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検索対象: SFマガジン 1971年8月号
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1. SFマガジン 1971年8月号

「わかったわかった、そんなドクドクいうない」 「おまえのほうこそ、まるで女役だよ」 はりとばしたくなって、手をふりあげた。プラッドは動かない。 「くどくどだ、ドクドクじゃない」 おれは手をおろした。・フラッドをなぐったことなんて今まで一度も「とにかく、なんにしてもだ ! 」おれはどなった。「やめりやいし ないのだ。ここで、それをしたくはなかった。 んだ、やめりや。でないと、てめえとはこれつきりにするぜ ! 」 ・フラッドもかんしやくをおこした。「そうか、そのほうがおたが 「ごめん」・フラッドはちっさな声でいった。 しにしいかもしれんな、きさまみたいな瘡つかきとはっきあっちゃ 「いいさ」 いられないや」 だが、おれたちの目はそっ。ほを向いていた。 「なんだ、そのカサッカキってのは、おい、ワン公 : 悪口なの 「ヴィク、おまえにはおれをやしなう責任というものがあるんだ そうか、そうなんだろうなーーーよう、くそたれ犬よう、 いつまでもそんな大きな口きいてやがると、てめえのケッぶっとば 「いわなくたってわかってるさ」 「うん、まあ、そうかもしれない。でも思いだしてほしいことがあすぜ ! 」 おれたちはすわりこんだまま、十五分ばかり口をきかなかった。 る。放射能鬼が通りをやってきて、おまえをとって食おうとしたと どっちへ行ったらいいか、・フラッドにも、おれにもわからなかった きのことだ」 のだ。 おれはゾクッとふるえた。あの化けものは、みどり色をしてい た。正真正銘のみどりで、キ / コみたいにちろちろ光っていた。考ようやく、おれのほうがすこし折れてでた。やわらかく、ゆっく りと話した。おまえとはもういっしょにいられないようだけど、わ えただけで腹のあたりがおもくなってきた。 るいようにはしない、昔どおり食いものもとってきてやると、そう 「そのとき、あいつにぶつかってったのは、おれだろ ? 」 いった。だがプラッドは、それもできないとおどした。そうすれ おれはうなずいた。そうだよ、たしかにそうだ。 ば、おれにはますます都合がいいだろう、近ごろはシティにもイカ 「それで焼け死ぬところだったんだ。いいかわるいかは別にして、 オしか ? 」おれはもう一度うなずれたソロがいて、自分のようなにおいの強い犬はすぐねらわれるか おれは命をかけたんだ、そうじゃよ、 いた。だんだん腹がたってきた。こっちばっか悪いような気にさせらと。だから、こっちもいいかえした。おどしてまで押しとおされ られるのは、うれしいことじゃない。プラッドとおれとは五分五分、るのはごめんだ、いつまでもでかい面してると、はりとばすぜ。プ なんだ。プラッドはそれもちゃんと知っていた。 「だが、おれはやラッドはおこって行ってしまった。おれは、「くたばりやがれ」と ったんだよ、そうだろ ? 」あのみどりの化けものがわめき声をあげどなって、ポイラーのなかにいるクイラ・ジュ 1 ンのところへもど たときのことを思いだした。ちくしよう、あんなおそろしかったこ だがポイラーにはいったとたん、彼女は死んだチンピラが持って とはない。 かさ 8

2. SFマガジン 1971年8月号

があらかた死んでしまったこともある。戦争のときよ、、 。しつでもそだけど、それがどれくらい危険か、ほんとにわかったとしたら。 うだーーー少なくとも・フラッドから聞いたところではそうらしい。そ そのべしゃんこになった区画のつきあたりに、偶然やられるのを 6 れからあと生まれてくるのは、ほとんど男だか女だかわからない化まぬがれて残「ている。ヒルがあ 0 た。女はなかにとびこんだ。一分 けもので、腹のなかから引 0 ばりだすとすぐ壁にたたきつけて殺さほどして、おどる光が目にはい 0 た。フラ , シ = ライトか ? だろ ねばならなかった。 う、たぶん。 そして、まともなのは、みんなミドルクラス連中といっしょにド ・フラッドとおれは通りをよこぎって、そのビルの影にはいった。 に一おりてしま「た。残「たのは、だからマーケ ' ト・・ ( スケ〉トでそこは、むかしのだ 0 た。 見つけたような、はねつかえりのスペタばかり。ひねくれていて、 キリスト教青年会のことだ、と・フラッドが教えてくれた。 ごりごりといかっくて、ちょっとでもすきを見せればカミソリでザ だけど、そのキリスト教青年会というのはいったい何だろう ? ' クリやられる。おれが大きくな 0 てから、ますますスケが見つか〈たに読めるようになると、・ ( 力でいたときより、も 0 とわからな りにくくなったのもムリはない。 いことが多くなる。 だけど、ときどき愚連隊仲間の共有にあきて逃げだしたのや、下あのスケが出てくるようだとまずいな、とおれは思った。や「ち をおそ 0 た愚連隊にさらわれてきたのに、ひょ 0 とぶつかることがまう場所としたら、中がいちばんいいからだ、焼けビルの前の石段 ある。それからーーそう、今みたいにーー下でくらしたスケが助平のところでプラ ' ドに張り番をさせておいて、うらにまわ 0 た。も 根性をおこして、ポルノを一度見てやろうとあが 0 てくることもあちろん、ドアもガラスもみんなふきとばされてる。しのびこむの は「べつにむずかしくない。窓のヘりに両手をかけると、ひょいと ようやく抱けるんだ。ちくしよう、待ちきれねえやー 中にとびおりた。まっ暗だ。 O ビルのいちばんむこう側で、 スケがごそごそやってる音のほかは、なにも聞こえない。 : ′シキを 3 持ってるかどうか、とにかくヤ・ハい橋をわたることはない。・フロー ニングをつり革にもどすと、四五口径オートマチックをぬいた。ア このあたりに来ると、丸焼けになったからつぼのビルがどこまでクションをあらためはしなかったーー薬室にはいつも弾をいれてお ーもつづいてるだけだ。天からばかでかいスチールのプレスが、ガッチくようにしていたからだ。 ャーン ! とおりてきたみたいに、全体がこなごなべしゃんこにな そろそろと部屋をよこぎる。ロッカー室みたいなものだったらし フロアよ、・ ってる区画もあった。女はおじけづいて、そわそわしてるようだっ カラスと石ころばかり。ならんだロッカーのうちの た。右や左を見まわしたり、うしろをふりかえったりしながら、ぎ一列だけは、上のペンキがす 0 かり焼けてはげている。遠い昔、窓 ごちなく歩いてる。危険な場所にいることを感じているのだろう。 からさしこんだ閃光のせいだろう。スニーカーは、部屋を通りぬけ

3. SFマガジン 1971年8月号

、女は変装からぬけだしていた。何もかもぬいでしまって、ふるえ る音を全然たてなかった。 ドアが蝶つがいひとつでぶらさがっている。その逆三角のすきまながら立っている。そういえば、たしかに寒い、女の体には鳥肌が イ 1 ト六インチか七インチ。かわいい をまたぎこえた。でかいプールはひあがっていた。浅いほうの側のたっていた。背たけは、五フ タイルが熱でべこべこにゆがんでる。くさいくさいと思ったら、死おつばいをしてる。脚はどっちかといえば細い感じだ。髪をとかし 体というより、そのなれの果てみたいなのが、プールの壁ぎわに山てるところだった。背中の下のほうまで、長くのばしてる。ライト がそれほど明かるくないので、赤毛か栗色かはっきりわからない ほどっみあげられていた。埋めるのをめんどくさがって、この中に ほうりこんだのだろう。ネッカチーフを鼻のところまで引 0 ばりあが、・フロンドじゃないようだ。その点はうれしかった。おれの好み は、赤毛なのだ。かわいいおつばいはよく見えるが、ウェー・フしな げると、先に進んだ。 。フール室を出ると、そこは通路で、天井の電球がきれいにひとつがら長くのびた髪にかくれて、顔はわからなか 0 た。 ぬぎすてた服はフロアにちらばっている。着がえは跳馬にのって 残らず割れていた。ここでは見通しがきいた。窓や天井にできた穴 る。彼女は、変てこなかかとのクツをはいていた。 から、月の光がたっぷりさしこんでいたからだ。物音はもうはっきい り聞こえてくる。つきあたりのドアのむこう。壁づたいにドアに近おれは動けなか 0 た。動けなくな 0 てるのに、ふいに気づいたの だ。きれいといったら、最高にきれいなんだ、ここにつっ立って見 づく。すこし押しあけたところで、くずれかけたしつくいとぬき板 がじゃまをした。こしあければ、まちがいなくすごい音をたてるだてるだけなのに、今までなかったほどビンビン感じてくる。ほそく くびれたウエスト、くりつと丸いヒップ、両手が髪をかきあげると ろう。いいタイミングを待とう。 き、きゅんともちあがるおつばい。つっ立って、彼女のやることを おれは壁にへばりついて、女をのそき見た。そこはジムだった。 そうとう広い。天井からクライミング・ロープが何本かたれさが 0 見てるだけでこうなんだから、ほんとおそろしくな 0 てくる。なん てる。跳馬のしりのところに、大きな箱形の十一一ポルト用フラ ' シていうか、つまり、なにからなにまで女なのだ。う 0 とりしてい ィートくらいの高さの鉄ナ ュライトがのせてある。平行棒と、八フ ほかのことはみんなわすれちまって、ただひたすら女のやること 棒。たかい熱で焼入れされたはずのスチールも、今ではすっかり錆 を見ていた。今までぶつかったのは、ブラッドがかぎだしてくれた びついている。それから吊輪、トランポリン、大きな木の平均台。 どうしようもないプスばかりだったから、ぶちのめしてやっちまう 壁によったところには、肋木、べンチ、水平はしご、傾斜はしご、 だけだった。でなければ、さっきのポルノのスケみたいのだ。だ そしてとび箱が二つ、おれはこの場所をお・ほえておくことにした。 ポン = ッ車処理場にまにあわせに作った今のジムにくらべればこ 0 けど、これはちがう。ふわっとやわらかそうで、すべすべした感 ちのほうがずっとマシだ。ソロでいるためには、いい体を作っておじなのだ、鳥肌のところまでも。朝まで見てても、あきそうもなか・ かなきゃならない。 9- 6

4. SFマガジン 1971年8月号

ドロップシャフトへもどろうと向きを変えた。そのとき、そいっ葉が耳に聞こえてくるようだった。みんなおカタくて、こじんまり まとまってて、住んでるのは知ってるやつばかりという町なんた。 がおれをつかまえた。 そのうえソロをにくんでる。愚連隊がしよっちゅう押しかけて女を あのスペタ、クイラ・ジュ 1 ンのしわざだ ! もっと前に気がっ 強姦し、食料をかっさら 6 たものだから、下でも対抗する策をたて いてればよかったのだー たんだ。殺されるそ、おまえー それは、平たくて、みどり色で、箱みたいなかたちをしていた。 ありがとな、ワン公。 そして腕のかわりをする、二本のくねくね動くケー・フルがのび、そ 元気でやれよ。 の先つ。ほはミトンのかたちをしていた。 そいつは、おれをその四角い平たい屋根の上にすわらせると、ミ ・ - - ひくともしない。正面についている大きなガ トンでおさえこんた。・ 8 ラスの目をけとばそうとしたが、だめだった。割れないのだ。下ま みどりの箱は目抜き通りをとおって、ある建物の前でまがった。 で四フィ 1 トぐらいしかないので、スニ 1 カーがほとんど地面にと どきそうだった。だが何もしないうちに、そいつはおれを乗せたまウインドに、職業紹介所と文字がある。あいたドアを乗ったままと おりぬけると、七、八人が待ちかまえていた。かなりの年寄りもい ま、ト。ヒーカの町にはいっていった。 る。女も二人まじっていた。みどりの箱はとまった。 まわりは人間だらけだった。ポーチのゆりいすにすわってるの、 ひとりがやってきて、おれの手からプレートをとりあげた。そし 芝生をくま手でかいてるの、ガソリン・スタンドの前でたむろして るの、ビイホール・マシンに小銭を入れてるの、道のまん中に白べてプレートのうらおもてを見て、いちばんしわくちゃな年寄りにわ ンキでふとい線をひいてるの、街角で新聞を売ってるの、公園のポ たした。だぶだぶのズボンをはき、みどり色のまびさしをつけ、ス 1 トのよこで・ハンドの演奏を聞いてるの、石けりやかくれん・ほをや トライプ・シャツのたもとをガータ 1 でとめている。「クイラ・ジ っこ。レーはプレ ってるの、消防車をみがいてるの、べンチで本を読んでるの、窓を ューンのものだ、ルー」と、そいつは年寄りに、 ートをとって、たたみ込み式デスクの左上のひきだしにしまった。 ふいてるの、庭木をかりこんでるの、ご婦人がたに帽子をつまんで あいさっしてるの、金網かごに牛乳びんを集めて入れてるの、馬の「銃はもらったほうがよかろう」と、じじいがいった。アーロンと 手入れをしてるの、棒をなげて大を追っぱらってるの、公共の水泳よばれたそいつは、おれから銃をとりあげた。 ノ、刀しュ / 「はなしてやれ、アーロン」と、レー プールにとびこんでるの、食料品屋のおもての石板に野菜の値をチ アーロンがみどりの箱のうしろにまわるとカチャンと音がして、 ークで書いてるの、女と手をつないで歩いてるの、その連中がみ ミトンは箱のなかにひっこんだ。おれはフロアにおりた。おさえこ 5 んな、この金属の化けものに乗ったおれをじろじろ見ているのだ。 ドロップシ + フトにはいるちょっと前に、・フラッドがいってた言まれていたので腕がしびれてる。腕をかわるがわるさすりながら、

5. SFマガジン 1971年8月号

ーベルマンを撃ち殺しものをありったけかき集め、ジ人のつきあたりにある仕切り板のそ それから、おれは四五口径を見つけて、ド ばにつみあげた。クイラ・ジ = ーンが物置から灯油の罐を見つけて 7 プラッドはおきあがり、ぶるっと体をふるわせた。ひどくかまれきたので、そのばかでかいガラクタの山に火をつけた。そして、お てる。「ありがと」プラッドはそうつぶやいて暗がりにはいると、れたちはブラッドが見つけてくれたかくれがにおりた。の 地下のポイラー室だ。からつぼのポイラーのなかにはいると入口を ねそべって傷口をなめはじめた。 しめ、息ができるように通気孔だけあけておいた。ここまで持って おれはクイラ・ジューンのところに行った。彼女は泣いていた。 こんなたくさん殺してしまったことを、とくに自分が殺してしまっきたのは、マット一枚と、運べるだけの弾、それから連中の持って いたライフルや拳銃。 たやつのことを泣いているのだった。いいかげんにだまらせようと たカ、いうことをきかないので横つつらをひつばたき、おれの命「なんか感じるか ? 」おれはプラッドにきいた。 をすくってくれたじゃないかといってや 0 た。それでいくらかおさ「すこしね。たいしたことはわからない。今もひとりの心を読んで る。ビルはよく燃えてるよ」 まった。 プラッドがしょげた顔でやってきた。「ここからどうやって出よ「やつらがいなくなったかどうかわかるか ? 」 「わかるだろ。もし、いなくなるとすればね」 う、アルバ おれは寝ころんだ。クイラ・ジューンは今までのできごとにすっ 「考えるから、ちょっと待て」 かりまいって、ガタガタふるえてる。「おちつけよ」と、おれはい 考えたが、助かる見込みはなかった。どれだけやつつけようが、 った。「朝には、上のほうは完全にかたづいてを。焼けあとをひっ 連中はあとからあとから押しかけてくるのだ。もう時間の問題だっ かきまわしたって、ごろごろ死体が見つかるだけさ。女かどうか調 た。どっちにしろ、やつらの勝ちだ。 べようったって、どうにもなりやしない。そうなったら、もうだい 「火をつけるのはどうだろう ? 」・フラッドがしナ ここで窓息しないかぎりな」 「燃えてるすきにズラかるのか ? 」おれは首をふった。「まわりをじようぶだ : : : その前に、 クイラ・ジュ 1 ンはほんのすこしほほえんで、こわがってないふ ぐるっとかこまれてるんだ。だめだな」 りをしようとした。それは、わりとうまくできた、そして目をとし 、つしょに燃えちゃうとしたら ? 」 「逃げださないとしたら ? るとマットに横になった。眠ろうとしているようだった。おれのほ こいつ、頭もいいぜ おれはプラッドを見た。度胸もいいが うもくたくただったので、目をつむった。 「うまくやれそうか ? 」おれはプラッドにきいた。 5 しいから、眠れよ」 「なんとかね。 おれは目をつむったままうなすいて、ごろんと横向きになった。 そこらにある板、マット、はしご、とび箱、べンチ、燃えそうな

6. SFマガジン 1971年8月号

おれはちょっと頭にきはじめてた。「おまえよおう、どっかおかろ・ほろだ。「ひでえや、・ほろ・ほろじゃねえか」 しいんじゃないのか ? おれはおまえをつかまえて、いいなりにし「おまえだって、まともに見られたもんじゃないぜ、アル・ ( ちゃったんだ・せ。五回も六回も強姦したんだ。そんなおれのどこが しいかえす。おれはいったん手をとめた。 いいんだよおう、え ? おまえ、脳みそちゃんとあるのか、見たこ 「ここから出る方法ないか ? 」 ともない野郎が : : : 」 「なんにも読め プラッドはあたりをすかし、そして首をふった。 クイラ・ジューンは笑ってる。「そんなこと全然。あたしだってないよ。このポイラーの上にガラクタが山ほどのつかってるんだ、 やってるとき楽しかったもの。もう一回どう ? 」 きっと。そとへ出て、偵察してみなくちゃ」 しばらくあれこれ考えて、最後にこう結論を出した。もしビルが あわてふためいたのは、こっちだ。思わず、うしろにさがった。 「いったいどうなってんだよ ? 下からあが一つてきたスケが、ソロすっかりくすれ、多少冷えてきてるのなら、いま愚連隊は火のなか になぶり殺しにされることだって、ほんとにあるんだ。せ。″上に行をひっかきまわしてるころた。連中がポイラーまで調べに来ないの っちゃいかん。不潔で、毛むくじゃらな、けだものみたいなソロには、おれたちがかなり深くうずまってしまったということだろう。 つかまったら最後だからな〃下じゃ、おやしさんやおふくろさんがでなければ、・ヒルがまだくすぶり続けているかだ。その場合には、 娘にそういってるだろ ? 知らねえのかよ ? 」 連中は残骸を調べるために、おもてで待っていることになる。 クイラ・ジューンはおれの足に手をのせると、それを上にすらし「こんなふうでも、なんとかできるのか ? 」 ていった。指先が太股をかすめた。またかたくなづてきた。「あた「どっちにしたって、何かしなきゃいけないんたろ ? 」ブラッドは しの両親は、ソロのことそんなふうには話さなかったわ」そういう いった。ひどく機嫌がわるい。「だけど、あんなあきるほどやっち と、彼女はおれを引ぎよせて自分の上にのせ、キスした。こっちもやったら、これ以上生きてたづてしようがないんじゃないかね ? 」 がまんできなくて、また彼女のなかにすべりこんだ。 ヤ・ハいことになづた、とおれは思った。プラッドはクイラ・ジュ 信じられなくなるけど、それから何時間か、ずっとそんなふうだ ーンが好きじゃないらしい。おれはプラッドのうしろをまわって、 ったのだ。そのうちプラッドがこっちを向いた。「いいかげんにしポイラー ・ハッチをゆるめた。あかない。背中を壁におしつけ、両 てくれ、おれだってそういつまでも眠ったふりをしちゃ、ら—よ、 ハッチにゆっくりと力をくわえていった。 しオし足をてこにして よ。おなかべコペコだ。それに怪我してるんだ」 入口をふさいでいた何かはしばらく抵抗していたが、すこしずつ おれはクイラ・ジューンをほうりだしてーーそのときは彼女が上動きはじめ、やがてすごい音をたてて倒れた。ドアをおしあけて、 だったのだ ・フラッドの傷を調べた。右の耳を、あのドー ベルマ首を出す。すぐ上のフロアが、地下に落っこちていたのだ。だが、 ンにかなり大きくかみちぎられていた。鼻づらまでとどくびつかき支えがくずれたときには、ほとんど燃えかすとかるいガラクタだけ になっていたらしい。上のほうには煙がもうもうとたちこめてた。 傷があり、腹の毛にも血がべっとりとこびりついている。もう、・ほ 7

7. SFマガジン 1971年8月号

アイラのあごの細い筋肉が。ヒクッとした。 おれたちは中にはいっこ。 9 クイラ・ジ = ーンは、おふくろといっしょに長イスにすわって アーロンとルーとアイラがやってきたのは、ズラかることを思い た。おふくろさんは、ちょうどクイラ・ジューンが年くって、し・ほ ついてから一週間目のことだった。そのころには、ほんとおれもポんだみたいな感じたった。「はじめまして、ホームズさん」おれは ケていた。下宿屋のうらのポーチにすわり、シャツをはだけ、コー そういうと、ちょっとおじぎした。彼女はにこっと笑った。こわば ン。 ( イプをくわえて、日なた・ほっこだ。といっても、太陽なんかあった顔つきだが、それでも笑った。 るわけじゃない。それくらいポケてたのだ。 クイラ・ジューンは両足をそろえ、両手をひざの上にかさねてす 連中はおもてからまわってきた。「おはよう、ヴィク」と、ルー わっている。髪にリポンをむすんでいた。色は・フルーだ。 がいった。この屁こきじじい、杖ついてヒョコヒョコびつこひいて 目が合った。 る。アーロンはきげんよくにんまり笑った。牝牛もよくふと 0 た腹にドスッとシ , ックを感じた。 し、そろそろこのでかい黒い種牛をのつからせよう、そういう目っ 「やあ、クイラ・ジューン」おれはいった。 きだ。アイラのほうはこつばにして、炉にでもくべるとよく燃えそ彼女は顔をあげた。「おはよう、ヴィク」 うな顔をしていた。 とたんに、まわりで見てた連中がみんなぎこちなくふるまいはじ 「ああ、おはよう、ルー。おはよう、アーロン、アイラ」 めた。そのうちアイラが、べッドルームに行かせろとか、こんない これにはルーもきげんをよくしたようだ。 まわしいことは早くおわらせろとか、すんだら教会へ行って天罰が へへつ、見てやがれよ、くそったれめー くたらないように神さまにお祈りしようとか、そういったろくでも 「最初のご婦人と会う用意はいいかね ? 」 ないことをベラベラしゃべりだした。 「ああ、もういつでも、ルー」そういって、おれは腰をあげた。 で、おれは手をあげ、クイラ・ジューンが目をふせたままさしだ 「いいタ・ハコだろう ? 」アーロンがいオ す手をとって、二人でおくのべッドルームにはいった。彼女はうつ おれはコーン。 ( イプを口からとった。「おいしいねえ」につこりむいて立っている。 笑ってやる。最初つから火なんかつけちゃいないのだ。 「連中には話さなかったんだな ? 」おれはきいた。 連中といっしょにマリゴールド通りに行き、黄色いよろい戸と白 クイラ・ジューンは首をふった。 いビケット塀のあるこじんまりした家の前に来ると、ルーカし ふいに、おれは彼女を殺したくなくなっていた。だきしめたかっ た。「アイラの家だ。クイラ・ジューンは、アイラの娘さんだよ」 た。思いきり強く。で、そうした。おれの胸にとびこんだとたん、 「それは、おどろいたなあ」目を丸くして、いってやった。 彼女は泣きだし、ちっさなこぶしで、おれの背中をたたきつづけ っ 4 9

8. SFマガジン 1971年8月号

「いま、彼が若死にしたといったね。ーーすると、そのまえに胚細胞つきいったように、わたしたちの原細胞からは、染色体がとり除 をとるとかどうか、してあったのかい ? 」 かれていますから。男性のほうは、もし希望すれば、認定された 2 シングルトン ギメルがひきついだ 普通人と雑婚できます。でも、できるだけ何度もジョン・チャウを 「彼は二十四歳のとき、エア・カーの墜落事故で死にました。脳は手に入れるために、結局はこのクローンからの細胞がまたクローン 救えなかったので、腸細胞をとりだして、それをクローン再生のた再生されることになるでしようね」 ーストを マーティンは抵抗をあきらめた。うなずいて、さめたト めに培養したんです。生殖細胞は、半分の染色体しか持っていない から、クローン再生には使われません。腸細胞だと、非特殊化も、頬ばった。 成体の発育の再プログラムも、やりやすいんですよ」 「さて」とひとりのジョンがいったとたん、全員のムードが変わっ むくどり 「みんなが親に生きうっしか」マーティンは勇をふるっていった。 た。椋鳥の一群れが羽ばたき一つで向きを変え、あまりにもすばや くリーダーをまねるので、どれがリーダーか見当がっかないよう 「しかし、どうして : : : そのうちの何人かが女に : に。かれらは、すぐにも外へ出る気構えだった。 ・ヘスがひきついだ 「クローン集塊の半分を女性にもどすのは、簡単にプログラムでき「鉱山をちょっとのそいてみてもいいですか ? そのあとで備品の るんです。半数の細胞から雄性遺伝子をとり除けば、もうそれだけ荷ほどきをします。新型のすてきなロポカートがあるんですよ。見 で基本型に、つまり、女性にもどります。それを逆にやるのは、人たいでしよう ? 」 かりにビューとマーティンが反対意見だったとしても、それを口 工の染色体をくつつけなくてはならないから、むすかしい。そこ に出していうのはむずかしかったろう。ジョンたちは礼儀正しい で、ふつうクローンは男性から再生されます。両性で構成したと が、有無をいわさぬところがある。かれらの決定は断固として通る き、クローンが最高に機能することが、わかっているからです , のだ。ライプラ第二基地の最高指揮者であるビューは、ふと不安に ふたたびギメル 】ウーマンの十人組を、 「こういう技術と機能の問題は、すべて慎重に検討しつくされてのおそわれた。このス】パーマンとスー ったい彼はとりしきっていけるのだろうか ? しかも、相手は天才 上ですよ。なにしろ、納税者は自分たちの出した金に対して最上の 結果を要求するし、もちろんクローンは高価ときている。細胞の処ぞろいなのだ。彼はマーティンとくつつくようにして、外出用の防 理操作、又ガマ胎盤での保育、それに養父母グループの訓練も含め護服を着こんた。ふたりとも黙りこくっていた。 三台の大きな飛行橇に四人ずつ乗りこむと、一行は星明りに照ら ると、・ほくらは一人あたり約三百万につくんです」 ドームか 「きみたちのつぎの世代のことだが」と、マーティンはまだ苦闘しされたライプラの、焦茶色でしわたらけの肌を下に見て、 ながらいった。「つまり : : : むろん、子供は生めるんだろうね ? 」ら北へとすべりだした。 うまずめ 「女性のほうは石女です」ベスが眉ひとっ動かさずにいった。「さ「わびしい景色」とひとりがいった。 0 、

9. SFマガジン 1971年8月号

レイモンド・ 主演デニス・オキーフ、クレア・トレヴァー、 と、スケのひとりが男の顔の上にまたがって、もうひとりがいたぶ マーシャ・ハント。 一九四八年製作だから、今から七十六年も前 りはじめる。それからあとは、もうメッタメタだ。 だ。こんなのがよく今までもったもんだと思う。フィルムがやたら まわりじゃ、ソロがみんなマスをかきだしていた。おれもその気 にスプロケットからはずれるので、そのたびにとめて巻きもどしてになって、ちょいちょいやりはじめたら、よっかかって見ていたプ る。だけど、おもしろかった。愚連隊にペテンにかけられ、復讐をラッドがものすごくちっさな声でいった。なにか変なものをかぎつ ちかうソロの話た。ギャング、悪党、やくざ、なぐりあい撃ちあい けたときには、いつもそうなのだ。 「このなかに女がいるぜ」 がたくさんあって最高、ごきげん。 「ハ力いうなって」 二つ目のは、第三次大戦中の〇七年、おれが生まれる二年前にで 「ほんと、においがするんだ。いるんだよ」 きた『チャンコロのにおい』というやつだった。おしまいまでほと さりげなく見まわした。ほとんどのシートは、ソロを連れの大で んど血まみれゲロゲロで、人間どうしの殺しあいのシーンがよくでふさがっている。女なんかまぎれこんでいれば、暴動ぐらいおこっ きていた。それから、ナバーム発射装置をしよった斥候のグレーハ てるはずだ。だれひとりつつこむこともできないうちに、ばらばら ウンドたちが、チャンコロの町を焼きはらうところも、ものすごく にされてるだろう。「どこだよ ? 」と、おれもちっさな声できい カッコイイ。前にも見てるというのに、・フラッドはもう夢中たっ ーいってる。スクリ た。ソロの連中はみんな、のりにのってヒーヒ た。連中を自分の祖先だと思って見てるのだ。じゃないことはわか 1 ンじゃ、・フロンドが二人ともマスクをはずし、ひとりが腰につる ってて、それをおれが気づいてることまで、ちゃんとわかってて見してたでかい木の ( ンマーで細っこい男をいためつけていた。 てるのだ。 「ちょっと時間くれよ」・フラッドはそういうと、本気で集中しはじ 「赤ん・ほ、焼き殺してみたいだろ、え ? 」おれはちっさな声でいっ めた。体が針金みたいにコチコチになった。目をつぶり、鼻づらを た。あてこすりは通じたはずだけれど、・フラッドはもっそり姿勢をひくつかせてる。おれはそのままにしておいた。 かえただけで、町なかをつきすすむ犬たちをうっとりと見ている。 ありそうなことだ。あるかもしれない。下のやつらが、ほんと・ハ おれのほうは、あきあきしていた。 力な映画を作ってるという話は知っていた。一九三、四〇年ごろの いちばんの呼び物を早くやってほしかった。 とそっくりのくだらないの、・結婚した連中までツインで寝るという やっとこさ始まった。これはゼッビンだった。七〇年代後半に作清潔このうえなしのやつ。マーナ・ロイ、ジョージ・プレント主演 られた『黒レザーの女悪魔』というポルノ映画だ。最初つから、すて感じのだ。それからまた、下のきびしいミドルクラスの家庭で育 ごい。プロンドが二人、黒いレザーのコルセットと・フ 1 ッという格ったねえちゃんが、ときどきメッタメタな映画を見たくなってあが 好で出てくる。・フーツは股のところまでびっちりはいてて、ムチをつてくるという話も知っていた。たしかに聞いてはいたのだけれ 持ち、マスクで顔をかくしてる。そして細っこい男をつかまえるど、おれが今まではいった小屋でそんなことがあったためしは一度 4 6

10. SFマガジン 1971年8月号

チく のれ ほれ誘住 ソ連の S F 英語副読本 か瞬 は視 、る し彼すきれ ソ連はレニングラードでなんの変哲もない一 冊のペーパーノくックが出版された。しいていえ ば , カバータイトルがロシア語ではなく Science ほだ んも Fiction と英語であることが変わっているぐら っ的なを いで , ちょっと見ただけでは , ソ連製であるこ を女 つわ とを知らなければ , つい見過ごしてしまう程度 消は てけ の小冊子である。パラバラとページをめくった だけでは , あまりにも馴染みの作家達の短編が 並んでいて , 派手なカ / く一のアメリカ製ペーパ ーバックに馴れっこになっている日本の S F フ なや ァンには買う気も起きそうにないしろものであ て手 し、を る。 ところが実は , その変哲極まりないべーパー チ何 パックが , おいそれとは手に入らない珍本であ 者 るから楽しい。レイ・プラッドベリの「街道」と 「草原」 , フレデリック・ポールの「虚影の街」 , でた M ・ラインスターの「最初の接触」アイザック アシモフ「レニイ」 , アラン・ E ・ナース「偽 メう、 - つ るけ 態」 , ウィリアム・テン「新ファウスト・スー はを ー」 , プライアン・オールディス「 But 市 0 奪は Can Replace a Man? 」など著名な英米作家八 人の短編九編と G ・ H ・スタインの「 Science Fiction is t00 Conservative 」カ、ら , 抜粋し た部分を「 How to Think a Science Fiction 甲、わ Story 」と題して序文代りに載せている。しか あン たそわあ も , 残念ながらこれに収録されている作品の原 。も は恥 のた た夜 典が手許にないから , どの程度改変されている した にわ か知る由もないが , L ・ P ・ストゥーヒ。ン氏な 乗れ し思 る編者の手でリテールされているという。しか んそな女長た のた し , 相当詳しい巻末の註釈があるので , それ程 い図 ひどい書き変えがなされているとは思えない が , はたして当の作者諸氏がそのことを御存じ れお かどうか ? 版権のことはもとより , それらし い断り書きひとつないところを見ると , S F 的 ズむ れし かな 国際主義といおうか , スラブ的鷹揚さといおう し午 かお見事としか申しあげようがない。ゲテモノ 宿距たた いた 趣味のファンには見逃せない逸品である。 し離 ちなみに , これは , ソ連で唯一の教科書製造 ぶ路 元 , 大手出版出版社である「教育」社が , 大学 は言語学専攻の学生を対象にした英語の副読本 もしくはリーダーとして編集されており , 発行 いが 部数七万五千。日本には数冊しか入っていな 館わ いげ のわ がた にた ソ連では教科書の類に SF を使ったのはこれ が始めてではない。外国人がロシア語を学ぶた む冫 せを めに , ア・ペリャーエフ , イワン・エフレーモ 彼は だ浸 フ , ストルガッキー兄弟などソ連の S F 作家の 女彼 けし なみ 短編を集めた英語の註釈がついたロシア語のテ を女 想を し、だ のす し て て そ ぶ 0 よ な う 考 え な カ : ら も 図 書 い ほ 光 み け ほ と 去 つ く あ と に 葉 だ を 残 れ で 利いわ だ そわ女 た し . な つ と く 、すを る し そ も の と み彼待 すわけ た し で 0 よ み に っ り そ の 日 し は 彼 と ム い に い く の や 。め る に う の を っ ナこ し ち う る の彼女 女 の 。手持な は ふ つ と ら ぐ め に 世 界 S F 情 ん で い ビ ル の 目リ ま で く る 0 : 0 芝 の 心、 が わ 、揺たたそ を が部彼 馮 き の り 移 ら そ を た と き だ れ を も 傷 つ な た る の カ ; わ さ に は ク ) んわた し しちれ 、屋女わ憑 で わ し . 、た が と を お 、な く て は な ら な レ ) き も の の 近 さ に 、怯不 ん く ん で お り あ の 嗜 ち に と が 、さ ら 冫こ 思 ぇ く る 自 か分お に い き る 。世こ し 力、 し 女 の 安 の 殻 を う ち く く と で き な い 彼 女 ょ し ま に 自 て山け で な つ し時わ は期た の ぼ ろ オょ か愛き さ し だ ャ ン ス ん て く る 、れ だ をよ い し カ : 彼 女 に つ ま と う と カ : る と だ て あ る じ や し、 か ヤ ン ス ん し ち 。が彼 に か で救ミ し、 げ よ う と し て る と に ・一 1 レ み 悲 観 ぎ る よ つ ら カ 月 も て の ム の く ん 力、 し し、 る - ー 1 で も 、そな カ : はな温 に は 。さ書 シむ館 ざ と に く し よ り り あ う と は で き る ん だ し 、ま で 正 に キストが出版されている。 57 (Y)