プラッド - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1971年8月号
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1. SFマガジン 1971年8月号

と、そいつはたおれるのだ。 もう夢中だ。 そばまで行ったとき、彼女はやせこけた自分のおふくろをねらっ ていた。引き金をひく寸前に、頭をうしろからぶんなぐったので、 弾は横にそれた。おふくろさんはダンスするようにちょっととびあ カったが、どんどんやってくる。クイラ・ジューンがいきなりふり ドロツ。フシャフトから一マイルはなれたところへ出た。フィルタ むいた。殺しに飢えたような目が、おれを見た。「はずれちゃった と ( ッチボルトを銃でふきとばして、そとには、だし しゃなしか」その声には、おれさえゾクッとした。 ・キャグニー た。下のやつらも、これで思い知っただろう。ジミ 四五をもぎとった。ばかやろう。こんなに弾をムダづかいしやが には近おらんほうがいし どうせ勝ち目はないんだから。 クイラ・ジューンをひきずってビルのうらへまわると、さしかけ クイラ・ジーンは力をつかいはたしてた。ムリもない。だけど 屋根の倉庫を見つけた。その上にとびおり、彼女を待った。 彼女は鳥みたいに笑いさえすりながら、とびおりた。その体をう青天井の下で夜ねるのはヤ・ ( い。ひる日なかだって出会いたくない けとめ、倉庫のドアをすこしあけて、連中がビルのなかまではいつような化けものが、どっかにいるかもしれないからだ。もう・そろそ ろ暗くなりだしてる。 てるかのそいた。どこにもいない。 クイラ・ジ、ーンの腕をつかんで、ト。ヒーカの南側のヘりへつつ おれたちはドロップシャフトをめざした。 ・フラッドが待っていた。 ばしった。ぶらっきながらさがしたかぎりでは、それがいちばん近 ぐったりしている。だが、おれを待っていたのだ。 い出口だった。つくまでに十五分かかった。はあはああえぐだけ かがんで、頭をかかえあげた。・フラッドは目をあけて、聞こえる で、子猫みたいに力がでない。 「よう」 か聞こえないくらいの細い声でいった。 出口はそこにあった。 しいやつだ・せ。「かえ おれは笑いかけた。ちくしよう、やつばり、 ふとい通気孔た。 ってきたそ、おい」 金てこで留めがねをこじあけ、はいりこんだ。はしごが上にむか ・フラッドはおきあがろうとした。だが、できなかった。傷口は見 っていた。やつばりだ。あるにきまってるんた。修理や掃除はしな られたものじゃなくなっていた。「何か食ったのかよ ?. おれはき きゃいけないんだから。あたりまえじゃんか。の・ほりはじめた。 な力しながい時間がかかった。 : それとも、おとといだっ 「いいや。きのうトカゲつかまえたよ : つかれての・ほる気がなくなってしまうと、クイラ・ジ = ーンはい つもこうきくのだった。「ヴィク、あたしを愛してる ? 」そのたび に、愛してるよ、と答えた。ほんとのことだし、それで彼女にの・ほ る力がわくからだった。 0 5 9

2. SFマガジン 1971年8月号

があらかた死んでしまったこともある。戦争のときよ、、 。しつでもそだけど、それがどれくらい危険か、ほんとにわかったとしたら。 うだーーー少なくとも・フラッドから聞いたところではそうらしい。そ そのべしゃんこになった区画のつきあたりに、偶然やられるのを 6 れからあと生まれてくるのは、ほとんど男だか女だかわからない化まぬがれて残「ている。ヒルがあ 0 た。女はなかにとびこんだ。一分 けもので、腹のなかから引 0 ばりだすとすぐ壁にたたきつけて殺さほどして、おどる光が目にはい 0 た。フラ , シ = ライトか ? だろ ねばならなかった。 う、たぶん。 そして、まともなのは、みんなミドルクラス連中といっしょにド ・フラッドとおれは通りをよこぎって、そのビルの影にはいった。 に一おりてしま「た。残「たのは、だからマーケ ' ト・・ ( スケ〉トでそこは、むかしのだ 0 た。 見つけたような、はねつかえりのスペタばかり。ひねくれていて、 キリスト教青年会のことだ、と・フラッドが教えてくれた。 ごりごりといかっくて、ちょっとでもすきを見せればカミソリでザ だけど、そのキリスト教青年会というのはいったい何だろう ? ' クリやられる。おれが大きくな 0 てから、ますますスケが見つか〈たに読めるようになると、・ ( 力でいたときより、も 0 とわからな りにくくなったのもムリはない。 いことが多くなる。 だけど、ときどき愚連隊仲間の共有にあきて逃げだしたのや、下あのスケが出てくるようだとまずいな、とおれは思った。や「ち をおそ 0 た愚連隊にさらわれてきたのに、ひょ 0 とぶつかることがまう場所としたら、中がいちばんいいからだ、焼けビルの前の石段 ある。それからーーそう、今みたいにーー下でくらしたスケが助平のところでプラ ' ドに張り番をさせておいて、うらにまわ 0 た。も 根性をおこして、ポルノを一度見てやろうとあが 0 てくることもあちろん、ドアもガラスもみんなふきとばされてる。しのびこむの は「べつにむずかしくない。窓のヘりに両手をかけると、ひょいと ようやく抱けるんだ。ちくしよう、待ちきれねえやー 中にとびおりた。まっ暗だ。 O ビルのいちばんむこう側で、 スケがごそごそやってる音のほかは、なにも聞こえない。 : ′シキを 3 持ってるかどうか、とにかくヤ・ハい橋をわたることはない。・フロー ニングをつり革にもどすと、四五口径オートマチックをぬいた。ア このあたりに来ると、丸焼けになったからつぼのビルがどこまでクションをあらためはしなかったーー薬室にはいつも弾をいれてお ーもつづいてるだけだ。天からばかでかいスチールのプレスが、ガッチくようにしていたからだ。 ャーン ! とおりてきたみたいに、全体がこなごなべしゃんこにな そろそろと部屋をよこぎる。ロッカー室みたいなものだったらし フロアよ、・ ってる区画もあった。女はおじけづいて、そわそわしてるようだっ カラスと石ころばかり。ならんだロッカーのうちの た。右や左を見まわしたり、うしろをふりかえったりしながら、ぎ一列だけは、上のペンキがす 0 かり焼けてはげている。遠い昔、窓 ごちなく歩いてる。危険な場所にいることを感じているのだろう。 からさしこんだ閃光のせいだろう。スニーカーは、部屋を通りぬけ

3. SFマガジン 1971年8月号

レイモンド・ 主演デニス・オキーフ、クレア・トレヴァー、 と、スケのひとりが男の顔の上にまたがって、もうひとりがいたぶ マーシャ・ハント。 一九四八年製作だから、今から七十六年も前 りはじめる。それからあとは、もうメッタメタだ。 だ。こんなのがよく今までもったもんだと思う。フィルムがやたら まわりじゃ、ソロがみんなマスをかきだしていた。おれもその気 にスプロケットからはずれるので、そのたびにとめて巻きもどしてになって、ちょいちょいやりはじめたら、よっかかって見ていたプ る。だけど、おもしろかった。愚連隊にペテンにかけられ、復讐をラッドがものすごくちっさな声でいった。なにか変なものをかぎつ ちかうソロの話た。ギャング、悪党、やくざ、なぐりあい撃ちあい けたときには、いつもそうなのだ。 「このなかに女がいるぜ」 がたくさんあって最高、ごきげん。 「ハ力いうなって」 二つ目のは、第三次大戦中の〇七年、おれが生まれる二年前にで 「ほんと、においがするんだ。いるんだよ」 きた『チャンコロのにおい』というやつだった。おしまいまでほと さりげなく見まわした。ほとんどのシートは、ソロを連れの大で んど血まみれゲロゲロで、人間どうしの殺しあいのシーンがよくでふさがっている。女なんかまぎれこんでいれば、暴動ぐらいおこっ きていた。それから、ナバーム発射装置をしよった斥候のグレーハ てるはずだ。だれひとりつつこむこともできないうちに、ばらばら ウンドたちが、チャンコロの町を焼きはらうところも、ものすごく にされてるだろう。「どこだよ ? 」と、おれもちっさな声できい カッコイイ。前にも見てるというのに、・フラッドはもう夢中たっ ーいってる。スクリ た。ソロの連中はみんな、のりにのってヒーヒ た。連中を自分の祖先だと思って見てるのだ。じゃないことはわか 1 ンじゃ、・フロンドが二人ともマスクをはずし、ひとりが腰につる ってて、それをおれが気づいてることまで、ちゃんとわかってて見してたでかい木の ( ンマーで細っこい男をいためつけていた。 てるのだ。 「ちょっと時間くれよ」・フラッドはそういうと、本気で集中しはじ 「赤ん・ほ、焼き殺してみたいだろ、え ? 」おれはちっさな声でいっ めた。体が針金みたいにコチコチになった。目をつぶり、鼻づらを た。あてこすりは通じたはずだけれど、・フラッドはもっそり姿勢をひくつかせてる。おれはそのままにしておいた。 かえただけで、町なかをつきすすむ犬たちをうっとりと見ている。 ありそうなことだ。あるかもしれない。下のやつらが、ほんと・ハ おれのほうは、あきあきしていた。 力な映画を作ってるという話は知っていた。一九三、四〇年ごろの いちばんの呼び物を早くやってほしかった。 とそっくりのくだらないの、・結婚した連中までツインで寝るという やっとこさ始まった。これはゼッビンだった。七〇年代後半に作清潔このうえなしのやつ。マーナ・ロイ、ジョージ・プレント主演 られた『黒レザーの女悪魔』というポルノ映画だ。最初つから、すて感じのだ。それからまた、下のきびしいミドルクラスの家庭で育 ごい。プロンドが二人、黒いレザーのコルセットと・フ 1 ッという格ったねえちゃんが、ときどきメッタメタな映画を見たくなってあが 好で出てくる。・フーツは股のところまでびっちりはいてて、ムチをつてくるという話も知っていた。たしかに聞いてはいたのだけれ 持ち、マスクで顔をかくしてる。そして細っこい男をつかまえるど、おれが今まではいった小屋でそんなことがあったためしは一度 4 6

4. SFマガジン 1971年8月号

る映画はみんな甘ったるく分別くさいものばかりで、あきあきしてイ、制限人口ニニ八六 0 とあった。ほとんどショックもなく足がっ いたこと。学校の女友達がポルノ映画の話をするのを聞き、そのひいた。ちょっと膝をまげてパランスをとっただけだった。 とりから借りてきたうすっぺらな八ページのコミックプックを見て もう一度プレートを使うと、アイリス・ドアがーーーさっきのより 目を丸くしてしまったこと・ーーおれは全部信じた。ここまでくれはるかに大きいーーするするとひらいた。そして、おれははじめて ば、あとはかんたんな理屈だ。認識プレートをなぜ残していった下の町を見た。 か、そこでうたぐってもよかったのだ。はっきりしてるじ . ゃない つきあたりにうす・ほんやり光る・フリキの境界まで、二十マイル。 か。プラッドはそれを教えようとしたのだ。バカ ? そう、・ ( 力なおれのうしろの壁は、内側にむかってどこまでもどこまでもカープ んだ ! しながら大きな半円をつくり、また内側にどこまでもどこまでもカ アイリス・ドアがうしろでしまったとたん、プーンという音はい ー・フして、出発点にもどっている。おれは今、高さ八分の一マイ っそう大きくなり、四方の壁が冷たくかがやきだした。四方じゃな ル、直径一一十マイルのばかでかい金属の筒の底にいるのだった。そ 丸い部屋だから壁は二つの面しかないわけだ、内側と外側とい の・フリキ罐のなかに、だれかが町をつくったのだ、上の世界の図書 う。壁の光はだんだん強くなり、プーンという音も大きくなった。館の、水びたしになった本の写真のなかで見たような町を。おれは と、おれの立っているフロアが、今しがたのアイリス・ドアみたい これとよく似た町を本で見たことがある。これとちょうどそっくり だった。さつばりした小さな家、まがりくねった細い道、きちんと にひろがりだした。おれはコミックに出てくるネズミみたいにつつ 立っていた。 刈った芝生、商店街、そのほかト。ヒーカという町にありそうなもの 見おろしさえしなければ、クールでいられるし、おっこちないよ全部。 うな気がしたのだ。 ただし、ないものがある。太陽と、鳥と、雲、雨、雪、寒さ、風、 そのときには、もう宙にういていた。頭の上でアイリスがしまつアリ、ごみ、山、海、ひろびろした小麦畑、星、月、森、かけまわ た。シャフトのなかをどこまでも落ちていった。だんだん速くなるる動物、それから : ようだが、それほどでもない。ただひたすら落ちてゆくだけだ。なそれから、自由。 ここの連中は、死んだ魚みたいに罐詰にされているのだ。罐詰な ・せドロップシャフトというのか、おれははじめて思いあたった。 そんなふうなのが長いあいだ、つづいた。ときどき壁に変な文字のだ。 が出ていた。レヴとか、アンチボルとか、プリードコンとか、 おれは喉のあたりがひきしまるのを感じた。そとへ出たかった。。 バンプセ 6 なんていうのがあって、アイリス部分の線が見分けられ上の世界へ ! 体がふるえはじめた。両手が冷たくなり、ひたいに ることもあるーーーそれでもまだ行きどまりにはならなかった。 は汗がふきでていた。こんなとこへおりちまったなんて、。 - 交ちがい ようやく、いちばん底までおっこちた。壁には、トピーカ・シテざたた。出なくちゃ。早く ! 4 8

5. SFマガジン 1971年8月号

彼女はこぶしを口にあてた。おれはげたげた笑ってやった。「そ んな野郎のキンタマはちょんぎっちゃえよ、おばはんよう」まるで 9 上にある土の重さが、肌にったわっ、てくるようだった。 食いものはみんな人工だ。人工豆、合成肉、インチキ鶏、にせトケツから火をふいたみたいにとびだしてった。 ウモコシ、いかさまパン、味もなにも砂食ってるみたいで食いもそんなふうに何日かすぎた。おれは町をふらっき、連中は話にき たり、食いものを持ってきたりした。だがピチ。ヒチしたスケは全然 のなんてもんしゃない。 上品 ? ばっきやろ、あんな礼儀とかいう見せかけの嘘つばちをよせつけようとしなかった。町中のやつらと話がつくまでおあずけ 見たらゲロはいちゃうぜ。こんにちは、ナントカさん、カントカさなのだ。 プリキ罐から出るに出られず、ちょっと頭がおかしくなったとき ん。ゃあ、こんにちは。ジニイちゃん、お元気 ? どうですか、 気は ? 木曜の教会の集まりにはいらっしゃいます ? 最後にもあった。閉所恐怖症とかいうのにおそわれ、、下宿屋のポーチの贐 いところでがたがたふるえていた。 - よケやくおさまると、今度はや は、おれまで下宿の部屋のなかでひとりでぶつぶついいはじめた。 たらにイライラして、やつらをどなりつけ、つぎにはふさぎこみ ! こんな清潔で、きちんとした、甘っち上ろい生活をつづけたら、 男は死んじまう。男の連中がみんな立たなくなって、タマのついてそのつぎはおとなしくなり、それからはただ・ほんやりしていた。 ここからズラかることを考えはじめたのは、それからずっとあと ない、穴・ほこだけの赤ん・ほしか生まれないのも、こんなことしてり オ前に・フラッドに。フードルを食わせてやったのを思いだしたとき ゃあたりまえだ。 最初の一「三日、みんなはおれを爆弾かなんかを見るような目でから、それははじまった。あれはどっか下の町から出てきたにきま ってる。たたドロツ。フシャフトからはあがれない。とすれば、出口 見ていた。おれが爆発したらおもしろいや。連中の家のきれいな白 しビケ ' ト塀も、ウン「と血でべとべとた。だがそのうちたんだんがほかにあるけだ。 とうとう連中は、町全体のようすをくわしく見せてくれることに 連中もおれになれてきた。ルーはおれを商店街につれていき、どん よっこーー・不作法なことはせず、よけいなことはしなければという なソロだって一マイル先から見つけそうな、まっさらのズボンとシオナ + ツを買ってくれた。メズという、こないだおれを殺人鬼とよびや条件でだ。みどりのパトロール箱が、いつもどこか近くで見はって がった女まで、うるさくつきまといはじめ、最後には髪をかってやた。 るといいだした。文明化したように見せるんだそうだ。だけど、お ついに出口が見つかった。べつにおどろくほどのことじゃない。 れにはこの女のねらいはわかってた。おふくろって感じなんか全然あるにきまってるものがあっただけだ。 ないんだから。 そのあと、おれの銃のかくし場所がわかり、用意ができた。ほと んど。 「どうしたんだよ、マンコちゃん ? 」おれは皮肉をいってやった。 「亭主がかまってくれないのかい ? 」

6. SFマガジン 1971年8月号

クイラ・ジューンのおやじだろう、きっと。 な顔じゃない。 おれはつづきを待った。 「ようし、じゃ、はじめるか。みんな、ならべろよ」そういっ・て、 「ところがだ、近ごろになってある問題がおこった。市民のなか に、赤ん・ほうを作れない年のものが多くなりーーーできても、女の赤おれはジーパンのチャックをおろした。 ん・ほうしか生まれてこないようになった。男が必要だ。ある特別な女どもが悲鳴をあげた。連中はおれをつかまえて下宿屋につれて いくと、部屋にいれた。連中がいうには、仕事をはじめる前にト。ヒ 能力を非常にたくさん持った男だ」 でないと、ええと、その おれは笑いだした。こんな夢みたいな話ないじゃんか。おれに種ーカをすこし知っておいたほうがいし う、つまり、こまったことになるからで、市民たちにも、これはぜ つけさせる気なんだ。しばらく笑いがとまらなかった。 ひとも必要だということを説得しなければならない、のだそうだ。 「不作法な ! 」女のひとりが、顔をしかめながらいった。 どうやら連中は、おれがうまく仕事したら、もう二、三人、若い種 「若いの、これは、わしらとしても話しづらいことなのだーー・あま 牛を上からつれてくるつもりらしい り困らせんでくれ」ルーはおたおたしてる。 そういうわけで、おれは、ト。ヒーカの市民が何をしてるか、どん 上にいたときは毎日毎日、・フラッドと血まなこになってスケをさ がしてたというのに、おりてみたら、町のご婦人がたにたっぷりサなふうにくらしてるか、しばらくのあいだながめることになり、そ ービスしてくれときちゃう。フロアにすわりこんで、涙が出るまでのうちだんだんようすがわかってきた。イカしてるったら、ないん だ。ポーチのゆりいすにすわったり、芝生をくま手でかいたり、ガ 笑いつづけた。 ソリン・スタンドの前でたむろしたり、ビンポール・マシンに小銭 「いいぜ。まかしときな。 やっとおきあがると、おれはいった。 を入れたり、道のまん中に白。ヘンキでふとい線をひいたり、街角で だけどその前におれのほうもしたいことがある」 新聞を売ったり、公園のポ 1 トの上で・ハンドの演奏を聞いたり、石 ルーはじっと見つめた。 「ます一番目は、クイラ・ジ = ーンをこっちにわたすことだ。目がけりやかくれん・ほをやったり、消防車をみがいたり、べンチで本 つぶれるくらい、あいっとやってやってやりくらかしてから、あのを読んだり、窓をふいたり、庭木をかりこんだり、ご婦人がたに帽 ときのしかえしに、右目の上のおんなじところをぶちのめしてやる子をつまんであいさっしたり、金網かごに牛乳びんを集めて入れた り、馬の手入れをしたり、棒を投げて犬を追っぱらったり、公共の 水泳プールにとびこんだり、食料品屋のおもての石坂に野菜の値段 連中はかたまって話しこんでたが、そのうちゃってきて、ルー・、 っこ 0 し / 「ここでは暴力は許されん。だがクイラ・ジ = ーンを手始をチョークで書いたり、今まで見たこともないほどの・フスと手をつ めとして行なうのはよかろう。あの娘はじようぶだったな、アイラないで歩いたり、ほんと、おれはあきあきしてしまった。 一週間もすると、悲鳴をあげたくなってきた。 細っこい、黄色い肌をした男がうなずいた。あんまりうれしそうれいの・フリキ罐がだんだん、おれのほうに押しよせてくるようだ 9 8

7. SFマガジン 1971年8月号

ドロップシャフトへもどろうと向きを変えた。そのとき、そいっ葉が耳に聞こえてくるようだった。みんなおカタくて、こじんまり まとまってて、住んでるのは知ってるやつばかりという町なんた。 がおれをつかまえた。 そのうえソロをにくんでる。愚連隊がしよっちゅう押しかけて女を あのスペタ、クイラ・ジュ 1 ンのしわざだ ! もっと前に気がっ 強姦し、食料をかっさら 6 たものだから、下でも対抗する策をたて いてればよかったのだー たんだ。殺されるそ、おまえー それは、平たくて、みどり色で、箱みたいなかたちをしていた。 ありがとな、ワン公。 そして腕のかわりをする、二本のくねくね動くケー・フルがのび、そ 元気でやれよ。 の先つ。ほはミトンのかたちをしていた。 そいつは、おれをその四角い平たい屋根の上にすわらせると、ミ ・ - - ひくともしない。正面についている大きなガ トンでおさえこんた。・ 8 ラスの目をけとばそうとしたが、だめだった。割れないのだ。下ま みどりの箱は目抜き通りをとおって、ある建物の前でまがった。 で四フィ 1 トぐらいしかないので、スニ 1 カーがほとんど地面にと どきそうだった。だが何もしないうちに、そいつはおれを乗せたまウインドに、職業紹介所と文字がある。あいたドアを乗ったままと おりぬけると、七、八人が待ちかまえていた。かなりの年寄りもい ま、ト。ヒーカの町にはいっていった。 る。女も二人まじっていた。みどりの箱はとまった。 まわりは人間だらけだった。ポーチのゆりいすにすわってるの、 ひとりがやってきて、おれの手からプレートをとりあげた。そし 芝生をくま手でかいてるの、ガソリン・スタンドの前でたむろして るの、ビイホール・マシンに小銭を入れてるの、道のまん中に白べてプレートのうらおもてを見て、いちばんしわくちゃな年寄りにわ ンキでふとい線をひいてるの、街角で新聞を売ってるの、公園のポ たした。だぶだぶのズボンをはき、みどり色のまびさしをつけ、ス 1 トのよこで・ハンドの演奏を聞いてるの、石けりやかくれん・ほをや トライプ・シャツのたもとをガータ 1 でとめている。「クイラ・ジ っこ。レーはプレ ってるの、消防車をみがいてるの、べンチで本を読んでるの、窓を ューンのものだ、ルー」と、そいつは年寄りに、 ートをとって、たたみ込み式デスクの左上のひきだしにしまった。 ふいてるの、庭木をかりこんでるの、ご婦人がたに帽子をつまんで あいさっしてるの、金網かごに牛乳びんを集めて入れてるの、馬の「銃はもらったほうがよかろう」と、じじいがいった。アーロンと 手入れをしてるの、棒をなげて大を追っぱらってるの、公共の水泳よばれたそいつは、おれから銃をとりあげた。 ノ、刀しュ / 「はなしてやれ、アーロン」と、レー プールにとびこんでるの、食料品屋のおもての石板に野菜の値をチ アーロンがみどりの箱のうしろにまわるとカチャンと音がして、 ークで書いてるの、女と手をつないで歩いてるの、その連中がみ ミトンは箱のなかにひっこんだ。おれはフロアにおりた。おさえこ 5 んな、この金属の化けものに乗ったおれをじろじろ見ているのだ。 ドロップシ + フトにはいるちょっと前に、・フラッドがいってた言まれていたので腕がしびれてる。腕をかわるがわるさすりながら、

8. SFマガジン 1971年8月号

、女は変装からぬけだしていた。何もかもぬいでしまって、ふるえ る音を全然たてなかった。 ドアが蝶つがいひとつでぶらさがっている。その逆三角のすきまながら立っている。そういえば、たしかに寒い、女の体には鳥肌が イ 1 ト六インチか七インチ。かわいい をまたぎこえた。でかいプールはひあがっていた。浅いほうの側のたっていた。背たけは、五フ タイルが熱でべこべこにゆがんでる。くさいくさいと思ったら、死おつばいをしてる。脚はどっちかといえば細い感じだ。髪をとかし 体というより、そのなれの果てみたいなのが、プールの壁ぎわに山てるところだった。背中の下のほうまで、長くのばしてる。ライト がそれほど明かるくないので、赤毛か栗色かはっきりわからない ほどっみあげられていた。埋めるのをめんどくさがって、この中に ほうりこんだのだろう。ネッカチーフを鼻のところまで引 0 ばりあが、・フロンドじゃないようだ。その点はうれしかった。おれの好み は、赤毛なのだ。かわいいおつばいはよく見えるが、ウェー・フしな げると、先に進んだ。 。フール室を出ると、そこは通路で、天井の電球がきれいにひとつがら長くのびた髪にかくれて、顔はわからなか 0 た。 ぬぎすてた服はフロアにちらばっている。着がえは跳馬にのって 残らず割れていた。ここでは見通しがきいた。窓や天井にできた穴 る。彼女は、変てこなかかとのクツをはいていた。 から、月の光がたっぷりさしこんでいたからだ。物音はもうはっきい り聞こえてくる。つきあたりのドアのむこう。壁づたいにドアに近おれは動けなか 0 た。動けなくな 0 てるのに、ふいに気づいたの だ。きれいといったら、最高にきれいなんだ、ここにつっ立って見 づく。すこし押しあけたところで、くずれかけたしつくいとぬき板 がじゃまをした。こしあければ、まちがいなくすごい音をたてるだてるだけなのに、今までなかったほどビンビン感じてくる。ほそく くびれたウエスト、くりつと丸いヒップ、両手が髪をかきあげると ろう。いいタイミングを待とう。 き、きゅんともちあがるおつばい。つっ立って、彼女のやることを おれは壁にへばりついて、女をのそき見た。そこはジムだった。 そうとう広い。天井からクライミング・ロープが何本かたれさが 0 見てるだけでこうなんだから、ほんとおそろしくな 0 てくる。なん てる。跳馬のしりのところに、大きな箱形の十一一ポルト用フラ ' シていうか、つまり、なにからなにまで女なのだ。う 0 とりしてい ィートくらいの高さの鉄ナ ュライトがのせてある。平行棒と、八フ ほかのことはみんなわすれちまって、ただひたすら女のやること 棒。たかい熱で焼入れされたはずのスチールも、今ではすっかり錆 を見ていた。今までぶつかったのは、ブラッドがかぎだしてくれた びついている。それから吊輪、トランポリン、大きな木の平均台。 どうしようもないプスばかりだったから、ぶちのめしてやっちまう 壁によったところには、肋木、べンチ、水平はしご、傾斜はしご、 だけだった。でなければ、さっきのポルノのスケみたいのだ。だ そしてとび箱が二つ、おれはこの場所をお・ほえておくことにした。 ポン = ッ車処理場にまにあわせに作った今のジムにくらべればこ 0 けど、これはちがう。ふわっとやわらかそうで、すべすべした感 ちのほうがずっとマシだ。ソロでいるためには、いい体を作っておじなのだ、鳥肌のところまでも。朝まで見てても、あきそうもなか・ かなきゃならない。 9- 6