たかな。腹がへ、ったぜ、ヴィク」 そこへクイラ・ジューンがや・つてきた。プラッドは彼女を見て、 おれは彼女を見あげた。日はしずみかかってる。プラッドが腕の 9 目をつぶった。「いそいだほうがいしわ、ヴィク。ねえ、早く。ド なかでふるえた。 ロップシャフトからあがってくるかもしれなくてよ」 彼女はプ . ンとふくれつつらをした。「あたしを愛してるんなら、 おれは・フラッドをだきあげようとした。死んでるみたいに重い 早くしてよ」 「いいか、・フラッド、聞けよ、これからシテイへひとっ走りいっ だけどプラッドをおいては行けない。それは、たしかだった。あ て、食いものとってくるからな。すぐもどる。待ってろよ」 たしを愛してるなら , ーーポイラーのなかで彼女はきいたつけ、愛っ 「あそこへは行くな、ヴィク。おまえがおりてった日、偵察に行って何か、知ってる ? てみたんた。あのジムでおれたちが死んだんじゃないってことを、 連中は知ってたよ。どうしてわかったのかな。ワン公どもが、にお 小さなたき火だった。チンビラどもがシティのはずれまででてき いをかぎだしたのかもしれん。ずっと見はってたけど、つけてはこたとしても、見つかりつこないくらいだ。煙もでていない。プラッ なかった。夜になると、このあたりはヤ・ハいからな。ほんとヤ・ハ ドが食べおわると、おれはその体をかかえあげて一マイル先の通気 からな。ほんと : : : ヤ・ハいカ 孔まではこんだ。そして、その小さなねじろで、ひと晩すごした。 ・フラッドはぶるんと体をふるわせた。 ひと晩じゅう、おれはプラッドをだいていた。プラッドはぐっすり 「しつかりしろよ、・フラッド」 と眠った。夜があけると、おれはもっとていねいに傷のてあてをし 「だけどシティじゃ、おれたちは完全にマークされてる。もうもど てやった。きっと立ちなおるだろう、なにせ強いやつだから。 れやしないよ、ヴィク。どっか行かなきや」 ・フラッドはまた食べた。前の晩ののこりが、たっぷりあったから それで道はなくなった。もどることはできないし、・フラッドがこだ。おれは食わなかった。腹はすいてない。 んなふうじゃ、ほかへ行くこともできない。それに、おれは知って その朝、おれたちは焼け野原をてくてく歩きだした。新しいシテ イを絶対に見つけるんだ。 いた。たしかにソロとしてはよくやってきたほうだけれど、それも ・フラッド ・フラッド・、・ ・、いたからだ。まさか女役にゃなれやしない。そしてこん カひっこをひいてるので、道はなかなかはかどらなかっ なところで食いものは見つかりつこない。・フラッドの傷のてあて、 た。頭のなかでなりひびく声がやむまでには、ながい時間がかカ それから食いもの、なんとかしなけりや。なんか栄養があ 0 て、てた。彼女の声は、何回も何回もおなじ質問をくりかえしていた。愛 っとり早いもの。 って何か、知ってる ? 「ヴィク」クイラ・ジ = ーンが、今にも泣きそうな、かん高い声で ああ、知ってるとも。 いった。「行きましようよ ! 大はだいじようぶよ。いそがなくち少年は犬を愛するものさ。
/ ロみたいに片つ。ほだけスニーカーをぬいで、ひう一方の足にジー 「ヴィクなんていうの ? 」 ハンまきつけて。「名前なんていうんた ? 」 「ヴィクさ。たたヴィクさ。ほかにゃないよ」 「クイラ・ジューン・ホームズ」 「じゃ、おかあさんとおとうさんの名前は ? 」 。 ( ンを下へさげた。「ハ力なこときくな 「変てこ」 おれは笑いだして、ジー よ」おかしくて、また笑ってしまった。彼女はかなしそうな顔をし「オクラホマではふつうの名前だって、おかあさんはいってたわ」 「そこから来たのか ? 」 た。こっちはまた頭にきた。「そんな目つきしやがると歯ぶっとば すそ ! 」 彼女はうなすいた。「第三次大戦の前にね」 彼女はひざに両手をおいた。 「しや、おまえのおふくろ、もうかなりの年じゃんか」 ( ンを足首のところまでおろしたが、スニ 1 カーがじゃまに 「そうよ。でも二人とも元気よ。だと思うわ」 なって、なかなかぬけない。片足で・ ( ランスをとると、片方のスニ おれたちは全然うごかないで話していた。寒いんたろう彼女は ーカーをぬいだ。四五をかまえたまま、スニーカーをぬぐのは、ち ふるてる。「さて」そばにすわろうとして、おれはいった。「そ よっとした芸当だ。たけど、ひとつはうまくいった。 ろそろーーー」 いちばんいいとき もう腰から下は、かたくなったあれから何から丸出しだ。彼女は ばっきやろう ! プラッドのちくしようめー ちょっと前かがみにすわってる。両足はかさねて、手をひざにおい にとびこんできやがる。・フラッドは板としつくいのあいだを、ほこ ている。「そいつ、ぬげよ」と、おれはいった。 りをまいあげて走ってくると、尻でプレ 1 キをかけてとまった。 すこしのあいだ動かなかった。よけいな手間をかける気かな、と「今ごろなんだよ ? 」おれはどなった。 思った。だが、すぐうしろに手をやると。フラをはすした。シームが 「だれにいってるの ? 」女がきいた。 はずれたとき、。 ( チッと音がした。それから腰をうかすと、 「こいつだよ。プラッドだ」 ーを足のほうにたぐった。 「その大 ? 」 ふいに、その顔からおびえた感じがきえた。穴があくほど、じっ ・フラッドは女をちらっと見て、そっ。ほを向いた。そして何かいし とこっちを見つめてる。やっとその目がプル 1 だということがわか かけたが、女が口をはさんだ。「では、みんながいうの、ほんとう った。ところが、これが気持わるいくらい変てこなんだけれど : なのね : : : あなたち、動物と話ができるって ? ・ ? なんでとびこんで できないんた。ためというんじゃなくて、なんていうか、やる気「おまえ、スケの話を朝まできいてる気かい ふわきたか知らなくたっていいのか ? 」 はあるんた、見りやわかるとおり、だけど、こんなかわいい っとしたのに見つめられてみろーーーどんなソロに話したって信じや「話せよ。なんで来たんだ ? 」 「ヤ・ハいことになったぜ、アル・ハー しないだろうーーーふっと気がつくと、おれは話しかけていた、ウス 7
「わかったわかった、そんなドクドクいうない」 「おまえのほうこそ、まるで女役だよ」 はりとばしたくなって、手をふりあげた。プラッドは動かない。 「くどくどだ、ドクドクじゃない」 おれは手をおろした。・フラッドをなぐったことなんて今まで一度も「とにかく、なんにしてもだ ! 」おれはどなった。「やめりやいし ないのだ。ここで、それをしたくはなかった。 んだ、やめりや。でないと、てめえとはこれつきりにするぜ ! 」 ・フラッドもかんしやくをおこした。「そうか、そのほうがおたが 「ごめん」・フラッドはちっさな声でいった。 しにしいかもしれんな、きさまみたいな瘡つかきとはっきあっちゃ 「いいさ」 いられないや」 だが、おれたちの目はそっ。ほを向いていた。 「なんだ、そのカサッカキってのは、おい、ワン公 : 悪口なの 「ヴィク、おまえにはおれをやしなう責任というものがあるんだ そうか、そうなんだろうなーーーよう、くそたれ犬よう、 いつまでもそんな大きな口きいてやがると、てめえのケッぶっとば 「いわなくたってわかってるさ」 「うん、まあ、そうかもしれない。でも思いだしてほしいことがあすぜ ! 」 おれたちはすわりこんだまま、十五分ばかり口をきかなかった。 る。放射能鬼が通りをやってきて、おまえをとって食おうとしたと どっちへ行ったらいいか、・フラッドにも、おれにもわからなかった きのことだ」 のだ。 おれはゾクッとふるえた。あの化けものは、みどり色をしてい た。正真正銘のみどりで、キ / コみたいにちろちろ光っていた。考ようやく、おれのほうがすこし折れてでた。やわらかく、ゆっく りと話した。おまえとはもういっしょにいられないようだけど、わ えただけで腹のあたりがおもくなってきた。 るいようにはしない、昔どおり食いものもとってきてやると、そう 「そのとき、あいつにぶつかってったのは、おれだろ ? 」 いった。だがプラッドは、それもできないとおどした。そうすれ おれはうなずいた。そうだよ、たしかにそうだ。 ば、おれにはますます都合がいいだろう、近ごろはシティにもイカ 「それで焼け死ぬところだったんだ。いいかわるいかは別にして、 オしか ? 」おれはもう一度うなずれたソロがいて、自分のようなにおいの強い犬はすぐねらわれるか おれは命をかけたんだ、そうじゃよ、 いた。だんだん腹がたってきた。こっちばっか悪いような気にさせらと。だから、こっちもいいかえした。おどしてまで押しとおされ られるのは、うれしいことじゃない。プラッドとおれとは五分五分、るのはごめんだ、いつまでもでかい面してると、はりとばすぜ。プ なんだ。プラッドはそれもちゃんと知っていた。 「だが、おれはやラッドはおこって行ってしまった。おれは、「くたばりやがれ」と ったんだよ、そうだろ ? 」あのみどりの化けものがわめき声をあげどなって、ポイラーのなかにいるクイラ・ジュ 1 ンのところへもど たときのことを思いだした。ちくしよう、あんなおそろしかったこ だがポイラーにはいったとたん、彼女は死んだチンピラが持って とはない。 かさ 8
彼女はプラシをおいて服の山のなかから。 ( ンティーをとると、すわがるなよ、おれはただ寝たいだけなんだ、と、 しいたくなってしま るっとはいた。それからプラをとって、つけた。あんなふうにつけう。 ( こんなのは、はじめてだ。今まではスケに何かいったことな 7 るとは知らなかった。うしろ向きにウエストにまきつけ、シームのんかなかった。つつこんで、それでおしまいだったのだ ) ところをくつつけあわせる。それからカツ。フを前のほうにまわす たけど、すぐどうでもよくなった。おれはうしろ足で彼女をひっ と、引っぱりあげ、まず片方、つぎにもうひとつをすくうようにし かけて、服の上にけたおした。四五でねらいをつけると、彼女のロ て入れ、最後に肩にストラップをあげる。ドレスに手をのばしたと がちっさな 0 のかたちにあいた。「ようし、ちょっとあそこ行っ き、おれはぬき板としつくいをどかし、ドアをつかんだ。 て、レスリング・マットとってくるからな。そのほうが気持いいだ 彼女はドレスを頭の上にあげると、両手を生地の内側に入れた。 ろ、え ? 動いたりしたら。この ( ジキで足をぶっとばす・せ。どう そして頭からかぶり、ひきおろそうともがいているとき、おれはド せつつこまれるんなら、足ぐらい大事にしなよ」いったことが通し アをカまかせに引っぱった。板やしつくいがごそっと落ち、ドアが たかどうか、おれは返事を待った。とうとう彼女はゆっくりとうな にふい音できしった。彼女がドレスをぬぐ前に、おれはとびかかつずいた。オートマチックをかまえたまま、ほこりをかぶったマット ていた。 の山のところへ行くと、一枚ひつばりだしこ。 女は悲鳴をあげかけた。おれの手のなかでドレスがさけた。彼女女のそばまでひきずって行って、きれいなほうが上になるように には、ものの落ちる音やきしる音の意味さえわからないうちになにひっくりかえし、四五のとっさきで、女にそれにのれと指図した。 もかもおこっていた。 彼女はマットの上にひざを折ってすわると、両手をうしろにまわし 狂ったような顔つきだった。そう、狂った顔だ。大きく見ひらい た格好で、おれを見つめた。 ジ た目。影になっているので何色かわからない、顔たちはととのって ーパンのチャックをおろし、ぬぎかけたとき、彼女がへんてこ いた。大きめのロ、かわいい鼻、おれのとよく似た自たっ頬骨、右な目つきでこっちを見てるのに気づいた。おれは手をとめた。「て の頬にエクポがひとつ。おれを見つめた。すくみあがってる。 めえ、なに見てやがんだよう ? 」 そのときーーこれが、ほんとおかしいんたけれどーーおれは何か おれは頭にきた。なんだか知らないけど、やたらに頭にきたの 0 - 」 0 いってやらなくちゃいけないと感した。何をいうって、そんなこと は知らない。なんだ「ていいのだ、とにかく、すくみあが 0 てる彼「あなた、名前なんていうの ? 」と、彼女はきいた。ソフトな、な 女を見ると、こっちがおちつかなくなってくる。だからといって、 んかふわっとした感じの声だった。喉のおくのほうにふわふわした どうしようもないんたけれど。つまり、おれは犯そうとしてるんだ毛が生えていて、それを通ってでてきたような声だ。 し、その相手にむかって、こわがるなよなんていったってしようが おれを見つめたまま、答えを待っている。「ヴィクさ」と、おれ ないわけだ。考えてみれば、ただのスケなんだ。なのに、おい、こ はい 9 た。まだ何かいうのを待ってるような顔。
じっさい心のそこでは、おれはもう信じていたんだと思う。昔の もなかったのだ。 それに、場所がメトロポールときては、ますますありそうもなかおれみたいになんにも知らない・ ( 力に、プラッドみたいにいろんな ことを教えてくれる大がついてたとしたら、そいつは犬のいうこと った。このメトロポールには、おっかないホモたちがぞろそろやっ てくるからだ。ただし、いっておくけど、おれはそういうオカマほをなんでも信じるようになるものだ。教師に頭があがるわけがない 。こ ) わ、つ -0 るのが好きな連中に、特別な偏見をもってるわけじゃない うより、そいつらの気持はよくわかってるつもりだ。とにかく女な特に、そいつが読み書き算数その他、むかし人間が知ってたこと んか、このあたりにはほとんどいないんだから。めそめそした女役をみんな教えてくれて、おれの頭をよくしてくれたやつだったとし につきまとわれて、しよっちゅうやきもちをやかれるのがいやだか たら ( もっともこの時代じゃ、たいした得にもならない。知らない らた。そいつの分まで狩りをしなきゃならないし、一方そいつはシよりはマシな気がするというだけだ ) 。 リをまくりさえすれば自分の用はすんたと思ってる。女づれで歩く ( ただ字をお・ほえたのは損じゃなかった。スーパ 1 マーケットの焼 のと同じくらい始末が悪い。最後にはきっとどっかのでかい愚連隊けあととか、そういうとこで罐詰を見つけたときなんか、すごく役 ラベルの絵がきえてたりしても、ちゃんとなかみが に目をつけられて、血まみれゲロゲロのわたりあいをしなきゃいけにたつのだ ない羽目になるだろう。おれがその気をださないのは、だからなのわかる。字を読んだおかげでサトウダイコンの罐を持ってかずにす だ。もっとも一生そうだとはいいきれない。だけど当分はこのままんだことも二度ばかりある。ばかやろ、あんなもの食えるもんか でいるだろう。 というわけで、そんなおっかない連中がうようよいるメトロポー ブラッドだけには女のいるのがわかって、ほかのワン公にはわか ルに、まさか女がまぎれこんでくるわけがないと思ったのだ。イカらないというのを信じたのも、だからだろう。その話は百万回も聞 れた連中か、まともな連中か、どっちの手にわたろうとずたずたに かされてた。それはプラッドのお気にいりの話だった。・フラッド されるのは目に見えている。 は、それを歴史といってた。ざまあみろ、おれだってそんな・ハカじ それに、もし女がいるとしたら、どうしてほかの大たちがかぎつ ゃないんだそ ! 歴史がなんだかってことも、ちゃんと知ってる。 けないのだろう ? 今より前におこったことの話だ。 「ここから三つ前の列」と、・フラッドがいった。「いちばん通路寄 だけど、おれは・フラッドがいつもひきずってるような・ほそ・ほその りだ。ソロみたいな格好をしてるー 本で読まされるんじゃなんて、・フラッドからじかに歴史を聞くほう 「なぜおまえだけで、ほかのワン公にはわからないんだよ ? 」 が好きだった。で、いまいった話というのが、・フラッドの先祖の歴 「おれがどんな大か忘れたね、アル・ハー 史だったから、何回も何回も話してくれて、おれはとうとう全部お 5 ぼえてしまったーーーじゃない、ここは暗記 (rote) というんだ。書 「忘れちゃいないさ。信じられないだけだ」
くはなったけれど、ゲロでくさいったら。 紹介所からでると、れいのみどりのパトロール箱がホイットべッ 「行こう ! 」 ドみたいにすっとんでくるところだった。ケープルがっきでている 9 いやがってふりほどこうとしたけれど、おれはふみこたえ、べッ が先つぼはミトンじゃなくてフツ・クになってる。 ドルームのドアをあけた。ひ「ばりだしたところで、杖をついて立片方のひざをつくと、三〇ー〇六のつり皮を腕にまきつけ、じ「 っているルーとでくわした。杖をけとばしてやると、屁こきじじい くりねらいを定めてフロントのでかい目玉にぶつばなした。一発、 はすっころがった。ホームズ夫人がおれたちを見た。亭主は何してズガーンー るのか、ふしぎがってるらしい。「おくにいます」おれはそういっ 命中したとたん、目玉は火花をちらしてはじけとんだ。みどりの て、正面のドアにむかった。「天罰が頭にくだりましたよ」 箱は道路をそれて、ミル・エンド・ショッ。フと書いてある店のウィ 鼻のまがりそうにくさいクイラ・ジ、ーンをひつばって、通りに ンドにつつこむと、キーキーガシャガシャ音をたてながら、まわり でた。吐くものもないのにまだゲーゲーやりながら、泣いている。 じゅうに火と火花をまぎちらした。カッコイイ。 下着がどこへ行っちゃったのか心配なのだろう。 クイラ・ジューンの手をとろうとふりかえると、いなくなってい 銃は、職業紹介所の鍵のかかった箱のなかにはいってる。その前 た。通りのむこうから自警団が押しよせてくるのが見える。ルー・、 に下宿屋にまわり道して、ガソリン・スタンドでかつばらってきた ・ハッタの化けのみたいに、そばで杖ついて。ヒョンビョンとんでい 金てこをポーチの下から出した。そして共済組合のうらをぬけて商る。 店街にはいると、まっすぐ紹介所をめざした。事務員がひとりとめ ちょうどそのとき銃の音がはじまった。でかい、ズーンとひびく ようとしたが、そいつの頭を金てこでたたきわ 0 た。ルーの部屋に音。クイラ・ジ = ーンにや 0 た四五た。見あげると、一一階をぐるり ある箱の錠をこじあけ、三〇ー〇六と、四五と、ありったけの弾、ととりまくボーチの上に彼女がいた。まるで。フロのようにオートマ ス。 ( イキ、ナイフ、道具入れ、全部かついだ。そのころには、クイ チックを手すりにあて、群れのまん中ねらってガンガン撃ってい ラ・ジューンもすこしはまともになっていた。 る。四〇年代のリバブリック映画のワイルド・ビル・エリオットそ 「どこ行くの ? どこ行くのよ ? ああ、 つくりだ。 だけど、ばかやろうだよー ほんと、ばかやろうだー にげなき 「おいクイラ・ジューン、うるせえな、。、。、。、。、、うなよ。、 ゃいかんときに、あんなことして時間つぶしやがってー しょに来たいっていっただろ : : : おれは上に行くのさ、ペイビー 外からそこへの・ほる階段を見つけて、いっぺんに三段ずつの・ほっ いっしょに来たけりや、 くつついてたほうがいいそ」 た。クイラ・ジューンはにやにやケラケラ笑ってる。そして群れの しいかえす力もないほどおびえてる。 なかから、ひとりにねらいをつけては、舌べろの先を口のはしから 四五をやると、手にとって穴のあくほどながめた。 つきだし、目からぼろぼろ涙をこ・ほして、ドーン ! と撃つ。する っ
、、 0 マイナス 3 をねらってもだめだと知ったのは、かなり昔のことだ。やつばり体かった。計算してるのだ、これがマイナス 3 カ 2 ここにまる一週間たて 7 か、マイナス 3 かを。答えはわからない。 のいちばん広い部分、胸と腹がいし。胴体だ。 ふいに、そとで大がほえ、正面ドアの暗がりから黒い影がジムのこも 0 てたとしても、皆殺しにしたか、それとも一部にすぎないか なかにはい「てきた。ちょうどプラ , ドとおれをむすぶ線の上。おは最後まで知ることはできないだろう。もど 0 て仲間をかき集める のはかんたんだし、こっちはそのうち弾も食いものもっきて、クイ れはしっとしていた。 ラ・ジ = ーンは泣きわめく、おれ気が気じゃなくなる、そして昼 チンビラはプラッドからはなれた。そして片腕をあげると、ジム 間どうやってもちこたえるかも問題だーーところが連中のほうは、 のおくに何かをなげたー・・、・石か金具かなにかだ。撃たせておいて こっちが腹ペこになって・ ( 力なことはじめるか、弾がっきるまで待 こっちの場所を知るつもりたろう。おれはじっとしていた。 ってるだけでいいのだ。そして適当なころあいがきたら、 そいつのなげたものがフロアにぶつかると同時に、。フール室から になだれこむ。 二人のチンビラが、いつでも撃ちまくれるようライフルをかまえ チンビラがひとり、正面口からものすごいス。ヒードでとびこんで 背中あわせにとびだしてきた。だが連中よりも早くおれはプローニ ングの引き金をひいた。一回、すらして、もう一回。二人とも、ほきてそのままジャイフすると、両肩でフロアにぶつかるシ = ックを やわらげ、ころがって立ちあがるなり、三発それそれちがう方向に とんどいっしょにたおれた。命中、心臓へ一発だ。たおれたまま、 ぶつばなした。・フローニングで追うひまもなかった。そのときに どちらも動かなし は、おれのすぐ下まで来ていたので、二二口径の弾をむだづかいす ドアのそ。よこ ー冫いたのが気づいてライフルをかまえたときには、・フ ることはなかった。おれはそっと四五口径をとると、そいつの後 ラッドがもう食いついてた。ほんとにそんな感じだ、暗やみのなか 頭部をねらって引き金をひいた。弾はきれいにくいこみ、顔の上半 から、。ヒシューンー まるで走り高とびみたいに・フラ , ドはライフルをとびこえる分と髪の毛をひ「べがしてつきぬけた。そい「は、くたんと倒れ と、そいつの喉もとに牙をつきたてた。チン。ヒラが悲鳴をあげ、プ ライフル ! 」 ラッドは肉をくわえたまま、とびおりた。そいつは喉でゴボゴポ音「プラッドー をたてながら、片方のひざをついた。その頭をねらって弾をぶちこ暗がりからとびだし、ロにくわえ、つきあたりにあるレスリング ・マットの山まで運んでいった。マットの下から出てきた腕が、ラ むと、そいつはのめるようにたおれた。 イフルをうけとって引っこむのが見えた。そうだ、あそこならます あたりはまた静かになった。 だいじようぶだろう。度胸のいいやつだ。ブラッドはチン。ヒラの死 わるくないそ。この調子でいけ。むこうは三人やられて、またこ フラッドは入口のわきの暗がりにもど体にかけもどると、ガンベルトをはずしはじめた。これには、ちょ っちの場所もっかんでない。・ っていた。何もいわないが、おれには・フラッドの考えてることがわ一つと手間がかか 0 た。入口や窓からねらい撃ちされないかとひやひ
いらにあるだろうから」彼は立ちあがって、伸びをした。 れなかった」 「こんどやってくるもう一 4 「クローンなんだよ」とカフがいった ビューは苦しそうにいった。 つの開発チ 1 ムも」 彼よ一つの空気ポンべだけになっ 「おれは行くべきじゃなかわた。、 , ー ても、まだ一一時間分の空気を持っていたんだよ。おれがでかけたと「すると、やつばり ? 」 きに、・むこうがこっちへ向かっていることだってありうる「あれじ「あっちは十二体のクローン。・ほくらといっしょに〈。 ( サライン〉 号でやってきたんだ」 や三人ともが連絡をなくすことになる 3 おれはおびえてたんだな」 カフはランプの小さな黄いろい暈の中に坐り、それをすかして彼 静寂がもどり、マーティンの長い柔らかないびきが、それに間の の怖れているなにものかを見つめているようだったーーー新しいクロ 手を入れた。 1 ン、彼の属していない複合分身を。こわれた一組のとり残された 「あなたはマーティンを愛してるの ? 」 一個、よるべのない破片、慣れない孤独の中で、どうしてほかの人 。ヒューは憤りの目を上げた。「マーティンは友だちだ。ずっとい 冫しいかも知らずに、これから彼は十二人のクロー 間に愛を与えれま、 いやつなんだ」彼は言いやめた。やや っしょに仕事してきたし、 あってから、「そう、おれはやつを愛してるよ。な・せそんなことをンの絶対的で閉鎖的な自己充足と顔をつきあわせねばならないの だ。それはこのあわれな青年にとって、あまりにも大きな負担にち きく ? 」 ビ、ーは行きがけに、相手の肩に手をおいていった。 カフは答えずに、ただ相手をじ 0 と見つめた。彼の顔つきは一変がいない していた。まるで、これまで見たことのないなにかを、はじめてち「隊長はきみに、・クローンとい ? しょにここへ残れとはいわないは らと目にしたかのようだ 0 た。声までが変わ 0 ていた。「どうしてずだ。き 0 と地球へ帰れるさ。それとも、せつかく〈さいはて〉の 一 - 員になったんだから、このままおれたちといっしょについてぎて そんなことが : : : どうしてあなたがたに : こっちは大歓迎だ。いそいで決める必要はない。だし・ ーには答えられなかった。「わからない」と彼はいっ だがピュ うぶ、きみならやっていけるさ」。ヒューの静かな声は尾をひいて消 た。「ある程度は経険かな。おれにはよくわからないよ。たしかに、 おれたちはそれそれ孤独なんだ。暗闇の中では、手をつなぎあうしえた。彼は上着のボタンをはずしながら「疲れき 0 たようすですこ し肩をまるめていた。カフは彼を見やり、そしてこれまで一度も見 力ないじゃないか」 カフの奇妙な凝視は、それ自身の激しさで燃えっきたように、床なか 0 たものをそこ・に見た。彼を見たのだ。オー = ン・。ヒ = ー、ひ とりの仲間、暗闇に手をさしの . ・〈・ている人間を。 に落ちた・ 「おやすみ」ビ = ーはそう呟くと、寝袋の . 中へ . 這いこんだ。すでに 「疲れたよ」とビ = ーはいった。「ひと苦労だったあの黒いほこ なかば眠っている彼は、ちょっとの間をおいそ「暗闇りむこうか りと泥の中でやつをさがすのは。ー地面のあっちこっちでロがばくば くやづ . ているし : 三・おれはもう寝る。、母船からの連絡が六時かそこら、カフがおなじ祝福の言葉を返してきたのに気がっかなかた 9
彼女はすすり泣きをもらし、街なかでわたしに体をぶつけてくきだなんていうばかばかしいしきたりに、なにも・ほくらがしたがう ) ヘレン ことはない。ヘレン る。長い銀色の爪が、わたしの頬をひっかく。彼女はわたしをなぐ わたしの卩調にこもったなにかが、彼女につうじたようだ。彼女 る。わたしはその手をつかむ。こんどは膝でけりあげてくる。だれ も知らん顔だ。道行く人びとはわたしたちが憑かれていると考えはあらがうのをやめる。体のこわばりがほぐれる。彼女はわたしを て、目をそむける。彼女は怒りたけるが、わたしが両腕で金属・ハン見上げる。涙がすじをひいた顔がなごみ、瞳がうるむ。 ドのように彼女を羽交い締めにしたので、足をじたばたさせ、荒い 「・ほくを信してくれ。・ほくを信じてくれ、ヘレン ! 」 息を吐くことしかできない。ふたりの体はびったりとくつついてい 彼女はためらう。しばらくして、につこりする。 る「彼女はもだえ、身をこわばらせる。 わたしは訴えるように低くいいきかせる。 その瞬間、わたした後頭部にさなけを感じる。鋼鉄の針が骨に深 「やつらを負かすんだよ、〈レン。・ほくらは、やつらがはじめたこく突き刺さったような感覚。わたしはびんと身をこわばらす。腕が , まくにさからってはいけない。・ほくにさ彼女の体から離れる。つかのま、わたしは意識を失い、つぎにもや とを仕上げてみせるんた。に が晴れたとき、すべてが変わっている。 からう理由はない、知ってるさ、・ほくがきみをお・ほえていたのはた だの偶然だ。しかし、きみの部屋へ行かせてくれれば、・ほくらが結「チャ 1 ルズ ! チャールズ ! 」 ばれあった仲だということを証明してみせる」 彼女は手の甲を口にあてる。わたしは彼女に目もくれず、回れ右 してカクテル・ラウンジへとひきかえす。入口近くの席の一つに、 「はなーーしてーー」 「たのむ。おねがいだ。どうして・ほくらが敵どうしにならなくちやひとりの青年がすわ 0 ている。ポードで黒光りした髪。すべすべ ならない ? ・ほくにはきみを傷つける気なんか、これつぼっちもなした頬。目と目があう。 わたしは腰をかける。青年が飲みものを注文する。ふたりともし 愛してるよ、ヘレン。むかしをお・ほえてるかい ? 遊び半分に 愛しあうことができた頃を ? ・ほくにはお・ほえがある。きみにもあやべらない。 ーテンは渋い わたしの手は彼の手首にふれ、そこにおちつく。。ハ るはずだ。十六か十七の時分。ないしょ話、ちょっとした陰謀 なにもかも大きなゲームで、そのことも・ほくらは知っていた。だ顔で飲みものを運んでくるが、べつになにもいわない。わたしたち ゲームは終わった。いまの・ほくらには、からかったり、じらしはカクテルを飲み、からになったグラスを置く。 、カ 「行こうよ」と青年がいう。 自由な時間はすごく限られてい たりしておもしろがる暇はない。 わたしはそのあとにつづいて外に出る。 る。だから、おたがいを信じて、心を開かなくちゃーーー」 「まちがったことだわ」 「ちがうよ。憑きもので結び合わされた男女はおたがいを避けるべ」 .
井田が訊ねた。 「ほれ。親爺ちゃの番だそ」 「おめえさんが班長かい」 仕事を終えた彦太郎は鬼藤組の飯場へ戻ると半裸になって体を拭「そうだよ」 首につるした大きなペンダントを外して孫吉に渡した。数日前 「しゃあひとっ教えてもれえてえ。この中に先おとついの土曜日、 に地下から掘り出した三ッ星マークの金属円盤であった。小さな孔 渋谷の場外馬券でえらく当てた奴あいなかったかな」 があいていたところへ木綿の細ひもを通し、あの大当り以来縁起を「場外で : 。さあ、聞かねえな。おいみんな、そんな奴がいるの かついでお守りがわりにしている。 か」 「おい来た。これさえ掛けだば花札でもなんでも負けっこねえから 井田に言われて孫吉はそっと彦太郎の顔をみた。 の」 「いねえようだぜ」 孫吉はうす汚れたどてらの帯を締めながら言うと、彦太郎からペ 「おめえさんは知らねえのかもな。じゃあ聞くが、ここんとこ馬鹿 ンダントを受取り、首へつるした。 ッキしてる野郎はいねえか」 「いい歳してそんなまじないを本気にしてるのか」 みんなの視線がいっせいに孫吉に集った。彦太郎はあやめが何月 鬼藤組の正社員である班長の井田が横でからかった。 かも知らない花札オンチだが、孫吉はここのところ連日ッキにツキ 「班長だってこいつのききめにはかなわなかったでねか」 まくって仲間を口惜しがらせていた。 つら 井田はほとんどプロと言っていいギャン・フラーである。若い頃か「おツ。おめえさんかね。ちょっと面ア貸してもらうぜ」 ら一天地六の鉄火場ぐらしを続け、縁あって鬼藤組に籍を置いてか 無礼にも、土間同様の畳敷きだが、その上へ靴のまんまふたり程 ら幾分堅くなって、今は現場監督をしている。やくざの経験者だけあがりこんで来る。 に万事融通がきいて人望が厚い。 「待てよ、おい」 朝の六時であった。 班長の井田の表情がさっとやくざの生地を見せた。「土足アねえ だろう」 飯場の入口があいて人影がさした。 「邪魔すんなよ」 「何か用事かね」 井田がのっそりと人って来た男たちを見て応待に出た。 あがりこんだ一人が凄味をきかせた。 「人を探してるんだけどよ」 「待てこの野郎。どこの三下か知らねえが、筋の通らねえ挨拶をし 相手は明らかにやくざらしかった。人を無視した態度で、じろじゃがると只ア帰れねえぜ」 ろと飯場の中を眺めまわす。外には黒い乗用車が三台停まっていた。 そいつの左腕をつかんで入口の土間へ突き戻す。 「そうかい。で、探してる奴の名前は : : : 」 「よしなよ、あんさん。こっちは仕事なんだ」 ☆ 給 7