本当にそうなるのか、いっそうなるのか、私たちにはわかりませんえと、ン・ンとかいう所へ、おくりこむ事に反対しないんだな ? 」 でした。何代も何代も、かそえ切れない年月を、ムムはむなしく待「誰が運命にさからえましよう ! 」長老はびつくりするような大声 ちました。あまりに長い間待ちつづけたため、私たちの心はつかでいった。「誰が予言に語られた連命に反抗できましよう ! れ、すり切れ、予言は大昔のつくり話かも知れないと思うようにな たちムムは、何千万キイもの間、ほかの星の人々ともまじわらず、 りました。しかしーー突然予言は本当になりました。あなたがた見出してももらえず、この星にくらしてきた。時おりさまよいつく が、あの失われた聖地を見つけ : : : 予言の通りに 、″イハン・ハの封舟はあっても、その舟の人たちがかえって行ったあと、私たちの事 じ石″をくずしました」 をあらためてたずねてくることはなかった。そのうち、突然あなた 「そこまでは何度もきいた」隊長は毛のない頭をつるつるなでなが たちがやってきた。私たちは、あなたたちもまたかえって行き、私 ら、いらだたしそうにいった。「でーーーそれでどうなる、ときいてたちムムは、この宇宙の果てにふたたび忘れられるのだろうと思っ いるんだ。その″ン・ハイハの封じ石〃がこわれたら、どういう事にていた。 ところがあなたたちこそ、あの予言に語られた人たち なるんだ ? 」 だった。その証拠にあなたたちは、ついに、誰もやらなかった″ン 「それから : : : あなたたちは、あの″聖なる神の檻″へ行きます : ・ 。そして ハイハの封じ石″を見つけた。予言に語られた通りに : これも予言にあった通りです」 あなたたちは、あの石をこわし、これからン・ンへ行く。あの予言 「で、それから ? 」 の通りに : 。あなたがン・ンへいらっしやるのは、予言に語られ 「ムムに再び栄光の日が来ます : : : 」長老は恍惚としたように空をた運命です。私どもがさからっても、どうなるものではない : ながめた。「かってのように、ムム族が、再び栄光の中に立つ日が トウク・トウクの姿が、列柱のはずれにあらわれた。それを合図 くるのです : : : 」 にしたように、神殿のすみずみ、丘のまわりに、トクトクトクトク : と節足両棲類の鳴き声がたちの・ほりはじめた。 日没だ。 「どういう具台にだ ? 」 「神の神、まことの神ン ) ハンバのみ心によって : : : 」 「きいたか ? 」とダニエルはふりかえって声をかけた。「長老は、 「われわれが、あの″結晶星団″へ行く事が、どうしてムムの栄光のわれわれの探査に反対しない、といっているそ。賭けは : : : 」 「どこにもいないようです : : : 」トウク・トウクは、ダニエルなそ 復活につながるんだ ? 」アイは隊長の傍から体をのり出してきいた。 「神のみ心によって、です : : : 」長老は同じ事をくりかえした。眼中にないように、ネク隊長にむかってささやいた。「もっとほか さだめ 「 : : : 神のきめたもうた運命によってです。そのさだめは、古い予の所を手わけしてさがしていますが : : : 」 いっかはそうなるのだ、と : : : 」 言にあります : 「ーー私たちはどうしても司祭長にあってみたい」と隊長はトウク ・トウクの言葉をきいて、長老の方にあらためてむきなおった。 「ちょっときかしてくれ : : : 」ダニエルが口をはさんだ。「じゃ、 あんたたちはーーおれたちが、探査装置を、あの″暗黒″へ え「教えてくれ。彼はどうしてここにいない ? どこにいる ? 」 6
″ン・ハイハの封じ石″も見つかってし「もう来てるよ」トウク・トウクは、ツバ星人特有の変てこな笑顔 いた言葉を思い出した。 をつくって、穴を指した。「今朝早く、ワープ・ステーションから まったし : : : 。 「こいよーー」と、トウク・トウクは言った。「あの石を見なが鉄砲玉みたいにとび出して来た。彼のおかげで、古代地図が解読で きて、ここが見つかったんた。今、 穴の底にいる」 ら、穴の周囲をまわってみろ」 さっきから、三人のすぐ傍にあるウインチドラムがまわってい 二人はトウク・トウクのあとについて、六角形の穴の縁にそって た。ーー・滑車が鳴ると、穴の底から、四、五人ものれそうな・ハケッ 歩き出した。ーー今度先に見つけたのはダニエルだった。 「おい ! まさか : : : 」とダニエルは、トウク・トウクのひょろ長トが上って来た。 い腕をつかんだ。「あの岩は : : : 」 「どうだった ? 」穴の底から上って来た考古学班のメイハーにトウ 「そうだ。ー、ー宙に浮いてる・・・・ : 」とトウク・トウクは言った。 ク・トウクは声をかけた。「なにか見つかったか ? 」 「穴の底におりてみるか ? もっとはっきりする・せ」 「ンカ・・ハ教授が、どうやら碑文らしいものを見つけたようです」 「いったい何のカで浮いてるんだ ? 」アイも呆然として、そのまると班員はいった。「それからーーー穴の底のビラミッドは、人工のも い岩塊を見つめた。「穴の中央部に : : : 何のささえもなしにうかんのではありませんでした。長年月の間に流れこんだ土砂が堆積した でいるのか ? 」 ものらしいです」 「今の所、磁力だと思うんだがね : : : 」とトウク・トウクはいっ 「おりてみるか ? 」デリックが首をふって・ハケットが三人の方に近 た。「たしかに、まわりからの強い磁場があの岩塊を極として走っよって来ると、トウク・トウクはふりかえって言った。「百メート ているのはたしかだがー・ーそれもよくしらべてみん事にはな。あの ルほどた。 少し炭酸ガスが多いから、代謝装置をつよめにした 岩塊がよほどかるいか、それとも、磁カ以外の何かの力も、くわわ方がいい」 っているのか、まだはっきりしない」 三人がのりこむと、デリックはまた大きく首をふって、穴の上に 「あれカ ; 、″ン・ハン・ハの封じ石″だとどうしてわかった ? 」 ハケットをさし出した。 ゆらゆらゆれる・ハケットの下に、六角 「あちこちに見つかったムムの超古代遺跡の、いたる所に書かれて筒形の穴が、暗黒のロを、地下にむかって垂直にひらいている。ト ・ハケットはゆるやかにゆれなが た文章からだよ : : : 」トウク・トウクはやや得意げに言った。 ウク・トウクがボタンをおすと、 ヒェログ 「星間言語学のンカ・・ハ教授が、とうとうムムの神聖古代文字を解ら、地下にむかっておりはじめた。まわりの壁は、鋼鉄色に光って 読したんだ」 が、すぐそのなめらかな光沢は消え、漆黒と言っていい 闇が三人をつつんた。 「なるほどーー」ダニエルは肩をすくめた。「ンカ・・ハ教授か。 ー彼はまた、きちがいみたいになって、この星へ来たがるだろうな星のかけらのように宙にういて、上部をにぶく光らせている岩塊 の傍を通りすぎると、・ ( ケットはぐぐっ、とゆれて、穴の中心部に 2 4
ールしたんだろう」 ラルド色の光点を十四箇くみあわせた結晶星団の空間模像があり、 「とにかく、本部から現在出ているのは、待機命令で、中止命令じその中心部から流れ出す赤い光の帯が、ゆっくり上から下へ動いて ゃないんですね」とダニエルはいった。「われわれの方は、一応予いる。 定通り作業をすすめますからね。いまから三時間後には、一切の準「隊長はどうだ ? 」と・ハラは、二人の方を見ずに言った。「本部か 備が完了します。ーーそのあと二十七時間の間、い つでも探査を開らの許可はおりたか ? 」 始できるようにしておきます」 「まだだ : : : 」とダ一「エルはこたえた。「だが、こちらの作業をお 「よろしい , ・ーー準備が終ったら知らせてくれ。その時点で、私も本さえにかかっている連中がいる事はわかった。考古学班だ」 部に決断を仰ぐ」 間にうかぶ光 ・ハラはダニエルの話にはまるで注意をはらわず、空 点を、ひょいとつまんでひねったり、光点と光点の間をひょいと七 アイとダニエルは、手をあげて司令室を出た。 まっすぐキャ本の指をそろえて切るようなしぐさをつづけた。・ハラの扁平で大き ンプの外へ出る気もせず、二人は司令部のカプセルのつづきになっ な頭部の、地球人のこめかみに相当する所のコンセントに電子脳に ている探査用ワー。フ装置のあるドームへむかう廊下を歩いて行っ 四本の触手を、たくみに つながるコードがさしこまれている。 踊るように光点の間をひらひら泳がせながら、ラは作業をつづけ ドームの中では、巨大な発振装置や、螢光をはなっパイプ類がやた。 たらにこんがらがった装置に、数人の隊員がとりつき、最後の準備「これでいい : : 」と、・ハラはつぶやいた。「これであと、装置と をいそいでいた。 接触さえさせれば、ビーム発生装置は自動的に星団中心部とこの惑 「よう、アイ : : : 」と、装置の上にいた一人が声をかけた。「また星との間の″通路″を追跡する」 君と御対面かい ? 」 そういうと・ハラはやっと二人の方をふりかえった。ー・・ー・度の強い 「今日はいい よ」と、アイは手をふった。「正直いっていささかう近眼鏡そっくりの眼球の第二角膜が上にはね上り、下からずっと小 んざりだ」 さい、まんまるいガラス球そっくりの第一眼球が出てきた。 「これ、わかるか ? 」 二人は装置をまわって、ドームの一隅の区切られた一廓にちかづ そういうと 、・ハラはテー・フルの上から白いポードをとり上げて、 いて行った。 その一廓の中では、アルクトウルスから参加している天体物理学結晶星団の模様の中心部から出ている赤い光の帯をさえぎった。 ーポードの上に、赤い、扁平な楕円の光斑がうかんだ。 者の・ハラ隊員が、超指向性歪曲波ビームの照準装置を調整してい 空間に、ただやたらに黄や青や赤、緑の光点がふわふわう「この赤い光が、今言った空間の″廊下″だ。歪曲波ビームはこの 9 空間を通って星団の中心部にはいる。それにのって、君は全宇宙の かんで明減しているにすぎないように見えるその装置の傍に、エメ こ 0 こ 0
「いったいなんだってあんな事をしたんだ ? 」ンカ・教授がキイ でないように、腕がそろそろと動いて、その球にのびて行くのを、 キイ声でたずねた。「どういうつもりだ ? 」 恐怖を感じながら見ていた。 やめろー とはげしい怒号が周囲をつつんだ。よせー 立ち「ン・ンですよ : : : 」アイはいった。「この遺跡の中に、″暗黒″ : 。・ま , はいっ 去るのだ。やめないか ! : : : 助けて : : : とか・ほそい悲鳴はすすり泣に相当するところがあるはずだ、と思ったもので : ・ : 早く・ : : ・早く・・ : : 助けて。そう くように耳の芯にまといつく。 たい、どうなりました ? 」 : もうちょっとだ・ : ・ : と嘲笑うようなしわがれ声がいう。 「一度消えた : : : 」トウク・トウクはいった。「あの。ヒラミッドの : その突起にさわるのだ。 : ほら : : : ほら。指先に、なにかぼっ頂点でーーーーおれたちは下からライトで照らしていた。君は、あのと んとした感触が起った。とたんに体がふわっとうき上り、穴がぐう がった砂の頂点に、ふらふらしながら立ち : : : それからなにかにの っとまわり出した。闇の中できりきりまわりながら、彼の体はどこみこまれるように消えたんた。次の瞬間、さかさに壁にたたきつけ かへおちはじめた : まわりに明るい光があふれてきた。 上方からのそきこむ隊員 ☆ 4 ☆ の顔が見え、やがてデリックがぐうっとゆれる。 「どうしたんだ ? 」 「動かない方がいいそ : : : 」 と隊長が、バケットからおりてくる四人の様子を見て、不審そう ダニエルの声がどこか遠くでいった。 さっきまでおちていたな顔をした。 体が、今は上へのぼって行く。 「なにかあったのか ? 」 「大丈夫た : : : 」 「いや、なんでもありません。大した事はないんです」アイは、自 彼は大きく息を吸った。 ダニエルの指が、のどもとの呼気調分からほかの三人をおさえこむようにいった。「それより、そちら 節弁をさわっている。 こそ何かあったんですか ? 急に穴からひきあげるのは : : : 」 : 」と隊長はくろずんだまわりにそびえ 「大丈夫だよ : : : 」彼はもう一度いった。「何ともないよ。考えて「ムムの様子がおかしい : もみろ。おれは : : : 」 たっ火口壁を見上げながらつぶやいた。「いままでこの班でつかっ 「どんなおち方をしたと思う ? 」トウク・トウクは腹をたてたようていた連中が、一人もいなくなってしまった。本部の方からも連絡 にいった。「上の光る石のところまではねとばされて : : : それから があって、あちらでもムムがみんなどこかへ行ってしまったらし まっさかさまだそ。いくらサイボーグだといっても : : : 」 いまはいった連絡では、このあたりのムムは、い っせいに ある場所にあつまりはじめているらしいが : : : 」 「チェックしているよ」アイは体を起した。「知らないのか ? ーー 「それは : : : 」トウク・トウクは茶色の顔をこわばらせた。「われ 今度、新しい警報装置をつけたんだ」 ◆ - 」 0 ☆☆ 5
「司祭長はどこにいる ? 」アイは前列の方を見わたしながらきい 「なにが起ったんだ ? 」アイはしやがみこんできいた。「なぜみんた。「どうして長老たけしかいないんだ ? 」 な、突然集ってきたんだ ? 」 カノはもうこたえず、再び聖なる柱にむかってぬかずき、祈りの 「大昔の予言の成就する日が来たからです : : : 」とキンナ 六角形の広間の中にぎっしりつまった 言葉をとなえはじめた。 や、カノはおごそかな顔をしてこたえた。「旦那はいよいよ今度ー群衆の祈りの声は、日がかたむくにつれ、ますますはげしく、ま、す ーン・ンへ行くんですね」 ます熱狂的になりつつある。 「それがその″予言″とやらと、関係があるのか ? 」アイはかすか嵐のような祈りの声の間をぬけて、祭壇わきにかたまっている一 ないらだちをお・ほえながらいった。「第一 : : : おれたちが、あの行の所へかえって行くと、隊長が長老と何か話していた。 ″暗黒″ ン・ンとかへ、観測装置をとばすのは、何もこれがは「なにかわかったか ? 」 じめてじゃない。それもほとんど、毎回この星を基地にしてやって アイはダニエルにささやいた。 きた。その上、今度の事だって、ムムの連中ははじめから知ってい 「なにも : : : 」ダニエルは首をふった。「なんでも、予言が真実に たはずだ。きのうまで、君たちはおれたちのやろうとしていること なったんだそうだ : : : 」 にしごく冷淡だった。それが今日になってな・せ、突然、″予言″が 「それはおれもきいた。 だが、どう真実になったんた ? 」 どうの、といい出したんだ ? な・せこんな大集会をひらくんだ ? 」 「つまりだなーー空の果てからやって来た異星の連中力 「今朝になって、突然予言が真実になったからです : : : 」カノは複・ ( の封印″をひらく、という予言があるんだそうだ」 : とうとう " ンくン・ 雑な表情をしてつぶやいた。「旦那たちは : いったいどうなるというんだい ? 」 「開いたら の封じ石を見つけましたね。そしてそれをーーーこわしたでしよう「知らんーー・連中は、そこらへんをはっきり言わない。なんだかひ どくあいまいだ」 さ 「たしかにーー・考古学班の連中は、今まで見つかった中で、一番古 トウク・トウクの姿が、調査隊一行の中に見えなかった。 い遺跡を見つけた」アイは、奇妙な思いにおそわれながらいった。 つきまでいっしょにいた、考古学班の連中のうちの二人ばかりも、 「そしてそいつはーーー見つけたすぐあと、地震のためにこわれた。 トウク・トウクとともに神殿遺跡の中から消えていた。 : だが、どうしてそれが、″予言が真実になる″事と関係がある アイは、長老ズザと話しているネク隊長とンカ・パ教授の所へち かづいて行った。 んだ ? 」 「私にはよく説明できません : : : 」カノはよそよそしく言った。 「 : : : そうです。予言はとうとう本当になりました : : : 」と長老 こ」う 「それにーー・・それはムムだけの問題です。ムムの信仰の問題ですかは、黒光りする顔をふっておごそかにいった。「いっかは : いう事になると、古い神聖な予言にはありました。しかし、それが
われが、この″伝説の聖地″を見つけた事と関係があると思いますはいって行った。 「それで ? 」とダニエルはきいた。 「それつきりさ : : : 」トウク・トウクは眼をぎよろりとまわしてい 「あると思うな : : : 」隊長は頭をつるりとなぜた。「さっき、山か った。「おれと教授は、てつきり長老が支度をしに行ったんだと思 ら山へ、おかしな音がひびいたろう。あれがおそらく連中の合図 君たちが、この星の各地にある遺跡にのこされた線刻や碑ったんで、しばらく待っていた。だが、いくら待っても出てこない 藻抜けのからた。家族もろとも : 文から、ムム族も伝承だけのこして、ある場所を見失ってしまってんで、奥へはいってみた。 いたこの″イ ( ン・ ( の封じ石″を見つけた。」連中にとっては、大事・ : 」 「どこへ行ったんだ ? 件だろう」 「わからん。 ・ : 」ンカ・・ハ教授は首をすくめた。「われわれはき 「しかし、連中はこの″伝説の聖地″を見つけた時は、一緒にいた っと司祭の所だろうと思って、司祭の家へ行った。ーー・家の中は一 んでしよう ? 」ダニエルは森閑として鳥もとばぬくろずんだ空をな がめながらいった。「おかしい話たな。 われわれが聖地を見つ足ちがいという感じでからつ。ほさ : : : 」 「だが、おれたちがムムの人夫を集めて、ここへくる時、連中は、 け、その中にふみこんでほじくりかえすのを、連中はおとなしくだ もうおれたちがどこへ行こうとしているか、何をしようとしている まって見ていたんですか ? 」 「その事なんだが : : ・・」トウク・トウクは七本の触手をひらひらさか、ちゃんと知っているみたいだ「た : : : 」 せていった。「当然われわれも、この失われた聖地の発見と、内部「連中は、ごくかすかたが、テレ。 ( シイの能力を持っているんた : : 」とアイはいった。「でーーームムの連中はどうしたんだ ? だま の調査について、連中の長老格に許可をもとめようとした : : : 」 って、君たちの調査を見ていたのか ? 」 「で、どうした ? 」とアイはきいた。 「そうなんだ。まるで他人事のように、無表情な顔つきで : : : 」 「それがまことに妙なんだ : : : 」トウク・トウクは指をくみあわせ さっき壁 その時、アイは足もとがふらりとするのを感じた。 た。「今朝早く、ンカ・バ教授が、鉄砲玉みたいにステーションか らとび出して来て、おれたちはすぐ長老のドザの所へ行った。おれにたたきつけられて穴の底におちた時、やはりどこか具合が悪くな っているのか、と思って、アイは精密検査装置のスイッチを入れよ あちこちの遺跡の、いたる所で見つかっ たちは説明したさ。 た。あの結品星団の図形と、これまで解説できなかった古代文字のうと、胸もとに手をのばした。だが、足もとはまたぐらりとゆれ 碑文から、〃ン・ハン・ハの封じ石を、今度こそ本当に見つける、と 話したんだ。よければ、この地域の司祭長といっしょに立ちあって異様な叫びが傍らからあがった。 くれないか、と : ・ : 。ドザはしばらくおれたちの顔を見ていたが、 「地震 ! 」 とアイは叫んた。 ″わかりました、しばらくお待ちください″といって、小屋の奥へ こ 0 3 5
の探索者として挑もうとしているのたった : もうだいぶ北西の空にかたむいているようだった。 トクトクトク・ そのうち、ダニエルがふいに足をとめて。 「ほら、上ってくるそ : : : 」と、低い声でつぶやいた。「あれた : と節足両棲類たちの鳴き声は、十四個の恒星のつよい輝きをむか いつ見てもすごいな : : : 」 えてよろこびの叫びをあけるように、一層かしましくなりはじめ、 彼もダニエルとならんで足をとめた。 まるでこの惑星の表面全体が鳴っているようだった。 まったく、この星に来てから、その夜空への登場を何十回目撃し ああ、あなたは行ってしまった、 ただろう。 だが、そのたびに、身内が冷たくひきしまるよう もう二度とかえってこない : な、異様な、神秘的な感動が、体内を貫き、かすかな戦慄を感する また新たな、節足両棲類をつかまえたらしいキンナの声が、南東 のをどうする事もできない。 の青白い光と、北西の黄ばんだ光に照らされた惑星の大気の中を、 いま、それは、南東の地平をはなれ、北西へかたむく第三衛星のゆらめきながらわたりはじめた。 ーーその登場 あとを追うように、ゆっくりと夜空への・ほって来た。 あなたはかえらずともよい とともに、満天の星は輝きを失い、巨大な黄色の三日月の光さえ、 のこされた私は、このわびしい星に 色あせたように見えた。 あなたの事を思いつつくちて行く。 クリスダル 大宇宙の奇蹟ーーー″結晶星団″ それでいい : 青白く燃える十四個の恒星を、巨大な水晶のように六方晶系型に あなたは二度とかえらぬ方がいし : 配列した星団ーーそれが「奇蹟」とよばれるのは、天球上の見かけ ものぐるおしいこの火を、 が水晶の結品のように見えるたけでなく、ほとんど同じ大きさの恒 ふたたびかきたてられれば、 星が、いかなる創成の秘密によってか、実際に水晶型にきっちり 私はもはやたえられまい : と、等間隔に配列されている事だった。正六角形に配置された恒星 ☆☆ が二組ーーーこれが正確な六角柱を形づくる。そして、水晶の結晶の ☆ 2 ☆ とがった先端に相当する所にそれそれ一つずつ、これも六角柱の両 ☆☆ 端面を形づくる六つの星から等距離の所に配されている : 「なぜ、これ以上延期する必要があるんです ? ー彼ーーアイはやや 一稜の視角二度という巨大な天空の水晶は、青白く輝きながら、気色ばんで隊長にきいた。「この惑星と星団の空間関係が送達に絶 南東の空にの・ほりつつあった。 天空の秘蹟とされ、この星団を好な状態にあるのは、あとせいぜい三十時間ぐらいです。それがす タブ かこむ、数多くの恒星系の知的種族の間で、神秘とよばれ、禁忌とぎたら、装置類をまたセットしなおさなきゃなりません。そうなる 5 されているあの星団に、やがて彼が、全宇宙の知的生物の中の最初と、どうしたってぎりぎり十二時間はかかるでしよう。ーー・指向修
「それも先ほど申し上けました : : : 」長老は無表情にいった。「司 いうんです ! ーー予言があたろうがあたるまいが、それは連中の社 祭長は、ただ一人、秘密の祈所で祈っているはずです。ーー今朝会の中の問題で、われわれには関係ないはずだ」 早くから : : : あなたちが、失われた聖地を見つけた、という知らせ「この星の予言や伝説がすべて荒唐無稽とは必ずしも言いきれない がはいった時から ! 」 よ」と口をはさんだのは意外な事に・ハラだった。「前の調査の時し 「しかし、こんな祈りの大集会に、司祭長がいないのはおかしい : ・ らべてみたんだが この星で、大昔は、時間がゆっくりたってい : ・」トウク・トウクはせきこんでいった。「ほかの司祭たちは来てた、という証拠はある。なぜこのあたりだけ時間のたち方がおくれ いるのに : : : そういえば、二、三人は見えないようだが : : : 」 たのか、原因はよくわからないが : : : ずっと昔、ここからあまり遠 「もっとも重要な時であるが故に、司祭長は秘密の場所で、もっとくない空域で、超新星クラスの爆発があった。まわりの恒星系文明 も重要な祭儀をとりおこなっているのです : : : 」長老はかたい声でにも記録されているが この時、非常に特異な、放射性元素を含 いった。「そうするものだそうです。ーーーそこの所は私にもわかり んだ隕石が、まわりの星をおそっている。特殊な元素配分比になっ ません」 ているので、どこにあってもそれとわかるんだがーーーその中で、こ 「秘密の祈所ってどこだ ? 」 の星におちて来た隕石だけ、放射性元素の転換が、ずっとおくれて 「私どもは知りません。司祭長だけが知っている所です : : : 」 いるんた。計算してみると、超新星爆発当時から、二千万キイほど 「もういいでしよう。隊長 : : : 」とダニエルはうんざりしたように前までの間、この星系では、他の恒星系にくらべて、時間のすすみ いった。「どっちにしても、連中は反対じゃないんだ。 これで方が百分の一だったとしか考えられない 考古学班の方で、決行にプレーキをかける口実もなくなったと思い 「二千万キイ前ーーーというと、あの″ン ' ハン・ハの封じ石″がつくら ますが : 。そうだろ、トウク・トウク。連中にしてみれば、おれれたころだな : : : 」ンカ・・ ( 教授がつぶやいた。「とすると、それ たちが、アイをとばすのは、すべて大昔の予言にきめられた連命な以前の事を記した年代記は、時間を宇宙平均時の百倍にのばして考 んだからな」 えなきゃならん : ・ : ・」 その時、トウク・トウクの顔に、はっとしたような表情がうかん 「それともう一つ、古くからこのあたりーー特に″結晶星団 4 の事 : 」 0 を、″宇宙のへそ″とか″虚空の要″とよんでいるが これがな 「よろしい とにかく基地へかえろう」と隊長はむずかしい顏 かなか適切な表現なんだ : : : 」と・ハラはつづけた。「このあたり でいった。「本部へ連絡をとる前に : : : もう一度会議た」 は、いわば星の過疎地帯だが、それでもまわりの恒星系に、正確な 天体観測の伝統が非常に古くからたくさんあった、という点では特 「いまさら何をためらう事があるんです ? 」ダニエルは腹だたしそ異な所だ。そういったあちこちの観測記録を統合し、恒星の固有運 うにいった。「連中の先祖の、荒唐無稽な予言や伝説が、何だって動を統合してみると、あの結晶星団は、ほとんど固有運動をしてい かなめ 6
いった。「おれはおれなりに、理由があって、ごちらの徹底調査がたちでびっしりおおわれているのが見えた。黒の、茶の、灰青色の ムムたちの顔が、すべて神殿にむかい、ひびきわたる音につれて、 といっているんだ」 すむまで、延期した方がいい 、っせいに何かをとなえ、くりかえしとなえているのたった。 「すごく集ったものた : : : 」ダニエルは丘を見おろしながらつぶや ☆ 5 ☆ : このあたりのムム族はみんな集っち いた。「何十万いるたろう : ☆☆ 「神殿の丘」は、基地から約六キロはなれたスロー。フのはすれにあまったんじゃないか ? 」 : なんと言ってるんですか ? 」アイは足下から湧き上る 「あれは : 巨大な石造建築の遺跡が、ほとんど崩壊してつみかさな っており、時おり古い信仰をもっムムの老人たちがおとすれて祈り声に耳をかたむけながら、ンカ・教授にきいた。「あれもムム語 あはりきいた事がない調子だが : : : 」 をささげるほか、訪うものもなく、節足両棲類や野性の多足大のすですか ? ーー み家になり、所々にのこる列柱群や、六角形の石をつみ上げた壁「古代ムム語たな : : : 」教授はききいりながらつぶやいた。「うん ″帰りたまえ : : : 神 も、うす茶色のフウセンボクがおいしげつて、荘厳にして巨大であと古いタイ。フた。 : : : 祈りの文句らしい みなしご 。われらは見すてられし孤児なり : このよ、帰りたまえ : ったろうその最盛期の景観を、しのぶよすがもなかった。 いそんな意味の事をくりかえしとなえている : : : 」 星の、いたる所に見出されるこういった神殿の廃墟の建設年代は、 ほとんど千二百万キイから、八百万キイ以前と推定され、それ以後アイオノクラフトは、神殿の正面入口の背後にあるわずかな空地 まわりは、神殿廃墟からはみ出したムム を目がけて降下した。 になると、ふつつりととたえてしまい、その約四百万キイの間が、 ムムの文明、人口、信仰の最盛期にあって、あとは急速にムム族のが、大勢ひざまずき、単調な祈りの言葉を、くりかえしくりかえし となえている。一行が、ムムたちの間をかきわけて神殿の方に歩き エネルギーそのものが衰弱してしまった事がわかるのだった。 基地から遠くスロープのはしにのそむ事のできる、なたらかな半出しても、祈りに熱中している彼らはふりむきもしない。 球型の「神殿の丘」は、この界隈のみならず、ゾア 4 の上でも最大「ダ = = ル : こ・ほちれた列柱にちかづくと、その影から、・ ( ラのひらべったい のーーーそしてさだかではないが、ムム族にとってもっとも重要な 神殿遺跡の一つらしい、と、かねがね考古学班の連中は言って大頭がのそいて声をかけた。 「来てたのか ? 」ダニエルはちかよりながらいった。 いまその丘の頂きから、あの太鼓とも鐘ともっかぬ音が四方に鳴「ああ , ーーなんだかあまり異様なんで : : : 」 りわたり、丘へむかって、四方から集ってくるムムたちの列が、延「いったい何が起ったんた ? 」 「わからん、突然鐘が鳴り出し、突然あちこちから集り出して、今 々とつづいていた。 アイオノクラフトが高度を下げると、丘の上が、集ってきたムムはただ祈っている : : : 」 5
では、太古、時間が、宇宙平均よりはるかにゆっくり流れていたと「じゃ、一番古いものが、一番高度な技術でつくられているわけか ・ : 」ダニエルは不思議そうにつぶやいた。「二千万キイもの長い いうんだ。」 「それは本当ですか ? 」ダニエルは眼を見はった。「重力加速度が時間の間に、ムムの文明は退化したわけかな ? 」 証拠はありますか ? 」 大きかったのかな ? ーーー一 「まあ待てーーその答えも、この碑文にあると思う 0' もしこれが真 「らしいものは見つかっている。いずれ発掘現場に、物理学者たち実ならば : : : 」ンカ・・ハ教授は円盤状のメモを、ゆっくりと頭部の をよばなければならんだろう」トウク・トウクは自信ありげにいっ皮膚の間にできている裂け目にさしこんだ。さっき超脳生物が神経 索をさしこんでいた所だ。しわだらけの皮膚が、歯のない唇のよう た。「それより教授、碑文の内容をきかせていただけますか ? 」 「外へ出よう」と教授はいった。「ここは息苦しい よし、機械に、円盤をもぐもぐのみこんでしまう。「このムム古代文字は ヒェログリフ はかたづけろ。土壁がくずれないように注意するんだ」 これも今まで見つかった中で、一番古い形で、これがムム神聖文字 の原理たろう。一部、ちょっとわかりにくい所があるが、大体解読 三人は六十度の斜面をはい上って、トンネルの外へ出た。 トンネルの外では、六角形の穴の隅で、作業員が、角の丸石を注できた。いいかね ? 」 意深くほり出していた。六角形の角々に、あの結品星団を構成する「ええーーー」トウク・トウクが顱頂眼だけのこして眼をとじながら いった。「きかせてください : 星をかたどった、緑色の螢光をはなっ丸石がうめこんである。 と、三人の頭の中に、教授が読みはじめ もう三個が堆積した土砂の中から掘り出され、まるく、・ほんやり光教授はロをとじた。 っている。 たメモの言葉がひびきはじめた。 「もし、あの碑文が後代のインチキでないとしたら : : : 」教授は、 第四手の上膊の皮膚にできているポケット状の嚢の中から、円盤状 ーーミスラのはじめなる王の、子の子、孫の孫 のメモをとり出しながらいった。「これは、今までこの惑星上で見 たるものにして、はじめの王よりかそえて七代 そうだろう ? トウク・トウク つかった、最古の古代遺跡だ。 の王、ミスラの家の世の四四三キイの年にこれ はしびと を記す。ゾアの第四の星人にして、偉大なる宇 し・ヘ トウク・トウクは上方にうかぶ 「そして、もっとも精巧な : ・ 宙の創造者の僕たるもの、その子の子、孫の孫 たちに、神の中の神、まことの神、もっとも偉 黒い″封し石″を見上げながらつぶやいた。「ン・ハン・ハ神殿遺跡の どんなものも、こんなに高度な技術でつくられたものはありませ 大にして、もっとも強力なる宇宙の創造者の戒 めをふたたび忘るることあらざらしめんがため ん。 穴の壁面をしらべたんですが、石をつんだのでなく、巨大 なり : な岩盤を高熱でくりぬいたか、あるいは岩と岩とを溶接したもので 5 4