前 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年7月号
231件見つかりました。

1. SFマガジン 1971年7月号

ほ・ほ一致して 年月のあいだに老化し、外部から加えられたさまざまな力にねじま いる。そして げられて、そのままのかたちでかたまってしまったらしいのた。 一般的に、そ どうもそうとしか思えないふしがある。たとえばバロウズ評のな れらの人びと かに、自分もまた「比較的偏見のないアメリカ中産階級ーに属する がロにする考 とでもいいたげな表現が出てくる。だが、本多勝一の最近の本や、 えは、正しい ッチエナーの 二、三日前ニューズウィ 1 クで読んだジェイムス・ ものだ。 ( 中 新しい / ンフィクション ( ケント大学学生射殺事件の経過と背景を 略 ) 少し前の 扱っている ) の書評を読むと、比較的偏見がないと自分で思いこん ところで、わ でいるアメリカ中産階級の人間が、じっさいにはどんなとほうもな たしは勧善懲 い偏見にとらわれているか ( 気ちがいに限って自分は気ちがいでは 悪についてち ないとしいはるのとどこか似ている ) そらおそろしくなってくるの よっと触れ だ。そして読みすすむにつれ、この予感はだんだん本当になってく た。これは重 るのである。 要なことだ。 —・アシモフ 近ごろでは旧 少し前のところで、・ほくは、ウォルハイムがアシモフの『銀河帝 式とされているが、重要なことに変りはない。 ( 中略 ) 最近の主流国の興亡』三部作を、の一つの完成像としてとりたてて大きく 小説には、それはほとんど見られない。悲しいことである。 扱っていることを紹介した。 数百万の青少年が今なお・ハロウズを読み、楽しんでいることを、 まったくそのとおりだ、とうなずく人もあるだろうし、あの程度 わたしは嬉しく思う。それは、きわだって優れたとはいえない で ? と首をひねる人もあるだろう。・ほく自身は、一冊半読みかけ かもしれない。しかし、道を踏み誤った青少年の暗い統計の上に、 たところで投げだしてしまったので、公正な判断を下すことはでき それは一すしの希望の光を投けかけてくれるのである」 そうもない。だが、そこまでの範囲では、それ以前に読んで感心し ・ここまでで、ウォル ( イムの人物像はほぼおわかりになったと思たもの ( 『鋼鉄都市』『裸の太陽』、そして『われはロポット』のな う。二、三年前、本誌で野田昌宏が書いていたように、ウォルハイ かのいくつかの短篇 ) と比べると、あまり興味をひかれなかったこ ムには若いころ共産主義にかぶれていた時期がある。大会を粉とは確かだ。心理歴史学、ファウンデーション、 、ユール、銀河系文 い。だがローマ帝国を、政治 砕するため、徒党を組んで殴りこみをかけたなんていう話は、彼の明ーーそういった概念は実にすばらし 純粋さをうかがわせて興味ぶかい。その後、共産主義を捨て、マッ機構から用語までそのまま未来にあてはめ、それらを無批判に使っ カーシズムの嵐も無事にくぐりぬけてきたらしい彼だが、以上の引ているところが、性に合わなかったらしい。しかし・ほくとしても ( & ページへ続く ) 用からも見るように、青年時代の理想は今も彼のうちに残ってい る。たが、かってそれを支えていた若い柔軟な思考力が、三十年の 0

2. SFマガジン 1971年7月号

オリジナル「マーベル・ファミリー」の表紙 ( 上 ) マーベル・コミックス版「キャプテン・マーベル」 ( 下 ) 映画なかに、 登場したことが また、音響効果 ; 、す「よらし、。 隕石から静かにつ き出た、コ・フラの 頭のような、熱線 砲がたてる、鈴の ような、無気味な 音が、サスペンス を盛りあげる。主 人公の一行が、避 難している廃屋 に、そっとはいってくる火星人のテレデ・カメラの目な 放映の日は、朝から、友人の家に出かけ、テレ・ヒの前に、 望遠レンズをつけたカメラをセ ' トし、八ミリも、まわすど、うまく考えたものだ。この円盤のデザインは、東宝の 準備をした。その日は、イースターで、友人は、教会に出「地球防衛軍」「宇宙大戦争」などの円盤の形に、影響を かけていたのだが、十一一時から放映がはじまるというの与えたし、 = ・フラ状のテレビ・カメラと、熱線砲は、手塚 で、気の毒にも、彼は、私のために、早くもどらなければ治虫が「地球一九五四」 ( 「冒険王」の別冊付録・単行本 題名は「地球の悪魔」 ) のなかで、応用している。ついで ならなかった。 私は、まるで、一一十年近く前に、はじめてこの映画を見ながら、「地球一九五四。は、「アメージング・ストーリー るときと、同じように、期待にわくわくしていたが、結果ズ」 ( 日本語版・誠文堂新光社発行 ) のなかの一篇「埃にな った新妻」を、下敷きにしたマンガであった。 は、あのときと同様に、心から、楽しんだといえる。ジョ 肝心の火星人は、ほんの一瞬だけ姿を見せる、というの ・パルの「宇宙戦争」は、少しも古くなっていない。 。そして、隕石からとびだす火星人の円盤のデも憎い。いかにも、良くできた火星人だ。また、これは、 色彩がいし ・。 ( ルの映画を見る楽しみのひとつなのだが、チ ザインのモダンなこと。この映画の成功は、多く、この円ジョージ 盤や、火星人の熱線砲などの、しゃれたデザインに負 0 て = ズリイ・ポーンステルの天体画が、タイトルの前と、途 いるのではないか。その後、現在に至るまで、宇宙人の乗中に、つかわれているのがいい。特に、土星の輪は、う 0 とりするほど美しいし、宇宙から見た地球の姿は、アポロ りものとして、これ以上、すてきなデザインのものは、 1 1 暑 & W00 、 0 & 啗物を 5 ー 0 す A 、ら すー ( Ⅳーい ~ A れ ON VANISH ー 0 4

3. SFマガジン 1971年7月号

「今日も遅くなりますか ? 」 ってその女兵士をみた。長い髪を肩まで垂らし、半ば眼を伏せてゆ 「うん」 つくり一歩一歩を蹴り出すようにして歩いていた。 「タ食は ? 」 「このあたりは警報が出てなかったのに」 父親はいった。 「軽いものでも用意しときますか ? 」 「一人だけだったよ」 一・それもいらない」 「そうらしいな。しかし学校から絶対に出てはだめだよ。帰りも迎 父親はそういってもう一度両手を拡げて欠伸をした。ルイスもコ えに行くまで待ってるんだよ」 1 ヒーを飲み終えて立ち上がった。 「うん」 「さあ、行こうか ? 」 ルイスは頷いて、もう一度振り返った。女兵士の姿はもうみえな っこ 0 父親がいった。 「うん」 「さあ、学校だ。気をつけるんだよ」 ルイスはいった。 「うん」 「気をつけてね」 自動車は鋼鉄の門の前に停まった。父親がホンを二度ならすと、 母親がいった。 小さな扉が開き、同時に自動車の扉を開いた。ルイスはすぐに車を ルイスが戸口で待っていると、父親がガレージから自動車を廻し降りて門の中へ駈け込んだ。外に飛び出した一瞬、赤い巨大な太陽 がみえた。 てきた。自動車の停まる音を聞いてから、ルイスはドアを開いた。 すぐ前に自動車の扉が開かれていて、ルイスが入ると、父親は自動 車の、母親は家のドアを閉じた。庭には一カ月前に手榴弾が飛び込・・ o の拠点の一つとなっている旧政府軍駐屯地は、およそ んできた時の二メートル程度の穴がそのまま残っている。 一キロ平方の廃墟であった。しかし、周辺には病院、中学校などの 自動車は動き出した。ルイスは窓の硬質プラスチックをたたいて一般施設があり、そのため付近が広域爆撃に対する聖域を形成して いた。大革命以来この地域がミサイル、空爆などに見舞われたこと みた。ルイスの部屋の窓のものと同じ感触であった。 はなく、聖域はルールとして確立していた。 街に入ると、小さなひとだかりに出会った。ひとだかりの中にパ ロ 1 ザはその地域に足を踏み入れると、まず最初のチェックポイ トロールカーと救急車があり、少し離れた路の端にジープが横転し ていた。救急車はサイレンをならさずにゆっくり動き出したところントで三十秒立ち停まり、旧政府軍の建物でただ一つ残されている で、ひとだかりも解散しつつあった。そこから少し進むと、小銃を指令部ビルの入口の階段を昇ってそこでもう一度立ち停まった。ビ 9 背にした一人の女兵士に会った。ルイスは通り過ぎてからも振り返ルの中は完全な空洞で、中央に地下拠点へ下る階段だけがある。ロ

4. SFマガジン 1971年7月号

「三年よ」 「だから、・ほくら地下運動者は、それを人びとに教えようと身命を 「その前の仕事は ? 」 賭しているんだーーーすると、そのなかに警察に密告するものが現わ 「〈国家〉から見れば、反動教師でしょーーあたし自身は、真実のれ、そいつは金。ヒカの〈愛国者〉メダルを褒美にいただくことにな 伝道者と思いたいけど。むかしはここも偉大で自由な国たったわ。 る」 東から西へ、南から北へ、訊問も妨害もなく行くことができたし、 「あなたは一握りの卑怯者だけから全体を判断してしまっているの それ以上に、人びとはお互いに信頼と友情で結ばれていたわ。不信よ」彼女は冷たくいった。 なんてなかった。人びとのあいだの無関心だって、〈国家〉が一生 ソーンはふたたび徴笑した。今度のそれは、子どもに対するよう 懸命に種をまいているのよ。 な優しい徴笑だった。彼女の信念は彼女自身のものである。それに 今では、愛と信頼の対象は〈国家〉だけ。〈国家〉はよくて、ほ水をさす権利は、彼にはないのだ。「きみのほうが正しいかもしれ かはすべて悪いんたわ。それが嘘たということを証明するのが、あない。そうであ 0 てほしいね。さてとーー・今のうちに、できるだけ たしの仕事だったわ。だれもがもう一度自由になることができ、他休んでおくんだ。もうすこししたら出発する。夜が明けるまでに、 人の生活に干渉する権利はだれにもないということを教えようとしやつらをまく方法を何か見つけるさ」 たの。年配の人たちなら知っていることだけれど、勇気を出してい 彼はふたたび道路に目をやり、いっかは追いつくであろう黒い点 う人はいない。でも若い人たちには教えられるわ。そして、みんなを捜し、耳をすました。ここから見えるかぎりでは、道路に動く影 がわかってくれたとき、そこに共通の目的が生まれる。人びとの団はなく、静まりかえっていた。彼女の視線を感して、ふりかえっ 結の前には〈国家〉も倒れ、人びとは従順な羊の地位から解放された。彼女は休むのを忘れたように、壁を背に上体をびんとおこして るのよ」 見つめていた。また手首の鎖をもてあそんでいる。彼女の顔にある ソーンはかすかな笑みをうかべた。そ・れに気づいて、彼女はきい不安は、金属が触れあうその音にもあらわれていた。 た。「あたし何かおかしなこといった ? 」 「休めるときに休んでおいたほうがいいよ」彼はもう一度忠告し ソーンは無感情な微笑をうかべたまま見つめていた。「羊が牧場「その前に知っておきたいことがあるの。それと、一つだけ約東し から牧場へ移されるのは、屠殺場行きに慣れさせるためでしかない てほしいの。今夜、彼らをまくことができると、あなたは本当に信 ということを、きみは羊の群れに一度でもいいきかそうとしたことじてる ? 」 があるかい ? 」 「まくことができるかもしれないよ : : : できないかもしれない。や 「人間は羊じゃないわ ! 」彼女は反駁した。「人びとの心の底までれるだけやって結果を待つだけさ」 は変わっていないわ」 「自分の信念に従って死ぬのは、あたしたちが最初でも最後でもな 2

5. SFマガジン 1971年7月号

ジョージ・バル「宇宙戦亀」 中の火星人の円盤 そのかわり、外国マンガののである。裁判沙汰になり、結局、キャプテン。マ ほうは、集ってくるいつぼうを中心とする「マー べレ・ファミリイ」のコミク・ブッ ふうび た。このあいだも、ある男性クは、中止になってしまった。この一世を風靡したヒーロ 週刊誌がアメリカのコミッ ーたちの誕生と没落については、別の機会にくわしく書く ベル・ファ クスのグラビア特集をやってつもりでいるが、そんな理由で、いま、「マー いた。ようやく、そんな時代 ミリイ」は、存在しよ、。こ。こ、 オしナオノスタルジアとして、多 になったのた。どうも、私の くの熱心な、コミック・ファンのむのなかと、たとえば、 していることは、ひと時代、 ジュールス・ファイファーの情熱的な本「コミック・ブッ 早すぎるらしい。そして、時クの偉大な英雄たち」のなかに、愛情をこめて、残されて 代が私に追いついてくると、 いるたけなのだ。マ ーベル・コミックスが後年になって 私は、とたんに、めんどくさ 創った「キャプテン・マ ーベル , は、これとは、全く別で くなってしまう。 ある ) その週刊誌のグラビアも、 また、ある美術雑誌が、外国マンガ特集をした。たいへ レイアウトは、さすがにすてん、けっこうなのたが、そのなかで、マンガについての本 し、刀、冫 きだったが、内容は、、、 を、すでに何冊か書いているある美術評論家が、「外国マ も、少ない資料で、とり急 ンガ小史」なるものを書いている。これが、デタラメなの ぎ、まとめたことが、明白に だな。なにしろ、百科事典の記事と、二冊の資料をもと なっていた。なにしろ、現在に、まとめていて、完全な受け売りなのだが、とにかく、 では存在しょ オい、二十年前のマンガそのものを、あまり見ていない評論家が書くものだ スーパーヒーローが、現在の から、結果はひどいものだ。先月号のこの欄で、私は、タ ヒーローと同列に、あたかも、現在も活躍しているかのよ ザンのコミックスは、はしめ、ハロルド・フォスターが うに並べてあったのには、笑ってしまった。しかも、そのはしめたが、途中、フォスターが 「ヴァリアント王子」に 説明に「衣裳が少し古くさい」と書いてある。そりや、 ーン・ホー とりかかるために、降りてしまい、あとを、 そうだよ。いまから、二十年も前のキャラクターなんだもガスがひき継ぎ、一代の傑作を、創りあげたーー、、と書いた の。 ( ついでに言うと、この二十年前のヒーローとは、 けれども、その評論家は、フォスターが死去したので、ホ 「キャプテン・マ ー・ヘル」のことである。当時、たいへんガースがひき継いだとしている。これは、ひどいよ。あん な人気を博したコミック・ブックだが、「スー。ハ ーマン」まりですよ。 の出版社から、待った、が、かった「超能力が、スーパ フォスターは、一大歴史絵巻「ヴァリアント王子」の作 マンにそっくりだ。これは、著作権の侵害である」という者として、アメリカ・コミック界の大御所的存在た。さす コスチューム

6. SFマガジン 1971年7月号

たまりません。だってわたしはあなたの精神の志す世界がどんなも神によって歪められているというわけですね。そうはさせない」 のであるかを知 0 ているのです。いや、それはもちろん、完全に知『全然ビル』の玄関前で立ちどま 0 たおれに、彼はふたたび拳銃を 9 っているわけじゃない。。 こく僅かしか知らないのかもしれない。だ向けた。だが、その拳銃の銃ロは水道の蛇口になっていた。おれは がそれにしてもその世界が、わたしのいちばん嫌いな、わたしの以手をのばし、蛇ロの把手をまわした。蛇口になって下を向いている 前いた世界みたいに末端肥大症的で自由のない、異和感に満ちた世銃口から、鮮血が流れ落ちて歩道にとび散り、敷石を赤く染めはじ 界であることだけはよく知っています。そんなところへつれて行かめた。 れたのでは、たまったものじゃないのです」 唖然として郵便ポストの如く凝固している尾行者におれはいっ 「冗談ではない。末端肥大症的で自由のない、異和感に満ちた世界た。「それは君の血だ。早くとめないと貧血を起しますよ」 とは、即ちこの世界のことじゃないか」 もはや拳銃だか蛇ロだかわからなくなった奇妙な物体をいじりま 「ひっ」尾行者は水しぶきを避けようとするかのような腰つきで立わし、尾行者が迸り出る血をけんめいになってとめようとしている ちどまった。「そうでした。あなたにとっては、この世界がそうだ隙に、おれは『全然ビル』の中へ駈けこんだ。一階の広いロビーで ったのでしたね。今、思い出しました。でもわたしは、そうはさせは、さっきの警官が拳銃を握りしめたひとりの女と格闘していた。 ませんよ。あなたの精神がこの世界を、この宇宙を包みこもうとす女は眼の上に蝶の形をした黒い仮面をつけ、上半身は裸体で下半身 るのを、わたしは全精神力でもって阻止してみせます」 に黒いスラックスをはいていた。警官は喜んで、にやにや笑いなが 「精神力と精神力の戦いというわけか」おれはまた、くすくすと笑ら彼女を背後から羽交い締めにしていた。本当の拳銃強盗がいたの 「なんですか。なんですか。何が面白いんですか」むっとしたよう ロビーの奥には幅の狭い階段があった。おれは階段をかけあがっ た。踊り場で振り返ると、尾行者がロビーを階段めがけて突進して に、尾行者が突っかかってきた。「わたしの決意は、あなたにとっ て滑稽なものでしかないのですか。そうなのですね。よろしい。思くるのが見えた。 いいながら周囲を見まわ彼は階段をの・ほることができなかった。段は消え去り、そこは滑 い知らせてあげます。見ていなさい」そう らかな斜面になってしまっていたからである。尾行者は斜面を勢い した彼は、あたりの様子に気がついて、はっと身を硬直させた。 よく四、五メートル駈け登ってすぐ転倒し、ロビーまで滑り落ち ここは、もとのところだ」 「その通り」と、おれはいった。「もとのところだ。『全然ビル』た 階段を二階まで登りつめると、そこはテープルの下だった。四周 の前だ , 「おかしい。一度しか右折しなかった筈なのに」彼はおれを横眼でに白いテープル・クロスが垂れ下っていた。おれはテー・フル・クロ じろりと眺めた。「では、このおかしな空間は、すでにあなたの精スをはねあげ、テープルの下から二階のフロアーへ這い出た。二階

7. SFマガジン 1971年7月号

時間おきに食い、十二時間に半時間だけ運動した。彼は日付をたどづきつつあった。彼はふうっと鼻を鳴らした。あの午後、ヨットい ろうとしなかった。なぜならそれは彼にとって無意味だったからつばいの愚か者たちが好奇心から上陸してきて、彼の愛する島にヘ だ。日や年が知りたければーーー年でさえわからなくなることがあつどのようにひろがり、愚にもっかない質問を胡椒のように彼の上へ たのだ コナントに説くという手があることはわかっていた。訊ふりかけ、からくも平衡を保つ神経質な彼の心を何日もの間、掻き きたいと思わなかっただけだ。観察に過すとき以外の時間は新人類乱したときのことを思い出した。彼がいかに人間を嫌っているかは のための新しい問題を発展させることにもちいられた。彼の思考神さまだけがご存知なのだー は、今、ここにきて防衛のほうに向けられた。その考えはコナント 不愉快な思い出から彼はあらたに二つのことを思いっき、なかば との会話の間に生まれたものだ。現在はその考え方が基本になって無意識でそれを心の中にもてあそびながら、、敷地を横切り、旧研究 いるが、動機はすこしも重要なものではなかった。新人類たちは擬所の建物にはいっていった。その一つは、建物の周囲になんらかの 似電気的な性質を帯びた振動の場で働いていた。キダーはそのよう種類のカの場を設け、無断侵入者のために警告の標柱を立てておい なものーーーふれたがさいごどんな生物もその場で死んでしまう見えたらどうかということ、そしてもう一つはコナントのことで、この ない壁のようなものにはほとんど実用的な価値を認めることができ何週間かに無線電話を通じ、彼と話を交していてお・ほえた漠然たる なかった。だが、それにもかかわらず , ーーこの思いっきには、興味不安が原因たった。二日前に彼のもちかけた、島に発電所を建てな いかというあの話だがーーー恐ろしいことを考えるやつだー をそそるものがあった。 彼は二階の部屋で大きく伸びをし、自分の創造した人間たちの働 く姿を観察していた望遠鏡から身体をはなした。この大きな制御室キダーがはいってくると、コナントは研究室のペンチから立ち上 にいると、深い幸福感を覚えるのだった。かるい食事をとるために そこを出て旧研究室へ行くというのが、彼のいちばんしたくないこ 二人は無言のまま、長いこと顔を見合わせていた。キダーはこの とだった。敷地をわたって歩いて行くつど、彼はそれにサヨナラを銀行の頭取ともう何年も顔を合わせていなかった。この男を前にす 告げるような気持になり、戻ってくるつどタダイマと声をかけたいると、キダーは頭の皮がむずむずしてくるのだった。 気分になるのだった。自分でもちょっとおかしくなり、苦笑をうか「こんにちは」コナントは愛想のいい声で言った。「元気そうだね」 べながら彼は出て行った。 キダーは低く唸るような声を洩らした。コナントはふたたびべン 島の沖を本土のほうへ何マイルかのところに、黒いしみがーー遠チに腰をおろし、その太った不細工な身体をどうにかくつろがせ い動力船の姿が , ーー一つ、みとめられた。キダーは足をとめ、嫌悪た。 の色をむきだしにした目で、それをみつめた。黒い船体の両側には「質問にむだな精力を費してもらわんでもいいように、はっきり打 白い泡沫の花びらが貼りついていてーー彼のほうへ、しだいにちかち明ければ、わたしはもう二時間前に、小さな船で着いていたんだ

8. SFマガジン 1971年7月号

が、いつもとおなじ役割をつとめ、船体の各部を手入れし、修理ていた。 ソールターはいった。 し、交換し、再生する。船を作り上げている材料は、真鍮と青銅と 「ぐっすり眠れば、また気持も変わるさ。すばらしい収穫だったじ 不錆鋼。漁網や索や大綱を編み上げているのは、燐青銅。索具もマ ストも船体も金属製だ。毎日、一等航海士とその部下の男女が、針ゃないか。それに、天候も、退屈しない程度に荒れてくれたしね。 あのときは、まいったよ。毎日毎 先ほどの錆にも目をこらして、あらゆるものを見回って歩く。たか第二七六期をお・ほえてるかい ? が針先ほどの錆でも、どう広がるかしれない。す 0 かり広がりきら日、判できま 0 た仕事のくりかえしさ。しかし、こんどは、十五日 フォートツ・フスル ないうちに、錆は船を海底に沈めるだろう。それは、おのおのの船目のまっぴるまに、前檣上帆が大きく裂けて、いまにもちぎれそう になった。だが、帆と網の・ ( ランスのためにも、なしではすまされ が毎日曜に開く教会で、船内牧師たちがいつも信者にさとすとおり : 、レーン型大三角帆を広げーー、まあ、待 ない。どうする ? そこてノノ なのだ。地獄の火のような鉄の赤錆と、邪悪な銅の緑青を防ぐた め、何班にも分かれた塗油係が船内をしじゅう歩き回り、収穫物かて、規則違反を責める前に説明させてくれよーー・それから船首の喫 フォート ら蒸溜した油を塗布していく。だが、帆布と衣類だけは、保存の方水調整タンクの水を抜いた。 ( イできあがり ! わけはない。前樋 ツ・フスル 法がない。擦りきれていくのを待つだけだ。そのために、船底には上帆は十五分で交換できたよ」 マクビ】はぎよっとした顔になった。 フェルト機が据えつけられている。擦りきれた帆布や衣類はここで 細かく切断され、海草や膠といっしょに煉り固められて、新しい帆「網をなくしたらどうする ? 」 「うちの気象係が、不意のスコールは絶対にないと請けあった」 布や衣類の材料になるフェルトに仕上げられる。 。フランクトンが年二回の増殖をつづけるかぎり、グレンヴィル船「気象係なんて。いったい網をなくしたらどうするんだ ? 」 ンールターはじっと相手を見つめた。 団は、十マイル境界から十マイル境界へと、南大西洋を帆走しつづ 「マクビー 一回だけなら失言ですませる。二度それをいうのは侮 けることができる。船団所属の七十五隻は、どれも錨を持っていな 、 0 辱だそ。きみは、おれが二万人のいのちをパクチに賭ける男だと思 うのか ? 」 第二八三増殖期の終わりを祝う船長。 ( ーティ 1 は、そろそろ始ま マクビーは、疲れた顔を両手でさすった。 りかけていた。左舷梯隊第一九号の船長マクビーが、右舷梯隊第三 「あやまるよ。さっきいったとおり、ひどく疲れてるんだ。もちろ 〇号のソールターに話しかけた。 パーティーなんぞはごめんこうむりたいほどクタクん、状況によっては、それも安全な手段だろう」 「正直いって、 マクビーは自分の船を眺めに、舷窓へ歩みよった。グレンヴィル タなんだ。 - しかし、おやじをがっかりさせたくないからなあ」 とても八十歳とは見えない、日焼けした、ひきしま 0 た体の船団号のあとにしたがう、長い梯隊の十九番目だ。ソールターは彼の背協 司令は、広間の正面にすわ 0 て、つぎつぎに到着する客たちを迎え中に目をこらした。 スピニカ

9. SFマガジン 1971年7月号

きなかったの。それで、あたしが死にかけているとわかるとゞ寄っ てきて、あたしの心や感情を体内で再生してみたわけ。 それにとっては、生まれてはじめての気の遠くなるような体験 驚いて顔を上けると、通りを走ってくる女の姿が目にはいった。 よ。じっさい長いあいだ呆然としていたみたい。でも、まもなくあ 軽やかにひびく靴音、手首からさがった鎖のにぎやかな音、暖かな たしのことを思いだすと、手遅れになる前に生き返らせる仕事にと 微笑。それは、ロリーンだっこ。 憔悴した、きびしい表情で、彼は立ちつくしていた。これは悲しりかかったの。組織を再生するのに今までかかったのよ。そして、 あなたがハ 1 カーを殺して無事でいることがわかると、あたしをは みが作りだした幻影なのだ。すぐにも消えてしまうだろう。 なしてくれたの。その生き物のほうは、都市の中心部へ帰っていっ ロリーンは彼の前で足をとめた。微笑には不安げな影があった。 たわ。あたしたちを助ける準備にとりかかるために ! 今では、あ 「ジョニイ ! あなた : : : あなた、喜んでくれないの ? 」 たしがしたいと思っていたことを、それもしたいと思っているの。 「ちがう ! 彼は荒々しく答えた。「きみはロリーンじゃない しかも、その生き物には、それができるのよーーそれがいろんなも ・ほくが殺したんだ ! 」 「あたしなのよ ! 」 0 リーンは彼の腕に手をおいた。「ほら・ーーあのを作「てくれさえすれば、一週間で〈国家〉を倒せるようにな る。これをやってくれるというの。あたしたちにも味方ができたの なたと同じように生きてるわ」 彼女の手は暖かく、実体を持っていた。消失してしまうのを怖れ 次号予土ロ るかのように、彼はその手をしつかりと握った。 それ 「しかし、きみを撃ったんた。きみは本当にロリーンかし とも、ぼくを責めるためにさしむけられた何かなのか ? 」 「あたしはロリーンよ。あなたを傷つけるつもりはないわ。このと ヒューゴー一九七。年度 この都市に住んでいた生き物のおかげなの」 おり口リーンよ 中短篇賞受賞作特集 「どういうことなんだ ? 」 ネビュラ 第一回 「一口にいえばアメ 1 バだけど、もっとはるかに複雑なもの。あた したちがここに着いたときから、それはずっと見守っていたのよ。 あたしたちがなぜこんなことをするのかーーそのためには、なぜ命 全版権取得 を投げだしても惜しくないのか、それにはわからなかったの。知能 どうかご期待下さい は人間よりずっと高いのに、持っている知識は物質的なものだけ。 それに感情がないものだから、そのような概念を理解することがで 3

10. SFマガジン 1971年7月号

いよ。道に迷ったりはしないからね。オーケイ・・ホ・フ、・せひにと つきりわからないんだよ、ボ・フ。でも、・ほくは町へ帰ることにした 言うならな」 んだ」 、、カエラは尋ねた。 二人は家の中をまわった。メルトンはほとんど口をきかず、二階 「こわかったの ? 」 の廊下の電灯をつけるとフィルの反応を見つめていた。フィルはそ フィルは首を振った。 「それが変なんだな。ばくは別にこわか 0 たわけじゃない。何もこれには何も反応を見せなか 0 たが、地下室には妙に好奇心をそそら わがるのはなか 0 たんだから。ただ、家の中〈は入るまいと決めれたようで、あちらこちらとのそきまわ 0 た。 メルトンは尋ねた。 ただけなんだよ」 秘密の小部屋か ? 」 「でも、なぜなの ? 」ミカエラは知りたがった。彼女の声はかん高「何を探しているんだい ? いや、違うよ」フィルはもき出しの壁を最後に長いあいだ くなった。「理由はないし、そのことはわかっていたというのに」 「ここには前に、フレンチって男が 眺めてから、階段に向かった。 フィルは酒瓶から最後の一滴をコツ。フに落とし、瓶を高く上げ から た。「わかるだろう ? これは空さ。だが、中に何が入っていたか住んでいたって言ったね ? 」 、こ。・ - まくの調べた限りで 「ジョーン・フレンチ。書類に出てしナたがに はわかる。ウイスキーの匂いがするからな」 は、だれひとりフレンチを見た者はいないんだ。要るものは配達し メルトンは拳で膝を叩きつけると、鋭い声で言った。 てもらっていた。郵便なし、電話なしなんだ」 : なんとかフレンチさ ! 何者だったんだろう ? そい 「それだ : ・ 「推薦書はどうなんだ ? 移ってくるときにはそういうものが つはこの家に何をしたんだろう ? 魔法でもかけたのかな ? 」 そのとき不意に音がした。悲しそうに。ほおーっと鳴り、遠いとこあったはずだ」 ろから響いてきたのか奇妙に虚しい音だ。メルトンはそれが何なの「十年前にね。それも調べてみたよ。ありきたりの代物さ = ・ = 銀 か、すぐにはわからなかった。それから気がついた。夕暮の河を行行、弁護士とね」 「職業は ? 」 く曳船た。 「引退したあとだったよ」 フィルは静かに一一一口った。 フィルは流しの蛇口を試してみた。 「きみは悪く考えすぎているよ。いまのでも飛び上がるんだから : 「ここは : : ・・悪い家だ : : : でも幽霊とか悪匱とか、中世風な意味で 何かにたたられているわけしゃあないな。なぜこう暑いんだい ? 」 「鎮静剤が要るわけさ。このところ働きすぎたからな」 メルトンは説明した。 フィルは立ち上がりながら言った。 それからかれはふと顔を上げて、台所の囲いているドアの向こう 「さてと : : : 家の中を見させてもらおうかな、やつばり。姉さんは リコメンディション 8