彼らは、上陸隊がポートを岸づけしたときから、あとをつけていたは穏やかにそうさとした。「これまでよりももっと深く、心の中を のだ。サック・キュロットを着た九人の女と、贖罪の黒衣を着た九見つめてごらんなさい。そうすれば自分たちが惑わされていること 7 人の男は、あけはなしのドアからなだれこむと、海の民を槍の円陣がわかるはずだ。これは人間のするべき行ないではない。だれかが でとりかこんだ。たしかにほかの困子は働いてはいたが、彼らはまあなたがたを迷わせて、おそろしい道へひきこんだのだ。まあ聞き なさい だ三十一一代目の絶減の世代ではなかったのだ。 「濱神者」女性たちのリーダーはいうと、鮮やかな手並みで牧師の プラウネル組のリーダー格らしい男が、満足そうにいった。 「間のいいときに、おれたちの探しているものが見つかったそ 腹に槍を突き剌した。幅広の冷たい穂先が体をつらぬくショック 新しい血だ」 で、彼はばったり倒れた。ジェル・フライトはすぐに彼のそばにひ ソールターは、相手が遺伝学的な意味あいで言っているのではなざまづいて、脈拍と呼吸を調べた。まだ、いのちはある。 いことに気づいた。 「立て」と男のリーダーがいった。「おまえらの肉体を、いくらわ れわれに見せびらかしてもむだだ。われわれの心には、けがれはな 彼より口数の多い女性たちは、くちぐちにあげつらった。 「邪教徒たわ、きっと。恥ずかしげもなく手足をむきだしにして、 ひとりの男の子がドアに駆けよってきた。 淫欲の寺院の腐った柱を見せびらかすなんて。あの不倫の棲家、呪 われた海から、けがれないわたしたちを誘惑にやってきたのよ , 「ワグナー組だ ! 」と子供は叫んだ。「ワグナー組が二十人、階段 「われわれは女をどう扱うかを知っている」とリーダーの男がいっ を昇ってきたよ」 た。あとの一同は、交互に唱和をはしめた。 その父親がどなりつけた。 「まず打ち倒し」 「しゃんと立て ! モゴモゴいうな ! 」 「仰向けにひきすえ」 そして、槍の石突きをぐいと伸ばして、子供の肋骨をしたたかこ 「片手を縛りつけ」 づいた。子供はニャリと笑ったが、それはけがれない心の十八人が 「もう一つの手も縛りつけ」 階段のほうへとび出していったあとからだった。 「片足を縛りつけ」 海の民が、血を流している牧師になかば気をとられながら見まも 「もう一つの足も縛りつけ」 る前で、子供は廊下にむかってホイッスルを吹いた。その合図と同 「しかるのち・ーー」 時に六つのドアがひらき、中からどやどやと現われた男女が、階段 「鞭打って死に至らしめれば、マーデカは微笑み給う」 の防御に集まったプラウネル組の背中へつぎつぎに槍を見舞った。 ペイハートン牧師は、茫然と彼らを眺めた。 「ありがとよ、おやじ ! 」けがれない心のワグナー組が、けがれな 「あなたがたは、もう一度自分の心をよく見つめてみるべきだ」彼 い心の。フラウネル組の残党を追いつめるあいだ、子供はそう叫びつ
クレー「水中の町」 ( 1927 ) ( 上 ) 「オリエントの庭」 ( 1937 ) ( 下 ) 違うところがあるからである」と、クレーの研究家、ヴィ る。だれだって、少年というものは、なにか夢を見ている ル・グローマンはいう。また、クレーの絵は、すみきっ にきまっているのだ。ただ、その夢を、成長した後も、自 とうひ れんびん た、夢の世界のような、色彩と形にあふれていて私を、 分の逃避の場所として、いわば、自己憐憫の理由として、 つもひきつける。あの「廃園の門」の絵を見つけてから、残しておくか、それとも、その夢の純度を、厳しく磨きあ 私は、クレーについて、調べてみたくなった。 げて、純粋のダイヤモンドが、ガラスを切るように、ひと 非常に空想ずきな、少年。なにか、事物を見ていても、 つの攻撃力としてーーっまり、創造力として、転化させる いつも、その向う側を、見ているような、事物の表面とい かの、ちがいなのである。もちろん、パウル・クレーは、 完成された芸術家として、いわば、その夢の力を磨きあげ うよりも、自分にとってだけの、ひとつの真実を、看とっ てしまい、その自分にて、真実をとらえたのである。 クレーの性格について、ハー とっての姿に心を奪わ ート・リードは「この気 い毎 量 - ( ぎ巧、れてしまうような性質は、心理的には内向的・集中的であり、そして、その気 { 第 : 声翌 , 1 格。それを、私は、ク質の芸術的表現方法においては、メタフ→ジカルであ 0 た」と説明している。この内向的感情型の代表としての、 レ 1 の少年時代の心 に、求めたくな、ってく る。ただ、それは、ど = 第 1 ' はを / 第」 = れでもが、心に描くよ うな、空想過剰の、夢 ' 「ミ阜「 ' / え見心地。若」芸術家と いうイメージではな 。それは、むしろ、 三を第「「一、ノ之を通俗的な、甘えたイメ ・第・、を ' さ一、 % 、、一〔 ' " グ社ージになりがちなもの はっきりいっておく 重が、私は、私自身が、 「幻影の扉」にひきっ けられ、そこへ傾斜し ていく性格を、一種の 、、み 甘えと看ているのであ ー 9
四人が鉄板を張った桟橋の上に立っと、ペン・ ( ートンはさっそく いは、それに応じなければならない。タ・ ( コ、酒類の所持は、不良傾 祈りを捧げた。グレーヴズ夫人もいっしょこ昌ロしこ ; 、 冫一不ノカばかは、つ 向の有力な証拠と見なされる。水道、光熱の濫用、食料の浪費は、不 わの空だった。あたりの景色のおどろくべきだらしなさーーー錆、 良性評価の指標となる。満六歳以上の者がアメリカ国語以外のそれを 埃、ごみ、怠慢ーー・ーから心が離れないのだ。ジ = エル・フライトの 話すことは、非融合傾向の有力な証拠と見なされる。ただし、宗教儀 式をアメリカ国語以外で行なうことは、このかぎりではない。 心の中でなにが起こっているかは、その穏やかな表情から察しがっ かない。そして、船長は、甲板ーーいや、陸地だー の百ャード むこうにある黒い窓の列に視線を走らせ、ためらい、首をかしげその下には、もう一段色の薄い青銅板が、後知恵のようにつけ加 えられていた。 彼らはようやく、ソールターを先頭にして歩き出した。靴の裏に あたる感覚には、奇妙な鈍さがあり、足の甲と太ももを疲れさせ 前記の告示よ、、、 / ーし力なる名称を問わず、宗教に仮装した堕落行為を 容認するものではない。堕落行為の報告を怠った者は、ただちに立退 巨大な赤いサイコロは、近づいてみると、遠くで見たときほど狂 き処分と告発に付せられることを、ここに警告する。 気じみていなかった。どれも千フィート 立方ほどの大きさがあり、 炉の内張りに使われているあの煉瓦という材料で築かれている。煉 この後のほうの青銅板のまわりに、だれが落書したのか、タール 瓦は、緑色のひび割れた上塗りの四角の中へはめこんである。ジ = 刷毛の荒々しいタッチで、一種の解剖学的額縁がつけ加えられてい エル・フライトが博識の奇妙な片隅からひき出したところによる た。四人は驚きと嫌悪の目でそれを眺めた。 と、それは「セメント」あるいは「コンクリート」というものらし ようやく、ペン。ハートンがいった 「彼らは信心深い人たちだったらしい」 そこには入口があり、その上には、ハーバート・プラウネル・ジ だれもその過去形を聞きとがめなかった。この場にふさわしく思 ュニア記念住宅と文字があった。青銅の飾り板が彼らに〈憲章〉の えたからだ。 ことを連想させ、一瞬、心のやましさを感じさせたが、その銘文は 「賢明なやりかただわ」とグレーヴズ夫人がいった。「甘やかしは 似ても似つかぬものだった。 いっさい抜きで」 ソールター船長は、心の中で異議を唱えた。船の上でそんな頭ご 全入居者への告示 新計画住宅は特典であり、権利ではない。毎日の査察が計画の基礎なしの統制をやろうものなら、一月で破減た。陸の人間の気質は、 である。良き住民たるためには、最低週一回、自己のえらぶ教会またそれほどに違うのだろうか ? は会堂に出席しなければならない。出席の証拠の提示を求められたさ ジュエル・フライトはなにもいわなかったが、その目はうるんで
日本新神話物語 ヤマトタケ ) レ誕生 豊田有恒画 = 岩淵慶造 大王が突然身罷った ! 王の玉座をめぐる骨肉相食む 陰惨な権力争いの渦中に巻き込まれた 薄幸の王子に刺客が迫る ! 可 , はは訶心ら 20 ー
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時間おきに食い、十二時間に半時間だけ運動した。彼は日付をたどづきつつあった。彼はふうっと鼻を鳴らした。あの午後、ヨットい ろうとしなかった。なぜならそれは彼にとって無意味だったからつばいの愚か者たちが好奇心から上陸してきて、彼の愛する島にヘ だ。日や年が知りたければーーー年でさえわからなくなることがあつどのようにひろがり、愚にもっかない質問を胡椒のように彼の上へ たのだ コナントに説くという手があることはわかっていた。訊ふりかけ、からくも平衡を保つ神経質な彼の心を何日もの間、掻き きたいと思わなかっただけだ。観察に過すとき以外の時間は新人類乱したときのことを思い出した。彼がいかに人間を嫌っているかは のための新しい問題を発展させることにもちいられた。彼の思考神さまだけがご存知なのだー は、今、ここにきて防衛のほうに向けられた。その考えはコナント 不愉快な思い出から彼はあらたに二つのことを思いっき、なかば との会話の間に生まれたものだ。現在はその考え方が基本になって無意識でそれを心の中にもてあそびながら、、敷地を横切り、旧研究 いるが、動機はすこしも重要なものではなかった。新人類たちは擬所の建物にはいっていった。その一つは、建物の周囲になんらかの 似電気的な性質を帯びた振動の場で働いていた。キダーはそのよう種類のカの場を設け、無断侵入者のために警告の標柱を立てておい なものーーーふれたがさいごどんな生物もその場で死んでしまう見えたらどうかということ、そしてもう一つはコナントのことで、この ない壁のようなものにはほとんど実用的な価値を認めることができ何週間かに無線電話を通じ、彼と話を交していてお・ほえた漠然たる なかった。だが、それにもかかわらず , ーーこの思いっきには、興味不安が原因たった。二日前に彼のもちかけた、島に発電所を建てな いかというあの話だがーーー恐ろしいことを考えるやつだー をそそるものがあった。 彼は二階の部屋で大きく伸びをし、自分の創造した人間たちの働 く姿を観察していた望遠鏡から身体をはなした。この大きな制御室キダーがはいってくると、コナントは研究室のペンチから立ち上 にいると、深い幸福感を覚えるのだった。かるい食事をとるために そこを出て旧研究室へ行くというのが、彼のいちばんしたくないこ 二人は無言のまま、長いこと顔を見合わせていた。キダーはこの とだった。敷地をわたって歩いて行くつど、彼はそれにサヨナラを銀行の頭取ともう何年も顔を合わせていなかった。この男を前にす 告げるような気持になり、戻ってくるつどタダイマと声をかけたいると、キダーは頭の皮がむずむずしてくるのだった。 気分になるのだった。自分でもちょっとおかしくなり、苦笑をうか「こんにちは」コナントは愛想のいい声で言った。「元気そうだね」 べながら彼は出て行った。 キダーは低く唸るような声を洩らした。コナントはふたたびべン 島の沖を本土のほうへ何マイルかのところに、黒いしみがーー遠チに腰をおろし、その太った不細工な身体をどうにかくつろがせ い動力船の姿が , ーー一つ、みとめられた。キダーは足をとめ、嫌悪た。 の色をむきだしにした目で、それをみつめた。黒い船体の両側には「質問にむだな精力を費してもらわんでもいいように、はっきり打 白い泡沫の花びらが貼りついていてーー彼のほうへ、しだいにちかち明ければ、わたしはもう二時間前に、小さな船で着いていたんだ
が、あらかじめ判ってしまうらしい。さらに二人の仲間を奪われため、カまかせに斬りつけた。だが、人食狼の姿は、すでに、そこに とき、残る五人の兵士は、ようやく、恐るべき神通力に気づいた。 はない。男の剣がふるわれる位置を、あらかじめ予測して、身をか 恐怖にかられて逃げだそうとした一人が、ものの三歩も走らぬうちわしてしまったのである。一撃をはずされ、前のめりになった男の に、背後から襲われて絶命した。のこる四人の兵士は、剣をあわせ肩先へ、獣の前肢がふりおろされる。男は、驚くべき身軽さで、獣 て攻撃をくりかえすが、かれらの剣は、ことごとく空を斬った。 の攻撃をはずし、とびさがって剣をかまえなおした。ふたたび獣が 一人また一人と引裂かれ、ついに、十人の兵士は、のこらず虐殺襲いかかってくるのを、男の剣が薙きはらう。獣は、とびあがって されてしまった。血潮をすすり、肉を呑みくだしてから、老狼は、 避けた。 ゆっくりと、銅鐸のところに近よった。そのそばに、石占の横立「うぬは、人の心を読めるとみえる」 と、王子をだいた宮戸彦が、身を寄せあっていた。この猛獣には、 男は、大声をあげた。さきほどの兵士たちが、声もたてずに殺さ 三人が武器をもっていないことが、わかっているらしい。だからこれたのをみて、声をたてて牽匍するほうが賢明だと思ったのであろ そ、兵士たちを先にし、三人を後まわしにしたのであろう。機敏なう。 ばかりでなく、狡猾さももちあわせているにちがいない。 こちらから斬りつけても、人の心を読む獣には、まったく刃がと 「宮戸彦、王子をつれて逃けるのじゃ」 どかない。しかし、狼のほうから仕かけてくるのを、とっさに薙ぎ 老人の声にこたえて、若者が走りだそうとすると、獣は行手をさはらうのは、考えてすることではないから、狼のほうも予測がっか えぎり、舌なめずりしながら、火のような息をはいた。ここまでくない。こちらから仕かけてすきをつくりさえしなければ、すくなく れば殺しいそぐこともあるまい。ひとおもいに殺すより、ゆっくり とも安全にちがいない。 いたぶってから殺すほうが、おもしろかろう。残忍な人食狼は、ひ 男は、そう考えたとたんに、攻撃にでるのをひかえ、剣をかまえ とたび見つけた獲物は、ことごとく殺しつくさねば、気がすまない たまま立ちつくした。もちろん、男の考えは、すぐさま狼の心に伝 のであろう。 えられたらしい。狼のほうも、びたりと動きをとめて、にらみあっ とっぜん、三人のまえで跳躍の姿勢をとろうとした老狼が、なに を思ったか、くるりと向きをかえた。それにこたえて、すすきのあ さきほどの兵士たちが殺されたのは、かならずしも剣の技が未熟 いだから、一人の男が姿をあらわした。身の丈は六尺にあまり、筋なためばかりでなく、こちらから攻撃しようとしてすきをつくった 骨たくましく、見るからに偉丈夫然とした男であった。 り、逃げようとして背を向けたりしたからである。狼の攻撃をふせ 「うぬ、旅人たちから、飛鳥の大口の真神と恐れられる怪物は、こぐには、その動きに応じて自由に剣をふるうしかない。とっさの判 の老狼であったか」 断できまることで、どう受ければよいか考えるわけではないから、 男は、大声でさけぶなり、剣を抜きはなって、小走りに距離をつ このときの剣の動きは、この老狼の神通力をもってしても、読みと こ 0 けんせい 2 幻
「何もないよ」 いや、そうじゃない。機械なんだ。 「酒か ? 」 どんな家でもこんな機械に変えられるーー・・ジャックが少し手を入 れたら。 「じゃあ、何だ ? 」 ジャックに合わせた機械。そのとおりだ。だが、人間にはどんな フィルは目を奇妙に輝かせて答えた。 影響を及ぼすのだろう ? 突然変異か ? いっかは、別の世界へ移 「何もないさ : ・ぼくは隅に立「て、壁に頭を押しつけていたん 0 てしまうのか ? とにかく全く普通ではないことだろう。 だ。すると・ = ぼくは・ = = ・ペンキが」かれはロごもり、しばらく黙メルトンはそれを見つけ出すつもりになれなか 0 た。 明日、ア。、ート りこんでから続けた。「あれはペンキじゃないな、でもぼくの考え , を見つけることにしよう〃かれはそう心を決め では : : : 」 た。それで少し心が楽になったのか、かれは眠りに入った。 「何だい ? 」 あくる日の夕方、かれは早目に帰宅し、ためらうことなく家の中 「この家はジャックに合わせてある、そうだったな ? だがぼくらに入った。ミカ = ラとフィルは居間にいた。黙って坐っていた二人 は、ジャックが何物か、かれが何を求めていたのか、知らないん は、入ってきたかれのほうに向いた。 だ。かれは、未来から来たのしゃないかとも思うよ。それとも、別 メルトンは意気揚々と話しかけた。 の惑星からか。たたひとっ : : : かれは、ひどく変わったところから「アパート を見つけたよ。すぐに荷造りを始めるんだ。どうだい 来たに違いないね」 メルトンは一一 = ロった。 ミカエラは答えた。 「ぼくらは引っ越すんだ : 「素晴らしいわ : : : 明日の朝、引っ越せるの ? 」 「ああ、 しいよ」 「そうさ。ジ・ヤックは家をかえしてもらえるわけさ」 「さあ寝よう」 明かりがついた。メルトンは二人にちらりと視線を走らせた。 「まだこうかい ? 「ああ、そうしよう。お休み、ボブ」 でも、もうかまわないさ。飲むかい ? カクテ 「お休み、フィル」 ルはどう、ミカ = ラ ? 今夜は冷蔵庫にあたってみてもいいよ」 長いあいだかれは眠ることができないまま、目を覚ましていた。 、え、結構よ」 ″ここはジャックが建てた家だ。 「ふーん。フィルは ? 」 ジャックは帰ってくるかもしれない 「いや、欲しくないよ」 ジャックに合わせた家だ。 「そうか。 ・ほくは飲むぜ」 この家は生きている。 かれは台所へ行ったが、結局、氷は断念し、小さなグラスにスト ・ : ぼくが次の家を見つけたらすぐにね」 いっか
壁の中の低い物音には奇妙なリズムがあった。 まはもうそこへ戻っているよ。それでかれは家をもとの状態にもど ″ここはジャックが建てた家だ。 しておこうとはしなかったんだよ」 モルト これは麦芽だ、 フィルは立ち上がり、出ていった。地下室のドアが静かにしまる それがジャックの建てた家の中にあるんだ : 音がした。 それが続いてゆく。メルトンはその子守唄のようなリズムを最後 メルトンはミカエラのそばへ寄ると、彼女のほっそりした両肩に まで追っていった。次第次第に恐怖のようなものが、かれの心の中 腕をまわし、ったわってくる彼女の温かみを感じながら言った。 で大きくなっていった。だが、それをとめることはできなか「た。 「引っ越そう、ダーリン」 かれはそれを最後まで考えると、始めからやり直した。 彼女は窓の外を見つめていた。 をしった」何者だったんだ ? ・ノヨーン・フレンチとよ、、 「こんなにいい家なのに、もし : : : 眺めも素晴らしいわ。引っ越さ それとも、何物だったんだ ? なくてすむのならいいのに。でも、そうするほかないわね。いつな とっぜん、気持が悪くなるほど、かれは時間空間の混乱を感じ の、ボブ ? 」 「明日、別の場所を探し始めるよ。町の中のアパートでもいいだろた。ミカ = ラのほうを見もせず、かれはべ , ドから飛び出し、手さ ぐりで階下へ行き、廊下にじっと立って待っていた。 何もおこらなかった。 「いいわ。一日や二日なら別に変りないでしよう、ねえ ? 」 ″ここはジャックの建てた家だ。 ここの鼠は : 闇の中で、ミカエラの低い寝息が近くに響いていた。それにかれ には、ほかの音も聞こえていた。鼠でないことはわか 0 ている。壁かれは台所〈行 0 た。地下室のドアがあいていた。フィルの姿は の中でかすかに低い物音がしている。聞こえるか聞こえないかの境見えなか 0 たが、義弟が階段の下にいることはわか 0 ていた。かれ い目だ。家がひとりでに充電しているのだ。ロポットが、あくる日は低く呼びかけた。 「フィル」 の仕事に備えて準備しているのだ。 心はない、生きてはいない、意識とか自我の感覚は持っていな「なんだい、・ホ・フ」 。機械だ。だが、奇蹟のような単純化がその存在を可能とした実「上がってこいよ」 フィルは階段に足をかけた。。 ( ジャマ姿が僅かにゆれながら見え に多才な機械だ。どうやって ? 電子の就道に新しい。 ( ターンか ? てきた。 それとも全く想像もできないような何かだ。 メルトンは尋ねた。 " われわれは電子顕徴鏡で小宇宙の中をのそいて見ることができ 「下に何があるんだ ? 」 る。だが、それほど奥までは見られない : ⅱ 0
THE 、 " WOR ル 0 OF を SF«、 ?COMICS クレーの自己表現の方法は、クレー自身の有名なことばででは、彼は、幻想的な画家ではない。というのは、彼は、 簡潔にいいつくされるーーー「美術は、眼に見えるものを、実在のもの以外は描かなかったからである。それらの実在 0 複写して与えるものではなく、見えないものをも、見せさのものが、他の人々には、彼の幻想の気まぐれのように見 せるのである」 えることもありえたが、彼自身は、次のことをよく知って いた。つまり、それらのものは、存在の十全さを授けられ クレーの場合、目でとらえたものを、そのまま模写し て、作品に表現するということはしない。表現技法こっ 、冫いていると、われわれの通常の手段によっては、決して測り ても、型通りのわかりきった方法や、伝統的な方法に合わえない空間のなかに、また、われわれの扱いなれた時間の せてすることもしない。彼は、視覚でとらえたものを、自計算法では、役に立たないような、時間のなかに、有効に 分の内面の底を通過させ、その操作のなかで、自分の心実在するのた、と」 を、はっきりと保証させるような、象徴にして、表現す「しばしば、象徴的な現実というものが問題になる。とは る。その象徴は、単純な形をとるが、その単純さは、クレ ーが事物のかわりになっていると え、それは、アレゴリ ーの心の奥で、とらえられた、さまざまな複雑なものが、 いう意味においてではなく、クレーの絵画の造型上の現実 綜合化され、みがきあげられた結果による単純なので、そ が、つねに彼自身の現実の象徴だからである。この点に関 れは、ある高みに達した単純になっている。 しては、現実とか、象徴とかいうことばは、その通常の語 ーが、彼の感覚によって幻想の義を失っている。というのは、象徴とは、存在の十全の極 私たちは、それを、クレ 世界、夢の世界から、つかまえてきた収穫として楽しんで限の到達であり、実体と形象との、いちじるしい完成だか 見ている。実際、クレーの作品にはユーモアがある。インらである , そうだろう。 クによる素描には、宇宙人が、ねそべっているような絵ま であるのた。それは、楽しい クレーにとって、現実を描いているのでないとしたら、 しかし、クレーのような作品を見るとき、幻想的でああれほどの作品を、あれほどの澄明さで、ゆるぎなく創り り、象徴的であるーー・ーということを、つい、気安くいってあげていくことはできないだろう。それらを、事物の内面 しまうが、それは、通俗的に、夢の世界を描いている、とをも含めた、十全の姿として、創り出すことができるとこ いうことではすまなくて、クレーは、描こうとするものろに、クレーの天才はある。 の、すべての姿を、見える部分たけでなく、そのものの内 クレーのような天才にとっては、「幻影の扉」は、いっ 的存在をも描こうとして、これは、結果的に、到達した象でも、現実のものとして、描くことが、できたのにちがい 徴的な表現なのである。 ナい。いつも、事物の向う側を、見ることのできた者にと このいきさつについては、マルセル・・フリョンの論を、 っては、幻影の扉は、木戸御免なのた。つまり、言いかえ 引用しておく。 れば、あやふやな、中途半端ではない、確固とした幻想 「通常、幻想的という言葉に、人が与えているような意味を、彼は、作りあげることが、出来ていたのである。その