考え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1972年5月号
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1. SFマガジン 1972年5月号

「あそこにいるのか 「おれの声は聞こえるだろう ! フィデッサ、おまえが聞こえるよ ・ : : ・ ? 」カーテンが引かれて、憤怒があらわに うにしてやれ ! ダニイ、おまえは覚えていないのか : なった。「彼女はおまえを頼ってここに降りてきたのか ? 」 答なし。 「われわれを頼ってた。この違いがあんたの石頭にはわかるか ? 」 「あいっといっしょにいるのはだれだ」かれは目を細めて照明のか「ダニイ、そうしたければすぐそこを出てくるんだ、おれといっし なたを見あげた。「ダニ一イか ~ 」 ょに帰ろう」 ロジャ 1 の苦痛がしだいにその静寂を満たしはじめるのを聞きな 「そのとおりだ」 がら、わたしの思いつけたもっとも思いやりのある考えは、ちょう 「な・せ ? 」 どサムの残忍な行為が理解できなかったように、ロジャーの寛大 「どっちみちかれは逃げようとしていたと彼女は言ってる」 をもダニイは無視できればよい、ということであった。 「おまえに訊く必要なんかないんだ。理由ぐらいわかってる」 「われわれの言葉に耳を傾けつつあるってことさ、かれらは。なん「フィデッサ ? 」 ロ・ノヤー ?. なら自分で訊いてみるがいい」 「いますぐおれといっしょにハイ・ヘイヴンに帰るんだ」疑問符も ロジャーは顔をしかめると、頭を思いきりのけそらした。「ダニ なければ感嘆符もなし、このことがその人柄をはっきり示してい イ ! なんでおまえはおれから逃げようとするんだ ? 」 答なし。 いやよ、ハ必わー 「ヘイヴンやらビットやら、その他いっさいのものを捨てて行っち まうつもりか ? 」 くるっとわたしのほうに向きなおったとき、ロジャーの頭のなか で骨がばらばらに砕け、顔という袋のなかに投げこまれたかのよう 答なし。 な感じがした。 「フィデッサ ! 」 1 ー - ノ・ 「そしておまえは : : : おまえたちは、明日ケー・フルをこの山の上に ・ロジャ なあに : ・ 肉声で聞くとあれほどしつかりして聞こえる彼女の声は、マイク引くんだな ? 」 「そのとおりだ」 を通すとほとんど消えいりそうだった。 デヴィル ロジャーの手が脇腹を離れた。前へのびてきた。もはや談判は決 「ダニイはほんとうにこの悪魔どものところへ逃げてきたがったの 裂だった。かれはわたしにとびかかった。 「メイベル、いまだ ! 」 ・・ええ、そうよ、ハ必ー 二度目にわたしに殴りかかったとき、かれは火のなかを突進して きた。 「ダニィー 答なし。 228

2. SFマガジン 1972年5月号

そんな : : : た」一 だの痣ですの このしるしの 部分は感覚が 大きな 針で深く刺さ れても苦痛を、、、 ` 、 感じない : 魔女は死刑に せねばならぬ 殺人を犯したから でなく悪魔と結 したがゆえにい この蝶の形を した痣がおま えの魔女のし るしだー この国では 同じ迫害を受 ) - けるのは哈 深い切支丹宗 亠位じゃー そ、つえなく レ J ↓っ ( ト 6 い 魔女が拷問に かけられた末 死こなるの パでの話たか 者をきゼあも よ売魔 ; ウりとの っ王ンスな伴忠 たににが天庵 背身そら連も 教むで 時 わのわ け仲し じ問も やとお ! うえ

3. SFマガジン 1972年5月号

たす しかし、その右乳下に黒子を持っ随風の末子は、織田の兵に焼かが織田を扶けるなら、この猪右衛門も木下を扶けて織田の天下招来 れ、養育役の権爺と共にふもとの地蔵堂で焼かれてしまったらしに力を貸すまででござる」 随風は二人の若者に顔を向けた。 「光秀どのはこのさきどう遊ばすおつもりでござろうか . 「藤右衛門は : : : 」 ロの重い猪右衛門が、山を下りはじめたとき随風にポツリと言っ 「手前は宮大工でござれば」 中井藤右衛門はそう言って一番年下の与右衛門を見た。 「十兵衛どのも辛かろうな」 「俺も織田につきたい。しかし俺の親はまるであほうじゃ。はじめ 随風は苦い微笑を浮べて答える。「ヒがこのような一人の武家のは武田信虎についた。そして今は浅井方 : : : 世の中のことがまるで 見えておらぬ。このいくさ、きっと織田が勝つ。あのむごいやりよ あと押しをせねばならぬのじゃ」 うを見てもわかろう」 彼は首をめぐらせて山をふり仰ぎながら言った。 与右衛門はののしるように言った。 「手を引くわけにはまいらぬのじやろうか」 「ほう。与右衛門もやはり勝つほうが好きか」 「信長にここまでさせて引きさがってはヒがすたれよう。このむご いくさをなくすためのいくさにせねばの随風に言われ、与右衛門は強くかぶりを振った。 たらしさも天下のため : 「織田はひえを焼いたかたき : : : だが強うござる。いくさをなくす う」 には強い者をより強うさせるのが早道と考えます。織田に天下をと 「いまヒが手をひけば織田は減びましようかー 「なんとも言えぬ。諸国の忍びどもも、はじめは忍びの宗家としてらせ、そのあとでも 0 とよい者にゆずらせるのが一番 : : : 」 ヒを盛りたててくれた。しかしあの者どもも生きねばならぬ。織田与右衛門はそう言って少し得意そうな表情になった。 「器用なことを言う」 の敵方にまわる者も出はじめたが、考えてみれば詮ないことじゃ。 ・ : が、だからこそ今われらが織田を見限れば、織田が苦しむのは藤右衛門がわらった。 「毒を使うのじゃ」 知れ切っておる。それはたしかじゃ。勝てるいくさに敗け、勝つい 与右衛門はむきになった。「いくさをせず、大将を一人だけ殺す」 くさも長びこう。十兵衛どのはそうさせまいとお考えなのだ」 「あとつぎでいくさが起ろう」 「おのれの立身、栄達のみを考えればそれでよい里者は気が楽でご 猪右衛門が言い与右衛門が抛り出すように答える。 ざるな」 「うまい始末は随風さまたちがしてくれよう」 猪右衛門の言い方は光秀に同情するようであった。 湖から吹いてくる風に秋の気配がしていた。 「猪右衛門はどうする」 「判りませぬ。ただ今までどおりやるのみでござろうな。光秀どの 8

4. SFマガジン 1972年5月号

ある日の編集部 至るまで、とりあげられて「宇宙船地球号」を読んでいるうちに、太陽は飛行機の行一 4 5 おり、各分野についてのさく手に沈んでいった。 まざまな本が、内容の抜粋、 窓の外の暗黒をながめながら、私は片叫 ~ 〔の自然のなか をイラスト、批評いりで、親で自分たちだけの文明を創りはじめようとしている友人た 切に紹介されている。もちちに思いをはせ、どうしたら、彼らの助けになってやるこ ろん、注文する場合の申込とが出来るだろうかと考えていた。どうも私の見るとこ み先も記されているが、ころ、問題の多くは、〈そこに近づくための手段〉にかかわ のカタログは、とにかく、 るもののように思われた。どこで風車を買ったらいいの 見ているだけで、また、読 か、養蜂についての情報はどこから得たらいいのか、自由 んでいるたけで、くめどもを失うことなく、コンビ = ータ 1 を手がけるにはどうした つきぬ楽しさがある。 戸っししカ 憲 この本の編集方針と、私すぐに私は、アクセス・サービス業 ( 必要なものはなに しこう の嗜好とが似かよっている か、それを入手するにはどうしたらいいかーーを案内する のか、カタログで紹介され仕事 ) を夢想していた。巡回ストアのようなものーー価値 物ている本で、私が持っていのある情報や、品物の見本、入手法の情報を持って、旅し る本もかなりある。このスてまわる店。使用者側のカで絶えず改訂されていくカタロ 一考 , みな ) でみると、中年 ( と」うよ用者 = 負 0 て」る優れた品物 0 カタ〔グ。そうしたも 0 を り初老 ) の男で、スチ、ア作るために、何年か自分を入れあげてみるたけのことはあ 1 ト・・フランドという。最終版の巻末に、カタログのそもるだろうと思った。 そんな考えに熱中しながら、私は、・ハックミンスター そものはじまりから、現在にいたる歴史を述べているか フラー博士の戒め「なにか思いついても、十分以内に実行 ら、紹介してみよう。 に移さなければ、そいつは夢の世界に消え去ってしまう」 ー・ハラ・ウォードの本のページに、そのと を思い出し、 2 全地球カタログの興亡 き考えたことをメモしたのだった ( おかげで、結局、ウォ トの本を読了することはできなかった ) 。 一九六八年一一一月、ネプラスカ上空を飛行中の旅客機のな 翌朝、ポートラ・インスティテュートのディック・レイ かで、全地球カタログへの第一歩が踏み出されたのだっ モンドを訪ねて、私の考えを話した。私はその研究所で彼 た。私は、その朝ィリノイで、父の葬式をすませカリフォ ( ラ・ウォ 1 ドの書いたのために漫然とはたらいているのだった。 ( ポ 1 トラ研究 ルニアに帰るところたった。パ

5. SFマガジン 1972年5月号

な口ぶりをしようとした。「しかし、法律というものがあるんだ」ういうふうにたちの悪い男なんだよ、かれは。そうでなくてもダニ イは、ひとが自分の道具をいじりまわしたり、それでふざけたりす 誠実さは、好戦的になるためのわたしのお気に入りの方法である。 ロジャーは、とある窓 ( ここでは割れていない ) の前で足を止めるのが嫌いなんだ。そのうちサムが。ヒットを追いまわしはじめる ると、腰のポケットに手を入れ、激しく峡谷をなだれ落ちる谷川をと、ダニイはやつにとびかかっていった。そこでサムは、真っ赤に 見つめた。 焼けたパイプを、かれの頭に押しつけたってわけだ」ロジャーは指 それは いま気がついたがーー一マイル下方で《ヒーラ・モン輪をひねくりまわした。「その有様を見たとき、おれはなんとかし スター》がまたがっている、あのおなじ川にちがいなかった。 なきゃいかんと感じた。それで二週間前に、とうとうその結着をつ 「察しはついてるだろうが、プラッキイ、おれはこの地位についてけた」かれは笑って、手をばたりと落とした。「その日、天使の安 まだ日が浅い」ややあってかれは言った。「ほんの二週間前まで息所では、いくさがあったってわけさ ? 」 「どんないくさだったんだ」 は、ただの天使長にすぎなかったんだ。おれがこの役を引き継い だ理由といえば、前任者よりも、ここの運営法について、ほんのわ かれは流れる水を見つめた。「おまえさん、このヘイヴンの最上 ずかまともな考えを持ってたってことしかない。その考えのひとっ階のポーチを見たかね ? おれはあそこからやつを三階のポーチに は、ここを、できるだけトラ・フルをすくなくして運営していくこと投げおとした。それから三階に降りて、やつを二階のポーチに落と だったんだ」 した」かれはその窓をゆびさした。「それからまた階下に降りて、 そこからやつを川に投げこんだ。やっこさん、しばらく岩にしがみ 「前に運営の責任にあたっていたってのは、だれだい ? 」 「サムがおれの前のアークエンジェルだった、そしてフィデッサがついてたよ。そのうちとうとう見ていられなくなったんで、おれは ゲルピム 智天使の長だ。かれらはここの運営の実権を握っていた。そして苛みんなにあいつを岩から突きおとせと言ってやった」後ろ手に組ん 烈にそれをやった」 だ手で、かれはまた指輪をひねくりまわしはじめていた。「それき うまくしたら、ヘインズヴィルに りやっこさんの姿は見かけない。 「サムというのは ? 」 「この世のありったけの下劣さをすくいあげて、おれの三倍も醜悪たどりついたかもしれんな」 な人間の皮に流しこんだのがサムだよ。ダニイの目をえぐりたした「それで : : : あー、フィデッサは、その昇格に付随するものだった のもかれだ。あるとき、酒が二ケースばかり手にはいったんでな、 のか ? おれたちはまあちょっとした、その、乱痴気騒ぎをやらかした。そ「そうた」かれは手を前へまわした。でこ・ほこの金属面に、光があ のうちサムが鍛冶工場へ行って、ふざけはじめた。鉄パイ。フの先端たってきらめき、またきらめいた。「もしそうでなかったら、おれ はそれを思いたちもしなかったろうな。彼女は女のなかの女なん を焼 . いて、それをひとに向かってふりまわしはじめたんだ。みんな がきやっと言ってとびあがるのが面白かったんだろうな。つまりそだ」 アークエンジェル 円 0

6. SFマガジン 1972年5月号

最後の飛行機が通り過ぎてから十カ月後にロルフ・スミスは、生く所などどこにもない。我々のうち三人が疫病にやられている き残ったのは自分ともう一人の人間だけだという確信を持った。彼やがてそれが十一人になり、そして全員になった。 女の名前はルイーズ・オリ・ハ 1 と、 ししスミスはム 7 、ソールトレ パレスチナの国営放送局の近くに墜落した爆撃機のパイロットも ク・シティのあるデみ ハ 1 トの喫茶店で、彼女と向かいあってすわっ いた。彼は墜落の際にびどい骨折をしたので長くはもたなかった ていた。二人は罐入りのウインナー・ソーセージを食べ、コ 1 ヒ 1 が、それより以前に、太平洋の島々があるはずの所に漠として水面 が広がっているのを目撃していた。極の【氷原に爆弾が投下され を飲んでいるところだった。 太陽の光が、神の審判のように、われた窓ガラスから差し込んでた、というのが彼の推測だった。 ワシントン、ニューヨーク、ロソドン、パリ、モスクワ、重慶、 いた。中も外も物音一つしない ただ死に絶えた重苦しいまでの 静けさ。台所で皿をがちゃがちゃいわせる音も、市街電車のごうご シドニーからは何も伝わってこなかった。だれが疫病でやられ、だ ういう重い音も、もう二度と戻らない。あるのは、日光と、静けされが死のでやられ、だれが爆撃でやられたのかも分らない。 と、ルイーズ・オリくー ノの当惑している薄青色の目。 スミス自身は、それまで、ある研究所の助手をしていて、疫病の 彼は前かがみになって、少しの間、そのさかなのような目の注意抗生物質の研究班にいた。彼の上司は、時々効果をあらわすことも を引こうとした。 ある抗生物質を発見した。しかし、少し遅すぎた。研究所を出る 「ねえ、きみ」と彼は言った。「もちろんきみの考えはもっともだ時、スミスは、その抗生物質をあるだけ持ってきてしまった。四十 と思うよ。でも、それが実際的じゃないってことをわかってもらわアンプルあった。数年間もちこたえられる量である。 なきゃならないな」 ルイーズは、デイハ 1 近くのお上品な病院でずっと看護婦をして いた。彼女によれば、爆撃の日の朝、彼女が病院に向かっていた時 彼女はかすかな驚きを見せて彼を眺め、そして再び目をそらし た。彼女は小さく頭を振った。いやよ。いや、ロルフ。私はあなたには、ひどく奇妙な何かが病院に起こったあとだった。このことを 話した時、落ち着いてはいたが、彼女の目つきは虚ろになり、希望 と罪深い生活をする気はないわ。 スミスは、フランスやロシア、メキシコや南太平洋の女たちのこを失った顔に、さらにまた翳がさしたようであった。スミスはしい とを考えていた。ロチェスターの荒廃した放送局の無線室で、無線て説明を聞こうとしなかった。 の跡絶えるまでの三カ月間、彼女たちの声を聞いて過していたの彼と同じように、彼女もまだ機能している放送局を見つけていた だ。スウェーデンには大きな避難村があって、そこにはイギリスののだった。彼女が疫病にかかっていないことがわかると、スミスは 閣僚もいた。彼らは報告してきた。ヨーロツ。ハは死んだ。完全に死会うことに同意した。明らかに、彼女は自然免疫者だった。免疫者 んだ 一エーカー残らず死の灰に掃討されてしまった。我々にはほかにもいたに違いない。少なくとも数人はいただろう。しかし は、二台の飛行機と大陸のどこへでも行けるだけ燃料があるが、行爆弾と死の灰が彼らを容赦しなかったのだ。 4

7. SFマガジン 1972年5月号

わたしはかたわらからのぞきこみ、それから、そのックルを指がらのりだした彼女の手のひらに、それを落としこんだ。黄金がき ( どうしてつらめき、彼女の面を、さながら焔のように徴笑が走りまわった。 し、ロジャーの指輪を指して、首をかしげてみせた。 んぼの前に出ると、われわれはきまって唖になるか、大声で喚くか ( 投擲ナイフが彼女の腰でちやりんと鳴った ) ものいわぬダンの面 上には、ひとにものを与える喜びに胸を躍らせている人間の、あの するのだろう ? ) ロジャーはうなずいた。 「ダニイはおおいにおれたちのためになってくれてる。このほかに恍惚たる表情があった。 フィデッサが、「みんな、最初のひとかまの分をみんな取っちゃ かれは機械工としても一流だ。おれたちはみんな、タービン修理に かけてはいちおうの腕前を持ってるが、ここにいるダニイは、ほんったの ? 」と言った。そしてダ = イの手のなかのパンを見て、実際 とうに技術屋らしい技術を見せてくれる。ときどきおれたちはかれに噛みつきそうな表情になった。それから、ちっと歯を鳴らすと、 をへインズヴィルに連れてって、そこで仕事をさせることもある背を向けて、歩み去った。 「ねえきみ」と、わたしはビットに問いかけた。「きみはここの暮 らしが好きかい ? 」 「もうひとつの収入源ってわけか ? 」 「そうだ」 。ヒットは指輪をとりおとし、わたしを見た。たちまちその顔に小 ちょうどそのとき、。ヒットが焔のなかを縫って姿をあらわした。 さな恐怖の皺がもどってきた。 大きなパンの塊りを二つ割りにしたのを持っていて、「ねえダニ ダンにはわたしの言葉が聞こえなかったはずだが、ビットの不安 イ ! あんたにパンを持ってきてーーー」と、つん・ほ向けの声で言い には敏感に反応した。彼女とわたしを見くらべているうちに、かれ はじめたが、わたしたちに気がつくと、ふっと黙りこんでしまった。 の表情はとまどいぎみな怒りのそれに変わっていった。 ダンは顔をあげ、にやりとすると、娘の肩に片腕を巻きつけ、も「こいよ」だしぬけにロジャーがわたしの肩をびしやりとたたい 「この連中にはかまうな。ここを出ようじゃないか」わたし ういつぼうの手でパンを受け取って、かぶりついた。 かれの笑顔が、。ヒットのうえにも反映した。 はその無理じいに抗議しようとしたが、どうやらロジャーという男 パンの皮を噛んでいる片目の鍜冶屋を見まもっているうちに、彼は、ひとに無理じいすることに慣れているらしかった。わたしたち 女の顔の上の融通自在な恐怖の色が、しだいにゆるんでいった。そはそこを出た。 のとき彼女は、ほとんど美しいとさえ見えた。 「なあ」ロジャーが足もとを見つめて歩きながら言った。「ちょっ とおまえさんに説明しときたいことがあるんだ」わたしたちはかま わたしはそれがうれしかった。 「ここでは電力はぜんぜん必要ないん ダンはいまだに腕の下にビットの肩をかかえこんだまま、細工台どのある部屋をあとにした。 のほうをふりむいた。そして指先でいくつかの指輪をころがして、 「そのことならだいたいわかった」わたしはかれに劣らず誠実そう 彼女に合いそうな小さなやつを捜しだすと、「おお : : : 」と言いな

8. SFマガジン 1972年5月号

ルイーズにとっては、プロテスタントの牧師が一人として生き残「ええ、ロルフ」彼女は催眠術にかけられたひょこみたいな顔つき っていないことは、びどく困ることらしかった。 で彼を見つめながら言った。 スミスは懸命に続けた。「たとえ事実が不愉快でも、ぼくらはそ 問題なのは、彼女が本気でそう思っていたことだ。スミスにはな かなか信じられなかったが、それは本当だった。それに彼女は彼とれを直視しなければならない。ねえ、ぼくらはこの世でただ一人の 同じホテルにとまろうとさえしなかった。彼女は最高の礼儀と礼節男とただ一人の女なんだ。エデンの園のアダムとイヴみたいなもの を彼に期待した。スミスは煮え湯を飲まされてから、期待通りにし た。彼は瓦礫の積み重なった歩道の外側を歩いた。もしまだドアが ルイ 1 ズは少しいやな顔をした。きっといちしくの葉のことを考 残っている場合は、彼女の先に立ってドアをあけた。彼女に椅子をえているのだろう。 勧めた。ばちあたりな言葉を差し控えた。彼女の御機嫌をうかがっ 「まだ生まれない世代のことを考えてみてくれ」スミスは声を震わ せながら言った。今度というこんどは、おれのことを考えてみてく ルイ 1 ズは四十歳前後で、少なくともスミスより五つは年上だつれよ。恐らくきみの方はあと十年大丈夫だろう。彼は病気の第二期 た。彼は時々、彼女が自分の齢をいくつだと思っているのだろうとのことーーー前ぶれもなく突然襲ってくる救いようのない硬直ーーーを 不思議になった。彼女の精神は、病院と彼女の患者たちに起ったこ考えるとそっとした。すでに彼は、一度発作に襲われたところをル とーー・・それがなんであったにしろ・ーーを見たショックで、あわてふィーズに助けられている。彼女がいなかったら、彼は、硬直した手 ためいて、幼年時代まで退却してしまったのだ。彼女は暗黙のうち から数インチの所に自分を救う皮下注射があっても、死ぬまでその に世界中のほかの人間がみんな死んでしまったことを認めていたままの状態でいただろう。彼は絶望的な思いで考えた。もし運がよ が、それはロにすべきことではないと考えているようだった。 ければ、きみが死ぬ前に少なくとも二人は子供ができる。そうすれ 三週間の間に少なくとも百回は、スミスは彼女のほっそりした首ばおれは安全だ。 をへし折って、自分の思い通りにやっていきたいという、抵抗でき彼は続けた。「神は、人類をこんなふうに減・ほすおつもりではな ないような衝動を感じた。しかし救いはなかった。彼女はこの世の かった。神が・ほくらを、きみと・ほくを、赦したもうたのはーー」彼 は思案した。どうやったら、彼女の気にさわらないように言えるた 唯一の女性で、彼は彼女を必要としていた。もし彼女が死んだり、 行ってしまったりしたら、彼も死ぬのである。オールドミスの雌犬ろうか。『両親』というのはうまくないーー直接的すぎる。「 め ! 彼は心のうちで激しく毒づいたが、その思いが顔に現われな生命のたいまつを絶やさないようにとの思召なんた」彼はロを閉じ た。これでいい。これくらいセンチメンタルなら十分だ。 いように用心した。 ルイーズはぼんやりと彼の肩越しに向こうを見ていた。彼女は規 5 「ねえ、ルイーズ」彼はやさしく言った。「・ほくは、できるだけ君 則的にまばたきし、同しリズムでうさぎのように口を動かした。 にいやな思いをさせたくないんだ。それはわかるね」

9. SFマガジン 1972年5月号

「もう一度言うわ、あんたはわたしとうまくいかなくなる。わたし「行くがよい、色浅黒き騎士よ。われら、カナダ国境のかなたの戦 場にてあいまみえん」彼女はひどく生真面目な面持ちで立ちあがっ はあんたとうまくいかなくなる」 こ 0 「だから、どうしてかって訊いてるんですよ」 「あなたがそう言うのであれば」 「あんたはいまやセクション・デヴィルよ。わたしもおなじセクシ ョン・デヴィル。あんたはそれになってまだ六時間たらず。わたし「明日の朝会うわ、・フラッキイ」 わたしはオフィスを出ながら、騎士と決戦について首をひねって はそれになってもう十六年以上。でも規則のうえではね、わたした 、た。しかしまあどっちにしろそういうことになってしまったの ちは同等の権限を持っことになっているの」 「うるわしきおとめよ」わたしは言った。「汝が愛すべきたわごとだ。スコットはいびきをかいていた。だからわたしは、夜のしらし ら明けまで本を読んで過ごした。 はやめたまえ、ですな」 「規則にこだわらないのはあなたのほうよ。わたしはこだわるの。 二人の人間が権限を分割して、うまくいったためしがないのよ」 2 「もしそれであなたの気が休まるなら、・ほくは依然としてあなたを ポスと考えることにしますよ。それも、ぼくのいままでに持った最明けてゆく空 ( 上から下へ順々に ) 紋章の黒、紺青、紅ーーー 良のポスです。のみならず、・ほくはあなたが好きなんです」 山はその盾形紋地のむかって左手に、右手には樫、多数の 「プラッキイ」彼女は天窓を見あげて、窓枠の外の月が、いまだに そこのモザイク模様を照らしているのを見ながら、「あの国境を越松、少数の楓から成る木立紋。《ヒーラ・モンスター》は、とある えたあそこではね、あることが起こっているのよ。そしてそれにつ滝の下の、あわだつ小川にまたがる形でその身を横たえている。わ たしは外のパルコニーに出て、足を踏んばったわれらが巨大な怪獣 いては、わたしのほうがあんたよりもよく知ってると思うの。あん たはたた、それが転換工作だってことと、その場所がちょ 0 と奇妙のしみひとつない脇腹を、落ち葉がはらはらところがり落ちてゆく だってことを知ってるだけ。だからわたしはこう警告させてもらうのを見ながらシャワーを浴びた。 「ねえ ? ちょっと、そこのひと ! 」 わ、あんたはそれをあんたのやりかたで処理しようとするだろう、 「やあ」わたしはその娘のいるほうへ向けて手を振った。娘は わたしはまたべつのやりかたで処理しようとするだろうって」 うへつ ! ー、ー・膝まである水のなかに這いおりようとしていたが、降 「じゃああなたのやりかたでやればいい」 りたとたんにきやっと悲鳴をあげて、また岩によじのぼり、ばつの 「ただひとっ困ったことはね、わたしにも自分のやりかたが最善だ 悪そうな顔をした。 と断言はできないってことなの」 「メイベル 「スヤキ実習生か ? 」 ナイトディ

10. SFマガジン 1972年5月号

に降りたっていた。 わたしは彼女を見つめて、深く息をついた。それから、身を引い 岩場に近い、露出したケープルの突端まで行ったロジャーは、そて、床の落し戸から《ヒーラ・モンスター》の屋根の上に降りた。 こで″ほうきの柄″を降り、それが横倒しに倒れるのにかまわず、装甲鉄板の上を″頭″へ向かって疾走してゆくと、二基の投光器の ゆっくりと肋材の上を歩いてきはじめた。 あいだからわたしは下を見おろした。 「いったいなにをするつもりなんだ」スコットが言った。 「ロジャー 「おれが外に出て見てこよう」わたしは言った。メイベルが鋭くわ かれは足を止めて、ライトに目を細めながらこちらを見あげた。 たしをふりかえった。「たしかここに集音マイクがあったはずだ」 「ーーー・フラッキイか ? 」 デーモン 悪魔はなにを企んでいるかわからないから、なるべくかれらの動静「いったいここでなにをしてるんだ」 を盗み聞きしていたほうがいい もしこれにスイッチがはいってい かれが答える前に、わたしはクレーン格納庫の掛け金を蹴っては ィートの鉄の爪の上に這いおりた。それから、メイ・ヘル たら、メイベルは今日の午後のスコットのちょっとした悪戯を、前ずし、二フ もって知ることができただろう。「ねえ ! 今日の午後のスコット 、 - 彼女はすでにこちらを見まも に声をかけようとしてふりむしたが、 / のちょっとした悪戯、覚えてるでしよう ? あれとおなじことをこ っていた。クレーンが唸りだし、わたしをのせたままぐーんと前方 こからもやれますね ? 」 の下方へせりだしていった。 「被覆からの高圧のブラシ放電アええ、そりややれないことはな ケープルのそばまでくると、わたしはとびおりた ( 投光器の光が いけどーー」 肩にあたって砕けた。 ) 彎曲した肋材の上でわたしはスランスをと 「夜やれば、もっともっと印象的に見えるはずですよ ! ぼくが出りもどした。 ていって、ロジャーをケ 1 ・フルの上におびきよせます。もしなにか「ロジャー まずいことがあったら、怒鳴りますから、そしたら例の火花を出し「うん ? 」 てください。だれにもなんの害もありませんが、連中はそうと知ら「ここでなにをしてるんだと訊いてるんだよ , ないから怯えるでしよう。その隙にこっちは脱出するというわけで ケー・フルにそって積みあけられた土の上に、ほかのエンジェルた す」わたしはかちりと集音マイクのスイッチを入れ、落し戸へ向かちが立っていた。わたしは前進した。 った。前ぶれの空電のがりがりいう音につづいて、エンジェルたち「いったいなにをしてるんだ。さあ、これで訊くのは三度目だそ」 のくぐもった話し声が聞こえてきた。 、イートの電線の上では、綱渡りをするのはさほどむずか 直径十六フ しいことではない。とはいえ : メイベルはわたしの肩に手をかけて引きとめた。「・フラッキイ、 ロジャーが一歩踏みだし、わたしは止まった。「・フラッキイ、お わたしはここからプラシ放電を起こすことができるわ。同時に、あ の線の上にいるひとを、だれでも焼き殺すことができるのよーー」まえたちにこんなケー・フルなんか引かせやせんからな」 226