現実 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1972年2月号
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1. SFマガジン 1972年2月号

もどりそうにもありませんね。また : ン : 」とイシャウッド教授はっとたちまち羞恥の反応をおこすのだった。この少はある下町のレ づけた。「食べすぎらいの子供が、親に叱られた腹いせに食卓の料ストラン経営者の娘で、ときどき店に給仕に出ていたが、中には下 5 理にのろいをかけたため、町中の食物が全部石になってしまった例品な客もいて彼女のお尻を撫でたりすることがあり、ひどくいやが がありましたヨ」 っていたという。やがて、この羞恥の空間的限界は、触ろうとす ることから、見られることへ、更に人間ばかりでなく、食器などの 「魔法使いみたいですね」 「確かに。妖術や魔法の成り立っ立地条件が、元々この火星の時空物まで遠ざけるまで進行していった。以上がこの少女の病歴だが、 構造の脆さにあるのです」 つまり拒食症は、食物や食器が、自分の体の表面の限界を越境し 外をみると、相変わらす暑そうだった。 て、自分の内部にふみ込んでくる恐怖感から惹きおこされる神経症 はや、事物は匂いを発しはじめており、甘ずつばさや、肉のやけであるのだ。 る匂いやその他、まるで菓子屋やレストランの調理場や、酒倉の中「むろん、ヴィヴィさんの場合は、この少女の場合よりもはるかに や色々の匂いをごたまぜにしたような嗅覚的洪水を呈していた。 深刻で復雑ですがね」と〈ワタシ〉はいった。「彼女の無意識に 「かないませんね。この匂いは」 は、あの嗜食症的な〈ダリ〉氏に対する根本的な嫌悪感と恐怖心と 〈ワタシ〉は窓をしめながらいった。 が沈澱しています。彼女の母親が、それを幼時期のヴィヴィさんに 「なんとかなりませんかね」とイシャウッド教授もいっこ。 ・教えたのでしよう。しかも彼女は、早く失った父親の代償を、あの そのとき、ひとつのアイデアが〈ワタシ〉の意識にふと浮んだ。 祖父である〈ダリ〉氏に投影しております。だから〈ダリ〉氏は、 「教授、うまい手段がありますよ。その食べずぎらいの子供の話で彼女のエデイプス・コン一フレックスの対象でもあったわけです。ま 思いっきましたが、ヴィヴィさんを利用しましよう」 た事実、〈ダリ〉氏とヴィヴィの母親の間には、ある具体的な恋愛 関係があったようですし」 「ヴィヴィさんをですか」教授は不審気に〈ワタシ〉を眺めた。 「そうです。彼女の拒食症を〈ダリ〉氏の嗜食症に対抗させるので「知っています」とイシャウッド教授はいった。「この火星では、 す。無意識の潜在キャパシテイからいっても、ヴィヴィさんなら十ごくありふれたことなので、私は別に驚きません」 分にうち勝てますよ」 「そうでしたね」と〈ワタシ〉はつづけた。「で、当然のように幼 これは単なる思いっきではなかった。 時期のヴィヴィさんは : 自分の母親を奪われまいとして、祖父を憎 そもそも拒食症とは、精神病理学的観点からいって、その実存的みました。むろん無意識的にですが。が、その強大な憎しみがそこ 空間構造と大いに関係の深いものであるのだ。たとえばの一例だに沈澱されたとき、一緒に〈ダリ〉氏の嗜食症的性癖への嫌悪感も が、〈ワタシ〉は以前、ある拒食症の少女を治療したことがあっ沈澱したというわけです」 た。この患者は自分のもうけた空間の垣根の中に他人が入ってくる「ヴィヴィさんの拒食症は、〈ダリ〉氏の嗜食症の反動であるわけ

2. SFマガジン 1972年2月号

3 完全に止めるという。 り、むずかしかった 何とかこれを手軽にーーと考えたのは英国の航発泡プラスチックといっても、いったん敷設す 0 空技術者たち。さまざまな材料を検討したあげれば数年間はそのままで大丈夫。飛行場といえば く、。フラスチックで飛行場を作ることを思いつい固定したものという考え方はもう古い。いずれ海 岸やスキー場など、季節ごとに人が集まるところ にも、手軽にこの ナイロン繊維をネオプ プラスチック空港 レンで覆った八十六平方 がお目見得するこ フィートの。フラスチック とになるだろう。 ・シートを、必要な長さ だけつなぐ。平らなとこ ろに広げるだけだから、 ■現代の錬金術 場 そう大した時間はかから 行 よい。現用の滑走路ほど 中世の錬金術師 飛 のものを作るのには二十 みが果せなかった夢 四時間もあれば充分。 」が、実現しようと テスト離着陸は大成功 りしている。化学原 だった。双発の飛行機で 折子炉によって、原 の テストしたが、。フラスチ 子や分子の組み合 製 ックの柔かだが強じんな わせをかえ、さま ク 特性が見事に生かされて、 ッざまな物質を作る アスファルトの現用滑走 ロ チ研究が進んできた 折りたたみ飛行場 路に負けない成績をおさ からである。 人類の乗り物が高速化するにつれて、むずかしめたという。 プ東京大学理学部 物理学教室の宮本 くなってきたのがその止め方。ジェット機からス着陸のさいこわいのは 梧楼教授らの研究 オーバーラン。滑走路か ペース・シャトル機へと、乗り物の方は進んでい グルー。フは、化学 くのに、止め方の方は広大な飛行場以外に、これらはみ出す事故を防ぐた 加速器の開発研究 め、これまでの飛行場で といった名案もないようである。 を進めた結果、こ この飛行場というのは、極めて始末に悪いしろは芝生のオー・ハ 1 ラン地 のほど第一号機の もの。成田の土地収用騒劾のような問題はさてお帯を設けたり、ネットを 試作に成功、本格的な実験にとりかかった。 くとしても、発着しない場合は、何の役にも立た張ったりしている。 しかしこれにもプラスチックが活用された。滑この化学加速器は、比較的低いエネルギーをも ず、利用度の少ない飛行場の経済効率は極めて悪 ュリア・フォルムアルデヒド樹脂をつ中性子やイオンのビームを反応物質に当て、そ 走路の端に、 の中の原子や分子に衝突させて、新しい物質をつ それかといって、滑走路を作るには巨額の経費基とした発泡プラスチック液をまいておくのだ。 と大がかりな工事が必要。効率が悪くとも、簡易散布されるとこのプラスチック液は、すぐ固まくり出す。 いまのところは実験段階だが、理論的には思う に片づけることもできない。まあ定期航空路線のって六・三センチ当り二十二・六キロの圧縮強度 飛行場はいいとしても、不時のさいの緊急用としを持つようになる。実験の結果では時速百十三キがままに原子や分子の組み合わせを変えて、ねら て、飛行場を作ることは、余程のことがない限ロで走ってきた飛行機も、九十一メートル以内にった物質を作り出すことも可能なわけだ。 あな こ 0

3. SFマガジン 1972年2月号

コンべのほうは、・ほくの婚約者ミ ーへの対策にあけくれして 無責任なことをいいはじめた。この男の故郷では、なにごとにつけだ、・ にロツ・ファウト 科学万能だからゴンべはいわば落伍者として疎外され地球へ流れていた。くりかえして母星に連絡をとり、コンタチ・ハーヌ星の政府首 きた。そのせいか、こと科学に関しては、必要以上に拒否反応を示脳からミリーにむかって、婚約者ーーっまり、・ほくに協力を要請し た事情を釈明させることに、とうとう成功した。つまり、コンタチ す。 すみつき ・ハーヌ星の政府のお声がかりという、けっこうなお墨付をとりつけ ・ほくは、しかたなくコンビュータの記憶・ハンクから、必要な情報 ミリーから、・ほくのところへ祝電がとどいたの を引きださねばならなかった。この異星人とコンビを組んでーーとたわけだ。そして、 いうより正副パイロットの役目を一人でやってのけ、さんざん苦労は空間の歪みからくる時差をさしひけば、それからものの三十分も たたないうちだった。昔から、女が外国人ーー異星人に弱いのは、 させられているから、今度だけ怒る気にもなれなかった。 問題の惑星は、地球とほぼ同しような大気組成をもち、表面温度あたりまえのことだ 0 たのだろう。 も温暖なほうで、生物の発生には適していた。事実、この惑星の原そんなわけで、・ほくは、後顧の憂いなく、惑星チースリクに到着 住生物は、地球でいえば、ネアンデルタール段階くらいまで到達しし、さっそく問題の調査にとりかかった。 中継基地のコンタチ・ハーヌ星人は、原住民とはできるだけ没交渉 ている。従って、この惑星のうえに中継基地を設けた、コンタチ・ハ にすごす方針をもっていた。いずれにしても、基地をかまえるから ーヌ星人と交渉をもつようになったが、もともと別の系態の生命だ 、よ、。したがって、原住民の言語解 には、交渉しないわけこよ、 から、特に深く干渉しあうことはなかった。星間航行種族のほう も、この原住生物の生態的均衡には気をくばり、人為的に棲息環境読をおこない、その言語を用いて基地に近づかないように警告を発 し、もし近づく者があれば弱い電流で撃退しているという。こうし を破壊したりしないようっとめている。 たことが重なるにつれ中継基地そのものが、原住民の禁断の聖域と ところが、この知的な原住生物の数が、しだいに減少しはじめ、 どうやら絶減の様相を呈しはじめた。そこで、コンタチ・ ( ース星人なり、近よる者もいなくなったという。 「もちろん、もうすこし友好的な方法もあるでしよう。しかし、わ っこうに原因がっかめな も、大あわてで対策を考えはじめたが、い 。そこで、ゴンべの提案が採用になり、かくいうぼくが招かれるれわれは、基地として使用する土地だけを、かれらの手の触れられ ないものにするたけに、とどめておくべきなのです」 ことになったのだ。 コンタチ・ハ ーヌ星人の司令は、なかなかもののわかった人物らし ともかく、科学的テータや、宇宙航法に関しては、はじめからゴ ンべをあてにしていないから、・ほくだけでなく、当のゴンべも気楽く、現状をかくさずに話してくれた。 たしかに、ヒューマニズムをふりまわせば文句をつけたくなるや なようだった。 5 この惑星チースリクへ着くまで、・ほくは、さまざまなことを勉強りかたにはちがいない。だが、臭素生物であるコンタチ・ハーヌ星人 8 と、【炭化水素系の哺乳類である原住民とでは、形態がまったく違 しておいたが、はたして役にたっかどうか疑問だった。そのあい

4. SFマガジン 1972年2月号

9 れれ 爆発したため、会社は彼の能力を疑い退社を命 附属幼稚園の入試に合格。九月入園。十一月、弟絛一 じた。のち、宇宙航空工学のディジイ・ディッ 生。 キンソン博士は、この装置をヒントにして荷電 一九九八二月、成一「二十一世紀全予測」出版。・ヘス 微粒子流執源化装置の開発に成功、ノー・ヘル物 ト・セラーとなる。幼一エンジ = ル英才教育研究所附理学賞を得た。 属小学校に推薦され、九月進学。十月、成一「二十一註七・三十一世紀全予測」出版の功績によるも ( 註七 ) の。 世紀開幕祝典準備委員ーに推挙され、十二月、就任。 註八・演奏不能であることが判明したため。これ 一九九九幼一、十六音階音楽による「二十一世紀の・ハ より二十一年後の二〇一一〇年、十六音階用の ラード」作曲。ジョン・ケージ作曲賞を受賞。受賞式 楽器が製造されたが、この曲はついに演奏され のため単身ニ、ーヨークへ旅行。五月一日、受賞式に なかった。楽譜が見つからなかったためであ ( 註八 ) る。 出席。その席上、受賞を取消される。幼一七歳。 註九・「二十一世紀全予測」に科学的誤りが多い ニ 000 一月、成一「二十一世紀開幕祝典準備委員」 ことを科学者会議より指摘されたため。 ( 註九 ) をおろされる。五月、一家はニ = ーヨークへ移住。五註十・蛹山一家は引越しのため、旧式の帆船を博 ( 註十 ) 物館より購入し、これで大西洋を渡った。これ 月十二日、母ジョアンナ死す。幼一、キャ。ヒトル・ には多数の客を招き、航海中は夜ごと甲板でパ ドル・スクール一年の編入試験にパス。九月入学。 ーティを開いた。航海二日めの夜、ジョアンナ は酔って、ダンスの新しいステップを考えたと ( 註十一 ) 称し、招待客のスペイン人口メロと踊り狂い ニ 00 一この年一月「二十一世紀開幕祝典」開かる。 あやまって海へ転落して溺死した。一一干一歳で 四月成一、アンナ・マリア・テレーサ十八歳と結婚。 あった。 註十一・この祝典では、二十一台の太陽系外曳光 ニ 00 ニ成一、画像情報社設立。幼一、デッカ・ ロケットが世界中でいっせいに打ちあけられ スクール三年の編入試験にパス。九月入学。幼一十 た。これはもともと蛸山成一の案で、一時は廃 歳。 案となったのだが、他にいいアイデアがなかっ ニ 00 三二月、幼一、テレビにリズムトーン独奏で初たために実現したのである。 出演。三月、シ = ーンベルク協会より音楽家奨学金を註十ニ・アンナ・リア・テレーサの兄、。ドリ ゴ・ロドリゲスに乗っ取られたため。のち、画 得る。 像情報社は業界一の大企業となり、ロドリゲス ( 註十一 l) ニ 00 四成一、画像情報社を退社。アンナ・マリア・ は終生情報産業界に君臨し、画像の帝王と呼ば 7 れた。 テレーサと離婚。七月、李長英と結婚。九月、幼一コ

5. SFマガジン 1972年2月号

銀河宇宙に平和が訪れ、テセウスには英雄としての安楽な ルトンは鉱道に酸素を充たし、相変らずビルの片隅にうずくまって ーテ いた。。フルトン日ミノス会社の社員が、プルトンに他の星への移住日々がやってきた。しかし、テセウスは新しい冒険を求めた。。 ( イや講演会の続く日々の多忙なスケジールの間に、彼は冒険地を を推めると、「おれたちに、かまわないでくれ ! 」と叫んだ。しか し、そう叫んだのは、。フルトンではなく、。フルトンの背にまるでシあさ 0 た。リラ幻星のガス内への突入、アンドロメダ宇宙〈の単 ャム双生児のように突き出たもう一つの首であ 0 たそうだ。そして独飛行、星群の魔獣の捕獲など、いわゆる冒険家向きの話題に その首はミノスのものであ 0 たという。しかし、これは必すしも多はこと欠かないが、彼が本気で、少なくとも地球破壊以上に真剣に こんにち命など決して価値あ くの人々に確認されたことではなく、プルトンⅡミノス会社の社員命を賭けてみたいと思う冒険はない。 がプルトンの背のこぶを見間違えた錯覚たろうといわれている。やるものではなく、宇宙的思考では単に星にへばりついた屑のような がて、。フルトンは姿を消したが、同時に彼の巨大な財産もなくな 0 もので、そんなことは宇宙物理学的に証明されているのだが、テセ ウス個人にとってはそうではなかった。或いはテセウスの精神には ていた。これも確認された事実ではないが、地中深く潜ってしまっ 人間として欠点があったのかも知れない。大宇宙の中で生まれ、そ たのたろうといわれている。 して消え去るという、あたりまえのことが彼には了解できなかった どうやらスペース・オペラにならなかったようだ。もう少しのだ。そして、その結果彼には大英雄となる素質が生まれてい 0 た のである。いわば、彼は他の兵士たちのように戦って死ぬことがで カッコいい若者を登場させて出直しをはかりたいと思う。 きず、自分で何かを行い、そして生き続けたかったのである。 2 ラビリンス星と呼ばれる殆ど無名の旧太陽系連邦の星につい テセウスは冒険好きのカッコいい若者だった。十歳の時に密 4 航して故郷のカペラ星を脱出し、様々な職業を経験しながら多てテセウスが知 0 たのは、終戦から三年経 0 てのちだ 0 た。その星 はかってデモンナイトの産地だったそうだが、数千年前に廃鉱にな くの知識と技術を身につけた。そして、十八歳で星の軍隊に入 っており、一時期にはその穴だらけの奇妙な景観によって大観光地 ったが、太陽系連邦と戦って数々の武勲をたてた。中でもデモンナ となった。大観光地となった理由はもう一つあって、その穴・ほこの イト爆弾で太陽系連邦の聖地とされる地球を岩くすに変えてしまっ たのは有名である。銀河系の〔ーカル地でしかない太陽系連邦の巨中に「プルトンの財宝」と呼ばれる巨万の札たばが埋もれていると いわれたのだ。むろん、今日では太陽系連邦の札たばなど何の値打 大な権力は、正に地球を聖地とする信仰に支えられたものであった ラビリ - からだ。地球の崩壊は銀河宇宙を解放し、新興星の自治権を確立しもなく、テセウスが注目したのはその財宝のためではない。 た。テセウスは巧妙に太陽系連邦に入り込むと、敵の戦闘船を奪いンス星の穴に深く入り込んでいった人々の全てが戻ってこないとい 取り、地球とやらいう星に爆弾を命中させて、驚異的な五十光年ワう神秘的な伝説があったからだ。 テセウスはラビリンス星の資料を集めた。そして、伝説がほ ー。フで脱出した。そしてカペラ系の大英雄となったのである。 338

6. SFマガジン 1972年2月号

たちの談話入りの科学解説を流して、この巨大な彗星がいかに見か とういうわけか外出するたびにシティ・カーが おまけに昼間は、・ なかなか捉らず、さんざ待たされた上に一度などは、いざ走りだしけ倒しであるかを強調したものだ「た。頭部の直径およそ六〇万キ ロ、尾の長さ三千万キロ、重さ数十兆トンにおよぶハリー彗星の密 てみたらコン。ヒ、ーター末端器の故障で目的地に行かずとんでもな いところへ連れて行かれるという有様。しかも、夕方になってふと度はしかし、地球大気のわずか十万分の一にもみたない稀薄なもの 気づくと、昼間のあいだ中はいまにも雨が降りそうに曇 0 ていた空だ。七十六年まえーー一九一〇年に地球とすれちがい、その尾はじ が晴れはじめ、会社を出る頃にはす「かり晴れあが「た夜空に星の 0 さいに地球大気とふれあいさえしたのに、地球にはなんの影響も よ、つこ、したがって数十万キロまで接近する今度の場合などは、 ほとんどオカナ 数々が出はじめていた。そして、はっとしたとたんに 全く何の心配もいらないーー、解説者は繰り返しそういった。そして 反射的にーー見てはならない南の空を見てしまったのだ。 もちろんたいていの者がそれを信じていたし、信じていけない理由 そこに、あいつがいた にもかかわらずまた、たいていのものが、闇のなか 初夏の南天をほ・ほいつばいに占領しているヘびつかい座のほ・ほ中はなかった にくつきり白い人魂様の彗星を見るたびに、何か不吉な、いわれな 央にぐいともたげた蛇遣いの頭ーーーラスアル ( ゲのすぐ近くに、は : それがどこか い恐怖のようなものを感じないわけこよ、 っと息をのむほどに白く、大きく、奇怪な光の塊ーー何度見ても、 それは、たんなる天体ではなく、何かほかのものーー・たとえば夜空らか災厄の種子を運んでくるような、不合理な不安を抱かないでは いられないのだった。 の闇のヴェールの破れめか、それとも、天空の一角にひそみ、じっ だからこのごろ夜空が雲におおわれて彗星の姿が隠れていること と地球人類に襲いかかる時期の来るのを待っている巨大な宇宙怪獣 を、さすがロに出して願うものは少なかったが、心中ひそかに念じ の目のように見えた。 ー星ているものが多くー・ー彼自身も、やはりその一人ーー人一倍強い念 七十数年の周期をまもって、また地球に接近してきた ( リ 。こっこ 0 願を持ったものの一人で、そのためうつかり見てしまったときは、 彼は自動走路の上で思わす目をつむり、身体の・ ( ランスを失 0 てそんな枯尾花に似たガス体なんそに慄えるわが心のふがいなさや、 倒れかけて、前に立っていた女によろけかかって、サイケなくま常日頃胆に銘じていたのを手もなく忘れた不注意さや、そんなこん ながたちまち昻じて、いっそう不愉快な気分のなかにつかってしま どりをほどこした眼でにらまれた。人によっては、とくに女のなか うのが常だった。 ー彗星の脅威など、まったく感じない者が多かったのだ。 その夜の最初の酒は、そんな、かたちとて定かならぬ腹立たしさや そうだ。 事実 ( リー彗星は、何らおそるるに足りないものではあ「た。まるせなさ、いわば何者かへの愁訴といった気持が飲ませたといって だ冬のうちに、それが肉眼で認められるようにな「た頃は、テもいいのだが、一杯が二杯、二杯が三杯、四杯五杯とグラス重ねる 0 レビやファクシミリ・ = ーズでは、繰り返し天文学者や物理学者うちに、そんな不安定感はいっか意識の底へ沈んでしまい、同時に

7. SFマガジン 1972年2月号

だが、一応総ての ( ? ) 謎が提出され尽くしたツチリ。大阪人は、よろずゆとりあるをよしと てくれるんだよ。ああいう本屋だからがいっ ばいあるんだろうね。早川書房のみなさまの目も頃になってから、急速に萎えてきた、と思ったのし、血相変えて目くじらたてるを「イチビリ」と 0 2 、ろ、ろ本屋があるけどあの本屋に置いたは私ぐらいのものであろうか ~ 読んでいてどう申して軽蔑致しますから。 ( 奈良県奈良市登美丘四丁目七九一の八九社宅三 のは偉い。しかしまたまたボクのヘソクリが、減もだれてくるのだ。 るね。まったく、もっと安くならんもんかね。 以前荒巻氏より聞いた言葉に「小説がつまらな 0 一一水阪圭一 ) まあいいや、・ほくの町の 00 堂本屋と、早川書くなってきたら、女の裸を出せま、 房と、平井和正さんに祝福あれ、・ ( ンザイ ! 談めいたのがあ「たが、その言葉が想い出されて最近のにはンガが毎号、掲載されるよ ( 千葉県茂原市早野 3550 日立社宅 3 区四号仕様がなか「た。多少ではあるがドラとテーうになりましたが、たい〈んうれしく思「ていま 海老原務 ) の間に分離するものがなかったであろうか。 それにしても処女長篇で、これだけのものを書さて、ここで現在までに掲載されたン 日本ノヴ = ルズ第一一弾、半村良氏の処女大いた半村氏におしみなく拍手を増りたいし、まガの中から、はなはだ主観的にベストを選び出し た「やったなア ! 」と感嘆の言葉も吐きたい心境てみました。 長篇『石の血脈』早速、読んでみました。以前マ ・ガジンに中篇の形で発表された『赤い酒場を訪れも事実である。日本界も、これで荒巻氏、そしベスト 1 「ダフィン」松本零士作年川月号掲載内的 たまえ』を、多少異なる視点から見つめ、さらにて半村氏の二人を迎え、新たな局面を迎えたよう 深く広く書き込んだものーー全体的に受けた印象だ。この両氏とも長い間充分に書き込んでいただ宇宙のたくみな表現と新鮮なタ ' チに対して。 は、多分誰もがこの様なものであったと思う。そけに、さすがという感がつよい。最後にこのベスト 2 「ドアベルマン」手塚治虫作年 2 月号掲載 れにしては、何という違いであろう : : : 『赤い酒ノヴェルズのシリーズが今後益々発展していくよ うにーー以前の日本シリーズの様な尻きれと人物・の独創的タ ' チと結末の意外性に 場」に凝縮され、昇華されつくしていたものが、 ここではものの見事に発散したのはいいが、そのん・ほみたいな真似だけは避けて欲しい、と念じっ対して。 ベスト 3 発散したものが、四方八方に飛び散り、行くあてつべンを置きます。 「地球終末」斎藤和明作れ年 1 月号掲載四枚 田島研次 ) もなくさまよっているままに終ってしまった様な ( 住所をお知らせ下さい 目、ビールスによる砂漠化。五枚目重力消減。 気がする。 六枚目高圧による結品化などの迫力みなぎる緊 小説のほ・ほ三分の一はセックス場面の描写に費つれづれなるままに、日暮しコタッに向いて、 迫感に対して。 やされている。それは、この作品の重要なテーマ古きなどひもとけば、アーラ、ガクゼンー となり得るものだから、仕様がない、と言えば仕昨年 9 月号に我が古女房の一文が本欄のトップをベスト 4 「緑のハテ」手塚治虫作年 7 月号掲載 様のない事ではあるが、ひんばんと登場する陸み飾っておるではないか。そういえば、いっかもコ ファンシーフリー第五話 合いには、いささか食傷気味になる事もいなめなナン・シリーズ、まだかまだかと催促にゆくもの アダムとイ・フについてのおもしろい解釈に対し だから、本屋のオッサンにお・ほえられて、何も言 て。 セックスだけがテーマではあるまい。それならわぬ先から手を振って断られたとポャイておっ ば「不適応者の群れ』の方が、よっ。ほど素晴らした。更にまた、の本棚を見ると「ナントカベスト 5 : ・もっと他に書き込む必要があったものはなの手帖」の間に、ターザン・シリーズなどがずら「大いなるスペース」広瀬正・水野良太郎作 りと並んでおる。お互いョワイ三十路を越しなが年 8 月号掲載 かっただろうか。 メチャメチャなおもしろさに対して。 前半は、ぐんぐんと作品の中に引きずり込んでら一風変っておることは間違いなかろう。 以上勝手気ままに選んでみました。 ゆく。これは、半村氏の筆力がただならぬものとだが、まあいいじゃありませんか。大トルスト いう事が非常によくわかる。彼が短篇で見せる独イも〈ミングウ = イも、中村光夫センセイから孫なお、最近作では、第一五二号掲載の山上たっ 特の味は、やはり長篇であ 0 ても一向に変りはな引きして言えば、所詮「無用のわざ」に過ぎませひこ作「夜があけたら」、松本零士作「海軍拳銃一 八五一」が深みのあるタッチとストーリーでよか ん。オアンビはオアンビ、楽しくやって本業はパ く、それどころか益々冴えている、と思った。

8. SFマガジン 1972年2月号

火星の砂塵、金星スモッグ共対策人にも完全に副作用を起こさないこ 結論は小委で再検討へ 具体案に対する財源のオソマッさが とと、同じ葉が同星でも大量に栽培 宇宙公害対策委員会 ( 木星工州 ) つりあわす、さらに加えて各惑星自 できる見通しがついたため。 治権のワク内では不可能に近いこと 当分は、火星からの輸入に頼るが 〔ェイサク〕先月一一十九日より木星 なければ困るとの強行意見が支配的 から、宇宙自治省の予算の大量獲得 水星の愛煙家にとっては何よリのう ェイサク州で開かれていた宇宙公害 であった。事実、ここ数年、ゴキゴ ができるまでおあすけとなった。 対策委は、何の結論も引き出せない キンによる被害は下降線をたどって 進歩のための犠牲はっきものだが まま昨夕幕を閉し、小委員会に下駄 おり、完全撲滅にあと三年かかると 来年度予算など 環境衛生に対する宇宙連邦の姿勢が をあすける形となった。 云われている。 承認 ( 月チャイカ州 ) あらためて問われたかっこうだ。 ロケットの騒音、排気ガス、火星 トラクターなど の砂塵、金星の有毒がス対策と重要 〔チャイカ〕月チャイカ州議会は昨 海王星経団連訪金 二ⅱ大量買付けか 議題をかかえた公害対策会議が、何 日、来年度予算などすべての案件を 〔シェファード 〕海王星経団連は、 が開発五ケ年計画を三年で達成し、 承認閉会した。 ひとっ解決のメドをつけぬまま次回 メンデル団長以下十五人を金星に派 すでに新らしく十ケ年計画でナター に持ち越したことに、各惑星住民の 総額二円五十銭にのはる来年度予 空港に着 遣、昨夕金星シェファード シャ州の大開発にかかることになり 算の中には、月裏面の照明機具調整 ・不亠値はか / 、ー ) 医、れない そのための機材を買い付けたいと語 ロケッ 費、太陽電池の再開発をはしめ、老 トの騒音と排気ガスは木星 一行はただちに金星のホテル・ス ではゴキプリ怪獣ゴキゴキン退治に 化した博物館修理費が含くまれてい ズキで金星側経団連首脳と会見、商 農業中心の海王星では、機械工場 最も有効とされておリ、ゴキゴキン る。また博物館に納められている米 談に入った。 建設より、他の惑星から設備を購入 を完全に一掃するまでは現状維持で ソ両国の、人類史上はしめて月に到 この席でメンデル団長は、海王星 した方が経済的なため、このところ 着した時に残した記念機材の痛みが 各惑星工業は機材売込みが活発だが 地球再建調査団きよう出発 はげしく、一部は風化しているため、 金星からは、大型トラクター、プル それらの修理費には、 かなりの額が ーサーを五万台買い付けたいとい 〔東京〕三鷹 れ、ミノベンジャー氏以下千名の受 計上された。 っている。 天文台に昨夕 入れ委員会が到着を待っている。 またクレータ団地十万戸の増設が 長 入った報道に 今度の議会で承認された。規模は今 木星ペ市に百三十番めのコンピュートピア キよると、 ,. 水星 年と同し八から十の小 の地球再建調 〔ベガサス〕木星リンゼー州べがサ新のものとなっており、早くも各惑 型タイプ住宅。団地内には百万坪の 査団が東京時 ス市が同州百三十番めのコンピュ 星都市から視察申し込みが殺到して 緑の公園が二十ヶ所も建設される。 間で今夜八時十六分二一秒五時にジ トピアとして誕生、昨夕、市主催の いる。すでに月連邦技術団は第一陣 ャンボ・ロケットで鹿児島に発つ。 盛大なバーティーが開かれた。 を同市に送り込んでいる。 カ氏親善訪天 水星人の団長キ・ロン・ムチニク 同市は人口一億人の、州都テレシ 〔チャイカ〕チャイカ市住宅公団総 ガン・タバ、水星 ルサンシブハチマスキー氏以下五百 コワに次ぐ商工業都市だが、新型コ 裁カナカナ・カアチャン氏は、かね 人の - 一行が着くのは、来月一一日午前 でも今秋より発売 ンピューターの開発に手間取ったた てから招待を受けていた天王星住宅 九時四十六分の予定。 め、コンピュートビアとしての都市 〔ガリレオ〕ガン・タバでおなしみ 研究会議へ、親善訪問のため今タ同 スラム化寸前の地球再建のため伊 機構がいちしるしくおくれていた。 のタバコ「サンシャイン」が今秋か 星に向けて出発する。 藤有恒地球対策委員長が、調査を依 それだけに今回、新らしく生まれ ら水星でも発売されることになった。 7 一行にはタンゲ・ルナ住宅設計委 頼したもの。地球側受入れ対策はす かわったべがサス市のコンピュート 火星産のタバコ葉にだけあるガン 員長、エドワルド・インテリア研究 2 でに完了し、あらゆる資料が集めら ピアとしての機構は木星最大かっ最細胞破壊要素入りのタバコが、水星 室長が同伴の予定。 第