アリンがまたもや現われた。しかし、今夜のアリンは、これまではいても、幸福な気分だった。彼は朝にむかって心を羽ばたかせ 4 9 ガラマスクの前に出現したそれよりも、ずっと痩せほそって、もやた。うきうきと、オガンタのチャヴォを蹴とばし、たたき起こし もやとしたアリンだった。 た。オガンタは朝型ではないのだ。 ふたりは苦い登山食をたべ、長剣と鉤爪と短剣と鎧をつけ、三重 「コンドル鷲のシャソスは、たいして手ごわくない」とアリンはい った。「やつはもちろん、きみがザイル伝いに絶壁をよじ登ってい 山の最後にして最高峰である・ハイア山を登りはじめた。山肌は険し るときにおそってくるだろう。それ以外には、戦いようがないからく切り立っていた。ギリ山という鞘から上に突き出した剣、それが だ。もしきみがザイルへ体をしばりつけることができれば、そして まや、狩りはちがった種類のものになってお ・ハイア山なのだ。い 恐怖にうろたえなければ、必すチャンスはある。やつの首をヒョコ り、登山もちがった要素をもちはじめた。 のように絞めることだ。やつはヒョコなのだから。 そこにはなめらかなななめの岩の壁があり、なめらかなななめの だが、やつのほうは、きみを八つ裂きにして、腎臓と脾臓を食ら草と玉苔があった。その草と玉苔をたべる野ネズミや袋蛇が、岩の おうとするだろう。そうはさせるな ! やつはきみの目玉をくりぬ上を這いまわっていた。高い空からは巨大な鳥が舞い降りてきて、 きにくるだろう。そうはさせるな ! とにかく、両目ともはくりぬ野ネズミや袋蛇をたべるのだった。これらの鳥のうち最大のもの が、コンドル鷲のシャソスなのだ。 かれぬようにしろ。でないと、きみのほうが不利になるそ」 「シャソスの場合も、前の二つの獲物とおなじか ? たくさんのシ 「アリン、わたしはきみの行ったところまでは行ってみせる」ガラ マスクはいった。「わたしはきみにぜったいひけをとらぬ自信があャソスがいて、一羽だけ特別なやつがいるのか ? ーガラマスクはチ ャヴォにたずねた。 る。話してくれ、きみが死ぬまで見出せなかった最後の謎とは、し ったいなんなのだ ? 最後の獲物、べイター・ジェノには、どんな「うんだ。おそってくるのはシャソスのぬしで、ほかのは手を出さ 、ンヤソスの 違いがあったのだ ? きみはなにを見つけかかっていたのだ、アリ ねえだ。こわいのは、三ノ月に巣を作ってる、でつか、、 ぬしだけだだ」 「月だと ? このうすのろー・では、ほかのシャソスはどこに巣を しかし、幽霊たちの耳の遠いことは、有名な事実だった。 「橋を渡りおえたら、それを弱めておきたまえ。それから、目をい作るのだ、チャヴォ ? 」 つも頭のうしろにつけておくことだ」と死人のアリンはいった。そ「二ノ月に作るだよ。そんなに気高くない大きな鳥は一ノ月に巣を 作り、小さい鳥はこの・ハラヴァースに巣を作るだ。地球にはシャソ してその姿が薄くなり、消えていった。 スみてえにでかい鳥はいねえと、おら教わっただよ」 灰色の光がさしそめると、ガラマスクはふたたびいそいそと跳ね「いまあそこを舞っている三羽のような大きい鳥は、地球にはいな いな、チャヴォ。あれがシャソスか ? 」 起きた。顔ものども、きのうほどの痛みはない。耳と鼻がちぎれて
へ運べ、というものだった。かくして、いっパラヴァータが細菌の答だやたなにがエ = リ 1 のローアたちの身に起こっ = たの、か ? サイズで視野に捉えられたかも、また、いっそれがエンドウの一億まいるわずかな生き残りを、その砦の中で元気づけるすべはないも 倍の大きさにふくれあがったかも、ガラマスクは知らずにすごしのか ? 凍りついた彼らの文明を融かすくふうはないものか ? 愚 た。その惑星が地球の倍の大きさになるのも、気づかなかった。着鈍なオガンタがロ 1 アの残党のどんな人知れぬ弱味をつかんでいる 陸も見のがした。 のか、それを見いだすてだてはないものか ? どうして優秀種族 パラヴァータ離着場で彼は宇宙船からおろされ、ロッジまで百キが、劣等種族の前に屈服 ( しかも自発的だったといわれている ) し ロの道のりを運ばれた。この富豪にふさわしい設備がそこに用意さたのだろうか ? れた。予定どおりある期間を眠りつづけたのち、彼は夜明け前に目第三のレ・ヘルで、・ カラマスクの追い求めているのは、アリンを殺 ざめた。彼は山山に目ざめた。 害したオガンタ、もしくはロ 1 ア、もしくは動物、もしくは地球人 パラヴァータ、またの名パラヴァ 1 スのびりびりした大気の中へだった。アリンは彼の親友だったが、その事件が起こるまで、ガラ と彼はでかけ、そしてここが山麓の小さな町であることを知った。 マスクはふたりの仲がどれほど親密だったかに気づかなかった。報 彼は紙入れの中に、逮捕兼死刑執行令状をもっていた。そして彼は告によると、アリンは狩りの途中で、岩猿またの名蛙男のペイター この世界への、耳鳴りがするほどの好奇心をもっていた。この世界 ・ジェノに殺された、となっている。だが、そのアリンが最近ガラ の活滾な文明はその中途でふいに凍りつき、その住民であるロ 1 アマスクの夢枕に立ち、事実はそうでないことを彼に告げたのだ。ア 、尊者たち ) はまったく、あるいはほとんど、姿を消しリンによると、犯人は狩りの連れであったオクラスという名のオガ て、愚鈍なオガンタにその席をゆずってしまった。しかも、これが ンタだという。だが、いまオクラスは、もうオガンタの姿ではない まだ記憶に新しい最近のことなのである。こんどの狩りの旅に、彼かもしれない。 は奥深い目的をもっていた。表むきは、この三段の山を登り、猫ラ 「ロに出していったことはないが、きみとわたしとは親友だった」 イオンのサイネク、熊のリクシ 1 ノ、コンドル鷲のシャソス、そしアリンはさらにつづけた。「ガラマスク、どうかわたしの仇をうつ て岩猿またの名 ( 翻訳しだいでは ) 蛙男のペイタ 1 ・ジ = ノを仕止てくれ。そして、パラヴァータの謎を解きあかしてくれ。このわた めること。これは銀河系でも最高に危険な狩りといわれている。三しも、あと一息でその謎が解けるところだった」「なにをきみは見 重山の上で、おそらく彼はいのちを失うことになるだろう。地球人っけたのだ、アリン ? 」ガラマスクはたずねた。だが、夢の中の亡 の ( ンタ 1 が、この四つの生き物をことごとく仕止めて、生き残っ霊はどうやら耳が遠いようだった。自分の言いたいことだけしゃべ たためしはないからだ。だが、オガンタの狩人の中には、それをやり、相手に耳をかそうとしない。 ってのけたものがいるという。 「謎を解きあかしてくれ、ガラマスク」アリンはくりかえした。 第二のレベルで、・ カラマスクの追い求めているのは、ある謎の解「わたしの仇をうってくれ。あと一息だった。やつはわたしのうな 7
と。そして、ガラマスクの眠りのいちばん深い部分の中に、ギリ山ことをするはずがない」ガラマスクは笑った。「しかし、実におも の上、わずかに距離をとって、アリンの姿が仁王立ちに現われた。 しろいな」彼はね・ほけたチャヴォをとうとうたたき起こした。ふた 「あの田吾作のチャヴォには気をつけろ」仁王立ちのアリンはガラ りは苦い登山食をたべた。 マスクに告げた。「彼はオクラスほど利ロではないが、きみもわた長剣と鉤爪と短剣と鎧をつけると、ふたりはギリ山を登りはじめ しほど利ロではないからな」「わたしは利口さではきみにゆめゅめ た。日の出は、頭上の岩棚で迎えた。ふたりは休憩した。それか 劣らんそ、アリン」ガラマスクは亡霊にそう答えた。「さあ、こんら、また登りはじめた。 どこそ話してくれ。きみが死の直前に発見しかけたものというの強靱な、旅慣れた鼻をもっ男にとっては、まるきり不快というわ は、なんだったのだ ? なにか手がかりを与えてくれーだが、アリ けでもない、それほど嫌悪を催すものでもない。だが、ぶんぶん、 ンはガラマスクの言葉を聞かなかった。彼は耳をかすためではなむんむん、つんつんと漂い、溢れ、挑みかかってくる墓場のような く、しゃべるためにやってきたのだ。「あと一息で謎が解けるとこ腐臭、息のつまるような鋭い異臭が、ギリ山を登るにつれてしだい ろだったのだ」とアリンはふたたび呼びかけた。「オクラスに復讐に強まってきた。ある生き物が、その存在を知らせているのだ。そ じゃこう してくれ、ガラマスク。い まの彼がなんであってもだ。わたしもきれはリクシーノ、洞穴熊またの名麝香熊、この中ノ山の王者だっ みにそれだけのことはする」「わたしはもう眠りにもどるよ、アリ た。リクシーノはその本拠において、旗をかかげているのだ。 ン」ガラマスクは彼にそう告げた。「今夜はもうきみからこれ以上「これがなにかは聞かなくてもわかるそ。やつが名乗りを上げてき 死人の言葉を聞きたくない。なにか新しい情報でもないかぎり」そこよ。、 ナオカりにわたしがなにも知らなかったとしても、この符号つき して、ガラマスクは眠りにもどった。 の匂いを嗅げば、やつの呼び名をビタリとあてただろう。やつを見 つけるのは造作ないはすだし、せつかく狩りにきた以上、これだけ 灰色の光がさしそめたとたん、いそいそと彼はとび起きた。「こ んな麓にいるところを太陽に見出されてはいかん」ガラマスクは胸の獲物をよけて通ることはできん。一番いいのはどんな方法だ ? の中でそう自分に言いきかせた。「あの岩棚で日の出を迎えるべきやつが待ちかまえているところへいきなり乗りこんで、攻撃をかけ だ。岩棚はつねに頭上にある。それがなければ、登山は登山でなくるのか ? 」 「ガラマスクのだんな、リクシーノと戦うのに一番いい方法なんて なるのだ。ローアのトレオライは、オガンタが朝型ではないと教え てくれた。ためしてみよう」 ものはねえだ」チャヴォは震えながらいった。「おらは前からそう だが、あいつがこわくてならねえだよ。あいつはサイネクよりもシ ガラマスクはチャヴォをあざけり、どなりつけ、ついには蹴とば して目をさまさせた。うすのろがまたもや眠りにおちるのを、おもャソスよりも、いいや・ヘイター・ジェノよりも、荒っ・ほくておっか しろそうに眺めてから、もう一度蹴とばして目をさまさせた。 「こないだ。そりや殺すには殺せるだ。あいつは何度も殺されたし、お れはわたしの闇の仲間のしわざにちがいない。わたし自身がこんならも殺しを手伝ったことがあるだ。だけど、いつもあいつが殺せた 7 8
じにかみついて殺した。わたしが死んでいくまにも、脳みそをガッ 「わたしは、あなたとその種族・せんたいに大きな関心を寄せている 7 ガッ食らっていた」「だが、あと一息でなにを見つけるところだっ たんだ、アリン ? 」ガラマスクはもう一度きいた。「それを教えてものです」ガラマスクはそう話しかけた。「あなたそのものが、謎 くれれば、こっちも探しやすい」「あと一息のところでわたしは殺の一部です。あなたには、わたしがどうあがいても得られない、身 されたんだ」とアリンはいった。 尊者と呼ば にそなわった威厳がある。なぜあなたがたがエリート、 亡霊はかなつんぼである。自分のいうことだけいって、ひとの話れるか、わたしにはよくわかります。あなたがたとオガンタとはあ まりにも対照的なので、この近隣のどの世界でもふしぎの種になっ には耳をかさない。たぶん、あなたも経験がおありだろう。 ガラマスクは夢を信じるたちではなかったが、たまたまこの狩りている。あなたがたが王者なら、彼らは愚者です。なぜその彼ら は彼の年来の憧れだった。実をいうと、アリンの狩りに同行するつが、あなたがたにとって代ったのですか ? 」 もりが、余儀ない事情であきらめざるをえなかったのである。しか「それはいまが愚者の時代だからではないかな、旅の方よ」ローア も、夢を見た時点では知らなかったのだが、その後報告に注意ぶか はこともなげに答えた。「わしはトレオライ。そしてきみは、山山 く目を通してみると、アリンが事実、頭を丸かじりにされて殺されに目ざめる準備をととのえた地球人ガラマスク。きみは三重山の挑 たことがわかったのだった。さて、いまガラマスクは、それとなく戦を受けて立った。その上で四つの生き物を仕止めるというのは、 さぐりを入れてみることにした。 なみなみならぬ大望じゃ。それをなしとげたものは、奥深い変化を 「ガイドはだれだ、オクラスという男かね ? 」ロッジの支配人をし経験することじやろう」 「アリンのように ? 」 ているひょろりとしたオガンタに、彼はたずねた。 「わしはここへやってきたときの彼を知っておる。彼は四つの生き 、や、あれはもうガイドをやめましただよ。、 「オクラス ? し 物を仕止めはしなかった。第四の生き物に殺されたのじゃ」 ちをよそへ移されたですだ」 「彼がいわばオフレコでわたしに話してくれたところでは、それ以 「しかし、オクラスというガイドがいたことはあるんだね」 「むかしオクラスというガイドはいたですだが、いまはもういない外のなにものかに殺されたようですが」 「アリンは、たとえオフレコにしろ、嘘はつかぬ男じゃ。きみの思 ですだ。だんなのガイドはチャヴォというですだ」 いちがいではないかな。彼はきみに、狩りをやりとげ、第四の獲物 しかし、これでオクラスという名のガイドがいたことはまちがい 。しかも、ガラマスクがその名を聞いたのは、あの狂想夢の中を仕止めたといったかの ? 」 でだけなのだ。ほどなくガラマスクは、生き残りのローアのひとり「ライオンのサイネク、熊のリクシーノ、それに鷲のシャソスを殺 したといいました。だが、そういえば、べイタ 1 ・ジェノを殺した が、夜明け前のびりびりした空気の中を誇らかに歩んでいるのを、 目にとめた。さっそく彼はそっちへむかい、岩がちの斜面で追いっとはいわなかったようです。しかし、それ以外のなにものかに殺さ
を・ぐ 「もうこっちのものだ」ガラマスクは歓喜していった。「おまえの それは断末魔の羽ばたきだな。だが、おまえは最後に目を狙ってお そってくる。おまえはわたしの目をくりぬく気だ、ちがうか ? 『両目ともはくりぬかれないようにしないと、きみが不利になる ヒョコ ぞ』死人のアリンはわたしにそう教えてくれた。さあこい め ! これがおまえの最期だそ . シャソスはやはりガラマスクの片目を一撃し、なにかが彼の頬の 上へぶらんと垂れた。それがちぎれかけた肉片なのか、それとも目 玉そのものなのか、ガラマスクにはわからなかった。彼はシャソス ののど、ケープルのように腱で覆われた細長い頸を、こぶしの鉤爪 でしつかとっかんだ。力をこめると、腱がいくらかたわんだ。それ から、急に抵抗がなくなった。彼はシャソスの頸をヒョコのように 絞めた。相手はヒョコだった。そして、首の折れた巨鳥は、真下の スレート色の雲にむかって、木の葉のように落ちていった。 「わたしはあちこちへ大穴をあけられた。だが、なにも外へはみだ してはいない。むかしから内臓の丈夫なたちなのだ。さて、また苦 しい登攀がはじまる。それがすんだら、アリンに死をもたらした、 謎の第四の獲物にいよいよ挑戦だ」 こうして、ガラマスクは疲労困憊の果てに綱を登りきった。チャ ヴォのニタニタしたまぬけづらが、彼を待っていた。ふたりはいま や三重山の三ノ山、・ハイア山の頂上にいた。「あんたをびつくりさ せるものが一つあるだ」チャヴォが胴間声をひびかせた。 「あんたが休んでいるうちに用意をしとくだよ」 「わたしはおまえをびつくりさせるものが二つある」とガラマス ク。「そのあいだに用意しておこう」 橋を渡りおえたら、それを弱めておきたまえ。それから、目をい 7 9
高くねえオガンタとは。おらたちはローアに変わるだが、いまのおもし、ど 0 ちも強くて有能ならだがね。おらたちの計算だと、ひと らたちはもうローアに変われなくなっただ。おらたちは、蛙跳びをりのローアの脳みそで、四人のオガンタが変態できるだ。おらたち がもう一つ発見したことは ( オクラスがトレオライになったときに やる能力をなくしただ。なにか特別の刺激がないと」 「第七地獄 ! これはまさしくあの地獄の騒音だ。ああ、あそこ〈発見しただが ) 、元気のいい地球人の後脳を食べても、や 0 ばり変 だけは墜ちませんように ! チャヴォ、その蛙の密儀とはなんだ ? 態できるというこんだーーとい「ても、第四の獲物まで山の狩りを 生きぬけるような地球人でないとだめだがな」 話せ ! 」 「じっとしていろ、チャヴォ。動くと串刺しだそ。ところで、アリ 「蛙跳び、それがオガンタからローアへの変態だだ。聖なる蛙のほ ン殺しの犯人オクラスだったトレオライには、これからなにが起こ かに、どんな生き物が、あれだけ似ても似つかぬ形から、あれだけ とっぜんに変われるだね ? よそもんは、おらたちが二つの別々のるんだ ? 」 種族だと思うだよ。ちょうど、オタジャクシと蛙とが別々の種族「ガラ→、スクのだんなを日の入りに殺した犯人のチャヴ , には、な トレオライの時間は切れたし、おらのもそれぐ にが起こるだべ ? だと思うみてえにだ。おらたちは、蛙をおらたちの理想の姿として らいの期間のあとに切れるだ。トレオライは地球の二年相当のあい 崇めてるだ」 だに、ロ 1 アとして知恵を深めただ。今週のうちに ( 本人は知らね 「どんな故障が起きたんだ、チャヴォ ? その変身になにが起こっ たんだ ? どこがうまくいかないんだ ? そこを説明してみろ。どえだが ) 殺される番がまわ 0 て、後脳をかじられるだよ」 うだ、すてきな槍だろうが ? 」 「すてきな槍だよ、ガラマスクのだんな。だけど、やつばりこれは 反則だだ。その故障は、ーーひょっとしたら宇宙の調和の崩れかもし ~ れねえだ。地球式の勘定でここ百年間、特別の刺激なしでローアに なったオガンタは、ひとりもいないだ。おらたちはオガンタに生ま ~ れてオガンタの一生を送るだけで、ローアの高い文明を維持できな くなっただ。おらたちは成体形態をなくしたもんで、それをとりも どそうとしてるだよ」 「どうやってだ、チャヴォ ? アリン殺しが、それとなんの関係が ある ? オガンタのオクラスが、どうやってローアのトレオライに なったのだ ? やつの特別な刺激とはなんだったのだ ? 」 「ローアの後脳を食べることで、オダンタはローアに変われるだ。 S F マガジン用の美麗・堅牢な特製フ ァイルです。簡単な操作で 6 冊ずつの スマートな合本にすることができます 価 190 円送料 85 円 99
「『それから、目をいつも頭のうしろにつけておくことだ』と死人だ。録音機からの気も狂うような不協和音が、この場にふさわしい のアリンはいった」ガラマスクはつぶやいた。「だが、オクラス・挽歌を作りだしていた。ガラマスクは黒い愉悦の笑いをひびかせ、 トレオライは、そんなふうには死なんそ。ここでの結着がついた槍をひっこめて、その先に縛りつけてあった短剣をはずし、ふたた ら、わたしは山を下りて、あの男を正式に殺人罪で逮捕してやる」びそれを自分の肱にとりつけた。彼はオガンタを見やった。 「それで、ひとりのローアの代りに、四人のローアが生まれるだ」 「さあ、立つんだ、チャヴォ。第四の獲物の名前はなんという ? 」 チャヴォはガラマスクの言葉を聞かなかったようにつづけた。「こ「岩猿、つまりあんたのことだだ、ガラマスクのだんな。地球人の うやって、おらたちはローアを再興し、おらたちの待ち時間を切り恰好は、おらたちにはおかしくてしかたがないだで、そんな名をた つめるだ。ローアがもういっぺん大・せいになったら、その知恵を合てまつっただよ。だけど、それは蛙男、つまりおらのことかもしれ わせて、変態のどこに故障があるか見つけられると思うだ。そしたねえた。もし、おらがいまここであんたを殺して食って、蛙跳びを カラマスクのだんな。そして、 やらかせばな。おらたちは戦うだ、・ ら、もっとお手柔らかな方法も見つかると思うだよ。 ガラマスクのだんな、あんたはきようの日の入りに、、、 し功徳をおらはあんたの後脳を食うだー・おらのときの声を、あんたには消 ほどこすだ。あんたの死から、四人の新しいローアが生まれるたせねえあの録音機で聞くがええだ ! なんと美しい絃の音でねえ ・カー よ」 「おまえも掟を破ったのだそ、チャヴォ。死にかけか、死にたてな「罰あたりな永遠のテ ィーンエージャーめ ! 」鮮血の死闘の間合を ら、わたしはおまえの役に立つ。だが、おまえたち四人のためにだつめながら、ガラマスクはおめいた。「われわれのあいだには、 と ? わたしには、おまえの三人の仲間がいま綱を登ってくるのが宇宙の始まりからの怨恨があるのだ ! おまえをたたきのめしてや 聞こえる。死にたてのホカホ力をいただこうというわけだな。だる ! おまえのそのヒターの絃で、くびり殺してやる ! 」 が、あの綱がもちこたえると思うか、チャヴォ ? 」 「ガラマスクのだんな、あんたの蛙の寸法の話は嘘つばちだだ。お 「もちこたえるとも、ガラマスクのだんな。まさかあんた、綱の掟らはもうすぐここで、ばかでつかい蛙になるだ」 まで破ったんじゃないだべな ? 」 もうタ方近く、空に伸びた針の頂きで、ふたりは終末論的憤怒に 「じっとしてろ、うすのろ。なんとでもいうがいしし 、のちギリギ歯ぎしりしながら、丁々発止と斬りむすんだ。日の入りまでには、 リだが、わたしはこれ以上綱をいじったりはせん。この賭けを押しどちらかが死ぬことになっているのだ。 とおしてみせる。おい、綱がささくれてきたそ、チャヴォ。すこし エドガー・ライス・ハロウス きしんだ。いちばん上の男は、もうまもなくてつべんだ ! またき 戦乱のベルシダ しんだ ! 切れるそ ! 切れたー・彼らは落ちたぞ、チャヴォ ! 」 故国をめざし若き戦士タナーは地底世界を駆けるー オガンタは地べたにすわりこんで、仲間の死を大声で泣き悲しん 、 , 、 9 F 女庫 2 3 0 発売中 8
つも頭のうしろにつけておくことだ。それが亡霊アリンの言葉たっ 音機をハンダづけしているあいだに、ガラマスクもすでに丈夫な長 た。チャヴォは自分のほうの準備に忙しい。ガラマスクはいましがい槍を手に入れていた。 カラマスクのだんな」 た渡った橋を弱めた。いま登ってきた綱に踵の短剣でざっくり切れ「あの音楽を黙らせることはできねえだそ、。 目を入れたのだ。すっかり切り落してはしまわなかった。もし彼のチャヴォはけたけたと笑った。「あれで、あんたは死ぬ前に気が狂 カンがはずれ、そして、もしほかの下り道を探さずにすんだ場合でうだ。それから、ペイター・ジ = ノはここにいるだよ。おらがそう も、この綱はまだ彼の体重ぐらいなら充分に支えてくれるだろうと だ。それとも、あんたがそうた。さあ、かかってきなせえ。どっち 踏んだ。しかし、ガラマスクの何倍もある体重は、とても支えきれ がどっちか、いまにわかるだ」 ないはずだ。 ガラマスクは、テレオー樹の槍の石突きでチャヴォを打ち倒し 「おらは根の深い岩に、ある仕掛をハンダづけしてるだよ」チャヴ た。チャヴォは完全に不意をうたれたようだった。ガラマスクはオ オがいった。「地球からきたあんたには、岩 ( ンダなんてわからねガンタの胸、のど鎧のすぐ下へ穂先をつきつけた。 えだろうが、いくらこの岩を山から投げおとしても、この仕掛は剥「あんたは武器の掟を破っただな」チャヴォは文句をいった。 がれねえだ。それに、この仕掛を黙らせることもできねえだ」 「まだそうとはきまっていないそ、チャヴォ。おまえとの話合いを 「こっちはこっちで準備をしているよーガラマスクは踵の短剣で小すませた上で、わたしはこの優位も、いや、第四の獲物さえも、あ さなテレオー樹を伐り、こぶしの鉤爪でそれを削っていた。「チャ きらめていいと思っている。もし、いまわたしに死が迫っているの ヴォ、わたしたちはいま・ハイア山の頂きにいる。ここは小さな平た なら、アリンのように事実のうやむやなままで死にたくない。さ い頂上だ。そして、ここにはわたしたちしかいない。第四の獲物、あ、早くしろ、チャヴォ。話すのだ ! アリンを殺したオクラスは 岩猿とも蛙男とも呼ばれているべイター・ジェノよ、 。いったいどこどこにいる ? やつはほんとうに死んだのか ? 」 にいるんだ ? 」 「死んだ ? いや、いのちをよそへ移されただよ、ガラマスクのだ 「べイター・ジェノはここにいるだ。やつはリクシーノが下でやつんな。あの ( 腹ペコ ) オクラスは、気高いローアのトレオライにな っただ。あんたも会ったことのある、あのトレオライにだ。あんた たとおんなじように、自分のサインを書いてるだ」 ガラマスクが急いでチャヴォの荷物の中から綱をすこしばかり切の友だち、アリンの脳みそを食って、あんな姿に変わったたよ」 「チャヴォ、あのやかましい音楽と歌で、わたしの頭ははりさけそ りとったとき、その音は始まった。リクシーノの体臭よりも強烈な いま、おまえはいったいなんといった ? オガンタがロー 音だった。綱の切れはしで、ガラマスクは彼の肱からはずした短剣うだ ! をテレオー樹の先に縛りつけた。いまやその音は腐った波のようにアになっただと ? おまえたちはおなじ種族なのか ? 」 カラマスクのだんな。 ガラマスクに打ちよせてきた。それはヒターの演奏とオガンタの歌「頭を種子みたいにはじけさせるがええだ、・ 声との、窒息するような不協和音だった。だが、チャヴォが岩に録気が狂うがええだ。おらたちはおなじ種族だよ、気高いローアと気 8 0 ・