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検索対象: SFマガジン 1972年12月号
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1. SFマガジン 1972年12月号

一一、三秒すると一等宙航士が現われ、けげんな顔でのぞきこん「しかたがなかったんです」宙航士は答えた。「あわててカーティ スのテー。フをチェックしたところ、みなでたらめでした。われわれ 6 だ。「どうしました、船長 ? 」 「いまきみの助手のカーティスを、豚箱に運びこんだところだ。転は水星の軌道を間一髪のところでかすめ、太陽に向けてまっすぐ飛 換炉にとびこもうとしたからな」 びつづけるはずでした。いかがでした ? 」 「かれが 「みごとだ。だが、あの坊やにはあまりつらくあたるなよ。気がふ ロスはうなずいた。「自殺しようとしたんだ。・ほくがやっとのこれたのはかれのせいじゃない 0 とにかく、りつばに着陸したんだ。 とで取り押えた。あれこれ考えてみると、あいつにやらせたテー。フ位置はたそがれ帯の中心にかなり近いようだ、多少の出入りはあっ は捨てて、船を手動で着陸させた方がいいと思うんだが、どうだても、一、 二マイルだろう」 かれは接触を切って、網状椅子から身をといた。「さあ到着だ」 一等宙航士は唇を濡らして答えた。 「たぶんそれはいい考えでしロスは航内回路に呼びかけた。「全員、至急船首へ」 よう」 乗員たちはすかさず集った。 まず・フレイナ 1 ドが現われ、つ 「正しいにきまってる」ロスはにらんで言った。 ぎにスプランガーがつづき、それから測定器技師のクリンスキーと 三人の乗組員がはいってきた。ロスはみんながそろうのを待った。 船が地表にふれたとき、ロスは〈水星は二つの地獄をもったとこ ・フレイナードとスプランガーをのそく全員が、カ 1 ティスを探し ろだ〉と思った。 ひとつは、ダンテの言う地球の底にも似た氷の王国でーー、もうひてふしぎそうにあたりを見まわした。歯切れよく口スは言った。 とつも、別な意味での地獄帝国だった。この火と氷の一一者が、独得「カーティス宙航士は同席しない。かれは船尾の発狂者用拘束袋に の地獄を呈しているそれそれの半球を、つなぎあわせているのだ。納まっている。この飛行はかれがいなくても、何とかつづけられ かれは頭をあげて、減速用椅子の上にある計器盤をさっと見わたる」 した。計器類はみなチェックした。重量配置は適切で、安定度百パ かれは発言の意味がしみわたるのを待った。みんなの顔から恐怖 ーセント。船外温度は処理可能な華氏百八度。これは船が、たそがの消えていった早さから、かれは一同が事情をのみこんだものと判 れ帯の真中よりやや太陽寄りに着陸したことを指す。みごとな着陸断した だった。 「よろしい。計画によると、われわれは出発までに、水星で最底三 ロスは有線回路のスイッチをばちんといれた。「プレイナード 十二時間を過すことになっている。・フレイナード 、われわれの位置 をチェックした結果は ? 」 「す・ヘて順調です、船長」 宙航士は眉を寄せて、暗算を行なった。「現在地はたそがれ帯の 「着陸はどんな具合だった ? 手動装置を使ったんだろう ? 」 大陽側へりにやや寄ったころです。しかしぼくの計算によると、太

2. SFマガジン 1972年12月号

一「たたの証人だと思ってもらいたい」 首長は頭をめぐらし、スターシャインに何ごとか囁いた。か すかに頷いて彼女は席を立ち、外に消えた。 「今夜は集会を催します。あなたにたっふり土産をいたたきました ニルヴァーナを覗いてこられるというもので のでな。久しぶりに、 ところで、あなたには す。一寸した狂宴になることでしよう。 びとつお願いがある。破瓜を待っ三人の娘がちょうどおりまして ね、客人の来訪を待っていたところなのです。しきたりの通り、よ ろしく面倒をみてやっていただきたい」 処女の破瓜を部族以外の者に任せるーーこれも平地インディアン から伝わった風習た。そして、「交易屋」をめぐるしきたりの一つ として、この申し出は断われなかった。たとえ集会から俺を遠ざけ ようとする意図がはたらいているとしても。 スターシャインが俺を連れ出して、奥まった天幕のひとつに俺を 押し込んだ。その間、彼女は一言も口を利かず、ただかすかな微笑 を唇もとに浮べていただけだった。 しばらく俺を一人にしておいたあと、外から彼女が声をかけた。 「花嫁さんたちをお連れしたわ。入ってもよくって ? 」 「どうそー俺は苦笑して答えた。 スターシャインを殿りにして三人の娘が入って来た。真新らしい 純白 2 ハックスキンをそろって身につけ、頭には野花の冠をかぶつ ている。年の頃は一五、六だろう。 スターシャインが娘たちの肩に優しく手を置きながら言った。 ング・ウインド 「この娘の名は″囁 風仁髪は ' フルネットで、ほっそりし た小柄な娘た。 べて全体的に四十五度ほどずれてい更にのびて来て球体の外まで出て、 たようだ、と述べている。 その先は水の所まで達したようだっ さて、こういう得体の知れない球た、と言う。 やがて、そのホース状のものは球 状体のものが、一定の軸のまわりに 左回りに回転しながら、地面から二 の真中の暗い核の中へ引きこまれて 行ったが、それと同時に、球の半径 〇センチぐらいの高さの所を、すべ の真中あたりから内側の部分が、ミ るように前進して来ていたのであ ルク色に変わってみえた。クラウス そして、それがとうとう彼の近く さんが言うには、丁度水が沸とうす る直前に示すような外観で、更に外 まで来たので、ただ好奇心でそれを じっと眺めていた。 の球体の外殻も、丁度高圧発電機の まわりに出来るイオン化した空気の すると、それまで彼の知っている ようなうす青色がかった色に変わっ 範囲内で少なくとも一五〇メートル たという。 程度もそんな具合にして走りつづけ その後、球体は再び回転し始めた て来た球体は急に前進を止め、直角 に方向を転して道の右手横の水の流と思うと、目鴃者にごく近い所を通 って道を横ぎり、道の左側の畑の中 れの所までやって来た。その時に へつき進んで行った : : : と思った刹 は、もう球体の回転は止まっていた。 その後、驚くべきことには、水た那、突然すさまじい速度で上昇し、 まりの所までやって来てビタリと停全く何の音も立てずに飛び去った。 止した球体の内部の真中の暗い核の その飛び去り方は、まるでいなずま のようにあっという間もなかった程 所から、何かホースのようなもの ( その太さは、放射線状にのびた棒なので、目撃者は全然目でその飛行 を追うことが出来なかった。 の先端の太さの約一〇倍、直径三セ この奇怪な球体ーーその正体は ? ンチ位だった、という ) がするする まさか、他の天体からこの地球へ偵 と伸びたと思うと、その先がくるり と曲がってもこの方へ伸び、の字察探検に来ている″空飛ぶ円盤″の のような形になり、更にその先が、 偵察器具の一つだったのでは ! ( 近代宇宙旅行協会提供 ) まるで蠕虫のように右に左にくねく ねと動き始め、その際、そのホース 状のものの核に近い方の湾曲部部の 外側が、どうしてだか、まるで灼熱 した鉄のように明るく輝いた。 その後、そのホース状のものは、 世界みすてり・とびつく ー 47

3. SFマガジン 1972年12月号

もった大きな口 - をあけてうなった。 この岩の世界は、 まよ、風もない。 依然、物音ひとっしない。いを ゴルドハは、このチャンスを逃さなかった。勇敢に立ちむかって 沈黙しきっていた。しかし、ここには、数えきれないくらいの大と いき、造ったばかりの武器を、投げつけた。反動をつけられた二つ かげが、じっと息をひそめながら住んでいるのだ。 の石は、空中をつながったままお互いに回転しながらとんでいき、 ゴルドハは、また息を深く吸った。胸の動悸はおさまっていた。 ゴルドハはまた、大きく目を見開き、巨岩をおいて、奥へと進んで見事に、獲物の首にまきついた。 っこ 0 獲物は、ますます怒り狂い、立ちあがって、投石の絶好の標的と なった。第二、第三の投石は、相手の動きがにぶくなったので、ず 最初に出あった獲物は、平らな鏡のような大岩の上で、眠ってい っと投げやすかった。大とかげは、体にまきついた石を外そうとし た。ゴルドハは、体を低くしてちかづき、足元の石を拾って投げつ けた。狙いが外れて、石は岩とぶつかり、ガランと音をたてながらてあばれまわり、岩の上からどさりと地上におちた。 ゴルド ( は、叫び声を発しながら、手あたり次第に、石を拾って はじけとんだ。 物音に驚いたのか、大とかげは、むつくりと体をおこすと、尾では投げつけた。厚い外皮につつまれた大とかげは、なかなか参らな かった。むきだしの鬪志をみせて、なお抵抗のそぶりをみせた。最 ハランスをとりながら、岩の上を移動していった。動きは、意外な くらい素早かった。乾燥地帯の変動しやすい気候条件に適応したた後に投げつけた武器は、中央から長いロープのついたやつで、その ために、逃けようにも逃げられないためだった。ゴルド ( は、繩尻 めであろう : ・ ゴルド ( は追いかけるのをあきらめて、失敗した投石のやり方ををつかんで、大とかげと闘った。長い尾が、円弧をえがいて、何度 ノの方も、全身、汗まみれだった。敵を足場 反省していた。はじめて出会った獲物に興奮して、狩猟の正しいやも空をきった。ゴルド、 り方を忘れていたのだ。長い間かかって、ゴルド ( は、それとなのいい手前の地面まで引きだし、岩角に巻きつけて固定すると、う 、狩猟のやり方をきき出していたのだ。ゴルド ( は、体に巻きつなりつつあばれる獲物の体へ、根気よく石を投げつづけた。 けて用意してきた繩を外すと、にぎりこぶし大の石を探がして、そ「この野郎、この野郎」 投けるたびに、ゴルド ( はのろいの言葉をはき散らしていた。獲 の両側にとりつけた。同じものをいくつかっくりあげると、彼は、 出来上りを検査した。今度は大丈夫た。第二の獲物は、その平らな物は、次第によわっていった。また石を投けつける。やつの頭が形 そして、投げつづけながら、ゴルドハ をかえてしまうまで・ 岩のむこうの岩蔭にいた。そい・つも、前と同じくらい大きかった。 は、かすかな快感にさえひたっていた。その感覚は、大とかげの動 ゴルドハは、静かにちかづいて、さっきのように大きな石を両手 でかかえあけて投げつけた。うまくあたらなかったが、一回スウンきが、にぶくなっていくにつれて高まっていった。瞳と同様、体の どこかが充血しはじめ、しびれるような官能がうずくのだった。 ドしたやつが、大とかげの頭にあたった。 やつは、怒って頭を持ちあげると、襲撃者へむかって、敵意のこ最後の一撃で、ついに大とかげは動かなくなった。まだ、尾だけ 2 ー 0

4. SFマガジン 1972年12月号

みがある。そこから直接には頭上や足元になった街の全景はみえな かかっていて、その家の女性の姿がみえなかったからである。ゴル いが、大鏡面の中にはソルティの隅々までがうっしだされていた。 ド ( は、それでも辛抱づよく待っていた。ひょっとして、風が渓谷 8 っム 鏡面の中を、さっきのおばさんが、もうかなり下の方の路をくたをふき抜けてきて、カーテンをそよがせてくれるかもしれない、と っていく。その辺の富裕者の階層では、回廊や入口や窓のひとつひ思ったからた。気のながい話だが、この時がゆるやかに流れている とつに、複雑な模様などが彫りこまれていて、規模も大きい。道も太古の街では、別におかしくはない。ゴルド ( 以外にも、いま彼と 手引車が往来できるくらい広く、様々な物を売る店などもあり、 い同じく、あこがれの人気スターのお出ましを、じっと待っている若 わばこの垂直の面的な崖の街の繁華街になっていた。 者たちが、何人も何人もいるはずたった。 ゴルド ( は、路端に腰をおろして、ここからこうやって、物を買彼女は、ソルティの青年たちに、とりわけ人気があったのであ い求めたり、立ち話をしたり、往き来している住民たちの姿をみるる。年齢は決して若くはないが、清楚な美貌の持主である。よく窓 のが好きだった。注意しさえすれば、誰が何を買ったとか、誰それ際のところに坐って、鏡崖とむきあって髮をすいている。高貴な女 の家へいったとか、誰と話をしていたとか、街中のことは何でもわ性であることは、住んでいる階層の位置でわかったが、実際どんな かってしまう : このゴルドハも、街の住民たちと同様、なかな身分なのかは、謎に包まれていた。 かの物知りで、こまごましたことまでよく知っていた。 それだけに、気品のある顔立ちゃ優美な肢態が、い っそう神秘的 むろん知識というほどの内容ではない。墫話の種でしかなかつな雰囲気にとりかこまれてみえ、若者たちはますますあれこれと詮 た。ときには、嫉妬や羨望のいりまじったかげロの種ともなる。索するのだった。 人々は、こうした話題を口にしながら、日頃のうさ晴しを無意識の 長い時間待っていたが、ゴルドハはついにあきらめた。カーテン うちにやっているのである。 はびくりとも動かなかった。夜になれば機会があるのだから、とゴ まして、これという娯楽のないこのソルティの街では、この鏡壁 ルドハは思いなおしたのであった。内部のあかりがともされると、 を利用した盗み視が、その代りをはたしていた。ただし、この街で いやおうなしにその女性の影が映したされるのだ。 は、お互いがお互いを視ると同時に、また視られているのだから、 「水はいらんかね」 至極、公平といえた。でも、やはりよけい多くの注視を浴びる者も「水はいらんかね」 いる。その人物は、何らかの理由で知名人ということなのたから、 ゴルドハは、また坂道を登りはじめる。足元を一歩一歩と踏みし ま、ゴレド、・、、 これはこれで仕方がない。い / カ熱つ。ほい視線を、河めるように登っていくこの水汲人足のくすんだ青銅色の四肢は、そ 上の方へ移していってとどめた、白い家の主も、そういう意味でこの都度、筋肉を躍動させていた。 の鏡面あそびのスター的存在だった。 ゴルド、は、ちょっとがっかりする。白いカーテンが、昨日同様

5. SFマガジン 1972年12月号

のソルティの谷間なんだが、残念なことにむこう岸なのさ。『谷を 「知っているそ。崖の上で、大とかげを仕留めたそうだな」 渡してくれ』とおれが、蒼い人に頼むと、そいつは、『いや、この 「そうだ」・コルドハは、得意気たった。 谷は決して渡ることはできない。お前はもうこちら側の人間になっ 「まあ、どんな夢をみたのか、話してごらん」 ているのだから、こちら側で住むがよい。ごらんのとおり、谷のこ 「それが、変な夢なんだ。狩をはじめてからのことなんだが」と、 ちら側と谷のあちら側は、何もかもそっくり同じた。もし違ってい うながされて、ゴルドハは話しはじめた。 る点があるとすれば、右と左とがちがう』・ : 。なるほど、いわれ 「おれは、その夢の中で、大とかげと交わるのだ。やつが暴れるのたとおりなんたな。おれは、蒼い人間とわかれて、そのもうひとっ で、縛りあげてからそうするのた。すると、やつは、白い腹をみせのソルティの街へのぼっていき、左利のおれとでつくわすんた : て、その間中、じっとておるのた」 「あたりの場所はどんなところだ。狩り場の出来事なのか」 「それで」と占師は、首をかしげて、じっと腕組みしながら考えこ んでいた。 「うんにや。そうしゃないんだよ。どこかははっきりとわからない 「いや、これでおれの夢はおしまいさ。いや、ちょっと待ってく が、荒野の岩陰のような気もするし、どこかの部屋の中かもしれな 不思議なことに、窓が、ぼっかりとあいていて、いつも薄いカれ。おれは、その左利のおれを殺そうとする。やつもおれを殺そう とする。そこで目が覚める」 ーテンがゆれているのだ」 「なるほど : : : 」と占師はつぶやくようこ、 冫しった。「むずかしい夢 「それから」と占師は、真面目な顔をしてまたうながした。 「おれは、やつの腹の上で果しおえたあと、やつを解放してやる。 「わかるか。一体、どんな夢報せなのか」 と、その大とかげは、逃げずにこのおれを喰いころそうとしてむか ってくる。で、おれは一生懸命にたたかうが、結局やつに喰われて「少し考えてみなくては、しかとはいいきれないが : : : 」占師は、 しまうんだ」 ちょっと言葉を途切った。「そうだな、この夢には、色々な事柄が 「うん、うん」と占師は、うなずいてきいていた。 いりまじっているにちがいない。それで複雑なんだな、きっと。ま ひと 「すると、大とかけの腹の中は、みたことのない大きな緑色の植物ず、お前さんに尋ねたいが、いま誰か想っている女はおらぬか」 のおいしけった場所で、葉陰のむこうに広い水の世界がある。おれ「そんなものはいない」とゴルドハはいった。 は、そこからなんとか逃けたしたいと思って、水辺へ いく。と、水「ほんとか。お前さんの方が正直に答えてくれないと、わたしも考 の中から蒼い人間が現われて、こういうのだ。『狩人よ、ついておえてあげられない」 いで』。 : で、おれはいわれたとおり、その蒼い人間のあとに従「いや、いないわけではない」とゴルド ( はいい直した。 って水の中へ入っていく。と、この水の中の路の行きどまりは、こ 「名前は」 幻 4

6. SFマガジン 1972年12月号

クウェイルは自宅の番号をダイヤルした。そしてほどなく、小さ「ああ、料金の残りを返してもらおうと思ってね」 なスクリ 1 ソにあらわれた、そっとするほど迫真的なカーステンの いくらか落ち着いたようすで、受付嬢は言った。「料金 ? なに 映像のミニアチ = アと対峙していた。「火星へ行ってきたよ」かれかお考えちがいをなさづてらっしやるんじゃありませんかしら、ク は言った。 ウェイルさん。あなたはたしかに超迫真的記憶旅行の可能性につい 「あんた、酔っぱらってんのね」彼女のくちびるがさげすむようにて検討なさるために、ここへおいでになりました。でもーー」彼女 ゆがんだ。「でなきや、もっと悪いか」 はなめらかな青白い肩をすくめた。「わたくしの知るかぎりでは、 「いや、ほんとうだってば」 トリップは行なわれなかったはずでございますが」 「じゃあ、いっ ? 」彼女は詰問した。 クウェイルは言った。「おれはいっさいを覚えているんだ、お嬢 「さあ、そいつはわからん」かれは混乱を感じた。「見せかけの旅さんそもそも今度のこと全体を引き起こすもとになった、おれの だったのかもしれんな。つまりさ、例の人工記億だか超迫真的なん リコール株式会社宛の手紙も、ここに来て、マクレイン氏に会った とやらだか知らんが、ああいう処置によるやつだよ。実際にした旅ことも。そのあと二人の技術者に連れてゆかれて、麻薬を投与され 行じゃなかったってわけだ」 たことも」会社が料金の半額を返してきたのも当然である。かれの カーステンは、かれをたじろがらせるほどの口調で、「や ( 心 " 火星〈の旅。の虚偽の記憶は、植えつけられなか 0 たのだーーす 酔っぱらってんだわ」と言うと、自分から電話を切ったや一瞬置い くなくとも、事前に保証されたほど完全には。 て、かれも頬がほてるのを覚えながら、受話器を置いた。《例によ「クウ = イルさん」受付嬢は言った。「あなたはしがないサラリー って例の口調だ》ーー。・・と、かれは煮えくりかえる思いでつぶや いマンかもしれませんけど、好男子でしてよ。でも、そんなにお怒り た。《いつだっておなじロ返答、まるで自分はなんでも知ってて、 になっちゃ、せつかくのお顔がだいなしですわ。もしそれでお気が おれはなんにも知らないみたいに。なんていう夫婦だ、くそ》 すむなら、わたくしがーーーそのーーしばらくお相手してさしあげて いくらもたたぬうちに、タクシーはとあるモダーンな、とびきりも : : : 」 こここ しゃれた小さな。ヒンクの建物の前に止まった。その建物の上には、 冫いたって、かれは憤激した。「おまえさんのことなら、ち めまぐるしく変わる多彩なネオンサイソがまたたき、『リコール株やんと覚えてるんだ。たとえば、おまえさんのおつばいにはプルー 式会社』という文字を描きだしていた。 のスプレーが吹きつけてあることも。そのことはこの胸にこびりつ ウエストから上を露出したシックな受付嬢は、かれを見るとぎよ いている。それからまた、マクレインが約東したことも覚えてそ、 っとして腰を浮かしかけたが、そこで、英雄的な努力で自分をおさもしもおれが、リコール株式会社を訪ねたことを思いだしたら、そ えた。「あら、いらっしゃいませ、クウ = イルさん。ご、ご機嫌いのときは全額料金を返済するってな。さあ、マクレインはどこにい 8 るんだ」 かがですか ? なにかお忘れものでも ? 」

7. SFマガジン 1972年12月号

ったのた。保守党総裁は自動的に内閣総理大臣の座を得ることにな た。今朝までかかったよ」 海津は流石に疲れた表情をみせていた。そう言えば脂が浮いて睡る。 眠不足の顔だ。「浮田が絶対に首相の座につけんことを証明してや海津は首相の私邸で投票結果を待ち、浮田敗ると判ると、すぐ約 はそのま を引とって来た。万一浮田が勝てばトミー ったのだ。中出は例の件を知らないんで苦労した。知ってる連中は東どおりトミー みな手を引いて棚下についたんだが、中出は若いし、まだ当分両方ま留め置かれ、浮田新首相にたらいまわしされるところだったとい の中間でキャスティングボードを握っているつもりだったらしい ーを迎えたポルドーは、沈み切っていた。 仕方がないから季剛従というあの窓口屋をつれてった。向うからも らった勲章やら、首相の献金に対する毛筆署名入りの札状やら、帳「ひどい。これじゃもう廃人じゃないか」 簿や登記書類、そのほかありったけの証拠を揃えて抛り出してやっ清田は海津に食ってかかった。 たんだ。浮田は長い間蔵相で、いろんなテを使って首相の力になつ「俺だって腹をたててる。こんなになっているとは知らなかったん ていた。一蓮託生の間柄さ。浮田を首相の座に据えるんなら、これだ。アメリカで散々実験台にされたらしい」 は車椅子に坐り、清田の部屋でうつろな眸を動かそうとも を公表するそと脅したんだ。勿論首相も浮田も沈没だが、長い間そ の国外からの政治資金のために冷飯をくわされていた反主流が、そしなかった。痩せて、骨と皮ばかりと言った表現がびったりとあて うなれば一遍に前へ出てくる。下手すれば党が割れるのさ。次の次はまった。 の膝にすがって泣きじゃく を狙う中出にしてみれば、それがいちばん困る。朝になってやっと令子と伊津子が身動きもしないトミー 棚下側へ入ることを承知した。今ごろは浮田もそれを耳にしてるだっている。 ろう。だが彼は深入りしすぎてしまった。もう引っ込みはつかな「これが今の政治だよ。アメリカとソ連、中国と台湾、ベトナムの : 間にはさまった人間はいみんなこんな風にされてしまう 。党大会は目の前だ。敗けると知ってて決戦の芝居をせにゃなら南と北 ん。 ・ : とにかく中出の件で全部おしまいだ。金もかかったがね」んだ。たとえ神の未裔だろうとな。嫌な世の中だ。何とかしようと 「いくら : : : 」 思えば、右でも左でも、手荒すぎるくらい思い切っ・たやり方をしな ければ事はすまない。俺はいま右にいる。しかし左の連中のやるこ 「四億た」 とだって、気持はよく判ってるつもりだ。駄目なんだ、このまんま 海津は無雑作に答えた。 「トミーが庶民代表か。ヒがまた民衆の身がわりになったのか」 七月五日夕方。 ヒははしめつからそう生まれついてい トミーカホルド ーへ入った。テレビは棚下幹事長の総裁就任を伝「大きにそうかもしれない。 えていた。小差で決選投票に持込まれ、一一度目には大差で棚下が勝るのかもな」

8. SFマガジン 1972年12月号

「どうして」 り、みごとに渡り切ったんだ・せ。僕はその中でも特に幸運だった。 。「この東京で田舎を偲んでいる人はしあわせさ。くにへ帰れば幼馴 ーのおかげで学校へも行けた。海外へ留学もできた : : : 」 染の山川がある。だがこの東京をみなさい。俺たちのふるさとの東「あの頃の彼の気持わかるかしら」 京はこんな町じゃない。四百年前ほどではないにしても、帰るとな「近頃少し判 0 たような気がしてる。しかし全部はとてもとても = ・ れば似たり寄ったり。時間旅行をしなけりゃならない」 ・ : 同じ歳のはずなのに、トミーは僕よりずっと年上の気がする。兄 令子は言いまかされたように肩をすくめ、組んだ脚をといてテー貴、いや父親みたいな気がしてるんだ」 。フルの上の灰皿に煙草を押しつけた。もみ消しながら言う。 「彼はあたしより三つ下。でもあたしだっていつの間にかあんたみ 「それにしても彼はどこにいるのかしらねえ」 たいな気分にさせられてしまっているわ。いったい彼のどこがそん 清田はそう言われて急に詫びるような表情になる。 なに偉いのかしら。あのとほうもない生活力かしら」 「もう少し待ってくれ。いい線まで行ってるんだが、ちょづと厄介「いや」 な問題にぶち当ってね」 清田は毅然とした表情になって断言した。「神の末裔だからだ。 「この前からそう言 0 てるけど、一体何なのよ。あんたのことだか産神の子孫だからだよ」 ら何かわけがあって私には言えないんだろうと思うけど」 「ま、彼が神の末裔かどうかは別にして、あんたの面倒をみたの 「済まないね。でもこれだけは言おう。世の中には、或ることを迂は、彼があんたみたいになりたか 0 たからなのよ , 濶に人に諜ったため、聞いた者が危険にさらされるというケースも「そうかな」 あるんだ。今の場合、特に令子さんは知っちゃいけない」 「そうよ。あんたは勉強ができた。学校の成績はいつも一番だっ 「そんなことだろうと思ってたわ。言いたくなければ言わなくった た。羨しかったのよ。彼も昭和の子供として、年相応の暮しができ っていいのよ。清田君をあたしは信じてる。清田君でなくづても、 たらって、そればかり夢みていたのよ。知らないでしようけど、い 錦糸町の子供部落の仲間はみんな信用できるのばかりだわ」 つもそう言ってたわー 「あの頃が懐しいな。僕はね、時々戦争に感謝したくなるんだ。た「へえ : ・ : こ しかにこの前の戦争は僕の肉親をみなごろしにしてしま 0 た。父も清田は意外そうに令子をみつめ、やがて照れたようにまた窓に目 母も叔父も叔母も = : = 残「たのは妹の広子だけだ 0 た。だが、だかをや 0 た。「しかしトミ 1 が年相応なんて、どだい無理だ 0 たさ。 らこそあの子供部落の生活を経験できた。子供だけが力を寄せ合っ だいいち十六か七で、三つ年上の女房を持ってたんだからな。それ て生きて来たなんて、今なら信じられるかな。今の過保護の子供たも相当美人の」 ちには、あの理屈ぬきの充実感はとうてい判らないだろう。三つ四「そうよ。あたしは美人だ 0 たわ。落下傘スタイルで銀座や新橋を つの子から中学生までが、びとかたまりにな 0 て世の中を押し渡歩くと、進駐軍の兵隊がゾロゾロついて来たもの」 6 っ ~

9. SFマガジン 1972年12月号

「レウ = リンとファルプリッジがレーダー塔を立てたら、クリンス零度ちかくを上下し、重ガスの凍てついた吹き溜りが地表をおおっ キーは耐熱服にもぐりこんで、出発の準備をしろ。測定器の位置をていた。 ロスが降り立ったところからは、向日側も暗黒側も見えなかっ トミニクがきみをできるだけ東の方に連れていっ つきとめしだい、。 て降ろす。あとはきみの腕しだいだ。われわれはきみの測定値を受た。たそがれ帯は福が千マイルちかくあった。惑星の軌道が傾く と、太陽はまず地平線上を移動し、それから沈んでいった。たそが 信する。だが、生きてもどってきてもらいたい」 れ帯をつらぬく二十マイル幅の帯状地では、向日側の熱と暗黒側の 「はい、船長」 寒さが中和して、かなり安定した温度を保っていた。その両側に五 「話はだいたい以上だ。さあ仕事にかかろう」ロスは言った。 だから、部下の乗百マイルずついったたそがれ帯のふちは、しだいに寒さと灼熱の地 ロスの仕事は、ただ指揮をとるだけだった 組員がせわしく動きまわって、割当てられた仕事を片づけていると域へととけこんでいた。 き、自分だけが一時にせよ、手をこまねいている立場におかれるのそれは近づきにくいふしぎな惑星だった。人間が耐えられるの を、快よく感じていなかった。かれの役目は監督だった。交響楽団は、ごく短い時間にすぎなかった。水星に永久に生存できる生命体 の指揮者のように、自分では楽器を弾かず、もつばら楽団員をまとなど、かれにはとても考えられなかった。宇宙服を着て「レヴ = リ ェ」の外に降り立ったロスは、あごの調整ボタンをそっとついて、 めて、終曲へと引きずっていくために、顔を見せているのだ。 光学グラスをさげた。かれはまず、暗黒側をのそき見た。そこに いまのかれは、ただ待つだけだった。 だが、幻想だろ レウエリンとファルプリッジが「レヴ = リエ」の胴にいれて運ばは、這い寄る暗闇の細い線が見えるはずだった う、とかれは思ったーーそれから、向日側を向いた。 れた、有節の耐熱キャタビラーに乗って出発した。二人の仕事はか はるかかなたでは、レウエリンとファルプリッジがレーダー塔と んたんだった。屈伸のきくプラスチックのレーダー塔を、はるか向 なるくもの巣状のパラボラアンテナを立てていた。空に浮かびあが 日側に立てるだけだった。第一次探険隊の残した塔は、ずっと前か ら何度も向日帯にさらされたため、溶けてしまっていた。。フラスチったぎこちない姿が、かれの目に映ったーーーそしてその向うには ? ックの本体とパラボラアンテナは、光りを反射するアルミ箔でおお山の蜂々が地平線にかすかに見えるのは、光りにふちどられている われていたが、向日側の焼けつくような熱にもちこたえることがでためだろうか ? これも幻想だ、とかれは思った。・フレイナードの 計算によると、ここでは一週間、太陽の輝きは見えないという。そ きなかったのだ。 太陽がもっとも接近したときの向日側の温度は、七百度にはねあれに一週間たてば、船は地球に帰っているのだ。 がった。水星が偏心軌道をも 0 ため、向日側の温度にはかなりの変かれはクリンスキーの方をふり向いた。「塔はだいたい立ちあが 化があった。だが遠日点にある場合でも、向日側の温度は三百度を 0 た。二人がいっキャタ。ヒラーでもどってくるかわからない。きみ くだらなかった ~ 暗黒側ではほとんど変化はなかった。温度は絶対は出発の準備にかかった方がいいだろう」 に 0

10. SFマガジン 1972年12月号

ゴルド ( は、そういう冷たさに気づいていたが、知らぬ顔をしてける石の重さの関係を工夫したり、投げるときの角度やカの入れ工 いた。立場がかわれば、自分だって、彼らと同じ態度をとったかも合などを修練していたのだ。 しれない、と思っていた。その前に、ゴルド ( は、人間というもの敵の主要な攻撃武器は、毒のある鋭い歯と太い尾だった。まず、 は、こうして群をなして暮しているうちに、色々なつまらない感情近づく前に、その二つを使えなくするのが肝心であった。すばやく に支配されるようになるものなのだ、と自分なりに悟ったような気動く尾に、投繩をまきつけるには、あらかじめその動きを計算して おく必要があるのだ。一方、頭の方をおさえるためには、敵が怒っ になっていたのであった。 彼は、肩の傷のいえるのを待って、また狩に出掛けることにして頭をもたけだ瞬間を狙う以外にはない。 た。最初の成功で、すっかり気を良くしていたのだ。 ゴルドハは、試みに繩を三本としてみた。石も三つとなる。その しかし、肉屋の主人は、決して彼の期待していたとおり、獲物をひとつを手でにぎって、二つの別な石をぐるぐる振りまわしながら かいとってくれたわけではない。彼のことをひどくほめたたえはし投げる新しいやり方であった。 たが、売値の交渉の段になると、急にしぶくなった。 はじめは、投げにくくして目標を外してしまったが、何回も練習 とゴルド ( はまた悟り顔でおもっするうちに正確に投げられるようになっていた。となると、攻撃目 商人なのだから仕方がない、 た。一方、彼の立場もまだ弱かった。いやだからといって、自分で標にからみつく率はずっとよくなった。 この新しいやり方を使って、ゴルドハは、獲物を効果的に動けな 売りあるくわけにもいかないのだから : 「その代り、捕った獲物は全部かいとってあげよう」と商人は約束くしておき、敵が弱まる頃合いをみはからって、あおむけにしてし まうのだった。背中の外皮にくらべると、腹側の皮膚はずっと柔ら かいのだ。この部分は、兇暴な大とかげに似つかわぬほど、白く 「お願いします」とゴルドハは頭をさげた。 しかし、翌日、その店の前をとおりかかると、ゴルド ( の捕ったややかでさえある : こうして、尾と頭を繩で固定されてしまった大とかげは、地面の 大とかげの肉が、いつもの値段よりずっといい値で売られているの / の意のま だった。店の主人は、大とかげの皮をそっくりはぎとって、頭付き上で、身をよじらせて、もがくのだった。もう、ゴルド、 のまま陳列していた。住民たちが、その前に立ちどまって、感心しまとなる。短い四つの足を上へむけて、でかいずうたいをくねらせ ながら眺めていた。決して悪い気持はしない。ちょっとばかり複雑る大とかげの姿は、哀れでさえあった。ゴルドハは、とどめをさす ために、鋭く割った石片を長い柄の先にとりつけた道具をとりあけ な気持だったが : る。そして、そのいくぶんしわのよった一番柔らかそうな、後肢の 二度目の狩は、要領を知ったので、ずっと楽にいった。むろん、 つけね部分へ狙いをつけておいて、ぐさりとっきさすのである。 肩の傷のなおる間、台地の上へ毎日の・ほって、例の投繩の技術を、 こうして、ゴルドハは、沢山の大とかげを仕留めては、肉屋へ持 ひそかに練習しておいたおかげもあった。繩の長さと両端にとりつ 幻 2