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検索対象: SFマガジン 1972年2月号
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1. SFマガジン 1972年2月号

「ヴィヴィさんの内から外への顔望は、強圧的な専制者〈ダリ〉氏 ですね」 「そうです。そうにちがいありません」と〈ワタシ〉は確信を持つや冷たい〈ダリ〉邸の雰囲気によって拒絶され、それによって反動 5 てこたえた。「よく、拒食症患者は『物が遠のいてみえる』と訴え的に、外部世界を拒絶しかえすようになりました。実をいうと彼女 ます。ということはこの神経症が、空間性と密接に関係あることをの機械恐価症も、地球社会という彼女の留学先の外部世界への拒絶 示しています。直接原因は様々でありましようが、生活史的に規定反応の一様式にすぎません。むろん彼女は、人工臓器のことを知り された隔離的傾向が空間性の異常をとおして食欲喪失にまでいたるません。が、知らされていなくても、彼女の無意識はちゃんと知っ のです。元来、人間とは孤独な存在です。人間の内面は、つまり内ているのです。機械それは外部世界の冷たさの象徴です。ヴィヴィ 的宇宙とい 0 てもよいでしようが、それ自体が閉鎖された世界なのさは、その内側に外部世界の冷たさをとりこんでいるのです。こ です。それが、成長発達の過程を通じて、外部の世界つまり外的宇の矛盾のために、ヴィヴィさんの神経は過敏になっています。同時 に、内なる声の命令は、外部世界の存在である食物を拒否します。 宙とつながっていきます。外部の事物を知り、他者を知ります。こ うした人間の発達史的過程にあって、食空間いいかえれば、一家だそして食物ばかりでなく、彼女を抱こうとして近寄ってくる男性た んらんの食卓の場は、非常に大切な役目を果します。栄養摂取の過ち、彼女の結婚候補者たちの全てまでも拒絶するのです : : : 」 「きわめて複雑ですね。しかし、わたしとあなただけが例外なので 程における人間関係、その信頼関係が人間の内的宇宙の窓を開き、 そこより外的世界との交流が生まれます。ところがヴィヴィさんのすね」とイシャウッド教授はいった。 「ええ、まあ」と〈ワタシ〉は曖昧にいった。「私共二人だけが、 成長したこの〈ダリ〉家の雰囲気はどうだったでしよう」 「決して暖かいものだったとは思えませんね」とイシャウッド教授彼女の傷ついたそして満されなかった父の像の代りをできる可能性 よ、つこ。 はあります。まだ幼い精神状態のまま発達のとまったヴィヴィさん いいながら〈ワタシ〉は、 の無意識は、一方では父を拒絶しながら、やはり強い庇護者として 「で、しよう。私もそう思いました」と 松葉杖をめぐってヴィヴィと〈ダリ〉氏との間におこった、あの冷の父、彼女を外的世界の拒絶性と恐怖から守ってくれる騎士を求め ていますから」 たく憎悪に満ちた対立を思いだしていた。 〈ワタシ〉はつづけた。「ヴィヴィさんのこうした生育歴にひそむ「なるほど、なるほど」と教授はコックリコックリとうなずいた 潜在的な傾向が、地球でおこなった人工臓器移植手術によって、神「で、初めの問題にもどって我々は一体何をするのですか」 「ヴィヴィさんに、あの人工臓器の事実を教えてしまうのです。そ 経症として誘発されたのだと考えられます。つまりですね、彼女の イゼット 内から外への拒絶、つまり機械恐怖症の、現象的な表われ方の変型れを知ったとき、彼女は一時的に錯乱状態におちいるでしよう。彼 女の意識のおおいは、その瞬間に消失し、意識下に抑圧されている として、拒食症をも併発しているのです」 無意識が噴出し爆発するはずです。そして、一切の事物を拒絶する 「といいますと」

2. SFマガジン 1972年2月号

とではないが、あまり科学的信憑性などにこだわう。 ( できれば、パクロフスキーの作品でもお見ている : : : 異世界へ出かけていっても、人間は、 らず ( もともとが仮説に信憑性があるはずがなせしたいのだがかれにも宇宙生物を描いた作品が地球的な物の見方で考えるだろう。だから、この い ) 、自由奔放に空想力を働かせて描きまくってない。宇宙生物を描くことはソ連ではタブーなん惑星のことも太陽系の地球の物質である琥珀にな そらえ、同じような概念で人間は扱うことになる くれたらどんなにか楽しい作品が生れるだろうにだろうか ? ) ・ : というわけで、この惑星は、地球の琥珀から と、残念でしかたがない。したがって、ここで地球という惑星で百万年も生き続けてきた人類 は、宇宙生物もしくは地球外生命についての作品は、当然といえば当然かもしれないが、地球的な連想して、その色を基調に一連の作品群に仕上げ は紹介するものがないのはお分りいただけると思範疇で物事を見るという習慣が身についてしまつられている。『琥珀星の空間』、『琥珀星の大洋』、 『琥珀星の波打ち際』、『海狭』、『琥珀星の へファンタジック・プレン〉〈星団を背景にした高度に発達した文明〉ゲ・バクロフてキー 珊瑚』などがそれに当る。特に『珊瑚礁』 は、その色彩の徴妙なことですぐれてい 1- ラック 作品点数としてはわずか二点だが、暗黒 星を題材にした作品がある。科学者は、宇 宿進化の過程で、核エネルギーが使い尽さ れ、スタビリティを失った星が冷却し、急 激に直径十数キロメートルぐらいまでに縮 むことがあり得ると指摘している。そうな カタストロフ れば、その星には破局か、あるいは物理 グラビライツ物ナル・コラ・フス 学者がいうところの「重力虚脱」が やってくる。後者であれば、いわゆる「虚 脱星」と呼ばれる星が生れる。この星は、 重力場があまりにも大きく、光も出なくな る。ということは目に見えない「暗黒」星 である。その種の星の周囲には、極めて大 きな重力場が生じ、この絵 ( 『暗黒星』 ) の ような状態が生れることもないことではな いかもしれない。ということでソコロフの 空想が描き上げたものである。暗黒星を扱 った今ひとつの作品には暗黒星に着陸した 人間を描いているが、あまり成功している ようには思えない。 『空間の爆発』では、『暗黒星』での周

3. SFマガジン 1972年2月号

窓からは両側に続く長い穴が、闇へ向かって続いているだけだっ 雑作にのばしていた。テセウスはそれら長い道を歩きながら、ここ へやってきたことを後悔していた。何が冒険なものか、たたの空疎た。 次の日はⅡ 3 まで降りた・すでに通路の表示板のないとこ な洞穴ではないか。冷たい無の空間が、粗末な岩石にとりかこまれ ている。ただそれだけの廃虚、なぜこんなものが自分をここへ呼びろが多くなり、逆に気圧は〇・一まで上がっていた。しかし、通路 寄せたのだろうか ? ここで十数万人の人間が消えたという。それは全く変ることなく、機械的な単調さで続いていた。 (-) 2 ー芻で がどうしたのだ。本当かどうかも解らないし、もし本当だとして採石ロポットが二台衝突して壊れたまま放置されてあった。旧式な も、単なる空間のゆがみから生まれたメビウス現象でしかないので鉱山口ポットで錆びついており、岩石に還元されようとしている。 はないだろうか ? メビウス現象ぐらいワープ船ではありふれたこ酸素があるため、時には岩が湿気を帯びているところもあり、僅か とだ。ワー。フ船がメビウス現象で行方不明となる事件は、年間数百だが岩にも風化現象がうかがえた。 引層で小さな虫を発見することができた。そして層まで下 機に起っている。おそらくこの地下道の—層から層にかけて、当 ー 2 と地 時メビウス現象が発生していただけだろう。宇宙空間ではなく、星ると、気圧が〇・二になり、彼は気密服を脱いだ。¯•=2 図に示されている通路、もう表示は殆どなくなっていたので、彼は の中でメビウス現象が生まれるのは決してありふれたことではない 地図を分岐点ごとにみるようになっていたが、そこには「第七次ラ が、例のないことではない。それとも全く別の、彼自身も知らない があった。 ビリンス調査団」と書かれたプレート 何らかの理由で人々が消減したのかも知れない。その可能性も多い にあるし、むしろ、ほ・ほそうだろうと思える。誰にも空間位相実例 層で〇・四気圧になり、彼は酸素マスクもはずすことがで の全てを知ることなどできないが、個々の実例は全て理論上は解決きた。照明灯の中に、酸素のもやがみえ、遠くの穴をかすませてい されているはずなのだ。メビウス現象は単にその例の一つでしかなる。すでに三日間この廃鉱を歩き廻っていたが、あまり同じ光景の ー 7 で道を間違 いが、特殊位相を全てメビウス現象として片付ける習慣が航宙士に中を歩いてきたので空間概念が狂ったのか、 あった。そして、そうしたものは全て一時的なもので、今ではおそえて、分岐点が地図と異なってしまっていた。分岐点の角度と分岐 らくメビウス現象も消減していることだろう。そんなことは最初か点間の距離から、自分のいる場所をⅡ 2 ーと判断して進んだ が、Ⅱ 4 に続いているはすの通路が行きどまってしまった。行き らテセウスも承知していたはずである。なのにな・せ彼は来てしまっ たのだ。 どまりは側面と同じ岩壁が通路をふさいでいて、その壁によりかか Ⅱ燔ーで彼はキャンプを張った。およそ三時間歩いたこ るように錆びついた採石ロポットが立っていた。 とになり、気密服での歩行の限界であった、テントに空気を入れる 5 彼はそこにキャンプを張り、自分のいる位置を調べなおし 1 かどれ と約二メートル平方の空間がふくれ上がる。その中で、彼は地図をた。その袋小路はⅡ 3 ー 5 か、Ⅱ 2 ーか、 開き、ジュースを飲みながら明日の進路を決めた。テントの透明な かだろうと思えた。 e=l-o ーは少々離れすぎており、そこまで歩 9

4. SFマガジン 1972年2月号

に風船を操って、店の前の露地に着陸する。露地を挾んで銭湯の裏はある秘法を編みだした。その秘法によって、ある程度まで、夢の 口があり、着陸するとき、天窓越しにチラッと夢の街の女たちの裸本を読めるようになった。 がのそける。だが、・ ほくの関心は、古本屋の飾り窓にあり、女の裸古本屋の親父は、いつも体中から埃を立てながら、あたふたと現 などどうでもいい われる。親父とは中学時代からの馴染みである。夢の街の住人は、 こちらが一方的に親父の年齢に いつまでたっても年齢をとらない。 その飾り窓は、いつも奇蹟の宝庫である。『予言機械製作必携』 とか『こうすれば透明人間になれる ! 』とか『未来世界史』とか近づいていく感じは、奇妙なものだ。いずれ・ほくの方が親父よりも 『一週間でマスターできる動・植物との会話術』とか『世界女優恥年上になるのだと思うと、どうも落着かない。 部立体図鑑フランス篇』とか『一目でわかる宇宙解剖図』とか『明親父は・ほくを見ると、右の義眼に手をやってそれを取りはずし、 日のギャン・フル出目一覧表』とか『死者再生術ガイド』とか『あな眼集から新しく古本市で仕入れてきた珍品を出してみせ、 たの一生を教えます』とか『タイムマシンの簡単な作り方』とか「どうですい、こりや掘出しもんでしようが」 と低い、仁丹のにおう声で囁きかけてくるのである。 『テレポーティション入門』とか『瞬間変装術 < O 』とか『人工 ・ほくが谷さゆりの小説の載っている問題の雑誌に出会ったの 生命培養記録』とか『冥王星開拓秘話』とかーーそういったヨダレ の出そうな、昼間の人間が知らない秘密を盛った本が、たえず並べも、そういうふうにしてであった。 られているのだ。 最初のころ、・ほくはショー ・ケースに顔を押しつけ、必死になっ て、開かれたそのページを読もうとしたものた。 「 : : : 脈動空間の 多元的相似性については : : : 」 「 : : : キーストンとメジロ・ホ サツの悲恋を知れば : : : 」 「 : : : 時間が一つの人格であ るという画期的な発見も : : : 」 しかしそれは空しい試み だったべージがすぐ透明に なってしまい、一行と満足に 読めやしない。しかしその後、 工夫研究を重ねた結果、・ほく 0 あれはたしか木枯しの吹きすさぶ冬 の夜だった。店の土間に吊した裸電球 がときどき消えそうになったのを覚え ている。 親父が眼から得意そうに取出して みせたのは、大判のグラフ雑誌だっ わら た。ジンタの『天然の美』を蝙蝠が咥 っている絵が表紙になっており ( そん な絵があるものか、などと怒らないで いただきたい ) 、《 0 —r-o 》Ⅱ号と 3 2 2

5. SFマガジン 1972年2月号

もどりそうにもありませんね。また : ン : 」とイシャウッド教授はっとたちまち羞恥の反応をおこすのだった。この少はある下町のレ づけた。「食べすぎらいの子供が、親に叱られた腹いせに食卓の料ストラン経営者の娘で、ときどき店に給仕に出ていたが、中には下 5 理にのろいをかけたため、町中の食物が全部石になってしまった例品な客もいて彼女のお尻を撫でたりすることがあり、ひどくいやが がありましたヨ」 っていたという。やがて、この羞恥の空間的限界は、触ろうとす ることから、見られることへ、更に人間ばかりでなく、食器などの 「魔法使いみたいですね」 「確かに。妖術や魔法の成り立っ立地条件が、元々この火星の時空物まで遠ざけるまで進行していった。以上がこの少女の病歴だが、 構造の脆さにあるのです」 つまり拒食症は、食物や食器が、自分の体の表面の限界を越境し 外をみると、相変わらす暑そうだった。 て、自分の内部にふみ込んでくる恐怖感から惹きおこされる神経症 はや、事物は匂いを発しはじめており、甘ずつばさや、肉のやけであるのだ。 る匂いやその他、まるで菓子屋やレストランの調理場や、酒倉の中「むろん、ヴィヴィさんの場合は、この少女の場合よりもはるかに や色々の匂いをごたまぜにしたような嗅覚的洪水を呈していた。 深刻で復雑ですがね」と〈ワタシ〉はいった。「彼女の無意識に 「かないませんね。この匂いは」 は、あの嗜食症的な〈ダリ〉氏に対する根本的な嫌悪感と恐怖心と 〈ワタシ〉は窓をしめながらいった。 が沈澱しています。彼女の母親が、それを幼時期のヴィヴィさんに 「なんとかなりませんかね」とイシャウッド教授もいっこ。 ・教えたのでしよう。しかも彼女は、早く失った父親の代償を、あの そのとき、ひとつのアイデアが〈ワタシ〉の意識にふと浮んだ。 祖父である〈ダリ〉氏に投影しております。だから〈ダリ〉氏は、 「教授、うまい手段がありますよ。その食べずぎらいの子供の話で彼女のエデイプス・コン一フレックスの対象でもあったわけです。ま 思いっきましたが、ヴィヴィさんを利用しましよう」 た事実、〈ダリ〉氏とヴィヴィの母親の間には、ある具体的な恋愛 関係があったようですし」 「ヴィヴィさんをですか」教授は不審気に〈ワタシ〉を眺めた。 「そうです。彼女の拒食症を〈ダリ〉氏の嗜食症に対抗させるので「知っています」とイシャウッド教授はいった。「この火星では、 す。無意識の潜在キャパシテイからいっても、ヴィヴィさんなら十ごくありふれたことなので、私は別に驚きません」 分にうち勝てますよ」 「そうでしたね」と〈ワタシ〉はつづけた。「で、当然のように幼 これは単なる思いっきではなかった。 時期のヴィヴィさんは : 自分の母親を奪われまいとして、祖父を憎 そもそも拒食症とは、精神病理学的観点からいって、その実存的みました。むろん無意識的にですが。が、その強大な憎しみがそこ 空間構造と大いに関係の深いものであるのだ。たとえばの一例だに沈澱されたとき、一緒に〈ダリ〉氏の嗜食症的性癖への嫌悪感も が、〈ワタシ〉は以前、ある拒食症の少女を治療したことがあっ沈澱したというわけです」 た。この患者は自分のもうけた空間の垣根の中に他人が入ってくる「ヴィヴィさんの拒食症は、〈ダリ〉氏の嗜食症の反動であるわけ

6. SFマガジン 1972年2月号

〈イカルスの死〉グ・バクロフスキー画 初の人間』の中に多い。これは、レオーノフがかことである。『星が : : : 』を れ一人の手で制作した作品が多くないことを物語の解説の中でちょっと触れ側 っているように思える。解説、画題、作品のコメた、立体画や立体印刷にソ ントは、前と同様英露両文で印刷されており、ソコロフが興味を持ち、実験 連の国内だけでなく、外国の画ファンにも便的制作にとりかかっている / 利なようになっているのは、『星が : : : 』と変らという作品が、この画集にデ ない。ただし、この画集には、前にあった独仏スはかなりの数入っている。 ひず 。ヘイン語の別冊解説がなくなっている。収録作品また、空間の歪みや、磁ゴ 点数は前のものより多く、一〇九ページに百十一一一場、光線のゆがみを、非常座 点が納められているが、ダブリを除くとほぼ同じに面白い方法で平面の上にス くらいの点数である。 移しかえて表現するのに成工 この画集全体から受ける印象は、前の画集にく功している。特に後者の表フ らべて、新しい実験的技法が取り入れられている現方法については斎藤和明く

7. SFマガジン 1972年2月号

この画集に納められた作品全体から受ける印象 囲の重力場の歪みを表現するために使ったと同じしたもので、科学的空想画である。この星の異常 方法で重力波が起ったときの空間の「爆発」を描なスペクトルとその光彩の周期的変化は長い間学は、重厚な感じである。どちらかといえば前の いている。アインシ、タインの重力理論でも、重者たちの間でも謎であった。この変光星である・ヘ『星がわれわれを待っている』が明るい感じを与 カ波や空間の歪みや時間の流れの変化について触 1 ター星は、二個の星から成る二重星で、主星とえる色彩が使われている作品が比較的多かったせ れている。それを宇宙空間の中でソコロフは絵にそのまわりをめぐる併星から成っていることがそいかもしれない。特に、この画集にはめだって黄 してみようとしている。『重力嵐』を効果的に表の研究で明らかになった。この絵は、その星の複色が少なくなっているのもその一大であるかもし れない。 現するために画面にダブリを入れたり、『岩石波』雑な連行状態を描いたものである。 この画集にも相変らず固い解説がついているの この画集の巻未を飾るにふさわしい壮大な宇宙 や『惑星の破減』などでは、絵筆の筆跡を巧みに は前と変らない。たたし顔ぶれが多少変ってて、 利用してなかなか苦心しているのが分る。したが図は、『宇宙の深淵』を描いた大作である。 アルメニア共和国アカデミー総裁のヴェ・ア・ア ってこの画集の中でも、これらの作品は異色の存中央に描かれている黒帯をした巨大な星系は、 ム。ハルツミャーンと、前回同様個々の作品のコメ 天文学的知識をふまえたケンタウリー < である。 在である。 ラジオギャ 惑星間、銀河系間などの空間を克服して航行す可視光線だけでなく、ラジオ波も出している電波ントを書いているルッキー以外は新顔。ソ連英雄 ラジオギャラクシイ スペース・シッ・フ るには、光速に近いスピードを出せる宇宙船が星雲は、画の恰好のテ】マである。電波星雲の称号を二度にわたってもらったレオーノフの同 必要である。その目的に適った宇宙船といえばさが形成されるには、最新のデ 1 タによると 1060 工僚である宇宙飛行士ア・エス・エリセーエフが現 しづめ光子ロケットということになる。光子工ンルグという空想的といえる巨大なエネルギーが消在のソ連の宇宙開発について触れた解説『軌道ス ジンからは、分子や原子ではなく、光の量子つま費される。知的文明 ( 地球 ) が己の存在をケンタテーションから宇宙都市へ』を、ヴェ・エム・べ フォトン り、物質が消減する結果生じる光子ーー・粒子と反ウリに存在するかもしれない文明に伝える方法はスコフーーかれはレーニン勲章を受けたジャーナ リストであるーーが、ガガーリンを偲んで『永遠 粒子の相互作用・ーーーが噴出される。だが、空間をないものだろうかっ・ソコロフはその問題をこの 「突破する」方法はそれだけではない。空間の歪絵で解決した。はるか達い未来には、人類はただに残る名前』と題した記事でその功績を讃え、ア みを利用したスペース・ワープ航法などそのよい地球だけでなくその惑星系全体を手中に納め、そカデミシャンのペ・エヌ・ベトロフが宇宙航行学 例である。ここではこれらの仮説上の航法で空間れを、強力なエネルギー場ですつ。ほりと「つつみについて触れた『通り過ぎてきた道、越えていく を克服する「超 ( 于宙船」の発進の様子が描かれて込み」、そのまま齧文明が存在すると思われるケ道』を解説に書いている。ソコロフは現在また新 いるが、船体の姿は見られず、航跡 ( ? ) とでもンタウリへそっくり移動させることにした。絵のしい宇宙画集の出版準備にとりかかっているとい うから恐らく来年あたり第三冊目の画集にお目に 呼んだらいいのか、空間の歪みによって生じた状中で左上にみえるアンモナイトみたいなものが、 態を、輪切りにされた天体によって表現し、成功エネルギー場でおおわれたわれわれの未来の太陽かかれることと思う。できればその画集で、宇宙 生物を、独創的で、ファンを堪能させてくれ している。『時間に逆らって』でも、空間と時間系である。 パクロフスキー博士も、異文明には興味があるるような宇宙生物を登場させ、世界の界をあ をつらぬいて ( 多分、、・「われわれの」時間に逆ら っといわせてほしいものだ。 って ) 、宇宙船が未知の世界へ向って航行しているとみえて、はるか未来に人類が宇宙船で到達した この画集を手に入れたいと思われる読者には誠 様子を描いているが、いずれも難しい科学的根拠異文明を船窓から見たという仮定で、作品を制作 は別として、絵としてみているだけで結構楽しめしている。『星団を背景にした高度に発達したに気の毒たが、『星が : : : 』にくらべてたいへん る作品になっていることは間違いない。 文明』がそれ。ソコロフの作品とくらべてみるの値段が高く ( 三四六〇円 ) なっていることだ。前 と同様東京のナウカ書店で扱っている。 『琴座のべーター星』は、珍しい天体現象を絵には面白いと思ってここで紹介しておく。 フォトン タッチ 6

8. SFマガジン 1972年2月号

老人 て造 い老供い 庭先の柿が色づいたと思ったら、もう葉がすっかりちってしまっ 淵る子てき 柿の実の、半分ほどはとりいれたが、あとはおりおりの時雨にう ・虫画っ妻づう 知な気ろまツ一 たれて地面におち、今は頂きにたった一つのこっている。 0 孤を幸にこ このごろは、自然のうつろいも、昔とちがってひどくあわただし 京と不と起・こ こるこか るいしカ いように感じられる。 そう思うのも、年のせいだろうか ? そんな事は考えまいと思って、隠居所にこもって香を薫き、茶を 公てな何「′ つま間日 たてる。 狂囲人生ケ五一 ~ ~ 一 炉に炭をつぎ、祖父の代からっかいこんだ、芦屋釜が松風の音を たてるのをきいていると、心がなごむーーー自分がその松籠の中にひ ・世狂父 きずりこまれ、溶けこみ、かすかなささやくような音とともに、宇 宙の中にひろがって行くような気がする。 人間というものは不思議なものだ。ーーー音を通じて「静寂」とい うものを感じとりさらにその静寂を通じてはてしない「時間」と 「空間」を感じとる事ができる、という事を、いったい誰が見出し たのか。いや、そもそもどうして人間は、そういう風につくられた のか : わびちゃ 釜の蓋をはらい、湯を汲む。 一人たしなむ佗茶とはいえ、や はり作法通り切り柄杓がすっきりきまるとすがすがしい。茶杓は なつめ ″草でなく、これも祖父愛用の点用の節なしを、棘のかわり ごに祥瑞の茶入れをつか 0 たのが、せい のおごりのつもりであっ 数年前死んだ旧友愛蔵の品で、生前があまりに垂涎する ので、遺言によっておくられたこの祥瑞の肩つきを 、有田の和 、 ( 、製ものでなく、ちゃんと呉祥瑞の染付銘鑑定書、蓋書きも景徳 こ 0 だて

9. SFマガジン 1972年2月号

ふざけやがって ! と私は怒髪天をつく思いで歯がみした 通路の途中から、ひょいとドクターがあらわれ、うれしそうに手に ス・ヘース ふらさげた電話器をさし上けながら叫んだ。 修理班のはいれないような空間が、この宇宙船のどこにあるってん 「おい君 ! ーーー厚生大臣に、じかに電話が通じたそ ! 明日、大臣だー ノブをまわしたが、鍵がかかっていた。腰のポケットからマ スターキーを出して鍵穴につつこむと、簡単にあいた。私はドアに が自分でここへ、視祭にやってくるそ ! 」 とうとうドクターも狂ったな、と思いながら、私は彼をつきとば体あたりするように押しあけた。 私は思わず服を細 してかけぬけた。 まぶしい光と、冷たい風が頬をうった。 そういえば、さっき話した時も、「近くの病 め、顔に手をかざした。 院」とか「厚生省とかけあう」とか、妙な事を話の中にはさんでい こ 0 広大な、光にみちた空間が、まわりにひろがっていた : ドアのむこうは、はるかかなたまでのびている、巨大な建物の屋 通路をまがると、男はゆっくり歩きながら、もうずっとむこうの つきあたりに近づいて行った。その通路は、行きどまりだった。私上だった。建物は地上四、五階たての高さらしく、片側に緑の草の はえた黒っぽい大地が、ゆるやかにうねりながら地平までつづいて がまた全力で追いかけると、男と私の、ちょうど中間ぐらいの枝道 いた。起伏の所々に黒ずんだ森があり、池があった。雲一つないま から、ディックがぶらりとあらわれた。 っさおな空に、太陽がーーーあの夢にも忘れようもない太陽が、ぎら 「そいつをつかまえてくれ、ディック ! 」と私は叫んだ。 「なにをかっかとしてるんだ」ディックはいやいや笑いながらむこぎらと輝いていた。 うへ歩き出した。「こいよ。 少し外の空気を吸おうぜ」 ディックは上半身裸になって、デッキチェアにねそべっていた。 お前も裸 ディックはっき当りの行きどまりのあたりで、私の方をふりむい手には汗をかいたグラスを持っている。「どうした ? て、もう一度にやりと笑うと、その姿はふと消えた。 になれよ」とディックは笑いながらいった。潮風ってのはいいもの オしか、ええ ? 」 私は勢いあまってつき当りの金属壁にぶつかりそうになった。やじゃよ、 っと両手をついて、体が激突するのをささえ、横の壁に背をつけ カーン、と球をうつひびきに私は建物の下にひろがる野原を見わ て、肩で大息をつきながら、あの男とディックの消えた行きどまり さっき、ゴルフクラ・フを持っていた男が、むこうの平 の壁を見た。そこはーー・そんな所が船内にあるとは、今までまるき地に小さく見えた。だが、彼はゴルフをやっているのではなく、大 り知らなかったのだがーー壁一ばいのドアになっていて、ノップが勢の連中と野球をやっているのだった。白球が紺碧の空に高くの つき出ており、赤い大きな字で、こう書いてあった。 び、わっと歓声があがった。 「危険リーー修理班、立入り厳禁」 「ディック : : : 」私は目まいをおさえてたちつくしながら、やっと : どういうわけだ ? この建物は 5 眼をこすって読みなおしたが、「修理班以外」ではなく、「修理かすれた声でいった。「これは : 班、立入り厳禁」と書いてあるのだ。 : ほんものか ? 」 あの大地は :

10. SFマガジン 1972年2月号

ようになっていた。炎の中に輝く宝石、 それらが飛び散って青 その時、彼の視界に一瞬の閃光が生まれ、数秒で消えた。ミ 空に浮かぶ白い雲となり、雲は急速に落下して虹色の霧を生む。 ノスは急いで・ハルプを開き、起き上がって光の方角をみた。青白い 3 霧の中から人魚たちの姿が見え隠れし、巨大なメリー・ゴーラウン弱、 し残光が近くの岩丘の頂上にあった。 トが地球上空に回転した。「これが世界だよ」母親の声。母親の姿 それは、この星の到るところに転がっている岩石の一つで、 はどこにもない。プルトンは母親など知らない。或いはコンビュ 岩石のおよそ一ミリ平方の部分がエメラルドのような光を発してい クレーンが動く。 ターの声かも知れない。巨大なメカニズム、 たのである。彼はそれをキャン。フに持って帰った。部屋の隅には、 クレーンには白い氷がつるされている。氷の中から現われるのは白相変らず。フルトンが黙って両足を抱くようにして坐っている。「プ い顔。「プルトン」顔が喋る。 ルトン」ミノスは話しかけたが、プルトンは視線を動かそうとすら ミノスは、せめてプルトンが話をしてくれれば、と考えた。 しなかった。ミノスは通信機の前に坐り、星間開発事業ュニオンの ワ 1 そして何度も呼びかけてみるのだが、プルトンは答えない。立ち研究室を呼び出した。 上がって窓の外を観る。いつも同じことのくり返した。そしてやが 岩石はテモンナイトという鉱石であることが判った。デモン て耐えかねて大声で叫ぶのだ。 「たれか助けてくれ ! 」星空の彼方ナイトは極めて不安定な複合金属で、僅かな放射線の照射で爆発を に、流れる小さな光がある。或いは宇宙船かも知れない。 ミノスは起こすのだ。それは核融合とともに使われると驚くべき破壊力を示 急いで通信機に飛びつくが、ワープ船の一瞬の空間への出現に間にし、簡単に小さな星を粉々にできる。むろん宇宙船エネルギーとし 合うはずはない。彼は坐り込み、いらたたしくプルトンの肩をゆさても素晴しい原料であった。小さな粒子にきざんで使える点で制卸 ぶりながら呼びかける。「プルトン ! プルトン ! 」しかし、。フレ / も容易である。このデモンナイトは太陽のない星にしか存在し得な トンは何もいわない。 恒星の放射線はたちまちデモンナイトを破壊してしまうから ミノスは今度こそ本当に死のうと考えてテントを出た。何度で、そのためにノヴァ化した恒星もかなりある。いまプルトンとミ ワ 1 そう思って岩礁を昇り降りしたことだろう。彼はいつも歩きながら / スのいる星のように、最も近い星から十光年も離れていても、時 にはミノスがみたような爆発を起こすほどである。ミノスはすぐ 様々なことを考えた。特に自分の一生をくやんでいることが多かっ この星の開発権を申請し、採石ロポットとその組み立て工場、 リー・ランドなど夢物語でしかない。今の時代に個人的な解に、 放などありはしない。空間も時間も、全て宇宙的に支配され、理解そして輸送船、その他様々な資材を呼び寄せた。更に星間開発事業 され、定められてしまっているのだ。誰もが自分自身などであり得ュニオンの出資で、最も近いー犯星にプルトン日ミノス会社を設 ない。誰でも単に全宇宙の中の一人の人間でしかないのだ。死ねば立し、そこに放射線よけのナマリ倉庫を建築させた。 。自分など死ねばいいのだ。彼はそう考えて小高い岩山の頂き 芻二十時間後にはユニオンの調査船が到着した。そして、その ・ハル・フを閉ざした。 星の全域にデモンナイト〇・〇〇一ミリグラムから〇・一ミリグラ に横になった。そして、気密服のエアー