。もしかしたら、その秘密は彼女の肉体あるいは精神の それが予想もしなかったも 彼は、ロリーンの心臓が妓動を打っているであろうその部分に狙なかにひそんでいるのかもしれない のが、彼女の肉体に存在しているのかもしれない。 いを定めた。 破城槌がドアを破壊した瞬間、彼は引き金をひいた・ 警官たちは捕虜をつれて出ていき、彼女は床の上に一人とり残さ 銃が轟然と鳴りひびき、彼女はつかのま体をこわばらせたが、それた。それは死につつある女に近づいていった。多少息があろう のまま壁を背にして膝をついた。何かいおうとしているが、血がロが、かまわなかった。見逃した因子ーー他人のために自分の命を投 のなかにわきあがり言葉にならない。彼は弾丸があたった場所を見げだすほどの行動に彼女をかりたてた不可解な要素ーーーを一刻も早 たー・ーー高すぎる、あまりにも高すぎる。致命傷ではあるが、即死でく見つけたかった。 はない。喉につまった血で、窒息死するのだ。 途方もない能力を有するそれは、組織をまったく破壊せず、彼女 煮えたぎるような怒りと悔恨をお・ほえながら、彼はふたたび銃をの肉体のすべての細胞に浸透することができた。それは死にかけた あげた。しかし、そのときには警官が背後に近づいていた。ライフ女の体内にはいりこみ、彼女がこれまでに持っていた思考、記憶、 ルの銃床が後頭部にふりおろされ、彼は床に倒れた。闇と無意識が感情をことごとく知った。そして彼女に死が訪れたその瞬間、それ はそれ自身のなかに、彼女の自我を再生させた。 訪れた。薄れゆく意識のなかに、声がひびいた。「女は死んたか ? 」別の声、「うん、死んだようなものだ。行こう ハーカーカ それは見落していた因子を発見した。そして、今までなぜ分析が できなかったか、その理由をついに理解した。 待ってるそ」そして何もかもわからなくなった。 見落していた因子とは、一つの目的であり、過去一一十億年にわた 生き物の死を、それは今まで見たことがなかった。しかし死の回ってその目的とともにやしなわれてきた一つの知恵であった。それ 避が、あらゆる要求のなかでもっとも強いものであることは、それまで学んだ知識とはあまりにもかけはなれた分野であり、また想像 なりのロジックで悟った。それは、壁ぎわで死を待ちうけるロリー を絶する歳月を経たものであったから、巨大な知性もそのあまりの四 ンの思考を追った。それは、弾丸を胸にうけ、床に崩折れる彼女の大きさにしばし途方にくれたほどだった。

9. SFマガジン 1971年7月号

いか。おもてむきにはできぬが、倭姫さまよりも、できるかぎりの 「やはり承諾していただけぬか。命を救ってもらったうえ、無理な ことはしていただく。もちろん、王子成人のあかっきには、相応の願いをきいてもらおうとは、こちらの申すことが、虫がよすぎるの 礼をさせていただく」 であろう」 石占の横立は、くりかえし頭をさげて頼みこんだ。この勇士とめ 石占の横立は、カなく呟いてから、いさぎよく引きさがった。や ぐりあったのが幸せであった。この王子を託すべき相手は、この勇むなく、宮戸彦にむきなおり、これからのことなど話しあおうとし 士をおいて他にない。老人は、王子の不運をもたらした責任を感たとき、美濃の稲置が呼びとめた。 じ、その罪をつぐなうため、生涯を賭けて王子の味方になるつもり「ご老人。大和の王子を預るわけにはいかぬが、幼な子ひとりく でいる。穴師の里に蓄えてある金銀を全てさしだすとまで申しでらいなら、世話をしてさしあげよう。無論のこと、礼などしてもら えひこおとひこ こ 0 おうとは思うまい。わたしにも、兄彦、弟彦という二人の息子があ 「お願いでございます。どうか、王子さまをお連れくださいまし」る。その下に、もう一人、子どもがあっても、育てあげる手間はお かたわらから、宮戸彦も口添えする。この若者は、さきほどの死なじことだ」 闘を目撃してから、人柄はともかく、この勇士の戦いぶりに憧れて「なんと ? それでは、この王子を預ってくださるか ? 」 いるのであろう。 穴師の長は、はずんだ声で問いかけた。 「お断わりいたす。わたしは、大和王家の内輪のことに、かかわり「いや、ただいま申しあげたとおり、大和の王子として預るわけに あおうとは思わぬ。いたいけな幼児が、兇悪な獣の毒矛にかかるのはまいらぬ。そのかわり、わたしの息子として、お育てしよう」 美濃の勇士の言葉をよろこび、石占の横立は、小碓の王子を下人 を、見すごせなかっただけである」 乳近の稲置は、鄭重にことわった。この豪族が、そう思うのも無の宮戸彦とともに、美濃の国へ落ちのびさせることに決めた。 理からぬことであった。かって、大和の征服をうけた美濃の住人が この王家に好意を抱いているはずがない。しかも、美濃に進駐した 3 美濃の稲置 八坂入彦は、この国の土着の豪族の勢力をなしくずしに削ぐっもり でいる。征服者の目からみれば、いちおう大和に臣属し貢物を献上 おうすみこ しているといっても、広大な領地をもち独立を保っている土着の豪 小碓の王子が、乳近の稲置にともなわれ、美濃の国へおもむいて 族階級は、ひどく目ざわりなものに写る。そのため、さまざまな口 から、はやくも五年の月日が過ぎさっていった。 実をもうけて、領地をけずったり、人民をとりあげたりしている。 美濃の豪族は、飛鳥の原において、石占の老人に約東したよう ちちか やまとおぐな こうした大和の動きに対して、豪族の一人である乳近の稲置が、反に、この幼児を大和の王子としては扱わなかった。大和の童男とい 感をいだいているのも当然といえよう。 う愛称でよび、おのれの二人の息子とともに、わけへだてなく育て ちぢか ちぢか いなき 225

10. SFマガジン 1971年7月号

も会っていないのだ。アメリカで、おとなが読んでも楽しめる児童だけで十分なのだ。今までほかのでさんざん読まされてきた物 作家としてハインラインと並ぶ評価をうけながら、彼女の五十質瞬送装置やパラレル・ワールドの理論をまたここで何。へ 1 ジも続 冊あまりの長篇がわが国でまた一つも翻訳されないのは、そんなとけられては、たまったものではない。たとえば、前者はスペース・ ウォー。フと、後者は多元宇宙や時間旅行と密接に結びついている。 ころにも理曲があるらしい。 それは、まあ、このさいどうでもいいことだ。 それらは、ウ = ルズ以菶の作家たちが、当時の最新の科学理論 先月号からはじめた、ドナルド・・ウオレ、 ノ , イムの現代論を自分なりに解釈しながら、小説的アイデアとして何十年もかけて 『宇宙製造者たち』の紹介ーー彼の観をもう少しはっきりさせ発展させてきたものだ。 「わたしがここで強調しているのは」と、ウォルハイムはいう。 るために、『魔法惑星』の冒頭で使われる物質瞬送装置 ( ? ) のア 「現代では、もはやこの種の議論に深入りする必要はなくなっ イデアがちょっと必要なのである。 ているということだ。作家はただ〈星の門〉とか瞬送装置と書くた ウ - オレ、 。そうすれば読者は、むかし読んだを思いだし、将来 ノ , イムはこの評論のなかで、「はの上に築かれる」けでいい 発明されるであろう装置としてその必然性を自己の内部でおぎな という言葉を好んで使っている。要約すれば、こういうことだ 、抵抗なく小説世界をうけいれてくれる。 アンドレ・ノートンの『魔法惑星』のなかには、「物質瞬送装置、 といった用語はいっさい出てこない。第一章で、この地球と似はの上に築かれていく。その結果、現代は擬似科学 てはいるが、歴史がちがう道をたどった別世界ー・ーいわゆるパラレ的仮設を際限なくくりかえす必要から解放され、社会学的可能性 ル・ワールドの話がほんの数行だけ紹介される。それ以上のくわしや、未来における人類の動向をより自由に扱うことができるのであ アンドレ・ノートン『魔法惑星 い説明はる」 この理論が、現代のほんの一部にしかあてはまらず、しか 場面のそ とでは行も、そのほとんどが他人のアイデアを借用するだけで、自分では何 一つ新しいものをつけ加えられない三文作家によって書かれている なわれた ことについては、ウォルハイムはまったく触れていない。 が、直接この本のもう少し前のところには、こんな文章がある 読者にむ「 : : : は、一般の文学と同様に、作家の生涯、全著作、文体の 、・かっては評価といった面から論じられるだけの文学形式ではない。と なされな は、何よりもまず多数のアイデアの一つの体系なのである。アイデ じつアとの関わりあいは、文体以上に大きい。は、未来を、可能性 さいを思索する。それらこそ、主人公の性格の掘下げより重要なものな ファンにのだ」 は、それでは、登場人物よりもアイデア自体が主役といえるものが多 盛 DR に OR 0 庭 ma 090i 廳ま 0 on 2 ′可 0 7