ありながらーー・サイコロをふり終っても、その賭けを最後までやり「もうひとっ : : : どうしておまえは、ダ = エルズがあの洞穴の中に いるかもしれないと思ったんだ ? もし木が切り倒されていたのな とおすことができず、自分が善意のある人間だという証人を作るた めに保安官のところへ電話をしないではいられなかった男ーーそんら、かれが木に登ることはできなかったはずだ。それにかれは、お ロープはなかった まえがやったようにロープを使えたはずもない。 な男に度胸があるはずはないのだ。 悲鳴は低くなり、うめき声に変わった。保安官はロ 1 プを引っぱんだからな。もしかれがロープを使ったのなら、まだここにあった り、アダムズの息子のひとりがそれを手伝った。ひとりの男の頭とはずだ。いったいどうなっているのかわからんな : : : わかるはずが ないだろ。おまえは洞穴に下りていって騒ぎだし、ダニエルズは森 両肩が崖のふちに現われ、保安官は手をのばすと、そいつを安全な の中から歩いてきた。だれかに説明してもらいたいもんだな」 ところまで引きずりあげた。 よろよろと前へ歩いたアダムズは、初めてダニエルズに気がっ ペン・アダムズは地面にうつぶしたまま、うめき声をあげるのを き、びくりとして立ちどまった。そしてかれはきつい声で尋ねた。 やめなかった。保安官はかれを引っぱりおこした。 「おめえ、どこからやってきただ ? ここでおらたち、ひどく心配 「どうしたんだ、べン ? 」 しながらおめえを見つけようとしていただに : : : 」 アダムズは悲鳴のような声をあげた。 保安官は腹を立てたような声で言った。 「何かが下にいる。何かが洞穴の中に : 「さあ、もう家へ帰るんだ。どうもこれには変な匂いがするそ。っ 。、ンサーカ ? 」 いったい何だ ? 猫か ? 「何かがだと ? 「わしは見なかっただ。そこにいたとわかっただけだよ。そう感じきとめるには、ちょっと時間がかかりそうだな」 ダニエルズは、ロープを巻き終った息子にむかって手をのばし たんだ。あれは、洞穴の中にしやがみこんでいただ」 「どうして何かがあそこに入れるんだ ? だれかがこの木を切り倒た。 「それは・ほくのロー。フだね」 した。どうして何かが洞穴の中に入れたというんだ ? 」 文句も言わず、驚いた少年はそれをかれにわたした。 アダムズは叫んだ。 べンは言った。 「わからねえだ : : : 木が切られたときに、そいつは中にいたのかも 「おらたち森の中を通っていくだ。家へは、そのほうが近いだから しれねえだからな。そんであそこに閉じこめられたのかもしれねえ な」 息子のひとりが・〈ンをささえてまっすぐ立たせ、保安官はそのそ「じゃあ、お休み」 と、保安官は答えた。 ばから離れた。もうひとりの息子はロ 1 プをたぐりながら、きちん 保安官とダニエルズは、ゆっくり丘を登っていった。 と巻いていた。 保安官は話した。 3 9
保安官は話しかけた。 「何もいなかったかもしれませんよ。でも、べンがいたと思ったの 「ダニエルズ : : : きみがこんな嵐の中を散歩していたはずはない。 なら、そのあいだにどういう違いがあることになります ? そう考 9 もしそうなら、きみはもっと雪まみれになっていたはずだからな。 えたのは、何かが本当にいたと同じぐらい現実的なことだったでし きみはたったいま家から出てきたばかりのような格好た」 ようからね。保安官、・ほくらはみな、ほかの者にはだれひとり見え 「ほくは散歩をしていたのではないかもしれませんよ」 ないものと並んで歩きながら生きているんですよ , 「どこにいたのか・ほくに話してくれないか ? 仕事で出かけてくる保安官はちらりとかれを見た。 のは別に厭じゃよ : 、、 オしカそのときに馬鹿みたいに見られるのは好か「ダ = = ルズ、きみと並んでいるのは何なんだ ? 何がきみのそば ないんでね」 を歩いているか、きみの踵を嗅いでいるんだ ? なぜきみは、こん 「保安官、お話しできませんね。すみません。ただお話しできない な神さまに見捨てられたようなところに埋もれているんだ ? だけなんです」 たいどうしたというんだ ? 」 「じゃあ、 いいさ。ロー。フはどうしたことなんだ ? 」 かれは答を待たなかった。かれは車に乗りこむと動かし、道を下 ダニエルズは言った。 りていった。 「・ほくのロープでしてね。今日の午後なくしたんですよ」 ダニエルズは風の中に立って、雪のふりしきる闇の中に消えてゆ 「それで、そのこともたぶん話せないんだろうな」 く明るいテールライトを見つめていた。かれは困ったように首をふ 「ええ、話せないんです」 った。保安官はひとつの質問をしたが、その答を待たなかった。ひ 保安官は言った。 よっとすると、それは答を聞きたくない質問だったからかもしれな 「なあ、・ほくは何年となくべン・アダムズにはずいぶん手を焼いて いるんだ。きみにも手を焼くようになるとは考えたくないんでね」 ダニエルズはふりむき、雪の小道を家にむかって登っていった。 ふたりは丘を登り、家にむかって歩いていった。保安官の車は道コーヒーを飲み、何かちょっと食べたかった だがまず、用事を にとめてあった。 かたづけなければいけないのだ。牛の乳をし・ほり、豚に餌をやらな ダニエルズは尋ねた。 ければいけない。鶏のほうは朝まで待たなけれ・ほー・ー餌をやるには 「入りませんか ? 酒があるはずですから」 もう遅すぎる。牛は納屋のドアのところで待っているだろう。長い 保安官は首をふった。 あいだ待ったはずだから、これ以上待たせる・ヘきではない。 「またこんどな : : ・たぶん、すぐに。きみは、洞穴の中に何かいる かれはドアをあけ、台所に入っていった。 と思うかし ? ・ それとも、ペンの想像にすぎないんだろうか ? あ だれかが、かれを待っていた。それはテープルの上に坐っている いつはちょっと頭のいかれた酔っぱらいだからな」 か、すれすれのところに浮いているので、坐っているように見えて
「農場には手を人れないようだね」 6 5 と、保安官は言った。 雑草のおいしげる野原が、庭をかこむ垣根のところまでせまって 供 いるのだ。 かれは丘から丘へと歩き、そのあたりの丘が、地質時代を通じ 提 て、どんなありさまだったのかを知った。かれは星々に耳を澄ま ダニエルズは首をふった。 し、星々が言っていることを、大きな声でくりかえした。かれは石「まあ言うなら、自給農業ってところですよ。すこしの鶏で玉子。 の中に閉じこめられているその生き物を発見した。他の時代であれ二頭の乳牛でミルクと・ ( ター。数匹の豚で肉 : : : 近くの連中が殺す ば、時と風雪が切りたった岩壁にあけた洞穴のすみかへもどろうとのを手伝ってくれます。もちろん、菜園とね。でもまあ、そんなと & ころですな」 する山猫が、そこへわたるために登った木に、かれも登ったのだ。 かれは、高くてせまい尾根にやっとしがみついているくたびれた保安官は言った。 農園にたったひとりで住んでおり、そこからはふたつの川の合流点「仕方ないさ。ここはもうし・ほりつくされてしまったんだ。ェイモ が見わたせるのだった。そしてかれの隣人は、まったくいやなやっ ス・ウィリアムズ老人が荒らしちまったから。かれはどうしても一 で、三十マイル離れた郡庁所在地まで車を走らせ、保安官に、この人前の百姓になれなくてね」 丘を読む男、星々に耳を澄ます男は、鶏泥棒たと告けたのだ。 「この土地はいま休んでいるってわけですよ。もう十年 : : : 二十年 ならも 0 といいでしよう = = = それでまた使えるようになりますね。 保安官は一週間のうちにやってきて、川の丘が見えるポーチの揺いまところ役にたつのは、兎とマーモットと野鼠のためだけです り椅子に坐っている男のところへ、庭を横切っていった。保安官よ。もちろん鳥もたくさんいます。これまで見たことがないほど の、すばらしいウズラの群もいますよ」 ポーチへつづく階段の下で立ちどまった。 0 ーリイ・シェファード。 、れー 1 、丿スのいる郡だったがね。アライグマもだ : : : まだこの ちょうど通りかかった「昔よ、 「ぼくは保安官のハ もんでね。こんな森の中まで来たのは何年ぶりかさ。あんたは、ちへんにはアライグマがいると思うよ。ところであんたは猟をするの ミスタ・ダニエルズ ? 」 、刀し かごろ来たんたね、このへんには ? 」 「ぼくは鉄砲を持っていませんのでね」 その男は立ちあがって別の椅子へ手をふった。 保安官は椅子に背をのばして、ゆっくりとゆらせた。 「ここへ来て三年ほどになりますよ。名前はウォーレス・ダニエル 0 「このへんはきれいなところだな。特に木の葉が色を変えるところ ズ。上がってきて、ここへ坐りませんか」 保安官は階段を上がり、ふたりは握手をし、それから椅子に腰をは。落葉樹がいつばいあって、色が鮮かだからね。もちろん、この あんたの土地は、まったくひどいところたが。ほとんどが、まっす おろした。 ・ヒルズ
だ。牛は納屋に人る門のところで待っており、風にむかってかがみんなものだと、かれにはわかっていたーー・しかし、どうして、たっ たいま時間旅行から帰ってきたところだなどと言えるだろう ? こみ、皮膚は氷と雪におおわれ、暖い納屋に逃けこむことを待ちこ がれていることだろう。豚は餌を与えられていないし、鶏たってそ保安官はおもしろくなさそうに言った。 うだ。人は飼っている家畜のことを考えてやるべきものだ。 「なんてことだ。われわれはあんたを探していたんだそ。べン・ア しかしたれかが下にいる。ランタンを持っただれかが、崖っぷちダムズがあんたのところへ行って、あんたがいないんで驚いた。あ いつはあんたが森の中を歩きまわることを知っているんで、何かあ のところにいるのだ。その馬鹿な連中が気をつけていないと、足を すべらせたら最後、百フィ ートもの虚空にまっさかさまだ。アライんたにおこったんじゃないかと心配した。それであいつはぼくに電 グマを追っている連中というところだが、アライグマの猟に出るよ話をよこし、われわれはあいつの息子たちといっしょに、あんたを うな夜ではない。アライグマはみな、穴の中に閉じこもっているは探しはじめた。われわれは、あんたが崖から落ちたか、怪我でもし ずだ。 ているんじゃないかと心配していたんだ。こんな嵐の夜に、そう長 しかしその連中がだれだろうと、かれは下りていって警告してやく生きていられるはずはないからな」 るべきだ。 ダニエルズは尋ねた。 地面に置いてあったらしいランタンのところへ近づいていくと、 「べンはいまどこです ? 」 だれかがそれを高くかかげ、ダニエルズはそいつの顔を見て、だれ保安官は丘の下のほうへ手をふり、ダニエルズはふたりの男、た かすぐにわかった。 ぶんアダムズの息子たちだろうが、木のまわりにロー。フをくくりつ ダニエルズは急いで前進した。 けており、そのロー。フが崖の下にのびているのを見た。 保安官は言った。 「保安官、こんなところで何をしているんです ? 」 だがかれは恥ずかしい気持にかられた。明かりを見たときすぐに 「あいつはロープの下だ。洞穴の中をのそいているんだ。あんたが わかっているべきだったのだ。 洞穴の中にいるかもしれないと思ったんだ」 「だれだ ? 」 「そう考えるのももっともな : : : 」 保安官は急いでふりむきながらそう尋ね、ゆれるランタンはダニ ダニエルズはそう言いかけたが、ロを開くと同時ぐらいに闇は恐 エルズのほうに光を投げかけた。 怖の叫びに切り裂かれた。その悲鳴はとまらなかった。それはいっ 「ダニエルズ」かれは息をのんだ。「よかった、いったいあんたはまでもつづいた。保安官はダニエルズにランタンをつきつけ、急い で前方へ進んだ。 どこに行っていたんだ ? 」 「散歩していただけですよ」 度胸がないってわけだ、とダニエルズは考えた。だれかを死の危 と、ダニエルズは小さな声で答えた。その答はまったくいいかげ険におとし入れるほど、かれを洞穴の中に閉じこめるほどの悪意が 2
と、ダニエルズは言った。 れかにかれの鶏を一羽か二羽盗まれたと言っていた。あんたのほう は何も盗まれていないかね ? 」 ダニエルズは、につこり笑った。 かれはポーチに坐って、保安官の車が尾根のすっと下にあるふく 「狐がいましてね、ときどき鶏小屋を襲ってみつぎ物を取り立ててらみを越えて見えなくなるのを眺めていた。 ゆきますよ。・ほくはそいつに腹を立ててもいませんが」 いったいどういうことだったんだろう ? と、かれはいぶかしく 保安官は言った。 思った。保安官が偶然そばを通りかかるなんてことはない。かれは 「おかしなもんだ : : : 百姓を怒らせるには、小さな鶏を盗まれたと用事があって来たんだ。なんの目的もなさそうなくつろいだ話にも いうようなことが一番なんだな。・ほくはもちろん、つまらんことで何かの理由があったのたろうし、その中でかれは多くの質問をした 腰を上げたくないんだが、連中はそういうことになるとまったく腹にちがいない。 をたてるんでね」 もしかするとペン・アダムズのことかもしれないな。ただし、ア 「もしべンが鶏をなくしつづけているのなら、それはどうも・ほくのダムスがまったくの怠け者たというほかには、たいしたことも言っ ていなかった。イタチのような怠けかたではあるが。保安官はアダ 狐が犯人ってことになりそうですよ」 ムズがときどき酒の密造をやるのをかぎつけ、近所のだれかが口を 「あんたの狐 ? まるであんたがその狐を飼っているみたいな言い かたたな」 すべらすかもしれないと思って、調べにやってきたのかもしれな へつに自分らの知ったこと もちろんだれもしゃべりはしない。。 「もちろん飼っちゃいませんがね。だれも狐を飼ったりしません よ。でもそいつは、このあたりの丘に。ほくといっしょに住んでいるではないし、酒の密造がなんの迷惑をかけるわけでもないからだ。 べンが酒を造るったって、大した量になるわけじゃない。あいつは んです。ぼくの隣人ってわけです。・ほくはかれをときどき見かけ、 見つめつづけます。それで、かれがなかば・ほくのもののような気に何をやるにしても、量が大きくなると、怠け者すぎるんだ。 なるんでしよう。ただし、こちらが見つめるより、むこうが・ほくを 丘のずっと下のほうから、鈴の鳴る音がひびいてきた。二頭の乳 見つめていることのほうがずっと多くても、べつに驚きはしません牛がやっと帰ってくるところだ。思っていたよりも、ずっと遅くな よ。あいつのほうがぼくよりずっとすばしこいんでね」 っているんだそと、ダニエルは自分に話しかけた。時刻に注意をは 保安官は椅子から体をおこした。 らっていたということではない。かれは岩棚から落ちたときに時計 「残念だが行かなければ : : ここに坐ってあんたと話をして、あのをこわして以来、もう何カ月ものあいたすっと、時刻など気にして 丘を眺めていると、ずいぶん心が安まったよ。あんたもよく丘を眺 いない。その時計を修繕に出そうと思ったことさえなかった。かれ めるんだろうと思うね」 は時計など必要としなかった。台所に傷だらけの古い目覚まし時計 があったが、それは機械がどうにかなっていて信用できる代物では 「ああ、よく見ますよ」 8 5
「ただの作り話じゃよ、 オしか、それは : : どこかのとんでもない馬鹿「もし狐があいつの鶏をとってるなら、なぜあいつは射たねえた がそんなことを言いだしたが、まるつきりでたらめたった。大学か らも何人かやってきて調べてみようとした。しかし本当のところな「かれはべつに腹を立てていない。狐にもその権利があると思って どひとかけらもないとわかったんだそ」 いるようなんた。かれは銃を持っていないんだよ [ ・ : じゃあな 「でもダニエルズはほうぼうの洞穴をつつきまわってるだよ。わし「へええ、銃を持ってなくて自分で射っ気もねえだか : は見ただ。あいつはキャット・デン・ポイントにある洞穴でずいぶんで、ほかの連中に猟をさせねえだね ? あいつは、わしやわしの ん長いあいだ時間をつぶしてるからなあ。あそこに入るには木によ息子らにあいつの地所で猟をさせねえだ。あいつは自分の地所をど じ登らなくちゃあなんねえだそ」 こもかしこも立入禁止にしているだよ。あんなこたあわしには、隣 「おまえはあの人を見張っているのか ? 」 近所のもののやることとは思えねえだね。あいっと仲よくやってく 「見張っているともさ。あいつは何かをやろうとしているんだし、 のを難しくしていることのひとつがそれだで。わしらいつもあそこ わしはそれが何か知りたいたからね」 で猟をしてきただよ。ェイモス爺さんは仲よくするのが難しいやっ 保安官は言った。 だったけんど、あそこでわしらが猟をすることに文句言ったことな 「おまえがそうしているところを、あの人に見つけられないように どなかったもんな。わしらずっとこのあたりのどこでも猟をしてき するんだな」 たた。だれも気にするもんなどいなかっただよ。わしの考えじゃ あ、猟は自由にしていいはずだあね。どこでも猟をしたいところで 猟をしていいはずじゃねえだか」 アダムズはその話題をそらせようとした。 「まあ、とにかくさ、宝物の洞穴がひとつもなくてもよお、鉛や錫 倒れそうな家の前のかたくふみしめられた地面においているべン が山ほどあるだ。それを見つけたやつは、百万がとこっかむことにチに坐って、保安官はかれを見た , ーーきよときよととつつきまわっ なるんだもんな」 ている鶏、木蔭で眠っているやせた猟犬、そいつは何匹か残ってい 保安官は指摘した。 る蠅がとまるたびに背中を動かす。二本の木のあいだに張ってある つ。ま、ぶらさがっ 「あとおししてくれる資本を見つけられなければだめさ」 物干し用の紐。それに洗濯した衣類やタオルがい。し ており、家の側面にもたれかかっている洗濯台の端に洗濯だらいが アダムズは踵で地面をつついた。 危つかしく乗っている。 「あいつは怪しくねえとあんた考えているだな ? 」 なんてこった、二木の木のあいだにロープをはるだけでごまかし 「かれも鶏を何羽か狐にとられたと言っていたよ。おまえのところ ておかず、ちゃんとした物干し場を作るだけの時間を見つけられな でおこったことも、それにちがいないな」 いのか、この男は。そう思った保安官は言った。 アダムズは尋ねた。 6
っこ 0 かにくわしく調査されるだけの値打があるものとなるのた。 「そう言うわけか : : : あんたに言っとくだよ、あいつが探してるの 6 生物学者か ? それとも精神病医か ? それとも古生物学者か ? その人がどんな科学の分野にいるかということは、たぶん問題には化石なんかじゃねえだ」 ならないはすだ。ただその人が笑いださずに聞いてくれればだ。笑「ちがうって ? 」 わずに聞いてくれるかどうかが、もっとも重要なことなのだ。 「あいつは物を探してるだ : : : あいつがやってるのは探鉱ってや ポーチに坐って、草を食べている恐屯が点在している丘を見つめったあな。このへんの丘は鉱物でいつばいだかんなあ。しなきゃあ なんねえことは、どこを探せばいいか知っていることだけなんたよ」 ながら、星々に耳を澄ます男は、かれが古生物学者に会いに行った ときのことを思いだした。 保安官は言いかえした。 「おまえもずいぶん長いあいだ探していたじゃよ、 「わしは地質学者なんかじゃねえだ。地質学者はずっととくだあ 保安官は言った。 な。岩とかそういうもののことを知っているだからな」 「べン : : : おまえはとんでもないことを言ってるそ。あのダニエル ズって男は鶏など盗んじゃいない。あの人は自分の鶏を持っている「かれは探鉱をしているようなことなど言っていなかったそ。ただ 地質学に興味があるだけだそうだ。かれは化石になったハマグリを からな」 いくつか見つけたって言っていた」 アダムズは言った。 たから、の 「問題はだよお、あん畜生がどうやってそのコケコッコを手に入れ「あいつは宝物のある洞穴を探しているのかもしれねえだ。あいっ は地図かなんか持っているのかもしんねえ」 たかたよお」 「わけのわからんことを言うな。あの人は紳士だ。おまえもちょっ「宝物の洞穴などないことは、おまえもよく知っているじゃな、 か」 と話してみたらわかることた。教育のある紳士だそ」 まっこ 0 アダムズは言いを しってえあそこで何をしてやがるんだね ? 「あいつが紳士なら、、 「あるにちげえねえたよ : : : 昔はこのへんにフランスとスペインの このへんは紳士の住むところじゃねえだよ。あいつは二年か三年前 : 、こ・こ、らよ。宝物にかけては有名だで、フランス人とス に姿を現わしてよ、ここへやってきただ。その日からあいつは、こやつらカしナナカオ ペイン人はな。いつだって宝物を追っかけていたんたから。そんで れつぼっちの仕事もしてねえたよ。あいつのやることといったら、 いつも品物を洞穴に隠すんだ。川むこうにある洞穴じゃあ、骸骨が 丘をぶらぶら上がったり下がったりだけだもんな」 「あの人は地質学者なんだ : ・ ・ : とにかく、地質学者に興味を持って見つかったもんな。スペインの鎧を着てたし、そばには熊の骸骨も あったんた、錆びついた刀が熊の腹ん中につきささってよ」 るんた。趣味ってわけさ。化石を探していると言ってたよ」 アダムズは兎を見つけた大のような抜け目のない表情になって言保安官はつまらなさそうに言った。
したことほど悪どくはない。 彼が考えたしたのはすてきな計画だったが、たった一つだけまず ひどく簡単なことたった。私たちは長いこと、家畜の成長にテス いことが起こった。ある日、研究所から緊急電話がかかった。彼が 3 ・チ = ープ技術を導人している。アリゾナにある孵化牧場は十 = 電話にでると、所員が、賭はすべて失敗した、と言った。しだいに ーカーあり、一年間で、テキサス州が十年で消費するより多くの牛出力が落ちてい 0 たのだ。彼女の入「ている特別タンクは、冷凍能 肉をうみだしていた。医者たちは、私の生殖細胞をとり、それらを力を失 0 た。彼らがそれを発見した時、身体は摂氏一度ぐらいのと 成長させてい 0 た。やがて、それらは、生命維持タンクに移されころに数時間おかれていたのだ 0 た。デ = ーナは他の死体と変わる た。牧畜と同じだ。ただし、こっちはもっと気まぐれなものだっところのない、たたの死体にな 0 ていた。外見は前と同じだ 0 た た。私は、フレイジアに、保存室をすえつける地点を決める仕事をが、長い年月、彼らが保 0 てーーあるいは、保とうと努めてきた、 まかせた。保存室は探知できぬように、非金属物質で造られること彼女のわすかな生気はなくなっていた。 になっていた。私は彼に、その場所を私に言ってはならない、と命彼には大きなショッ クだったが、そもそもの始まりの時程ではな じた。これで、誰にも、秘密を私から聞きだして、私の名をかたっ かった。三十年以上、時がたっていた。彼は死と生きることを学ん て、そこに踏みこみ、おもちゃの家を壊すことはできない。なぜなでいた。彼女は彼の生活の最も大きい部分を占めていた。昔のこと ら、私もそれらの家がどこにあるのか知らないのだから。 だ。彼は、夜眠られぬままに横になって、彼女の声や、家に帰った 最初の複製人間は、二十年で成熟するようにな 0 ていた。この年時かけよ「て来る表情を思いだしたものだ 0 た。だが、すべては過 月は、私が考えだしたのだ。私が彼に概要を説明し、彼が私から引ぎさ 0 たことだ。ず 0 と昔読んだおとぎ話の思い出にすぎない。そ きつぐ。彼らは頭をかいて、〈老人〉は誰が考えるよりもず「とよして、永遠に失われた。 く若さを保っている、と言うことだろう。そして、彼が盛りをすぎ 彼はフレイジアに、死体に防腐処置をほどこして埋葬するよう命 たら、次の複製人間の用意ができる。医学が子供の解凍を許すようじた。だが、その時には、フレイジアは少し気が狂 0 ていた。彼は になるまで、この鎖は続いていくのだ。医者どもは長いこと時間か医学を信じなかった。奴らが解凍問題をさらに続けて研究するよ せぎをしてきた。だが、永遠に時間かせぎはできない。彼らがそれう、彼は望んた。〈老人〉がそうしようとしなかったので、彼は、 をやめたら、私はすぐに応じられるようになっているのだ。 ある男を殺す、と言った。そして、去った。 そこでテー。フは終わりだった。私はユタ州の無人の鉱山の抗道の 〈老人〉は葬儀に参列した。墓が閉ざされる寸前、一つの考えがう 中で正気づいた。タンクは側抗にはめこまれて、完全におおわれて かび、棺を開けよ、と命じた。開けてみると、中はカラだった。と いた。情報が私を待っていた。食料と、フレイジアが最後に来た時 いうより、ほとんどカラだった。金のかたまりでできた、インドの 二〇二〇年ごろーーーまでの世の移り変わりが簡潔に書いてあっ寺院の小さな模型が人っていたのた。おそらく、フレイジアの冗談 た。物語りの残りは、〈老人〉の記録から私が組みたてたものた。 だろう。昔はいい奴たったが、今は歳をとりすぎている。〈老人〉
「あんたはエイモス・ウィリアムズの爺さんを知っていたのかい ぐ上がったり下がったり。しかし、きれいなところだよ」 ダニエルズは言った。 、え。かれは・ほくがここへ来る前に死んでいました。かれの財 「古い地方ですからね : : : 海が最後にこのあたりから後退していっ たのは四億年以上前のことです。シルリア紀の終りからこのかたず産を管理していた銀行から土地を買ったんです」 っと乾いた土地のままなんですよ。ずっと北のカナディアン・シー ルドまで行かない限り、この国にはここほど古い場所は多くないん保安官は言った。 ですからね」 「変わりものの馬鹿な老人でね : : : 近所のだれとも喧嘩したもん ミスタ・ダニエルズ ? 」 「あんたは地質学者なのかい、 だ。特にべン・アダムズとね。爺さんとペンは何年ものあいだ境界 さく 「そうじゃないですよ。興味を持ってるだけ。ど素人ってやつで線の柵のことで争いあっていたんた。べンは、エイモスが柵の手入 ェイモスのほうは す。暇つぶしをやらなければいけないんで、・ほくはずいぶんハイキれをしないでほったらかしておくからだと言い ングをやるんです。このあたりの丘を登ったり下りたりね。そうなべンが柵を倒して、なにくわぬ顔で牛の群をェイモスの干し草畑へ ると、どうしても地質学にぶつからずにはいられなくなるんです。入れたと言うんだ。あんたのほうはべンとうまくいってるのかい プラキオポッド ・ほくは興味を持ちましてね。化石になった腕足類をいくつか見つ け、なんだろうと考えたもんです。それで本を何冊か取りよせて、 ダニエルズは答えた。 そいつを調べてみましたよ。すると、ひとつのことからつぎつぎと「ええ : : : 面倒はおこしていません。あの人とはほとんどっきあい がありませんでね」 「プラキオポッド ? それは恐竜なのかい、それともなにかほかの 「ペンのほうもあまり畑仕事はやらないんだ。猟と魚釣り、朝鮮人 もの ? こんなところに恐竜がいたとは知らなかったな」 参とり、冬には罠もかけているね。ときどき、鉱物を探してもいる ダニエルズは言った。 な」 「恐竜じゃあないですよ : : : 恐竜以前のもの、すくなくとも・ほくが「このあたりの丘にはいろんな鉱物がありますね。鉛や錫です。で 見つけたものはね。小さなものです。ハマグリとかカキみたいなもも、掘り出す費用のほうが高くつきますよ。もちろん、現在の値段 んですよ。でも、貝殻のあわさりかたが異なっていましてね。何百ではですが」 までもすこ 万年も前に死に絶えた古いものなんです。ところが、い 「べンはいつも何かの計画を考えていてね、いつだって雲をつかむ プラキオッド しは生きている腕足類がいるんです。そう多くはありませんが」 ようなことを言っている。それにまったくの喧嘩好きなんだ。いっ 7 「きっとおもしろいものなんだろうな」 だって何かのことで鼻をたたきつぶされている。いつだって騒ぎを 5 「・ほくはそう思いますね」 おこそうとしている。敵にすると面倒な男たよ。このあいだも、だ
彼女は、男がスイッチを入れたり切ったり、何かをかきまわしたして何よりもーーー・おお、自分は助かるのだろうか、助かるのだろう り、測ったりするのをながめた。 , 彼の周囲では、、 編成の機械装置か ? カ のオーケストラが彼の指揮につれて、プン・フン、シューシュー 男は、それらの質問のうちのたったひとつにしか興味がないよう チャカチャ、チカチカいいながら、合唱や独唱をしてした。 , 、 - 彼女はだった。「これは大部分、カリウムの同位元素からなっている。こ 笑いたかった、泣きたかった、叫びたかった。しかし演奏が中断されについて知っていることや、そもそもどんなふうにこれを発見し れるのをおそれて何ひとっしなかった。 たか、そんなことを話していたらーーそれだけの時間は、まあ、あ 男がもどってきたとき、彼女のなかの葛藤は過ぎ去っていたが、 りそうもないね。おおまかにいえば、こういうことさ。理論上、す 全身は敵意に満ちた間断ない緊張にはりつめていた。その結果は異べての原子は電気的に平衡を保っている ( 例外もあるけれど、それ 常な静止状態で、男の手にある器具を見たときも、彼女はただ眼をは考えない ) 。同様に、分子内のすべての電荷も平衡を保っている 見開いただけだった。息をすることさえ忘れていた。 と考えられるーーー。フラス、マイナス、あわせてゼロというわけだ。 「そう、針だよーほとんどからかうような調子で、男はいった。 ところが異常のある細胞では、この電荷の平衡がゼロではない 「キラリと光る長い鋭い針だ。注射は嫌いだなんていわないでくれちょっと狂っていることに・ほくは気づいた。ちょうど分子レベル よー男は、皮下注射器の中央部の黒い枠組からのびた長いコードをで、極微的な雷雨が荒れ狂っている感じなんだ。小さな稲妻があち たぐって余裕を持たすと、スツールにまたがった。「何か神経をおこちで飛びかい、プラス、マイナスを入れかえている。通信の妨害 ちつかせるものはいらないか ? 」 静電気現象だねーー・それが , 男は枠をかぶせた注射器を示し 口をきくのもおそろしかった。 , 彼女の正気の自我をおおっているた。「こいっと関わりあってくるんだ。通信が行なわれている、そ 皮膜は非常にうすく、びんとのびきっていた れを何かが妨害するーー・特にメカニズムが、つぎのような命 男はいった。「いらないなら、そのほうがいいんだ。この薬品シ 令を発した、コノ青写真ヲ読ミ、ソレニ従ッテ建造シ、完成シタラ チューは、これだけでも複雑すぎるくらいなんだから。でも、ほし直チニ作業ヲ停止セョ この通信が妨害され、命令の内容が混乱 いのなら : ・ : ・」 したとすると、調子の狂った製品が作られることになる。安定を欠 彼女はかろうじて少し頭をふった。するとまたあの肯定の波動いた製品、その本来の用途を必ずしも満足させない製品、それが異 常をおこした細胞だ。そして、そこから伝えられる命令は、もっと たずねるつもりでい が、男から伝わってきた。たずねたいこと たことーーーたすねなければならないことは、数えきれないほどあっ狂ったものになる。 た。注射器のなかには何がはいっているのか ? 何種類ぐらいの治 よし、そこでだ。この雷雨が何からひきおこされたか、ビレ 療をこれからうけなければならないのか ? それらはどんなものな か、化学薬品か、放射線か、肉体的外傷か、それとも不安かーー精 6 - とこに ? そ神的な動揺だってそれくらいのことはできるんだよーー・そういうの のか ? どのくらいとどまらねばならないか、また、・