「 / ーズコーンだ ! 」と会田は叫んだ。 みたいに、空間へとび出しちまって三十分も落ちて来なかったら、 「君もそう思うか ? 」と艇長はスクリーンから眼を離さずに言 0 今度はおいてけ・ほりだそ」 「それとも天然の鉱物ですかね ? 」 遠いシリウスの青白い照りかえしをあびながら、艇外へ出るとそ 「宇宙人がおいてった、ケルンかも知れないよ」と野津。 とには奇妙な大地がまちかまえていた。鱗状に亀裂のはいった、ツ 「文明はともかく、山登りの趣味のある生物は、地球人以外に考えルツルの地表である。一つの鱗状片の大きさは、大体五十セチ四 られんね」 方ぐらい、不規則な六角形や八角形をして、縁部がそりかえってい 「会田、操縦をかわ 0 てくれ」と艇長は言った。「野津、通信器をる。 こちらへ切りかえろ。基地と話をする」 「この星は昔、泥沼だったんですね」と野津のザラザラ声がイヤホ 「着陸するんですか ? 」と野津は言 0 た。「いやだなあ」 1 ンにひびいた。「それがひ上っちまったんだ」 「今度いやだなど言「て見ろ」艇長はどなった。「ズボンをぬがせ 「こんな星にそうやたらに水があるか」と艇長が言った。 てお尻をひつばたいてやるからな」 「ガスがある ! 」会田が驚いたように叫んだ。彼は地表冫 こ腹ばいに 会田は操縦席について、いくつものレ・ ( ーを動かし白く光る円錐な 0 て、その奇妙な岩石の亀裂に検出装置を押しあてていた。 体が、ヴィジス = ープの十字線の中央に来ると、自由落下の = ースを「僅かですが、この亀裂の間の、丸い穴からもれてますよ。炭素、 と 0 た。だが途中まで来ると、突然画面がグラリと動いた。会田は窒素、硫黄ーー重合体の重いガスです。ーー・・重金属化合物もふくま あわてて操縦桿にとびついたが、間にあわず、巡邏艇は目標物かられているな」 はるかはなれた所に着陸してしまった。 「そいつはあとまわしだ。あのノーズコーンの所へ行って見よう」 「へタッびい : 」と野津が言った。 そう言って艇長は歩き出した。とたんに彼はよろっとよろめい 「俺のせいじゃないぞ。星の方がふらふらするんだ」会田は額の脂 た。続く二人も思わず立ちどまって、へつびり腰になった。 汗をぬぐいながら言「た。「あの穴に落 0 こちなか 0 ただけでも目「何たか目がまわる」と野津が言「た。 つけものだ。 まわ「たとたんに、丁度 = ースの真正面に来やが「地震だ ! 」会田はよろけて野津にぶつか「た。「正確に言うと星 った」 震だ」 艇は穴から約三百メートルほど離れた所に着陸していた。あの円地震はすぐゃんだ。それでも足もとのふらっきはまだとまらない 錐体からは数キロメートル離れている。 みたいだった。 「何、重力が少いから、ひとのしだ」と山本艇長は〈ルメ ' トをと「こんなち 0 ちゃな星のクセに生意気な ! 」と野津はぼやいた。 りあげながら言「た。「ウ = イトベルトをつけろよ、野津。いっか「たしかにこんな質量の軽い星に、地震が起ると言うのはおかしい
ころげ出た。 「困ったのう。医者を呼・ほうか」 「凄えもんだろ」 「よ、四百二十五万 : : : 」 「拾ったか」 「何の事かね」 「拾わね。競馬だ」 「ち、畜生。お前の取った配当だ」 お前競馬しただか」 「そんなにか」 「そうだよ。こん畜生め。お前みたいな奴は死んじまえばいいん「渋谷の町だばいろんな店があんだのう。竸馬の馬券さ売 0 でる大 きい店みつけたなだ。大勢客が入ってたけ。あれだばでえぶはやっ てるらしいのう」 「おこらねでくれや。なんしたなだ」 「そこで当てたのか」 「俺は戦争前から竸馬やってんだそ」 「んだ」 「好きなんだのう」 「よく馬券の買い方さ判ったもんだの」 「あっちへ行っちまってくれ。ほっといてくれ。俺はいま恥かしく おせ 「どっかのじいさんに教てもらったなだ」 て仕方ないんだから」 あぐらをかいた彦太郎は、その股のあいだへ札束を積んでみせ 「なんして」 こ 0 「他人の取った馬券でこれほどふるえが来ようとは思わなかった。 ああ、俺はなんて未熟なんだ。修業が足りなかったんだ」 「四百二十五万も当てたなだぞ。どうすっか。何か買うか」 老人は彦太郎をつき放し、よろよろと人混みへ消えた。 「も、元金はいくらだや」 ☆ 「たったの二百円だ」 「親爺ちゃ起きれ」 彦太郎は胸を張った。「七レース、八レース、九レースと三度買 しつつこく揺り起されて孫吉は蒲団の間から片目をのそかせた。 っただけででこんないっぺなってしまつだ」 「もう時間か」 「なあ彦太郎や」 しいからちょっと起きてくれや」 「んでね。 「なんだで」 彦太郎はあたりに気を使って低い声で言った。 「東京だば、おっかねとこだのう」 「どうした。何かしたなだか」 孫吉はそう言って胴ぶるいした。 「これみろ、これ」 おら 「判ったで、俺」 孫吉は一万円札の東を鼻先へつぎつけられて蚕棚式 2 ヘッドから「なにが : : : 」 ひこだろ め 4
暖めようとあがいているようにも思えた。その進み方は、今にも停つれあって舞っているように、シベリアノの空に広がっていった。 まりそうなほどだ。猟人にはわかった。太陽の輝く南へたどりつ こうしてすべてが死んで く前に、カレがのたれ死することが : 。年と共に夏の期間が急激に短くなり、強大な冬の支配する時 通りすがりのかのお方 が長くなっている。やがてすべてが凍りつく。闇の黒さの中ですべ 野より帰るみちすがら てが停止するのだ。暗黒。静止。あるいは死。避けえぬこの宿命。 ふと所望せし野の水の この厳粛な事実を前にして、生ける者彼ら猟人たちの、これは又、 甘露な味に酔わされて なんと卑小なる存在であることか : 恋の虜になり申す 緑したたる木かげにて それゆえにこそ、長老の言葉は真理につながっているのだ。すな 泉湧きいず岸辺にて わちあらゆるものの減び。目の前にこの事実を観るがゆえに、彼ら はたまた快き草の上 は地上の減亡にさきがけて、永遠なる存在へと変身することを意思 花の帽子で髪かざる するのだ。 おなご抱きて申すには が、少なくとも、いま、そこにたち働く猟人の花嫁たちは、 地を耕して種を蒔く 三の娘が手 健康そうであった。丘の上に立っ猟人をみつけて、二、 住むは荒野の仮すまい を振った。その中にサガもいた。〈ウォーキング〉の背にとび移っ 羊飼う身に身をやっし て、作物の排出口を操作しているところだった。 お前と共に暮したい 働く女たちの姿態には、今まで見たことのない新鮮な美しさがあ った。ポドソル様の白痩せた地より、掘りおこされる根菜を拾う こうして、部落での日がすぎていった。 者。籠に入れるもの。かつぎあげて一カ所にまとめる者。猟人は、 猟人と花嫁たちの様子をみとどけて安心したのか、長老はそれよ 丘をかけおりて、群の中に交じった。笑い声が彼をとりまいた。 そして、今日にも出発しようとしていた猟人にとっては、一日のり日を経ずして眠りの旅へ旅立っていった。その別離の日の落日 は、その年の最後のタ陽となりそうであった。 カそこには唄があった。素朴だが明るい歌声 無為の日がすぎた。 : 、 以来、吹雪がつづいた。 が。それは笑いとともに野を渡っていった。あるときは春のせせら 。猟人は、彼女た その夕暮、長老は、長き影を地に這わせながら、丘の上でひと ぎのように、あるときは臥所の睦言のように : ちについて唱ったのだ。生まれてはじめて唱った。調子外れの猟人のり、巨大な火球の没する西の空を背にして立っていたのであった。 声を、女たちの艶やかな歌声がとりまいた。合唱は、夏の蝶たちがも彼にとっては、地上での見おさめとなるであろう日没の光景。美し 幻 5
とすれば、この種のダウンビートは、シリアスな予言として * フレデリック・ポール * ロ。 ト・シェクリイ でなく警告として読まれるべきであろう」 * キングズリイ・エイミス ( そのノ 。、トロン ) と訳のわかったようなことをいっているが、じっさいに作品の解 ・ウ説を始めると、つい本音が出てしまうのだ。 グループ ro ( 本来なら名前をあげる必要もない外国のニュー エープ作家 ) たとえば、先月号にのったコーン・フルースの晩年の傑作「暗い潮 を刈れ」をおさめた短篇集については ・フライアン・・オールディス ・・ / ラード 「彼の最後の短篇集を読み終えたとき、わたしは、こんな精神が地 マイクル・ムアコック 球と同時存在しうるはずはないと考えたのをお・ほえている。どちら ジュディス・メリノ レ ( そのパトロン ) かが存在をやめなければならない。もちろん自然のほうが無限に強 ( 注ーー作家名の上の * 印は、特に大きな扱いをしているもの ) 力であったから、退場せざるをえなくなったのはコーン・フルースだ った。彼は、一九五八年、三十八歳で心臓麻痺により急死した」 このうち「悪玉」グループに分類されている四人については、 そして、シェクリイでは 注釈が必要かもしれない。 ハート・シェクリイが、ダウンビートな作家だって ? アンチ 「われわれの未来ーー宇宙へと方向づけられた人間、惑星の絆をた「ロ・ ・ユートビア作家 ? そのとおり。なぜなら、何かあるものを減・ほ ちきって無限の空間にひろがりゆこうとしている人類の未来 は、三、四〇年代のには明確に現われていた。ところが月着陸すもっとも効果的な方法は、その存在が意味をなくすまで笑いとば が実現し、われわれがその未来への門戸に足を踏みいれた今になっすことにあるからだ。シェクリイはそれを生き生きとオリジナリテ て、皮肉にも近未来に横たわる三つの障碍ーー公害、人口過剰、核イをもって行なっている。彼の作品は軽い。泡のようだといってい いかもしれない。しかし彼の世界観は、それなりの意味で、コーン 兵器ーーーがその先にひろがる眺望をさえぎり、全景にますます暗い 影を投げかけようとしている。その結果は、にも現われてい・フルースさえ夢想だにしなかったほど悪的に″アンチ″である。 る。来たるべき栄光の先ぶれとなるべきであった作家たちの多くそしてコーン・フルースが未来とサディスティックに対していたのに 対し、シェクリイは未来と楽しげに対している」 が、死を告げる兇鳥となりはててしまったのである。 ( : ウォルハイムは、彼の新しい作品『奇蹟の次元』と短篇「人類の 人間とは、強情で複雜な動物である。過去数百万年のあいだに は、この惑星上にさまざまな天変地異が襲ったであろうに、多くの罠」の内容をていねいに紹介したあと、またも第九章「未来の宇宙 欠点を持ったこの動物がそれを生き抜き、しかもそのあいだに生活史 . を尺度にして、評価してしまうのだ。 ート。ヒア ? まさしくそうだろう。 ート。ヒアを夢想しつつ一歩一歩着実「なるほど愉快だ。アンチ・ユ の向上を計り、芸術を愛し、ユ に進んできたことを考えると、これまで数百万年間に内部に築きあほかにどんな読みかたがある ? 未来とはこんなものだろうか ? げられた動因が、たかだか三十年ほど先までひろがっているにすぎ銀河系とはこんなものだろうか ? われわれの愚行や過ちが、こん ない影によって崩れさるなどということは、ありそうもない気がすなふうに発展するのだろうか ? 」 ( この項続く ) よ、人間の風景の一部なのだ。 ( : る。ュ ート。ヒア建設を Ⅲ当“Ⅲ " Ⅲ”Ⅲ当 . Ⅲ嶬Ⅲ卩日 2 “側
「アルヴァーロ・グイレン・マーティン」マーティンは律儀に、軽はドームにはいり、ドームはかれらで満たされ、金色の蜜蜂の巣と く腰をかがめた。またひとり、若い娘が現われた。おなじ美しい なった。かれらは・フン・フンと柔らかな唸りを上げ、あらゆる静寂、 顔。マーティンは。ほかんと彼女を見つめ、神経質な仔馬のように目あらゆる空間を、ハネー・プラウンの群らがりで埋めつくした。マ を白黒させた。どうやら、これまでクローン再生などに関心を持っ ーティンは、すらりと四肢の伸びた娘たちを当惑の表情で見つめ、 ていなかったので、テクノロジー ・ショックを味わっているらし娘たちは三人いっしょに彼にほほえみかけた。その微笑は青年たち のよりもやさしく、だが、まばゆいまでの冷静さにおいては、すこ 「おちつけよ」とビ = ーはアルゼン方言でカづけた。「よく似すぎしも遜色がない。 たふたご、それだけのことさ」彼はマーティンの肱にすれあうよう「おちついてるなあ」オーエン・ビューは、たったひとりの仲間に そう囁いた。「そのはずだ。考えてもみろよ、十人の自分がいるん にして立った。その接触で、彼もいくらか気が休まるのだった。 知らない人間に会うのは、つらいものだ。ぎわめつけの外向性格だからな。どんな動作にも九人の介添、どんな投票にも九つの賛 者が、この上もなくおとなしい人間に会う場合でも、自分では気が成。さぞすばらしい気分だろう ! 」 つかないにせよ、初対面のときはやはりある怖れを感じている。相 しかし、マーティンはもう眠っていた。そして、ジョン・チャウ 手がおれを笑いものにするのではないか、おれが自分に対して持っ たちも、いっせいに眠りについた。ドームは、かれらの静かな寝息 ているイメージをこわされるのではないか、おれは侵略され破壊さでみたされた。若いかれらは、いびきをかかなかった。マーティン れ改変されるのではないか ? やつはおれとちがっているだろう は吐息し、いびきをかき、そのチョコレート・ ー色をした顔は、 か ? そうだ、それにきまってる。それが恐ろしいのだーー未知のようやく沈んだライ・フラの主星の残照の中でくつろいでいた。ビュ 人間の未知性が。 ーが透明にしておいたドームから、星・ほしが中をのそきこんだ。そ の光の大集団、輝きのクローンの中には、ソルも混しっていた。ビ 死んだ惑星の上での二年、しかも最後の半年間は二人のチームに なり、明けても暮れてもおたがいにたったびとりの相手と顔をつきューは眠りにおち、そして夢を見た。一つ目の巨人が、揺れ動く地 あわせていたあとでは、たとえどれほど歓迎すべき客でも、初対面獄の通廊で彼を追ってくるのだった。 の人間に会うのはつらい。相違という習慣から遠ざかり、そのコッ を忘れてしまったのだ。そして不安が、原始のおびえを、古代の恐寝袋の中で、ビューはクローンの目ざめを見まもった。一分ほど のうちにほとんどみんなが起きあがったが、中の一組、ひとりの青 怖を復活させるのだ。 男五人と女五人のクローンは、ひとりの男で二十分かかる仕事年とひとりの娘だけは、まだおなじ寝袋の中でびったりと抱きあっ ビューとマーティンへのあいさて眠っていた。ピューはそれを見たとたん、ライ・フラの地震に似た 3 を、たった二分でやってのけた つ、ライプラの一瞥、着陸船からの荷おろし、出発の準備。かれら、ショック、ひどく奥深い振動が、体の中で起こった。彼はそのこと
この星は内部で 「こんな穴 「いやだなあ」野津がどこかの暗がりで、ほゃいていた 9 ですね」会田は言った。「さっきのガスと言い に落っこっちまって 。だから僕はいやだと言ったんだ」 火山活動をやってるんでしようか ? 」 「ああ、ああ、俺は何て非科学的な部下を持ったんだろう」と艇長「野津、ここへ来い ! 」隊長はぶんぶんしながらどなった。「約東 はなげいた。「こんな質量の小さい量で、どうやって火山活動が起だ。尻をひつばたいてやる」 「いやですよ」野津は言った。「それよりこの穴から、どうやって るんだ ? そのエネルギーはどこから出るんだい ? 」 「放射線かも知れませんよ」野津は右袖のメーターをのそいて言っ出るんです ? 」 上をふりあおいだ会田は、穴の入口に見える星が、たった三つに た。「この量、大ぶん″熱い″や」 なった事に気がついた。 「いいから出発だ 「ずり落ちてますよ。艇長 ! 」会田は叫んだ。「何とかしなきや」 三人はふわふわと浮き上る足をふみしめながら歩き出した。つい 眼と鼻の先に円い地平線が見え、ともすれば星から足をふみはずし「みんなライトをつけろ ! 」艇長は言った。「そして岩角でも何で しいから、体をつつばれ」 そうな錯覚にとらわれるのだった。足もとには絶えず軽い震動が一も、 まるでこの星が身ぶるいしてい 定の間隔をおいて走っていた。 ライトが輝いて、天色の岩壁を照し出した。直径約十メートル、 るみたいだった。五百メートルも歩くと、別の大きな穴が現われほとんど四十五度近い急勾配で斜めに奥深く走っている空洞で、足 た。その縁から、やや離れた所を歩きながら、艇長は後を向いてどもとは膝を没する砂であり、それがこの星に絶えず起っている地震 よっこ 0 ノ↓ / のために、間断なく崩れ落ちているのだ。会田は滑りながら足をふ んばって、壁から少し出た岩角につかまろうとした。しかしそれに 「足もとに気をつけろよ」 注意は間に合わなかった。足もとの大地がぐらっと揺れると、穴手をかけた途端にざくりと崩れた。 の縁がくずれて、三人はあっと言う間に深い底に落ちこんで行っ 「まるで蟻地獄だ」艇長が毒づいていた。「畜生 ! 何て安普請の 星だ」 「入口がもう見えなくなりましたよ」野津が悲鳴をあげた。 中はざらざらした砂の急斜面で、とてもまともに立っていられな「みんな離れるんじゃないぞ」艇長は叫んだ。重力が小さいので、 かった。はるか上方に今落ちこんで来た穴の入口が見え、星の光が砂の崩れ落ちる速度はわりに緩慢だった。しかし足場にしようとす ると簡単にざくざくくずれる。 またたいていた。キャツ。フランプを点燈した艇長が叫んでいた。 「カー・フだ」一番下を落ちて行く会田が叫んだ。 「みんな無事か ? 」 「よし、みんな、あそこでふんばれ ! 」 「大丈夫です」と会田が少し下の方から答えた。 艇長の投げかける光線の中で、会田が丁度曲り角の所で、手をつ 「野津は ? 」 5
「そうです」ふたりのジョンが答えた。 ームにはありません。でも、それを補うだけの利点はあります。ク 「たまげたね、なんてチームだろうー いまやっとその意味がっか ローンがひき出されるのは、最高の人間素材です。百分の九 めた・せ。きみらのひとりひとりは、ほかの仲間の考えがどの程度ま九、遣伝学的体質アルファ、といったような。だから、わたし でわかるんだい ? 」 たちは大多数の人間より素質に恵まれています」 「しかも、それが十倍されてるってわけか。ところで、なにものな 「正確にいえば、なんにも」娘のひとり、ザイーンが答えた。ほか んだい いや、なにものだったんだい、そのジョン・チャウとは の九人は、独特の所有者的な是認の目つきで、彼女を見まもった。 「とか、そんなしゃれたものはなんにもないわ。でも、わた したちは考えかたもおなじ。知的能力もびったりおなじ。たから、 「いずれ、天才のひとりだよ」ビューは礼儀正しくいった。クロー おなし刺激、おなし問題を与えられれば、ひとりでに、おなじ反ンに対する彼の興味は、マーティンのそれほど新しくも熱烈でもな っこ 0 応、おなじ解答へ、同時にたどりつきます。説明するのもらく ふつうはそうする必要もないぐらい。おたがいの誤解なんて、めつ 「レオナルド複合タイプ」とヨッドが答えた。「生物数学者で、チ たに起こりません。一つのチームとして働くときには、たしかに好 = リストで、海底 ( ンターで、構造工学の問題などにも興味を持っ 都合よね」 ていました。重要な理論のいくつかを完成しないうちに、死んだん 「いや、まったくだ」とマーティン。「この六カ月、毎日十時間のです」 うち七時間を、ビ = ーとおれはおたがいを誤解して暮らしてきたか「じゃあ、きみたちはそれそれ、彼の精神や才能の一面すつを代表 らなあ。たいていの人間がそうするように ところで、非常事しているのかい ? 」 態の場合はどうだい ? 予想外の問題に対処するときでも、きみら 、え」ザイーンが、ほかの何人かと同時にかぶりを振って答え は正常・ : いや、そんなつながりのないチームとおなじように、う た。「わたしたちが基本的な知的能力と性向を分けあっているのは まくやれるかな ? 」 もちろんですが、十人とも惑星開発のエンジニアなんです。わたし 「これまでの統計では、そうなっていますわ」ザイーンがあっさり たちよりあとに育ったクローンは、たぶん基本能力のほかの一面を 答えた。クローンは、そういう訓練を受けているんだ、とビューは 伸ばすことになるでしよう。すべては訓練で、遺伝的な素質はそづ 思った。質問に答え、相手に安心を与え、説得することを。かれら くりおなじです。みんながジョン・チャウなんです。ただ、ちがっ のいったことには、どれも〈大衆 >. に供給される説明に特有な、ちた訓練を受けるだけのことで」 シェルショック よっぴり甘ロで誇張された感じがっきまとっていた。 マ 1 ティンは弾震盪の顔つきになった。 「わたしたちは、普通人のような・フレーン・ストーミングはできま「きみらは何歳だ ? 」 せん。いろいろな思考の相互作用からくる利益は、わたしたちのチ 「二十三歳」 シングルトン 5 2
アンドレ・フラーは、自分の殺した女の体に転位 る。これはきっと、単なる恐怖用のイメージ・テーて、詩が出ている。そういえば「魔女の季節」とい プの仕業なんだ。ジムは思わず、手を離してしまう曲があったな。ドノヴァンのレコードを出して、させられ、途方にくれる。これからは女として生き かけてみる。わりと好きな曲。でも歌詞と、この詩なければならないのだ。 ここから人称が二人称に変る。この変化が実にう ″彼の最後の、生々しい絶叫は長い間続いた。落下とは全然違っている。どうなってるのかな。 していく間中、ジムの手は、自分の頭の上の空間を読みはじめてみると、これが完全なニ = ーウェーまくいっている。つまり普通の二人称というのは、 読者側にしてみれば、うるさくて仕方がない。それ つかみ : : : スイッチを切ろうと、ボタンを探り : ・ヴ。どうする。 アンドレ・フラ 1 は、性交の最中に相手の女を殺に、どうしても押しつけがましくなってしまう。小 茶化してしまったけれど、わりとまじめにやってしてしまう。こうしてコーヒーを前に坐っていて説中の主人公としての君と、現実の君との意識のギ いる。でも、あまりにも通俗的な書き方だし、もしも、そのときの光景が頭の中から離れようとしなャップというのはどうすることもできないわけだ。 そしてもしも、その主人公が女性だとしたら、男性 。自分のこれまでの生活。女との思い出。 かしたら「一九八四年」やなんかののパロディ でもやっているつもりなのかもしれないけど、ひど長い、切れ目のない文章を、うまく使って、ちょの読者にとってのギャップは、ますます広がる。と く古くさいテーマを、そのまま使ってるなんて、あっぴりアンチロマン風に書いている。だいたいサロころが、この作品は、その二つの難点を兼ねそなえ ートあたりにしてもそうだけど、意識の流れを連綿ているのだ。実際は男性である女性。この作品の性 んまり感心できない。 次なる "Season of the Witch" 「魔女の季節」と追っていくのを読むのは、かなりつら ( 今度は、「呪いの魔女人間」てのはどうだろうい。書く方に、よほどの力がないと、ど ) 。ハンク・スタインていうのは、当年とって二うしようもなくなる。ハンク・スタイン 十六歳。でももう奥さんもいて、一男一女がある。は、まあ、まだいいほうだろう。少なく 「プリズナー」の第三作を書いているし、他にとも何とか読める。とにかくボルノグラ 「 Thrill CityJ なんてのも、これまたエセックスフィで、よくやったと思う。書く方も書 ハウスから出している。 く方だし、それを出版しちまう方も、し 今度も、ガイスと同じだったら、ひどいことになちまう方だ。それにもう一つ、読んでい るなと思いながらも、まず、あと書きを見てみるる奴も、読んでいる奴だなあ。 ーラン・エリスン。これアンドレ・フラーは捕まり、裁判にか ( ガイスのにはない ) 。ハ が、意外にも、しごくまじめに、ポッシュとかゴッけられる。 ホとか、詩人のデイラン・トーマスとかの話をやっ判決は、 ている。ふうんと思って、本文のほうに目をやってアンドレ・フラーの意識を、殺した女 みると、最後のところにドノヴァンなんて名があつの体に転移させる。 0 0 0 0 0 S SO 設 W 0
こ 0 「こうしてあるくのよ」 「木部の材料は、樺がいいと思う」という、サガの助言に従って、 サガは、二本の杖を巧みにつかって、雪の上をあるいてみせた。 猟人は、林の中に入って、手ごろな太さの、そして木目の素生のよ「慣れれば、丘の上からすべりおりることもできるようになれる さそうな、木を選ぶことからはしめた。それを、引き割る仕事が、 やっかいで、根気のいる仕事だった。だが、猟人はそれをやりとげ それより何日か、部落のまわりで新しい乗物の乗り方に熱中して て、二本の部材を切りとった。先をとがらせて、滑走面をなめらか いた猟人は、ようやくその骨をのみこんでいた。滑走面の中心線に に仕上げる。道具があれば容易だろうか、手作業だったので、忍耐溝をほって、横すべりを防ぐ方法や、油をぬって雪の付着を防ぐ方 力だけが頼りだった。 法を教えてくれたのもサガだった。 「先端を曲げ、滑走面にべント ( 曲げ ) をつけるのがむずかしい このスキー製作の体験は、猟人に、冬の生活の必需品を得るとい う意味以上のことを、教えてくれた。サガは、その意味で典型的な 「どうしたらいい」 教師だった。技術者であると同時に、思想家でもあるのだった。彼 「熱を加えて、ゆっくりと曲げていけばいい」 女は、荒野の部族が伝えてきた知恵をよく体得していた。彼女は事 火のかげんが難しかった。あせって、焼こげができた。しかし不実上、長老の後継者たる資格をそなえていた。 ぞろいだったが、先端はうまく曲がった。滑走面に・ヘントをつける猟人は、いまはじめて、荒野の果より立ちょった通りすがりの見 一亠刀は、はるかにやさしかった。 知らぬひとりの男に、血のつながらぬ〈聖奴隷〉たちを托して、世 猟人は平行して、金具の部分をつくった。キャビンの家具の一部継ぎの出生を求めた、彼ら部族の、その不可解だった風習の、真の を外して、靴の先をおさえる部分をつくった。それをとりつける段意味を理解しようとしていた。確かに、彼らの血縁は絶えているか カそのまもり育ててきた生活の知恵や、この終末世 になって、猟人はまた当惑した。サガはねじを使うというのだ。ねもしれない。・、、 じはなかった。 界において育まれた部族の思想は、次の世代のものとなるのだ。こ 「いや、まてよ」猟人はキャビンのつくりつけの家具を調べて、必のサガによって、彼らの養孫たちに伝えられるのだ。猟人には、こ 要なねじを抜きとることで、この問題を解決した。 の事実が、何か崇高な使命であるようにさえ思われた。 「真中よりうしろの方に足の中心がくるようにした方がいいわ」と そのときから、猟人はまた変わった。猟人は一匹の種馬でしかな またサガが指示した。 かった存在を越えて、父性を獲得したのだった。猟人は、まったく こうして、無格好だったが、新しい乗物ができあがった。 新しいものをみる目で、その腹部のふくらみを目だたせていた彼の 雪上にもちだして、さっそく試してみた猟人の姿をみて、サガが七人の花嫁たちを眺めた。たってという猟人の頼みにまけて、サガ 笑いだした。 が、逢わせてくれたのである。 こっ 226
と班長が柱によりかかって青い顔をしている。 「班長、助けに来たど」 「迷惑さかけて済まねのう、班長」 彦太郎はそう言って細引きをほどきにかかる。 肩を貸し、寿司屋の粋な格子戸をあけて路地へ出る。 「畜生、ひどい目に会わせやがったぜ」 ぜえご いためつけられたらしく、班長はふらついていた。 「駅だばどっちの方角かのう。すっかり判らねもんだ。どうせ田舎 もん 者だで」 「そうれ、あっちの二階へとんで行けや」 彦太郎はとっさに物干しから裏手の寿司屋の二階へ班長を落ちの彦太郎は照れたように言った。 びさせ、自分はそこいらにあった家具類を、表側の窓から手あたり☆ 次第に通りへ投げおろす。桐のたんすが道に落ちて割れ、和服が散雪が降っている。風もなく、ただ静かに白い雪が降りて来る。遠 乱する。 くで鴉が三声ほど短く啼いた。 「火事は二階だあ」 まわりは四方が山。樹木もずっしりと雪に覆われ、白い大きな塊 孫吉と渡り合っていた男たちはいっせいに上を見あげる。 りがのしかかるように迫っている。近くにポツン、ポツンと民家が 手ー 0 「野郎ツ」 どっと事務所へ駆けこむ隙に、孫吉は身を翻して弥次馬の中へ消 よく目を凝らせば、青いけむりがその民家から立ち昇っているよ うだが、ひっそりと音もない。 えてしまう。炭火の入った大きな火鉢が階段に投げこまれ、登りか けていた男たちが下へころげ落ちる。最後に煮えたぎった鉄瓶が降・雪に埋れた祠がひとつある。足跡がひとすじ、前方からまっすぐ って来て熱湯をぶちまけると、あとは収拾のつかない天神楽だ。 つらなって、祠の前で直角に民家のほうへ折れている。 「あちイ : ここは孫吉と彦太郎の故郷、雪泊である。 悲鳴を聞きながら彦太郎はとなりの寿司屋の二階にとびこみ、ガ雪泊さまと呼ばれる祠の前に、不思議な老人たちが集っていた。 ラス戸の鍵をかけてしまう。 「うまく行ぐだろかや」 「あなたがこのお店のご主人かや」 白髪白髯の、見るからに土臭い、というよりはいっそ神々しい程 豆絞りの手絞りに白い上っ張りの中年男が、おびえたように突っ田舎臭い老人が言う。 しんべ 立っているのをつかまえて彦太郎が丁寧にたずねている。 「心配ねえ。俺まだそんなにおい・ほれているわけでもねがらのう」 「早く行っちゃってくれよ。とばっちりはごめんだ」 似たような老人が答えた。 「申し訳ねえと思ってます。そんで、これはほんの気持だから」 「だども、鉄神の奴らが相手ではのう。油断してはなんねそ」 おらしんべ 緊急の場合だから札を数えているひまはない。例の四百二十五万「俺心配でなんね」 円の中から何枚かつまみ出して寿司屋の主人に握らせ 1 ( 店へ降り一る「なして、田の神っちゃ」 おら わわペ ロ 2