八項目 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1972年4月号
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1. SFマガジン 1972年4月号

ディリーは嫌悪をあらわにして機械を見た。「これを破壊しなけ翼を担ってるわけですね。そして、その最終目標は、今のところわ ェイト・イント・デラ / れば。二十四年前、スパイダーが〈八項目計画〉のひとっとしからない」 ディリーは彼を見た。「きみはあたりまえのことを口に出してい て、わたしにまかせたものだ。〈八項目計画〉の目的は : : : 目的は う才能があるようだな」 「物事を総合するのが好きなんですよ」 彼は言葉につまった。その温厚そうな顔に、困惑した表情がうか 「くつつけ合わせるだけだ」 んだ。彼は下唇をかんだ。 「どうそ、続けてください」クリスはうながした。「何をするんで「なんですか ? 」 すか ? スパイダーのマスター・プランとは何ですか ? その最終「なんでもない。たいしたことじゃない。続けなさい」 クリスは当惑した顔をした。「いや、続けるのば、あなたのほう 目標は ? 」 でしよう。この装置がどんな働きをするのか、あなたの想像でもい ディリーは両手をひろげた。「わ , ーー・・わたしにはわからん」 いから話してください」 「では別のことをお聞きします : ・ : 奴らは何者なんです ? どこか ら来たのですか ? 戦いが始まってもう何年にもなりますが、奴ら「まだ働き続けてる。止めてないからね」 クリスの顔に警戒の色がうかんだ。「どうすれば止まるんですか の正体については、ほとんど白紙の状態です。つかまえても必ず自 」彼は台座の上の煤けたし ? 減してしまう、さっきの奴みたいに みに顎をしやくづた。「ーーー生きたまま捕獲できたことはないので「そのボタンを押すんだ」 す。正直にお話しすると、奴らの手先になっていた人間で、無事奪クリスはボタンを押した。たちまち大桶の泡たちが静まり、煙の ような物質が底に沈み、送風機の風がやみ、ぜんまい装置の運動は 回することができたのは、あなたが最初なんですよ」 ト時計のハトは青く変色して死 クリスの不必要な説明に、ディリーはいちいちうなずいた。話がしだいに緩やかになって止まり、 に、ホーみは平らになり、部屋に静けさがおりた。「何をやってい 終わると、老人は肩をすくめた。 「覚えているのはーーーわたしに取り憑いていた奴が、核心に触れるたんです ? 」クリスはきいた。 「スモッグを製造して大気中にばらまく装置さ」 ようなことはほとんど漏らさなかったので、よくわからないが とにかく覚えているのは、奴らがほかの惑星から来たということ「冗談でしよう」 「冗談じゃないよ。きみはスモッグが工場や車やタ・ハコから出ると 「異星人ですって ! 」ディリーの言葉を瞬時にのみこんだクリス本気で信じていたかね ? スパイダーはスモッグの元凶が車やそう い ? たものだと宣伝したり、にせの報告書をでっちあげたりするの リストにあ は、かろうじて叫びをおさえた。「〈八項目計画〉か。 に、相当な金をつかったんだよ。現にわたしが大気中にスモッグを った、あなたとほか七人の名前。それぞれがマスター・プランの一 8 8

2. SFマガジン 1972年4月号

射した。恐るべき針は・ヘッドシーツを突き抜けてとんだが、命中しにんまり笑った。まあ、つぎのクリスマスはがんばるさ。今回がず なかった。クリスはナイトスタンドの上の暗黒弾をとり、投げつけさんだったのも無理はない : : にせのサンタ・クロースにどれたけ 9 仕事ができよう ? ポポとユーロが肩車し、自分たちの身体の三倍 もある赤服を着て動きまわるのでは、サンタクロースの能率もタカ 一瞬、地底のおもちや工場全体に闇がおりた。 ・フロンド女が腕のなかでもがくのが感じられた。ス。 ( イダー寄生が知れている。だがクリスが世界を救うのに忙殺されていたあの時 体が、身の安全を求めて逃げこんだ場所はわかっていた。彼女の体点では、ほかに取るべき方法はなかったのだ。 全世界から苦情の電話がかかっていた。 内である。殺すほかはなかった。しかし毒針銃は彼女が放り投げて こともあろうにヒルトップからも。 しまい、はだかのまま、漆黒の闇のなか、べッドの上で、抵抗する 女をおさえこんでいるクリスにとって武器といえるものは ただ「ポポ」電話をむりやり黙らせると、クリスはいった。「おれはも ひとつ、この世に生まれたとき神が彼に与えたもうたそれだけだっ う出ないそ。かかってきたら、フランスのアンチー・フに行ったとい ってくれ。三カ月ばかり眠るから。四月には起きるつもりだ」 オフィスから出ようとしたとき、コーロが大慌てで駆けこんでき それは特別な武器であり、彼女を殺すには一週間近くかかった。 た。「ギー・フル・ギッ。フ・フリーシー ジムジム」と、コーロ。ク しかし、すべてが終わったとき、闇もまた晴れていた。彼はべッ リスは椅子にぐったりと沈みこんだ。 ドに横たわり、考えた。十ポンドも痩せ、小猫のように弱まり、消 そして両手に顔を埋めた。 耗しきっていたが、考えることだけはやめなかった。 そしてスパイダーの意味をとうとう理解した。 〈伊達男〉が〈雌ギッネ〉を孕ませてしまった、というのだ・ 寄生体は小さく黒く毛むじゃらで、たくさんの足ですばやく動く「くそっ、これで長生きできるか」クリスはつぶやき、泣きだし 〈八項目計画〉の目的は、人びとを不快にすること 生き物だった。 なのである。わかりきった話ではないか。その存在は、人間をいら だたせる。そしていらだった人間は、殺しあいを始める。人間同士編集部註ーー慧眼の読者諸氏はすでにお気づきのとおり、エリスン が殺しあいをすれば、世界はスパイダー ( 蜘蛛 ) にとって住みやす氏の作品には小さな破綻がひとつあります。恐るべき〈八項目計 い場所になる。 画〉には、当初スパイロ・アグニューなる人物も含まれていまし 彼がしなければならないのは、そこから句点を消すことだけだ。 た。作者は書いている途中で、彼のことを忘れてしまったらしいの です。もっとも作者ひとりが忘れたわけではなさそうですが。 翌週、時間 / 運動調査報告が届いた。今季の集配率は、記録破り のずさんさだということだった。クリスとポポは報告書をめくり、

3. SFマガジン 1972年4月号

立ち去った。 テキサス州ジョンソン・シティ ジョンソン ンフリイとニクソンーーー・ワシントン クリスが現われたとき、彼は人びとからひとり離れてすわり、両 手を使ってマッシ、・ポテトを食べていた。すさまじい光景たつ大統領選より一週間後。ひとりは大統領である。だが、それは問 た。その姿には疲労がにじみでていた。半分食べかけの牛の丸焼き題ではない。もうひとりは対立候補として出馬したさくらで、彼ら が、炭火の上でものうげにまわっている。クリスは隣りに腰をおろのあいだには国をまつぶたつに分ける協定が成立していた。いまニ クソンの悩みは、どうしたらひげがきれいに剃れるかであり、ハン し、挨拶した。クリスをパーティの客と思っているらしい。ジョン くフリイの悩みは、自分の眼を大きく見せるコンタクト・レンズにど ソンはげつぶをした。クリスは隙をみて彼のこめかみを指で突 うしたら早くなじめるかであった。 と、ぐったりした身体を森のなかにひつばりこんだ。 「いや、ディック、要するに問題はだね、わたしが鳥みたいに変て ジョンソンが意識を回復したときには、すべてが終わっていた。 スパイダーの寄生体は逃けだし、破裂し、落葉の上にー・ー季節はすこな、ちっこい目をしてからじゃないのかな ? 」 ニクソンはオフィスの壁の鏡から目をそらして言った、「あんた でに十月中旬だったーー黒いしみを残していた。ジョンソンは、戦 争をできるだけ早く終結させると約東した。クリスには、それが何はまだいいさ。見てくれ、ファイプ・オクロック・シャドウだ、ま だ三時半なのに。おい、だれだ、あいつは ? 」 の戦争なのかわからなかったが、いずれにしてもけっこうな考えに 安楽椅子のなかで向きを変えたハンフリイが、クリスを見た。 思えた。 「教えてください」クリスは真剣な口調できいた。「ス。 ( イダーと「さようなら、ス。 ( イダー」いうなり、クリスは二人に麻酔投げ矢 は、〈すべての正しい考えを粉砕するための秘密謀略部隊〉 (Secret を射ぢこんだ。 しかし投げ矢が標的に当るよりも早く、耳からとびだした黒い生 preyers lnvolved in Demolishing Everything Rightminded) の き物は破裂し、黒い煤と化した。「ちくしよう ! 」クリスはいい ことですか、それとももっと漠然としたものなんですか ? 」 ニクソンとハンフリイが意識を回復するのを待たずにオフィスをあ ジョンソンは両手をひろげた。知らないのだった。 〈八項目計画〉における自分の役副は、戦争を誘発し、赤ん坊を虐とにした。何にせよ、目覚めるのは一週間かそこら先のことになる 殺することだったのだ、とジョンソンは告白した。しかし、もうそだろう。投げ矢の麻酔効果がどれほど続くかについては、武器係は んなことはしない。軍隊を呼び戻す。戦争反対者を監獄から解放すまだはっきりした結論を出していなかったからである。それにクリ スは、〈八項目計画〉における彼らの役割が、政治問題をもつれさ る。平和のために全力をつくす。貧しい国に穀物を送る。レッスン せ、大気中に混乱と紛争をばらまくことだと知っていた。ジョンソ を受けて、演説がうまくなるよう努力する。クリスは肩をすくめ、 2 9

4. SFマガジン 1972年4月号

ひろげるようになってから、二十四年たっ」 最後にまわすことにした。時間は無駄にできないが、シカゴのほう 「くそっ」クリスは長怖の表情でいった。そして慎重に間をおく は、フリーダがディリーとスモッグ・マシーンの後始末をやってく と、たずねた、「では宇宙からの侵略者とわかったところで教えてれているし、正直にいって、時間などくそくらえだ ! もしかする クリス ほしいんですか、スパイダーは〈理性抹殺を目的とする兇悪残忍と、これがスパイダーとの最後の対決になるかもしれない。 な侵略者〉 (Scabrous, Predatory lnvaders Determined 5 Elimi ・ はヒルトップを呼びだし、自分が計画の残り七項目をとことん根絶 やしにするつもりでいること、ウォーレスが射程にはいるのはクリ nate Rationality) のことですか ? 」 ディリーはまじまじと見つめた。「わたしに聞かんでくれ。そんスマス季節になることを報告した。ぎりぎりまで仕事を抱えてしま うわけだが、工場はポポが立派にとりしきってくれているはずだっ なことは、だれも知らん」 そして台座からとびおりると、発電所のドアにむかって駆けだした。それに、やるべきことは : : : やってしまわねばならない。相当 た。クリスはそのうしろ姿を見送ったのち、かなてこを拾うと、スめんどうな仕事になるだろう。彼は北極海のわが家に思いをはせ モッグ・マシーンの破壊にとりかかった。潰れ、ねじまがった残骸た。唸りをあげる幸せいつばいのおもちや工場、そしてことに、彼 のなかで、汗みずくの作業が終わったとき、彼は開いた戸口に立ちがをたつぶりしみこませた角砂糖をきしだすと、掌に鼻をす つくしているディリーに気付いた。 りよせてくるプリツツェン、ラリった母猫たちのはしゃぎよう。 「何か用ですか ? 」と、彼はきいた。 やがて彼は、心のなかからそうした幸福な時間と涼しい気候をふ ディリーは希望に満ちた徴笑をうかべた。 りはらうと、スパイダー打倒の決意を固めた。そして残り七人を順 ぐりにかたづけはじめた。 「いや。見物しているだけさ。こうして真人間にかえったら、わた しのでたらめで野蛮な暴力の最後の標本を見たくなった。これから のシカゴは平穏な都市になるだろう」 丿ーガンーーーカリフォルニア州カマリロ 「がんばってくださいよ、市長さん」クリスは感情をこめていっ こ 0 精神科医のおせつかいが必要なものはこの州にはひとりもいない という反証の余地ない論拠から ( 「それはみんな各人の頭のなかの 〈八項目計画〉を締めくくる鍵は、アラ・ハマにあるようだった。ウ問題だ ! 」一皿五百ドルの在郷軍人会連盟夕食会の席上で、 オーレスである。だがウォーレスは遊説に出かけており、計画を締ンがそうぶったのは、わずか六カ月前のことである ) 州立精神病院 めくくるためには、どうやら彼の特別な手腕 ( それを可能にするのをすべて閉鎖してしまったリーガンは、カマリロの打ち捨てられた は彼の頭のなかにいるスパイダーエ作員のさらにデリケートな手腕施設の一階男子用トイレットで、オールバックの髪をとかしている 9 である ) がなくてはいけないらしかった。クリスは、ウォーレスをところをクリスにおさえられた。

5. SFマガジン 1972年4月号

女は目を丸くして彼を見た 9 の思考がテレバシーで送られてきた。 「教えてやろうか。とてつもなくよくできた装置で、青少年の思考「きさま ! 」クリスは叫んた。 を硬化させて老い・ほれにするのが、奴の役目だったんだ。コンクリ クリスマス / アト、オマエガ戻ッテキタトキカラサ。アラ・ハマカ ートみたいに、思想をかためちまうのさ。悪魔の機械を爆発させた ラ、ズットオマ手ノアトヲッケテイタ。ーーーダカラウォーレスノ寄生 とたん、みんなが自由に考えはじめた。おたがいに心の触れあいを体ノ自爆シタアトガ見ッカラナカッタノダーーソシテ、オマエガ傷 持つようになり、この世界が悲しむべき状態にあること、最前までノ手当テヲ受ケティルアイダニ、ワタシハコノカワイソウナオ人形 確信していた生活それ自体がまちがっていたことに気づいたんだ。 馬鹿メ。 サン / 身体ニハイリコンダ。ワレワレヲ粉砕シタダト ? 奴は若者たちを文字通り老化させようとしていた」 ワレワレハイタルトコロニイルノダ。ワレワレハ六十年 ~ コノ惑星 . 「でも、あたしたちはやつばり年とっていくんじゃないの ? 」 ニャッテキターーー歴史ヲ調べテミロ。正確ナ日付マデワカルハズ 「・ハ力をいうな。・ほくらがだんだん年とって朽ちはてていくのは、 ダ。ワレワレハココニイル、ンシテ、ココニトドマル。ムフノトコロ スペテヲ手中ニオサメ スパイダーのしわざなのさ 9 これでみんな老い・ほれすにすむように ハ、テロ活動プ続ケルダケダガ、ヤガテ レ 0 ワレワレノモットモ野心的ナ試ミダッタ / 〈八項目計画〉、 なる。肉体年齢三十六歳で成熟して、二百年か三百年生き続けるん ダ。 だ 9 それから、ああ、そうた、癌にもならない」 「癌も ? 」 「野心的だって ! 」クリスは鼻を鳴らした。「憎悪、狂気、癌、偏 クリスはうなすいた。 見、混乱、奴隷化、スモッグ、頽廃、老化 : : : きさまらはいったい 「もうひとつだけ教えて、ね」 何だ ? 」 「なんだい ? 」 ワレワレハスパイダーダ。声は続けた 9 プロンドの女の毒針銃は 「スパイダーの〈八項目計画〉というのは、それでけつきよくどう微動もせす彼を狙っている。 - スパイダーノ正式ナ名前ヲオマエガッ キトメレバ、オマエタチ哀レナ弱イ地球人ヲワレワレガドウショウ いうことだったの ? たれもが互いに憎みあうようにして、そこか トシティルカモ同時ニワカルダロウ。 ら何をしようとしたのかしら ? 」 見ョ ! その声は歓喜に酔っていた。 クリスは肩をすくめた。「それなんた。それとス。ハイダーの名前 の意味は、もう知る機会はないだろう。奴らの組織を粉砕してしま彼女の耳からはいだしたスパイダーの寄生体が、クリスの喉首め った今ではね。それだけは残念だな」 がけてとびかかった。クリスは瞬間的に反応し、べッドからとびさ がった。千分の一、 リの差で、寄生体の狙いははずれた。彼は壁に モウスグワカルサ。クリスの頭のなかに、とっぜん声がひびし た。ブンドの女はべッドの上に身体をおこすと、枕の下から毒針ぶつかると、片足で壁を蹴り、べッドにふたたびダイ・フした。プロ 5 ビストルを抜きだした 9 ワレワレ / 工作員ハドフ一一デモイル。彼女ンド女をおさえこみ、彼女の手をつかんで、針を寄生体めがけて発

6. SFマガジン 1972年4月号

鏡にうつるクリスの姿に気づき、ふりかえったリーガンは、悲鳴 いた。巨体はどうと倒れ、動かなくなった。と、怪物の姿がゆらめ をあげて、有料トイレットで用を足している、グリーンのタイツをき、ふたたびリーガンに戻った 9 耳から黒い生き物がとびだし、破 9 着たゾンビー部下に助けを求めた。 ( 気の狂った近親者をまわりに裂した。あとに残ったのは、フロアのタイルの上の焼けたしみだけ ー 1 カリフォルニ おきたくない家族が施設冫、 こ送付する金は、黄金ー ( ) 指定だった。 屮ア州の俗称 の代用紙幣に引き換えられ、入院患者に毎月支給される。有料トイ しばらくのち、髪をとかし、鼻のあたまと頬骨の照明焼けをパン レットは、その代用紙幣でまかなわれていた。リーガンは、「支払ケーキで隠したリーガンは、スパイダーのさからいがたい邪悪な司 わざるもの通るべからず」という州政府の制度をかたく信じている令のもとに行なった忌わしい悪事の数々を悲しげに懺悔した。組織 のだった ) の頭文字が何を意味するかについては、まったく知らないと答え ゾンビー部下が個室から顔を出した瞬間を狙って、クリスはサヴた P クリスはがっかりした。 フランス式蹴合術。 リ 1 ガンはそれからカマリロエ場を案内し、〈八項目計画〉にお アート・キック ( ) でドアをぶち破り、靴の縁で男の 手と足を同時に使う 脾臓をたたきつぶした。そしてリーガンにとびかかろうとした。リ ける自分の役割は、二階と三階に設置された巨大な機械で大気中に ーガンを殺すことはできない。なんとかして生捕りにし、彼の頭に狂気をばらまくことだったのだと説明した。二人は苦労して機械を 巣くうスパイダー寄生体の自減を妨げなければならないのだ。その破壊した。装置の大半は、硬質。フラスチックでできていたからであ る。 とき不意にリーガンが身をひいた。愕然として見守るクリスの前 で、そっとするほどハンサムなリーガンの容姿がゆらめき、かたち リーガンは、〈八項目計画〉の第二項の崩壊を押し進めるためヒ を変えはじめた。 ルトップに協力することを約東した。そして ( ポーイ・スカウト式 数瞬ののちには、クリスの前にいるのはもはやリーガンではなか に片手をあげて ) 本日からできるかぎりの善政を布く。強く要望さ った。彼は七頭のヒドラに変わり、その七つの口から火、⑤アンれていた財産税を改正を実行し、カリフォルニア大学ロサンジェル マスター モニアの煙、 CK ス分校の学生に対する実力行使をやめ、ロサンジェルス・フリー・ り、④ガラスの破片、塩素ガス、① ド・カスロ自とロック・ミ ュージックの混合物を吐いていた。 プレス、アヴァター ィーストⅡヴィレッジ・アザー そのうちの三つの頭 ( すなわち、、、 ) が、ヘビのようなイ・・ハ ープ、ホースシット、オープン・シティ、その他すべてのア 首をのばして襲いかかった。クリスはトイレの壁に身体を押しつ ングラ新聞を購読して、現実の世界を知る努力をする。一週間以内 ュージックと け、上衣をさぐってポールペンをとりだした。逆時計まわりに二度に、州内の全警察署にフォーク・ダンスとソール ふると、ペンは両手用の剣に変わった。リ を軽々とふりながら、め円満な紛争解決の定期講座を設ける。そう誓った。 まぐるしく身を躍らせ、二三分で七つの頭を斬りおとす。 彼の顔にうかぶ微笑は、子供時代の、あるいは生来の純真さをど 最後に怪物の心臓に狙いを定めると、それを一刀のもとにつらぬこかに置ぎ忘れ、それをふたたび取り戻した男のそれに似ていた。

7. SFマガジン 1972年4月号

ンが教えてくれたのだ。これで彼らも真人間にかえるだろう。ノー物はすべてシャッターをおろしている。アラマ州の行政機関のす ノーと警告する監視鳥につきまとわれているようなもので、大統領べてが。しかし市中に人影がないわけではない : : : 幸福な消費者と しての役割を果たそうと最後の買物に急ぐ人びと : : : 通りを駆けま の政治も慎重になるにちがいない。 クリスマスが近づいていた。クリスはホームシックになった。 わる子供たち。分厚いトップ・コートの襟に顔を埋めて、ひとりの 男が石段を急ぎ足でおりてきた。彼はサンタ・クロースがさしだす スパイダーは、メンフィス、デト . ロイト、クリー・フランド、グレ募金箱を一贅すると、目を細め、通りすぎた。クリスは先を急い ートフォールズ、ロサンジェルスの五都市で、クリスを暗殺しよう とした。そして、ことごとく失敗した。 帽子のなかの追跡装置は激しく鳴っており、ウォーレスに近づく につれ、音はますます高くなった。しかし赤服にそんな装置をごて マドックスーーージョージア州アトランタ ごてつめこんでいなければ、このサンタ・クロースは細いスマート な男なのである。「ホー、ホー、ホー」白い息を吐きながら、クリ スはつぶやいた。 言葉に書きあらわすには、あまりにもむごたらしいできごとだっ た。これまで遭遇したスパイダーの手先で、この男だけはクリスも 州会議事堂の石段の前に来ると、クリスは侵人の下準備を始め 殺さねばならなかった。小さな黄金の斧の柄でーーマドックスが経た。右手ミトンの掌にあるコントロールを操作して、高圧ホース 営する有名なレストランの記念品で。クリスは、〈八項目計画〉にを、議事堂の左そでの鉄格子のはまった窓に向けた・そしてチュー ームに合わせると、射出ボタンを押した・ホー おけるマドックスの役割、黒人憎悪マシーンを破壊すると、チキ・フの目盛を酸とナ。 ( ン・フライをむしやむしや食べながらモントゴメリイへ直行した。 スからほとばしる酸が鉄格子とガラスを溶かし、ついでナ。ハームが コンクリートに大きな穴をえぐった。すこしあとには、議事堂の正 ウォーレスーー・アラバマ州モントゴメリイ 面は燃えていた。 クリスはジェット装置で議事堂上空に舞いあがり、ゆっくりと降 赤服のサンタ・クロースは、真鍮の鈴を鳴らしながら、モントゴ下した。彼は屋上に立ったーー彼の姿に気づいたものはなかった。 メリイ州庁舎前の広場を歩いてゆく。でぶで陽気な、ひげ面のサン火事が敵の注意をそらしてくれる。跳躍プーツで屋上を大股に走り ながら、屋上の角にプラスチック爆弾をはりつけ、爆発力が真下に タ・クロース、そしておそらく世界でもっとも恐るべき男。 むかうように内破スプレイをその上から撒布した。そしてタイマー 背筋のあたり全体が妙にチクチク痛む。全装備をしよいこんだ、 このかさばる服のせいだろう。窮屈すぎて、十二月二十四日の日霜をセットすると、追跡装置がもっとも大きなウォーレス反応を示す 3 のなかでも、じとじと汗ばんでくる始末だった。休日とあって、建屋上の一部へとかけ戻った。ふいにビルの北そでのプラスチック爆

8. SFマガジン 1972年4月号

彼女はクリスのはだかの背中を ) マニキュアした長い爪でそっと 弾が爆発し、その轟音にまぎれてふたたび彼は屋上に穴をあけた 9 4 9 そしてプーツの緩衝装置をセットすると、アラバマ州会議事堂の内掻いていた。彼はべッドにうつぶせになり、ときたまナイトスタン ドにおいたウイスキーの水割に手をのばした。彼の背中でいまだに 部にとびおりた。 そこには、すでにグリーンのタイツを着たゾンビーが待ちかまえ脈打っている鉛色の傷跡が、彼女の興味をひどくそそるらしい。 てついた。「ホー、ホー、ホー ! 」声高らかな医い声とともにマシ「最後まで抵抗しやがった。八人のなかで、頭のなかの黒い生き物 ン・ガンが火を噴き、ゾンビーたちははねとび、膝をつき、のけそが心底好きだったのは、あん畜生たけだ 9 悪のかたまりだ。スパイ ダーや〈八項目計画〉の総元締めに、奴を選んだのも道理だな」過 った。数秒後には、歓迎隊は血だまりのなかに漬っていた。 ぎ去ったできごとを心のなかから消し去ろうとするように、彼は枕 彼らが警護していたドアが正面にある。万能鍵を使う時間はなか った。赤い鼻キャップをはずすと、ドアに投げつけた。無数の爪楊に顏を埋めた。 枝と化して降りそそぐ破片のなかを、追跡装置の音をたよりに進ん「三カ月半も待たせといて、あなたがしてくれるのはお話だけ ? 」 だ 9 そこは廊下で、人気はなかった。ウォーレス反応がしだいに遠プロンドの女がいった。 のいてゆく。逃ける気だろうか ? かもしれない。 クリスは寝がえりをうっと、彼女の身体をつかんだ、そのまま引 追跡装置が示す方向には、袋小路の白い壁があるだけだった。コき寄せ、両手をみずみずしい肌の上に走らせる。彼女は今までにな ントロールのひとひねりで赤服を装甲化すると、壁に体当りし、突く燃えているようだった。それから長い長い時間がたって、一月半 ばにはいったころ、クリスはようやく彼女を離した。「べイビー き抜けた。行きどまりに見えた壁のうしろには石段があり、闇のな かにのびていた。石段の各所に潜むゾンビーたちには、三〇口径があれを全部話せるもんか、とても神経がもたない」 「彼は死んたの ? 」 最適だった。階段をいちばん下までおりると、そこは地底の川で、 フカの三角のひれが水面にいくつも動いていた。ホー、ホ、ホーと「地底洞窟が爆発したときにね。アラ・ ( マの半分が陥没しちまっ つぶやきながら、クリフは地獄の闇にむかってダイプした。水がすた。ただ不思議なのは : : : 沈んだ土地のほとんどが白人種の地所な つ。ほりと彼をつつみ、聞こえるのはただフカのひれが水を切る音たんだ。黒人街はそっくり残った。新知事ーーーシャ・ハス・・ターナ け。 ーは全州を被災地区に指定して、爆発で家をなくした白人たちの保 小一時間のち、アラ・ ( マ州会議事堂と周辺の公共広場はすさまじ護を始めたよ。あのウォーレスの野郎、こんなことにならなけれ ば、何しでかしたかしれない」 い爆発とともに、地獄の業火に包まれた。その爆風で、セルマのか わいそうな黒ん・ほたちの家の窓ガラスが吹きとんでしまったほどだ「おそろしいわ」 「おそろしい ? あのくそったれが、スパイダーの計画で何を担当 してたか知ってるかい ? 」

9. SFマガジン 1972年4月号

言 - ( こ - を山す : と、お時は思わず叫びそうに なった。なんという奇怪なめぐり あわせだったろう。その女の名は おまきといい、平右衛門町ニ丁目 の頭梁、杉田屋猪之吉の女房 お蝶の : : : まだお蝶を生んでい ない時代の : ・ : ・母親だったー 懐しさと驚きの情にかりたてられ お時は、おまきの肩をんだ。 うすいきやしゃな肩の感触にも 限りない記憶があった。 自分はニ年後には赤ん坊として その胸に抱かれることになる : : : : さ早 向う ? 逃げなさい この場はあた ーなして : : : はなしてくだ さい後生だ - から : お願いですか ら : : : 行かせ て下さいまし 、れ毎物当きミ

10. SFマガジン 1972年4月号

こづいた。「冗談がうまいね、クリス」・フーツを指さして、「ジャて、ばかげてる。さあ、やるよ。取れ ! 」 イロスコー。フがある。いつでも平衡が保てる仕組みだ。倒れつこな彼は武器係に銃をつきだした。 「恩知らず ! 」 「なにせ冗談の名手ですからね、あたしゃ。ほかに何をくつつけた 「おれのウエンプリーをよこせ、気違い ! 」 「勝手に持ってけーー壁のとこにある、ど近眼の体制の奴隷め ! 」 んだ ? 」 クリスはオーマチックと暗闇装置をつかんだ。「赤服はアラ・ハマ 兵器係は陳列棚に近づき、自動ビストルをとりだした。「これを 州モントゴメリー のおれの連絡先宛てに送ってくれ」彼は急ぎ足で 試してごらん」 コ / ソー 制御卓のボタンが押されると、兵器室の左側の壁が下降し、射撃ドアにむかった。 「ああ、送るかもしれん、送らんかもしれんそ、うすのろめ ! 」 トンネルのつきあたりに 練習場が現われた。シルエットの標的が、 クリスは足をとめ、ふりかえった。「おい、ししカーーーええい 並んでいる。 くそっ、こんなとこで火力の議論をしてる暇はないんだ。世界を救 「おれのウエン・フリーは ? 」クリスはきいた。 「かさばりすぎる。信頼度も高くない。最新型が、きみの手にあるわなくちゃいけないんだからな」 「メロドラマ ! 唐変木 ! 反動 ! 」 それだ。ラシター 日クルップ・レイザー銃。最高だそ ! 」 「あほんたら ! きさまの間抜けなのにはあきれはてた、大間抜 クリスは姿勢をただし、身体のいちばん細い面を無言のシルエッ トに向けた。右腕をのばし、その手首を左手でつかんで固定するけ。大口たたくのはいいかげんにしろ、脳膜炎 ! 」 壁にたどりつき、それが音もなくひらくと、おもてにとびだし と、引き金をひいた。銃口から一すじの光とシュウという音がほと た。壁が完全に閉じる直前、武器係はパイ。フをたたきつけ、足で踏 トンネルの奥にあった十個のシルエット ばしりでた。その瞬間、 が、目もくらむ閃光とともに消失した。トンネル内部では、石壁のみつぶして叫んでいた、「おまえのそんなずた・ほろ上衣のどこがい いもんか ! 」 破片がめったやたらにはねとんでいた。爆発音は耳を聾せんばかり ・こっこ 0 / 学ノ ショア・ドライプからながめるシカゴは、巨大な燃えるごみ捨て 「こいつあ、まったく、おどろいたぜ」クリスはつぶやき、武器係 をふりかえった。彼は閃光と爆風よけのゴグルをはずしたところだ場を思わせた。サウス・サイドでまた暴動がおこっているのだ。工 「こういうバカなものだと、なぜ前もって教えてくれないんヴァンストンとスコーキーの方角に、どす黒い煙の柱が二本、のた だ ? こんなのは使えやしない おれは用心深く、人目を忍んでうちながらたちの・ほっている。 = ヴァンストンでは ( の子孫か 行動しなくちゃいけないんだ。ジ・フラルタル海峡をぶつこわすな人愛国団 ) が略奪と焼打ちをほしいままにし、スコーキ 1 では 3 ら、こいつも役にたっかもしれん。しかし一対一の格闘に使うなんが = ヴァンストンから来たの女たちと合流して、ペ 1