ある意味 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1972年7月号
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1. SFマガジン 1972年7月号

変えてしま 0 た。こうしてかれらは生態学的な・ ( ランスをくつがえらの大事な不動産を保存しようとあんなにも熱心にならなか「た 2 3 ら、樹はまだ百年ぐらいは生きのびられたかもしれないんだ。あれ したのだ」 2 ストロングは言 0 た。「知らずにね。そしてようやく最後に気がだけ大きな樹が枯死するまでには、長い年月がかかるものだからな ・ : それにあの樹液の色ーーあれもいまおれ理解できたような気 ついたときには、それをもとにもどすには遅すぎた。樹はすでに枯 死しはじめていた。そして最初の樹が枯れ、それと同時に最初の村がする。われわれの良心が、ないはずの色素補「ていたんだ : が腐りはじめると、かれらは恐怖に駆られた。おそらく、かれらにだけどおれは、ある意味で、彼女は : : : あの樹は死にたが「てたん 植えつけられた家への愛着があまりに強く、家なしではどうや「てじゃないかと思う」 ライトが言「た。「入植者の連中は、まだ一」の先も土地から搾取 生きていったらいいのかわからなかったんでしような。それに、目 の前で家が腐 0 てゆくのを見ることにも、明らかにかれらは堪えらをつづけるだろう。だがそのあいだかれらはず 0 と泥の小屋に住 れなかった。それで北部の荒地に集団移住したんです。それであのまなきゃならないんだ」 死の洞窟のなかで、餓死するか凍死するか、でなければ集団自殺すスト 0 ングは言「た。「ひょ「とするとおれは、慈悲をほどこし てやったのかもーーー」 るかしたんです : : : 」 「いったいあんたたち二人はなんの話をしてる スーレが言った。 ・フルースカイズが言った。「五千万頭もあいつらはいたんた、あ の大きな、毛のふさふさした、堂々たるけものが、現在、大北米砂んだ ? 」 ・フルースカイズが言っていた。「五千万だぞ、ちくしよう。五千 漠になっている肥沃な草原に住んでいたんだ。そしてかれらを養っ ていた草は青く、かれらはまたその草を糞として大地に返すことに万頭だそ ! 」 よって、ふたたび草を青々と茂らせていた。五千万頭だぞ ! そし て白人たちが殺戮を終わったとき、かれらは五百頭しか残っていな かった」 ライトが一一一口った。 「この村は、最後に″近代化″した村のひとっ なんだろうな、きっと。それでも、樹は入植者たちのやってくるず っと前から枯れかけていたにちがいない。だからこそ、いま村がこ んなにも急速に腐りかかっているんだ」 ストロングは言った。「樹の死によって、その退化作用にはます ます加速がかかる。おそらく、あと一カ月もすれば、満足に建って いる家は一軒もなくなるだろう : : : とはいえ、もしかれらが、かれ 2 3 0 , 玖 - 不死鳥コナン 死の都に乗り込んだコナンと女剣士を襲う妖魔 ! 2 2 0 エドモンド・ さいはてのスターウルフ 禁断の字宙の秘密を求めて乗り込んだ外人部隊 ! / 、ヤカワ s F 文直 ロ 発売中発売中

2. SFマガジン 1972年7月号

だがかれは、その一瞬後、ライトが連絡してきたとき、それにつ と、切り傷どころか引っ掻き傷ひとつ見あたらない。かれは眉をひ いては一言も触れなかった。 そめた。手でなければ足を怪我したのだろうか ? 前かがみになっ てみると : : : 赤く染まった靴の甲と、血まみれで、ばたぼた赤いも「そろそろいいかね ? 」ライトは問うた。 のをしたたらしている拍車が目にはいった。かれはさらに前へかが「いやーーもうすこし。いまちょっとした偵察をやっていたもん みこんだ : : : そして見た、なめらかな天色の幹の上に、自分の拍車で」 が残した血まみれの足跡を。ようやくかれはそれが自分の血ではな「今朝はおおいに仕事を楽しんでるというわけだな」 「ある意味でね」 いことに気がついた 「ともあれ、きみはどこまでもドライアドを自分だけのものにしと それは樹の流した血だったのだ。 日ざしと風を受けて葉叢がきらめき、幹はゆ 0 たりと前後に揺れくつもりらしいから、おれは繩張り荒しはせんよ。どっちみちおれ のような中年のツリーマンがの・ほるには、高すぎるからな。いま呼 ていた。もう一度あちらへ、こちらへ、あちらへ、こちらへ びだした理由というのはだ、これから昼飯のために作業を中断する 樹液 ! かれは、その言葉が・せ 0 たいに出てこないだろうと思いはじめてと伝えるためだ 0 たんだ。きみもそうしてはどうかね ? 」 「そうしましよう」ストロングは言った。 いた。それの偽りの同義語が、永遠に自分の心を占有しつづけるだ だがかれはそうはしなかった。ポケットには樹上食がはいってい ろうと思いはじめていた。 たが、それを食べる気にはなれなかった。かわりに、かれは静かに 樹液 : それは必ずしも透明である必要はない。もしも適当な色素さえあ樹のまたに腰をおろして、もう一本煙草を吸った。それから、サド この太陽のもとでル・ロ 1 プをかけたまたまで、幹をつたわって降りた。すくなから れば、それはいかなる色にもなりうるのだ ぬ樹液が手に付着し、かれはそれをハンカチで拭わねばならなかっ ク。 ) 。紫。緑。茶。青。赤ーー ~ しかなる色にもン星は変光星 血のような赤 : ・ 普通の樹木にある特定の性質が存在するからとい 0 て、ただそれ靴の拍車をひっこめたかれは、中間ロープに足をからませて、枝 だけで、おなじ性質がこの樹にも存在せねばならぬと考える理由はづなをかけたままで滑りおりた。そこでサドルに腰をのせるあいだ ない。どこの世界に、樹液は無色でなければならぬと規定した法律だけ止まったあと、今度は枝づなの端までサドルで滑りおり、その 先端のはさみ具をベルトに装着した。一本目の″百フィートもの があるだろう。 そう考えると、かれはすこし気分が楽になりはじめた。赤い樹液は、かれの下方約一一十フィートのところにあった。かれはうしろに か、ま、それもいいだろう。ライトに話してやったら、や「こさ枝づなを引きず「て、そこまでの残りをまたサドルを使「て滑りお 0 り、枝の上に降りたっと、枝の先端に向かって歩きだした。枝は、 ん、なんと言うことかー

3. SFマガジン 1972年7月号

傾向がつよい動物だし、一部の人間の体内 頻度は二八 % と報告された。しかし環境がる。 かわり淘汰の働き工合が変ると、遺伝子頻そこで、もし地球の状況が変り、すべてには、宇宙へ出ようとする衝動がうずきっ 度も変ってくる。この例でいうと、マラリ の化学薬品を追放してマラリアと共存したづけてきた。 チオルコフスキ 1 の『ロケットによる宇 アのない環境では、マラリア抵抗性による世界を仮定してみると、超優性のメカニズ 超優性機構がやぶれて、ヘテロ個体の適応ムによって、鎌状赤血球をもったヒトだけ宙空間の開発』、・・ゴッダートの 度も低くなるから、異常遺伝子は次第に失が生き残り、それが正常な人類と呼ばれる『きわめて高い高度に到達する一方法』、 ・オーベルトの『宇宙旅行への道』、そ 一われてゆく。現に北アメリカの黒人は、アことだっておこりうるだろう。 して、それを実行にうっしたアポロ計画の フリカの黒人にくらべて、ヘモグロビン これを一般化していうと、現在の地球で 遺伝子の頻度がいちじるしく低いのであは異常個体とみなされるものも、別の環境関係者たち。小説の世界では、・・フラウ 図 3 白鳥座礙番の軌道 ( 左 ) と拡大図 ( 右 ) では正常者になりうる、ということだ。しン作『天の光はすべて星』のマックス伯父 ( 宮本正太郎の「宇宙科学入門」より簡略化引用、 たがって、空想的に考えるなら、たとえばさんみたいに、どうしても宇宙に出たいや 数字は西暦年 ) つもいる。 火星というような住みにくい環境にも、よ そこでよく眺めてみると、住めそうな星 り適したヒトがいないとは断言できないの は、火星だけじゃあなさそうなのだ : である。 このことは、 かなり大きな意味をもって 住んでいる星、住める星 くるだろう。たとえば、医学が進歩しすぎ ると、致死的だった先天性疾患が死ななく 恐らく他の日輪にも侍く月ありて、 陰陽の光を伝ふるを見るべし なるため人類の遺伝形質が劣弱化してゆ いけるもの く、という危惧も生じてくる。これにも一 この両大性が生者と共に各球に おさ 面の真理はあるが、いま述べたようなとこ 蔵められて、世界をや活かすらむ。 ろまでゆけば、救いがみつかろうというも ミルトン『失楽園』 ( 繁野天来・訳 ) のだ。いやむしろ、あらゆる形質を用意し ておくほうが、種の寿命にとって安全だと むかしは月や火星をはじめ、彗星にまで もいえるだろう。 生物が住んでいると考えられたものだ。こ うしたよき時代は去ってしまったが、別の もちろん、他の惑星を改造し、地球化す観点から、住めそうな星の数はましてき るというビジョンもある。そのときには、 7 どうしても行きたいという志願者だってい 近いところでは金星ーー高温で炭酸ガス 7 るかもしれない。もともと人類は、移住のは多すぎるし、気圧もすごく大きいナ 円 42 20 圓 円 50 円 00 50 00 かしづ

4. SFマガジン 1972年7月号

た。かぼそい姿態、妖精めいた顔立ち、金色の髪。どう見ても二十ライトの声が耳の受話器にひびいた。「万事順調かね ? 」 イ 1 トと離れていないところに彼女はいた。 ストロングは一瞬ためらってから、「万事異常ありません」と答 8 「止めてくれ」かれは低声でライトに言った。リフトの上昇が止まえた。「ちょっと偵察をしてただけですよ」 ると、かれは安全ベルトをはずし、その枝の上に降りたった。ドラ「彼女はどんなようすかね ? 」 ィアドは動かなかった。 「彼女はーー」言いかけてやっとかれは、ライトの言っているのが かれはゆっくりと彼女のほうへ歩いていった。まだ彼女は動かな樹のことであるのに気づいた。かれはもう一度顔を拭うと、 ( ンカ い。なかば彼女が消えないでいてくれることを願いながら、かれはチを丸めてポケットにもどし、ようやく声のふるえがおさまったと 目をこすった。依然として彼女はもとの場所に立っている。背を幹信じられるようになってから、ロをひらいた。「大きいです。とて にもたせかけ、長い脚を枝に踏んばって。微動だにせず、彫像のよも大きいですー うに。着ているのは、葉っぱをつづりあわせた短いチュニック、 「それでもちゃんとかたづけてみせるさ。これまでだってずいぶん 一方の肩にストラップで斜めに固定してある。足にはやはり葉っぱ大きいのを手がけてきたんだ」 で編んだ繊細なサンダル、交差させて編みあげた紐がふくらはぎの 「これほど大きいのはありませんでしたよ」 なかばまで達している。これは本物かもしれん、そうかれは思いは 「いずれにしても、われわれはちゃんとやってみせる」 じめた。そのとき、前ぶれもなく、彼女はまたたいて消えた。 「・ほくがやるんです」ストロングは言った。 ライトは笑った。「わかった、わかった、そうだったな。しか ほかにそれを言いあらわす表現はなかった。彼女は歩み去ったの でもなければ、駆け去ったのでもなく、飛び去ったのでもない。語し、われわれがここに控えていることは忘れんように。万一の場合 の厳密な意味では、消えたとすら言えない。たんに、ある瞬間にそは : : : ところで、もう″登頂″を再開できるかね ? 」 こにいたのが、つぎの瞬間にはいなくなっていたというだけだ。 「ちょっと待ってください」 ストロングは急いでリアトにもどった。 ストロングは立ちすくんだ。その大枝に達し、その上を歩くこと にかれが費やした労力は、取るに足らぬものだった。にもかかわら「じゃあやってもらいましようか」かれは言った。 ず、かれは汗をかいていた。頬にも、ひたいにも、頸筋にも汗が噴 きだしているのが感じられた。それはまた、胸にも背中にも感じら五〇〇フィート 近辺で、かれはまたケー・フル打出しを行なわねば れ、樹上シャツが汗で湿っているのも感じられた。 ならず、五九〇のところでもう一度それをくりかえした。六五〇あ かれはハンカチをとりだして、顔を拭った。それから一歩後退し たりまでくると、葉の茂みが一時まばらになったので、ここでは優 た。また一歩。ドライアドは再実体化してこない。彼女のいたとこ に百五十フィート を越える打出しを行なうことができた。かれは自 ろには、一群れの葉の茂みと、丸い木洩れ日のかげがあるばかり。 分の腕前に満足しながら、坐りなおして上昇を楽しんだ。 フ

5. SFマガジン 1972年7月号

現実的といわれるように、具体的な人格を仲介として愛情の世界にまだまだ幼児期より青春時代にかけての女性コン。フレックスに悩ま 結びついているのですな。このトイをごらんなさい。彼女はあなたされている。本質的にいえば、あなたにとって女の体とは日常的事 という人格そのものを愛している。たとえあなたからどんな仕打ち物の世界にとどまっている不透明な存在です。どうですかあなたは ミス・トイの驅を抱くとき不安を感じませんか。特に彼女の解剖学 をうけようとも、いまではあなたなしには生きていけない。彼女と 世界内存在としての彼女の″世界″をむすびつけているのは、あな的な部分、つまりはっきりいえば性器に対して不安と嫌悪をお・ほえ たなのですよ。だから、もしあなたを失えば、彼女は″世界″とのませんか : : : 」 連繋を失ってしまうのです。しかし、あなたはちがいます」 よどんだ。ちがうといえば明ら 「それは : : : 」といって・ほくはいい 、え、ぼくだってミス・トイを愛していますよ」と・ほくは抗弁かに嘘だった。 「あなたがいま経験している愛情体験は、ミス・トイの驅そのもの 「そうでしよう。でもその意味がちがいます」と氏は断言した。 を通じてではなくて、もっと空想的なはずですよ。ミス・トイが強 氏によれば、・ほくは幼児期より青春期にかけて、強圧的な女性圧的な″あちら″の女ではないことをあなたは知っている。女性に たちによってゆがめられているというのだ。確かにそういえるかもはちがいないが世界が異なっているのです。丁度あなたが空想する しれない。ぼくの母親は美貌の持主だったが、性格的には貴族的で世界に住む女神のように。あなたはミス・トイを媒介として自由な 頑固だった。父親は彼女に劣等感を持っていたらしく、そのために空想的世界を構築することができたのですな。″あちら″の女性に 両親同士は不和だった。事実、母親の方が社会的地位も高かった。対しては不能であるはずのあなたが、ミス・トイに限って例外なの はそういうわけです。フェチストたちは、女性そのものに対しては 家庭にはいたことがなく・ほくの世話は育児器にまかせられていた。 これは″あちら″ではごく一般的なことで、子供たちはよちょち不能ですが、女性の外面的な要素、たとえば衣服や靴などを仲介と あるきする頃から教育機関に入れられてしまうのだ。ぼくの育児係して愛の神話的世界を空想し、その中でのみ自分の愛人を激しく愛 はヒステリックな女性で、しつけにはひどく厳しかった。 することができるのですな」 「つまりそういうわけで、あなたは女性の持っ具体的な姿、裸体そ反対する理由はみあたらなかった。″あちら″の世界で・ほくはひ のものよりは、女性の身辺にあるもの、たとえば衣服とか手袋や靴とりの女を愛し性交しようとして失敗し、軽蔑されたことがあっ により深い関心を抱いているはずです」 た。彼女がドレスを脱ぎ、行為のために必要な部分をためらいもな 「かもしれませんね」とぼくは正直にいった。「でも・ほくは、ちゃく見せたとき、・ほくは激しい嫌悪感に襲われてその場を逃げだして んとミス・トイの身体に対して : : : 」 しまったのだ。それまで、その娘が・ほくのところにおき忘れていっ 「それはそうですよ。ミス・トイは″あちら″の女ではないのですた皮手袋を抱きながら空想していた愛情の輝かしい至福にみちあふ から。あなたの空想していた女性だったのですから。でもあなたはれた世界と現実との隔りを、・ほくは思い知らされた。まもなく・ほく

6. SFマガジン 1972年7月号

が、かれは、足の裏に触れる大地の感触を渇望しており、たとえ今朝、おまえを捜したんだぞ、かれは言った。が見つからなか ″血″まみれの土でも、それをながめることはなにがしかの安らぎつご。 ナここから姿を隠したときは、どこへ行くんだ。 を与えた。 どこにも行かないわ、彼女は言った。 かれはしきりに目を細めて太陽を見やった。これでもう三日近 だがどこかに行かなきゃならんはずだ。 く、かれは樹上におり、また一晩、その枝々のあいだで過ごすのは あなたにはわからないわ。 ありがたくなかった。もしくは、その切り株の上でだ。けれども、 ああ、そうかもしれんな。おれには永久にわからないんだ。 最後の . 五十フィートものをおろしおわったとき、かれは不本意なが 、いえ、わかってよ。明日になればみんなわかるわ。 らそうせざるを得ないのを認めた。そのころには、太陽はすでに 明日では遅すぎる。 ″大小麦海″の向こうに沈もうとしており、タ闇がおりるまでに、 遅すぎるというなら、今夜だって遅すぎるわ。昨日だって遅すぎ 最初の百フィートものをおろせるかどうかもこころもとないくらい たわ。あなたがこの樹にのぼる前から、すでに遅すぎたのよ。 ・こっこ 0 教えてくれ、かれは言った。おまえはあの村を建設した種族の一 員なのか ? いまかれの坐っているいちばん下の切り株は、優に樹上にテント を二十張りも張れるほど広かった。ライトはそれに向かってケープ ある意味ではね。 ル打出しを行ない ( リフトは午後早くおろされていたし、ウインチ年はいくつになる ? ・ケープルは巻きもどされていた ) 、そのケー・フルでかれの夕食そ さあ。 の他を送ってきた。夕食はまたしても村長心づくしの特別料理と判 おまえがあの村の建設に力を貸したのか ? 明した。樹上テントを設営しおわると、ストロングは無関心にその わたしがひとりであの村をつくったのよ。 食べものをつついた。ゅうべの食欲はまったく失われていた。 嘘をつけ。 わたしは嘘は言わないわ。 かれは激しい疲労を感じていたから、ライトが石鹸と水を送りと どけてきたにもかかわらず、身体を拭おうとさえしなかった。そし その原住民族はどうなってしまったんだ。 て、食事を終えると、ざらざらの樹皮の上に横たわって、銀色にの かれらは成長したのよ。単杯てあることをやめたの。複雑にな ぼる月をながめ、青白くささやきつつよみがえってゆく星々を見まり、洗練された。つまり文明化されたわけ。そして文明されると もった。今回は姿をあらわしたとき、彼女は忍び足でかれのそばに同時に、先祖たちの伝えてきた風習を、無知で、迷信的であるとし 近より、そこに腰をおろして、青い悲しげな目でかれの顔をのそきてばかにするようになった。かれらは自分たち自身の新しい風習を こんだ。彼女の膚の白さはかれを愕然とさせ、その頬のげつそりや打ちたて、鉄や銅で道具を造るようになった。かれらがやがてある 生態学上の ' ハランスをくずすまでには、百年とかからなかったわ。 つれていることは、かれを泣きたい気持ちにさせた。 220

7. SFマガジン 1972年7月号

身元不明の正体のはっきりしない人間がいるということが、そんな類からインド大麻、雑貨のはてに到っていた。 ・ほくがこのどことなく裏のありそうな人物と知りあいになったい 。私生児の・ほくにはわからないことだ。 きさつは、話してもいいが、まだいまのところは伏せておくことに でも、・ほくは経験的に知っている。・ほくが生きていくためには、 存在証明が絶対に必要だということが。むろんぼくにはない。だ、する。この熱帯市にや 0 てきたそもそもの理由は、本当はこの某氏 ミス・トイの遺品収集とあうためだ「た。いやただ逢うだけではなくて、それ以上の目的 ら偽造しつづけているのだ。こうして : があったのだ。 人 : : : 。・ほくはつぶやいて、ひとりでケラケラと笑いだしていた。 どうやら・ほくは信用されたようだった。取引は順調に進展した。 買付人として・ほくは訓練を受けてきたし、知識の裏付けも演技力も あった。単にそれらしく振舞っていたのではない。そのものに成り 切っていた。しまいには、本来の使命の方などそっちのけになって こういうわけだったのである。 このなかなかの人物と丁々発止、掛引きに熱中する有様た みつきほど前、蛇皮の買付にきたという名目で、この熱帯市に現しまい ヴィラ・フィア / っこ 0 われたぼくは、ミス・トイと知りあいになった。彼女は″婚約者の えてして小説類などで、こういう黒幕的な人物が、大抵、政界や ってしまえば実も蓋 館〃のメン・ハーで、どういう種類の女性か、い もない。遊びつけた大人たちならすぐ想像のつく例の女性だが、た官憲に顔がきいているという設定は、よくあるけれども、この氏 はそういう意味で、まさに小説的人物であった。いや暴露雑誌的と だこの店は、普通の観光客のいくこの種類の店とは少しちがってい キャラクター たいじん いうか、実話雑誌的というか、彼の持っている性格、その他諸々 て、現地に住む大人にしかわからない内証の場所にあった。 の背景や全体の雰囲気などが、どうみても小説中の黒幕的人物の典 ・ほくをこの秘密じみた館へつれていったのは、むろんホテルの前 にごろごろしている観光案内人でもなければ、流れ者で同国人とみ型そのものといってよく、つきあっているうちに、こっちの方まで の大物と逢っているような気分にされていたから ればさも親切めかした顔をして話しかけてくる喰いつめ者でもなか犯罪シンジケート った。・ほくが取引の相手として選んだ国籍不明のある男であったの妙だった。むろん、氏は少なくともこの世界では善良な市民であ ・こ。いや、男というよりは人物といった方がふさわしい。名前はる。ただ、そういう振りをして、一種の趣味的満足、なんといおう 某 : : : 。本当は某氏といった方が感じとしてびったりなのだが、仮か偽悪趣味を楽しんでいるのだ。 ニュー・テリトリーズ りにということにしておこう。このは新界に表むき貴金本物の年齢は百何歳なのか、ぼくにはわからない。表面的には初 属を取扱う店を出しているが、本業は何が専門なのかよくわからな老の紳士といった風条で、秀でた額と、鋭い眼光が特徴的だった。 い。ただ表むきは貿易商であることだけは事実であった。取扱うも一見、学者めいたところもあるが、これはぼくが予備知識を持って 3 いたからで、商人らしい身振りは演技であった。 のは、どうやら儲になる品物であれば全て、つまり西欧製の武器の に . 2

8. SFマガジン 1972年7月号

なく、完全な文化複合体のことだ。われわれの文化でも、最近の四で、形式にも気をくばっているらしく思えることだった。しかし、 半世紀の純然たるテクノロジー的成果が、 " アメリカ文学。というフォ 1 クナーや = リオットに対する無関心さも、それに近いほど大 ような言葉の意味を大きく変えてしまった。今日の若いアメリカ作きかった。つまり、わたしはまだ幻減していなかったのである。脱 家たちは、おそらくホイットマンやエマソンに対してとおなじほ社会、″疎外″そして″アイデンティティの探求は、わたしの観 ど、カフカやキエルケゴールに多くを負っているだろう。同様にし点とはあまりにも異質のものだったために、わたしはそのすべて て、今日のわれわれの文化 ″アメリカ文化″でも″インドネシを、そのもっとも優雅な形態においてすら、受け入れなかったの ア文化″でも″エスキモー文化″でもない、ますます汎世界的にな りつつある文化ーーは、現代科学思想が生み出したものと不可避的わたしの未開な状態が界の代表的なものだったというつもり に関わりあっている。芸術においても、科学においてとおなじようはない。・フレットナー ハウチャー、ナイト、・フリッシュ、そのほ に、新しい挑戦への反応から起こる対立と、さらにそこから起こるか大ぜいの眼識を持った人びとは、さまざまな文学的実験者を明確 反応が、まだ荒れ狂っている。そして、新しい観念を受け入れはじに区別できた。明らかに、・フレットナーはサンフランシスコ湾の対 めた、拡大しつつある隊列の中にも、一段階上の、避けられない実岸で起こっていることを無視しなかったし、わたしのようにそれを 験的論争が存在する。 あっさりと片づけはしなかった。しかし、彼がそれを切り捨てたこ 一九五二年、・ ( ウチャーと・フレットナーがそれそれの評論を執筆とは事実である。これは″サイエンス・フィクション″に関するか していたのと時をおなじくして、ある一つの実験的反抗の爆発が進ぎり、正しいと思う。それとも、およそ小説に関するかぎりは。 行中だった。・ハ ークリーとノース・ビーチのあいだは、距離も短く 交通量も多い。しかし、スプートニク以前のサイエンス・フィクシ わたしが当時知っていた唯一のことは小説だった。二十五年間そ ョンとパロウズ以前のビート = クのあいだには、どんな種類の橋もれを読み、七年間それを書いて、なにが小説をうまく動かすか、な 架かっていなかったし、また双方のだれひとりとして、架橋のためにがその中で動いているかを知っていた , ーーさらには、それを書く にその距離を測量してみる価値があるとは思っていなかった。 ことについても少々は知っていた。そして、こうつけ加えるとき、 わたしにも先見の明を誇る資格はない。当時のわたしは、ほんのわたしは当時知りあった作家の過半数を代弁していると思うのだ 数ベージを拾い読みする程度で、サンフランシスコ・シーンを真剣 が、小説とは唯一の重要な散文形式だったのである。練習あるいは に受けとっていなかった。しかし、ここでつけ加えておかねばなら金儲けのために、ほかのことをするのは自由。絶妙な文章を書くの ないが、わたしは二十世紀文学革命の巨頭たちにも、たいしてそれも、忘れがたい性格を創り出すのもけっこう。しかし、物語を満足 以上の関心をはらっていなかったのである。正直な話、ジャック・ に語れなければ、それだけで失格なのだった。 ケルアックやヘンリー・ミラーあるいはジェイムズ・ジョイスが そして、・ホンゴ・ビーチやセーヌ左岸で彼らがやっていること 〈猥褻大反乱〉以上の革命的ななにものかを代表している、とは知は、およそ小説の部類にはいるものとはいえなかった。あなたがど らずにいた。いわゆるアヴァンギャルドと = スタブリッシ = メントんなルールでプレイするにせよ、主体化ではなく客体化が物語を作 のあいだにわたしが認めた唯一の違いは、後者のほうが文章が流麗る。小説はスビードを鈍らせた詩ではない。拡張された劇なのだ。 8 5

9. SFマガジン 1972年7月号

そう言うと女たちはこれみよがしに、手に砂をすくってロへそその方、男はいつもそう言いつづけた。それでいくさというものがの 8 ぎこんだ。 うなったか。いっ殺し合いが絶えたのじゃ。、 し「たい男は、が 3 佐助も多分神の裔と選ばれた身を誇 0 ているであろう。ヒの男栄えるということを深く考えたことがあるのだろうか。が栄える はみなそうじゃ。、 しつかは芯の山をみつけだし、生きとし生けるもとはどの生のことじゃ。草の命を食む牛馬のか。蛙を呑む蛇の めしい あれ のの明日の栄えのために、天地の間のたいらぎを祈るつもりでいよ か。肓を殺すさむらいの生か う。だが、ヒが人の世にあって唯一の穢れなき命だなどと思いあが「そのようなことのない日のために : あれ らぬほうがよい。 言うな男。生は栄えてはならぬのじゃ。生はすべて減ぶべきじ ヒが穢れなき命なら、なんでこのような女を作ろ う。かたわじゃ。生まれながらのかたわじゃ。ヒの男が千里の道をや。この東、六里ヶ原の南にある。鬼押出の岩原の美しさを知るが あれ 鳥の翔ぶごとく走るために、ヒの女は目も鼻も黒髪も失い、布で肌よい。生の姿を留めぬあの岩原こそ、争いのない楽園じゃ。祓い清 をかくすことも許されぬ身に生まれついてしまうのじゃ。ヒの男がまった神の国じゃ あれ わざ 神に近いワタリのすべを備えるために、ヒの女は、日ごと夜ごと砂「ではなぜ産れた。生を産んだのも神の業であろうが」 あれ あれ あれ を食んで生きるのしゃ。ヒの男が気高い魂を持っために、ヒの女は おろか者め。生の本性は生なき物と生なき物のからみ合いじ 太陽から遠ざけられ、地の底に白子の蛇に似た身をうごめかすだけや。清きものと清きものが混り合うて、思わぬ穢れを産んだのじ や なのじゃ。ヒもまた穢れであろうが。命あるものはみな穢れじゃ。 よこしまな欲のかたまりじゃ。意味を持たぬま・ほろしじゃ」 「ならば神の縮尻りではないか」 むすび それはしいたげられた女の呪詛であった。畸形の生命の恨みであ そうとも。神はそ、のつぐないに産霊を仕掛けたのしゃ。穢れた あれ った。しかし、現実にそこにいる千もの女たちを見ている佐助にと欲のかたまりである生の願いを、どこまでもどこまでも許すのじゃ。 むすび って、彼女らが明日に希望を託す一見正当なものの裏側にある、天に産霊の山はそのためにある あれ も地にも許されざる汚穢であるように思えた。生はみな、この汚穢「それ、生の栄えは神も許しておろうが」 あれ を業として背負っているのではあるまいか : : : 佐助はそう思った。 ーー否じゃ。生の願いを叶えつづければ、やがて生はおのれの死を そして昼の側に生れた者として、弁解せざるを得ない気持になっ願うようになるのじゃ。神はおのれの作りだした穢れ自身に、潔い こ 0 死を望ませるまで願いを叶えつづけるのじゃ 「儂が芯の山をみつければ、みなのために祈ろう。約東するぞ。そ「ならばなぜ芯の山をかくす」 うすれば、やがて目もあこう。美しい布で身も飾れよう。木の実や佐助はたまりかねて絶叫した。畸形の女がひしめくその穢れに溢 穀物も味わえよう」 れた洞窟に、佐助の絶叫が複雑な谺となって響き返した。 ヒの男はみなそういう。果してそれが叶えられようか。千年こ 上信国境に、その夜から雪が積りはじめ、元和二年は雪にとざさ 1 」う

10. SFマガジン 1972年7月号

神道はもちろん音読みであるであるらしい。もっとも漢代ごろのではあるまいか。そこへ仏教がである玄寮の所管とされ、どち が、その訓読みとなると、どうもは信仰対象はすべて神で、仏と区突然とびこんで来て、同じ宗教でらかと言えば葬礼など凶事を専門 よく判らない。 別することがなく、西方有神、名ありながら全く別の形態を明らかにつかさどった。ついでに記せば き なかっかさ 「かんながらのみち」と訓ずるの日仏などと記したりした。 にしたので、しようことなしに一天文は陰陽道に関係するので中務 えが今日の常識であるようだが、こ神道の定義もまたあいまいで厄定の殻を作らされてしまった・ : : ・省陰陽寮、呪禁は医術と同じに考 者 れは調べてみると明らかに江戸以介である。わが国個有の民族的なと考えてみると、新しいスターのえられて宮内省典薬寮がそれそれ 作降のものである。いったいそれ以信仰体系であるとする程度が、大登場に撫然としている八百萬の神所管とした。 前、神道はどう訓読みされていたざ 0 ばだがいちばん間違いのない神の表情が想像されてたのしくなこれらは大宝令の制度である のだろう。 ところであろう。要するに神道そる。しかし日本古来のものなのが、今日の外務省に当る玄蕃寮に 神道なる語は中国で古くから用のものの概念は大変明確でない。で、朝廷では神祗に関する官制を僧尼をとり扱わせているところな いられているが、意味は神異の思うに神道とは、宗教または信太政官と相並びその上に位するよど、わが八百萬の神々の実力がし 道、または霊異の道とい 0 たもの仰することそのものをさしていたう扱 0 た。僧や尼は治部省の管轄のばれるではないか。 年 ) の初冬である。 「糞オ、いくさはまだか : : : 」 また誰かが荒々しく怒鳴っこ。 人影の絶えた街道に、細かな雪が舞いはしめていた。 いくさは終った。大阪夏の陣はこの前年のことで、豊臣家は完全 この二、三日の急な冷え込みに、踏みかためられた街道の黒い土に減亡していた。 もとうに凍てついていて、その上に舞い落ちる粉雪は、容易に融け「待て待て。いましばらくの辛抱じゃい」 ようとはしない。強い北風に煽られるたび、薄く撤いた灰を吹くよ「いくさはき 0 と起る。いや起らせてみせよう」 うに、黒い地肌をあらわして走り去ってしまう。 男たちは確信ありげにそう言った。彼らは豊臣側の残党であっ さぶ 「戸をしめんかい。寒いぞ」 た。いや、戦場を稼ぎ場と心得、たまたま敗れた西軍につき従って 薄ぎたない宿の二階で誰かが大声をだした。その声に破れ障子が戦「た戦国無頼の荒くれ男どもだ「た。 ピシリと腹立たしげな鋭い音をたててしまる。 彼らが戦火の再発を確信しているのには理由があった。 どぶろく すすぼけた梁の芯にまでしみこんだような干物の匂いと、濁酒の この四月、徳川家康が没している。 香が入り混った粗末な大部屋に、屈強の男たちが十四、五人ほど、 豊臣の残党だけではない。この元和二年、戦いの火の手が今にも 所在なけにたむろしていた。 身近に噴きあげて来そうな予感は、百姓町人に至るまで誰もが持っ さばえ 場所は越前福井に程近い鯖江のあたり。時は元和二年 ( 一六 ていた。 しんとう 8