あいだ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年7月号
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1. SFマガジン 1971年7月号

0 : リノリウムにも何の跡もっ くつかとなると : : : 冷蔵庫なんかね : いていない。十年ものあいだには、少しぐらいっきそうなものだ。 ・ほくは調べてみたんだ。あのソケットには、何か別のものがつけら れているよ。配線を変えてみたって何にもならないんだ。あいつに は電線なんか必要なかったんだろう。楽だからというんで、スイツ チを少しはいじってみたろうカ冫 : 、・まくの考えでは、かれがやらなけ ればいけなかったことは原子をちょっといじるだけで : : : はい、機 械ができあがりってな具合さ」 「生きている家か。馬鹿げているよ」 「ロポットの家かもしれん。ロポットま、」 。に人間の格好をしてい る必要はないんだからな。ここにあるのはロ・ホットさ、本当に。そ して機能的に設計されたものなんだ」 メルトンは荒々しく答えた。 ・ : 引っ越したらいいんだ」 「わかった : ・ 「そのほうがいいな。この家はジャックのために作られたもので、 ぼくらのためには作られていないからな。正しく働いていないん 男の機械のためのソケットにつない だ。冷蔵庫は変だが、それは、リ であるからなんだ」 「ほかのプラグでも試してみたよ」 「うまくいったかい ? 」 メルトンは首を振り、落ち着かないように身じろぎした。 : な・せフレンチは : : : つまり、かれはな 「それがまだ : : : 変たな : ・ 「なぜ白人がウ・ハンギの部屋で暮らすのかか ? 民族学、それとも 昆虫学の研究だろう。それとも、気候のせいかな。それも単に、休 8 息に : : : 寒さを避けるためか。ジャックがどこから来たにしろ、

2. SFマガジン 1971年7月号

た生体は、すべてサイボーグといってもい ろう。 さまのものは、いやなのである。 じっさい、この両者は、おたがいに密接したがって、自分の腹の皮膚を腕に植え もっとも、厳密にいえば、延命効果を主な関係をもちながら発展してきたのだが、 かえるような自家移植の場合は、あまり問 体とする医学的なメディカル・サイボーグ一九五六年にメリルによっておこなわれた題にならない、一卵性双生児のような同系 と、宇宙で活躍するための積極的改造とい 一卵性双生児の腎臓移植成功のあたりか移植もかなり条件がよく、二卵性双生児、 うニュアンスをもっスペース・サイボーグら、臓器移植は人工臓器よりも一足先にす兄弟、親子の順にむつかしくなる。そして では、多少意味あいが異なっている。だすみだした。日本でも、一九五七年には角同種移植 ( ヒトとヒト ) や異種移植 ( ヒト が、技術的な面でいえば、両者にはそれほ膜移植法が成立し、その七年後には移植学 どのちがいがないから、ここではメディカ会が誕生した。骨銀行や皮膚銀行もある ル・サイボーグに焦点をしぼりながら、不し、腎臓移植はかなり普及している。た 死テーマを追求してみよう。 が、どこかに限界がありはしょ オいだろう 臓器か機械か 一般的にみて、下等な動物は移植がたや すい。しかしヒトの場合は、他人の皮膚を もらってもなかなかひつつかないから、自 サイボーグへの技術的・具体的なア。フロ ーチとしては、二つの道が考えられる。一分の皮膚を必要な部分に移しかえているよ つは機械の側からの研究であり、もう一つうな現状だ。他の動物からとった材料な ら、ひどく困難で、トラの皮をはいでヒト は生きものそれ自体の問題だ。 に植えるなんてことは、ちょっと成功しそ もちろん、人工臓器のような機械をつく うにもない。 る場合にも、人間工学的な研究が必要であ る。つまり、生体と機械のあいだに合理性それは、″拒否反応んの名で知られてい をもたせて、うまく適合させるような関係る抗原・抗体間の現象、つまり免疫反応が をみつけておくことだ。また、生体の構造おこるからだ。生体の高分子物質は、みな や働きをしらべること、すなわち生理学的抗原になる性質をもっている。これが他の な研究を欠かせない。だがとりようによれ生体に入ると、なかで抗体をつくり、両者 ば、生体内のいろんな臓器も、人間がつくのあいたに反応がおこるのだが、移植の際 ったわけではないがサイバネティックなもには、これが臓器をもらうレシビエント のだから、サイボーグを考える過程で、臓 ( 受容者 ) の側に拒否反応としてあらわ 器移植をとりあげておくのも必要なことたれ、好ましくない状態をつくるのだ。よそ 、 0 体 生 臓器移植 生理学的研究 メディカル サイボーグ 人間工学的研究 スペース・ サイボーグ 機 人工臓器 図 1 サイボーグへの研究経路 け 5

3. SFマガジン 1971年7月号

春のプランクトン増殖期。グレンヴィル船団のおとな全員と子供 りこんで、遺体を処理するのは、気丈な男女でなくてはできない仕 たちの大半が、めいめいの仕事に忙しい。七十五隻の大帆船が、彼事だ。あとあとまで悪夢にうなされるほどなごたらしい、食人行為 が起こっているだろうからだ。 らに割り当てられた緯度二度ぶんの南大西洋をかきわけて進み、 へさきの波切りの下で泡立っ水も生命で満ちあふれている。増殖期七十五人の船長たちは、収穫のあいだじゅう、彼らだけに課せら の数週間、日光が光合成の引き金をひくだけの強さで浸透する水深れた煉獄のような精神的試練、帆と網との方程式計算をやりとげね . ばならない。風力と風向の刻々の変化、水温、小動物の濃度、船体 数メートルの表層では、極微の胞子がはじけて極徴の植物となり、 やっと肉眼で見えの滑らかさなどを考えに入れながら、帆の推進力がつねに何ポンド それをむさ・ほった微小動物が、全長二、三ミリ、 る海中怪物のロに流れこむ。そして、さらにそれらを追いかけ、か網の牽引力を上回って、船の進路と相対的位置をたもちつづける ランスをとるのが彼らの仕事なのだ。いったん収穫物の塩 獰猛にむさ・ほる、獰猛な小動物の群れ。これらの小さな = シンやエよう、・ ( ビは、きみの目の前で、百イルの緑の海を融けた銀に変えるの潰け作業がおわると、船長たちはグレンヴィル号に集ま 0 て、うさ 晴らしの大宴会を開くしきたりだった。 上級者にはそんな特権がある。しかし、船長付きの漁網係士官 増殖期の銀色の大洋の上を、船団は間切りをくりかえしながら、 一糸乱れぬ大きなジグザグを描いて帆走していた。そして、それそや、操作部や保全部につとめるその下働き、あるいは食糧係士官 れの船が、その船尾から果てしなくくりひろげた青銅の漁網で、海や、その下で働く調理部、貯蔵部の連中には、そういう息ぬきはな 、。彼らは一日二十四時間、ひたすら働く。マストと舷外端艇から の銀を穫りいれていた。 グレンヴィル号に坐乗した船団司令は、増殖期のあいだ一睡もしの索で網をふくらませながら後ろ〈流し、中央の大ドラムでそれを ない。彼とその幕僚は、増殖状況を偵察にカ , ターを送り出し、気巻きとり、網を傷つけないよう刃先を加減しながら、そこにく 0 っ 象班の言葉に耳をすませ、偵察艇からのひ 0 きりない報告を消化しいた小動物をこそげおとし、破れた個所には修理をほどこす。一方 て、夜明けの信号への準備に徹夜で働く。こうして主檣に掲けらでは、収穫のあいだも休みなく、とりいれたものを急いで調理し、 れる信号旗が、各船長に、「船団針路五度右〈」とか、「二度左〈」千物にするものは乾し、一部は圧搾して油をし・ほり、そして調理と とか、あるいはただ、「船団針路変史なし」とかを知らせる。この乾燥と圧搾のすんだものを、傷みがこず、船のバランスを変えず、 船団に所属する百二十五万人のこれから六カ月間のいのちは、これ子供たちにも荒らされない場所へ保管する。これは銀が融け去 0 て らの夜明けの信号にかか 0 ているのだ。さいわい、そんな前例はす緑の上〈薄くまだらに残り、やがてす 0 かり銀が消えてしま 0 たあ くないけれども、失策の連続が災いして、一船団の収穫が生命維持とまで、何週間もつづけられる。 ときには、そうした 日常作業の大部分は、増殖期のあいだもまったく変わらない。金 の最低線を下回ることも、ないとはいえない。 他船団の遺棄船が発見され、救助されることもある。最初そこへ乗工、帆作り、木工、飲料水係、そしてある程度までは倉庫番もだ

4. SFマガジン 1971年7月号

もききのがさぬよう、耳をそばだてた。剣をもった手をゆるめ、ど ることができない。 こから襲われても防げるようにした。 月光に照らされながら、男と獣は、にらみあったまま凍りつ こうして、立ちつくす男と、見えざる狼のあいだに、しばしの時 た。二つの影だけが、黒く浮きたち、すすきの葉のそよぐ波のなか がながれた。 に、そそり立っているように見えた。 二つの影を支えているのは、双方の気力だけである。いつはてる突如、男は、背後のすすきの葉が、かすかに音をたてるのを感じ とも知れず、時のたつのもかかわりなく、二つの像のように、じっとった。踏みしだかれたすすきが左右に分かれると同時に、重量の ある巨体が大きく跳躍して、頭上に降ってきた。男は、とっさに身 と立ちつくしている。 を沈め、太身の剣をふり、頭上を薙ぎはらった。剣の切先に、肉を 男は、全神経を獣にそそいでいた。こちらの考えていることは、 たつ手応えがあった。 この兇暴な獣に、すべてつつぬけになっている。それがわかってい 冫ーしかない。男の心には、獣に対地におちた巨体めがけて、走りよりたくなる誘惑をおさえ、男 るから、うかつに仕かけるわけこよ、 は、ふたたび剣をかまえ、不動の姿勢にもどった。 する憎しみの感情はひとかけらもなく、むしろ冷やかな感情だけが あった。 向きあった獣の前肢の一方が傷つき、月光に黒々と鮮血をしたた 獣のほうも、それを知っていた。うかつに襲いかかれば、かえつらせていた。飛鳥の真神と恐れられた獣は、かってこれほどの痛手 て墓穴を掘ることになる。力強い前肢と鋭利な牙の攻撃を、どのよを受けたことがなかった。小ざかしい人間を相手にして、予期せぬ うにして男が防ぐかは、まったく予想できない。人の心を読める獣不覚をとるとは、耐えがたい屈辱であった。だが、獣のまえにいる 人間は、なみの剣士ではない。驚くほど冷静な、尋常でない勇士で は、これほど冷静な人間を敵としたことがなかった。 あった。 しばらく対峠してから、行動をおこしたのは獣のほうであった。 だが、襲撃の気配をみせたのではない。そのまま後ずさりして、丈 いっ果てるとも知れぬにらみあいが再会され、二つの影は、さき ほどと同じ位置をたもち、凍りついて動かなくなった。 高いすすきの叢みに、ゆっくり這いこんでしまったのである。 男は、傷ついた獣を見すえて、考えていた。その考えがすぐさま 男の面前から、獸の姿が消えた。獣は、にらみあいに耐えられな くなり、逃げさったのであろうか ? 男の脳裡に甘い考えがひらめ相手に読みとられるのを承知のうえで、なおも考えつづけた。 いたのは、ほんの一瞬のあいだのことにすぎなかった。巨大な人食年老いた狼よ、これは、たがいの気力を試しあう勝負だ。すこし 狼は、不利なにらみあいを避け、すすきのあいだに身をかくし、狼でも気力の衰えたほうが死ぬ。さあ、襲ってくるがよい。その鋭い 本来の習性である奇襲をかける機会を、どこかでうかがっているに牙と爪をふりかざし、挑んでくるがよい。出血がつづけば、きさま が不利になる。どうした、臆したか。ならば、尻っ尾をまいて退散 ちがいない。 男は、体じゅうの神経を針のように逆だてた。どんな小さな物音するがよかろう : ・ 222

5. SFマガジン 1971年7月号

験によってたくわえられた一つの知恵にもとづいていた。それは、 よ。これで人びとも解放されるわ ! 」 「とても信じられないよ。そんなこと、ぼくには信じられそうもな数えきれぬ試行錯誤を経て体得され、本能としてつぎの世代へと受 3 け継がれ、築きあげられた知恵であった。 い。だけど、きみはちゃんとここに生きている」彼はロリーンを引 き寄せこ。 ナ「もし、その生き物が〈国家〉を倒すのを手伝ってくれそれは、またたくまにロリーンの精神の真のひろがりを理解する るとしても、そのあとはどうなるんだ ? 」 とともに、もう一つの新しい事実に直面したーーそれは生命の本質 「それは何かがほしくてそうするんじゃないの。あたしたちを助けをまったく知らずにいたのである。それ自身、一つの生き物ではあ ったが、生命については無知だったのだ。その知識は、非生物の範 たいから助けるのよ。仕事がすんだら、まわりにエネルギー・バリ アーを築いて、そのなかに引きこもるといっていたわ。でも遠い未囲に限られていたのである。 来には、そのバリアーをおろして、都市にはいってきた人間に、何生命について、それがロリーンから学びとることはたくさんあっ た。彼女のなかには、生存のために向上し、変化し、闘争し続けて か教えるんですって」 きた有機体が、これまでに学びとったすべての知識がたくわえられ 「さつばりわからないし、・ほくにはとても信じられそうもないよ。 だが、もしそれが本当なら、その生き物の考えかたを・ほくが理解でていた。母なる太陽が、一周二億年の長大な軟道を描いて銀河系の きなくた「て、べつに問題じゃないわけだ。とにかく、それは・ほく中心を十回まわるあいた、試行錯誤と死と学習を果てしなくくりか えしてきた有機体。 らを助けてくれると約東してくれたし、きみを・ほくに返してくれた 二十億年にわたる試行錯誤と学習の過程ーー・一方、それは誕生し んだものー・ー何もいうことはないよ」 腕のなかで息づく彼女の存在に、過去の苦しみがすべて洗い流さてまだ十五年にしかならないのだ ! その知識への渇望に際限はなかった。記憶の貯蔵庫に新しい知識 れてゆくのを感じながら、ソ 1 ンはじっとそこに立っていた。 を一刻も早くとりいれようとするあまり、それは学習の。へ 1 スを速 「長い、さびしい夜がとうとう終わったんだね、ロリーン」 めた。ロリーンの感情を再生することによって、理解はたやすくな 十五年の歳月は、一個の知的存在に多くのことを教えるーー非生ったが、流れこんできた知識は、それまでの物質的な事実とはあま りにも異質のものだった。 命と、この場所、この時間のこと、加えられたカに反応はするが、 しばらくのあいだ、その冷徹なロジックは動揺し、それはおのれ 意志も目的も持たぬさまざまなもののこと。 しかしロリーンのなかには、はるかな過去に発する一つの目的がの見出したものに呆然としていた。一かけらの原形質が、数千、数 秘められていた。それは、二十億年前へ、すべての始まりへとさか万世代にわたって生きのび、進化していくためには、どれだけのこ の・ほる長い歴史を持つものだった。彼女を動機づけている種々の要とを学ばねばならないか、それははじめて知った。 素は、不合理でないばかりか、幾百世紀も、さらに幾百世紀もの経やがて調整が終わったとき、その内には一つの目的が生まれてい

6. SFマガジン 1971年7月号

まさる復讐はあるまい。大王は、さっそく笠縫に使いをたて、父子ちをしていた。大王は、我が子ながらも、その美しさに見とれるば の対面ーー実は処刑の日を、一週間のちにのばすと伝えさせ、大和かりであったが、積年っちかわれた憎悪を忘れたわけではなかっ のうちに住まう群臣たちに、宮へ参上するよう触れをだした。 た。それどころか、王子の美しさに嫉妬めいた感情をいだき、ます その一週間のあいだ、美濃の兵士たちは、ものものしく笠縫の社ます反感をつのらせていた。 をかためていた。もし、そのあいだに、大王が不意討ちをかけたり「おのれ、大和の王家に仇なす息子よ。よくも、この宮のうちに、 しないよう警戒するためであった。 図々しくも現われおった。ただちに首刎ねてくれるわい」 日代の大王のもとに、叔父にあたる八坂入彦が参上したのは、四大王は、完全にとりみだしていた。 日目のことであった。美濃から駈けつけてきた老将軍は、ます開口呼びあつめられた群臣は、そんな大王の態度をいぶかり、むしろ いちばんに、不幸な王子の助命をねがいでた。老将軍は、稲置が出王子のほうに同情しはじめた。王子への同情は、群臣のあいだばか 発したのち館を訪れ、留守をあずかる兄彦から、すべての事情を聴りでなく、ほかの王族からも湧きおこった。石占の横立が、さきの きとり、老驅にうってもどってきたのである。乳近の稲置の身に予言を撤回し、助命工作をすすめたためばかりでなく、おもわぬと 万一のことがあれば、美濃の国じゅうに大叛乱がおこるであろう。 ころから、同情する声がおこった。 もちろん、大和の力をも「てすれば鎮圧できないことはないが、多「六つの子、殺すの可愛想だ。どうか命を助けてや 0 ておくれよ」 むつわけみこ くの兵士を損することになろう。叔父の警告をうけて、大王は、ま 発言したのは、大王の兄にあたる誉津別の王子であった。そのお すます依固地になり、王子の処刑をくりかえし叫びたてた。 ・ほっかない口ぶりには、ふかい愛情と真実がこもっている。幼児な いよいよ、対面の当日がきて、乳近の稲置は、王子の手をひく倭みの知能しかないと思われている王族の発言だけに、利害をこえた 姫にともなわれ、日代の宮へ参上することになった。笠縫にのこさ 意見とみなされ、多くの人の共感をよんだ。 れた三百の兵は、次男の弟彦の采配にまかされた。九歳の少年は、 さらに、倭姫が、誕生のときの予言の誤まりを公開し、王子を殺 丈の短かい専用の弓を与えられ、この年にして百発百中の技をもすべき理由がないことを説明すると、さらに多くの人の意見が助命 ち、後年の弓の名人のきざしをすでに備えていた。 にかたむいた。 みあらか 乳近の稲置は、悪びれたところもなく、日代の官の御殿のまえに「大王よ、ここはひとつの、当の王子と話しあわれてよ、 すすみ、大王にむかって父子対面のよろこびをのべた。それにこた ござりまするか ? 」 えて、倭姫がすすみでて、王子をまえに押しだした。 頃合をみはからって、石占の横立は、とりなし顔で、水をむけて その瞬間、大王は、おもわず息をのんだ。王家に仇なす子というみた。そういわれると、大王としても、王子に言葉をかけないわけ ことから、醜悪な容貌の少年を心に描いていた。だが、目のまえににはいかなくなった。 けだか おうすみこ いまし 現われた王子は、まことの王者の子にふさわしい気高く美しい顔だ「小碓の王子、汝は、たしかに吾が子じゃ。は、なんの罪もな たけ やまと 2 引

7. SFマガジン 1971年7月号

るぜ。でもそういっている。スタインウィッツとコールマンる事件があったという。その女性はどうやらマーデカという名であ 博士が、いまの放射能レベルでは人類は生存できないと、ちゃんとるらしく、そして彼女がごく最近に出産をすませた体であること は、たしかだった。それ以上の事実もなにもわからなかったが、そ 証明したんだ。さらにーー・おまえさんも、いまに肺ガンでポックリ のロよ。自動車一台の排気ガスで、二・七〇三人の肺ガン患者が発れから何世代かのあいだの孤児院の収容者たちにとっては、彼らよ りも明らかに恵まれぬスタートを切ったものが仲間のなかにいるこ 生する。といって、自動車をやめるわけにやいかねえ、そうだろ ? さらに 非行少年たあ笑わせるね。あいつらはキじるしよ。もうとが、大きな慰めとなったのだった。 ノワード・ヒューズ製作の 彼に人生の転機がおとずれたのは、、 経済は、集団発狂を持ちこたえられないところまできてるんだそ。 『ならず者』のスチールを、問屋へ発注しようとしたときだった。 やつらを去勢しなくちゃだめ。それがたった一つの方法さ。さらに メチ = コフの墓をあばいて、死体を大にくれてやるべきだ。やそのうちの何枚かが、その一年でもう七回目の再注文であること に、はたと気づいたのだ。意外にも、それらはジェーン・ラッセル つは、性病予防法を発明したロクデナシさ。あれから、罰がなくな ったのをいいことに、悪徳がのさばりだしたんだ。いまこの街に必の上半身の大写しではなく、ミス・ラッセルが両手首を縛って吊り 要なのは、むかし大ぜいいたよいよいだよ。やつらがビッ = をひい下げられ、いまや鞭打たれようとしている集団場面だ 0 た。マーデ たり、よだれをたらしているところを、ガキどもに見せつけて、悪力はその写真に目をこらし、「牝大をぶちのめせ ! 」と唸って、注 文枚数を倍にした。それは売り切れた。彼は在庫を当りなおし、砂 徳の末路はこうなるんだぜと教えなくちゃだめだ。 漠活劇映画のスチールから鞭打や拷問の場面を探し出して、特別の 彼は自分の生まれを知らなかった。 組み写真を作った。これも一週間で売り切れた。かくして、彼はさ 「はあん、マ 1 デカ ? そりやまたどういう名前だい ? 」 これが、相手の氏素姓をたしかめる、優雅なニ = ーヨーク式方法とるところがあった。 だ。マーデカはこれに対して、自分は嘘つきのイギリス人でもな才能と機会がこうもびったり一致したのは、たぶん史上五十回目 く、ホラ吹きのアイルランド人でもなく、変態のフランス人でもなの出来事かもしれない。彼はモデルを一人雇 0 て、最初の特殊なポ ーズ写真を自分で撮影した。モデル嬢が鞭の前に身をすくめていた く、こすっからいユダヤ人でもなく、野蛮なロシア人でもなく、ゴ り、物干し綱で椅子に縛りつけられていたり、彼女自身が鞭をふる マスリのドイツ人でもなく、のろまな北欧人でもないと、いつも答 っていたりする写真だった。 えた。もし相手がこの答を気にいらないなら、勝手にしやがれであ 二カ月でマーデカは六千ドルを稼ぎ、その金をそっくり、新しい る。 彼はある孤児院で育てられた。孤児院の伝説によると、一警官が写真の製作とダイレクト・メールの広告につぎこんだ。つぎの一年 たらずで、彼は郵政局のわいせつ文書担当者の注意をひくほどの大 ゴミ。ハケツの中に捨てられている生後二カ月の彼を発見したとき、 たまたま、市電に乗っていた梅毒もちの若い女性が、・出血で死亡す物にのしあがった。彼はワシントンへでかけ、彼らを前にしてわめ

8. SFマガジン 1971年7月号

りを唱えるうち、彼はいくらか気持がおちついた。それからは、 「数学的には充分納得できるな」とソールターよ、つこ。 をしナ「もし、 『古典名作全集』からひたすら目をそむけていた。 一人っ子の因子以外になんの因子も働かないとすれば、一世紀五世 グレーヴズ夫人は、それらすべての浪費と、選ばれた人、至純な代のあいだに、二十億の人口は一億二千五百万に減少する。つぎの る純化者マーデカと説明のあゑ出目で鼻のひしやげた醜男の写真一世紀で、人口は四百万以下になる。もう一世紀で十一一万一一千・・ にむか 0 て、フンと鼻でせせら笑 0 た。テープルが二つもあるなん三十二世代目には、最初の二十億の子孫である最後の一組が一人の て、ばかげているわ。どうしてテーブルが二つもいるのよ ? 近よ子供を生み、それでおしまいだ。さらに、ほかの因子がある。自分 0 てそれをよく見ようとした彼女は、その片方が実は血痕のついたの選択で子供を作らない人間もいるだろうし」ーーと、ジ = ル・ 鞭打ち台であることに気づいて、かすかな吐き気を感じた。ネーム フライトから目をそらして 「ここの階段や、廊下や、部屋で見 プレートには、〈矯正家具製作所。六号。十ー十四歳用〉と書かれたような事件も、その一つだ」 ていた。そりや正直にいって彼女も、子供たちが親の考える正しい 「では、それが答ですわ」とグレーヴズ夫人がいった。彼女はそれ 基準からはずれた行ないをしたときには、一度ならずお尻を叩いた がなんであったかを忘れて、忌わしいテープルをびしやりと叩い ことがある。しかし、その血痕を見たせつな、彼女は隣りの部屋にた。 横たわった親殺しの骸骨に、ちょっぴり同情の念をもよおした。 「わたしたちの船を岸づけして、みんなを陸地に上げましよう。こ ルター船長がいった。 こをきれいにした上で、陸で生きるために必要なことをまなんでい 「では、手はずをきめよう。まだ連中が生き残っていると思うものけばーーー」声がとぎれ、彼女はかぶりを振った。 「すみません、ばかなことを言いました」と、彼女は陰気な口調で 「生き残ってはいないでしよう」とグレーヴズ夫人。「これでは生詫びた。 き残れるわけはありません。きっと世界はきれいさつばり全減した牧師は彼女のいう意味を理解しながらもいった。 すみか んです。彼らはおたがいを : : : 殺しあったけれど、問題はもっとほ「陸地は多くの住処の中の一つにすぎない。だいじようぶ、まなぶ かにあります。この夫婦は、十歳から十四歳のあいだの子供を一人ことはできるよ ! 」 持っていました。この部屋も、一人の子供を目安にして作られてい 「いや、政治的に実現がむりだ」とソール ターがしった。「いまの るように思えます。もうすこし、よその部屋を調べてみれば、一人形態では」 っ子の家族が普通なのかどうかーー・・普通だったかどうか がわか 〈契約〉を彫りこんだマストの影で、船内会議の席にその提案を持 るでしよう。かりにそうだとすれば、彼らは : : : 全減か、全減に近ち出すことを考えて、彼は無意識に小さくかぶりを振った。 いと見ていいと思います」彼女は適切な言葉をひねり出した 「一つ方法がありますわ」とジエル・フライトがいった 「種族自殺です」 。フラウネル組がとびこんできたのは、そのときだった。十八人の 9

9. SFマガジン 1971年7月号

やまと たかが稲置の分際で、大それたまねをしでかすと とまどうほどであった。どうやら、倭姫の布教は、何度か挫折をく「おのれが ! 0 りかえしながらも、成果をあげているようであった。 は、身のほど知らぬにもほどがあろう。即刻、これへ連れてまい っ△ いっき は 美濃の稲置を迎えた斎の姫は、穴師の長から事情をきいていたのれ。わしの手にかけて、首刎ねてくれるわ」 であろう。稲置の労をねぎらい、五年ぶりに甥の王子と対面し、そ大王は猛りくるった。もともと、気の小さい男であるから、あの の成長ぶりを喜ぶのであった。育ての父からこの叔母のことをきか折もすぐさま予言を信じ、実の子を殺そうとした。そのとき以来、 されていた王子も、実の母に会ったように、親しみをこめて美濃の不吉な王子がどこかに生存し、成人のあかっきには自からの生命を むら 国のことなどを物語った。この邑をはなれたときは、ようやく一歳狙うことになると、勝手に誇大な想像をして恐れおののき、夜もね になったばかりで、まったく記憶にのこっていなかったが、叔母のむれない日がつづいた。そのあいだに、この男の心のなかでは、行 曖かみのある態度は、どこか遠くへ忘れさられていた何かを、王子方知れずの小碓の王子に対する憎悪が拡大され、今では仇敵のよう に思うまでになっていた。実の子とはいっても、一度も抱いたこと の心によみがえらせた。その胸に抱かれ、優しく髪をな・せられてい た記憶が、かすかに想いだされた。生まれおちるなり母から引きはもないし、顔形すらおぼえていない。六年の歳月ののちに、この王 なされた王子にとって、この叔母の面影は、そのまま母の像にかさ子のことが明らかになっても、すこしも愛情を持てないどころか、 なるものであった。ともかく、この笠縫に兵士たちをのこし、乳近むしろ憎しみのほうが先にたってしまう。 碓の王子を連れてまいりまし の稲置は、単身、日代の宮へのりこむことにきめた。いずれにせ「日代の大王よ。おおせのとおり、小 よ、遅かれ早かれ、易の秘術をもっ田島の守の探知を、まぬかれるよう。しかしながら、もしこの王子を殺すおつもりなら、わたし ことはできまい。それより、こちらから宮に参上し、小碓の王子のは、命を賄けて戦うでありましよう」 ことを言上し、大王の翻意ををうながすほうが、得策であろう。も美濃の稲置は、脅迫めいたことを言いのこし、日代の宮を退出し むらとりで し、それでもなお、王子を殺すつもりなら、この笠縫の邑を砦とした。 大王の不興は、ますますつのった。これまで臣下からこれほど無 て、大和の兵士と戦うつもりであった。 礼いことを言われたことがなかった。しかもこの男は、群臣に列す 稲置が宮へ行っているあいだに、下人の宮戸彦も、倭姫の命をう リて、石占の横立のところへ向かうことになった。双子にまつわるることもできない、卑しい身分の者にすぎない。大王は、この位の つかさ 伝承のことを大王に吹きこんだ当人が、王子誕生のときの予言の誤低い司が、美濃の大豪族であることすら知らなかったのである。 まえつぎみ まりをみずから認め、群臣を説いてまわれば、あるいは王子の助命やるかたない憤懣をしずめるため、大王は、びとつの残忍な計画 をおもいついた。このうえは、無礼な稲置をこらしめるため、でき 工作ができるかもしれない。 きんだい ちぢかいなき 乳近の稲置が参内して、これまでのことを物語ると、日代の大王るだけ多くの人のまえで、恥ずかしめてやらねばなるまい。そのう ちゅうりく えで、王子ばかりでなく稲置の一党をことごとく誅戮する。これに は烈火のごとく怒った。 おうすみこ

10. SFマガジン 1971年7月号

めに連なる、船団の白く広がった帆。 たちも、たよりない話をもぐもぐと呟くだけだった文化的遣産 それは、生きがいを感しさせる夜明けだったーー収穫をたつぶり は、三代の間に蕩尽されて、永久に失われた。 ファンティル と塩潰けし、水槽は満ちあふれ、蒸溜器の千本ものチューブから そして、いま扇形船尾で会議の席についた人びとは、第五と第六 は、日ごと、日の出から日没までのあいだに、ちょろちょろと九ガ世代だった。彼らは、すでに人生について知るかぎりのことを知っ ロンの真水がたくわえられ、そして、頃あいの風をはらんだ帆は、 ていた。人生とは、船腹とマストであり、帆と索であり、 , 網と蒸溜 楽に舵のきくスビードを生み出している。それらが労苦の報酬だ。器である。それ以上でもなく、それ以下でもない。マストなしでは 百四十一年前、グレンヴィル船団は、ヴァージニア州ニューポート 人生はない。網なしでも、やはり人生はない ニューズから、それらを求めて船出したのだった。 船内会議は、指揮をとらない。指揮は船長や職員たちの仕事だ。 ああ、出航の日の興奮 ! 船団に乗組む男女は、自分たちのこと会議は船を運営し、ときには犯罪事件を裁く。八十年前の暗い〈凶 を、英雄、自然の征服者、の栄光のための自己犠牲者と作の冬〉には、六十三歳以上の高齢者全員と、二十人に一人の割り 考えていたのだ ! しかし、の意味するものは、北東部のおとなに対する安楽死を命令した。。ヒールの反乱の際には、首謀 首都圏にしかすぎなかった。それは、空に伸び、地下にもぐって、者たちに血なまぐさい判決をくだした。彼らを船尾から海中へ突き ポストンからニューポートへと連なり、さらに西へ散開していっきおとし、そして。ヒール自身は、船乗りにとって磔刑に相当する、 ′ウス・フリット にビッイハーグをのみこみ、シンシナティーの先でやっと消えかか斜檣吊しの刑を言い渡された。それ以来、おなじ船の仲間に人生の っていゑ一つの濃密居住地帯だった。 スリルを味わせようと考える誇大妄想狂は出なくなり、ビールの長 海に出た最初の世代は、の文化に執着し、それを懐しい苦悶はその役目を果たしたのだった。 み、愛国的犠性の名でみずからを慰めた。どんな口減らしでもありその五十人は、船内のあらゆる部門、あらゆる年齢層を代表して がたく思われる密集地区から、グレンヴィル船団は百二十五万ものいた。もし、船内に知恵者がいるなら、それはいまこの船尾に集結 人口を外へかい出したのである。彼らは海への移民だった。すべてしているはずだ。しかし、言うべきことはほとんどなかった。 の移民とおなじように、彼らも故郷を恋いこがれた。そして、第一一 引退した元製帆係のホッジンス老人が、最年長ということで議長 世代。すべての第二世代とおなじように、彼らも老人たちゃその昔をつとめた。いかめしいあごひげを生やした老人は、張りの失われ 話には我慢できなかった。この海、この順風、このロープ、これがていない声でいった。 真実なのだ ! そして、第三世代。すべての第三世代とおなじよう「船の仲間よ、災難はくだった。わしらはもはや死人じゃ。みにく に、彼らはとっぜんの強い虚無感と自己喪失に陥った。なにが真実い争いや : : : 忌わしい悪行に陥るなと、誇りが命じておる。生きの なのか ? われわれとは何者なのか ? われわれの失ったびることはできぬと、論理が告げておる。したがって、わしはこうに e とは、どんなものか ? だが、もうその頃には、祖父たちも祖母提案したい。全員が自発的に名誉ある死を選び、わが船の遺産を、 はりつけ