「あなたは、もう二度ともどってこない悦楽を撥 脱け出て、アンタンという理想の王国めざして、旅エラ〉。キーア・オムンの鏡をまもる六人の女。か にでたいと考えついた。アンタンの地にたどりついれはこの鏡のなかに踏みこんで、鏡の世界を経験しねつけているのよ。そこへ行くと女は、とても理 たら、かれは、善でも悪でもない〈第三の真理〉をたりする。鏡は、かれの運命をうっし出すという性的な知恵をもっているわ」 統べる王となって、美と秩序のなかで暮らそうと思が、ジェラルドのすがたは、どういうわけか太陽の「・ほくは神だ。そして神は、非合理的な夢をもつ、 う。そこでグラウムという魔法つかいに頼んで、かかがやきとして映る。おまけに、狐火の精エヴァイそのほうが、知恵なんかもつよりも、よっぽどいい れに自分の分身になってもらい、その分身に、ラインとは、もうすこしでペッドインというところまでんだ」 フ・ワークの〈マニュエル家年代記〉を執筆させる行ってしまう。 こうしてジェラルドは、ありとあらゆるイヴ あいだ、本人はアンタンをめざして、いよいよドン・女たちが魔術をおこなう理由として「どんな牢獄たちを撥ねつけて、ひたすらアンタンへとむかう。 キホーテ的な冒険旅行に出発する。肉体をぬけでたや、どんな銀行や、どんなペッド・ルームの鍵も、・本当の詩人がみんな暮らしているアンタンへ。 かれは、アメリカ合衆国からやってきた全能の神とちゃんとあけられるように」 ( 第六章に出てくる一一けれど、さしものジェラルドも、アンタンまであ なり、銀の馬力ルキにまたがる ( カルキというの節 ) なるからだ、と述べるところは、実におかしと一歩というところで、〈豊饒な胸をもっマーヤ〉 へんげ は、ヒンズーの神話に出てくるビシュヌ神の変化の の色香に迷い、ついに旅をなげだしてしまう。それ このあたりの、とても意味シンな会話のやりとりも、彼女がくれたバラ色のメガネをかけたばっかり ひとつで、人間の心と世界を水品のように澄ませる を、前半に登場するイヴたちのうちでもとりわけ魅 剣を持った神を、背にのせているといわれる ) 。 おかげで、あわれ一介の男になりさがったジェラ ところが、アンタンまでの道は、名にしおう〈女惑的な、狐火の精エヴァインの場合を例に引いて、 すこし書いておこう。ザットこんな調子なのだルドは、アンタンへの道をすすむ他の者たちを相手 が出没する道〉。 にして世俗的に暮らすようになる。子どもまでがで ジェラルドの旅がはじまると同時に、イヴのいろ 「・ほくは予定された王国へ行くんだ。それ以外のきる。けれど、一介の男になりさがったジェラルド いろな面を代表する数多くの美女たちが、手をかえ 品をかえて、ジェラルドを誘いかける。しかも彼女真実には、奉仕しないし、・ほくを王国から引きはには、現世の繁栄がほほえみかけ、幸福が花たばを たちの名はどれもイヴ (Eve-) というつづりからなそうとする女にも、用はない」と、ジェラルド送ってくる。 よ、つこ。 . ーしノ 始まっている。たとえば、エヴァドネ (Evadne) 、 しかし ! ある日ジェラルドは、銀の馬力ルキに エヴァシェラ (Evasherah) 、エヴァルヴァン ( Evar ・ 「でもねえ、あなたの王国なんて、すぐ消える夢騎ってアンタンをめざす、ひとりの若者とめぐりあ van) 、エヴァイン (Evaine) といった具合。そしだわ。そこへいくと、わたしの母親の肉体は、現う。若者は、堕落したジェラルドをあたまから無視 て、彼女たちは、例外なく、ほかのだれよりも美し実よ」 して、ちょうど昔のジェラルドとそっくりに、雄々 い女性として、順ぐりに登場する。まずは〈たそが 「いいや、・ほくの消えやすい夢は、どんな女よりしく、アンタンへ向かおうとする。そのときかれ れのエヴァドネ〉ーーまっ赤な髪とするどい歯をもも美しいし、消えやすいということは、どんな女は、ハタと考える。「・ほくの若さが、いま消えてい った女。つづいて女王の風格をそなえた〈エヴァシの肉体よりも、愛らしい」 くんだ」と。マーヤがくれた赤いレンズのめがねの (J) ドスキャま ' 0 0 0 0 0 0 こ。
ヾシリーズ中では出色の作家だ。 て、愛するわが子わが娘を寝つかせながら、ララ′ 日本ふうにいえば巫術、英語ならばウィッチクラ フト、ようするに、巫女とか魔女とか呼ばれる女どイ ! と口ずさむのです。つまり、ララ・ ( イという読んでみて、おもしろいことがずいぶん分かっ ものほどこす術が、フ = ミ = ズムの最初の発顕だとのは、〈・フライ語で「リリスよ、去れ ! 」という呪た。キャベルのファンタジイは、ダンセイ = のアイ いう説は、どうやら真相に近いらしい。日本の「金文的な意味を持っことばなのです ! それにしてもルランドと同じように、まさに〈アメリカ〉、ユナ 枝篇」と評判の高い大著「日本巫女史」を、つい先ヒドイ。生まれおちたばかりのぼくたちは、なんイテ ' ド・スティッを除いては、なにも考えられな 日、やっとのことで手にいれて、女のおそろしさと、嫉妬にくるった気ちがい女の恐怖にさらされてい性質の小説なのだ。しかも、サミエル・・デ に、ただもうわけもなくワナワナと震えながら読みいたんじゃないか ! 魔法というものが、女の最初イレー = イの書きかたによく似ている ! ( よく似て の発明物だったという説は、ひょっとしたらほんといるというよりも、キャ・ヘルの影響の烈しさを指摘 ふけったとき、・ほくはほんとうにそう思った。 ・ほくたちは、生まれたそのときから、魔女の一員かもしれない ( いテ「フ , ウ , ト」のワ ~ プ ~ ギ , の場したほうがいいのかもしれない ) 。おまけに、キャ ベルの感覚に。ヒタリと合ったフランク・ O ・ペイプ である母親に、なんと皮肉にも、魔女除けの呪文を殀第る ) 。 聞かせられて育っていくのだ。魔女除けの呪文フ どうやら女は、母である以前に、魔法つかいであのイラストは、キャ・ヘル風幻想を大いにもりたてて そうです、呪文なのです、あの一見たあいもない、るらしい。英国の王で「デモノロジイ」という大魔くれる ( つい先日、べイ。フの挿絵がついたキャベル 話せば長いことながら、道書を書いたジ = イムズ一世が、女が悪と手をにの本を数冊手にいれた。とにかくスゴイ ! こんど 子守うたというやツは ! 子守うたの呪文的要素をここでちょ 0 と書かせてくぎるのは、かれら双方がま 0 たく同じ性質をも 0 て「イラスト・ファンのための蔵書術」とでも題し ・こ癶」、 いるからである、などとつぶやいているのも、多少て、ファンタジイやのイラスト入り単行本のガ イドをやってみたい ) 。 アダムの最初の妻は、リリスという名の女だったコジつけながら、たしかな証拠のひとつになる。 かれが残した多量な著作のうち、比較的初期にか トロイアのヘレンとい が、これがまた手に負えぬ悪女で、ご乱行のあまりとにかく、リリスといし スフィンクスといし この手の女たちは、まずかれた一一十数冊の作品は、一般に〈マ = 、 = ル伝〉 のひどさに、とうとうパラダイスから追放されてし クエスト まう。なのに本人は、イヴという女のために妻の座ロクなことをしない。もしも、こんなオッカナイ魔と呼ばれ、古典的な探索の物語やギリシア、ローマ を横取りされた、と逆うらみする始末。こういう女女どもが大挙して攻めてきたら、ぼくたちに勝ちめ神話を下敷きにした、キャベル独自の大河ファンタ ジイとして知られている。大河も大河、なにしろざ だから、ごくしぜんに邪悪な力とむすびついて魔女はありつこない。 っと数えただけで、長編 ( ほとんどが二百ページ以 になり、たまに地上に降りてきてはなんの罪もない 赤ん・ほうをいじめたり、さらったりするようにな一そんなわけで、ジェイムズ・・フランチ・キャ・ヘル上 ) が十三、短編集が四、詩集が一、評論集が二、 ズ、「リングの王」 る。それも、もと亭主だったアダムの子孫だという ( 1879 ー 1958 ) の "Something About Eve" ( 『イという数量からなるこのシリー だけの理由で : ヴたちのこと』 Ballantine, 1971 ) を、どうにか読や「ゴーメンガスト」三部作ぐらいで腰を抜かして こうなると、子どもを持っへプライの母親たちはみ通すことに成功した。なるほど、手ごたえが違いたら、お話にならないのだ。このうち、日本でも 生きたここちがしません。彼女たちが必要にかられう。リン・カーターの「アダルト・ファンタジイ」翻訳紹介された「ジャーゲン」は、例のワイセッ本 一道 0
日本ノヴ = ルズ ー絶讃発売中ー 継ぐのは誰か ? 作・小松左京 装幀・生頼範義 人類は果たして、地球の最終王朝か ? それとも自ら築いた文明のうちにその後 継者を生みだすのか ? あるいは遠い宇石の血脈 宙、遙かな未来からの来訪者に征服され るのか ? ・ 種としての人類の可能性を フィクションに仮託して探る意欲大作ー 七月刊行 夫 四六判上製本藤 小松左京六〇〇円 石 生命の進化の神秘を探るカ作 / 『牙の時代』ュニークな文学世 雄 界観『小説を書くという事は 義 他ーー日本界の第一人者が 創みだした新機軸六篇を結集ー 荒 半村良九〇〇円亘 有 人類誕生以来の歴史を貫く恐る 田 べき血の秘密と暗黒のエロチシ ズムーー期待の新鋭が雄大な構 想で意欲満々放っ書きおろし LL サスペンス・ミステリ巨篇ー 喪われた都市の記録 左 作・光瀬龍 装幀・金森達サイボーグ・プルース平井和正六 = 〇円 地球人に無限の郷愁を呼び起こす幻の星 黒人の苦悩と誇りを超人体に秘 「アイララ」に捧げる減亡と再生の詩ー めて巨大な敵に挑戦する闇の戦 本紙掲載の連作シリ ーズ《都市》に、意 定 士サイボーグ特捜官ーー情念の 予 表をつく新構想のもと新たな三百枚を書 き加えて、宇宙と次元にわたる雄大無比 作家が非情のタッチで描く衝撃刊 のドラマを展開する著者会心の野心作ー ードボイルド巨篇ー の未来ハ 好評発売中ー 六五〇円牙の時代 - 牙の時代 : 小松左京
フランス国営放送 (OXE-«ß) が六月三日が、表題作がファン向きで面白い。何者そっくりに整形さ に三時間半におよぶ特集番組を流すとかかがひそかに行なった″骨寄せの行法″によせたうえ、その鼻 で、先日そのインタビ = ーを受け「日本におって蘇った三島由紀夫の首が、多摩霊園の墓の先に接着させ けるの定義は ? 」と聞かれて大いに困惑からぬけだして東京の空を飛び、平将門の首て、これを女主人 した。結局、『週刊アルフア大百科』肥号なと出会い、天皇論や革命論を戦わせる一方、に贈物したのが、 どに書いた解説を引いて、「たとえば『エン胴体の方は市ヶ谷の自衛隊や国会を荒らして 鼻人形の事始めと サイクロペディア・プリタニカ』の《未来の回る。やがて首と胴体は、『サロメ』を演じ いわれる」といっ 科学的発見から生じる人間のドラマ、闘争、た女優と交合することによって結合するが : たぐあい。親しく 冒険を扱った小説》といった類の定義は日本 。諷刺のきいた = = 1 クな鎮魂歌として読原典に触れてその ませる。 でも的はずれになりつつある」うんぬん : 香気を楽しまれる といった程度の説明でお茶を濁さざるをえな『都市』春季別冊 ( 都市出版社・ 900 円 ) ことをおすすめし っこ 0 に、沼正三の名作『家畜人ャプー』の続篇こ、。 岩田宏『最前線』 ( 青土社・ 900 円 ) 文芸誌『海』 5 月号に伊藤典夫が書いてい ( 150 枚 ) が掲載されている。原始ャ。フー は、この詩人の近業をうかがわせる詩と散文 る = ッセイ『の〈新しい波〉』は、族の古代神話に天照大神として伝えられていをまとめたものだが、「最前線」「火星は招 の変貌の歴史をきわめて簡明かっ的確に要約る白人貴女アンナ・テラスが、正篇でおなじ く」「世界制覇」などのショート・ショート、 してみせた好論で、日本でがどのようにみのポーリーンやクララを案内して「子宮畜」組詩「九つの」の 3 と 9 などに味が濃 ( - 理解されているかを示すのにもってこいの文を購入するため富士山に降臨するくだりが物 く、忘れがたい。 章であるともいえる。いわゆる〈ジャンル語られているが、例によって「玉門畜」とか大泉黒石『黒石怪奇物語集』 ( 桃源社・ 9 、〉の活力についての言及が不足気味なのが「鼻人形」といった奇抜な加工生体が登場、 50 円 ) は、大正の末期に大衆読物の世界を 物足りないものの、最近の新しい作家の「「祝詞解義」や「蛇蠻国一一千年略史」などの彗星のように掠め去 0 た混血の異色作家 ( コ を狭量なジャンル意識から解放し、自由な章とともに、ファンを堪能させてくれ メディアン大泉滉の父君 ) の怪奇短篇Ⅱを集 自己表現をめざす努力」に対する評価や、「行る。その一節をご紹介しておくと 「 : ・鼻めたリ・ ( イ・ ( ル版である。的見地からは 冪、 ) きつく先にあるのはの解体かもしれな人形は〈生きた張形〉で、舌人形と並ぶ婦人『金鰭の魚』と『不死身』がやや面白い程 。しかしそれは当然の成行きではないだろ用性具の一種であるが、後者の舌が本当のペ度。解説で由良君良は「 : : : 彼の命脈は江戸 、うか」という展望にも、おおむね同感であニスとは違った快感を与え得るのと異なり、 期戯作の伝統を、同時代の大杉栄や辻潤と雁 る。もちろんその背景には小説全体の解体がペ = スを現物どおりに模してあるのが特徴で行しながら、ロシア・中国の素養を生かして あるわけだが。 ある。それも道理、例の『イース事物起源』継承し、昭和における坂口安吾や石川淳たち この『海』には、コードウェイナー・ス、、 によれば、二百年ほど昔、まだ、オネガ】のに媒介する長大な流れの中でまるべきであ スの『アルフア・ラルフア大通り』と・銀河地図もなく、イース帝国が暗黒星雲を越り、大泉黒石はこの意味で、昭和無頼派への 。ハラードの『人間の顔の耐久性』の二篇が訳えて銀河中央域へ植民進出を試みた時代、辺貴重な中継所なのである」と評価している。 載されており、特集という形になってい境 ( 女 ) 侯兼開拓軍司令官として出発しよう南条範夫『わが恋せし淀君』 ( 光文社・ る。日本の文芸雑誌でが特集されたのはとしたジャーニンガム侯爵の夫君が健康上の 80 円 ) は、ごぞんじ時代の先駆的作品 驚くなかれ、これが初めてである。 のリバイバルである。 理由で女主人に随行できぬことを残念がり、 第武智鉄二『三島由紀夫の首』 ( 都市出版社従畜の一人を体は一一分の一に縮小させ、しか科学読物では、武田楠雄『維新と科学』 ( 岩 ・ 650 円 ) は、中短篇 6 作をおさめてあるし、そのペニスは元の大きさのまま自分のと波新書・ 150 円 ) が面白かった。 S F でてくたあ 日本セジション 担当 : 石川喬司
ハヤカワ SF シリーズ 既刊 291 点 ◆◆◆最新刊 今日泊亜蘭 光の塔 幻の名作として読者に名のみ知られる日本界の傑作、ついにここにその全貌を現わす ! 予価四二〇円 ジョン・ a ・マクドナルド関口幸男訳 夢みるものの惑星 さい果ての星に減びゆく人々が秘かに見続ける夢、それは人類の狂気の歴史でもあるのだ ! 定価三八〇円 荒巻義雄 白壁の文字はタ陽に映える 独自の理論に裏打ちされた香高いロマンで圧倒的人気を持つ新鋭の第一短篇集 ! 定価四八〇円 ・ C5 ・ウエルス 小倉多加志訳 神々の糧 科学の進歩と人類の幸福を巨人とな「た人間を通しの始祖が語る本邦初の完訳定価四三〇円 カート・ウオネガット・ジュニア浅倉久志訳 タイタンの妖女 宇宙のさいはてタイタンに住むという絶世の美女はしかし彼ル哿烈な運命へ導く罠だった ! クラーク・ダールトン松谷健二訳 流刑の惑星 凶悪犯の流刑惑星ハーデスについた彼を迎えた男は意外にも入国管理局長だと名のった ! 定価三〇〇円 近刊 ( 仮題 ) 緑の時代河野典生 虚構の大地 宇宙への序章 プライアン・・オールディス山田和子訳 アーサー・ 0 ・クラーク山高昭訳 定価四三〇円
「ヒの女 : : : ヒに女はおらぬ掟だぞ」 った。全く霊力の存在する気配がなかった。 おなご 居らぬ掟も道理。ヒの女に生まれればみなこの姿じゃ 神の道とは女子に厳しいもの : よく見れば、たしかに女たちであった。胸に乳房があり、股間に 「なぜだ」 陽器を欠いていた。 この姿を見れば判ろう。われらヒの女は人目に触れることはお 「それがヒの女の姿か」 ろか、陽にさらされることも許されてはおらぬ ひえ 浅間しかろうがまことのことじゃ。ヒの男が比叡で育てられる「まことか」 かげ よう、ヒの女は生まれるとすぐ影に送られて育つのじゃ 日の光を浴びた者は、たち所に全身火ぶくれを生じて死なねば かげ 「ここが影か」 ならぬ 近くじゃ。あないしよう 「衣をまとえばよいではないか」 オシラサマたちはそういうと、漂うように闇の中を進みはじめ その衣がまとえぬのじゃ。草も木の皮も、けものの皮も、かい た。佐助は神秘に酔ったようにそのあとにつづいた。 この糸も、われらの肌には火ぶくれを生じるのみじゃ それはアレルギー体質とでも言ったことだろうか。それにして も、一度生を享けたものの組織に拒絶反応を示す体とは、余りにも 業が深すぎるようだ。 意外にもそれは四阿山がまちかにそびえる北側の谷であった。そ「それならば食い物はどうする。いやでも肌に触れねばなるまい の切り立った岩の壁の根方に、明らかに人工のものと思われる小さ が」 な穴が口をあけていた。 そこは巨大な空洞になっていた。ほぼ円形に岩をえぐった地底の 裸女たちはその穴へ、腰をかがめて吸いこまれて行く。 広場と言ってもよい。そして壁いちめんに、無数の岩棚が走ってい かげ ここが影じゃ て、そのく・ほみのひとつひとつに、千近い数の、目も鼻もないつる 岩穴は中に入るとかなり大きくひろがって、悠々と立って歩けるつるの白い女体がうごめいていた。 程であったが、行けども行けどもはてしのない長さであった。途中 生あるものは何ひとっ摂らぬ。摂れば死ぬ。われらにとって命 には無数の分岐点があり、恐らく今度来ても正確には辿れまいと思は毒であるようじゃ えた。ヒの佐助にしてそうであるから、およそ常人のたずねうる場「では何を食って生きる。しかもこれほどの数をまかなうには : ・ : ・」 所ではない。 砂じゃ むすび 「影は産霊の地か」 佐助はそうたずねて見た。だがそうでないことは殆んど決定的だ ヒの宗家の男よ、ようく見て覚えるがよい 7 3
72 年度全国縦断 ャカワドブック , フェア ■開催期間 4 7 年 4 月 下旬より 5 月末日まで 4 土では、常にすぐれた世界の話題作・間題作を我が国に紹介しつづ けてきました。 そして、その意欲的な刊行と成功は日本の出版界に翻訳書プームを 生みだすとともに文学の各ジャンルにおいて、まったく新しい断面を 切り拓いております。 このたび、創業以来 27 年問の歩みを刻む書籍・雑誌、全点の展示即 売会を下記の通り開催いたします。 く参加決定全国 11 書店 > 画北海道地区 TEL 951 ー 1 1 7 1 ~ 2 札幌紀伊國屋書店札幌店 大阪地区 地下街オーロラ・タウン 梅田紀伊國屋書店梅田店 TEL 231 ー 2 1 3 2 梅田阪急三番街 ■東北地区 TEL 371 ー 5 8 2 1 仙台高山書店駅前店 阿部野旭屋書店アベノ店 仙台駅前 阿部野区阿部野筋 1 の 6 の 6 TEL 23 ー 7 8 4 4 631 ー 6 051 ( 代表 ) 願東京地区 ■中国地区 ( 5 月 7 日より参加 ) 新宿三省堂書店西口店 金正堂書店 広島 小田急スカイタウン 12 階 広島市本通 5 丁目 9 番 TEL 343 一 4 8 7 1 ~ 3 TEL 48 ー 3 7 1 5 池袋東京旭屋書店池袋店 第九州地区 ーぶる天神 福岡 東武ェア・キャッスル 10 階 福岡ショッパーズ・プラザ TEL 986 ー 0 3 1 1 ( 代表 ) 題東海・名古屋地区 センタービル 5 階 谷島屋書店 静岡 TEL 72 ー 5 4 1 1 静岡市呉服町 2 の 5 内線 6 0 1 ~ 3 熊本プックスまるぶん TEL 54 ー 1 3 0 1 名古屋日進堂書店・栄南店 熊本市上通り 5 丁目 1 番 地下鉄・栄名店街 TEL 52 ー 5 6 6 5 東京都千代田区神田多町 2 の 2 振替東京 4 7 7 9 9 早川書房 2 幻
『サタイハク』『潜航大作戦』『宇宙からの脱出』 ルド・ダール、詩・曲は「 Stop the 舅、 0 ュ d I wont to Get で現代の最先端の恐怖をあっかってファン 4 にもなじみの深いジョン・スタージ = ス監督が、 Off 」・というオフ・・フロード ウ = ーミ = ージカルで成功を再び、現代のもっとも恐れられているものを映 画化しようとしている。題名もずばり『 Earth おさめて映画界入りし「ドリ Queck 』 ( 地震 ) だ。内容は、アメリカの大都 トル先生不思議な旅」を書い ・プリッカス、ア市に大地震が発生、その後の二十四時間に起こ たレスリー ーの若手る混乱をあっかうものだが。ここ数年いつも話 題になりながら興業的には今一つパッとしない コンビが当っている。 スタージェス監督、昨年のロスアンジェルスの これで期せずして四本のフ 、、 = ージカルが大地震以来、日本はもとより世界的に今もっと 一一一・本、 ( 0 《」員そろう = と」な 0 たが、それも恐れられて」る地震をあ 0 かえば話題になる それが、ポ , プス系 ( 失われのは決 0 ているから、今度こそ大ヒ ' トになる ことを期待している。制作はシドニー・・ : ) 、ロック系 ( ビーター ーマン、脚本はペッカーマンの原案をマフィア パン ) 、プロードウェー系 ( 星 を描いた大作「ゴッド・ファーザー」で大評判 の : : : ) 、オフプロードウェ ー系 ( ウィリー ・ : ) と音楽の作家、マリオ・プーヅオが書くことになって すでに音楽が完成していて、脚本・作詩にアラ的にばらばらなのも面白い現象た。 ン・・ラーナー、作曲にフレデリック・ロ の「マイ・フェア・レディ」のコンビが担当し 四月上旬のアカデミー賞の発表は意外にも 『時計じかけのオレンジ』が全減 ( 作品、監 ている。また主人公の飛行士役に先日引退を宣 言したフランク・シナトラをかつぎだす計画と督、脚色、編集の四部門で候補に上っていた ) という結果たったが、この他のファンの興 いたってオ 1 ソドックスなミュージ 味をひきそうな所では、特殊撮影効果賞を授賞 カルになりそうだ。 したのが『 Bedknob and Boomstick 』 ( ペッ また、これはすでにアメリカ公開が始まって ノート ド飾りとほうきの柄 ) というメアリー いる映画で『「一三 e Wonka and Chocolate ン原作の童話のミュージカル映画化、同じく対 FactoryÅl という作品がある。これは「オズの 魔法使い」から「メリー・ポビンズ」にいたる立候補になっていたのは『恐竜時代』であっ ー・ミュージカルの系列に属た。また、いずれも授賞をのがしたが『アンド 子供向ファンタジ する作品で、チョコレートの滝やソーダ水の噴ロメダ : : : 』が編集、美術の二部門で候補に上 水池のあるお菓子工場が舞台になっている。脚っていた。 ・・ハン』を書いたロア 本は『チキ・チキ・・ハン
は、なんとなく死にたえている。反面、人の住みついている家は、 たとえ・ほろ屋でもなんとなく生きているものだ。人間には生気とい また・ほくは考えこんでしまう。やつばり館の中を調べてみよう。 うものがあって、そんな生き物の気配みたいなものが家にしみつく裏口の戸をこじあけて入りこんだ。すぐ厨房があって、ビカビカな のである。 レンジやオー・フンや蒸気釜などが、まだ新品同然に並べられてい た。誰もいないようだ。ばくは、声をかけてみる。返事はない。廊 だが、この館にはいまそれがないのである。気のせいかもしれな いが、どうみてもこの館は長い間空屋になって放置されているみた下へ通ずる戸をあけてみると、クロークのところへ出た。というこ いなのだ。とすると、昨日いた大勢の、マダムをはじめとする娘たとは、昨夜、悲鳴のあがった部屋は、確かにこの厨房であったの ちは一体何者なのだろうか。だんだん不気味になってきた。 だ。でもなぜ。何があったのだろうか。こんなところで。もう一度 ・ほくは、あまり手入れされていない庭の中に立ちつくしながら、調べてみたが、何の痕跡も残っていなかった。ただ、ひとつだけ気 あれこれ考えていた。花壇の中に雑草と共に咲いている赤い花は、 になる場所があった。冷蔵庫だ。大きな肉屋にあるような代物で、 罌粟だろう。高い塀がめぐらされているが、一面、緑色の葛におお鍵がかかっていた。押しても引いてもびくともしない。・ほくはあき われていた。その他、名前のわからない灌木が黄色と白の花を咲からめて、クロークへもどる。ぼくの書類鞄はすぐみつかった。電子 せていた。風通しが悪くて、むっとするほど暑かった。空だけが、 ロック付の高級鞄だったが、念のために中味を調べてみた。・ほくは つきぬけるように青く澄んでいた。 すぐに気がついた。契約書は、まぎれもなく昨日氏と調印をすま と、ぼくは、庭の隅で異様なものをみつけてしまった。一墓だ : せた本物だったが、記載事項が変えられていたのである。確かにぼ 。墓であったのだ。 。むろん、 くが契約したのは蛇皮が三百梱だったはずなのに、 ・ほくは近寄って、その銘を読んでいた。金属製の白銀色の板に、 蛇皮の文字を消してタイプを打ち直した様子もない。署名は間違い 鋧く角ばった文字で、こうきざみつけられていた。 なく・ほくと氏のものだった。 これは、どういうことなのだろうか : 西暦二一六五 ~ 二二三八 いやな気分にとらわれて、この化物屋敷みたいな館から逃けだし ドラキュラ侯爵、ここに眠る たい衝動にかられたが、二階への・ほってみた。順番に戸をあけてい ったが何もない。みんな引越したあとのようにがらんとしている。 心臓がどきんと高鳴った。胸のネクタイビンを外した。ダイヤモ 、、ス・トイの部屋にも入ってみた。昨夜はあった洋簟笥も・ヘッドも ンドのところを使ってその金属板をひっかいてみた。傷はつかなか ソファーもない。彼女のこまごました持物、小さい人形とか化粧品 った。こんな金属は、こちらの世界にあってはならないものだ。っとかその他はむろんあったという形跡すらないのだった。でも、見 まり、硬度川をこす、超硬合金なのである。証拠はこれだけで十分覚えのあるものもある。浴室の設備とか、天井のシャンデリアと 8
天兵衛はそう答え、この男としてはかって見せたことのないよう かし死ぬべきなのだ。いわば二人はこれからの世の穢れである。祓 な陰気な含み笑いをした。「見たそ、見たそ : : : 」 われねばならず、潔められねばならぬ命である。佐助はふと、あの 4 「何者でござる」 おそましい姿に生れついた罪の子たちを思い泛べた。彼女たちは、 あれ 忍者たちは不思議そうに訊ねた。 生こそ天地の穢れであり、消減すべきだと主張していた。その当否 「もう佐助ごとき小者に用はなくなった。あの二人を斬れば江戸へはとにかく、生き長らえるべきでない命が存在することはたしかな ように田 5 えた。 帰れる」 「やっ : : : ではあれが関白秀頼公」 いったい誰が : : : 佐助はそう思い、急に行動を起した。彼らが忍 盗み聞いていた佐助は愕然とした。やっと事情が呑みこめたので剣にたおれる前に、その事を知らねばならなかった。何者が火につ ・ : はめ絵つまれた大坂城からあの二人を救い出し、このような場所へ連れか ある。な・せ追われたか、なぜ逃げるよう仕向けられたか・ : くしたか。それがオシラサマにかかわることなのかどうか。是非と の大部分がびたりとあるべき所へ納ったのである。 あらぬ疑いをかけられたものである。しかし、彼らが佐助のあとも知らねばならなかった。 谷は意外に深く、山はけわしかった。佐助が向う側についた時、 を手繰って近づこうとしていた、真の目標を発見したからと言っ て、このまま逃げ出す気にはなれなかった。逃げれば追及はやむだ陽はすでに沈んでしまっていた。 ろう。しかしそれでは大きな謎が残ってしまう。オシラサマのいる 忍者たちはその闇に紛れ、手裏剣をとばした。攻撃は合理的であ 影の地と、秀頼のかくれ先きがどうして一致しているのだ。偶然に り、それだけに非情であった。糠袋を叩きつけるような音が重なり しては念が入りすぎている。 淀君が絶叫した。その音は、飛行する凶器が肉に突き立っ音であっ こ 0 「よいか。必ず仕とめよ」 天兵衛が言い、忍者たちは殺気だって谷の向うへ走った。 「下郎出会え」 あとに残って、佐助はタ陽を浴びている二人を眺めた。背の高い 数カ所に金属片を突きたてさせたまま、流石気丈に秀頼が凛とし 若者が秀頼であるとすれば、女は淀君であろう。生きのびて、このた声音で言った。 霧島の山中でどうしようというのか。世はすでに徳川でかたまって のっそりと黒旗天兵衛が姿をあらわした。 いる。天下のためには、あのふたつの命はあってはいけない命なの 「みしるし頂戴仕る」 だろう。一徳川家のみのためではなく、天下万民のこれからのくら「名乗れ。首は授けよう」 しの上で、いくさの火種そのものと言える秀頼と淀君は、死んで然すでに淀君はこと切れ、秀頼も深傷によろめいていた。 ただの母子にすぎない。倖せを追い求め、平「伊賀上野の城主藤堂高虎が家中、黒旗天兵衛」 るべき命なのだ。 和なくらしを願う権利は、あのふたつの命にも授けられている。し「なんと : : : 」