火星人 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1972年9月臨時増刊号
338件見つかりました。

1. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

今日午前九時頃、セントラル・スクエア幻番地のスミスウィッ チャーマズは部屋の真中にあお向けに横たわっていた。完全な クアンドアイザック宝石店階上の空つ。ほの部屋で、作家でありジ裸体で、胸と腕は特殊な青味がかった膿汁あるいは膿漿で覆われ 2 3 ャーナリストの ( ルビンⅡチャーマズの死体が発見された。検屍ていた。胸の上にはグロテスクに頭が乗っている。それは完全に 官の調査により、この部屋は、五月一日にチャーマズが家具付き 胴体から切り離されていて、顔面はねじれ、斬りきざまれて恐ろ で借りたもので、二週間前に氏自身の手によって家具が外へ出さ しくぐちゃぐちゃだった。どこにも血の跡はなかった。 れてしまっていた事が明らかとなった。チャーマズは何冊かの神 部屋は驚くべき様相を呈していた。壁、天井や床の交線には、 ピプリオダラつイック・ギルド 秘をテーマとした難解な書物の著者で、書誌学協会の会員で ぶ厚く。 ( リ製の漆喰が塗られ、所々はがれ落ちた破片が落ちてい もあった。以前、 ーヨークの・フルックリンに居住していたこ る。そしてこれら床の上の破片が、何者かの手によって被害者の ともある。 死体のまわりに正三角形となるようによせ集めてあった。 午前七時に、スミスアンドアイザック商店の建物内でチャーマ 死体の傍には、焦げた数枚の黄色い紙があった。これらには異 ズの向かい側に住んでいる・・ ( ンコック氏は、猫を人れて様な幾何学的図象とシンポル、いくつかの急いで走り書きした文 やり、 ートリッジビルガゼット紙の朝刊を取ってくるためにド 章が記されている。この文章はほとんど判読できず、その内容も アを開けた所、一瞬異様な匂いを嗅いだ。氏の描写によればその狂気じみているので犯罪捜査の手がかりとなる可能性はない。 匂いは極端に毒々しく、吐気を催させるものだったという。そし 「わたしは待ち、見続けている」とチャーマズは書いている。 てチャーマズの部屋付近が最も強烈に匂い、そのため玄関のその 「窓のそばに坐って壁と天井を見ている。やつらがわたしの所ま 区画へ近づいた時には、鼻をつままざるを得なかったほどだと断でこられるとは思わないが、 ドウエルには気をつけねばならな 言した。 い。おそらくやつらは穴をあける事に手を貸せるたろう。サテュ 部屋へ戻ろうとして突然チャーマズが台所のガスを閉め忘れた ロスも手伝うだろう。そうすればやつらは緋色の輪を通って進む のではないかと思いついた。そのいかにもありそうな考えに驚し ことができる。ギリシャ人はそれを防ぐ方法を知っていた。我々 て氏は調べてみようと決心し、チャーマズの部屋のドアを叩いて がそのほとんどを忘れ去ってしまったのは残念なことだ」 みた。しかし返答がないので管理人に通知したのである。管理人 もう一枚の紙には、最もひどく焦げてはいるが、ダグラス巡査 は合い鍵でドアを開け、二人の男は急いでチャーマズの部屋へ部長 ( パ ートリッジビル署所属 ) によって、さらに 7 、 8 の断章 向かった。部屋の中には全く家具が見られなかった。ハンコック が発見された。それは以下のようなものである。 は最初に床の上を一目見て心臓が冷たくなったと述・ヘている。管 「何てことた、漆喰が落ちてくる。強烈な震動が漆喰をくずし、 理人の方は一言も発せずに窓を開けに行ったまま、たつぶり五分それが落ちてくる。おそらく地震だー こんな事は考えてもいな 間向かい側の建物を眺めていた。 かった。部屋の中はだんだん暗くなっていく。フランクに電話し ホー

2. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

薩摩藩主、島津久光が江戸から京へむかう途中、横浜の生麦で英 八月ニ一日 人四人とであった。彼らが下馬しないので、無礼なやっとばかり、 家臣が一人を殺し、一一人を傷つけた。イギリスは軍艦七隻を鹿児島 ジ = ミニ五号、大気圏外へ発進 ( 一九六五、昭和四〇 ) に進め、薩英戦争となる。砲撃により薩摩藩はさんざんの目にあっ コンラッドとク ーパーの両飛行士は、八日間にわたって地球を一 一一〇周、四八〇万キロを飛行し、無事帰遠した。宇宙進出に関したが、これをきっかけに攘夷から開港に方針を変え、日本において て、アメリカはソ連に追いっき、ここにおいていくらか追い抜け薩英間は最も友好的になった。 独ソ不可侵条約 ( 一九三九、昭和一四 ) 赤熱の狼煙の火炸裂する弾丸 第一条。両国は相互にあらゆる武力行為、侵略行動、攻撃行動を おお告げよ友 抑制する義務をおう。 かの星条旗いまもなびくや スターリンが一夜にして手 これまで批難しあっていたヒトラー、 「アメリカ国家」の一節。深町真理子訳。 を結んだ。最も困ったのは、ドイツ情報大臣ゲッペルス。彼の天才 的頭脳をもってしても、名解説が思い浮かばない。 生麦事件 ( 一八六二、文久二旧暦 ) 「この偉大なる二大民族には、長い伝統的な友情によって作りあげ られた、相互理解という基盤があった」 と、もってまわった声明を発表。 一方、ソ連のモロトフ外相はこう語っこ。 「ファシズムは趣味の問題である」 日本の平沼首相は「複雑怪奇 , と言って、内閣を投げ出した。 中ソ不可侵条約成立 ( 一九三七、昭和一 ll) 八月ニニ日 第二次国共合作成る ( 一九三七、昭和一一 l) 共通の敵の日本に対し、協力しあおうという話しあいが成立し た。国共合作とは、中国国民党と中国共産党との協力体制のこと。 十十十十早子寺い 十十十十トト十 十十十イト十をそ十、 をダ十トツ . 十ア

3. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

石の血脈 日本ノヴェルズ第一一弾 / 作・半村良 装幀・野田弘志 古代、原始人はなにゆえに巨石を崇め、そこに いかなる力を見出したのか ? 世界各地に今なお残る吸血鬼と狼人問伝説は、 いったい何を意味するのか ? 世界史の裏に暗躍する暗殺教団が、洞窟の奥深 くタブーとして守りつづけてきた血ぬられた神 必とま ? ・ そして現代、美しい男女を激しく異常な快楽に 駆りたてる真紅に彩られた謎とは ? 人類誕生以来の連綿たる歴史のかげにひそむ巨 大な恐るべき血の秘密をあはいて、期待の新鋭 が意欲満々放っ書きおろし c.D サスペンス・ミ ステリ巨篇 ! 四六版上製本

4. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

巻く火から毒々しい炎が放たれ、黒い太鼓が絶え間なく打ち鳴らさ下方の谷のマジャール人やスラブ人たちは、彼らがこの村に課し れる、そんな混沌とした悪夢とだけしか思い出せないのであった。 た名前によ「て、もとの村の住民たちが魔術の宗派に属していると 8 ただ一つだけはっきりと彼が憶えているものがあったーーー或る夢の信じていたことは明白だと、校長はいった。その名前は、以前の住 中で彼は黒石碑を見たのだ。だがそれは山の斜面に立っていたので民たちがトルコ軍によって虐殺され、村がより汚れていない、健全 な人々によって新しく建てなおされてからも、依然として使用され はなく、巨大な黒い城の上に尖塔のようにそそり立っていたのだっ ているのだ。 他の村人たちについていえば学校の校長を除いて、全員が石碑の彼は、その宗派の崇拝者たちが石碑を建立したとは考えておら ことを話すのをいやがっていることがわかった。校長は、驚くほどず、彼らの行為の中心として使用していたと確信していた。そして の教育を受けている男で、村の他のいかなる者よりも外の世界で時トルコ軍の来襲以前からロ伝えにされてきた、あのあいまいな伝説 を繰り返して述べながら、一歩進んだ伝説の解釈を話してくれた。 を過ごしていた。 石碑についてのフォン・ユンストの意見を話してやると、彼は大すなわち、堕落した村人たちは、石碑を一種の祭壇として使い、そ 変に興味を示した。そしてそこでいわれている石碑の年齢についての上で人間の犠牲を捧げた。そしてその犠牲者には、下の谷間の彼 は、このドイツ人の著者に賛同の意を示した。この校長は、かって自身の先祖たちからさらってきた娘や幼児を使用したというのだ。 この校長は、「真夏の夜」の奇怪な出来事の伝説は割り引いて考 はこの近くで魔女の集会が行なわれていたと信じているのだ。そし ておそらくは、もとのこの村の住民たちは全員、あの淫らな宗派にえていた。同様に、ズトウ 1 ルタンの魔術師の住民たちが笞打ちと 属していたに違いないと信じているのだった。その宗派こそが、か虐殺の野蛮な儀式と呪文によって召喚していたといわれる奇妙な神 ってヨーロッパの文明の基盤を揺がし、魔法の伝説をもたらす源とについての不思議な伝説をも、割り引きして考慮していた。 なったのた。校長は彼の論点を証明するために、この村の名前を引彼は「真夏の夜」に石碑を訪れたことは一度もなかった。だ ; 、 用した。彼がいうには、この村は、もともとシ、テレゴイカ・ ( ールそれを恐れているからではないと彼はいった。過去にそこでいかな などという名前ではなかった。伝説によれば、村の建造者たちはこるものが存在し、いかなることが起こったにしろ、それはとうの昔 こをズトウールタンと呼んでいた。それは、何世紀も以前にこの村に時と忘却の霧の中に呑み込まれてしまっている。黒石碑は、死者 が建てられたとき、そこにあった異種族の遣跡の名前なのだ。 と遙かなる過去への鎖の輪という意味を除けば、まったく意味を失 ってしまったというのだ。 この事実が、再びあの形容しがたい不安な感じをひきおこした。 シュテレゴイカ / くールに到着してから一週間ほど経った或る夜の この野蛮な名前はこの山々が、自然な状況下で、支配下におかれる 可能性のある異種族、すなわちスキチア人、スラ・フ人、あるいは蒙ことだ。私はその校長の家を訪問して、帰りの道を急いでいたのだ が、突然思い当たったーーー今夜は。「真夏の夜」だ ! 伝説がおそ 古人のいずれとも、まったく関係がないように思えた。 こ 0

5. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

くなり、この星の公転周期でかそえて、五、六歳のころは焦茶色クな名称でよばれているのに : の、愛らしい木彫人形のようになる。そして、このころまでは、む「恋人たちに、またあえるのに、どうしてそんな悲しい歌をうたん 2 ろん無性だ。 七、八歳ごろから十分の一年ごとに一度、日数にだね ? 」と、彼は、かかえた膝をかるくゆすりながらきいた。「行 して三自転ぐらい、女性色、←または男性色の発現がある。 ってしまったあなた : : : あなたは私をおいて行ってしまった : : : 失 女性の短い妊娠期間中は性転換は発現せずーームムは卵胎生であ恋の歌じゃないのか ? 」 るーー・哺乳は無性期の壮年以上がやる。「無性期」は、壮年をすぎ″失恋″という概念が、よくわからないらしいキンナは、ちょっと てから次第に長くなりはじめる。男性、または女性でいる期間が相考えるように唇をとがらせた。 ムム族たちの人生にとって、最 対的に短くなり、老年期になると、ほとんど性別の発現がなくなつも重要なものは、「愛」であり、その「愛」の概念は、性愛が基本 てしまう。 になっていた。老人幼児をふぐめて、無性期にあるもの同志の親し いつながりだけを表現する「友だち」 ' という言葉も、古語でいう 「ほとんど」というのは、たとえ、自然の性転換サイクルが終って しまった老人でも、もし恋をすれば、おそらく内分泌の影響だと思「神の恋人」という意味から派生してきている。有性期の男女は、 うがーー皮膚の色がうすれ、男性、または女性の性徴が発現する事それそれ相手方を「恋人」をよび、同性のもの同士はーーホモセク シュアルをふくめてーー男と男の親しい友人関係を「男恋人」女と があるからだ。しかし、その発現期間は長くなく、また老年期にな ってから、そういう事が起るものも稀だった。 老人たちの皮膚女の友人関係を女恋人とよびあっていた。このおだやかな種族は、 の色は、幼児のそれと同じように、茶色がかった暗い色だった。そ「恋人」をいくらでも見つけられ、もし、プロポーズがたまたまか して、面白い事に、性徴発現前の子供たちと発現期の終った老人たさなっても、。フロポーズしたものがお互いに愛情こめてゆずりあっ ちは、いずれも「神の子」とよばれていた。青壮年の交番的な性徴ているのだから。 発現期にはさまれる無性期の皮膚の色と、老人や幼児のそれとは、 ″失意″に相当する唯一の現象は、恋人同士 , ーー・なろん有性期にお よく見るとちがっており、人生の盛りの時期のそれは、黒っ。ほさのけるーーの一方の死亡だった。 底にマホガニーのような美しい艶があり、幼児と老人のそれは、も「そうーーそうですね。恋人も、若いのに、行ってしまう事があり っと火色がかっていた。ムム族は、死ねば男女老幼の区別なく、三ます。そして、生きているものは、誰もがいっか行ってしまうので 、、とこやム 日ほどの , 間に、黒のように漆黒になってしまう。そうなった死体す。 : : ・・体は常闇の呪いの底へ、そして魂は星の光となって、夜空 を、ムムたちが忌み恐れることは大変なもので、葬儀はそうなる前 の彼方へ上って行きます ! 」 「だけどキンナーーー君は そうなった死体の事を、 にとりおこなわれなければならない。 「悲しい歌だ : : : 」と彼はつぶやいた。 とこやみ ″暁の人″だ。もうじきまた恋人にあえる」 ムムたちは「常闇の呪い」とよんでいる。無性期に皮膚の色が濃く 「″暁の人″や″タ映えの人″という言い方は、″夜にもっとも近い なった連中は、「タ映えの人」とか、「暁の人」とか、ロマンチッ

6. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

チュープ を通りぬけ、さらに貨物用リストで何層かを降り、使われていない通路の天井も壁も、おびただしい管の束でおおわれ、その間から 赤錆びだらけの貨物用のベルトコンべアーをわたって荒廃したフロ パイロット・ランプの列が死魚の目のようにのそいていた。通路の 9 アに入った。地下格納庫のような広い一画だった。何十本もの四角右側の壁がとぎれると、あとからとりつけたものらしいプラスチッ い太い柱が、高い天井を支えている。その柱にとりつけられた投光クのドアがあった。そのドアを通して海鳴りのような重い騒音が伝 器のうち、まだ幾つかがともっていて、角柱の列の間に光輪を描きわってくる。 「発電所のような音がするが」 出していた。二人の足音が高くこだました。 「ここも倉庫か ? 」 男はだまってドアを開いてフサの背を押し、そのあとから自分も 「そうだ。しかし長いこと使われていない。もともと連邦・輸送部入った。 の倉庫だったんだが戦争が終った今では地下倉庫でもないものな。 目の前に一見して何かの電子装置とわかる巨大なメカニズムがな 管理をまかせられている市でももてあましているのよ」 らんでいた。網の目のように入り組んだ電路パイ。フと機器群、冷却 「ラルラはこんな所で何をやっているんだ ? 」 システムのコン。フレッサーや自動変圧器の熱交換機などが空間をす 「ま、すぐわかるよ」 き間無く埋めていた。張り出されたプラットホームをつたって半周 列柱の間を通り過ぎてゆくと、がんじようなちょうつがいを打っするとガラス張りのコントロール・ルームがあった。内部へ入る と、壁面に沿って設けられたコンソールに二、三人の男が配され、 た巨大なとびらがならんでいた。 パイロット・ランプのまたたきにつれてめまぐるしく両手を動かし 「冷凍室のようだが」 ていた。 「ああ。むかしはな」 「これはなんだ ? 」 男はひとつのとびらの前に立った。とびらのどこかにもうひとっ よほど大規模な電子的施設の管制所にちがいない。 小さな開き戸があり、男はそこから電話器をとり出すととびらの内 部と短いやりとりを交した。待っ間もなく、とびらが開いて二人は「ポスがお会いになるそうです」 入った。内部は十メートル四方の部屋だった。左右の壁には何段も 一人の男がフサに奥のドアを指した。 「ポス ? いや、待ってくれ。おれはラルラという女をさがして来 の棚が天井まで設けられ、その天井から垂れ下ったレール・ホイス たのだが」 トのくさりが淡い照明灯の光に赤褐色のヘびの死体のように力なく ゆれていた。正面の壁にもうひとっドアがあった。それを開くと、 その返事が得られないうちに、フサはドアから押し出された。そ 青緑色の光の滝があふれ出た。ドアの内側に一人の男が立ってい こはさらに回廊になっていた。天井や壁にはなお電路パイプの東が た。男はフサにけわしい眼を向けたが、何も言わなかった。 縦横にはしっていたが、その天井や壁、そして床も淡いモスグリー そこは幾つもならんだ冷蔵庫の後の冷凍機室と思われた。せまい ンの。フラスチック塗料で美しくコーティングされていた。案内する シティ

7. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

俺のタイムマシンで あいつを過去へ送ったのが あいつを祖先にしたてあげる 結果になったんだリ もう破壊する ことの出来ない 組み立てられた 時間の輪だ やってきて : ユキは 原始猿人の中の 突然変異体 さ なんと おまえが われわれの 直系の祖先 だったとはー 、 0 鷺 考古学の おしえるとおり もうすぐ恐龍は 絶減する 変異体の 固体が 繁殖しはじめたリ 原始人だけでは のろかった進化が 急速に進み はじめたのだ だが 俺の子孫は 大永河やマンモスと 戦いながら生きのびる のだよ なんと俺はこの 時間の輪の中で 不減の生命と なって無限に生き つづけるんだ 俺は絶対に よない人間 死オ なんだ 環境の激変や 疫病の流行などで 進化と退化をくり返し ながら ついには現代人類となって 地球を支配する ニ十世紀に ふたたび俺が生まれる 268

8. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

傷。 幸徳秋水、万朝報に非戦論を発表す ( 一九〇〇、昭和三三年 ) 当時の非戦論の論調。野心ある政治家、功名をねらう軍人、利を ねらう投機師、付和雷同の新聞記者、これらが国民をそそのかし戦 争に巻きこむのだ。 なお、幸徳秋水はのちに大逆事件で処刑される。 八月八日 銀翼つらねて南の前線 うみわし ゆるがぬまもりの海鷲たちが : 日本軍、北京へ入城 ( 一九三七、昭和一一 I) 佐伯孝夫作詞「ラ・ハウル海軍航空隊」 北京の西南の蘆溝橋で、銃声がひびいた。兵一名、大便をしてい つづいて第一一次海戦がおこなわれ、米軍はついに同島に上陸。米たため帰隊におくれた。それを戦死と誤認、戦闘となり、日本軍は 軍の本格的反攻のきっかけとなり、日本は守勢にまわることとな付近の各地を占領した。大陸における泥沼の戦いのはじまり。しか る。 し、堂々と入城した将校たちは意気揚々。 天にかわりて不義を討っ 忠勇無双のわが兵は : 大和田建樹作詞「日本陸軍」 ナチ党創立 ( 一九一一〇、大正九 ) 路上でなぐりあいがある時、人が集ってくるのを見たことがある かね。残酷さは深い印象を人に与えるのだ。大衆はそれを欲してい ヒトラ る。 原子力平和利用国際会議、ジュネープで開かる。七五カ国が参加 ( 一九五五、昭和三〇 ) 八月九日 防空演習、関東地方ではじめておこなわれる ( 一九三三、昭和 「焼夷弾に毒ガス弾に爆弾、ドン、ドーンと投下されたら、どうな ると思うかね , 「人は焼かれる、町は死ぬ」 「アベコペです」 275

9. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

な太陽『コスモフホラ・べータ』がかかっていた。その弱々しい光スホーイがうめくように言った。 が、平原にほんのわずかな起伏の翳を浮かび上らせているほかに「きさま ! よくもそう落着いていられるな。すべてきさまの・ は、平原の果を区切るわずかな高まりさえなかった。『キシロコー キャプテン パ』の長大な船体は横倒しになり、おれた支持架がひれのようにな とっぜん、船長が声をふりしぼってスホーイのうでをつかんだ。 なめに中空に跳ね上っていた。三点支持に失敗した船体は横倒しに 二人はもつれ合って倒れた。 キャッヲ なったまま、かなりの合成推力で地上を突進したらしい。船体の後「クロス ! 船長をおさえろ ! 」 ウェーキ 方に航跡のように長く長くなお濃い土けむりが上っていた。三百メ フサははげしくころげ回る二人の体を引き離そうとやっきになっ ートルほどむこうに、船尾からもぎ取られた巨大な反射傘の一部がた。クロスによって抱き止められた船長はなおもけもののように体 寄妙なドームのように地表に伏せられていた。土けむりの中を、剥をくねらせ、クロスのうでをはねのけてスホーイにおどりかかろう ぎ取られた外鈑の破片や反射傘の支持部分が、キラキラと光って舞とした。 キャップ キャップ っていた。 「船長 ! 船長 ! しつかりしてくれ ! 今は個人の責任をうんぬ キャップ 「炉が爆発しなかったのがふしぎだな」 んしている時ではない。船長 ! 」 機関長のクロスが鼻やロのまわりの血をぬぐいながら肩をすくめ フサは船長の肩をつかんで力をこめた。 こ 0 「ちくしようー だからおれはこんな乗組員といっしよじゃいやだ 「生存者を確認しよう」 と言ったんだ ! もともと乗組員は船長がえらぶべきものだ。それ コ・ナビゲーダ 次席宙航士のフルイがぬぎすてたヘルメットをほうり投げてフサを委員会のやつらは乗組員の人選にまで手を : : : 」 を見かえった。かれはあの一瞬の混乱の中でヘルメットを着けたも 船長はフサのうでの下で言いつのった。 キャップ のらしかった。 「船長 ! しつかりしろったら ! 」 「その必要はなさそうだ。どうやら生存者は操縦室にいたおれたち しかし船長の眼も、打ちふるうでも、とがらせた肩も、そしてフ だけらしい」 サのうでからのがれようとするおそろしい力も、すでに正気を失っ スホーイがおれた歯とともに血の塊を吐き出した。 たものだった。 「おれたちのほかは全員死んだのか ! 」 「スホーイ ! 鎮静剤を打て」 スペース・スーツ スホーイは宇宙服のひざ上の大きなポケットからプラスチック フルイが顔をおおってうずくまった。 「支持架の緩衝装置のオイル・シリンダーが破裂して第一機械室へのケースをとり出した。 オイルが噴き出した。あそこにいた二人はだめだろう。発電機室は「鎮静剤だと ? おれはしつかりしている ! なんだ、きさまら。 おれを病人に仕立てて自分勝手なことをしようというのか ! 」 圧潰したようだ。管制室にいた三人も絶望的だ」 田 5

10. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

いずれにしても、この古い種族にひめられていた遺伝学的な潜在た。むろん″大いなる虚″のことだった。 能力が、・ カ 1 ランの場合、彼の特異能力の主体要因とされていたの ガーランは、危険をかんじていた。精神内部に巣喰っているだけ ! 」 0 に、しまつが悪かったのた。忘れているときはいいのだが、いった むろんガーランは、彼の時代の遺伝子技術の高度な駆使によってんそいつが活動しはじめると、 しいしれぬ虚無感にとらえられてし 創出されたのである。あの、大海の中にかくれ住む魚族を、根こそまうのであった。 ぎ網ですくいあげたような二一世紀後葉の″遺伝子センサス〃は、 ガーランは、しばらくの間、精神分析医のもとへ通ってみた。結 その前提作業であったといえよう。 果ははかばかしくなかった。相手の心が読めるだけに、治療をうけ ガーランの数代前の先祖は、こうして発見されたといわれる。そること自体がばかばかしくなってしまうのだった。 カルテをのそいてみると、医師は、強迫神経症というありきたり して、彼女の体内に血統的に潜在していた神代人の血を土台とし の病名をつけていた。そんなことは、彼にもわかっている。そいっ て、さらに種々の交播と人為変異とがつみかさねられていった。 は、まさに強迫観念なのだ。知りたいのは、なぜ、そいつに、彼が その数代の交播の過程で、どんなことがあったのか、ガーランは 知らない。きっとそこには、人々の空想を刺激するような、いくっ捉われているのか、という理由だった。 もの物語の材料があったことだろう。彼の創出のために協力させら医師はいった。「あなたと同じような症状を訴えてくる患者は、 最近、多いのですよ。世間には、虚無がみなぎっておりますから れた代々の女と男との間の愛とか悲しみとか、信頼とか不信とか、 人間くさい色々なことが : 。あるいは、もっと合理的に割りきらな。まあ、時代病といった方がよい。わたしたって、ときどき死ん でしまいたくなる : ・ : ・」ありきたりの返事だった。しかしもっとも れたメカニックな作業だったのだろうか。 いずれにしても、ガーランは最終的に、胎外子宮といわれる器機だとガーランも思っていた。いまの時代で健全でいられるのは、人 工頭脳ぐらいのものだ。 の中で受精され、そこより生まれ出たのであった。 「まあ、この薬でものんでみてください」 ガーランこそ、この太陽系時代のフランケンシュタインたちが創 出したミュータンツの一人だったのだ : ガーランが変異人だと知ってからは、医師は正直だった。普通な ら、もっともっともらしい顔をして薬の効能をあげつらい、患者を 暗示にかけようとしただろう。 チャンネル 2 「何ですか」 「多幸薬です。一時しのぎにはなりますよ」といって医師は、なげ あとから考えてみて、あの観念が、ガーランを支配しはじめたのやりな態度で窓の外をちらっと眺めた。「人類はもう駄目ですよ。 はいっ頃からだづたのだろうか、彼にはどうしても思い出せなかっ薬の助けをかりなくては、 いらときだって生きていけなくなる : 5 9