っこ 0 た。その趣旨はこうである。周囲の諸国家とその統治者たちーーた 「生魚より燻製のほうが好きなのかね ? 」 とえば《矮人王たち》とか、《エルヴァー州国》の権力者など 「いや、そういうわけじゃない」男はきつばり言った。「しかし、 が、統治を受けない《北の国》の自由な状態を羨望して、ここに軍 こうしておけば保存がきくが、生魚はそうはいかんからな。おまえ隊やスパイを派遣したり、その他の攻撃をしかけることに決めた。 さん、あきめくらかね ? あっち側の泥が乾あがってるのが見えなそれによって一個の支配体制を確立し、《北の国》ならびにその住 いか ? そこからこっち側も。おれはな、ここに水があるうちに、民たちに君臨するのが目的である。この極悪非道な企みを耳にした とれるだけ魚をとっておこうとしてるのさ。もすこし経っと水が完《自由砲手団》は、しかし、自発的に、一千本の剣にまさる武器、 全に乾あがって、つぎに雨が降るまで一匹もとれなくなるからな」すなわち、大砲《どんがらがん》をもって立ちあがり、《北の国》 マリアンは、なぜいままでこれに気づかなかったのだろうといぶの防衛にあたることを決意した。以上の趣旨を、ゼン・ハック・。ヒッ かった。「ありがとうよ、おっさん」かれは心から礼を述べた。 クスはいたるところをめぐりあるいて触れまわり、徐々にマルやモ 「そこで親切っいでにもうひとっ教えてくれないか、このあたりでグ一行に追いついて、最後に、とある脱穀場にキャンプを張った一 は、『あばよ』のかわりになんと言うのか」 行に合流した。 男は水のなかをのそきこんだ。「『ふむ』と言うのさ」 「触れまわったか ? 」 マルは嘆息した。「ふむ」 「はい、たしかに、殿様」 「ふむ」漁師は言った。そしてへそを掻き、また小魚を突くことに 「で、どんな反応があった ? 」 もどった。 薬種商は躊躇するそぶりを見せた。「大部分は、顔色ひとっ変え つぎの町を通りかかったとき、マルは荷馬車を曳いてきた男にたず、『ふむ』と言ったきり、なにも言わない連中ばかりでございま ずねた。 したな」 「このあたりは、だれが治めているのかね ? 」 マルは考えこんだ。それから顔をあげた。「大部分は、と言った 「だれも治めていないし、だれにも治めてもらいたくないな。《北 の国》には統治者なるものはいないのさ、まったくね」 「はい、さようで、殿様。ひとりだけ例外がございました。麦芽酒 「なるほど。ありがとう。ふむ」マルは言った。 を商っている酒場の主人でしてなーーー」ここでゼン・ハック・ビック 「ふむ」荷馬車の男は言った。 スはそっとくちびるをなめ、かすかな思い出し笑いを浮か・ヘた 「こざかしい、訳知りぶったやつでして、こんなことを申すのでご 自分は最後まで大砲に付き添うことにして、かわりにマルはゼンざいますよ。《北の国》はだれにも支配されていない、したがっ ・ハック・ピックスをひとり先にやり、周辺の土地に触れまわらせて、かくかくしかじかでなくないものは、かくかくしかじかである 228
ではね」 指先までつつんだ、ディ日グロー ( らされると螢光を発する塗料。サイケデリ ックな効果を出す 「たとえあなたが、わたしの臣民を好きになれなくても、彼ら ) のロープを着ている。きみはママの眼のふしぎな輝 ために用いられる きに気づく。ひとりでダンスをしたり、誰も聞いていないのにひと を指揮してくれますか ? 」 りで話しているときなんかに、きみがママの眼のなかに見るのと同 「もちろん、彼らが受けいれてくれさえすれば。しかし、きみ じ光た。 は何かを隠している。それを話してほしいな」 「あなたはわたしを見て、自分と同じ種族に属する女と思った大きな魚に似せた帽子をかぶり、銀色のドレスをきらめかせて歩 いているのは、ジュリーおばさん。本職そのまま医師のコートを でしよう」彼らはふたたびジャングルにはいっていた。獣人は しんがりをつとめながら、しぶしぶ二人のあとをついてくる。着、聴診器を首にかけ、ひたいに丸い鏡をつけているのは・フラック 「きみほど美しい女性はめったにいないけれど、そう思ったこ博士。黒い制服に身をつつみ、海賊の帽子をかぶり、鞭を手に立っ とはたしかた」 ているのはジェースン。大テー・フルには、。ハンチボウル、ケーキ、 「それたからこそ、わたしは大司祭として臣民からあがめられサンドウィッチ、温めたビーン・ソース。ジ。フシーが立ち話をはじ ているのです。わたしのなかには、古代の血がけがれのないまめたのを見すまして、きみはケーキをかすめとるとテー・フルの下に ま流れています。けれども、わたしの臣民のすべてがそうだともぐりこむ。 はいえません」彼女の声はいっしかささやきになっていた。 音楽が流れ、踊る足が何本か見える。きみは長いあいだそこにす 「木が年老い、それでも生長を続けていると、みにくくねじまわっている。 がった枝が目につきはじめます。わたしの言う意味がわかりま やがて男の足と女の足がダンスをしながらテー・フルに近づき、と すか ? 」 っぜんきみの眼の前に笑い顔が現われるー・ーランサム船長だ。「こ んなところで何をしてるんだ、タック ? みんなの仲間にはいらな いか ? 」おとなになるかわりに小さな子供になったように感じなが 「タッキ ー ? タッキーそこにいるの ? 」 ら、きみはテープルの下からはいだす。けれども立ちあがったとた 「う、うん」きみはセ 1 ターの下に本を隠す。 「さあ、ドアをあけなさい。部屋に鍵をかけるなんて、わるい子のん、きみはおとなになっている。ランサム船長は、漂流者の扮装。 することですよ。お客さまたちに会いたくないの ? 」きみはドアを・ほろぼろのシャツを着、膝から下のないズボンをはいているが、ど あける。かつらをかぶったジプシー姿のメイおばさんがそこにいちらもクリーニング済みで、シャツは糊づけされている。木の実と る。顔に乱れかかった長い髪、眼だけを隠したマスク。 貝がらをつなぎあわせた首飾りをかけ、片手で若い女を抱いてい 車がつぎつぎと家の前にとまる音。玄関に立ち、はいってくる客る。彼女は宝石のほかには一糸もまとっていない。 みんな話しかけているのはママ。胸元を深くあけ、肩のあたりから「タック、こちらは〈遠い目〉のタラーだ」 5 9
ウザーの耳に、早ロの叱りつけるような声が聞こえてきた。そしを握りしめて、いくらか苦しそうにびよんびよんと階段を昇った。 て、ほかの物音も。 二階は一階とおなじ作りだったが、あちらが殺風景だったのとは ふたりはいくつかの戸口を通りすぎた。中にはゆっくり見物して逆に、贅を凝らしてあった。長い通廊には、角灯と銀細工の香壺が いきたいものもあったが、せいぜいすこし歩をゆるめるぐらいの危天井から交互に垂れさがり、柔らかな明りとびりつとした芳香をま 険しか冒せなかった。 き散らしていた。壁は美しい垂れ布で覆われ、床には厚い絨毯が敷 そこではたいそう興味深いことが行なわれていた。ある部屋できつめてある。しかし、この廊下にも人影がなく、その上、まった は、少年たちが財布を掏りとったり、巾着を切ったりする訓練を受く静まりかえっていた。ふたりは顏を見合わせてから、大胆に歩を けていた。生徒は教師の背後からそっと近づく。そして、もし裸足踏み出した。 の足音がきこえたり、突っこんた手を感づかれたりーーあるいは、 最初の戸口は開けはなしにされており、無人の部屋には棚いつば 最悪の場合、鉛の模擬貨幣がちやりんと音を立てて落ちたりすると いに、派手なのから質素なのまで、しみ一つないのからむさくるし その少年はさっそく鞭で打たれるのだ。 いのまで、各種の衣服がとり揃えてあった。かつら掛けや、付けひ 第二の部屋では、学究的な老盗賊たちが、錠前の開け方の研究にげの棚もあった。どうやら変装室らしい。 ふけっていた。また、そこでは油たらけの手をした老人が、一団の マウザーは部屋の中に駆けこみ、もよりの卓上から大きな緑色の 生徒の前で講義しており、老人は複雑きわまりない錠前をばらばら壺をさら 0 てきた。栓をと 0 て匂いを嗅いでみる。山梔子の甘った に分解してみせていた。 るい香りと、ワインのつんと鼻にくる酒精分とが、互いに張りあっ 第三の部屋では、盗賊たちが長いテープルをはさんで食事してい ていた。マウザーはこの得体のしれぬ香水を、自分とフアファード た。堪能するほど酒のはいったふたりでさえ、食欲をそそられる匂の着衣の胸に気前よくふりかけた。 いだった。〈結社〉はその会員をひどく優遇しているらしい。 「糞臭の解毒剤じゃ」医者気取りの口調で説明すると、壺に栓をし こ 0 第四の部屋は、床の一部に詰物が入れられ、身のかわし方、とん 「クローヴァスに釜茹でにされとうはないからな。くわばら、 ばがえり、足のひっかけ方、その他、追跡を逃れる各種の方法がそくわばら ! 」 こで伝授されていた。下士官そっくりな胴間声がひびいた。 「だめ廊下の奥にふたつの人影が現われ、こちらへ近づいてきた。マウ だ、だめだ、だめだ ! そんなことでは、びつこの婆さんからも逃ザーは壺をマントの下へ隠し、肱と脇腹のあいだでそれを支えた。 げきれんぞ。おれは身をかがめろとい 0 たんだ。聖なるアルスにひそして、フアファードと並んで、大胆に歩きつづけた。 ざまずけとは言っておらん。さあ、こんどはーー」 つぎの三つの戸口は頑丈なドアが閉まっており、ふたりはそのま このときには、マウザ 1 とフアファードは突当りの階段を半ばまま通りすぎた。第五の戸口に近づくころには、むこうから腕を組ん で上がっていた。フアファードは、カープした手すりと包帯した剣でやってくる人影も、はっきり見分けがつくようになった。服装だ
この眼帯はガーゼだから、結構むこうが透けて見える。それもあるようだ。 に、〈盗賊の館〉の中の連中に、おれが正真正銘の盲だと信じこま「ウザー、ふたりとも剣を包んだままなのが、おれには気にいら せる必要もない。知ってのとおり、〈組合〉の乞食どもは、たいがんな。万一のときに、これではすぐに抜けんそ」 いにせ盲たからな。さて、おぬしをどうしたものか ? ふたりとも「棍棒にして使うことはできる」ウザーはそう言い返し、歯を食 盲はまずいだろうーーどうも出来すぎていて、疑惑を招くおそれが いしばりながら最後の結び目を堅く締めた。「それに、短剣がある ある」マウザーは酒瓶の栓を抜き、霊感を吸いこんだ。フアファー しゃなしか。そうだ、ベルトをぐるりと回して、短剣が背中へくる ドも主義にのっとり、それにならった。 ようにしろ。そうすれば、ロー・フでうまく隠れる。おれも〈猫の マウザーは舌づつみを打ってからいった。 爪〉をそうしておくよ。乞食は、すくなくとも人の目につく武器を 「思いついたそ ! フアファード、右脚だけで立って、左の膝を思持ち歩かんものだ。もう酒はそのぐらいにしておけ。おれも、あと いきり曲けてくれ。しつかりしろー おれの上へ倒れてくるな ! 二口かそこらで調子が出るところだから」 どけったら ! おれの肩をつつかい棒にするんだ。そうそう。さ「それに、あの悪党どもの巣の中へ一本足ではいっていくのも、気 あ、左の足をもっと上へ上けて。おまえの剣も、おれのとおなじよが進まんな。びよんびよん跳ねてもおれはかなり早く動けるが、と うに包帯を巻いて、松葉杖に仕立てようーおれのより太いから、 ても二本足で走るようにはいかん。おぬしは本当にこれを賢明なや ちょうどそれらしく見えるはずだ。そうして、もう片手をおれの肩り方と思うのか ? 」 にかけ、一本足でびよんびよん歩くーーびつこが盲を案内するの図「いざというときはすぐに繩を切れる」マウザーはじれったそう だな。ところで、その左足はもっと上がらんのかー だめだ、どうに、ロをとがらせて答えた。「芸術のためにすこしぐらいの不便を もうまくいかん・ーー繩で縛るしかなさそうだ。待て、その前に剣を忍ぶという気はないのか ? 」 はずせ」 「ああ、わかったよ」フアファードは残った酒を飲みほし、瓶をか まもなくマウザーは、〈火色杖〉とその鞘を〈外科刀〉とおなじ たわらに投け捨てていった。「もちろん、その気はある」 やりかたで巻きおわり、そしてフアファードの左足を太腿にくつつ 「どうも血色がよすぎるな」マウザーは彼をじろじろと眺めながら けて繩をかけ、遠慮会釈ないカで縛りつけた。もっとも、ワインで いった。それから、フアファードの顔と腕に天青色の顔料を塗りつ 眠らされたフアファードの神経には、ほとんどその痛さもこたえなけ、その上に黒く皺を描いた。「それに、服装も整っていすぎる」 かった。マウザーの仕上げた鋼鉄芯入りの松葉杖で体の平均をとる彼は道路の丸石のあいだから泥をつかみとって、フアファードのロ と、フアファードは酒瓶をらつば飲みに呻り、じっと思案にふけっ ープにそれをなすくり、それから破れを作ろうとしたが、布地はな かなか裂けなかった。マウザーは肩をすくめ、中味の軽くなった袋 たしかに巧妙といえるマウザーの計画だったが、いくつかの欠陥をベルトの下へ押しこんだ。 2 6
石灰岩の大台地に隆起が一つ、一本の煙突岩が、それより時代のしかし、現地で昼も夜も暮してみないと、発掘の感じはつかめない 新しい小山へいまにも寄りかかりそうにして立っていた。この煙突というのが、テレンス・・ハ ードックの持論だった。 はいわゆるドーソン砂岩で形づくられており、そこに堅い貝殻が散その五人というのは、テレンス・・ ( ードックとその妻のェシル、 りばめられていた。クロウ・クリークとグリーン川に沿った低地のロ・ ダービー、そしてハワード・スタインリー サー、以上四 中で、氷河時代と沖積世、これらの川が ( いまの五倍も ) 大きな川人の容姿端麗人格円満な人びとと、あとのひとり、マグダリーン・ であった時代に、作り出されたものだった。 モ・フリー。マグダリーンは容姿端麗でも、人格円満でもない。しか この煙突岩は、人類よりもわずかばかり年老い、草よりもわずかし、彼女には電撃的な魅力があった。彼女は一種特別だった。キャ ばかり年若かった。その累層よ、、 をしったん押し上げられてからまた ンプを張ったあと、まだ日のあるうちに、五人は遣跡のまわりを歩 浸食されて、この種の石柱に見られるように、堅い部分だけが残っきまわった。五人とも、その地層を前に見たことがあって、そのと たのである。 きから有望だと見当をつけていたのである。 煙突岩が、それより新しく生まれた小山に半ば寄りかかろうとし「あの壊れた煙突岩の真中を走っている奇妙な縦溝は、まるでコア ている場所へ、五人の調査隊がやってきた。この人びとは、地下深・サンプルみたいじゃないか」テレンス・・ハー くの石灰岩層には関心がないーーー彼らは地質学者ではなかった。こ 「しかも、ほかの部分とは全然ちがう。まるで、上から下まで落雷 の人びとは、時代の新しい小山 ( それは人間の手で作られたものだが突き抜けたみたいだ。われわれのために、内部を露出してくれた った ) に大いに関心があり、煙突岩にもいくらか関心がある・ー彼わけさ。当方としては、あの煙突岩をすっかり横へどけてしまいた らは考古学者だった。 いね。あれが塚にできた絶好の割れ目を隠しているし、われわれが ここでは時間が積み重なり、線の連続ではなく、被覆や堆積となほんとうに関心のあるのは、塚のほうだから。しかし、さしあたっ って膨れ出していた。そして、ここには縞や帯になった時間もあては、あの煙突岩から調査をはじめよう。いかにも調査してくださ いという恰好じゃないか」 り、それらはいったん高く成長したのち、割られ砕かれているのだ 「あら、あの煙突の中にあるものなら、なんでもあたしが教えてあ 五人の調査隊は昼過ぎにこの遺跡に着き、作業用トレーラ 1 を乾げるわよ」マグダリーンが不機嫌にいった。「それから塚の中にあ 上がった小川の川床へと引きこんだ。彼らはたくさんの荷物をおろるものも」 し、そこにキャンプを張った。ほんとうは、ここでキャンプを張る「あそこでなにが見つかるか、もうあなたにわかっているのなら、 までのことはない。ハイウェイで二マイル先に、設備のいいモーテわざわざ掘ってみるまでもなさそうね」ェシルがからかった。 ルがあり、すぐ上の山腹にも道路がつうじている。そうするつもり「あたしもそう思う」 - マグダリーンは呟いた。「でも、だれかに見 9 なら、毎朝たった五分のドライ・フでここへやってこれるのである。 せる証拠や出土品が必要なんでしよ。証拠や出土品がなくちゃ、助
って、それを呼ばれれば喜んで返事するであろう、その名とは、 とりつけられた、この巨大な筒を鋳造することもできないだろう し。いまにも口 《カナラス国》世襲領主たる太公ヘイズリップの子、マリアンであし、砲尾をこのように飾りたてることも考えだせま、 る。「しかし目下はおれ、食事中でね」と、かれは言った。そして笛を吹きたしそうにくちびるをすぼめた、あごひげのある男の顔を 眉をあげてみせると、また黙々と食べものを阻嚼する作業にもどっ かたどった飾り。また、その巨大な筒のべつの一端を飾っている、 それよりももっと装飾的な、じつのところいくらか恐ろしげな顔。 大声で絶叫しているかのように口をくわっとあけてーーそのロはい まは沈黙している。が、そのように大口をあけたところは、まるで 大砲組一味の徴発した食料は、一片もあまさず食いつくされ、 まかれらは思いおもいにあたりに陣どって、、・ しひきをかいたり、身脅すようで、沈黙どころではない : 沈黙どころではない、というのは、、 しま現在の大砲組の面々にも 体を掻いたり、あるいはただ漫然と周囲を見まわしたりしていた。 マルは、かれを注視することをかれらのだれもが思いっかないうちあてはまることだった。かれらの混乱ぶりは、蟻塚のそれよりも、 に、すぐ間近まで接近していた。さらに、だれもかれにそうさせて鶏の群がぎゃあぎゃあ奐きながら駆けまわっている鶏小屋のそれだ った。連続して三度、マリアンはかれらのひとりに正面衝突された はならぬということを考えっかぬうちに、・ すいとかれらの輪のなか に踏みこんでいた。けれども、じっさいに懸念らしきものが明確なが、ぶつかったほうの狼狽ぶりからして、ぶつかることがかれらの 形をとりはじめたのは、かれがその無恰好な機械のまわりをめぐり目的ではなかったことは確かだった。 わやわやと駆けまわりながら、かれらはしきりに叫びたて、奐き だすのを見てからたった。間近で見る《どんがらがん》の眺めは、 間近で見る大砲組一味の眺めが誘発する一連の考えをすら忘れさせ声をあげていたが、そのうちマリアンの耳にも、それらがおなじ言 るほど、興味あるものであることが判明した。周囲にずらりと並ん葉を発しているらしいのがわかってきた。言葉が聞きとれたという でいるのは、それぞれ異なる不潔さの度合を示す、おなじ白痴に近だけで、依然としてかれには無意味だったが、それは前にも一度聞 い顔だった。おなじ汚れた乱杭歯と、おなじ淡い色の蓬髪、そして いたことがある言葉だった : ・ : ただし今度は問いかけではなく、助 おなじ小さな、うつろな、淡い水色の目 いったいこれはなにをけを求める訴えではあったが。「キャビン・モグ ! キャビン・モ 意味するものだろう ? グ ! キャ。ヒン・モグ ! 」かれらはそう叫んでいるのだった。 いまこの《どんがらがん》を護衛している低能の大砲組一味が、 このあいたにも、ひきつづきマルは巡回と踏査を続行していた。 そもそも最初にこれを建造したものたちと同一人物だとは、まず考砲車には大きな箱が数個とりつけてあったが、「箱には鍵がかかって えられない。かれらには、これらの巨大な、頑丈な車輪、鉄で補強 いた。もっと間近に寄って綿密に観察しようとしたとき、だれかが したうえに、幅広い鉄のタイヤをはめたがっしりした木製の車輪す耳もとで怒号を発し、と同時に、肩甲骨のあいだになにかがぶつか ら、造ることは不可能だろう。さらに、各種のけものや怪物の像が った。マルはすばやく一歩脇へ寄ってから、くるりとふりむいた こ 0 幻 3
鵡やそのたぐいのロ真似鳥は別としてだが、あれはただの : : : ロ真た彼女の真剣そのものの夢のことを語って聞かせた。 似たからな。 フアファ 1 ドの物語のあいだに、酒倉から四本の酒瓶が届けられ 5 、そこの亭主、おれの注文した酒瓶はまだか ? 酒倉へ下たが、マウザーはそれには構わず、ふたりの陶器の碗にお代りを注 りたあの男、もう何日も前に鼠に食われたのかもしれんぞ。それとがせた。 も、酒倉へ行きつくまでに飢え死にしたか。やつを急がせろ ! そ フアファードは話をつづけた。「というわけで、〈寒い辺地〉の れから、おれたちにお代りだ ! 南のほとりで育った世間知らずの若者が、恋に盲いて結んだ約束の ランクマ いや、フアファ 1 ド、よしんばあの獣が、直接あるいは間接にク結果、しらふに返ったおれはーーまあ、いまは別だが ローヴァスの手先だとしても、また、あの乱闘のあと〈盗賊の館〉 ールの君主にも劣らぬ強大な権力に、つねに挑戦を強いられている へ駆けもどったとしても、それでやつらにいったいなにがわかる ? 自分を見出したわけだ。おぬしも知っての通り、〈結社〉はこの国 せいぜい、ジェンガンからの盗みが失敗に帰したことぐらいじゃよ オの都という都、町という町に、その支部を持っている。おれはヴラ いか」 ナが大好きだし、彼女自身も腕のいい盗賊だが、この一点に関する フアファードは眉を寄せて、まだ強情に呟いた。「しかし、あのかぎり、彼女の頭の中は狂っている。それは、道理でも説得でもほ こそこそした毛むくじゃらな生き物なら、〈結社〉の首領におれた ぐすことのできぬ、堅い結び目なのだ」 ちの人相を伝えるぐらいはやりかねんそ。へたをすると、やつらは 「たしかに〈結社〉をじかに襲うなどは、狂気の沙汰だそ。おぬし おれたちの手がかりをつかみ、跡を追って、こっちの宿をおそってのいう通りだ」マウザーは感想を述べた。「もし、おぬしがあの美 くるかもしれん」 女の抱いているその気違いじみた考えを、打ち破ることも、思いと 「なあ、親友よ」マウザーは彼をあやすようにいった。「気にさわどまらせることもできんのなら、とにかくそれに関する彼女のどん ったら勘弁してほしいが、おぬし、この酒ですこし頭をやられたんな頼みも、断平として断わるべきだな」 しゃなしかい ? もし〈結社〉がおれたちの人相や宿を聞き出せる「おれもそう思う」フアファードは確信と強調をこめていった。 ぐらいなら、もう幾日も、いや、幾週も幾月も前に、おれたちの首「〈結社〉に刃向かうなどは、阿呆のやることだ。もちろん、やっ を狙っているはずだぜ。まだ知らんなら教えるが、繩張り荒らしにらに捕えられでもしたら、もちろんおれは自由営業と横取りの廉で 対するやつらの処罰は、拷問のあとの死刑、決してそれ以下という殺されるに決まっている。といって、いわれもなく〈結社〉へじか ことはない。もっとも、そうできればの話だがな」 に刃向かい、必要もなしに〈結社〉の盗賊を殺すというのはーーそ 「知っているとも。それに、おれの場合は、おぬしよりもう一段始れこそ狂気の沙汰だ ! 」 末に悪いのだ」フアファードはそう答え、マウザーに絶対他言せぬ「そんなことをしてみろ、おぬしは酔いどれのたわけですむどころ よう誓わせてから、〈結社〉に対するヴラナの恨みと、復讐に賭けか、三日たたぬうちに、あの万病の王である死に犯されて悪臭を放
・せんたいを浸したかに思える深い静寂の中で、三つの死体を前に立は一言も言葉を交わさす、だが、おのおのの意図と目的と友情がい ちつくしているおのれを見出した。蒸溜瓶の中味さえ、動きをやめよいよ強く結ばれ合うのを感じながら、肩を落とし、のろい足どり て固まりはじめ、そしてテー・フルの厚板ももはや燻ってはいなかつでと・ほとぼと帰路についた。魔法室を出て、厚い敷物に覆われた廊 下を歩き、いまや樫と鉄で閉鎖された地図室の大扉を、そして他の ふたりの狂気は消え去り、あれほどの激怒もまたーーその最後のすべての閉ざされ、静まりかえった戸口を通りすぎ、反響する階段 赤い徴粒子にいたるまで捌け口を与えられ、飽きるほど満ちたりてを降りていくうちに、ふたりの足どりは心持ち早まってきた。床を 消え去った。ふたりはもはやクローヴァスやその他の盗賊に対 ( むきだしにした一階の廊下よ、、、 。し力にふたりが足を忍ばせても、大 して、蠅を叩くほどの殺戮欲も持っていなかった。さむざむとしたきな反響を返した。こそとも物音のしないいくつかの戸口を通りす 内部の目で、フアファードは、おのれが狂おしい怒りにまかせて刺ぎ、見捨てられた監視用の入込みの下をくぐる。そして、〈三文通 し殺したあの少年の憐れな顔を想いおこしていた。 り〉へ出ると、すぐ左に折れ、北にむかった これが〈神々の大 ただ、ふたりの悲嘆だけは、寸毫も癒されることなく、むしろま路〉への一番の近道なのだ。そして大路までくると、こんどは右へ この広々とした街路には、溝の中や、そこかしこ すます強まるばかりだった。そしてもう一つ、それよりさらに速や折れて、東へ かな強まりかたを見せているのは、彼らの周囲のあらゆるもの の暗い柱廊玄関の下に高鼾でごろ寝している人影こそ多いけれど も、目ざめているものといえば、、 三つの死体、乱雑にひっくりかえった魔法室、〈盗賊の館〉ぜんた しまや東に拡がりはじめたお・ほろ 、そして、そのむさくるしい最後の裏路地までを含めたランクマ な桃色の光のなか、背をまるめて居酒屋の前の舗石を物憂げに掃除 1 ルの都そのものーーーに対する嫌悪であった。 している、ひとりの年若い雇人の姿があるばかり。そう、右へ折れ うんざりした吐息を歯のあいだからもらして、マウザーは鼠の死て〈神々の大路〉を東へ。その行く手には〈沼の門〉があり、そこ 骸から〈外科刀〉をひきぬき、手近な布で血を拭ってから鞘におさか らは〈塩水の大沼〉を横切る〈堤の街道〉がはじまる。その〈沼 めた。フアファードもおなじように、そそくさと〈灰色杖〉を拭きの門〉こそ、いまやふたりにとってなによりも忌わしい思い出とな 清め、鞘にもどした。それからふたりは、網が消失したあとの床に ったこの華やかな都を出る。一番の早道なのだ。ランクマール おもて 落ちた、めいめいの短剣を拾い上げたが、まだ突き刺さったままのあえて面を交わしえぬ、愛しい亡霊の棲む都。鉛のように重い心臓 ヴラナの短刀には、どちらも目を向けなかった。しかし、妖術師のが鼓動を一つ疼かせるあいださえも、もはやふたりはそこに留まり たくない気持だった。 テープルの上に、ヴラナの銀の縫取りをした黒ビロードの財布と、 イヴリアンの銀の象嵌をした七宝の箱があるのには、気づいてい た。ふたりはそれらを取りあげた。 〈銀鰻亭〉裏のマウザーの焼け落ちた塒でとおなじように、ふたり こ 0 ルチェ 3 8
だ。ますますは・ : ・ : そんな・ハ力な、なぜだー し 号業 ののねで師 tn 本錬本晋隆鍋は Z いったいなぜだ ! めまぐるしく変化するの ム誌兼誌術ス日 5 辺谷川し本の到に 0 7 産 ズ業を業金カ いな渡塩手み日一。殺目番ス 虚構の世界に対する拒絶反応か ? でも今までは ジ 商カ商錬一↓た。クの人若「はナ陣が早 何ともなかったじゃよ、 オしか、どこが違っているの オ夢いる一日同る保にヤ筆みお作目一 だ ? 虚構↓現実↓虚構↓現実から虚構↓虚構↓ = 師なかうフのらめ = 瓣麈れ納子キ執込で制丁オ チ術鮮うろた師も始ュ宙さ加冊ス華しの画 4 フ円 ・虚構↓虚構〈の生活の変化のせいだろうか。どん マ金新ろ作れ術でれの術宇待 ア 豪申す企崎繝 なにが好きでもやはり現実の生活を抜きにし ア錬のだをま金んく雄死る期↓逗る今で とる誌い本生錬読ふ義不あ語 いは版 業南 5 共 産四料 てその世界に遊ぶことは許されないのだろうか。 の ムい人ないて「にた巻想続亠物て一て」出 ス島送 ・正常な現実の生活があってはじめては大き ズて同れなし一ンま荒空伝このえ浩し夢定 カ カ 見と作もそジアは才 豊京 0 夜加野稿の限 円 な意味をもち、その魅力を充分発揮するのだ。だ 術 ヤを度はで ロフ夢鬼イ↓まき山寄師 都東 シ夢純本誌たソののセラ青↓手が術す からを楽しめる人間は決して気狂いや異常者 フ 東替 一でのた人えン師界 , ル座「村旗秋 . 金ま ではなくて、ノーマルなより / ーマルな現実生活 マ間品え同考アの術工 「治のの千錬い 行 1 振価 定 コ谷作備もは中金の「志利せ又「て発 を営んでいる者ということになろう、 でも、 でもそれじゃ・ほくは : ( 秋田県秋田市保戸野原の町昭の肥 分にゴマすり ) それでも山陰地方はファンが少なかニューフィーリングでした。これからも、後々 秋田大学啓明寮内佐藤友信 ) いと思う ( そう思っているだけかもしれない ) この為に一つ二つ載せてもらいたいもんです。 のさい、山陰地方のマニヤのみなさん団結し話しは変わりますが、 t.nræはもちのことフォー この「てれぼーと欄」を見るたびになけてくようではありませんか。小生たちだけでは心細いクも好きなもんだから、どっちでも好きなもん る。我校はレベルが低すぎるのであろうか ? Z のです。個人でもグループでもかまいません連絡は、お使り下さい。高三の野郎より。 なんかとてもじゃない。スペースオペラに興味は左記へ。 ( 岐阜市日野舟伏 3 9 6 7 の五藤守雄 ) 持つ者さえ徴々たるもの ( ヒョットするといない 〒京都府福知山市大字石原小字上野石原高 かも ) 先輩はよくもまあこんな所で三年間もフア等学校内 とは何か ? ン活動を続けてこられたものだとほとほと感心す 研究同好会「新人類」 ニューウェーヴなんてもの ( さつばりわかんな る。 ( 実はあきれている ) 京都府立石原高等学校 ( 京都府福知山市内記 3 小牧雅伸 ) い ) が氾濫している現在、ますますの定義 「新人類」も小生で四代目、今年はなんとか五名 ( ただでさえ、ややっこしいもの ) が混乱しつつ 集まったけれどこのままではポシャるなあー 拝啓様 ある。ひとつ、新しいの定義を考えてみよう。 このままでは、山陰のいや京都のファングルー 私どもがあなた様に始めてお会いしたのは、昨ガチャガチャガチャ ( くつわ虫にあらず、コン プはすべて壊減するのではないだろうかと心配な年の暮だったと思います。それ以来、来る月も来ビ、ータの作動音 ) ・ヒーンー のです。だいたい山陰地方というのはに理解る月もあなた様にお会いすることを楽しみにしな結論 ( 独善的な ) がなさすぎるのだ。と聞いて「ああ空飛ぶ円がら首を長くしております。いままでには、古本「とは、常識またを現実を、少しあるいは大 ばんか」などとほざくのはましな方で、中には屋であなた様の過去を追いかけたり、また時に幅に外れた芸術形感である』 どうです ? これなら、・ベルヌ ( 夢いつば 「変態・色魔」とわめくのもいるけど明らかに一は、あなた様の広く深い心に触れ閉じていた私ど 字まちがえているのだ。ともかくと口にしたもの心がはなのように開いたこともあります。そい ) から大西赤人 ( 我がライ・ハル ) まで・・・ハ だけで宇宙人かなにかのように小生をうさんくさして今、あなた様の真の姿がまぶたに写っておりラード ( へどが出る ) から・クライトン ( カッ そうに見るのです。 クイイ ! ) まで、余さず網羅できるしキリコやダ ます。 でも小生の町の本屋にもがこのごろ増えて話しは変わりますが、九月号の「スクリーム」リは『画家』、ロックは『音楽』という きたみたいで、それだけが唯一の慰めです。 ( 多なぞは、フィーリングで米いというかなんということができる。それだけじゃないそ。テレビのス
, 喪われた都市の記録 = 作・光瀬龍装幀・金森達 アイララ 地球人の胸に無限の郷愁を呼びおこす幻の星 アイララ かって遙かな太古、宇宙をよぎる異相空問の侵入の前に ーっの惑 星が砕け散った。それが、栄華を誇った太陽系第五感星アイララの 最期であり、同時に、母なる星の再建を誓うアイララ人たちの果て しない旅の始まりだった・・ 永劫の時は流れ、かれらの意志は人類のうちに眠りつづけた。 そして 古代のバビロンに、金星の灼けつく砂漠に、木星のメタンの海に 人類の築きあげた都市が虚しく減亡の道をたどると き、アイララの甦りを求めて暗黒の彼方へ飛 び立つ一人の男・・・ だが、その行く手には、アイララ を、人類を、宇宙そのものを減 ばし去らんとする、想像を絶し た大いなる力が立ちはだかる / 本誌に掲載した連作シリーズ 《都市》に、意表をつく新構想 のもと、噺たな 3 0 0 枚を書き 加えて、字宙と次元にわたる雄 大無比のドラマを展開する著者 会心の野心作 / 四穴判上報本 刊行中 , に 9