けれど、それにそっくりだった。そんなふうなのが、十五分近くっ づいた。そのうちとうとう体をごろんとまわすと、前足をカマキリ 6 みたいにおりまげ、うしろ足を。はかっとひろげ、夜空に腹をむけて ねころんだ。「もうしわけないがどこにもいないね」と、プラッ おれは大のブラッドといっしょにぶらついてた。今週は・フラッド 。ト十、つこ。 ートとよ のほうが、からむ番たった。おれを、アル・ハ ト、アル ' ハ びやがる。自分じゃケッサクだと思ってるらしい。ペイスン・ター 頭にきたついでに、けっとばしてもよかったけれど、一生懸命や カノノ ってたのはたしかなのだ。といったって、それでおさまるわけじゃ 、、〉 0 〈ート・ペイ = , ・ターヒ、ー , は、二十世 ) 。・フラ ない。こっちは、ほんと抱きたくてうずうずしてるのだ。どうすり ッドには、もう食いものを見つけてやっていた。ジャコウネズミ二 、わすれちまえ」おれはあきら 「わかったよ、もういい ひき、みどり色と黄土色のでかいの、それから、だれかのマニキュ アしたプードルだ。プ 1 ドルのほうは、どっか下の町で鎖につながめていった。 れてたのが、まよいだしてきたらしい。よくふとってたけれど、か 。フラッドはうしろ足をけって横になり、びよんとおきあがった。 なりイカれてた。「やい、ワン公」と、おれよ、つこ。 : しュ / 「おれのス 「何をしたいんだい ? ーときく。 ケも見つけろよ」ブラッドは喉のおくてククッと笑っただけだっ 「ほかに何ができるってんたよ ? 」皮肉たつぶりにいってやった。 た。そして「おまえ、さかりがつくとおもしろいね」といった。 プラッドはおれの足元に、いちおうしおらしそうにすわりなおし なにがおもしろいもんか、ケツの穴けっとばしてやるか、この宿た なしワン公め。 おれは半分とけてなくなった街路灯の柱によっかかって、女のこ とを考えた。カッカして、どうしようもないったらもう。「ショウ 「見つけろったらよ ! 本気なんだぜ、おれは」 「恥を知れよ、ア化ハ ート。もうちゃんと教えてやったじゃない ならいつでもあるさ」と、おれはいった。・フラッドは通りを見まわ か」 した。草ののびほうたいのクレーターが、あちこちに丸い影をつく っている。ようし、行こうぜ、とおれがいうまで、・フラッドは待っ だけど、おれが我慢のぎりぎりまできてることはわかったのだ。 ・フラッドはふてくされながら、それでも集中しはじめた。くずれたてる気なのだ。おれと同【しくらい映画は好きなのたから。 歩道のふち石の上にすわって、目をばちばちさせ、体をびんとかた 「ようし、行こうぜ」 くした。すこしすると前のほうからゆっくりとかがみながら、前足プラッドはおきあがると、あとを追ってきた。舌をたらんとたら ーあえいでる。かってに笑やがれ、能なし をすりたし、のばした足の上に毛むくじゃらの頭をのせて、べたんし、うれしそうに ( ー とすわりこんだ。体がゆるんだかわりに、今度はぶるぶるとふるえ大。きさまなんかにポプコーンくれてやらねえからなー だした。ノミにくわれたあとをかこうとするとき、体をふるわせる
ージムはすっかり焼けおちていた。食いあらされた虫歯みたいだ。 「なんだ話ってのは ? 」と、おれはきいた。 ・フラッドはコンクリート のかたまりにの・ほって、おれと顔がむか 「あなたは恋愛したことある ? 」 いあう高さまできた。 「なんだって ? 」 「恋愛。あなたは今までにだれか女の子を愛したことがある ? 」 「おれにかくさなくたっていいんだぜ、ヴィク」 「そうたな、なかったな、そんなことは絶対 ! 」 ートじゃなくて、まともなヴィ 本気なのだ。よびかたも、アルバ 「愛って何か、知ってる ? 」 クだ。「おれが何を ? 」 「うん。知ってるだろ」 「ゆうべだよ。あのスケを連中にやってしまえば、出られたんだ。 それがいちばんうまい手だったんだ」 「でも、一度も人を愛したことがなければ 「・ ( 力だな。つまりだぜ、おれはまだ頭に鉛玉ぶちこまれたことは「抱きたかったんだよ」 ないけど、そんなのいやなことぐらいわかるじゃないか」 「ああ、それはわかってる。おれはそのことをいってるんだよ。今 「あなたは愛というものを知らないんだわ、きっとそう」 はきようだ、ゆうべじゃない。もう五十回はやってるだろう。なぜ いつまでも、うろうろしてるんだ ? 」 「だけど、それが下の町に住むという意味だったら、おれは知りた 「また足りないんだな」 かないぜ」 それがブラッドにカチンときたらしい。「そうかい、なるほど、 それから、あんまり話はすすまなかった。クイラ・ジーンがお れをひつばりよせ、おれたちはもう一回やった。おわったとき、・フだけどね、相棒 : : : おれにもほしいものがあるんだ。何か食べたい ラッドがポイラーをひっかく音が聞こえてきた。 ( ッチをあけるし、横腹のこの痛みもなんとかしなくちゃ。それから、ここを早く ズラカリたいんだ。やつらだって、そう簡単にはあきらめてないか と、プラッドはすぐ目の前にいて、「だいじようぶ」といった。 もしれないし」 「たしかか ? 」 「そりやもう、たしかさ。ジー。 ( ンはけよ」その声には、ばかにし「おちつけったらよ。全部まるくおさめることはできるんだ。あい たような調子があった。「そして、おりてこいよ。ちょっと話があっとクミんだって具合わるいってことはないだろ」 ーいいなおした。「おやお 「あいっと組んた、だ」と、・フラッドよ る」 ジーパンをや、そこでまた新しい話がでてきたな。今度はトリオで行くという おれはプラッドを見た。冗談をいってる顔じゃない。 ことかい ? ・」 はいてスニーカーをはくと、ポイラ 1 からおりた。 おれのほうも、はけしくおこりだしていた。おまえのいしカ ・フラッドはとことこ先にたってかけだすと、ポイラーからずっと た、まるで。フードルだ・せ ! 」 はなれたところ、黒くすすけた梁をとびこえ、ジムのそとに出たー 0
じっさい心のそこでは、おれはもう信じていたんだと思う。昔の もなかったのだ。 それに、場所がメトロポールときては、ますますありそうもなかおれみたいになんにも知らない・ ( 力に、プラッドみたいにいろんな ことを教えてくれる大がついてたとしたら、そいつは犬のいうこと った。このメトロポールには、おっかないホモたちがぞろそろやっ てくるからだ。ただし、いっておくけど、おれはそういうオカマほをなんでも信じるようになるものだ。教師に頭があがるわけがない 。こ ) わ、つ -0 るのが好きな連中に、特別な偏見をもってるわけじゃない うより、そいつらの気持はよくわかってるつもりだ。とにかく女な特に、そいつが読み書き算数その他、むかし人間が知ってたこと んか、このあたりにはほとんどいないんだから。めそめそした女役をみんな教えてくれて、おれの頭をよくしてくれたやつだったとし につきまとわれて、しよっちゅうやきもちをやかれるのがいやだか たら ( もっともこの時代じゃ、たいした得にもならない。知らない らた。そいつの分まで狩りをしなきゃならないし、一方そいつはシよりはマシな気がするというだけだ ) 。 リをまくりさえすれば自分の用はすんたと思ってる。女づれで歩く ( ただ字をお・ほえたのは損じゃなかった。スーパ 1 マーケットの焼 のと同じくらい始末が悪い。最後にはきっとどっかのでかい愚連隊けあととか、そういうとこで罐詰を見つけたときなんか、すごく役 ラベルの絵がきえてたりしても、ちゃんとなかみが に目をつけられて、血まみれゲロゲロのわたりあいをしなきゃいけにたつのだ ない羽目になるだろう。おれがその気をださないのは、だからなのわかる。字を読んだおかげでサトウダイコンの罐を持ってかずにす だ。もっとも一生そうだとはいいきれない。だけど当分はこのままんだことも二度ばかりある。ばかやろ、あんなもの食えるもんか でいるだろう。 というわけで、そんなおっかない連中がうようよいるメトロポー ブラッドだけには女のいるのがわかって、ほかのワン公にはわか ルに、まさか女がまぎれこんでくるわけがないと思ったのだ。イカらないというのを信じたのも、だからだろう。その話は百万回も聞 れた連中か、まともな連中か、どっちの手にわたろうとずたずたに かされてた。それはプラッドのお気にいりの話だった。・フラッド されるのは目に見えている。 は、それを歴史といってた。ざまあみろ、おれだってそんな・ハカじ それに、もし女がいるとしたら、どうしてほかの大たちがかぎつ ゃないんだそ ! 歴史がなんだかってことも、ちゃんと知ってる。 けないのだろう ? 今より前におこったことの話だ。 「ここから三つ前の列」と、・フラッドがいった。「いちばん通路寄 だけど、おれは・フラッドがいつもひきずってるような・ほそ・ほその りだ。ソロみたいな格好をしてるー 本で読まされるんじゃなんて、・フラッドからじかに歴史を聞くほう 「なぜおまえだけで、ほかのワン公にはわからないんだよ ? 」 が好きだった。で、いまいった話というのが、・フラッドの先祖の歴 「おれがどんな大か忘れたね、アル・ハー 史だったから、何回も何回も話してくれて、おれはとうとう全部お 5 ぼえてしまったーーーじゃない、ここは暗記 (rote) というんだ。書 「忘れちゃいないさ。信じられないだけだ」
ーベルマンを撃ち殺しものをありったけかき集め、ジ人のつきあたりにある仕切り板のそ それから、おれは四五口径を見つけて、ド ばにつみあげた。クイラ・ジ = ーンが物置から灯油の罐を見つけて 7 プラッドはおきあがり、ぶるっと体をふるわせた。ひどくかまれきたので、そのばかでかいガラクタの山に火をつけた。そして、お てる。「ありがと」プラッドはそうつぶやいて暗がりにはいると、れたちはブラッドが見つけてくれたかくれがにおりた。の 地下のポイラー室だ。からつぼのポイラーのなかにはいると入口を ねそべって傷口をなめはじめた。 しめ、息ができるように通気孔だけあけておいた。ここまで持って おれはクイラ・ジューンのところに行った。彼女は泣いていた。 こんなたくさん殺してしまったことを、とくに自分が殺してしまっきたのは、マット一枚と、運べるだけの弾、それから連中の持って いたライフルや拳銃。 たやつのことを泣いているのだった。いいかげんにだまらせようと たカ、いうことをきかないので横つつらをひつばたき、おれの命「なんか感じるか ? 」おれはプラッドにきいた。 をすくってくれたじゃないかといってや 0 た。それでいくらかおさ「すこしね。たいしたことはわからない。今もひとりの心を読んで る。ビルはよく燃えてるよ」 まった。 プラッドがしょげた顔でやってきた。「ここからどうやって出よ「やつらがいなくなったかどうかわかるか ? 」 「わかるだろ。もし、いなくなるとすればね」 う、アルバ おれは寝ころんだ。クイラ・ジューンは今までのできごとにすっ 「考えるから、ちょっと待て」 かりまいって、ガタガタふるえてる。「おちつけよ」と、おれはい 考えたが、助かる見込みはなかった。どれだけやつつけようが、 った。「朝には、上のほうは完全にかたづいてを。焼けあとをひっ 連中はあとからあとから押しかけてくるのだ。もう時間の問題だっ かきまわしたって、ごろごろ死体が見つかるだけさ。女かどうか調 た。どっちにしろ、やつらの勝ちだ。 べようったって、どうにもなりやしない。そうなったら、もうだい 「火をつけるのはどうだろう ? 」・フラッドがしナ ここで窓息しないかぎりな」 「燃えてるすきにズラかるのか ? 」おれは首をふった。「まわりをじようぶだ : : : その前に、 クイラ・ジュ 1 ンはほんのすこしほほえんで、こわがってないふ ぐるっとかこまれてるんだ。だめだな」 りをしようとした。それは、わりとうまくできた、そして目をとし 、つしょに燃えちゃうとしたら ? 」 「逃げださないとしたら ? るとマットに横になった。眠ろうとしているようだった。おれのほ こいつ、頭もいいぜ おれはプラッドを見た。度胸もいいが うもくたくただったので、目をつむった。 「うまくやれそうか ? 」おれはプラッドにきいた。 5 しいから、眠れよ」 「なんとかね。 おれは目をつむったままうなすいて、ごろんと横向きになった。 そこらにある板、マット、はしご、とび箱、べンチ、燃えそうな
たかな。腹がへ、ったぜ、ヴィク」 そこへクイラ・ジューンがや・つてきた。プラッドは彼女を見て、 おれは彼女を見あげた。日はしずみかかってる。プラッドが腕の 9 目をつぶった。「いそいだほうがいしわ、ヴィク。ねえ、早く。ド なかでふるえた。 ロップシャフトからあがってくるかもしれなくてよ」 彼女はプ . ンとふくれつつらをした。「あたしを愛してるんなら、 おれは・フラッドをだきあげようとした。死んでるみたいに重い 早くしてよ」 「いいか、・フラッド、聞けよ、これからシテイへひとっ走りいっ だけどプラッドをおいては行けない。それは、たしかだった。あ て、食いものとってくるからな。すぐもどる。待ってろよ」 たしを愛してるなら , ーーポイラーのなかで彼女はきいたつけ、愛っ 「あそこへは行くな、ヴィク。おまえがおりてった日、偵察に行って何か、知ってる ? てみたんた。あのジムでおれたちが死んだんじゃないってことを、 連中は知ってたよ。どうしてわかったのかな。ワン公どもが、にお 小さなたき火だった。チンビラどもがシティのはずれまででてき いをかぎだしたのかもしれん。ずっと見はってたけど、つけてはこたとしても、見つかりつこないくらいだ。煙もでていない。プラッ なかった。夜になると、このあたりはヤ・ハいからな。ほんとヤ・ハ ドが食べおわると、おれはその体をかかえあげて一マイル先の通気 からな。ほんと : : : ヤ・ハいカ 孔まではこんだ。そして、その小さなねじろで、ひと晩すごした。 ・フラッドはぶるんと体をふるわせた。 ひと晩じゅう、おれはプラッドをだいていた。プラッドはぐっすり 「しつかりしろよ、・フラッド」 と眠った。夜があけると、おれはもっとていねいに傷のてあてをし 「だけどシティじゃ、おれたちは完全にマークされてる。もうもど てやった。きっと立ちなおるだろう、なにせ強いやつだから。 れやしないよ、ヴィク。どっか行かなきや」 ・フラッドはまた食べた。前の晩ののこりが、たっぷりあったから それで道はなくなった。もどることはできないし、・フラッドがこだ。おれは食わなかった。腹はすいてない。 んなふうじゃ、ほかへ行くこともできない。それに、おれは知って その朝、おれたちは焼け野原をてくてく歩きだした。新しいシテ イを絶対に見つけるんだ。 いた。たしかにソロとしてはよくやってきたほうだけれど、それも ・フラッド ・フラッド・、・ ・、いたからだ。まさか女役にゃなれやしない。そしてこん カひっこをひいてるので、道はなかなかはかどらなかっ なところで食いものは見つかりつこない。・フラッドの傷のてあて、 た。頭のなかでなりひびく声がやむまでには、ながい時間がかカ それから食いもの、なんとかしなけりや。なんか栄養があ 0 て、てた。彼女の声は、何回も何回もおなじ質問をくりかえしていた。愛 っとり早いもの。 って何か、知ってる ? 「ヴィク」クイラ・ジ = ーンが、今にも泣きそうな、かん高い声で ああ、知ってるとも。 いった。「行きましようよ ! 大はだいじようぶよ。いそがなくち少年は犬を愛するものさ。
おれはちょっと頭にきはじめてた。「おまえよおう、どっかおかろ・ほろだ。「ひでえや、・ほろ・ほろじゃねえか」 しいんじゃないのか ? おれはおまえをつかまえて、いいなりにし「おまえだって、まともに見られたもんじゃないぜ、アル・ ( ちゃったんだ・せ。五回も六回も強姦したんだ。そんなおれのどこが しいかえす。おれはいったん手をとめた。 いいんだよおう、え ? おまえ、脳みそちゃんとあるのか、見たこ 「ここから出る方法ないか ? 」 ともない野郎が : : : 」 「なんにも読め プラッドはあたりをすかし、そして首をふった。 クイラ・ジューンは笑ってる。「そんなこと全然。あたしだってないよ。このポイラーの上にガラクタが山ほどのつかってるんだ、 やってるとき楽しかったもの。もう一回どう ? 」 きっと。そとへ出て、偵察してみなくちゃ」 しばらくあれこれ考えて、最後にこう結論を出した。もしビルが あわてふためいたのは、こっちだ。思わず、うしろにさがった。 「いったいどうなってんだよ ? 下からあが一つてきたスケが、ソロすっかりくすれ、多少冷えてきてるのなら、いま愚連隊は火のなか になぶり殺しにされることだって、ほんとにあるんだ。せ。″上に行をひっかきまわしてるころた。連中がポイラーまで調べに来ないの っちゃいかん。不潔で、毛むくじゃらな、けだものみたいなソロには、おれたちがかなり深くうずまってしまったということだろう。 つかまったら最後だからな〃下じゃ、おやしさんやおふくろさんがでなければ、・ヒルがまだくすぶり続けているかだ。その場合には、 娘にそういってるだろ ? 知らねえのかよ ? 」 連中は残骸を調べるために、おもてで待っていることになる。 クイラ・ジューンはおれの足に手をのせると、それを上にすらし「こんなふうでも、なんとかできるのか ? 」 ていった。指先が太股をかすめた。またかたくなづてきた。「あた「どっちにしたって、何かしなきゃいけないんたろ ? 」ブラッドは しの両親は、ソロのことそんなふうには話さなかったわ」そういう いった。ひどく機嫌がわるい。「だけど、あんなあきるほどやっち と、彼女はおれを引ぎよせて自分の上にのせ、キスした。こっちもやったら、これ以上生きてたづてしようがないんじゃないかね ? 」 がまんできなくて、また彼女のなかにすべりこんだ。 ヤ・ハいことになづた、とおれは思った。プラッドはクイラ・ジュ 信じられなくなるけど、それから何時間か、ずっとそんなふうだ ーンが好きじゃないらしい。おれはプラッドのうしろをまわって、 ったのだ。そのうちプラッドがこっちを向いた。「いいかげんにしポイラー ・ハッチをゆるめた。あかない。背中を壁におしつけ、両 てくれ、おれだってそういつまでも眠ったふりをしちゃ、ら—よ、 ハッチにゆっくりと力をくわえていった。 しオし足をてこにして よ。おなかべコペコだ。それに怪我してるんだ」 入口をふさいでいた何かはしばらく抵抗していたが、すこしずつ おれはクイラ・ジューンをほうりだしてーーそのときは彼女が上動きはじめ、やがてすごい音をたてて倒れた。ドアをおしあけて、 だったのだ ・フラッドの傷を調べた。右の耳を、あのドー ベルマ首を出す。すぐ上のフロアが、地下に落っこちていたのだ。だが、 ンにかなり大きくかみちぎられていた。鼻づらまでとどくびつかき支えがくずれたときには、ほとんど燃えかすとかるいガラクタだけ になっていたらしい。上のほうには煙がもうもうとたちこめてた。 傷があり、腹の毛にも血がべっとりとこびりついている。もう、・ほ 7
「わかったわかった、そんなドクドクいうない」 「おまえのほうこそ、まるで女役だよ」 はりとばしたくなって、手をふりあげた。プラッドは動かない。 「くどくどだ、ドクドクじゃない」 おれは手をおろした。・フラッドをなぐったことなんて今まで一度も「とにかく、なんにしてもだ ! 」おれはどなった。「やめりやいし ないのだ。ここで、それをしたくはなかった。 んだ、やめりや。でないと、てめえとはこれつきりにするぜ ! 」 ・フラッドもかんしやくをおこした。「そうか、そのほうがおたが 「ごめん」・フラッドはちっさな声でいった。 しにしいかもしれんな、きさまみたいな瘡つかきとはっきあっちゃ 「いいさ」 いられないや」 だが、おれたちの目はそっ。ほを向いていた。 「なんだ、そのカサッカキってのは、おい、ワン公 : 悪口なの 「ヴィク、おまえにはおれをやしなう責任というものがあるんだ そうか、そうなんだろうなーーーよう、くそたれ犬よう、 いつまでもそんな大きな口きいてやがると、てめえのケッぶっとば 「いわなくたってわかってるさ」 「うん、まあ、そうかもしれない。でも思いだしてほしいことがあすぜ ! 」 おれたちはすわりこんだまま、十五分ばかり口をきかなかった。 る。放射能鬼が通りをやってきて、おまえをとって食おうとしたと どっちへ行ったらいいか、・フラッドにも、おれにもわからなかった きのことだ」 のだ。 おれはゾクッとふるえた。あの化けものは、みどり色をしてい た。正真正銘のみどりで、キ / コみたいにちろちろ光っていた。考ようやく、おれのほうがすこし折れてでた。やわらかく、ゆっく りと話した。おまえとはもういっしょにいられないようだけど、わ えただけで腹のあたりがおもくなってきた。 るいようにはしない、昔どおり食いものもとってきてやると、そう 「そのとき、あいつにぶつかってったのは、おれだろ ? 」 いった。だがプラッドは、それもできないとおどした。そうすれ おれはうなずいた。そうだよ、たしかにそうだ。 ば、おれにはますます都合がいいだろう、近ごろはシティにもイカ 「それで焼け死ぬところだったんだ。いいかわるいかは別にして、 オしか ? 」おれはもう一度うなずれたソロがいて、自分のようなにおいの強い犬はすぐねらわれるか おれは命をかけたんだ、そうじゃよ、 いた。だんだん腹がたってきた。こっちばっか悪いような気にさせらと。だから、こっちもいいかえした。おどしてまで押しとおされ られるのは、うれしいことじゃない。プラッドとおれとは五分五分、るのはごめんだ、いつまでもでかい面してると、はりとばすぜ。プ なんだ。プラッドはそれもちゃんと知っていた。 「だが、おれはやラッドはおこって行ってしまった。おれは、「くたばりやがれ」と ったんだよ、そうだろ ? 」あのみどりの化けものがわめき声をあげどなって、ポイラーのなかにいるクイラ・ジュ 1 ンのところへもど たときのことを思いだした。ちくしよう、あんなおそろしかったこ だがポイラーにはいったとたん、彼女は死んだチンピラが持って とはない。 かさ 8
りという町なんだ。そのうえソロをにくんでる。愚連隊がしよっち ・フラッドは長いあいだだまっていた。おれは返事を待った。とう ゅう押しかけて女を強姦し、食料をかっさらったものだから、下でとう・フラッドはいった。「すこしぐらいはね。いるかもしれない も対抗する策をたてたんだ。殺されるそ、おまえ ! 」 し、いないかもしれない 「そんなこと、なんで心配するんだよ ? おれがいないほうがずつ わかった。おれはプラッドに背を向けると、黒い金属の柱にそっ と楽にくらせるって、いってやがるくせに」これにはプラッドもケてまわりはじめた。とうとう壁のスロットをさがしあてると、プレ ションとなった。 ートをさしこんだ。低い・フーンという音がして、柱の一個所がみる みる丸くひろがった。はじめ見たとき、そんなところにつぎ目は見 「ヴィク、いっしょになってから、もうそろそろ三年だよ。楽しい ときも苦しいときもあったが、今度のは最悪だ。おれは、こわいんあたらなかった。。ほっかりとあいた入口に、おれは一歩ふみこん だよ。かえってこないんじゃないかと思ってさ。腹をへらして、おだ。ふりかえると、・フラッドがこちらを見ていた。おたがいに見 : だけつめあった、そのあいだ中、柱は・フーンと音をたてていた。 れをやしなってくれるやつをさがしに行かなきゃならない : ど今ではソロもほとんど組にはいってるから、こっちははんば犬「じゃあな、ヴィク」 「気をつけろよ、・フラッド」 だ。もう若くもないし、この怪我ではね」 それは、おれにもわかった。ちゃんと筋がとおってる。おれだつ「早くかえってきなよ , 「まかしとき」 て、もしソロ暮らしができなくなって組にはいったりすれば、はん 「ようし、行け」 ば大だーー・ホモのチンビラどものいうなりになって尻をまくらなき おれは前を向き、中にはいった。うしろでアイリス・ドアがしま ゃならない。だけど今おれの頭にあるのは、あのスペタ、クイラ・ ジューンの裏切りだけだった。それといっしょに、ふつくらしたお つばいや、だいたとき彼女があげたちっさな声のことが思いうか んだ。おれは頭をふった。下へおりるのは、おとしまえをつけるた めなのだ。 「どうしようもないんだ、・フラッド。行かなきや、おさまらないん最初からわかっていたことなのだ。感づいてもよかったのだ。上 はどんなふうか、都市はどうなったのか、それを見たくてあがって ・フラッドは大きく息をついて、しょ・ほんとうつむいた。いくらい くるスケは、むかしからときどきいた。そういうひとりが、おれの ってもだめだとわかったのだろう。「ヴィク、おまえ、あのスケに前にあらわれた。だから、あのうだるようなポイラーのなかで、お 3 どんな目にあわされたか、ちゃんとわかってないんだよ」 れにもたれかかりながら話したいろいろなことを、信じたのだ。女 8 おれは立ちあがった。「なるべく早くかえるよ。待ってるか ? 」と男があれをするのを一度見たいと思っていたこと。ト・ヒーカでや 7
、、 0 マイナス 3 をねらってもだめだと知ったのは、かなり昔のことだ。やつばり体かった。計算してるのだ、これがマイナス 3 カ 2 ここにまる一週間たて 7 か、マイナス 3 かを。答えはわからない。 のいちばん広い部分、胸と腹がいし。胴体だ。 ふいに、そとで大がほえ、正面ドアの暗がりから黒い影がジムのこも 0 てたとしても、皆殺しにしたか、それとも一部にすぎないか なかにはい「てきた。ちょうどプラ , ドとおれをむすぶ線の上。おは最後まで知ることはできないだろう。もど 0 て仲間をかき集める のはかんたんだし、こっちはそのうち弾も食いものもっきて、クイ れはしっとしていた。 ラ・ジ = ーンは泣きわめく、おれ気が気じゃなくなる、そして昼 チンビラはプラッドからはなれた。そして片腕をあげると、ジム 間どうやってもちこたえるかも問題だーーところが連中のほうは、 のおくに何かをなげたー・・、・石か金具かなにかだ。撃たせておいて こっちが腹ペこになって・ ( 力なことはじめるか、弾がっきるまで待 こっちの場所を知るつもりたろう。おれはじっとしていた。 ってるだけでいいのだ。そして適当なころあいがきたら、 そいつのなげたものがフロアにぶつかると同時に、。フール室から になだれこむ。 二人のチンビラが、いつでも撃ちまくれるようライフルをかまえ チンビラがひとり、正面口からものすごいス。ヒードでとびこんで 背中あわせにとびだしてきた。だが連中よりも早くおれはプローニ ングの引き金をひいた。一回、すらして、もう一回。二人とも、ほきてそのままジャイフすると、両肩でフロアにぶつかるシ = ックを やわらげ、ころがって立ちあがるなり、三発それそれちがう方向に とんどいっしょにたおれた。命中、心臓へ一発だ。たおれたまま、 ぶつばなした。・フローニングで追うひまもなかった。そのときに どちらも動かなし は、おれのすぐ下まで来ていたので、二二口径の弾をむだづかいす ドアのそ。よこ ー冫いたのが気づいてライフルをかまえたときには、・フ ることはなかった。おれはそっと四五口径をとると、そいつの後 ラッドがもう食いついてた。ほんとにそんな感じだ、暗やみのなか 頭部をねらって引き金をひいた。弾はきれいにくいこみ、顔の上半 から、。ヒシューンー まるで走り高とびみたいに・フラ , ドはライフルをとびこえる分と髪の毛をひ「べがしてつきぬけた。そい「は、くたんと倒れ と、そいつの喉もとに牙をつきたてた。チン。ヒラが悲鳴をあげ、プ ライフル ! 」 ラッドは肉をくわえたまま、とびおりた。そいつは喉でゴボゴポ音「プラッドー をたてながら、片方のひざをついた。その頭をねらって弾をぶちこ暗がりからとびだし、ロにくわえ、つきあたりにあるレスリング ・マットの山まで運んでいった。マットの下から出てきた腕が、ラ むと、そいつはのめるようにたおれた。 イフルをうけとって引っこむのが見えた。そうだ、あそこならます あたりはまた静かになった。 だいじようぶだろう。度胸のいいやつだ。ブラッドはチン。ヒラの死 わるくないそ。この調子でいけ。むこうは三人やられて、またこ フラッドは入口のわきの暗がりにもど体にかけもどると、ガンベルトをはずしはじめた。これには、ちょ っちの場所もっかんでない。・ っていた。何もいわないが、おれには・フラッドの考えてることがわ一つと手間がかか 0 た。入口や窓からねらい撃ちされないかとひやひ
煙を通して、日ざしが見えた。 たけど、このスケかわいいったらないんた。 は、だした拍子に、 ッチの外側のヘりで両手をやけどしてしま 。フンとふくれて、両手で体をかくしてすわりこんでる。「下の町 った。プラッドが続いてとびだし、残骸のなかで道をさがしはしめの話、もっとしてくれよ , と、おれはいった。 た。そとに立ってみると、ポイラーは上から落っこちてきた燃えかす はじめは強情をはって、あまり話したがらなかった。だが、すこ でほとんどすつ。ほりおおわれていたことがわかった。愚連隊どもはしすると口がほどけて、べらべらしゃべりだした。勉強になること ざっと見わたし、おれたちがむし焼きになったと思いこんで、帰っ がたくさんあった。そのうち、なんか役にたったろう。むかしアメ てしまったのだろう。けれども、いちおうプラッドに偵察させるこ リカとカナダだったところで、いま下にある町の数はせいぜい二百 とにした。・フラッドは走りだしたが、おれはそこでよびもどした。 だという 。町は、井戸とか鉱山とか、そういった深い穴があるとこ 「なんだい ? 」 ろにつくられた。西部には、自然の洞窟をつかったものもある。 おれはもどってきたプラッドを見おろした。「いっとくことがあどれもずっと深く、地下四、五マイルのところまで掘り進められ る。おまえ、態度がちょっとインケンだそ」 た。さかさまになった、でかいケーソンのようなかたちで、そこに 「どうとでもいいなよ」 住みついたのはおカタいなかでも最悪の連中たった。南部バ。フテス 「ちくしよう、ワン公。おまえ、なんでそんなトンガッてんたよ 、正統派キリスト教信者、政府の大、自然のくらしなんか全然す る気のない本物のミドルクラスのおカタい連中。そういうのがみ 「彼女さ、あのなかにいるうすのろのスケたよ」 んな寄り集まって、百五十年も昔にもどったような生活をはじめた 「それがどうしたんだ ? 変たぜ : : : スケはこれがはじめてしゃねのだ。生き残った最後の科学者たちを使って、そういう町でのくら えだろ」 しかたを発明させ、できあがると追いだしてしまった。連中は進歩 「そうだけど、こんなふうにいつまでもべタベタくつついてるのはをきらい、意見のぶつかりあいをきらい、新しい波をおこすような はしめてさ。 っておくけどね、アルバ あのスケといっしょ ことはなんでもかんでもきらった。そういうものにさんざんな目に にいるときっとヤ・ハいことになるぜ」 あわされていたからだ。世界がいちばん平和だったのは第一次大戦 「へへツ、知ったこというじゃねえかよ ! 」・フラッドは答えなかつのすぐ前のころだから、その状態をずっとたもっことができれば、 た。ただおこった顔でおれをにらんだだけで、あたりのようすを調しすかな暮らしができ、生きのこれると考えたのだ。くそったれー べに走っていった。おれはポイラーにもどると ( ッチをしめた。彼そんなとこにいつまでもいりや、気が狂っちゃうぜ。 女はもう一度やりたがった。おれよ、、 ぐしやたといった。プラッドの クイラ・ジーンはにつこりして、またすりよってきた。今度 おかげで、それどころじゃなくなったのだ。気がめいってた。ほう は、おしかえさなかった。彼女はおれの体をまさぐりはじめた、あ 9 りたすとしたら、どっちのほうなのか、ふんぎりがっかない。 そこっから何かそこらじゅう。それからすこしして、いった。「ヴ