口調で、円盤は実在するものであり、それを認められないものこ のを感じていた。うつかり呼吸のパランスを失うと、それきりコン そ、根深い心理的、精神的障碍を持っているものにほかならない、 トロールがとれなくなるような弱気を抑えきれない : 政府はそうした人間を、潜在的危険人物として一日も早く予防拘束 十分前になり、五分前になった。 しなければならない、といったのだ : ・ 「本番五分前ーー位置についてぐださい ! 」 どっとあがったスタジオのどよめきは、狼狽のそれではなく、勝 。フロン。フターが、マイクを使っていう声に一番ぎくりとしたのは 玉置自身だった。人々はひとしきりざめわき、位置につきーーそし利のおたけびだった。そこへ現われたのが、村瀬だった。彼は、田 てざわめきはおさまった。あの、一種異様な緊張が、スタジオ内の所青年を従えて正面のマイクにすすみ、全国の視聴者にむかって、 すぐさま、宇宙盟邦学会を支持し、宇宙人とコンタクトするための 空気分子をイオン化したようにびりびりと感じられた。 国際的な機関の設立を提唱した。スタジオ中が、歓声で湧きかえっ 「一分前ーー・よろしくお願いします」 。フロン。フターが、マイクの前に立って、にこやかな職業用の笑顔た。も、カメラマンも進行係も、だれもかれもが目を輝かし、 。それに参加していな しい、スタジオ中に手を振り、足を踏みならして叫んでいた : ・ をすでに試してみている司会の矢島にむかって、 いのは玉置だけだった。いやそれと、早苗がいない。そうだ早苗は 一礼した。 なぜいないのだ ? な・せあれきり彼に連絡もしてこないんだ ? そして : : : その瞬間、それが始まったのだ。 矢島は、開口一番、今日の特別番組は、円盤の実在をはじめて世もちろん、宇宙人に抱かれているからじゃないか。 だれかが、目の前で、玉置にむかって、しつこく何かいいなが 界にむかって公表する歴史的な出来事であると宣言した ! ら、妙な形の黒い器具を手渡そうとしていた。 それから先はもう、悪夢だった。 ふと気づくとそれは電話だった。 手続きは、ことごとく、玉置の考えていたのとは全くちがった。 もちろん、 Q もほかのスタッフも、みな、彼を罠にかけるため、 「玉置さん、電話。緊急だそうですよ ! 」 従順そうな芝居をしていたのだ。目撃者たちと写真技術者たちと何がいまさら緊急だ。なにもかもが : ・ をいっしょになって、すべての円盤写真が、どれほど真実性を持そして気づくと、正面の大時計は、まだ本番十五秒まえで、長い っているかを力説した。円盤研究者たちと学者たちとはーーその中秒針が、おそろしくゆっくりと盤面を這っている には、呼びもしなかった日吉隆吉もいた ! 円盤現象がいかに科まだ何も起っていなかったのだ。 学的にーー物理的、力学的に正しいものであるかを、きわめて雄弁しかし に語りつづけた。 彼は手にした電話を見つめた。受話器は昆虫の鳴き声に似たかす かな音をひっきりなしにあげていた。それは、いま、屋上に、円盤 しかしそれも、心理学者たちの裏切りにくらべれば、取るにたり ないものだった。その高名な心理学者は、いつに変らない柔らかなのついたことを知らせる緊急電話かもしれなかった : ・ け 4
か目につかないところに隠してしまおうと請求書をとりあげた。新たかたは機械の前に出て、改変した事項をはっきりと述べてくださ しいメガネが必要なことに気づいたのは、隠し場所を思いめぐらし では、最初にアレサさんから」 ながら、ふとその紙に目をやったときだった。 アレサはとりすました足どりでステージを横切ると、きらめく銀 色のクモの巣の前に立った。「タース 7 のもっとも美しい都市″テ ″の名を″アレサ″に」と、彼女はいった。 司会者は、子供たちの最後のひとりが物質瞬送機から現われ、スキット テージの定められた席につくのを待った。そしてテレカメラの巨大〈改変機〉がプーンと唸り、アレサは席に戻った。 なレンズの前に進みでると、銀河系全域の視聴者に顔を向けた。彼「ヴォリスくん ? 」 のかたわらでは、改変機がこみいった銀のクモの巣のようにきらめ ヴォリスがおずおずと進みでた。「フルイス 3 の最大の大陸″ いている。 リエル″の名を″ヴォリス″に」 「〈勇気ある少年育成協会〉の主催で行なわれたエッセイ・コンテ 「ストリスくん ? 」 ストの入賞者たちが、ただいま帰遠いたしました。コンテストのテ 「サイリス マトナメット国の″メトヌーメン″政体を″ストリ ーマは、ご存じのとおり『わたしの好きな原始惑星』で、入賞者のス″政体へ」 みなさんはそれそれご自分がエッセイのなかで取りくんだ惑星を訪「オテリスくん ? 」 問されてきたわけです。その訪問のあいだ、入賞者には褒美として 急に恥ずかしさがオテリスのうちにこみあげてきた。銀河系全域 時間改変が一回だけ許されます。もちろん、すでに決定された歴史の地理の教科書に自分の名を刻みこんだこれらの有名な子供たちー からの大きな分岐は、時間パターンに収拾のつかない混乱を生じさ ーそれと比較して、自分は何をしたのか ? だが、つぎの瞬間、恥 せる恐れがありますので、改変は思想性の稀薄な地理もしくは歴史ずかしさはみるみる消えていった。いま彼が感じているのは誇らし 関係の事項にとどまります。けれども、このコンテストの趣旨はあさだけだった。オテリスは〈改変機〉の輝くクモの巣の前に立っ くまで、将来この銀河社会の優秀な一員となる入賞者たちが、後進と、自分がいわなければならぬことを静かな威厳をこめていった。 文化の言語、習慣を学ぶことによって、われわれの文化の優越性を「ソル 3 、アメリカ、マサチューセッツ州、スミスポート、ルーラ / スケルのミルク代請 認識することに : : : 」 ル・ルート四番地在住、ミス・アビゲイル・、 求書の金額二十三ドル十七セントをゼロに。そして同じ請求書にあ 司会者は、やがてステージの子供たちに向いた。スタジオの照明った文字″お願いします″を″支払いずみ″に」 、北〃オテリス″洋では、響きがよくないではない いずれにせよ の下で、子供たちの白い顔は輝き、頭にかぶった改変ヘルメットが まばゆくきらめいている。「では、みなさんにひとりずつ説明してか。 いたたきましよう。確認は改変機が行ないますから、名前を呼ばれ 8
風の年齢に、いま一豊はさしかかっている。 らしたヒの岡の小さな祠に、細い灯火が揺れている。 よりたま いぶき みかがみ 正面にヒの神器である御鏡が置かれている。伊吹と依玉の二器「みなの心を聞きたい。これからどのようにして生きればよいと考 2 えておる : : : 」 は、その左側に揃えて並べてある。 御鏡の中央が時折り白く曇り、その曇りが僅かに渦動したと見る随風が低い声で言 0 た。一豊も高虎も、ほぼ完全ないくさ仕度で ある。藤右衛門だけが軽々とした宮大工のなりで、その身軽さを利 たびに、御鏡の前に忽然と人が湧いて出た。 山内一豊、藤堂高虎、中井藤右衛門 = : ・・ = 一人があい前後してヒのしたように、すらりと答える。 岡〈テレポートして来た。誰が現われても、ヒの長随風は黙然と司「ヒにもいろいろな生き方があ 0 てよろしかろうと考えます。私め の前の草の上に胡坐していた。草は夜露にし「とりと濡れ、時折りは大和の宮大工中井家〈もらわれて家職を教えられ申した。宮大工 の暮しが好きになり、それなりに考えることがございます」 風が山の樹々を轟と鳴らして過ぎて行く。 「申してみよ」 沈黙を続ける随風の前に三人が次々に坐り、揺れ動く細い灯火の 「諸国あまねく人々が崇める官や寺は、そもそもの起りをみなヒの ために、その四つの影は人ともけものともっかぬ形に見えている。 ひもろぎ むすびのやま 古来京の人々がこのあたりを妖ヶ原と呼んだのは、このような光景産霊山に持 0 ており中す。われらが神籬を組み、わたり歩くことの むすび しにしえより人々が祈りを向けるあてどころで できる産霊の地は、、 に怯えた者がいたためであろう。 ござった。もともと産霊の地とはそのような祈りを集めるところで 「どうすることも叶わなんだ」 はございませぬか」 一豊が深い悔いをこめてつぶやいた。 ・せいゆきあし 「せめて一声なりとおかけ下されば、わが勢の行足をとめることも「そうしゃ : : : 」 「人に限らず草も木もけものも鳥も、明日よかくあるべしと今日に できたであろうに」 祈り、その祈りが凝って白銀の矢となる時、産霊の山はそれを受け 高虎は憤りをぶつけるように言った。 「また四人がこうして集 0 てしもうた。四人が集うのは悪い折りばて明日を定めるのでございましよう。人もけものも草も木も、それ を生れながらに知っており申す。中でも人は最もよく祈る命とし かりではないか」 て、その祈りのあてどころにやがて目じるしを置いたのでございま 藤右衛門は嘆息して言った。 しよう。それが宮のはじまりであり、人の数里の数がますに従い 「随風さま。何をお考えでござるか」 そう言 0 た一豊はすでに = 一十五歳をこえたはずであ 0 た。この前尊い産霊の山は各地に勧請され、産霊の地以外の地にも宮が建てら 四人が集「たのは、比叡山西塔の近くの瑠璃堂の辺りである。信長れることとなり中した。宮は仏法の伝来と共に寺となるものもあ によ 0 てヒ一族の故郷である比叡が焼かれ、この四人は深い嘆きとり、釈迦、如来、観音、菩薩とさまざまな本尊、宗旨を持ちはいた 憤りをおし殺して死骸の積み重なった道を下ったのだ。その頃の随しましたが、みなもとはすべて産霊の地にござります」
「白い崖のある場所は、あちらの方角だよ」 男は、西の方を指していった。 マニヤの心は、光る星空をみているうちに開かれていた。「わた しもそうだ」アガはいった。「晴れわたった夜空は、なぜ、お前が そこにあるのだ、と問いかけているのだ。それから、広大な外の世 界があることも教えているようだ」 「わかるような気がします」とマニヤはいった。「理由ははっきり わからないけど : : : 」 その夜、アガと別れて家に帰ったときも、塔上で経験した感動は のこっていた。 その次あったとき、アガはそこへいく道筋を教えてくれた。 「舟には、帆をはるといい。風が、舟を運んでくれるだろう。浅海 には、陸地にそう潮の流れがあるはずだ。やがて、潮は、舟を沖合 いにはこんでくれるたろう。また、帆をはり、西へすすむ」 「風が逆に吹いていたらどうするのですか」 「そんなことはない。そこまで行けば、風は常に西へ吹いている。 そういう場所があるのだ」 その次また逢ったとき、アガは木を伐り、組みあわせて筏をつく る方法を教えてくれた。枝振りをみきわめて、安全に木をきりたお す方法や、その組みあわせ方。骨組を縛る繩のつくり方。またその 結び方。帆柱の建て方。それに帆を張る方法。帆のつくり方。 その次にまた逢ったとき、こんどは、帆の操作のやり方をならっ た。男は、小さな模型までつくってきて、それを彼に教えてくれ た。その他こまごました航海に必要な技術があった。生水を入れる 皮袋や雨のあつめ方。食糧となる魚のとり方。 「だが、これはあくまで知識なのだ」とアガはことわった。「わた 通称月のあばた、いわゆる「クレ 名されて以来、多くの科学者によっ て懸命な研究が続けられていて、現 ーター」についての最も不可解な問 在では、大昔隕石が地球に衝突した 題は、そのいくつかから、あたりの 際に付近の岩石が溶融して飛び散っ 地形とは無関係に、四方八方へ延び ている明るい線状の痕跡「プライ たしふきの固まったもの、というの ト・レイ」 ( 輝線 ) である。この輝 が一般的な考えとなってきている 線の正体は何なのであろうか ? が、いまだに最終的な意見の一致を そういった顕著な輝線が一つ、月見るにいたっていない。 面の南東部に位置する直径五十四マ この「テクタイト」は分布範囲が 広く、米国 ( テキサス州、ジョージ イルのチヒョ・クレーターにも見ら れる。この輝線は特に「ロッセ・レ ア州、マサチューセッツ州 ) 、チェ コスロヴァキア、アフリカ象牙海岸、 イ」と呼ばれ、きわだって北東一九 度の方角へ一本伸びている。クレー それにオーストラリアから東南アジ ターの「隕石起源説」をとるもの ア全域にわたっており、また外観や は、これを隕石が月面に落下した衝比重、成分等もかなり異っている。 撃で跳ね飛んだ物質の跡である、と ところが、これらの「絶対年代」 考えるのだが、「火山活動説」をと をある方法で測定してみた結果、 るものにとっては、火口の割れ目を常にかけ離れた四つのグループに分 けられることがわかった。 通って流れ出した溶岩の跡、という すなわち、テキサスで発見された 解釈がなされているものの、いずれ 「べディアス石」とジョージアの の説を取プてもどれも余りに真直ぐ であり 1 また不釣合に長々と伸びて 「ジョージア・テクタイト」、それ にマサチュセッツのは約三五〇〇万 いてクレーターにもそれらしい割れ 目は見あたらず、今なお未解決のま年前のもの、チェコスロヴァキアの まなのである・ 「モルダウ石」は一五〇〇万年前、象 話は変わるが、これまで本欄でも 牙海岸の石は少し新しく一三 0 〇か 幾度かとり上げた地球上の謎の物質ら一四〇 0 万年前と考えられ、残る 「テクタイト」ーー これは、一九 0 地域、オーストラリアから東南アジ アにかけて分布されるものは、わず 〇年にズエスによってギリシャ語の tektos ( 融ける ) にちなんでそう命か七〇万年前に生成されたという。 クレーターの輝線は何を意味するかフ 幻 8
平和的に : : という意味は 鳥人の絶対数がほとんどとるに足らないもの だったからである。鳥人は、それほど急激には ふえなかったのだ。 自然の節理は、鳥人たちの卵の九割までを くさらせたり、壊したりして無条件に繁殖 するのを妨げた。 - 鳥人たちは、 - 島であること をやめた時点で人口調節を余儀なくされた のである。 れⅱ、い 鳥人は、支配者の立場から、家畜 階級である人間の前に、威厳を たもたねばならなかった。 ほとんど裸に、ばろをまとった人問に 優位をしめすため、鳥人たちは人問 の衣服のようなものを身につけた それはすこしづっ島人たちのために 、こま島人独自の衣裳 改良されてっし ( ( におちついた
最初の結婚記念日がめぐってきたとき、彼女は六フィート六イン 0 7 一一人は、・ ( ッファロ 1 やその他の都市の専門医にもあたってみチになっていた。今では部屋に立ちいりを許される外来者はスー た。だがヘレンの巨人症には、みな首をひねるばかりだった。そのラだけで、〈レンがこのような暮らしに耐えられるのも、夕方一日 ー・ハラがアパートを訪ねてくるからだった。ヘレンの気力 あいだも彼女は成長し続け、成長に比例して彼女はますます感じゃおきにパ すくなっていった。妻の困惑をいくらかでも和らけようと、ディビをくしけさせまいと、ディビッドはできるかぎりのことをし、彼女 ッドは中ヒールの靴をはきはじめた。それでしばらくのあいだは彼を愛する気持は今まで以上であることをくりかえしくりかえし訴え こ。しかし彼の言葉にいつわりはないとわかっていても、それだけ 女と比べて見劣りしないという錯覚を維持することができたが、ヘナ レンの身長はのびる一方で、錯覚をすこしでも長びかせるため、彼では〈レンの心の支えになることはできなかった。彼女には、自分 は靴屋に出かけ、かかとを厚くしてもらわねばならなかった。だもまただれかの心の支えになっているのだと知ることが必要であ パラだった。 が、それも急場しのぎでしかなく、やがて彼はそうした努力をすつり、その役を担っているのがパー かり放棄した。そのころにはヘレンは彼よりも一一インチ高く、体重どちらかといえば、最初の結婚記念日を迎えたその日のヘレン は、一年前よりもなお美しく見えた。日ざしのなかに出ないため、 はほ・ほ彼と同じくらいになっていた。 このような状況のなかでディビッドへの彼女の愛情をただひとっ本来なら肌は色あせてくるはずである。ところが逆に、見事な小麦 支えているのは、彼女が美しい均整を保ちながら成長していること色なのだ。そればかりか金色がうっすらと加わって、あたかも彼女 だ 0 た。すでに巨人といえるほどにな「た今も、かっての優美さとの内部で奇妙な火が燃えているかのように、全身が輝いて見える。 調和は失われていず、比較する物体のない、すこし離れた場所に彼数週間前から、ディビッドはこの日に期待をかけていた。二人にと 女が立っていたりすると、数カ月前とまったく変わりなく見えるのって記念すべき日とあれば、夕食に誘っても彼女はきっと受けてく だった。だが、そんな風景をながめることができたのも、つかのまれるだろうと思ったのである。だが当日になってみると、彼自身、 たった。いっかはおこることだと予想していたが、とうとう彼女は妻をそのような試練にさらすことに疑問がわき、彼女が出たくない ししーったときには、むしろほっと胸をなでおろした。 アパートから出ようとしなくなったのである。 彼はシャンペンの大瓶を届けさせ、レストランに特別ディナーの 食物には今のところ不自由はないが、衣類のほうは問題だった。 靴、ドレス、コート 何もかも注文しなければならなかった。も配達を頼んだ。そして、その日の午後買ってきたクリスマス・ツリ ーを、ヘレンの手を借りて部屋に据一一人で飾りつけをした。そ う外出する気はないのだから、コートは不必要だし、彼女自身、デ ハラに頼 イビッドにそういった。だが彼は耳をかさないのである。必要のあれがすむと、。フレゼントの交換をした。ヘレンは るなしにかかわらず、妻の服をすべて揃えておかなければ気がすまんで買ってきてもらったーー・カレンダーっき腕時計をディビッドに ティビッドは、新しい画架・ーー・いま持っているのより大き 贈った。・ ないのだった。
やがて彼の人生を支配することになるライトモティ ーフの最初のか彼は徴笑した。「ときにはね」そして、「あなたの名前はもう知 すかな響きでもあった。 ってるんですよ。少なくとも、前の半分のほうは。ご参考のため、 5 そのみごとな胸筋とふくよかな胸は、彼女が抜きんでた泳ぎ手で・ほくのほうもいっておきます。ディビッドーーディビッド・スチュ あることをほのめかしていた。すらりとのびた足は、いかにも女性アートです」 的だが、筋肉は逞しく発達していて、彼の直観をさらに強めた。肌彼女は水泳帽をぬいだ。金色の髪が、頬や首筋にふわりとこぼれ 1 ト形を奇蹟のように兼ねそなえ の黄金を思わせる色づやも、それを肯定していた。しかし、きわだおちた。その顔は、たまご形とハ って背が高いわけでもないことは、隣りに立ったときはじめてわかていた。眉の線は、鼻のデリケートな線のいとも自然でロジカルな った。高いほうにはちがいない ィート四延長だった。「ご参考のためにいっておきますと、あたしの名前の しかし、せいぜい五フ うしろ半分は、オースティン」彼女は心を決めたようだった。「い インチ。彼女の金髪の頭が、ようやく彼のあごに届く程度だった。 浮き台の上でいっしょに日光浴していたらしい、とび色の髪の娘が いわ、一分だけならーーーシャワーをとばすことにすれば、三分ま 立ちあがったが、こちらのほうが明らかに背が高かった。 , 彼女は冷で。でも、それ以上はだめ」 たいグレイの瞳で、見すかすようにディビッドを一警すると、黄色彼女は日ざしのなかにすわり、彼はその隣りにすわった。二人を い水泳帽をかぶった。「行きましよう、ヘレン、着換えないとタ食とりまく青い湖のあちこちでは、白い水泳帽が踊り、頭上には巻雲 に遅れるわ , 彼女は連れにそういい、水にとびこむと、桟橋やコテの高貴な一族がゆったりとうかんでいた。「この避暑地でまだ知ら ハラといっしょにここへ・米 ージが点々といろどる白い砂浜めざして、のびのびとしたクロール ない人がいたなんて驚いたわ。姉の・ハ で泳ぎだした。 て、もう一カ月近くたつのよ。あなたは、きっと隠遁者ね」 金髪の娘が白い水泳帽をかぶり、あとに続こうとしたとき、デイ「いや、今朝着いたばかりなんですよ。しばらく前に、遺産がどっ ・ヒッドが声をかけた。「行かないでーーーお願いです」 ところがりこんで、そのなかにビーチ・ハウスがあったものだか 娘はふしぎそうに見つめた。九月の空が、彼女の瞳の青さを忠実ら。シーズンが終わる前に、すこしは住み心地を味わっておこうと に模倣していた。「″お願い 〃 ? どういう意味、″お願い〃って ? 」 思って」 「ここにまた泳いできて、あなたみたいな人を日ざしのなかで見る「じゃ、ほとんど楽しめないわ。あしたはもう閉所式よ」 レイ・ ( ー・ディ ことは、もう二度とないと思うからです」ディビッドはいっこ。 「・ほくのシーズンはまだ終わらないんだ。カレンダーから労働祝日 「人間が欲ばりにできているので、こんな黄金の瞬間にぶつかる ( 九月の第 一月曜しを消しちゃ 0 たから。九月の浜辺というのは昔から好きだ と、これを逃がしたらおしまいだとばかり、できることは何でもやったんだけど、そのムードに思いきりひたれるなんていうのは、・ほ ってしまうんですよ」 くだってこれがはじめてなんですよ。十月にはいるまでいるかもし れない。そのころには、セグロカモメと昔の思い出ぐらいしか、相 「変な人なのね。風車と槍試合なんかもするの ? 」
あしくつなか 砂の上に膝をついたまま彼はいった、 「なんちの足は鞋の中にあり ドは飛行機をチャーターし、・花嫁とともにコネチカットに飛んだ。 て如何に美はしきかな ! 」へレンの手が彼の髪にふれ、一瞬そこに夜には、二人は断崖のヘりに建つ小さなコテージにおちついてい とどまり、ふたたびあがってゆくのが感じられた。。 ティビッドが立た。フロリダへ飛ぶのはたやすいことだったが、ホワイト・クリス ちあがると、彼女も立ちあがった。階段の一段目に立っているのマスが大好きな二人にとって、今年のクリスマスをーーしかも、生 で、彼よりもわずかに背が高い。星影に照らされた彼女の顔が、す涯でもっとも甘美なときとなるかもしれないそれをーー、熱帯で過ご ィーフしてしまうのは、あまりにももったいない気がしたのだ。 ぐ目の前にあった。彼がくちづけをすると、あのライトモテ が前よりもいっそう強くひびきわたり、一一人の唇が離れるにつれて 一一人は二週間コテージに滞在し、昼は雪のつもった断崖の頂きを 消えていった。そう、まちがいはない。彼の心はうたっていた。彼散策し、夜は松があかあかと燃える暖炉のぬくもりのなかでドイツ ひと 「おや ・ビールをすすった。そして朝は、陽が高くの・ほるまで眠り、その 女こそただひとりの女、そして彼女のほかには誰もいない。 すみ」そっと彼女の髪にささやく。「おやすみなさい」彼女のささあとキッチンの小さなテー・フルで二杯目のコーヒーを前に時のたっ 彼よ、遠のく足音を聞きながら、星影のなかにのを忘れた。″すばらしいインスビレーション″が閃いたのも、そ やきが返ってきた。 / ー 立ちつくしていた。それから長い時間がたち、・ヘッドにはいってかのギッチンにおいてだった。ディビッドのヨット、ネレイド号で長 らも、彼の耳には、夜の深みのなかに消えてゆく足音が聞こえ、夢い航海に出て、サンゴ海の彼の島を訪れるのだ ! ネレイド号よ、 : のなかで彼はふたたび星影に照らされた彼女の優しい面だちを見つ ホストン港に錨をおろしていた。航海士と船員を め、星影のなかの甘いくちづけをくりかえした。彼女のほかには誰雇った二人は、一月二十九日に船出し、冬の荒涼とした海岸線に沿 もいない。誰ひとり。誰も。 って南下した。パナマ運河を通過すると、ディビッドは太平洋が穏 やかなときを利用して、航海士から手ほどきをうけ、自分で航路を 2 決定できるようになるまで航海術の知識を補足した。時はみるまに 過ぎていった。三月には、ネレイド号 . はソロモン諸島とニューへプ 結婚式は質素なものだった。式はその年の十二月一一十四日、ヘレリデーズ諸島のあいだを通過し、その後まもなく船の針路にビジ = ード日メールが見えてきた。 ンとく ハラの家からあまり遠くない小さな教会でとりおこなわれ ディビッドの伯父は、ちょうどスタンダールがミラ / を愛したと ハラ。新郎の付添いには、ディビッドが仲 た。新婦の付添いは。ハ " ド " メールを愛した。だがディビッドにと 同じように、ビジュ 間入りした新しい世界で、たったひとりの友人といえるゴードン・ って、島は大きな失望だった。彼は旅行案内書の解説にあるような ローリーが選ばれたーーーゴードンは、ディビッドの伯父の財産をか って管理し、その後ディビッドのものとなったそれを引き続き管理色彩豊かな南国の楽園を期待していたのである。代わりに、そこに 見出したのは、茂りすぎたココ椰子の。フランテーションと、打ち捨 している、法律事務所の最年少の弁護士である。同じ日、ディビッ うる 4 6
前飛びたったばかりの O O のロンドン行きが、成層圏に 達したところで三人組の ( イジャックに遭い救難信号を発しながら まだ超音速で飛びつづけているというニュースがあったが、その未 開発国のゲリラは、の機長に対して滑走路もない砂漠への着 よほど疲れていたのか、真昼の空に円盤を見た。 柄にもなくどきりとして、立ち止って空を仰ぐと、もちろんそれ陸を強要していたのだった、ーーそうかと思うと、台湾では、内省人 の学生・労働者が組織している過激派グルー。フが、台北をはじめ台 はただの銀灰色をした小雲魂にすぎず、間抜け面してまぶしがるハ ングオ 1 ヴァーの男の目の前でたちまち不定形のものに崩れていつ中、台南、花蓮港など数都市で国府の政府機関や軍事基地に武装攻 撃を加えるという突発事件が起っていた。もちろん近代装備を完備 ちょうどそれは玉置が局に一番近い通りでシティカ 1 を降りようした五〇万の国府軍に対してわずかの小型火器しか持たない数千の としたときで、座席から身を乗りだしたまましばし・ほんやりしてい 内省人の反乱が、やがて無残に徹底的に鎮圧され壊減させられてし るうち、ダッシュ・ホードの電子ウインカーがちかちかとせわしなくまうことは目に見えていたが、いったいどんな成算があってそんな 瞬き、空車を返せと促していた。あわてて降りるとシティカーは、 自殺的蜂起をしたのか、いや、どこにそんな濳在的エネルギーがひ 人を小馬鹿にしたみたいな仕種でくるりとまわれ右し、ずんぐり丸そんでいたのか誰にもわからなかった。わからないといえば、月に い小柄な車体を小刻みに震わせながら遠のいていったが、そんな姿数カ月間駐在した米ソの宇宙観測隊員の屎尿処理が国会で問題にさ にさえふと心のなごむのを感じたくらいだから、やはりよほど疲労れていて、人・間ははやくも宇宙を汚染しはじめている、こうした一 が翡積されていたのた。 見小さく見える問題に対する態度の甘さが、企業のもたらす大規模 局へ入ると案の定 ) 一ユースの山が待っていた。彼はそのなかか な公害と地球汚染につながるのだから、政府はよろしく米ソ両国に ら、今日のニュース・ショ 1 むきのニュースを選びにかかった 0 も対して厳重な抗議声明を発表すべきだ、という意見を、参考人とし ちろん、一応はコンビュ 1 ターの選定を受けてくるのだが、彼は思て出帝したかなり名のある科学者の一人が発言したというのも、わ いきって幅の広いプログラミングを要求してあったからーーー番組は かったようなわからないようなニュースではあった。もちろんこの かなりの視聴率をもうだいぶ長く持続していたからそのくらいの発種の議論は今に始まったわけではなく、十年も前から一種の流行っ 言権はあったのだーー・結局ははじめから選ぶのと大差なく、若いス たり廃ったりの風俗的現象になってしまっているのだが、それにし タッフにいわせればナンセンスだったが、いわばそのナンセンスさてもこうもヒステリックなのは珍らしく、何やら薄気味わるいもの が自分のレゾンデ 1 トルかもしれないことぐらい、玉置にも判ってさえ感じられたのだ : 玉置は、そんなニュースをつぎつぎに選んで、それをニュース・ ・カードで見るとまた騷々しい一日の始まりだった 0 成田空港を昼ショーの綜合司会の矢島明人のオフィスにファクシミリで送ってや こ 0
「そんな : : : 」ォルジーは、声をつまらせた。 と」 「あんたも馬鹿よ。好きなら好きってはっきり彼にいえばよかった 「でも、ここからは、抜けだせないわ。見張りだっているし」 のにさ。マニヤが荒野へ出ていったのも、あんたの責任よ」 「馬鹿ね。そのためにあたしが来てあげたんじゃない。このマント 「でも・ : : ・。わたしの母が : : : 」 をきて出ていけば、わからないわよ」 「そんなこと知 0 てるわ。でも、な・せ従う要があるの。あなた「それでは、あなたが : ・ : こ は、マニヤのところへいくべきだったのよ」 「わたしのことなら心配いらないわ。むしろあなたの代役を喜んで 「できないわ、そんなこと」 引きうけちゃうわ」 「できるわよ」ェローズの声ははげしかった。 ォルジーには、エローズの心の中までは読みとれなかった。・ 「できないわ」ォルジーはくり返した。「わたしたち、この街にい それから、オルジーは植込の中にエローズと代ってじっとかくれ れなくなってしまう」 ていた。時刻がきて、娘たちは、客たちの集った客間へとつれてい 「いいじゃよ、。 オしェロータスを出れば」 かれたが、係の者は、人数を数えただけで、安心しきっていた。ま 「そんな。無理よ」 たどれくらい時刻がたったろう。ひとしきりざわめいていた屋敷内 「そうかしら。でも彼は、もうひと月あまりも街を出ているわ。ちの音が静まりかえった。ォルジーは、そっと廊下へすべり出た。見 ゃんとやってるのよ。あんたも、マ = ヤについて行けばいいじゃな張りのひとりが、彼女をみつけていいよってきたが、半ば酩酊して 。勇気がないのね」 いた。その手を払いのけると、ぶつぶっと いいながら、その場に眠 「勇気ならあるわよ。でも、一体どこにいるの。ずっと彼とは逢っりこんでしまった。ォルジーは、街へ出て、広場へといそいだ。 ていないのよ」 アガは死にかけていた。檻の中で、弱々しく彼女をみとめると、 「じゃ、ヒントを教えてあげるわ。王宮裏の空地にいた男のことをかすかに笑った。 知ってるでしよう」 「朝日の昇る前に、わたしは死ぬだろう。血をしぼりとられている のだ」 「ええ。アガのことね」 「マニヤは、彼とよく逢っていたわ」 みると、彼の手首の一部が切開され、そこへつながれた細い管 が、地面の上に黒いしみをにじませていた。 「そうなの。マニヤもあの人と : : : 」 「彼にきいてみたら、行き先きはわかるはずよ。でもさ、そのチャ「何かききたいことがあるのかね。早くしてくれ。静かにしていた ンスは今夜かぎりよ」 いのだ」 「なぜなの」 ォルジーは、目をそむけたい気持をおさえてきいた。 「処刑されているからよ。夜が明ける前に、息が絶えるわ。きっ 「マニヤの居所を知りませんか」 229