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検索対象: SFマガジン 1972年10月号
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1. SFマガジン 1972年10月号

ら、の・ほって ! 」 とおり ) お化けのように逆立った。 彼女はゆっくりと立ちあがったが、そのあとはてきばきと動い 男は音量をなんとか我慢できるレ・ヘルまでおろし、検電器をとり た。彼女の体が椅子からはなれたとき、ほんの一瞬だ「たが、青白あげた。そして微笑しながら彼女に近づいた。「きみ自身、検電器 色の糸がもつれながら。 ( チ。 ( チと音をたてて腰のまわりで踊った。 なんだよ、→わかるかい ? それから生きているヴァン・ド・グラー その反動で、彼女は立ったまま一・五ャードもはねとんだ。そしてフ起電器でもあり、お化けでもある」 ノョックのあまりなかば意識を失い、倒れそうになった。 「おろして」彼女はようやくそれだけいった。 「しつかりと立つんだ ! 」男の声がとんた。 ~ ・ - 彼女はあえぎながら、 「まだまだ。しつかり足を踏みしめて。きみと周囲にある物体の電 われにかえ「た。男は一歩しりそいた。「板の上にのるんだ。さあ位差が非常に高いので、何か近づくとそれに放電してしまうんだ。 急いで ! 」 ・ヘつに害はないーー電流じゃないからねーーだけど火傷したり、神 彼女はいわれるままに動いた。板までの距離はちょうど二歩だっ経にショックをうけることはあるかもしれない」男は検電器をさし たが、彼女が歩いたあとには、かすかに燃える二つの足跡が残っあげた。この距離からでも、この悲嘆のなかでも、金箔がじりじり た。彼女は危つかしく板の上に立った。髪がゆらゆらと逆立ちはじと離れてゆくのがわかった。彼は注意深く金箔を観察しながら、彼 めた。「どうなっているの ? 」 女の周囲をまわり、検電器を前後左右に動かした。一度、彼は音波 ・アー・ゲティング・チャ : ジド 「けつきよく支払う羽目になった「帯電する」の意味 ということさ」発振器のところへ行き、音量をもう少しさげた。「電場が強くて、 とひっかけてある 男は上機嫌でいった。このときばかりは、彼女も得意のしゃれでい 変化がはっきりとわからないんだ」そう説明すると、彼女のところ いかえす余裕はなかった。彼女はまた叫んだ、「いったいどうなっ へもどり、さらに近づいた。 ているの ? 」 「もう我慢できないわ : : : これ以上」彼女のつぶやきを、男は聞こ 「だいじようぶだ」男はなだめるようこ 冫いった。そして仕事台に行うともせず、注意も払わなかった。検電器を彼女の腹部から上へ、 くと、音波発振器のスイッチを入れた。発振器は百から三百サイクそして両脇へと動かした。 器械を右乳房に近づけ ルのあいだで低いうなりをあげはじめた。彼は音量をあげ、音の高「うん。ここだ ! 」男は嬉しそうにいし さを調節した。音がみるみる高くなり、それにつれて彼女の赤みが かった金色の髪はぶるぶる震えながらひろがっていった。髪の毛の 「なにが ? 」彼女は泣き声でいった。 一本一本が、互いにできるだけ離れようとあがいているかに見え 「きみの癌だよ。右胸下側から腋の下にかけてだ。悪性もいいとこ た。彼は音を一万サイクルから、耳に聞えず腹にだけひびく十一サろだ」 イクルまでさまざまに変化させた。高音と低音の限界では、髪はた 急に足元が揺れ、彼女は前のめりに倒れた。不吉な暗黒がのしか れさがったが、千百サイクルのあたりでは、それは ( 彼女がいったかった。すさまじい青白色の閃光がっかのまそれを押しのけたが、 8

2. SFマガジン 1972年10月号

い」 ていた。池があり、のそきこむと、ひとつがいのランチュウーー金 「本当のことを話してごらん。″人はこう思うだろう ″とか、魚というより銀魚ーーのうろこがひらめいた。二ひきとも、今まで 9 そんなふうな回り道をしていたってしようがないんだ。なんといわ見たこともないほど大きかった。そしてーーー家。 れようと、わたしはわたしの考えることを考える。それがいやなら 列柱をそなえたテラスを見るかぎり、それは庭の一部といえた。 いわかべ 何もいわずに山をおりることだ」女が立ち去ろうとしないの だが周囲の岩壁 ( 庭石というには大きすぎる ) を見るかぎり、それ で、男はこうつけ加えた、「本当のことを話してみたまえ。重要なは山の一部だ「た。山腹にめりこむように建ち、屋根は正面両側と 問題は、単純なものだ。単純なら、言うのも楽なものさ」 もスカイラインと平行で、一個所だけ断崖がひときわ空に突出して 「わたし死ぬんです ! 」と女は叫んだ。 いる部分があった。梁をわたし、鋲を打ち、のそき窓を二つあけた 「ぼくだって死ぬよ」 ドアが、すっと開いて二人を迎えいれた ( だが中には、だれもいな かんぬき 「胸にしこりがあるんです」 かった ) 。ドアがしまると静けさがおり、外界の物音は、閂や錠が 「家へおいで、治してあげよう」 なしうる以上に完全に遮断された。女はドアを背にして立ち、男が それ以上何もいわず男は背をむけ、果樹園のなかを歩きだした。家の中央吹抜きというか、それに相当する部分を横切るのを見守っ 正体をなくすほど驚き、激しい怒りにかられ、気ちがいじみた希望た。それは小さな中庭で、その中央にテトリウムがあ 0 た。アトリ に満たされ、不信の笑いに口元が一瞬ゆがむのさえ感じながら、彼ウムの五つの面は総ガラスばりで、てつべんは空にむかってひらい 女は男のうしろ姿を見つめ、少しのあいだ立ちつくしていたが、わている。そのなかに、一本の木。イトスギなのかネズなのか、節く れにかえると ( いっ決心したのだろう ? ) 男のあとを追「てかけだれだち、ねじまが 0 たその木は、日本人が " 盆栽。と呼ぶ、あのむ していた。 りやり折り返され、平行に揃えられた彫刻物の外観を呈していた。 果樹園が上り坂になるところで彼女は男に追いついた。「あなた「来ないのかい ? 」アトリウムのかげにあるドアをあけて、男はい っこ 0 は、お医者さま ? 」 男は、彼女がためらい、そして走ってきたことに気づかないよう「高さ十五フィ トの盆栽なんてないわ」 すだった。「いや」と彼よ、 、歩き続けた。足をとめ、下唇をひ 「ここにあるのがそれさ」 つばり、追いっこうとしてふたたび走りだした彼女に、目もくれな彼女はながめながらゆっくりと通りすぎた。「どれくらい前から っこ 0 ・カ / 持っていらっしやるの ? 」 「わたし、き 0 と頭が変なんだわ」庭の小道で男とならぶと、彼女声の調子で、男がたいそう機嫌をよくしているのがわかった。盆 はいった。それは自分にむけた言葉だった。男はそれを知っている栽の持主に木の年齢をたずねるのは賢明ではない。それま、 をしし、刀、た のだろう、何もいわなかった。庭には、菊が傍若無人においしげつれば持主に、その盆栽が本当に彼の手になるものなのか、それとも

3. SFマガジン 1972年10月号

しているのだ」 れて一列に並んでいた。ードッジーエムのような小さな車が、そ 彼女は笑った。かわいらしい笑いではなかった。「あなたは友人の間に見え隠れしている。客を運んでいるのだ。私は回廊にそって 2 を裏切るような人間じゃないっていうのね、スティーヴ」 進み、下りエスカレーターにのった。灰色の制服が二人、一番下に立 って、人々の顔を見ていた。二組の眼が私を見て、ねすみを見つけ た鷹の眼のように輝いた。エスカレーターでおりていく間中、そし 翌日の午後、出発した。気のきいた小型熱線銃を持っていった。 それを持っ権利のある誰よりもいい気分であった。新しい内臓がって舗装道路を横切るまでずっと、二人の視線を感じていた。だが、 いてから二週間たっていた。エレベーターにのった。すごい速さで私を狼狽させたのは、私の意識にすぎなかったのだろう。二人は私 くだっていく。胃がいまにもとびだして、ドアが開くまでとくと見を見のがしたのだ。 分できそうなほどであった。私は、街路と廊下の間の通廊にほおり だされた。 私の乗った車は、昔利用した都市・ハスと違うところはあまりない トンネルに滑りこむと、前方に傾いで、ジェッ 歩道に沿って歩いた。ケープをはおり、三角帽子をかぶった男たようだった。だが、 ちゃ、レースの立ち襟や全身にびらびらのついた服を着たり、なか ト・コースターのように落下していった。六分後、人とまばゆい光 には、腰の部分をむきたしにした、床屋の看板のような色合いの女と騒音に満ちあふれたガラス張りの部屋におりたった。部屋を横切 斜路をくだって、今一度、外にでた。そこは、人影はまばらだ たちの中にまぎれこんだ。男も女も、古いペッドシーツを巻きつけり、 ている者が何人かいた。三日続きの仮装舞踏会の生き残りのように った。彼方の都市の光は、空にそびえた壁だった。 見えた。五分歩くと、ミ ンカから探せと教えられた場所へでた。ま ここが、トンネル・カーをひろえるはずの地点であった。車は二 っ白なドアの上の、大きなくもりガラスの看板で、謎めいたことが十マイル地下にもぐって、シカゴまでの距離を— O より速く進 むことができるのだった。信号はたいして役にたたなかった。左側 書いてあるーーー・・Ⅱ ( 9 ) そしてー N には、半ダース以上、ジェット・コースターのレースが並んでい 私はドアの一つを通り抜け、牛がでてきそうな狭い通路に人っ た。先へ進むと、旅人らしい人でごったがえすコンコースへでた。 る。ごうごうと献道をやって来た前後に二つ車輪台のついた乗物 陰気な制服を着た若者が数人、そこここに立って、眼をひからせてが、 シューツと音をたてて止まった。ハッチがはねあがり、肥った いる。たが、制服は灰色で、ポケットの部分に男と痩せた女が各一人、乗りこんだ。それが騒々しく去っていく ( 移動セントラル ) と文字が入っていた。しかし、銃はもってい と、次のがレールをやって来て、プレーキをかけた。 た。本物の〈・フラッキイ〉と同じである。 私と乗物の間には低い手すりがあった。私は跳びこえると、感電 右側に手すりがあり、その下は広いペーヴメントで、タイタン 2 死させないためとおぼしい狭い地帯を通って、車の後部にまわっ 号ほどもある大きなミサイルがクリスマス・ツリーのように照らさた。ドアに手をかけると、すぐ開いた。背後でさえた声がした。 プラスター

4. SFマガジン 1972年10月号

「そのようね」 き、きみはそれを放棄する。役に立たないものを捨てるのは愚かな 「出て行ってもいいんだよ」 ことではない、そうだろう ? きみはパ = ックにおちいる。そし 8 「それも考えてみたけど。彼女は快活に口をひらいたが、その空元て、でたらめな行動に走る。そのほとんどは ほとんどすべては 気も途中からし・ほんでいった、「大して変りはないみたい , 無益だ。なかには危険なものもあるかもしれない、だが、それ 「よい決心だ」男は、ほとんど嬉しそうに聞える声でいった。「子は問題じゃな、 きみはすでに危険のなかにいるんだから。そう 供のころ、ぼくが住んでいたアパートで火事があった。てんやわん いう行動のどこに生存因子があるかというと、それはきみが心の奥 やの騒ぎのなかでとびだしたんだが、そのとき十歳だ「た・ほくの弟底で、百万にひとつのチャンスでもぜんぜんチャンスがないよりマ は、気がつくと目覚し時計を持っておもてに立っていた。古いやっ シだということを知っているからなんだ。というわけでーーー・きみは で、・せんぜん役に立たないんだーーーけれどもその混乱のなかで、手ここにすわ「ているーー・そして、おびえている。逃げることもでき 近にあるたくさんの品物のなかから彼がひとつだけ選びだしたのる。うちの声が、逃げろと叫んでいる。だが、きみは逃げない」 が、その時計だった。どうしてなのか見当もっかないといってた 彼女はうなすいた。 よ」 男は続けた、「きみは胸にしこりを見つけた。医者へ行ったとこ 「あなたは ? 」 ろ、彼は検査して、きみに悪いニュースを告げた。たぶん、きみは 「な・せ弟がわざわざそれをとったのか、そこまではわからない。だべつの医者へも行ったが、けつきよくその = = ースがまちがいない けど、明らかに理屈に合わない行為をなぜ弟がや「たかは、わかることを確認しただけだった。きみはあれこれと調べ、このあと何が ような気がするよ。 パニックというのは非常に特殊な状態なんだ。 おこるかを知ったーー診査切開、根治手術、疑わしい回復、末期患 恐怖や逃走、激怒や攻撃と同じように、巨大な危険に対するごく ) 」者としての長い苦しい過程。そこできみは投け出してしま「た。・ほ く原始的な反応だ。そして生存本能のひとつのあらわれでもある。 くにきかれたくないようなことをいろいろやった。どこへ行くとい それが特殊なのは、理屈に合わないからなんだ。そこで質問だが、 うわけでもなく旅に出て、気がつくと、・ほくの果樹園にいた」彼は 理性の放棄がな・せ生存機構につながるのだろう ? 」 器用な両手をひろげると、それらをふたたび膝の上に休めた。「パ 彼女は真剣に考えた。男の態度には、真剣な思考を相手に押しつ ニック。パジャマの少年が真夜中こわれた時計を持って立っている っこ 0 ける何かがあった。「想像もっかないわー彼女はつ、こ、 のも、この世にニセ医者の種がっきないのも、それが理由さ」仕事 「理性がはたらかなくなる状況というのがあるんじゃないかしら」 台の上でカチリと音がした。男はすばやく彼女に微笑を投げると仕 「きみは想像できるんだ」と男はいった。その声にある大いなる肯事にもどり、肩越しにこういった。「しかし、・ほくは = セ医者じゃ 定の響きは、彼女を赤面させた。「いま、きみは想像したんだ。きないぜ。 = セ医者なら、自分は医学博士だと宣言しているはずだ。 みの身に危険がせまり、理性をはたらかそうとしてはたらかないと ・ほくはそんなこと一言もいってない」 から

5. SFマガジン 1972年10月号

上にのっていた。彼女の姿はなかった。 するほかはあるまい、だがわたしのやり方でやるそ。この個性があ るために、木じしんが行なう説明も常に明解かっ論理的であり、 ( ほとんど微笑しているかのように ) 誤りを人に見せつけ、あのと 男は中庭に出て盆栽をながめ、考えにふけった。 早朝の日ざしが、水平にはえそろった上部の葉を黄金でまぶしたきもう少し深く理解していれば避けられたのだと人を後悔させるこ ともしばしばなのだ。 ように照らし、節くれだった年老いた幹を、粗い茶灰色とビロード のような隙間の対比によって鋭く浮彫りにしている。ただ盆栽の友これは世界でもっとも時間のかかる彫刻である。ときには彫刻さ だけがこの関係を真底から理解できるのた ( 盆栽の所有者というのれているのが人なのか木なのか、疑いさえ生じるほどだ。 もいるが、彼らは劣等種族だ ) 。盆栽となる木には、それそれ特有十分ぐらいだろうか、男はそこに立ち、上方の枝からこ・ほれおち の個性的な″木らしさ″がある。なぜなら木は生き物だからである金色の光をながめていたが、やがて彫刻がほどこされた木製の道 り、生き物は変化するが、その変化の方向は木によって明らかに異具箱のところへ行くと、ふたをあけ、うすよごれた細長い帆布をひ なるからだ。人間は木をながめ、自分のとらえたイメージを心のな つばりだした。そしてアトリウムにもどり、一枚のガラスの蝶番を かでさまざまに拡張し、外挿し、ついでそれを現前させようとすはずすと、幹の片側の根と地面の部分に帆布をひろげ、残りには風 をあてて水をやった。しばらく後ーーー一カ月か二カ月後には、てつ る。しかし木のほうにも能力の限界があり、できないこと、あるい はするのに時間がかかりすぎるようなことには、必死の抵抗を試みペんのどこかでこのヒントに気づく若枝が出てくるだろう。形成層 る。したがって盆栽の造形とは、常に妥協であり、常に協力であるを伝わる水分の不均衡な流れは、上に伸びようとする若枝の袖をひ のだ。盆栽を創りだすのは人ではないし、木でもない。人と木のふつばり、水平方向への成長を続けるように説得するに違いない。そ たつであって、両者はたがいに理解しあわねばならない。それにはれがうまくいかない場合には、締め具と針金にうったえるきびしい 長い時間が必要である。人は自分の・盆栽を、すべての小枝、枝の方方法がとられるかもしれない。だがそのときには枝のほうにも、上 向や分れ目の角度までことごとく記憶する。そして夜・ヘッドのなか方への成長に固執する言い分がでている可能性があるし、うまくす で、あるいは千マイル離れた土地での休息のひととき、あの枝ぶれば、人を説得できるかもしれない。いずれにしても、根気を要す り、この枝ぶりを思いえがき、計画をたてる。針金と水と光を使る、意味深い、得るところの大きい対話ではある。 「おはよう」 、傾けたり、水を吸う草や根を隠す厚・ほったい草を植えたりしな がら、人は木に自分の希望するところを説明する。説明が過不足な「おう、くそっ ! 男は大声をあげた。「舌を噛んじまったじゃな くなされ、両者のあいだに充分な理解が生まれれば、木は反応し、 いか。もう行っちゃったと思っていたよ」 命令に従うーーおおよそは。なぜなら木には、常に大いなる自尊心 「行きかけたわ」彼女はアトリウムを見ながら壁に背をもたせか 0 と個性がそなわっているからだ なるほど、きみのいうとおりにけ、影のなかにうずくまっていた。「でもそこで足がとまって、も

6. SFマガジン 1972年10月号

奴らは、いつもなら逃亡者を見つけだせるだろうが、耳のうしろの臍下丹田に力をいれ、腹ばいでスロープをくだっていった。 かって何度も歩きまわった場所である。どんな藪も岩も知ってい 2 骨に通報器をうめこまれていない人間はどうしようもない。私には 何もついていない。インディアンに紙幣の切れはしが見えないのとるーーーかってはそうだった。灌木は成長して大木となり、大部分の 岩はなくなっていた。だが、地形は変わっていない。私は尾根につ 同様、奴らにとって私は透明人間なのだ。 ル以東でもっともかわいい谷であった所を見 正午までに、私は三つ尾根をこえ、峡谷へとくたっていった。谷き、かってはカシミー は、最後に会ったあとで、結婚して六人の子供をもうけ、かかりつおろした。日が暮れようとしていた。十五メートル間隔に間引きさ けの精神科医もちゃんともつようになった飲み友達に会ったようれた木々が見えた。岩だらけのスロー。フが、三十メートルはある広 な、なっかしいような、なっかしくないような気分であった。木々場へと続いていた。そのむこうに、建物がかたま 0 て建っている。 とれも最後どの窓にも明かりがついていて、首つりのあった夜の監獄を思わせ は、昔より百年分大きくなっていたが、一方、木々は、・ に見た時と変わらなかった : 最後に見た時がいつだかしかとわからないのだが。 闇の中で無人地帯を横ぎる道を見つけるのに、三十分かかった。 かっては道たった砂利の帯をくだっていった。よく考え、左手に 進んでみた。十分で、マスキイ湖に至る側路を認めた。小道は、そ古い排水溝である。雑草がはびこっていた。照明にさらされている や、濶葉樹のりつばな森でびっしりふさがれていた。私はその中所では、深さが六十センチもなかった。地面にびったりはりつき、 にもぐりこみ、荒つばい一時間をすごし、細長い草地の端へでた。爪と爪先で進んでいった。一度に一インチである。こうして十五分 草地は、山が岩だらけになり始める所までひろがっていた。道の跡がたち、頭をふっとばされる危険のあった光の中からは、充分はな は、ここでははっきり見てとれた。森の縁に沿っていった。森はやれることができた。 今は、まっ暗闇であった。月はかくれていた。ヘリコ。フタ 1 が数 がて右にまがり、でこ・ほこの岩の間に入っていった。 一時間かか「て、尾根の頂きにでた。下り坂をたど 0 た。木々の機、頭上を軽やかに飛んでい 0 た。大きな巴が、数「 イル離れた所にやかましく降下してきた。だが、私のいるここで 間に光を見た。どうやら、マスキイ湖のあたりは、昔のおかしがた は、すべてが平穏であった。 い荒野ではなくなっているようである。 タ闇に輝く光を数えた。全部で八つあり、一つ先の高台に等間隔続く二時間は、光の輪の外のびっしり生えた下生えを通り抜ける に並んでいた。この光景にあっけにとられていると、赤や青の航行ことに費やされた。谷の西側の一かたまりの建物の他にも、東に、 灯をたくさんつけた黒く大きな物体が頭上を通りすぎて、尾根の向高い、明かりのついた窓がたくさんある建物が一つ建っていた。そ こうに飛んでいった。私の目指している場所は、空輸部隊の使用すれらをぐるっと塀がとりまいていた。囲い地の残りは、処女林のよ 私冫うであった。誰かが多大の困難を排して、森のこの部分に塀をたて る目印らしかった 私の見た仕事の様子では、軍隊らしい。ーよ こ 0

7. SFマガジン 1972年10月号

私が最初に彼女のもとに駆けつけた。身体をだきしめると、社医からの医学にかかっている。それまでの間は、彼女をいまのままに よ、つこ。付近にしておいてくれ。 を呼んだ。あの力はゴルフに行っていて、いオカナ は、他に適当な医者はいなかった。彼女は息をしていなかった。脈フレイジアが一番にわかってくれ、私の味方になった。彼はあの もうっていなかった。五分たち、彼女の脳が永遠に動かなくなった子を眼にいれてもいたくないほど可愛がっていたのだ。彼はみんな をとりおさめ、警官を追い払った。私は家に帰り、一年分の酒を次の のを知った・ : 一週間で飲みつくしてしまった。マリオンがどこにいるかは知らな 私にできることは、ただ一つだった。私たちのところには、ガラ ス器にいれた液体窒素があった。フレイジアに、彼女をその中に入かった。彼女をひどくなぐったといううわさがたったが、彼女のこ ー大タンクの上部をとりはずしてくれ、と命じとなど考えたこともなかった。子供のことだけを考えていたんだ。 れるから、レシー 感傷的な記事を書く婦人記者連中がそれを聞きこみ、新聞にのせ た。彼は私を説得しようとし、私は彼を叩きのめした。みんなは、 た。私は、殺人から死体遺棄までのあらゆる罪で起訴された。死体 私が気がふれたと思った。私は自分でとりはずし、戻ってきた。マ リオンは彼女をだいていて、離そうとはしなかった。私は無理にひは二日以内に埋葬せねばならないという法律やなんか、いろんなガ きはなさねばならなかった。彼女を部屋に運んで注射をし、包んラクタがあったのさ。 そう、私はそれを押しつぶした。彼女は地下にいる。研究棟は三 で、中に入れ、閉じ、発電機を動かし、ガラス板に霜がついていく ・五メートル地下にあるんだ。それに、彼女は息をしていなかった のを見つめた。一分とたたぬうちに、霜におおわれつくした。それ から、戻った。彼らは待っていた。銃を持っており、どこからかひっし、脈もうっていなかったといってくれる証人がいた。新聞は数カ 。はってきた警官も「人いた。素手で奴らを・ ( ラ・ ( ラにできただろう月私のことを書きたてたが、それもやんだ。 私は、事件が起こった部屋を壁で封じ込めた。二度と見たくなか が、どんなミスも許されないのも知っていた。彼女はそこにいる。 ったのだ。 凍って、絶対六度でそこにいる。だが、自分のやったことを承知し ていると、奴らに納得させなければ、まずいことになる。この時が新しいプロセスで、私たちは前進した。私が言ったとおりになっ ていった。絶対十度以下での食料の瞬間冷凍は、永遠に保ち、解凍 唯一のチャンスだった。 私は話した。冷静さをたもって、彼らに話した。子供は死んでおすれば、今朝とれたみたいに新鮮なのだった。葉ものでもレタスで り、私のしたことで、彼女がそれ以上死ぬということはない、私がもジャガイモでも、なんでもうまくいった。一年で、私たちは百の したままにしておくかぎり、彼女は現在のままでいられる、と話し特約店を持った。二年目、特約をやめ、四十二の郡に自分らの直売 た。彼女になんらかの損傷があった場合は、それはすでになされて店をもった。金はすべて研究にまわした。私たちは学べば学ぶほ しまったことだ。もし、なんの損傷もなかった場合ーーそうだ、など、すばやく学ぶようになった。仕事のことは少しも気にしなかっ 3 にもなかった場合は、彼女を生き返らせる手だては、いつに、これた。私が望んでいたのは、金と、医学を進歩させるだけの技術だっ

8. SFマガジン 1972年10月号

具でも、体のなかに狂った細胞の集団があるかどうか、もしあるな広い底部に板をのせた。 ら、それがどこにあり、どれくらい大きく、どれくらい狂っている「むかし、そんなふうなもの見たような気がするわ。わたしが ええと、ジュニア・ハイスクールにいたとき。人工的に稲妻を作り か、たちどころにわかる」針やビストンの圧力をすこしも変えるこ ともなく、彼は器用にケースにはいった注射器をべつの手に持ちか だすの : : : どうなってたかしら : : : そうだわ、二つの滑車に長いべ えた。たんなる痛みが傷に変るように、彼女は不快さを感じはじめルトがかかっていて、電線がたくさんはいまわってて、てつべんに がついているのか気になるん大きな銅の球があるの」 た。「注射器になぜこんな箱とコード だったら ( たぶん気にはしてないだろうけれど、きみもわかってる「ヴァン・ド・グラーフ起電機だろう」 ように、・ほくはただ、きみが余計なことを考えないようにこんな話「ええ、そうー・それでいろんな実験をするの。でも、わたしがい をしているんだよ ! ) 教えてあげよう。大したことじゃない。高周ちばんよく覚えているのは、そんな容器にのせた板の上に立たされ 波の交流をこのコードで送っているだけなんだ。この交流の電場て、体に電気を通されたこと。髪の毛がぜんぶ逆立ったけど、べっ は、液体を最初から磁気的に静電的に中性にするためのものさ」彼に何ということもなかったわ。みんな大笑い。まるでお化けなんで はさっと針を引き抜くと、彼女の腕を曲け、アルコールでしめしたすって。あとできいたら、四千ポルトとかいっていたわ」 よくお・ほえていたね。それなら話しやすい。といって 「ほう ! 脱脂綿をはさんだ。 も、これはちょっと違うんだ。実は、もうあと四千ポルトほど高い 「治療してくれて、そんなことをいう人に会ったの初めてだわ」 んだよ」 「なんだって ? 」 / ー・チャージ 「まあ ! 」 ということ」 「無料 ( 「電荷がな、い」の意味 ) 。きみが絶縁されていて、地面に接触している ふたたびあの肯定の波動。今度のそれは言葉をともなっていた。 「心配しなくてい 「きみのそういう言いかた、好きだね。どうだ、気分は ? 」 物体ーーたとえば、・ほくなんかーーーが近くになければ、火花はおこ 彼女は正しい言いまわしをさがした。「強度のヒステリー症の人らないんだから」 が、今のところはおさまっているのにいっ再発するかもしれないと「そんな起電機を使うわけ ? 」 「そういうのじゃない。それに、もう使ってるんだ。きみが起電機 びくびくしているみたいだわ」 なんだよ」 男は笑った。「もうすぐ、おかしな気分になってくる。そうなっ たらヒステリーなんておこしている暇はないと思うよ」男は立ちあ「わたしがーーおお ! 」彼女が革張りの椅子の腕から手をはなした とたん、パチパチと火花がとび、オゾンのにおいがかすかに部屋に がるとコ 1 ドを巻きながら仕事台のところへ行き、注射器をおい た。そして電気のスイッチを切り、大きなガラス容器と四角い合板ただよった。 「ということさ、いや、ぼくが考えていた以上だ。帯電も早い。ほ を持ってもどった。彼は容器を彼女のそばの床に伏せて置き、その ー 03

9. SFマガジン 1972年10月号

ようだ。それでも、その分野で訓練をつんだ人なら、別の説明を与 に、かれは星に耳をすますことを話さなければいけなかったのだ。 もっとよく物事をわきまえているべきだったんだと、かれは自分えてくれるかもしれないのだ。 に言いきかせた。かれは話をおさえておくべきだった。だがあの人 かれは椅子をテープルから引いて、ストー・フのそばへ歩いていっ は、疑いながらも、笑いとばすことなく耳を傾けてくれ、それに感た。かれはぐらぐらの古い料理用ストー・フの蓋を上げた。中の木は 謝するあまりにダニエルズは多くをしゃべりすぎてしまったのだ。 おきになっていた。かがみこむとかれは薪の箱から木を取って中に びったりはまっていない窓のすきまから吹きこんだ風で、台所に入れ、もうひとっ短いのをたしてから蓋をしめた。そのうち、もっ おいてある石油ラン。フの芯がゆれた。仕事をすませたあと風が吹きと使いやすいストー。フを手に入れなければいけないな、とかれは思 っこ 0 はしめ、いまは嵐のようになって家をゆるがせていた。部屋の隅に ある木を燃やすストープは床に心をあたためる光をちらっかせてお かれは外に出て、ポーチに立ち、川のむこうの丘を眺めた。風は り、ストー。フのパイプは、煙突の上に吹く風にあわせて、風を吸い 北から吹きすさび、家の角をまわって口笛のような音をたて、川へ こむ音をたてていた。 落ちこんでいる深い谷間に大きく鳴っていたが、空は澄んでいたー ソーンが精神病医のことを言っていたのをダニエルズは思いだしー風に吹き洗われて、冷たく澄み、星々がきらめき、その光は吹き た。かれが会いに行くべき相手はそんな種類の人だったのかもしれまくる空気の中でふるえていた。 ないのだ。かれが見たり聞いたりできることについてだれかに関心 星々を見あげたかれは、かれらが何を言っているだろうと考えて を持たせようとする前に、かれはな。せそれらのものを見たり聞いたみたが、耳を澄ましてみようとはしなかった。星々の声を聞くのに りできるのかを知る努力をするべきだったのかもしれない。脳と心は、たいへんな努力と集中力を必要とするのだ。かれが最初に星々 の働きを研究している男なら、新しい解答を出してくれたかもしれの言葉を聞いたのは、こんな夜、ポーチに立っていたときで、星は もし解答が得られるものなれば。 何か言っているのだろうか、星々はおたがいどうしで話をしている 頭部をひどく打ったために、脳のプロセスが組み変えられ、新しのたろうかと考えてみたときだった。馬鹿げた、とりとめのない考 い能力ができたのだろうか ? 脳がひどくゆすぶられたことで、進えであり、とんでもない、白昼夢のような考えたったが、それを口 化という手段でふつうのこととなるためには千年もの先になってやにしながらもかれは耳を澄ましてみた。そうしながらも、馬鹿げた ってくるかもしれない潜在的な能力が現われる羽目になったのだろことだとはわかっていたが、かれは自分の馬鹿さかげんを輝かしい うか ? 脳の損傷が進化の歳月をショートさせ、かれに かれだものに思い、星に耳を澄ましてみるといった純粋なことができるの けに この能力、この感覚を、百万年も早く与えてくれたのだろは、なんとうれしいことだろうーーー子供がサンタクロースや復活祭 、つカ ? ・ の兎を信じるようなものだ、と自分の心に言い聞かせたものだっ 7 それがどうもーー合理的とは言えないまでも、考えられる説明のた。かれは耳を澄まし、かれは聞き、そのことに驚きながらも、疑

10. SFマガジン 1972年10月号

「ちょっと待った」 しこみ、スキャナーを攪乱するためにミンカがつけてくれたプラ あまり速すぎぬよう身体をまわした。灰色の制服の男が二人、近スチックのボタンをはぎとり、床になげすてた。それから、コン づいてくるところであった。一人が言った。「移動コントロール トロールを自動に切りかえ、外にとびだした。車は手すりから離れ だ」もう一人が、「こっちへ来いーこいつらには「お願いします」て、二つの車輪を道路の金属帯にかけ、向きをかえると、中央のレ とか「ありがとうーといった言葉はないとみえる。 ーンにでて、スビードをあけ、しだいに大きな音をたてて空車で走 私は車をまわってもとに戻り、示された所に立った。左側の男がり去った。緊急時の最高スピードにコントロールしておいたのだ。 私の横をすりぬけた。私は二人の間へ入ったわけだ。こいつの相棒私はガードレールを越え、爪先で足がかりを捜しながら、おり始め からは一メートルばかり離れている。私はこぶしを握りしめ、こい つの腹をなぐりつけ、灰色の上衣の前をつかんで、振り回した。も太陽が昇って一時間たった頃には、自動車道の五マイル北にい う一人が音を聞きつけ、尻に手をやった。彼の友人を投げつけ、喉た。北西の高地に向かって湿地帯を進んでいた。かって私が猟をし に一発くらわせ、車に跳びこんだ。大きな赤いボタンを勢いよく押た頃には、農業地帯と植林地帯であった所は、時の流れで大きく変 した。車輪が金切り声をあげ、私は出発した。 わってしまっていた。今、そこは、原生林の様相を呈していた。裾 野には、ならとにれとかえでが一・五メートルごとに植えられ、 ままでに見たことのない木も一本あった。先細りのなめらかな樹皮 の針葉樹で、たぶん旅行者が道端に落とした塩づけの木の実から生 最初の一時間、緊張して運転した。サイレンとか、このすばらしえたのであろう。この年も、もうじき終わりであった。温度から想 い新世界でそれに代わって考えつくあらゆる代物に耳を傾けてい像するよりも、おしせまっていた。葉はすでに紅葉し、秋の匂いが た。それから、少しは気が楽になることを考えついた。これは自働大気にたちこめていた。 道路である。おまわりたちは、自分らの管理しているどの車につい 長いこと前進した。だが、道もこのあたりは楽であった。太陽で ても、その位置を正確に知る手だてを持っているであろう。だが、進路をきめ、私が通ってきた道路の右側から離れつづけた。ステー 私は手動にしている。多くの車の中にまぎれこんでいる限り、私をション・ワゴンにうちのって、この国中を旅行するという、国民全 見つけだすことはできないのであるーーたぶん。 体の情熱は、とうとう下火になったらしい。人々はその巣箱にとど 時速二百マイルで五時間車を走らせた。ダッシポードのスクリまって、押せば生活必需品のでてくるボタンといっしょにいるか、 1 ンにひろげられた小さな地図には〈チャゴ〉とあるぶざまな光の空中や全国にはりめぐらされたチ = ー・フを通って旅行するのであ ひろがりの北約百マイルの地点で、私は、く ノラ色の螢光塗料で書かる。空高くに飛行機雲を何度か見たし、一度などは、一マイルばか れた大きな矢印のついた駐車場に入った。上着の左の袖口に手をさり先を、こずえの高さでヘリコプターが進んでいくのを眼にした。 オート こ 0 2