ある意味 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1972年7月号

連載■ LL コミックスの世界⑩ フリーク・ショウ ーー地球はゲテモノでいつばいだ いったとすると、簡単にいいかえれば「あいつは狂 1 フリークとよ、よこ だ」という意味になる。 昨年、「グラフィック・プリント・」という現代 諸君は、フリーク eak ということばを知っているだろ版画の展覧会がアメリカ文化センターでひらかれたとき、 うか。〈フリーク〉とは、もともと〈奇形〉とか、〈変種〉私は、その展示会の責任者であり、アメリカの美術館の館 という意味だが、実質的にはグロテスクな怪物とか化け物長である男に会った。彼は、銀座のデパートで買ったとい う、黒田征太郎デザインによるビンクのしゃれたネクタイ をさして使われることが多い。奇形の、出来そこないの、 ・ヘをしていたが、「ぼくは、チュー・フ・フリーク (tube ゲテモノのような怪物たちをいう。 ( そういえば、マー ルから「フリーク」という名の怪物コミックスの雑誌があ freak) だよ」と言った。 チュー・フというのは、ロンドンでは地下鉄をさすけれど るけれど、内容は、ひと昔前の単純な怪物マンガのリプリ も、いちばん現代的なっかいかたではテレビジョンを意味 ントで、ちっともおもしろくない ) ところが、最近ではこのことばが別の意味でつかわれるする。だから彼は、「・ほくはテレビが好きなんだ」といっ ようになった。たとえば、「あいつはフリークだ」とたことになる。彼はビデオテープを効果的につかった、新 by KOSEI カット☆水野良太郎 2

2. SFマガジン 1972年7月号

色を選んだ。そして、そのちつぼけな原子力蓄電池からぼかぼかとりまいていた、銀色に、ひそやかに、黒々と。それから、かれが言 った。おまえは今朝、あの大枝にいたな : : : それからそのあと、あ 発散してくる熱は、かれの寂寥感のいくぶんかを追いはらった。 しばらくして、複数の月ーー鯨座オミクロン星第十八惑星は、三の枝にもいた、幹にもたれて。 個の衛星を持っていた がのぼりはじめた。樹の葉や、枝や、花ある意味でね、彼女は言った。ある意味ではそうよ。 にあたって絶えず変化する月光のパターンは、心を静める効果を持いやみこ 6 樹に住んでいるのか っていた。その新たな気分で見る樹は、美しかった。ハハハ鳥はすある意味でね、彼女はまた言った。ある意味ではそのとおりよ。 でにねぐらに帰り、またこの付近には美しい声で鳴く昆虫もいなかそれから、な・せ地球人は樹を殺すの ? ったから、静けさはまさに絶対であった。 かれはちょっと考えてから言った。さまざまな理由からだな。も しもあんたいカイズなら、あんたは樹を殺すことにより、 あたりは急速に冷えこんできた。息が白く見えるほどに気温がさみんたがあんたの種族から受けついだわずかな遺産のびとつを、示 がると、かれはテントにひっこんで、 " キャンプファイア〃をそのすことができるがゆえに樹を殺す。白人が奪い去ることのできなか 三角形の入口に据えた。そのさくらんぼ色の孤独のなかで、かれは「たわずかな継承財産のひとっー高さにたいする軽蔑だ。 あぐらをかき、背を丸めて坐っていた。かれはひどく疲れていた。 それでいて、そうして樹を殺しているあいだじゅう、あんたのアメ 火の向こうに、銀の紋様のある光輝となってこの大技がのび、銀で リカ・インディアンとしての魂は、自己嫌悪にのたうっている。な 食刻された葉が、風のない夜のしじまに微動だにせず垂れさがってぜならば、あんたがそうしてよそのわかむたいいてしていること は、本質的に、白人があんたたちの土地にしたこととおなじだから 。それからもしあんたがスーレなら、あんたは猿の魂を持っ はじめ彼女の姿は、ただ断片的にしか見えなかった。銀色にのび た脚、ちらちら光るすんなりした腕。チ = ニックが身体をおおってて生まれたがゆえに樹を殺す。そして、そうすることがあんたを、 いる部分の暗黒。ぼんやりした銀色のしみのような顔。最後に、そ絵を描くことが画家を満たすような意味で、創作することが作家を れらの断片がひとつになり、彼女はそこに、そのほっそりした青白満たすような意味で、作曲することが音楽家を満たすような意味で い姿態をさらしていた。やがて、影のなかから歩みでた彼女は、火満たしてくれるからだ。 で、もしあなたがあなただったら ? をはさんでかれの向かい側に坐った。その顔は、ほかのときに見た かれは嘘をつけないのを感じた。けっして成長しないがために樹 のよりもはっきりしていたーー・妹惑的な、小妖精のようにこじんま ナ 6 とかれは言った。かかたが樹を殺すのは、か人師 りまとまった面ざし、青い鳥を思わせる目の輝き。 長いあいだ彼女はロをきかず、かれもまた無言だ 0 た。そのままたちから崇拝され、第鄲かかかれ、酒をおご「てもらうのが好き加 一一人は火をはさんで黙念と対座していた。夜のしじまがかれらをとだからだ。きれいな女の子が町であんたをふりかえり、うっとりあ

3. SFマガジン 1972年7月号

1 S F でてくたあ ウエルズの厖大な著作の主要な部分は、古ン・テーマのはしりでもある。初期からトの『第二創世紀・・ーー来たるべき生物学時代 への提言』 THE SECOND GENESIS ・ 69 0 くは明治後期から、この七〇年間にほとんど後期の思想小説への移行の中間段階にあるこ 翻訳が出たはずだが、今では、最も典型的なの作品は、その意味でもさまざまな示唆に富 ( 巻正平訳・七八〇円 ) と読売新聞社刊のジ エラルド・リーチの『・ハイオクラットーー試 数冊の初期のと、いわゆる純文学作品をんでいる。 除くと、意外に入手しにくくなっている。そジョン・ファウルズの『魔術師 —・Ⅱ』験官ベビーから人造人間まで』 THE BIO- の意味でも今度、早川書房からそうしたもの THE MAGUS ) 65 ( 小笠原豊樹訳・河出書 CRATS 40 ( 袖井林二郎・孝子訳・七八〇 円 ) である。副題に明かにされているように、 の一冊である『神々の糧』 THEFOODOF 房新社・各八五〇円 ) は、ではないが、 この二冊は、ともに現在非常に大きな問題と THE GODS ( 一 904 ) ( 小倉多加志訳・・ 読者ならば、決して失望することのない、 なっている生物工学の問題を、その技術面か ・ t-0 ・四三〇円 ) が出たことは、クラシ不思議な魅力を持った異色の小説である。 ら、モラル面まで、最も新しい話題および問 ック・ファン及びを系統的に読もうとすイギリスのアパ ー・ミドル・クラスの青年 題提起を含んだかたちで取りあげたものであ るものにとって有難い がロンドンを嫌ってギリシャの小島の英語教 る。生物学的技術の発達はいま、事の当否を 二人のイギリス人科学者が生物の発育促進師となって赴任してゆく。この島で彼は、教 問わず、人間を含む生物全般の、さまざまな 物質ヘラクレオフォビアの合成に成功しヒョ養の高い億万長者コンヒスの邸宅に招かれる 形でのコントロールを可能にしつつある。臓 コなどを用いて実験を進めているが、偶然そ が : : : そこでは、現実と非現実の混淆した世 器移植や人工臓器の問題をはじめとして、死 の一部がネズミや雀に食われてしまう。やが界が彼を待っていた。コンヒスは、巨万の富に の限界、人間の遺伝子操作から複製 ( クロー てその地方に、巨大化したスズメバチやアものいわせて、大勢の俳優を使い : : : たとえ ン人間 ) の製造、人間精神のコントロールな リ、ネズミ、雀などが現われ、人畜を襲撃しばドイツ軍将校の扮装をさせて、主人公の青どの現在と将来を技術的に展望し、それが、 てくる。これらの怪物はやがて戦争そこのけ年をいっか第二次大戦の最中であるかのよう果して正しいかーーというよりは、それが正 》の軍隊の大量投入によって全減させられ、事な錯覚に陥らせる。そしてくりひろげられるしい科学の在り方か、という問題にまで、読 なきを得たかに見えたが : : : 何年かたって人魔術、心霊術、黒ミサ、仮面劇ーー・ 。オクス者を導いていく。これらの問題は、もちろん 人は更に恐るべき事実に直面する。この異常フォード出身で、詩にしか興味を持たず、現読者といわず、現代人一般の積極的関 発育促進物質を与えられた子供たちが、身の実に何の積極的意志もなく、無関心とシニシ心事でなければな 丈一二メートルもの巨人となって出現したのズムしか持っていなかった主人公は、しからないが、それに 実 だ。普通人たちはこれらの巨人族を忌み嫌し、この現実と非現実の間のつくられた世界しても読みすす 、彼らを法律によって限られた地域内に押の中で、そうした無感動の世界からの脱出のむうちに、こうし 正 ョ しこめ人類社会から隔離しようとするが、巨チャンスをむ。この小説はまた、一種のた問題について、 人族の自由への願望はついに爆発し、普通人「モンテクリスト伯」式の復讐劇ともなってはっきりした考え ク一邑 と巨人族とは宿命的なー・ーそして最終的な対おり、豊富なドンデン返しやトリックが巧妙方が、自分の中に 決を迫られる : ・ に用いられていて、とにかく面白い。読も、社会的にも確 当 立していないこと 科学物質による動物や人間の巨大化、怪獣者も一読の必要はあろう。 に気づくだろう。 化というアイデアのはしりであると同時に、 ノン・フィクションが一一冊。 普通人と超能力者の対決というスーパーマ早川書房刊のアル・ハート・ローゼンフ第ル ゞぐ

4. SFマガジン 1972年7月号

かったが、そのアイデアが十分な魅力を持っているときには、まあ異な資質が、彼の制限因子となりはじめたのである。彼は界で まあの文章でも満足した。ゴールドにアツ。ヒールしたものは重要だ いや、おそらくアメリカでーー・という専門分野を文学史の 5 った。なぜなら、それはキャンベルの拘束へのよい・ハランスになつ一現象として理解した最初の編集者だった。 & 誌の最初の数 たからた。ギャラクシイ誌は精神医学的ストーリ ーや、社会諷刺を年間、雑誌・フームの頂点 ( 一九五二年には三十種を越える雜誌 好んだ。もしこれがアスタウンディング誌なら、だれもたとえば が刊行された ) で、彼の編集する雑誌の指導的地位が万人の認める Ba 等一 sThre ( 『人間以上』の原型 ) や、『破壊された男』や『宇ところであったときでさえ、。 ( ウチャーは界、あるいは彼の雑 宙商人』を書く気はおこさなかったろう。 誌の生命力を決して買いかぶってはいなかった。〃 出版に関 ギャラクシイ誌は、たちまちにして rsn ファンの寵児となった。する彼の見解は、ジョン・キャンベルほか数人の有名人とのシンポ ・フレットナー編の『現代の 数年間、この雑誌はスタージョン、ライ・ハー ベスター、そして新ジウムという形式で、レジナルド・ 人ではテン、パング・ホーン、コーン・フルースとポールを、ほとんど』〈注 7 〉におさめられている。 ハウチャーはこのときすでに、雑誌から単行本に人気が移り、こ 独占的に書かせていた。しかし、最初のうちすばらしい自由に思え たものは、キャン・ヘルの雑誌に書くのとおなじほど拘束の多いことの主流がしだいに文学の主流に再合流するだろうことを、予測して いた。彼は、小説という大きな本体に対するの関係を、もう一 がわかってきた。新しいアイデアとシリアスな意図を持っ作家は、 つのカテゴリーであるミステリのそれとまったく相似状態にあると しだいに & 誌へと移動しはじめた。 おそらく、 ( ウチャーの最大の特徴は、″文学″の多様な意味ー考えていた。ミステリの発展と特殊読者層は、多くの点でのそ ーその歴史と伝統、技術の練磨、作家の活動母体ーーの尊重だろれとよく似ている。ただ、彼の盲点は、この二つの分野が持つ、本 。作家にとって、・ ( ウチャーの文学的要求は、彼の感受性にとん質的に対立する要素を見逃したことにあった。 ーマニスト、そして文学の真の愛好者である・ハウチャーは、 だ批評とおなじほど強い力だった。そして、作家たちは、旧人も 同時にかなりの古典主義者たった。彼は小説の形態と形式そのもの 新人も、畑のものも部外者も、こそってそれに応じた。 書評家としての・ハウチャーの役割も、編集者としての重要性に劣を愛した。キャン・ヘルの強調したのがサイエンス ( テクノロジー ) ・フィクションだとすれば、・ハウチャーの強調したのはサイエンス らなかった。多くのファンにとってはデーモン・ナイトが、またウ ィリアム・アセリング〈注 6 〉が、最高の批評家だったかもしれな ・フィクションだった。 & 誌はその最初から、活力のみなぎ しかし、乍家にとってよ、く / ウチャーの賞讃がなによりもものった作品よりも、優雅で端正な作品をえらぶ傾向があった。 をいった。また、何万人もの ()o の新しい読者にとっても、いちば この方向は、一九五〇年にはなによりも必要なものだった。それ ん信頼がおけるのは・ハウチャーの道しるべだった。 が・ハウチャーを、適当な時期の適当な人物にしたものである。そし さきにわたしは、今日のが科学に追いっきつつあるといって、十五年後に、彼をキャンベルとおなじく、彼なりの意味で拘東 ハウチャーは、が文学に追いっきはしめた五的にしたものでもある。・ハウチャー、あるいは当時の・ハウチャーの 〇年代の支配カたった。 姿は、いまでもアメリカの支配的影響力であるかもしれない。 ハウチャーのこの特もし、・ハウチャーがあのまま & 誌にとどまっていたらどうな そして、キャン・ヘルの場合とおなじように、

5. SFマガジン 1972年7月号

値もない高みから引きずりおろし、地べたにたたきつけ踏みにじっ いものだった。それが、なぜ実質以上にいかがわしいものとみなさ てやりたかった。取り澄ました女を見れば、面と向かって、「あられたのかといえば、それはが、現実ばなれした、荒唐無稽な空 ゆる男はあらゆる女とセックスができるのだ」といってやりたくな想をほしいままにする小説だと考えられたからにほかならない。そ った。 ( そういえば、その頃はじめて読んだヴァン・デ・ヴ = ルデして、現実ばなれした荒唐無稽さこそ、ポルノグラフィーを求めそ がぼくに、人間を、人間という漠然たる存在から、男と女という具の需要を支える大衆心理そのものだったのである。 体的な動物としてみる術をどれほど明確に教えてくれたことか ) そ だが現実にはその中味は、正面から性慾を刺戟する目的で書かれ んなとき たとえば電車の中とか、往来でーーぼくは、自分が、 るポルノグラフィ 1 とは、較べものにならない貧弱なものだった。 、やむしろ、その意味でなら、一般の文学と較べても、はるかに底 やにわにそうした女に襲いかかるのではないかという恐怖に悩まさル れたものだった。女は・ほくにとってたたの人間でも、セックスの対の浅い、常識的通念的なセックス肯定の立場しか取っていなかった 象でもなかった。それは、世のすべてのきれいごとーー偽物のシンといってもい、。 ポルだったのだ。 そしてそれは、その後がスペース・オペラ時代の低俗さ、幼 稚さをようやく脱して、現代文学の一ジャンルとして自己を主張し はじめてからも、かなり長いあいだ変らなかった。 4 もちろん、道具立てはさまざまに変り、工夫はされた。実現され ところが、他の問題では大胆不敵、寄想天外の考え方をするた未来のフリー・セックス社会やそこでの乱行。ハーティなどはいう 作家たちが、ことセックスに関する限り、たいしてちがった反応はまでもなく、テレビのセックス・ショウやセックス・。フレイ、精巧 示さない。彼らは C ほく自身を含めて ) セックスを、 いいものとしなセックス・ロポット、幻覚剤や幻想マシンを用いての偽似セック てしか ス、エゴを特定の肉体から解放し他人の肉体へーーーあるいは獣へ移 たんに肯定的にしか捕えない場合が多いのだ。 じっさい、がポルノまがいのセックス小説と見られた時期も植する獣姦まがいの交換セックスなどは最近のにはひっきりな ある。がパル。フ雑誌の爆発的普及の波に乗って、新らしい大衆しに登場する。 だが、それらの作品の殆んどは、けつきよくのところ、そうした 読物として迎えられた頃ーーいわゆるスペース・オペラ時代がそれ ・ラヴ である。この頃のアメリカの雑誌は、ほとんど例外なく郵政法乱行が乱行でしかないことを書いているにすぎない。フリー が若年のあやまち、ほんの一時の気まぐれの乱痴気騒ぎに過ぎず、 すれすれの裸女が象皮病にかかった末端肥大症の宇宙怪獣に追いか けまわされたり、あるいは豊かな乳房と黄金色の太腿をむきだしに真の人間関係の目的地ではないという結論は、最初から用意されて した美女がマッド・ドクタ 1 の実験台にしばりつけられていたり、 いるのだ。そして、それらは、例外なく、安定した一対一の関係ー といった表紙を用いていたし、内容のほうも、めったやたらと不必 ーそのまわりに子供をはべらし親を配する家族関係へともどってい 要なストリップシーンの多い千篇一律なストーリ ーを持つ小説が多き、そのことに安らぎと幸福とを感ずるという、何とも月並みきわ っこ 0 ・カ、ア まったりのハッビーエンドが最後に来る。 だが、 orgy of sex といわれていたこの頃の好色ですら、せ実際、その意味ではは、むしろおそろしく保守的だ。寄矯な いぜいが艷笑小説にすぎずポルノグラフィ 1 といわれるにはほど遠のは道具立てたけで、たとえば人間と昆虫系から進化した生物との

6. SFマガジン 1972年7月号

けェッ 工ソ “ 0 ケ もちろん 野蛮だと わかってる だカナ おれたちは島に 対して劣等感を 持ってるんだ なにしろこっちは 家畜だからな こいつをとつばすさ なきやア主人の立場で ある島に弓をひく 度胸もでねえ : だからふんぎりをつけ る意味でも鳥を食 う : ・ : ・わかったか ギノン一族の 排泄場ですせ マムシ山は もうそこです みえた ! あれが ギ / ンの とりでだ

7. SFマガジン 1972年7月号

か、赤い花模様の壁紙をはった壁面とか。つまり、確かに、ここで 気をとり直して、シャワーを浴びたのは、熱帯市の暑さのせい あったのだ。それは間違いない。しかし、コックをひねっても水はで、頭がおかしくなっているんじゃないかと、考えたからだった。 出なかったし、スイッチをひねっても電気はつかなかった。 ポーイを呼んでビールを持ってこさせ、ぼくは一杯やりながら、裸 そのとき階下で、「ジーン」と電話の鳴る音がした。 のまま考えはじめた。ナイトテー・フルの上に、二枚の書類が並んで 出ようか出まいか、ためらっていたが、出ることにした。急いで いた。商社からの依頼書と氏との契約書だ。品物は、まさしく一 しかし、・ほ 階段をかけおりていく。 丁度、鳴りおわろうとする寸前で、受話器致していた。蛇皮ではないのである。あくまでも : をとった。声の主は早ロで、現地語で喋った。大体の内容はこう くには、その意味がわからない。その文字を眺めていると、何かい うにいわれぬいやな感覚がおこってくるのだった。そのくせばく 八時に客をつれていく。夕食の支度をしておいておくれ。 は、その言葉の持っ印象にみせられていた。理性では拒絶しなが 返事も待たずに相手は電話をきった。男の声だ。きき覚えのあるら、理性以外のものがそれに捉えられているのである。なんだか、 その意味不明の言葉が、・ほくを呪縛しているみたいだった。一種の それから、・ほくはホテルに帰った。フロント係に滞在をのばした催眠作用があるのだろうか。とりあえず、その意味を知ることが先 ことを告げた。係はうなずいて、手紙がとどいているといった。な決だ、と思いなおして、旅行鞄の底をひっかきまわして、辞書を引 んだろう、白い封筒だ。折りたたまれた用箋を開いた。阪神メガロ つばりだした。注意して調べてみたが、その項目はなかった。何か ポリス市の商社からだ。文面を読むうちに、体中が真空になってい特別な商品名なのだろうカ ~ 十ーイに尋ねることを思いっ くような、いやな感覚におそわれていた。その手紙は、なんと・ほく 宛の新しい註文書だったのである。昨日、契約したばかりの蛇皮すぐ身なりをととのえて、ロビーへ降りていった。エレベーター は、すでにとどいているらしかった。 、 - 十ーイはの のわきにつっ立っていたポーイに書類をみせてきした。 : 部屋にとじこもって、。ほくは長い間考えこんでいた。新しい註文そきこんでいたが、字が読めないのか、ちょっと待ってくれという まくはすでに、そのように笑顔をみせて、書類をフロント係へ持っていった。すぐもど 者の品物は、蛇皮ではなかったのである。が、を 新しい皮の契約調印書を、すでに持っているのであった。″婚約者ってくると、ぼくを、ロビーの中央にあるショーケースの前へ引っ の館″のクロークから、いましがた取りもどしてきたばかりの書類ばっていった。 鞄の中に、そいつがちゃんと入っているのだ。この書類は改竄され ポーイが指したのは ( ンドッグだった。早ロの現地語で何かい たものではなかった。正真正銘の契約書であったのだ。こんな馬鹿う。なまりが強くて理解できなかった。ポーイは、次にベルトを指 なことがあってたまるか、と・ほくは、部屋の中をぐるぐるとあるきした。また何かいう。ポーイは、皮財布や皮コートを指で次々と指 9 していった。 まわりながら、つぶやきつづけていた。 声 : ・ ぐ - 、一 0

8. SFマガジン 1972年7月号

ただ、それが新しい、形成途上のものだけに、まだきわめて量の限 ス派的な文学の関係づけの枠 ( これ自身はルネッサンスのアリス られた作品群についてでも、いちおうまとまった検討をするとなる トテレス派的平衡からの後退なのだが ) の声高な強調、といっ と、一九六〇年以降のそれらを除いた界全般を論じるのと、お た一見ばらばらな現象が含まれていた。もっとも″シリアス″な なじほどのスペースが必要になる。したがって、いまあげた作品の 小説においては、すべての強調の焦点を″思考″よりも″情緒″ どれについても、解説、解明、ないしは弁明といったことをしない ″感情″に置く傾向がますます強まってきたーー、まるでこの両者 が相反するもの、相容れぬものであるかのように。 でおく。″サイエンス・フィクションの先駆者をあげた第一のリ ストとおなじように、わたしはただ一つの位置を指さしているだけ そしてさらに である。さきの場合は、過去の数多い討論と定義さがしによってす でに測量のすんでいる地域だった。こんどのそれは、おそらくほか のどこよりも、わたし自身の直感の中に存在しているだろう地域な サイエンス・フィクションにとって、作家の真の研究対象は人 のである。 間である。人間、そして人間がなし、考え、夢見るすべてのこ ブレットナーは、彼の予言したその役割の中で、サイエンス・フ と、そして人間が知るであろうすべてのことーー理論と事実、宇 イクションの三つの″姿勢を特に重要なものとして挙げている。 宙の探求、自己探求、音楽と数学と機械。これらのすべては人間 ①それは自己拘東的でなく、またその読者を拘束するものでもな的価値と有効性をもっている。なぜなら、それは人間に関するも ティコトミー それは統のだからである。 。②それは類型化した虚偽の一一分法の文学ではない。 ) 合的である。 ( これらの姿勢の意味は、つぎに引用する一節に明ら かである。 ) このパラグラフの最初を、わたしはすこし言いかえてみたい 「あらゆる芸術家の真の研究対象は人間である。人間、そして : : 」というように。これをプレットナーメリルの不確定性理論と 文学においても他の芸術と同様に、知識の新しい複雑性や、旧 来の総合体の崩壊によって提起される疑問に対して、これまでにでも呼んでほしい。人間の認識する宇宙との関連なしに、人間を説 いくつかの反応が見られた。とくに今世紀のこれらの反応の大半明し描写することはできない。人間の宇宙へのオリエンテーション に共通する性質は、まさしく″知性の知的な放棄とも呼べる特との関連なしに、宇宙を説明し描写することはできない。 異な過程である。実際には、この″理性朝への反逆は、科学的方この評論の最初で、「どの時代の芸術も、その属する時代に蓄積 法ーー旧体系における″理性の非情な道具ーーーへの反抗であされた人間経験に根ざすことによって、はじめて存在価値を持ち、 る。理解が失敗に帰したことによって、また、理解しえぬものへまたそれが発生した文化の神経中枢のどこかに触れることができ る」と述べたのはこの意味である。今日でも、ギリシア演劇やエリ の長れによって、促進された反抗である。その反抗の程度にはい ろいろの差があった。その反抗は、多かれ少なかれ、意識的なもザベス朝の詩を読んで楽しむことはできる。しかし、現代作家がギ の、故意のものであった。それにはダダ的な完全否定、実存主義リシア演劇やエリザベス朝の詩を創造することはできないーー・模倣 的な当世風の絶望の劇化、さらには限定的、ネオ・アリストテレはできても。わたしのいう意味は、言語や形式の変りやすさだけで 5

9. SFマガジン 1972年7月号

しまる。振りむいたミス・トイの瞳だけが青白くもえている。ロ唇ばしばあったとしても : とロ唇が引きあう。・ほくは、ミス・トイの腰を抱く、空いた手が背ほどなく、・ほくは氏に逢ってあの庭の墓のことをきいてみた。 中のジツ。 ( ーを外していた。チャイナドレスがずりおちる。つま先氏はいった。 のとがった銀色の靴が、それを蹴ってわきへよせる。ちいさな薄い 「むろん、あれは私の墓です」 ハンティ。大きな乳房だ。マシュマロみたいだそ。・ほくのロ唇は、 「あの墓にきざまれた数字はどういう意味なのですか」 首筋をはう。歯が耳をかんだ。彼女は爪をたてた。「あ、ああ : ・ 「私が、二一六五年より一三三八年まで、″現世″で存命していた ・ : 」瞳 / 青白く燃える瞳 / 魔術的な光 / ばくは思考を停止した。闇ということですよ」 / 動物的な営み / 汗 / うめき / 痙攣 / 硬直 / 弛緩 / 緊張 : : : 」 「すると″現在″は : : : 」 行為のさなかで、ぼくはきいていた。廊下を走る物音、悲鳴。何「″あの世″ということになりますかな」といって氏は笑った。 か空をひぎさくような「ビシリ」という物音を。哄笑を。狂笑を。 「でも、現にいまも生きているではありませんか」・ほくはさり気な 何かを引きわっているような、にぶい機械の音を。 : : : 何か柔らかく尋ねた。 いものが、どさっと床におちる音を。 「それはちがいます。私は、いま、仮現的に生きているにすぎな ″こちらは私の世界ではないのです」 5 「すると : : : 」 「左様。私は未来人です」 「ああ、やつばり」と・ほくはいった。 こうして、ぼくは彼ら吸血鬼一味のメノ・、 、 / ーに加わっていたの だ。吸血鬼たちの白昼時における職業は様々で、またその生活振り「あなたも未来人でしよう」と氏はいって、ちょっと皮肉めいた は日常性の中に埋没しており、外部の者からは全く見分けがっかなまなざしをおくってよこした。やはり彼もぼくの正体を知っていた っこ 0 のだ。 「お気づきでしたか」・ほくは多少きまりの悪い思いでいった。「今 仲間の頭目にあたる氏が、かの有名なドラキュラ侯爵であった ことは、もはや明白な事実だった。ドラキュラの不死性は衆知のごとなっては、隠してもはじまりません」 とくである。ョ】ロツ・ ( のドラキュラ伝説は、後代の捏造であるら「我々は血の盟友となりましたからな。お話し願えませんか。なぜ こちらへ参られたか」 しい。ドラキュラは十字架の魔力と朝日の光を受けて殺されていた わけではなかったのだ。少なくとも、この仏教圏に属する熱帯市は「むろん、あなたを調査するためです」 「とすると、やはり時間局員だったわけですな」 ドラキュラにとっては住みやすい土地であるようにみうけられた。 中華料理に多用される大蒜の匂いで不愉快なにおいをすることがし「そうです」と・ほくはうなずいた。「我々のリストにあなたの存在 5 9-

10. SFマガジン 1972年7月号

のたずねた諏訪神社は、今も国分市に残っている。そこから東南の みな忍者であった。 一帯はシラス台地で、諏訪原、諏訪方など、諏訪の地名の多い地方「よいか、今度こそ逃がすでないぞ」 である。 熟達した隠語であった。隠語とは唇を動かさずに喋る伊賀独特の そのあたりの宮や寺をたずね歩くうち、佐助はひとつの手がかり忍びの術である。 を損んだ。はるか北西の山中に、烏帽子岳という山があることを知その隠語を発したのが天兵衛であったことを知った刹那、佐助は ったからである。信濃の烏帽子岳との一致が、更にその近くの鹿沢敵の強さを思った。 という盲人の聖地にまで重なるかどうか : : : 佐助は一気に北西へは越前以来、彼は敵の完全な手の中にいたのだ。思うように操ら しつこ。 れ、隠れたつもりが逐一見すかされていたのだ。相変らずのうのう だが烏帽子岳は偶然の一致であったようだ。烏帽子に見たてられとした天兵衛の貌に、佐助は言い知れぬ怖れと憎しみを味わった。 る地形は珍らしくなく、烏帽子岳は現に阿蘇にもある。 十五 ところが、山地の人々と接触する内、佐助は偶然の一致ではすま し得ない情報を手に入れた。霧島山の近くに、白鳥山があったので ある。しかもその一帯は、高千穂の峰を持っ神話の国である。佐助逆に追手があとをつけられている。 こおどり 黒旗天兵衛とその配下の忍者たちは、白鳥山のあちこちを探しま は雀躍して東の霧島山へ向った。 果して、白鳥山はいで湯を持っていた。今日白鳥温泉として知らわり、佐助はつかず離れず彼らのあとについて行く。 やしろ れるものである。そして佐助はそのそばに、名もない小さな社があ天兵衛たちは佐助がこのあたりにいることを知り尽しているらし るのを発見した。たとえ名がなくても、白鳥山に祀る社である以く、きわめて細心にふるまっていた。忍びの態勢をかたときも解こ 上、それが信濃の白鳥神社と同じ意味を持っことは間違いないと思うとはしないのだ。佐助がヒでなかったら、彼らの尾行はとうてい っこ 0 不可能であったに違いない。 彼は人跡まれな山中の湯に浸って長旅の疲れをいやし、ひたすら と、その日の夕暮れ、天兵衛たちは急に緊張を強めて地に伏せ た。佐助はその気配で、彼らが何を発見したのか知ろうとした。 オシラサマの出現を待った。 が、のつべらばうの畸形女たちに会う前に、彼は意外な人物とそ 谷の向うの岩壁にタ陽がさしていた。そしてその岩壁の上に、ふ こで顔を会わせてしまった。 たつの人影があった。ひとつは若い男、ひとつは女の姿であった。 「猿飛佐助でござろうな」 黒旗天兵衛である。 からくにだけ 忍者の一人が天兵衛にそう言った。 天兵衛は南の韓国岳の方から、七、八人の武士を引きつれてやっ 「いや、佐助ではない」 て来た。佐助は咄嗟に隠形して彼らを観察した。 かざわ 5 4