で、自分は今夜のうちに彼女に。フロポーズするだろうということが 「どうして、今晩・ほくとデートするなんておもったの ? 」 「そうーーーそうだとばかり思ったわ。あたしのウジェットによるとわかったのである。 二人は同じカフェで食事をした。食事がなかばにさしかかったこ 「いいかげんにしろよ ! 」とロジャーはいった。「ウジェットだのろ、アルタイルのエレインが、身なりだけはエレガントな、やせ 質量相殺装置だの、超光速推進だのと、一日きけばたくさんだよ。 た、ものほしそうな顔の、髪をぼさぼさと長くした青年の腕にすが それに今晩はあいにく先約がありましてね、そのデートのお相手のって入ってきたのである。ロジャーは椅子からころげおちそうにな お嬢さんというのが、ぼくがこれまで無意識に求めつづけていた、 そしてやっときのう見つかった理想のひとで : : : 」 彼女はすぐにかれに気づいて、連れの男性をひつばってかれのテ ー・フルへやってきた。 かれはロをつぐんだ。悲愁がにわかに、アルタイルのエレインの 目の青い深みをかきみだし、それは、十一月の風にふるえゑ霜の こちらアシュレ・エイムズよ」と彼女は興奮気味にい 洗礼をうけた木の葉のごとくうちふるえていたのである。 う。「朗読のお稽古がつづけられるようにつてお食事に招待してく 「あたしーーーやっとわかった。ウジェットは肉体の化学作用と知的ださったの。あとでアパートに案内してくださってピグマリオンの 性向の適合性を検出するんだわ。表面的な感情の起伏を検知するほ初版本を見せてくださることになっているの」そのときようやくべ ど敏感ではないのね。あたしが ッキイの姿に気づき、あっと愕いた。彼女の視線はやにわに床のほ くるのが一日おそかったのね」 「それを・ほくでためしてもむだですよ。じやプゼイホルグのみなさうにおち、テープルクロスのかげからのそいているべッキイのほっ んによろしく」 そりしたくるぶしにそそがれたが、その目をあげたときには、目の 色は青からグリーンに変色していた。「三人ものにして、あとひと 「あしたの朝、また公園にいらっしやる ? 」 かれは、断固ノウといおうとしたがーーそのときふたしずく目のりか」と彼女はいった。「あんただっていうことを知ってたらねえ 涙を見た。それはひとしずく目よりも大きくて、左目の目じりに、 透明な真珠のように光っていた。「たぶんくるとおもうけど」かれ ペッキイの目も変態をとげていた。グレイが黄色になった。「さ は不本意ながらそういった。 いしょに見つけたのはあたしよ、ルールはわかっているでしよ。・こ 「べンチで待っているわ」と彼女はいった。 から、ほっておいて ! 」 かれは映画で三時間つぶし、七時半にペッキイをア・ハートまで迎「行きましよ」アルタイルのエレインは、うしろでガッガッ、うろ えにいった。体の線が悲鳴をあげていそうなピッチリした黒の服をちょろしているアシュレ・ - ェイムズに高飛車にいった。「地球には 着て、爪先に金具のついた、とんがった靴が、くるぶしの三つの金ここよりましなレストランがあるはずよ」 輪によくあっていた。かれは、そのグレイの瞳をちらりと見ただけ ロジャーは当惑顔で一一人を見送った。そのときかれの頭にうかん ー 07
「そうにきまってるわ」彼女は起きあがり、素足をのばして床にお彼女はドアへとむかい、かやぶき屋根の下のペランダに出ていっ ろすと、細身のサンダルにすべりこませた。彼女はお手製の白い夏た。 , を 彼よ二人のレインコートをとって、あとに続いた。べランダに 着を着ていた。日焼けしたコーヒー色に近く、元の濃いとび色に戻出ると、雨の音はいっそう大きくなった。「あたしはレインコート った髪は、相変わらず強い癖を見せていた。「歩きたいわ」 いらない。このままのほうがさつばりしていいわ。着ていると、よ 「この雨のなかを ? 」 けいぐっしより濡れてしまうみたい。着たければ、どうそ」 「ほかに歩くところがあって ? 」 彼女はペランダの階段をくだり、雨のなかに立った。すこしため 彼は沈黙した。彼女はやってくると、椅子のそばに立ち、彼の目らったのち、彼はレインコートを放りだし、彼女と並んだ。あたた を見おろした。「ヘレンの今度の遠出、ちょっと長いと思わない かい雨だった。雨は彼女の髪をずぶ濡れにし、彼のスラックスやシ ャツにしみこんだ。雨は彼の顔や首を流れくだった。彼は唇で雨を 「きのうの朝からだね」 味わった。何日も続いていた緊張がやわらぎ、心がくったくふくら 「どこにいるのかしら」 むのを感じた。 「さあ、どこだろうな」 二人は、山から流れでるたくさんの小川のひとつにかけられた小 「ヘレンは心のなかまで変わりはじめているみたいよーー・・そう思わさな橋をわたった。小川ー よ泥の濁流に変わり、すさまじい勢いで海 ない ? 」 に流れこんでいる。かっての緑の山々も、今ではその肩に灰色の霧 「どうしてそんなことをいいだすんだ ? 」 のシーツをかぶっていた。パ ー・ハラはカマボコ型住宅のわきをまわ 「あたしたちを見る目が変わってきたの。冷たい、科学者のような り、畦道を海岸へとむかった。ディビッドがすぐうしろに続いた。 目」・ ー・ ( ラは身震いした。「何もかも知っていて、あたしたちビ稲田は手入れするものもなく、稲はのびほうだいで、草の先がのば グミーがどんな反応をするか研究しているような感じがするわ」 した手にふれそうなほど高くなっているところもあった。雨がよび 「知るわけがない」彼はおこったようにいった。「疑ってもいないさました大地の肥沃さが、じかに肌に伝わってくるようだった。 さ ! 」 かって広かった道は浸蝕されて歩きにくい細道になっており、途 「うん、そうかもしれない。だとしても、あの目にはそっとする中で ' ハ ー ) ハラは足を踏みはずした。ディビッドは彼女を抱きとめよ わ。もう人間とはいえないんじゃないかしら。首の両側にある細長うとしたが、その拍子に自分も足を踏みはずした。一瞬のあいだ二 い穴がだんだん大きくなっていくし、皮膚にも変な光沢がでてきた人は抱きあったまま、・ ( ランスを取り戻そうとあがいていた。だが し、陸にいることなんかほとんどない : : : 」 その努力も空しく、急な傾斜をころがりおちた。泥まみれになり、 ディビッドは立ちあがった。「歩きたいといったね。じゃ、歩こあえぎながら、彼らは膝まである水のなかからようやく立ちあがっ 7 ー・ハラは笑いだした。ややあってディビッドも仲間入りし
た。しかしディビッドには風は身にしみ、 ( ラに目をやると彼「どうぞーーー最後までいっておしまいなさいよ」 女は震えていた。 ディビッドは心を決めて、彼女の冷たい視線と向きあった。「べ 一一人にとって、きようは悪日だった。正午すこし前、トレイラー つに大したことじゃない。要するに、同じ家にきみといっしょに住 の後部内側のタイアのひとつがパンクし、 ハラの手を借りてむのに慣れてしまって、料理を作ってもらったり、洗濯してもらっ も、それを取り換えるのに一時間半かかってしまったのである。一 たりしているうちに つまりーーー」 時間後、そのスペアがまたパンクした。最初からそうしておけばよ「あたしが奥さんみたいに見えてきたーー・そういうことでしょ ? 」 かったと後悔しながら、彼はいちばん近い自動車修理店まで走り続彼はみじめな気持で踊る炎に目をこらした。「気違いじみてるだ けた。新しいタイアをとりつけ、はじめのをスペア用に修理して、 ろう ? 」 ふたたび道路に出たのはそれからさらに一時間のちだった。ところ「ええ、完全に狂ってるわ」 が小一時間たって、牽引車の内側のタイアのひとつがまたもやパン 自分の目のなかにあるものを悟られるのがいやで、彼は火を見つ ク、そして一時間半が無為に過ぎ去った。そう、これ以上の悪日は め続けた。だが、わざわざ目をのそきこむ必要はなかった なかろう。 ・ハラはすでに気づいているのだった。ディビッドは、彼女の冷たい ハラも自分と同じくらい疲れているのだろうか、と彼は思っ 指が頬にふれるのを感じた。「かわいそうなディビッド。 誠実な、 た。気力をなくし、ふさぎこんでしるのだろうか。・ハー ハラのほう気高い、かわいそうなディ・ヒッド。あなたはやつばりあたしを見て いたのね」 を見たが、あたりはすでに闇につつまれ、彼女の顔はほとんど見え なかった。ヘレンはトレイラーにはいり、いま岸辺にいるのは二人「見ていた ? だけだった。「火をたこう」と、彼はいった。 「浮き台にあがってきたとき。あなたが知らん顔をしているものだ 二人はたき木を集めた。それをテントの前に積みあげ、火が勢いから、あたし、あのとき肚をたてたのよ。それからずっと肚をたて よく燃えはじめると、二人はテントの入口にすわり、体をあたため続けだわ。あたしのほうは、とっくにあなた見ていたから、 ハラを横目で見ながら、ディビッドは、・フロンドの彼女が それはダムだった。彼の肉体はそのコンクリート であり、補強ス 自分の好みかどうか考えた。結論は否定的だった。「ビジュー チール材であり、今それはしだいに高まってゆく数万トンの水の圧 日メールに着いたら、最初に髪を元の色に戻したほうがいいね」カに必死に抗していた。「あなたは、あたしとは違う種類の人間な と、彼はいった。 のよ」・ハ ー・ハラは続けた。「あたしたちに欠けているのは、あなた ー・ハラは彼を見つめた。「なぜ ? 」 たちの理想主義。そしてあたしたちは、あなたたちのほうが人間的 「はじめの色のほうが、きみには似合っているよ。というより、プに立派だということに心のなかでは気づいているの。だから一生懸 3 ロンドだとーー・フロンドだと , ーー」彼は言葉につまった。 命、こちらのレベルにあなたたちを引きずりおろそうとする。で
にちらばり、そのかなた、背景の奥深くには、人間の肋骨を思わせ 妻のほしがるものにはロをはさまない主義なので、彼女はすでに る船の残骸がかすかに見分けられる。そして前景には、十七世紀の もてあますほどの衣装を持っている。なのに、なぜ彼女は、新しい どくろ コート、新しいドレス、新しい靴、新しいネグリジェ、新しい下着海賊と縁の深い銅の帯金のついた櫃。櫃の上には、髑髏がひとつの を山ほど買いこむ必要があったのか ? しかも、なぜ買物のことをつている。 ひた隠しにしているのか ? ヘレンはようやくパレットをおくと、わきにのいて彼を見た。 いや、隠しているわけではないのかもしれない。衣装が届けられ「なにかご用、ダーリン ? 」 た日、たまたま外出していたので、彼にはそう見えるのかもしれな 彼はカイハスからむりやり目をそらした。「うん。今夜はきみと 。それにしても、彼女が一言もふれないのは奇妙だったーー彼を いっしょにどっかへ行って食事をしようと思ってね。きれいな服を 驚かそうとしているのか ? だが、そのつもりなら、もっと早く驚着て、街に出ようじゃないか」 かせてくれていてもよさそうなはずだ。 彼女は一瞬プルーの瞳をそらした。「ごめんなさい。あたし、今 計算書をデスクにおいたまま、彼は書斎をはなれ、リビングルー 夜はそとに出たくないの、ディビッド」 ムを横切って階段をのばった。三つあるべッドルームのひとつはア 「だけど、どうして ? 最近はぜんぜん二人で出たことがないじゃ トリエに改装されており、ヘレンはそこで新しい制作に没頭してい ないカ : : : 新しく買ったドレスを見せてくれてもいいだろう ? 」 た。彼は戸口に立ちどまると、彼女の愛らしさの果汁をこころゆく ヘレンはこちらを向き、つかのま彼を見つめると、ふたたび目を まで味わい、最後の一滴まで汲みつくした。その日は、この季節でそらした。「じゃ、計算書を見たのね。あなたに話そうと思ってた も特に暖かな小春びよりで、彼女は靴をぬぎすて、スリツ。フ一枚のんだけど、どうしてかーー・ , 彼女はふいに背を向けると、窓べりに 姿になってした。 / 、 - 彼女の足は今までになく長く美しく見え、腕から行き、通りを見おろした。「どうしてか話す勇気がでなかったのー 胸、首筋にかけての線は女神のようだった。開いた窓から吹きこむ彼女はいいおえた。 いたずらな十月の風が、ひたいにこ・ほれる前髪を即興的に踊りあが ディビッドは歩いてゆき、彼女の肩に手をかけて、こちらを向か らせている。 せた。「そんな顔をしないでくれよーーーとがめだてしているんじゃ 夢中で描いていたのだろう、彼が歩いてゆき、隣りに立ったと ないんだから」 き、ヘレンははじめて彼に気づいた。しかしそれでも目を上げよう「買わなくてすませられるなら、そうしていたわ、でもーー」彼女 はとっぜん目を上げた。「あたしを見て、何か気づかない ? 」 とせず、描き続けた。不気味な情景が、カイハスにかたちをとりは じめていた。大地が裂けたような大きな谷間が見え、異様な緑の植「今までどおりのきみさ。何に気がつけばいいんだい ? 」 「よく見て」へレンはさらに彼に近づいた。「今までは、あなたの 7 物がいつばい茂っている。重力の法則を無視してまっすぐ上空にの びた薄膜のような細長い葉。谷底には数百の小さな緑の円盤が一面あごのところに、頭のてつべんがきていたわねーー・おばえてるでし ひっ
なわないかぎり、そういう明白な物体は、かえって人の注意をひか 「なるほど、じゃ、きみの乗ってきた宇宙船はどこにあるの ? 」 「町からずう ( 数 ) マイルはなれたところに、荒れた農場があっ ないものだといいましたね、とすると、きみが地球にいることは秘 8 て、そこの納屋のそばにおいてあるわ。宇宙・せん ( 船 ) のカ場がざ密にしておきたいんだな。そうでしよう ? 」 どう ( 作動 ) 中は、ザイロみたいにみえるの。人間って、明白な形「そう、そのとおりよ」 をもった物体は、まわりと調和じてざえいれば、たとえ鼻ざきにあ「じゃ、なぜ真昼間からこんなところで、ぼくの鼻先に秘密をぶち まけるようなことをするの ? ったって、目にもとめないものなのよ」 「ザイロ ? 」 「それはさっきの明白さの法則がここでも適用できるからよ。あた 「そう。あー・ーザイロじゃなかった、サイロね。またざじずぜそとしが、アルタイルⅥからきたのではないとみんなに信じこませる確 さしすせそを混同していたんだわ。あのね」と、こんどは一語一語実な方法は、あたしはアルタイルからきたんだといいつづけること 注意深く発音して「・フゼンポルグではね、さしすせその発音にいちよ」 、でしよう」ロジャーはいさみたって第二作戦 ばん近い音が、ざじずぜそなのよ、だから注意していないと、さし「なるほど、ま、い すせその発音をするつもりで、ざじず・せその発音をしてしまうのにとりかかる。「それでは、きみの宇宙旅行について考えてみよ よ」 ロジャーは娘の目をじっと見つめた。しかし青い目は邪気がな かれは内心ニンマリとした。これでこっちのものだと思ったの く、ひとかけらの笑いもそのおだやかな唇の線をかきみだしてはい だ。ところがさにあらず、おおいに目算がはずれた。というのも、 なかった。で、かれは、彼女に調子をあわせることにした。 彼女を水中深く深くさそいこんでやれという計画にあたって、充分 「きみに必要なのは、朗読の教師だな」とかれはいった。 にありうる可能性をかれは見すごしていたのであるーーー彼女が泳げ 娘は真顔でうなずいた。「でもどうやってさがしたらいいのかしるという可能性を。娘は泳げるばかりか、科学の海に入っては、か れよりも、すいすいと泳ぐのだった。 「電話帳にいつばいのってますよ。どれか一人をえらんでアポイン 一例をあげれば、進行する物体の質量と速度の比によって、光速 トメントをとればいい」もしペッキイが視界におどりこんでこない には達しえない、したがって、アルタイルⅥから地球までの旅は、 うちだったら、この娘の発音もかわいいと思ったかもしれないし、等距離を進む光が要する時間、つまり十六年という歳月以上の時間 朗読教授のところへなんそ行くなと忠告したかもしれないな、とか がかかるだろう、とかれが指摘すると、彼女はこう答えたものであ れは皮肉な思いを味わった。「ところで、話をもとに戻しましようる。 や , とかれはいった。「きみはさっき、宇宙船を人目につくような「あなたは、ローレンツ変換を考慮に入れてないのね。移動しつつ ところにおいてきた、なぜなら、それが周囲の事物との調和をそこある時計は静止している時計より、時間の経過がおそいのよ。だか
ド。背がのびていることは、ずっと前からわかっていたのーー・成長 う ? 今それがどうなっている ? 」 彼は思わず吹きだしそうになった。だが、つぎの瞬間、・彼女のひがとまるようすがないことも 9 だけど今までは、ほんの少しずつだ 6 たいが自分の唇にかすかにふれ、髪が自分の目と同じ高さにあるのったので、それほど重大には考えていなかったの。それが今になっ に気づいた。本能的に彼はあとずさり、爪先立ちしているのではなて、急に速くなってきたみたい。この二カ月で二インチものびたの いかと彼女の足元を見た。足はふつうに床を踏みしめている。すこよ ! あなたと結婚したときから三インチ ! 体重も十ポンド増え たわ ! 」 しのあいだ彼ば言葉もなかった。 「だとしても、きみが珍しい例外だというだけだろう。このままず 「これで、あたしがどこへも出たがらないわけがわかったでしょ っと背が高くなることを証明したわけじゃない」 う。それからバ ースラに会いに行かないわけも。いつも見ているか 「ハイヒールをはけば、あな ヘレンは聞いていないようだった。 ら、あなたは気がっかなかったのよ。でも、ほかの人たちが見れ ば、すぐにわかるわ。特にパ ー・ ( ラなら。しばらく離れていて会ったと同じくらいになってしまうわ ! 」彼女は身震いした。「ああ、 ディビッド、そんなのいや ! 」 たときには、小さな変化でも目にとまりやすいのよ」 「よし、じゃ、こうしよう。明日、かかりつけの先生のところへ行 「それでーーーそれで、新しい服を買い揃えたのかい ? 」 って、きみの不安をとりのそいてもらうんだ。だけど、とにかく今 「そうするしかなかったのーー・・そうでしよう ? それは最初は、ド オしか。そして レスのヘりをおろしたりしていたわーーそんなことは簡単だから。晩はきれいな服に着換えて、夕食に出かけようじゃよ、 でも、とうとう今までのドレスが着られなくなってしまったの。自何かショウを見るんだ。あんまり長いあいだ閉じこもっていたもの 分ではどうすることもできないし、だれかを雇って仕立てなおしてだから、背が高くなりすぎたような錯覚をおこしているんだよ。ち もらうにしても、その人から話が漏れるのがこわくて。見てごらんやんと計りさえすれば、のびたのはせいぜい半インチぐらいだって なさい、ただ背が伸びただけじゃないことがわかるわーー体ぜんたわかるのがオチさ ! 」 いが大きくなってるの。足も、手も、結婚指輪だってもうはめられ「あたしが計りちがえたんだと思う ? ほんとに ないのよ。あたしーーー」 「それはやめようーーきみは正しく計ったんだ。だけど心配するほ ヘレンの目にみるみる涙がこみあげてくるのを見て、ディビッドどのことじゃないさ。さあ、用意して、早く行こう。もし何か心配 は彼女を抱きしめた。「バカだな、きみは、そんなことで悩んだりしなければならないことがあるんだったら、・ほくが心配してあげる して。ごくあたりまえのことじゃないか。人間は二十五歳までは成よ」 長し続けるんだぜ ! 」 着換えのあいだ、ディビッドは、心配はないのだと自分に納得さ 「太ることはあるかもしれないわーー・でも背まで高くなるかしら」せようとした。だが、あまり成功はしなかった。巨人症について詳 〈レンは彼の肩に頭を休めた。「ほんとのことをいうわ、ディビッしく知っているわけではなかったが、レストランでの夕食とそのあ よ
闘群はあしただ 作戦はもう できているね たのむぞ わが一族の ほこりにかけて きっと勝ってくれ モチロン マケハイタシマセ・′ ンサイゴマデ チカラノカギリ タタカイマス 私は気になるのだ 相手のギノンのやつは どうも私の妹のニコラら 目をつけているらしい やつの条件はきっと妹だ オジョウ サマハ ワタシマ ーそうねがいたい ね戦士くん ・■■イマカラ アルマムシ山へ シンゲキスル
少年は請求書をもう一度とりあげると、じっとそれに目をこらし 「。ヒネロビが死んでしまうということですか ? 」灰色の目が今まで た。奇妙な帽子の銀色の針金が輝いたように見えた。やがて彼は紙 なかったほど大きく見開かれた。 をおき、ドアにむかった。 「ミルクがなければ、そういうことになるわね」 「まっすぐお帰りなさいね」ミス・ハスケルは立ちあがってドアを オテリスは不意に膝の上で体を丸めている猫を見おろした。「こ あけ、少年にいった。「今度あんな寒い丘の上に立っているのを見 んな美しい生き物なのに。死なせるなんてかわいそうです。まちが たら承知しませんよ ! 」 ってます」 「もうそんなことはしません」 「まちがっているごとはこの世界にたくさんあるわ。でも、そのほ 少年はポーチの階段でしばらく足をとめると、雪にけぶる丘のか とんどはわたしたちにはどうしようもないのよ」ミス・ハスケルは こうつけ加えた。「こんな話、しないほうがいいわね。小さなたの鉛色の海を見わたしていた。そして一気に階段をおり、いち ばん高い丘めざして歩きだした。「さようなら」少年が肩ごしにい な子を前にして、話相手のないおばあちゃんみたいにいつまでも愚 っこ 0 痴をこ・ほしたりして。さあ、お茶を飲んで、ビネロビのことは忘れ 「さようなら」ミス・ハスケルは風にむかって叫んだ。 ておしまいなさい」 「どうして猫のことを勉強しておかなかったんたろう」彼はつぶや彼女は部屋の窓から少年の行方を追った。おもてはすでに吹雪に くようにいった。そして不意に目を上げると、窓のむこう、降りしなっており、丘にたどりついた少年の姿はばんやりとしか見えなか きる雪のかなたに黒くひろがる大西洋をながめた。そのまま長いあった。あの子はきっとこの先の海岸にある別荘に住んでいるんだ 、スケルは思った。だけど、まだ学校は終わっていな わ、とミス・′ いだ考えにふけっていたが、やがて彼は。ヒネロビに視線を戻した。 いはずなのに。そのことをたずねてみればよかったと気づいたが、 「・ほくは昔から海が好きだったんです。どうしてかわかりません。 もう遅かった。少年のおぼろげな姿は、丘の頂き近くにあった。激 それがものすごく大きいからかもしれない」 しい風がおこり、少年のいるあたりを白い雪の雲でつつんだ。そし 「海が、猫とどういう関係があるの ? 」 て雪がおさまったとき、丘の人影もまたかき消すようになくなって 少年の口元に徴笑がうかんだ。「悲しげな」という言葉がミス・ ハスケルの心に一瞬うかんだが、彼の澄みきった瞳を見たとたん、 、、ス・ハスケルはため息をついた。寂しさがこんなに身にしみて それはたちまちどこかに消えていった。「大ありですよ」少年はそ ういうと、。ヒネロビをそっとかかえあげて頬ずりし、そしてキッチ感じられることはなかった。だが、もちろん。ヒネロビがいる。そし ンの床におろした。「もう行かなければなりません。お茶をごちそてピネロビがそばにいてくれるかぎり、彼女は本当に寂しい思いを しなくてもすむのだ。ビネロビのことから、彼女は請求書のことを うさまでした」 思いだした。ぞくっと身震いしながらテープルに歩みよると、どこ いえ、お話ができて嬉しかったわ」 9 9
対策を練りあげていた。 家康は疑い深く上眼で天海を見た。 「会戦の場所をあらかじめきめて置かねばなりませぬ。そしていよ 「五千、一万の軍勢をか : : : 」 いよの時、その場所がいかにも東西のなりゆきで決ったように運ば 「お疑いあって当然でござる。しかし今すぐとは参らぬ。いかにヒ とは言え、天下を二分しての大合戦に、必ず敵をそのような破目にねばなりませぬ」 追いこみうるとは申しあげ切れませぬ。ヒの中からしかるべき者どそれが天海の主張であった。家康は重臣らと謀りに謀り、遂に天 海の望む決戦場を決定した。 もを集め、修練させねばなりませぬ」 関ヶ原であった。 「修練次第でそれがなるものなら : : : 」 「相手方は治部少輔が果配をとろう。とすれば、関ヶ原は治部少に 「一年か二年。 : : : 二年お借りいたしたい。さすれば必ず敵を惑乱 とっても又とない稼ぎ場に思えるはずじゃ」 させ、お味方の勝利といたしましよう」 家康は自信深く断言した。 「二年か : : : 」 家康は目を閉じて考えていた。「丁度よい頃しゃの。太閤が死ん「なるほど。石田三成もあの辺りにくわしい育ちでござ 0 たな」 ですぐ合戦では人の心も集め難い。儂が望むのは勝ってのちの泰平天海は同意した。 ・ : それがいち早く決定しただけでも勝 じゃ。勝つだけではなく、勝ってのち千年もの楽土を築きたいのし関ヶ原に罠を仕かける。 利は東側のものであった。 天海は思った。家康の言う千年の楽土が、本当に楽土なのかどう「ヒの修練は進んでおるか」 か、それは時に聞くより判りようがない。しかし、いくさがなくな「人数ははじめの半分に減り申した」 「なんと、半分も : : : 」 るであろうことは信じられた。一旦この家康に天下を握らせれば、 ミイラと 不合格で減ったのではない。かっての飛鹿毛のように、 その慎重きわまる性格が、他の勢力の擡頭を徹底的に圧殺すること 化して死んだのである。ヒとしての血を薄くしていた者は、玄妙不 は目に見えている。それでもよい。天海はそう思った。 ヒが集められた。武蔵のヒの宿から、伊賀、甲賀の者たちの中か可思議な産霊の = ネルギーに生気を吸いとられ、たちまちミイラと ら、血筋をたどり選びに選ばれた者約五十人が、びそかに徳川領遠な 0 て衰死したのである。それら体質的に里者に近いヒには、伊吹 による接地も余り意味がなかった。 江の南端の浜に集められた。その御前崎の浜辺一帯は、徳川の兵に 「二十人のヒがあれば充分でござる。あとはただ、この地図に記し 厳重に封鎖され、一般の立入が禁じられた。 た場所へ彼らを埋伏する準備だけでござる」 全国の産霊山から神器が集められ、その浜に集積された。ヒはい 地図には、必ず西軍に占拠させるべき場所が定めてあった。そし も虫のように這い、神器を宙にかざして猛訓練にはげんでいる。 一方、天海はたびたび家康と会「て来るべき東西全面衝突の日のてそこ〈雲集した西の兵士に対し、その前面の地底〈ひそんだヒの
なぜ少年は帽子をとらないのだろう、とミス・ハスケルは思っ揺り椅子の背にのけぞり、椅子のアームを白い手で力いつばい握り た。今の人たちはもう子供たちを昔のようには育てないのかもしれしめている。ビネロ。ヒが膝より高くあがってこないとわかると、彼 9 はようやく緊張をといた。そしてビネロビが気持よさそうに体を丸 ない。昔は子供たちに寒い思いをさせないようにいろいろ気をくば ったのに。あの帽子にしても、銀色の針金みたいなものを粗つぼくめ、目を閉じると、はじめて椅子のアームから片手をはなし、安ら 編んで、ちょこんと頭にのつけただけで、耳なんかむきだしのまかに息づく灰色の体をおそるおそるなでた。 少年の顔がとっぜん驚きに輝いた。「ふしぎだ、鳴いている ! 」 「のどを鳴らしているだけよ。あなた、猫がのどを鳴らすのも聞い 彼女はため息をついた。「もうだれが越してきたやら越していっ たやら、近所の人たちのこともわからないの。おばあちゃんになるたことがないの ? あなたは都会の子 ? 」 と、年のたつのが早いこと ! 」 「猫のことまでは勉強しなかったんです。専攻は海洋学ですから」 「やつばりあなたは都会の子ね。そんな風変わりな学問を勉強して 「そんなお歳でもないんでしよう ? 」オテリスがたずねた。 「もう六十五ですよ ! 」 いながら、猫みたいなあたりまえの動物についてなんにも知らない 「そんなのおばあちゃんのうちにははいりませんよ。それに 」なんて ! 」ミス・ハスケルは二つのカップに湯をついだ。「わたし ミス・ハスケルはスプーンをとりに食器棚の抽出しに行った。ふはお砂糖もミルクもないほうが好き。あなたは ? 」 りかえった彼女を驚かせたのは、その小さな訪問客のうえにおこっ 「いっしょでいいです」オテリスは彼女がどんな飲みかたをするか た態度の変化だった。少年は硬直したように、ロを半びらきにして確かめようとでもするように、じっと見つめた。 揺り椅子にすわっていた。その目は、キッチンの床を彼のほうに動「気をつけて飲みなさいね。とても熱いから」彼女は自分の椅子に いてくる何かのうえに釘づけになっている。「いったいどうしたのかけると、湯気のたっカップを口元にあげ、注意ぶかくすすった。 オテリスもそれにならった。彼はすぐにカップをおろした。ほん ? 」少年は答えない。ミス・ハスケルは彼の視線を追ったが、そこ によ、 ミルクを飲みおえ、ストープのかげから現われたビネロビしとに飲んだのかしら、と彼女は思った。カップをおいた拍子にその か見えなかった。揺り椅子の所有権を主張するかのように、ビネロ手がミルク代の請求書にふれた。彼は紅茶以外なら何にでも関心が ビは堂々とその前まで歩いてゆくと、一瞬足をとめ、考えぶかげにあるという様子で、紙をとりあげた。「これは何ですか ? 」 少年を見上けた。オテリスは目を途方もない大きさに見開いて、す「ミルクのお代金の請求書、そしてビネロ。ヒの死亡届けよ」ミス・ くみあがった。 ハスケルに椅子は沈みこんだ。「今日お金が払えないと、その紙の 「まあ、はじめて猫を見たみたいじゃないの ! 」 お願いしますという字がなくなって、ミルクがこなくなるの」 そのときビネロ。ヒがとびあがり、ふわりと彼の膝にのった。少し「なぜ払わないんですか ? 」 のあいだ少年は動くことさえできないようだった。体をかたくして「払えないのよ。年金がまだ当分届かないから」