マグダリーン - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1972年11月号
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1. SFマガジン 1972年11月号

TERU なたの前に這いつくばる。わたしは大のくそにも及ばない』」 「それをいったのは彼よ、あたしじゃない」マグダリーンがたまり 2 冫をしつもどこか基本的に支 かねたようにいった。マグダリーンこよ、、 離減裂なところがあるのだった。 ーサー」テレンスがいった 「ああーーっづけたまえ、スタインリ 「この娘はキじるしだよ。でなければ、夢でも見てるんだろう」 「刻文はそれだけだよ、テレンス。最後の絵文字が一つだけわから なくて抜かしたがね。絵文字というものは大きな場所をとる。だか ら、この石でもそのぐらいしか書ききれない」 「そのわからない絵文字とはどんなものだね、ハワード ? 」 「槍を投げている男の絵が、時を表わす記号と絡みあっている。こ れは、『前方あるいは遠くへ投げられた』という意味になることも ある。しかし、ここではどういう意味なんだろう ? 」 『つづく』よ」とマグ 「ばかね、『つづく』という意味じゃない。 ダリーン。「心配しなくてもいいわ。まだ石はたくさん出てくるか ら」 ードックがいった。「もちろん、 「とても美しい詩ね」ェシル・・ハ それ自身の背景の中でだけど」 「じゃあ、ェシル、あなたが彼をひきうけたらどう ? もちろん、 がいった。「あたし ? あた 彼自身の背景の中でよ」マグダリーン しは、彼が背負いかご何杯ぶんのトウモロコシを持っていようと、 ごめんこうむるわ。もうたくさん」 「だれをひきうけろというの、マグダリーン ? 」ェシルがたずね サー。でも、マ た。「石を解読できるのはハワード・スタインリー グダリーンを解読できるのはだれ ? 」 「そりやわたしさ。わたしなら石とおなじように彼女を解読できる

2. SFマガジン 1972年11月号

かせる気じゃなかろうね ? 」 うな気がする ! 」 、え、その気よ ! あの亀は十八ポンド。とてもよく身がのつ「匂いの音色ですって ? あなたの鼻はどこへつながってるのかし 2 てるわ。きっとおいしいわよ。ここからたった八十ャード先、堤がら ? 」とマグダリーン。 グリーン川の中へ崩れ落ちているところ、泥板岩みたいに見える頁事実、その匂いには、なにか古い時代を呼びさますものがあっ 岩の岩棚の下、二フィート の水の底にー」 た。ひんやりとして、同時にかび臭く、麝香臭い、古い化石水と圧 「あいつの居場所は知ってるよ。じゃ、その肥った亀をとってくる縮された死の匂い。化石となった時間。 か」アンテロスがい 0 た。「このおれも肥 0 た亀だよ。おれはグリ「露出されたのがいつの時代か、あなたがすでに知 0 ているなら、 1 ン川だよ」彼はでかけた。 大いに助かるんだがな」ハワード・スタインリー サー・かし十ー 「ああいやだ、彼のあのへたくそな詩 ! 」マグダリーンは彼の後ろ「ここには例外的なものが一つある。あの煙突岩が、ときどきあの 姿へべっと唾を吐いた。 塚よりも時代が若いようなふりをするんだよ。あの煙突岩は、文字 アンテロスが肥った亀を持ち帰ってきた。二十五ポンドの目方はを刻んだ石が埋まっているほど新しくはないはずだ。だが、事実、 ありそうな亀だった。しかし、マグダリーンが十八ポンドというな埋まっていた」 ら、きっと十八ポンドにちがいないのだ。 「考古学は例外ばかりでできあがっているのさ」とテレンス。「た 「料理してちょうだい、 = シル」とグダリーンはい 0 た。グダだそれらを、あるあやふやなパターンにあてはまるよう、組み替え リーンは、ま 0 たくの幸運でこの発掘に参加を許された。一介の大てあるだけだ。それ以外に体系のつけようがない」 学生だった。ほかの隊員は、みんなひとかどの考古学者である。マ 「どの科学も、あるパターンにあてはまるように組み替えた。例外 グダリーンがだれかに命令をくだす権利はない。彼女生得の権利以ばかりでできあが 0 ているのさ」ロ・、 ト・ダービーカしナ 外には。 「ところで、絵文字の謎は解けたかい、ハ 「亀なんて、どう料理していいか知らないわ」とェシルがぐちをこ 「ああ、かなりの線まではな。予想以上にうまくいった。もちろ ・ま、しこ 0 ん、大学へ帰ったら、チャールズ・オーガストが確認してくれるた 「アンテロスが教えてくれるわよ」 ろう。とにかく、あれは王の布告でも、部族の布告でも、宣戦の布 告でも、狩猟の布告でもない。あれはどんな種類の基本的な文書に 「発掘されたばかりの遺跡の、この夜の匂い ! 」テレンス・・ハ ードも、どんなカテゴリーにもはいらない。あれを強いてカテゴリーに ' クが嘆声を上げた。あれからすこしあと、焚火をかこんだ一同はめるとすれば、〈その他〉か〈私信〉というところだろう。あの は、亀の料理と二級ウイスキーに満腹して、奔放で聡明な気分にな翻訳は難物だ」 っていた。「この匂いの音色から、露出された時代の見当がつくよ「あの石じゃ、歯が立たないわよね」とマグダリーン。

3. SFマガジン 1972年11月号

成金がもらえないもの。ねえ、ロ ・ハート、あの煙突から北東へ四十とかかっげるだろう」 ャードほどの茂みの中に鹿がいるから、仕留めてきてよ。もしここ ハートったら、その美しい頭がどうかしたんじゃない ? 」マグ 2 で原始生活をするつもりなら、鹿の肉を手に入れなきや」 ダリーンがからかった。 「たった百九十ポンドの目方なのに。いい 「いまは鹿のシーズンじゃないよ」ロ・ ( ート・ダービーが言いかえわ、あたしがとってくる」 した。「それに、あんな場所に鹿はいない。い や、たとえいたにし マグダリーン・モプリーはすたすたとでかけ、大きな牡鹿を持っ ても、きみには見えない窪地の中に隠れているはずだ。それに、たて帰 0 てきた。血で汚れるのも構わず、無造作に死骸を両肩にかっ とえいたにしても、たぶん牝鹿だよ」 ぎ、ときどき足をとめてあちこちの岩を調べたり、石ころを蹴とば 「ちがうわ、ロ・、 。あれは二歳の牡鹿で、すごい大物。もちろしたりしながら、軽々とそれを運んできた。二百五十ポンドはあり ん、あたしからは見えない窪地の中にいるわ。あの煙突から四十ャそうな大物だったが、マグダリーンが百九十ポンドだというなら、 ード北東といえば、当然涸れ谷じゃない。もしあたしにそれが見えそれにちがいないのだ。 るようなら、当然あなたがたにも見えるはずじゃない。さあ、早く ハワード・スタインリーサーは、すでに長い棒を伐り出して、三 仕留めてきて ! いったいあなたは男、それともハッカネズミ ? 脚を作っていた。彼らは牡鹿をそこへさかさに吊し、皮を剥ぎ、腹 ワード 、あなたは鹿を吊して皮を剥げるように、長い棒を伐 0 てを裂き、腸を抜き、玄人はだしの手つきで肉を切りとった。 きて三脚を作ってちょうだい」 「料理してちょうだい、ェシル」とマグダリーンがしナ 「早くそうしたほうがいいわよ、ロ・ ハート」ェシル・・ハ 1 ー・トック・か 口をそえた。「でないと、今夜はただでおさまりそうもないわ」 日がとつぶり暮れ、一同が焚火をかこんで車座になったとき、エ ート・ダービーはカービン銃をかつぎ、煙突岩の北東約四十シルは意地悪のつもりで、ぐじゃぐじゃした半煮えの牡鹿の脳みそ ャードの涸れ谷へと降りてい 0 た。。 ( ーンというカービン銃の高いを、グダリーンに手渡した。だが、マグダリーンはいたってうま 発射音がした。ややあって、ロ ・ ( 1 トが奇妙な苦笑をうかべて戻っそうにそれを平らげた。それは彼女の当然の取り分なのだ。あの牡 てきた。 鹿を見つけたのは、彼女なのだから。 「うまいわ、ロ・、 一発で仕留めたのね」グダリーンが大声あなたがたにも、マグダリーンが見えないものをどうして見つけ で呼びかけた。「鹿がよくやるように、ひょいと頭を上にあげたと出すのかふしぎなように、四人の隊員たちも、それをいつもふしぎ き、のどから脳まで一発で射ち抜いたのね。どうしてかついでこなに思 0 ているのだ 0 た。 かったの ? あともどりして、かついできてよ ! 」 「地史学と深層心理学との相似に気づいた人間がなぜわたしひとり 「かついでくる ? あれじゃ持ちあがりもしないぜ。テレンスと ( だけなのか、それを考えるとふしぎでしようがない」テレンス・ ワード、 いっしょにきてくれよ。棒に縛りつければ、三人ならなん ードックがひとりごとのようにいった。焚火のまわりで、みんなが

4. SFマガジン 1972年11月号

マグダリーンは、よくこんなふうに意味の通らぬことをいう癖が ・ほっ・ほっ瞑想的になりかかったときだった。「地殻均衡の原理は「 ードックはほっと安心したーー彼女の夫も、ロ・、 大地の表面と下面だけでなく、心の上部意識と下部意識にもあてはある。ェシル・・ハ ートも、ハワードも、暗闇の中でマグダリ 1 ンに手を出してはいな まる。むは、それ自身の沈激と堆積に平行して、浸食と風化を受け ひず かったのだ。ェシルは、このずんぐりした無愛想な娘に、嫉妬をい ている。そこには隆起も歪みもある。また、よく似たマグマの上に 浮かんでもいる。もっと極端な場合には、火山爆発や造山活動すらだいているのだった。 見られることがある」 「ここが、ス・ヒロ古墳ぐらいに収穫ゆたかだといいんだがな」ハワ 、つこ。「もっともその可能性は大いに ード・スタインリーサーがしナ ードックが半畳を入れた。 「そして氷河作用もね」と、ェシル・・ハ ある。とにかく。聞くところによると、あのスビロぐらい一見魅力 たぶん、・暗闇の中で夫の顔を見つめているのだろう。 「心には堅い砂岩もある。時によっては、それが日常の出来事の流に乏しく、そしてひねくれた遺跡はなかったというからね。スピロ すいせき 砂の中を漂っているあいだに、石英に変質したり、燧石に半ば変質の発掘にたずさわった人間が、だれかここにいてくれたらなあ」 していることもある。、いには、日日の愚劣さと惰性の古い泥からで「あら、彼がいるわよ」マグダリーンがばかにしたような口調でい けつがん きた、頁岩も存在する。もっと生き生きした経験が作りあげた石灰った。 ードックがきき返した。 岩もある。石灰岩は、かって生物だったものの名残りだからね。そ「彼 ? 彼とはだれだ ? 」テレンス・・ ( して、この石灰岩は、もしそれが豊かな情動の堆積なら大理石にも「この中には、スビロへ行ったものはひとりもいないぞ。マグダリ ーン、あの古墳が開かれた当時、きみはまだ生まれてもいなかった なりうるし、また、下部意識の苦悩と刺激の流れの中で十二分に、 オしか。どうしてきみにそれがわかる ? 」 泡立てば、石火華にもなりうる。また、心には硫黄や宝石もーー」じゃよ、 「あら、あたしはスビロの彼をお・ほえているわ」マグダリーンがし 十二分に泡立ったテレンスを、マグダリーンがさえぎった。 「いつも掘り出して、それを見せびらかしていた彼をね」 「つまり、早くいえば、あたしたちの頭の中にはたくさんの岩があった。 「きみはスビロにいたのか ? 」だしぬけに、テレンスが闇の中の一 る ( 頭が小いい ) 0 てわけね。でも、それは不揃いな岩で、それにい つもおなじものが舞いもどってくるのよ。あたしたちのそれと、大点へ問いかけた。さっきから一同もお・ほろげに気づいていたのだ つも新しい岩をつぎつが、焚火のまわりの人数が、いまや五人でなく六人になっている。 地のそれとは、おなじじゃない。世界は、、 をしつもおんなじ「ああ、おれはスビロにいたよ」男の声がいった。「おれはそこで ぎに手に入れていく。でも、そこに顔を出すのよ、、 いも掘ったし、よそでも掘った。おれは掘るのがうまいし、大事なも 人間たち、いつもおんなじ心なのよ。おお、いやだ、その中でも のが出てきそうなときには前もってそれがわかる。おれに仕事をく ちばん変わりばえしないひとりが、またまた顔を出してきたわー あたしに構わないでくれればいいのに。答はいまでもノーなんだかれないか」 「きみはだれだね ? 」テレンスはその男にたずねた。男の姿は、か ら」 アイゾスタシー 2

5. SFマガジン 1972年11月号

調に進みすぎていた。以前のうさん臭さが復活したのである。つぎるでつやのない軽い軽石でできているようだった。しかし、アンテ りよう つぎに現われる遺物はこれ以上もなく完全であり、石化はこれ以上・ロスは戻ってきて、ェシルがアナグマを料るのを手伝った。 「テレンス、もしきようの最初の石で背すじが寒くなったんなら、 もなく順序立っていた。 ート・ダー第二の石では、当然、髪の毛が逆立っ・ヘきだよ」ハワ 1 ド・スタイ ート」ちょうど日の入りに、マグダリーンがロ ' ハ 岸のすンリーサーがしった ビーに呼びかけた。「あの川を四百ャードほどくだった、川 「逆立つ、逆立つ。煙突石の層にあるにしてはどの石も新しすぎる ぐ上にある牧草地、その古い柵を越えたところにーーー」 が、あの最後のやつは侮辱としか言いようがない。あの石はまだ二 「ーーアナグマの穴があるというんだろう、マグダリーン ? とう とう、ばくにもお鉢が回ってきたか。遠くの見えないものが見える百年と経っていないのに、その上には一千年もの地層が重なってい とういう時間の堆積になってるんだろう ? 」 なんて。もし、カービン銃をさげて、あそこまで静かに近寄ればる。あそこでは、・ ( こっちが風下ときているおかげで ) 、ちょうど・ほくが着くころに彼らは匂いのきついアナグマの肉を食べ、品質劣悪なウイスキー アナグマが中から首を出し、そいつの目のあいだをぶちぬける。やを飲み ( 施主のアンテロスは、その品質の劣悪さに気づいていなか ったが ) 、そして麝香の匂いは彼らのまわりにも、彼らの内部にも つは五十ポンドの大物だ」 ート。とうとうあなただけまとわりついた。焚火は時おり怒ったようにばちばちと爆ぜ、その 「三十ポンドよ。さあ行ってきて、ロ・ハ たびに炎が高く燃えあがった。ばっと跳ねあがった火明りで、テレ は、ちよびり理解を見せてくれたのね」 ードックは、あの黒い帽子に似た奇妙な岩が、ふたたび煙 「しかし、マグダリーン、アナグマの肉はすごく匂うよ。とても食ンス・・ ( 突のてつべんに乗っかっているのを見た。昼間には、たしかにそれ えたもんじゃない」 「余命いくばくもない女に、最後の食事ぐらい好きなものを食べさを見たおぼえがある。だが、彼が日蔭にすわって休憩したときに は、もうそれは見えなかったし、それを確かめようと煙突そのもの せてはくれないの ? さあ、行ってきてよ、ロ・、 ートは行った ~ この距離では、カービンの銃声もほとんど聞によじ登ったときには、絶対にそんなものはなかったのだ。 ワード」 ートが死んだアナグマをかついで「まず第二章、それから第三章と聞かせてちょうだい、ハ きとれなかった。まもなく、ロ・ ェシルがいった。「そのほうが順序がいいわ」 戻ってきた。 「料理してちょうだい、ェシル」マグダリーンは命じた。 「そうしよう。さて、第二章 ( きよう見つかった中で最初の、いち ばん低いところにあった、おそらくいちばん古いと思われる岩 ) 「はいはい、わかりました。それで、もし料理法を知らなければ、 , は、 ' これまでそれが書かれたのをだれも見たことのない言語で書か アンテロスが教えてくれるのね」だが、アンテロスはそこにいなか ハートは、日が暮れた円塚の上で背をまるめている彼を見れている。、そのくせ、それを読むのはさほどむずかしくない。テレ ンスにさえ見当がついて、気味悪がったぐらいだ。それは、アナダ 出した。この奇妙な男は、声もなくすすり泣いており、その顔はま 2 3

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石灰岩の大台地に隆起が一つ、一本の煙突岩が、それより時代のしかし、現地で昼も夜も暮してみないと、発掘の感じはつかめない 新しい小山へいまにも寄りかかりそうにして立っていた。この煙突というのが、テレンス・・ハ ードックの持論だった。 はいわゆるドーソン砂岩で形づくられており、そこに堅い貝殻が散その五人というのは、テレンス・・ ( ードックとその妻のェシル、 りばめられていた。クロウ・クリークとグリーン川に沿った低地のロ・ ダービー、そしてハワード・スタインリー サー、以上四 中で、氷河時代と沖積世、これらの川が ( いまの五倍も ) 大きな川人の容姿端麗人格円満な人びとと、あとのひとり、マグダリーン・ であった時代に、作り出されたものだった。 モ・フリー。マグダリーンは容姿端麗でも、人格円満でもない。しか この煙突岩は、人類よりもわずかばかり年老い、草よりもわずかし、彼女には電撃的な魅力があった。彼女は一種特別だった。キャ ばかり年若かった。その累層よ、、 をしったん押し上げられてからまた ンプを張ったあと、まだ日のあるうちに、五人は遣跡のまわりを歩 浸食されて、この種の石柱に見られるように、堅い部分だけが残っきまわった。五人とも、その地層を前に見たことがあって、そのと たのである。 きから有望だと見当をつけていたのである。 煙突岩が、それより新しく生まれた小山に半ば寄りかかろうとし「あの壊れた煙突岩の真中を走っている奇妙な縦溝は、まるでコア ている場所へ、五人の調査隊がやってきた。この人びとは、地下深・サンプルみたいじゃないか」テレンス・・ハー くの石灰岩層には関心がないーーー彼らは地質学者ではなかった。こ 「しかも、ほかの部分とは全然ちがう。まるで、上から下まで落雷 の人びとは、時代の新しい小山 ( それは人間の手で作られたものだが突き抜けたみたいだ。われわれのために、内部を露出してくれた った ) に大いに関心があり、煙突岩にもいくらか関心がある・ー彼わけさ。当方としては、あの煙突岩をすっかり横へどけてしまいた らは考古学者だった。 いね。あれが塚にできた絶好の割れ目を隠しているし、われわれが ここでは時間が積み重なり、線の連続ではなく、被覆や堆積となほんとうに関心のあるのは、塚のほうだから。しかし、さしあたっ って膨れ出していた。そして、ここには縞や帯になった時間もあては、あの煙突岩から調査をはじめよう。いかにも調査してくださ いという恰好じゃないか」 り、それらはいったん高く成長したのち、割られ砕かれているのだ 「あら、あの煙突の中にあるものなら、なんでもあたしが教えてあ 五人の調査隊は昼過ぎにこの遺跡に着き、作業用トレーラ 1 を乾げるわよ」マグダリーンが不機嫌にいった。「それから塚の中にあ 上がった小川の川床へと引きこんだ。彼らはたくさんの荷物をおろるものも」 し、そこにキャンプを張った。ほんとうは、ここでキャンプを張る「あそこでなにが見つかるか、もうあなたにわかっているのなら、 までのことはない。ハイウェイで二マイル先に、設備のいいモーテわざわざ掘ってみるまでもなさそうね」ェシルがからかった。 ルがあり、すぐ上の山腹にも道路がつうじている。そうするつもり「あたしもそう思う」 - マグダリーンは呟いた。「でも、だれかに見 9 なら、毎朝たった五分のドライ・フでここへやってこれるのである。 せる証拠や出土品が必要なんでしよ。証拠や出土品がなくちゃ、助

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ているか ? 」 ンスは、またとやってこない」 「もちろんさ。ェロスの神のふたご。もっとも、実らない恋のシン 「このたわけ ! あの娘は死んだんだぞ ! だれもなんとも思わな いのか ? テレンス、その発見をわいわい騒ぎまわるのはよせ。こポルには、だれもあまり関心を持たないがね。そうか ? それこそ これにふさわしい名だそ。この彫像にはびったりだ。よろしい、彼 こへ降りてきたまえ。あの娘が死んだんだそ」 をアンテロスと呼ぶことにしよう」 ハートとハワード」テレンスは譲らなかっ 「上がってこいよ、ロ・ たしかにそれは、アンテロスに生き写しの玄武岩だった。その顔 た。「こわれたものはほうっておけ。そんなものには値打はない。 は歪んでいた。アンテロスは声もなくすすり泣きを凍りつかせ、両 だが、これはだれも見たことがないものだそ」 「上が 0 てら 0 しゃいよ、おふたりさん」 = シルがそれに和した。肩を悲しみに丸めていた。その傷ましい情熱、報われぬ堅固な愛 こんなものは生まれてはじめてを、彫刻はあますところなく語っている。たぶん、いまの彼のほう 「おお、なんとすばらしい彫刻 ! が、きれいに洗い上げられたあとの彼より印象的かもしれない。な だわ」 ( ート・ダービーよぜなら彼は大地であり、大地そのものだからだ。たとえどの時代に 「ェシル、この朝・せんたいが狂ったのか ? 」ロ・ 彼女のそば〈登りながらい 0 た。「彼女は死んだんだよ。あなたは属していようとも、その彫刻のもっ力強さは圧倒的た 0 た。 「生身のアンテロスだよ、テレンス。われわれの雇った土掘り人 ほんとに彼女をお・ほえていないのかい ? マグダリーンをお・ほえて ーベニーを忘れたのか ? 」 夫、アンテロス・メニ いないのかい ? 」 「お・ほえているとも。けさ、彼は仕事に出てこなかった、そうだろ 「よくわからない。下のあの娘がそうなの ? そういえば、二日ほ う ? 彼にクビだと伝えてくれ」 どここをうろついていた娘がいたけど、それがあの子なの ? あん 「マグダリーンが死んたんだそ ! 彼女はわれわれの一員だった ! な高い岩の上で遊んだりするからよ。彼女が死んだのは悲しいわ。 ちくしよう、彼女がわれわれの中心人物だったのに ! 」ロ・、 でも、いま掘り出しているものを見てちょうだい ! 」 ードックは、彼の叫びを ダービーは叫んだ。テレンスとェシル・バ 「テレンス、あなたもマグダリーンをお・ほえていないのか ? 」 聞いてさえいなかった。ふたりは彫像の残りを掘り出すのに夢中だ いっそやの晩、わたしの顔を思いきりひっ 「あの下にいる娘か ? っこ 0 かいた娘に、ちょっと似てはいるね。こんどだれかが町へでかける ワード・スタインリー サーが、砕け そして、塚のふもとでは、ハ とき、ここで女が死んでいることを保安官に言っといたほうがいい た黒っぽい岩を、それが消え失せないうちにと、夢中で調べてい ハート、きみはこんな顔をいままでに見たことがあるか ? た。まだ生まれてこない地層をさぐり、お・ほろげな未来を読みとろ そろそろ両肩が出てきたそ。きっとこの下には完全な等身大の像が うとっとめながら。 あるんだ。すばらしい ! すばらしい ! 」 「テレンス、あなたはどうかしてるよ。じゃ、アンテロスをお・ほえ 9 3

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ら、古い野牛の臓と蛇の陰茎から、黒い血と腐敗物と地下のためう。わたしは書きものにある赤い子牛だ。わたしは腐りゆく赤い大 息から生えてくるのだ。いまは、古びて擦りきれた血なまぐさい時地だ。朝に生きるか、朝に死ぬか。しかし、死の中の愛も、まった 代であり、愛の根はその血糊の中から生えてくるのだ』」 く愛さないよりはましだということを、忘れないように』」 「あの単純な渦巻き形の絵に、おそろしくこみいった翻訳をつけた 「いや、まいったな ! あんな幼稚な絵からそれだけの意味をくみ もんだな、スタインリ ト・ダービ ーサ 1 ・ ~. しかし、わたしもそのムードに引きとれるのはきみだけだよ、スタインリーサー」ロく 入れられてきたよ」テレンスがいった。 がそう呻いた。 「ああ、ちょっぴりごまかしたところはあるがね」とスタインリ 1 「まあとにかく、それで渦巻きの絵はおしまいだ。カイオワ族の絵 文字は、内流れか外流れの線のどちらかで終わることになってい 「かなり創作が混しってるわ」マグダリーンが挑むようにいった。 る。これは外流れで終わっているから、それは当然 , ーー」 「いや、そんなことはない。・ほくの使ったどの語句にも、なんらか 「『つぎの岩につづく』という意味だ」テレンスがしわがれ声で叫 の根拠はあるよ。『つづけよう。わたしは二十二挺の交易品のライんだ。 フルを持っている。わたしは仔馬たちを持っている。わたしは二ペ 「つぎの岩は見つからないわよ」マグダリーン がいった。「それは ソのメキシコ銀貨を持っている。わたしはすべての面で金持だ。そ下に隠れているし、まだ出来上がってもいないわ。けれど、それは れをぜんぶあなたにあげよう。わたしは、気ちがい草をたらふく食どこまでもどこまでもつづくのよ。そうはいっても、あなたがた、 べたクマのように、恋におちた食用ガエルのように、ビ = ーマにむ明日の朝にはそれを読むことになるけど。あたしはもう結着をつけ かって後足で立ちあがった種馬のように、大声で叫ぶ。あなたに呼てしまいたい。ああ、なにがしたいのか、あたしにはわからなくな びかけているのは大地だ。わたしは大地だ。狼よりも毛深く、岩よったわ ! 」 りもごっごっした大地だ。わたしはあなたをのみこむ沼地だ。あな 「きみが今夜なにをしたいか、・ ほくにはわかるような気がするよ、 たは与えることも、とりあけることも、愛することもできない。あマグダリーン」ロ・、 ート・ダーヒーカしナ なたはそのほかになにかがあると思っている。墜落もせずにその上 だが、それは彼の思いちがいだった。 を歩きまわれる空の橋があると思っている。わたしは毛を逆立てた 会話はやがて途切れ、焚火も燃えっきて、一同は寝袋にもぐりこ 猪のような大地た。ほかにはだれもいない。あなたは朝になるとわんだ。 たしのところへやってくるだろう。あなたはのびのびと優雅にやっ こうして、長いほろ酔いの夜が訪れ、四日目の朝が明けた。おっ てくるだろう。もし不承不承にやってきたものなら、あなたは全身と待っ ナウアトル日夕ノ語の伝説では、この世界は四日目の の骨と器官をうち砕かれるだろう。あなたはその出会いによって減朝に終わる一になっている。われわれが生きた人生、あるいは生 ばされるだろう。大地から発する稲妻にうたれて、減・ほされるだろきたと思っている人生は、・、これすべて三日目の夜の夢にすぎないの 6 3

9. SFマガジン 1972年11月号

「あれだけの塊なら、何千本もの矢じりや穂先がとれる」テレンス 「たいへんな頑固者よ、まるで燧石みたいな」とマグダリーン。 が感嘆した。「原始人にとっては、あの燧石の塊は一身上だったろ 2 「じゃいいわ、とにかく出してみるか。アンテロス ! これをそっう」 くり掘り出してみてよ。この石を割ったり、煙突岩ぜんたいをあた「おれはああいうのを幾身上も持っていたよ」アンテロスがぼそば したちの頭の上へ落っことしたりしないように。彼にまかしときなそと呟いた。「そこで、とっておきのこいつを捧げることにしたん さい、テレンス。こういうことは、彼、器用なのよ」 「どうして彼のことがそこまでわかるんだね、マグダリーン ? ゅ 一同はそのまわりに集まった。 うべはじめて彼に会ったばかりなのに ? 」 「ああ、かわいそうな男 ! 」だしぬけにェシルが叫んだ。しかし、 「とにかくわかるのよ。あれがあいも変わらぬばかばかしいしろも彼女が見つめているのはどの男でもなかった。彼女が見つめている のだってことは、まちがいないわ」 のは、その石だった。 彼女のいったとおり、アンテロスはその石を割りもせず、また煙「もういいかげんに、彼もあんな趣味は卒業すりやいいのに」マグ 突岩を彼らの頭上〈崩し落としもせずに、掘り出すことに成功しダリーンがぶつぶっとこ・ほした。「彼がどんなに金持だろうと、知 た。ツル ( シで割れ目を作り、三本のダイナマイトとキャップ、そ 0 たこ 0 ちゃないわ。そこらの露地にだって、あれより出来のい こから引いた導線を、爆薬のほとんど真上で・ ( ッテリーにつないものは見つかるわよ」 だ。爆発。まるで空ぜんたいが頭上に落ちてくるような轟音がひび「い 0 たい、あの女たちはなにをしやペ 0 ているんだろう ? 」テレ き、その空の破片にはかなりの大石も混じ 0 ていた。古代人は、空ンスがきいた。「しかし、これはたしかに本物の絵文字らしい。こ から落ちてくる破片がなぜ青く透きとおったものでなく、、 1 ーっ : しつも黒れはアズテク語かな、スタインリー カズン・ジャーマン つぼい岩ばかりなのだろうかと、ふしぎがったという。その答は、 「ナウアトル " タ / 語ーー・アズテク語の本いとこだ。いや、カズン 地上に落ちてくるのが、つねに夜空のかけらばかりだからだ。なに ・ヤ 1 キと呼ぶべきかな (\ →「 ) 」 ぶん距離がおそろしく遠いので、つぎの日の昼間までかかってやっ 「まあ好きなふうに呼んでくれ。ところで、解読はできそうか ? 」 と地上にたどりつくわけである。アンテ。スのかけた発破は、真昼「おそらく。八時間ないし十時間くれれば、大半の絵文字について 間なのに、夜空のごっごっしたかけらをひき落とした。それは、煙仮定的な解釈はできると思うよ。しかし、筋のとお「た解読はむり 突を作り上げているどの岩よりも黒ずんだ岩だった。 だ。これまでのナウアトル夕ノ語の翻訳を見ても、どれもたわご にもかかわらず、それは小さな爆発だった。煙突岩はふらふらととだったからね」 よろめいたが、倒れはしなかった。それはふたたび危つかしい角度「それと、テレンス、忘れちゃだめよ。あのスタインリーサーは読 で落ちついた。そして、燧石の塊は外へはねとばされていた。 むのが遅いの」マグダリーンが意地わるく口をはさんだ。「おまけ

10. SFマガジン 1972年11月号

てくれりやいいのに。あれだけのお金があれば、いくらで女は見 のとおりだった。 「 ( 力も休み休み言いたまえ ! 紀元七百年頃のビーズ吐きに、未つかるのに。それに、これはプライベートなものよ、テレンス。あ 来のビーズが吐けるはずがない。二十世紀ホンコン製の安つばいガなたにそれを読む資格なんかないわ」 「きみはヒステリーだな、マグダリ 1 ン。そんなことでは、この遺 ススのビーズを、彼がどうして吐き出せるというんだ ? 」テレンス 跡から出ていってもらわなくちゃならんそ」 は猛烈に怒っていた。 「あたしも出ていきたいわよ。できるものならね。あたしだって、 っこ。「ビ 「お言葉だがね、それはできるんだよ」アンテロスがいナ ーズ吐きは、未来のビーズを吐き出せる。吐き出すときに北に向け愛せるものなら愛したわ。それができないから困るんだ。なぜ、あ たしが死んだだけじや足りないのかしら ? 」 。しい。これは昔から知られていることだよ」 テレンスはますます怒った。頭から湯気を立て、みんなにあたり「 ( ワード、きようの午後はこの石にかかりきってくれ」テレンス が命じた。「ここにはなにか書かれている。もしそれがわたしの考 ちらし、そして彼の顔の爪痕は、青紫にきわ立ってきた。やがて、 彼をいっそう怒らせるようなことが起きた。煙突岩のてつべんに帽えたとおりの物だとすると、背すじが寒くなってくるな。浸食され 子をかぶせたように乗っかっている黒い岩が危険だ、いつみんなのた煙突岩の層の中で見つかったにしては、あまりにも時代が新しい . ワード。しかも、てつべんよりかなり下で見つかったん 頭上に落ちてくるかもしれないから、とテレンスがいったときであんだよ、 ( る。アンテロスが、煙突岩のてつべんにそんな岩はない、テレンスだ。解読をたのむ」 コ一、三時間で、なにかがわかるだろう。こんなものははじめて見 は眼がどうかしているらしいからしばらく日蔭で休んだほうがい たよ。テレンス、あなたはこれをなんだと思う ? 」 といったのだ。 そして、テレンスをさらに激怒の絶頂〈とかりたてたのは、煙突「わたしがそれをなんだと思うか 0 て ? それはこの前の石よりも っと後の時代のものだ。この前の石だって、ありえなかったのに。 岩の縦溝の中で見つけたなにかを隠そうとしているマグダリーン わたしは、自分がキじるしだと最初に告白するのはまっぴらだよ」 に彼が気づいたとぎだった。それは大きな重い頁岩で、マグダリ ーンのふしぎな力でさえ持ちあがらなかった。彼女はそれを縦溝か ハワード・スタインリーサーは彫刻された石を調べにかかた らひきずり出して、底へ転がし、石ころや岩でそれを覆い隠そうと 日没の一一時間前、彼のところへもう一つの石が運びこまれた。さっ しかけたのだ。 ・ ( ート、この抽出点へしるしをつけろ ! 」テレンスは大声でどきのよりもっと上のほうで採取された、天色の石鹸石だった。そ、こ に刻まれているものがなんであるにせよ、それはさっきの頁岩に刻 なった。「まだ跡が残っているはずだ。マグダリーン、よさない まれているのとはまったく別のものだった。 か ! それがなんであろうと、調べなくちゃだめだ」 いつばう、ほかの場所では、万事が順調に進んでいた。いや、順 「あら、これはあの変りばえしないしろものよ。もう彼もあきらめ