火星人 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

の残骸に、風はロ笛のように鋭く鳴った。明日の出発を思うと、フ 「行きやがった ! 」 フサが眠っているうちにかれは自分の計画を実行したのだ。 サも寝つかれなかった。寝がえりをくりかえしているうちにいつの キャイテン 間にか寝入ってしまった。眠りの中に船長やクロスやフルイが何回砂あらしがおとろえを見せるまでの長い時間を、フサは耐え難い もあらわれた。フサはそのたびに、偵察艇の満載重量に自分とスホ不安と焦燥の中で過した。 ーイの重量しかいれていなかったことに気づいてがく然となっても夜明けとともに砂あらしはいくぶんおとろえを見せた。偵察艇の う一度、最初から計算をやりなおすのだった。いっ終るともしれな外へ出てしらべてみると、二台あった地上車のうち一台が姿を消し いその作業は、とっぜんすさまじい地ひびきで破られた。はね起きていた。残った一台も車体の半分を砂に埋めている。スホーイが組 ーパ』の船体 たフサの目に、烈風の中に、怪鳥のようにひるがえって飛び去るみ立てた大出力の発信機は無事だったが、『キシロコ 『キシロコ ーパ』の外鈑が映った。おびただしい破片や四散してい から、はね上った支持架まで巨大なフェンスのように張りわたした る器機や部品が、竸争しているように平原を走っていた。散弾の掃アンテナは風に引き裂かれてどこかへ飛んでしまっていた。フサの 射のような砂あらしがおそってきた。 おそれていた事態が現実のものとなった。 「スホーイー いそげ ! 」 「そううまくゆくわけはねえと思っていたんだ」 フサは毛布を頭からかぶって偵察艇のキャ / ビーにころげこん フサは残された地上車のエンジンを始動させた。スホーイの向っ べッド・ハウス だ。その直後、それまで二人が寝小屋に使っていた急造のイグルー た方向は偵察車のタカンが示している。キャタビラーが砂を巻き上 が吹き飛んだ。偵察艇のノズルをビニール布で何重にも包んでおいげると、まだ吹きやまない風に砂は爆煙のように舞い上った。 たのがよかった。偶然にヘさきが風上を向いていたのがもっとよか夜は完全に明けているのに、平原は暗色の薄幕につつまれている っこ 0 ようにほの暗かった。昨夜からの砂あらしが大気の高層をこまかい うめ 砂塵で充填ているのだろう。単調な平原はどこまで進んでも少しも 「スホーイはどうした ? 」 変らなかった。五時間ほど進んだ。スホ 1 イの計画では六時間の行 フサの背すじをつめたい衝撃がはしった。 程でおりかえすはずだった。 「やつは ! 」 間もなくそのおりかえし地点がこようとしていた。 イグルーの中にいなかった ! 機敏なことではフサ以上のかれ が、イグルーが吹き飛ぶまで中にとどまっていることはない。それ「おかしいな。ルートからそれたのだろうか ? 」 地上車のコンパスに頼れば偵察車の送る誘導電波のビームからそ にフサが脱出する瞬間にも内部にスホーイの気配はなかった。 「しまった ! 」 れて自由なコースをとることはできる。しかし惑星探検の経験の浅 いスホーイがそのような冒険をするとは思えなかった。フサは地上 いそいで送信ュニットのケースを開いてみるとタカンが作動して 車の操縦席の屋根に上って双眼鏡を目に当てた。何も発見できなか 8

2. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

マールゾオ神父を呼んできた。、かれは、不吉な広場まで大急ぎでやえていた音力な : 、よっきりと高まったことから、はじまった。教ムムか って来ると、役に立ちそうな祈りをぜんぶ唱えた。黒く塗られた塔らは、あまり嗅ぎなれないが不吉な感じに満ち満ちた悪臭が、しば のなかで響く、途切れることのない不思議な物音については、それらくうっすらと匂っていたけれど、いまこの悪臭は、我慢ならない が何であるか分からないにしろ、塔の内部から響いてくるという点ほど烈しいものに変わった。そのあとで、すくなくとも木材がヘし では疑問の余地がなかった。 折られる音が聞こえた。大きくて重い物が、いかめしい教会正面の 二時三十五分に起こった出来ごとに関しては、学歴教養ともにす東側にひろがる中庭に、ドスンと落ちる音も聞こえた。雨のために ぐれたひとりの青年牧師が語った証言があるし、群衆整理のために蝋燭を燃やせなかったから、塔を見ることはできなかったが、その 巡回区域のその地点にはいり込んでいた、もっとも信頼の置ける巡ものが地上に落下してきたとき、人々は、それが塔の東側の窓に付 査、セントラル・ステーションのウィリアム・・モノハンの証言 いていた、煤たらけのこけら板だったことに、気づいた。 もある。そのほかにも、教会を護る高い防壁のまわりに集まってい それから間髪をおかずに、ほんとうに一秒も我慢できないような た七十八名の市民の大部分が、おのおの証言を寄せているーーーとり 悪臭が、闇のなかの塔からただよってきた。その臭気は、ふるえお わけ、教会正面の東がわを望む広場に集まっていた市民の証言は、 ののく人々の息を詰まらせ、嘔吐を催させ、もうすこしで市民・せん 興味ぶかい 。といって、べつだん、自然法則では律しきれない現象ぶを広場に突っ伏させるほど強烈だった。それと同時に、翼のはば に対する確証を、そこから導きたせたというわけでもない。そうい たきによる波動が、大気中に伝わづたような、ピリ。ヒリという空気 った現象を引き起こす自然の要因よ、 ーいくらでもあるからた。広大の震動が起こった。そして今までに吹いたどんな突風よりもはげし で、古くて、しかも悪臭をただよわせ、さらに異質な内実を有した 、突然の東風が、群衆の帽子を飛ばし、人々の濡れた傘をもぎ取 廃院のなかで起こった未知な化学的変化について、確信をもって説った。蝋燭の光がない世界では、はっきりと見分けられるものな 明しつくせる人間など、いるはずはない。悪臭を含んた蒸気 , ーーもど、なにひとつなかったが、上空を見詰めていた群衆のなかには、 ちろん自然に発生したのたろうけれど、長いあいだの腐敗状態から墨を流したような空よりももっとどす黒いものが空を覆うのをかい 生まれたこれらガス圧は , ーー無数な現象のどれにも関連しているとま見たように思った。ーーー東の空に向かって流星のような速度で放 考えられるし、二度書くまでもなく、悪意ある〈人かつぎ〉の要素射された、かたちを持たない煙の雲にそっくりのなにかを、見たよ うに思った。 たってまったく否定し去られたわけではな、。 ところで、出来ごと というのは、それ自体非常に単純なものだったのだ。しかもその状出来ごとは、それで終わった。見守っていた人々は、戦慄と長れ 況が続いたのは、実質でたかだか三分ほどでしかなかった。いつもと、不快感のために、半分失神していたし、これからどうしよう 3 誠実なマールゾオ神父は、何度も何度も腕時計を覗きこんでいた。 か、いや、なにか行動を起こすことが良いのか悪いのか、そんなこ 6 出来ごとというのは、黒い塔の内側で、鈍く消え入るように聞ことすら分からない状態でいた。何が起こったかという点について、

3. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

るような妖魔の丘を、気違いみたいに驤け抜け、自室にある古式扉ておく習慣を身につけていた。机の前に坐りこんで、雨ふりしきる の前に、辿りつくまで、東へ延びる険しい崖道をの・ほりにのぼった。下町の家並が何マイルにもわたって濡れそぼち、白く輝いている彼 3 次の朝、正気に返ったとたん、かれは、自分がきっちりと身じた方に、眼をそそぎ、フェデラル・ヒルの目じるしとなる遠い星座の くをととのえたまま書斎の床に横たわっているのに気づいた。埃ような町明かりを喰いいるように見つめることで、かれの生活の大 と蜘蛛の巣が、体中に付いていた。おまけに、体の節ぶしが疼く部分は過ぎて行った。気分が乗ると、あぶなげな手つきで日記をひ し、血がにじんでもいる。鏡に映してみると、髪の毛がひどく焼けろげ、筆を運ぶけれど、そこに書きこまれる文章は、おおかたが、 こげているのが分かった。それに、奇妙で不吉な悪臭のかすかな名「光を消してはいけない」とか「自分がどこにいるかぐらい、ちゃ 残りが、上着にただよってもいた。かれの神経がすっかり麻痺してんと知っている」とか「あいつは、わたしがやつつけなければなら しまったのは、そのときだった。ドレッシンガウンに着かえ、疲れないのだ」とか、あるいは「あいつが呼んでいる。だが、おそらく 切った体を横たえてからというもの、かれは、雷鳴の接近に震えな今度は害を加えられる心配はないだろう」とかいった調子の、断片 がら、西の窓をしっと見つめるほかに、ほとんど何もせずにいた。的な文句ばかりだった。そういう文句が、日記二ペ 1 ジ分を費して 日記への記入も、意味が分からない乱雑な書き込みばかりになっ書きこまれているのだ。 こうして、街中の電灯が消えた。発電所の記録によれば、停電が 八月八日の深夜ちょっと前に、その大嵐はやって来た。いなずま発生したのは午前二時一二分たったが、・フレイクの記録には時間の が、繰り返し繰り返し街の全域を襲った。大きな流星が二つ、夜空ことはひとつも書かれていない。書き込みは単に、「光が消えたー を流れ過ぎたことも報告された。雨は、それこそどしゃ降りの体ー神よ、救いたまえ」とあるだけた。フェデラル・ヒルには、かれ で、絶え間なく落ちる雷鳴のとどろきが、何千もの人に眠られぬ一と同じように不安におののく人々がいた。雨にそ・ほ濡れた一団の住 夜を過ごさせた。プレイクは、発電システムの停止を懸念するあま民は、傘を雨よけにした蝋燭や、懐中電灯や、オイル・ランタンな 発狂の一歩手前にまで立ちいたっていた。かれは午前一時に電どを持ち、十字架をはじめとして、南イタリーあたりでよく見かけ 気会社に電話をいれたが、その時刻はちょうど、安全を保っためにる、正体のよく分からない護符を身につけて、教会を取りまく小路 発電を一時的に停止する時間に当たっていた。かれは日記にあらゆや広場を練り歩いた。かれらは、いなすまがひらめくたびに、それ ることを書きこんでいるーー大きくて、妙に細かくて、時には判読に祝福をあたえた。また嵐の勢いが変わって、雷鳴が遠ざかりはじ も不可能な象形文字をならべたてて、自分の心のなかで熱狂と絶望め、とうとう耳に聞こえなくなってしまうと、かれらは右手で、恐 ジェスチュア が昻まっていく過程を、しるしている。闇のなかで、盲減法に日記怖をあらわす無気味な手振りをしてみせた。吹きだした風が、ほと をつづっていったかれの状況を、後世に伝えかけている。 んどすべての蝋燭を消してしまい、そのために周りの光景は、威嚇 窓を覗きやすいようにというので、かれは普段から室内を暗くしをふくんだ暗闇に一変した。だれかが、ス。ヒリト・ サント教会から てい

4. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

畸竜、それから一一一畸竜、そして多角竜という系統をたどるが、そ険をしようとしないものだ。まずはじめに不完全な試作品をつくっ のうちトリケラト。フスはもっとも完成した型であり、スチラコザウてみせる。たとえば、新生代になって数十種のイルカを造りだすま ルスになると、役にもたたない多くの角を生やしてしまい、絶減にえに、中生代のうちにはやくも、イルカの先行型であるイクチオザ かてきおう ウルスやユーリノザウルスのような、魚竜の類を試みている。しか いたる過適応におちいっている。 しつこく 野牛のような完成した種と比較すると、たい〈ん不安定な先行型し、魚竜類は、爬虫類という桎梏を逃がれられなか 0 た。卵生が卵 プロトダイ・フ 胎生にかわってみても、一心房二心室の原始的な心臓や、尿酸ばか である角竜亜目は、欠陥の多い試作品にすぎないことがわかる。 りの排摂系や、体温の変動に左右される新陳代謝など、どのひとっ こうした関係は、剣歯虎スミロドンの先行型である有袋食肉獣チ ラ = スミルスにもみられる。外観のうえからは、両者の相違はほとをと 0 てもすべて不完全さを立証するものでしかなく、完成型のイ ルカには及ぶべくもなかった。 んどない。しかし、チラコスミルスのほうは、カンガルーの仲間が いったい、われわれ人類ーーーホモ・サビエンスと自から名のって 食肉目のような方向へ放散しただけの模造品にすぎない。かれら いた種は、進化史上でどのように位置づけられるのだろう ? は、巨大化した剣歯を相手の体に打ちこんで、獲物をしとめるとい ダイプスピシー う点において、のちに現われるほんものの食肉目スミ。ドンに似てかって、地球の歴史のうえで、ホモ・サ。ヒ = ンスのような型の種 いるが、たえず獲物を狙「て移動するという生活には、育児嚢をもは、現われたことがなか 0 た。自然を = ント。ールし、他の生物を 0 て仔を育てるという生活は、きわめて大きな ( ンディキャ , プに支配下におき、遺伝や宇宙など、かっていかなる種族も手をふれな な 0 ている。その意味で有袋肉食獣チラ 0 スミルスは、未来を先取か「た聖域にまでも、すすんで手を染めようとしている。その ような大それたことをしでかそうと考えた種は、かって一度も存 りした先駆者ともいえるが、試作品にありがちな欠陥が多すぎて、 在しなかった。なぜなら、こうした生活条件が、これまでの歴史の とても使いものにならなかったわけである。 おれは、ここ一一年ばかりのあいだに勉強した、動物学の知識をうえには存在していなか「たからだ。 空つ。ほの頭脳をもったテイラノザウルスや、大きな牙をもてあま おさらいしていた。 ここにあげた先行型の先例は、いわば進化史上の悲劇といすスミ。ドンや「ンモスは、こうした大文明を築く下地をもたなか ってよし。 、。よじめから試作品として運命づけられ、その種としてった。 なんとでも呼べばよいが、造物主、創造 そこで、造化の神 の素質の内部に包蔵される矛盾のゆえに、あっけなく亡びていく。 そして、かれらが絶減したのちにな「て「その生活環境に真に適合主、あるいは単に大文字から始まる主ーー・そうした自然を司どる大 きな意志と力をもった存在は、まず手はじめにプロコンスルのよう した種が登場してくる。 ピテカントロ・フス ンギーデ な霊長類からはじめ、南の猿やら猿人やらを試作しはじめ 万物の創造主、偉大な造物主・ーーなんと呼んでもかまわないが、 ・フロトタイ・フ この惑星の進化をつかさどる大きな力は、はじめから、いきなり冒る。それら試作品をくりかえしイナーチ = ンジして、はじめて現 スピシー スピシー ャヤピタ オーストラロピテクス

5. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

「おれね工、・フラウンの〈緑の星へ〉をやれる役者は、日本にや長ーラップ、オー ーラップでしつこく見せる。それから上を見上げ さンしかいね工とおもうんだ。やりてエなあ、彼で・ 。あんな悲るとカーツと真紅の太陽ーー・・・とそのフレームにヌッと、カメラわき 痛な顔してる役者って日本にや他にいないからね工。、、 しし顔してるから、ズタポロになった作業衣の背中が大きくフレームイン。正面 もン。″〈猿の惑星〉やらせるんだろう″なんて言ってたけど冗談からきりかえす。長さンのアップ。なにやらつぶやいている。ぐッ とズームイン。ロ許のクローズアップ。″ドロシーや : : 〃と例の せりふ。そしてそのまま長さンはあるき出す。そこでクレーンから の俯観。但し、長さんは画の四隅のどこかに入れて、左の肩だけは はじめつから絶対うっさない。 よろめくようにあるきつづける長さ ンのアップ。″ドロシーや : ″と語りかけるときたけ、その顔に 徴笑がー、ー・その微笑がどうにも悲痛なんだなア : そして救助艇がきて、艇長は仲本工事たな、艇長が″あなたの左 肩にはなにものつかってはいないのですよ″そのとたん ッ ギョッとなった長さンの恐怖に凍りついた顔のアップ 押す、そのまンま押す。遠くで風の音。アップで押すーーーと、 長さンの手が画のフレームの外で左肩に触れる気配 : ・ : それと同 時、ホッと安堵の表情がうかぶんだ : い、だう ? しびれるだろ ? そし助艇も艇長も消しちまった長さンが、″さア、ドロシー や、 / こ〃とあるきだす。かれの体がカメラに掩いかぶさる。さ っ りえてローポジションのクレーンで遠ざかっていく長さン の足許。そしてぐーツとクレーンアツ。フしはじめたカメラがはじめ て長さんの肩をうっすんだよ。左肩 , ーーなにものつかっていないー そこへさしくのびる右手。アツ。フで切りかえした長さんの放心し 勺れ。 " 一一、 ' マジにドラやりて = よたた、って カかかるからねエ・ 。うちの 6 スタ一面に砂を入れて、そいつをたような、そしてしあわせそうな、悲痛な笑い顔、ゆっくりとオー クレジットがおわ ーラップして、真上から見下ろした長さン : : : 段々と砂埃の中へ 赤く染めるだけで二千万であがるかどうか : 遠ざかっていく : いつの間にか右下に、演出・野田宏一郎のク ると砂、砂、砂 : : : オフに風の音を聞かせて、一面の砂原をオー 7

6. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

ーとすると、やつばり、これから三十時間以内に決行しなければな 《りよ、 0 空中にうかぶ、一辺一メートルぐらいの結晶星団の模像は、中心 部から出ている赤い光線をゆらめかせ、十四の光点を美しくまたた かせながら、ゆるやかに回転していた。その模像をつくった・ハラの 説明によれば、それは実際の結品星団の動きと連動させられている はずだった。空中にうかぶ水品 エメラルド色の光点が描き出す 両端のとがった六角柱は、その長軸のまわりに回転するとともに、 重心に相当する点を通る、長軸との直交軸のまわりにもゆるやかに 回転していた。そして、その回転は、サインカープを描くような、 ゆるい首ふり運動もともなっている : 「君も、この星団の中心部の事が知りたいだろう、 とダニエルはささやくように言った。 「あたり前だ ・ほ , は、癶 い間、この星団の謎をとくのに賭け て来た : ・二・」 バラは冷静に、しかし、強い意志をこめた調子で言っ た。「この星団の事が、今ほど有名になり、大がかりな調査の対象 にならない前からだ。・ほくに言わせれば もっと多くの学者がそ の事に気がついてくれればいいんだが , ーー結晶星団は、われわれの 宇宙の最大の奇蹟であり、謎の一つだ。この奇妙な恒星配置自体 が、天体物理の謎であるだけでなく、あの観測計器の数値を、めち やくちゃに矛盾させてしまう中心部の″謎の暗黒〃自体が、われわ れの知る宇宙法則に、大きな問題を投げかけている : : : 」 アイとダニエルは、く / ラの背後から、明減しつつ回転する十四の 光点に、魅せられたように見入りつづけた。 結晶星団ーー・それは。ハラの言ったように、それまで星雲ごとにば ら・よらだった知見。か相互にむすひあわされる事によって急速に発達当 - = = = 三 = = - = - = 三 = 三 = = = = - ・・ = - ・ 0 手の指を、ディーゼルエンジンの水 あとになってわかったことだが、 冷装置のファンで切りとられてしま軍はプロ・ジェハットの防備をかた った。興奮した男は、応急手当をうめるために、これほどまでする必要 け、シンガポールの病院に大至急運はなかったのだ。というのは、日本 びこまれた。 軍が一九四二年にマラヤに侵入して それからしばらくの間、島の自動来た時、彼らはマラヤ半島の裏側か 発電機がはっきりした原因もなく全ら襲ってきたからである。 然動かなくなってしまった。電力を ひとりの日本人バイロットが島の 供給しているディーゼルエンジンは砲台を爆撃しようとした。爆弾はそ それでもなお完全に動いていたし、 の目標をはずれ、下にいた砲手は爆 突然の故障の原因となるようなもの撃機が、彼らにむかって急降下して は何もなかった。 くるのをみた。結局それはこわされ 当惑して、技師とその部下は島をずにすんだが、機のパイロットはそ 去り、盟朝、シャンジに滞在中の、 のコントロールを失ったようであっ 英国工科部隊電機器関係の高官を連た。とうとう飛行機は海中につつこ れて戻ってきた。将校は、発電機の んで爆発した。 制御板のところまで行ってマスター メラの墓につばをはきかけた当の スイッチをさげた。発電機は直ちに技師は、日本がその町を占領する数 うなりをあげて動き出した。 時間前に、シンガポールから脱出し 発電機はそれから一カ月もの間完 た。彼は幸運だったーー少なくとも 全に動いていた「そして再びその電最初はそのように思われた。 力供給がとだえてしまった。今度の しかし、三カ月後、視力がおとろ 故障は重い鉛のおおいをかけられて えはじめた・眼の専門医達も完全に 発電小屋から砲台まで島を横切って お手上げだった。彼らにできること 走っているケープルにおこった。 は何もなかった。とうとう、技師は ケープルがメラの墓のところを通完全なめくらになってしまった。 過しているちょうどその地点で、そ その時以来メラは安らかに眠るよ れらの鉛の防護がかわいた粘土のよ うになった。そして魔の島の不思議 うにはげ落ちていたのだった。 な呪いは、もはやそれ以上の犠牲を 鉛は新しいものととりかえられ、 要求することはなくなったのであ る。 その装置に関してはもう何も問題は 物 おこらなかづた。しかし、一週間と 奇 たたないうちに、メラの呪いは再び おそいかかってきた。今度は一人の 界 人間の生命を要求した。装置の一片 世 がプロ・、ジェハット で荷揚げ中の船 から落ち、マラヤ人の苦役がそれを とり戻そうとして海にとびこんだ。 一瞬のうちに彼は死んだーー下半 身を鮫のみにくいあごによって粉々 にくだかれて。 3

7. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

それも、まだ相対運動を整理していないから、はっきり に言ってほしいんだ。 おれたちは、長い間かけて、この探査の わからないが、ほかのたくさんの超星雲系に対しても、このあたり準備をし、そしてやっと完了した。おれたちに、アイを出発させる は、あまり動いていないんじゃないかと思われる。つまり : : : 」 ためにのこされた時間は、あと十何時間しかない。その長い間の準 「このあたりが、それこそ巨大宇宙の中心という公算が大きいわけ備を、君はふいにさせようとしているんだ。すくなくとも、おれた か : : : 」とアイはつぶやいた。「ふしぎなものだな」 ちにもう一万六千時間待機させようとしているんた。 君がそう 「それはわかった。だが、それが″ン・ハン・ハの宇宙創造″とやらのさせたい、積極的な理由を、ぜひ、卒直にの・ヘてくれ。君はいった 何を危惧しているんだ ? 」 伝説の真実性まで裏づける積極的理由になるのか ? 」ダニエルは憤 然としていった。「おれにはさつばりわからん。はつぎり説明して アイに トウク・トウクは、苦しそうな表情で横をむいた。 トウク・トウク。 は、トウク・トウクが言いたい事が辛いほどよくわかった。 もらおうじゃないカ 考古学班の連中は、一 うまく言えない : ・ : 明白な証拠を提出しろと言っても、それはで 体なにを危惧しているんだ ? ムムにとって、あの″結晶星団〃な りン・ハン ' ハやン・ンの伝説なりが、特別の神秘的な意味をもってい きない。だが : : : 何かがある : : : トウク・トウクはおそらくそうい るから、住民感情を尊重して、慎重に行動する、というのなら話はわ いたかったのだ。ーーー何か : ・・ : ロで言えない : ・・ : まだはっきりと形 をとらない何かが、あるのだ、と : かる。だが、それに対する答えは、今日出てしまったと思うんだ。 住民感情の尊重というのなら、君たちは、あの″失われた聖地″ の調査たって、もっと慎重にやってしかるべきだったろう。どっち ンカ・・ハ教授が発言しはじめた所で、アイはそっと会議室の外へ にしろ、あれは地表でこわれてしまったがね。ムムの神話にとって出た。 特別の意味をもつ、あの″謎の暗黒〃に、われわれが探索の手をの議論はまだまだつづきそうだった。 そして隊長は、会議をつ ばす事が、住民感情を傷つけるかも知れない、という危惧なら づけながら本部の返事を待つつもりらしかった。 さっきの長老の話でもうすっかり片がついたはずだ。連中は反対し基地の建物の外へ出ると、昨夜のように、一面の星月夜だった。 、ない・はかり・、カ - かえって、おれたちの調査を期待していかみたい 節足両棲類の鳴き声があたりに満ち、第三の月の黄色い光が、 北西の空に輝いている。昨夜とちがうのは、その月の光の下、神殿 「それがかえってひっかかるんだ」とトウク・トウクはいらだたしの丘を中心にたちこめる、ムム族の祈りの声が、地底から湧き上る そうにいった。「その事がーーー連中が一体、おれたちのやっているようにきこえてくる事だった。 こうべ 事に何を期待しているのか、という事が : : : なんだか知らないが妙頭をめぐらすと、いま、結晶星団が南東の地平をはなれ、青白く だ。まったく奇妙だ : : : 」 もえながらの・ほってくる所だった 9 : ・。そして、 「はっきり言ってくれ、トウク・トウク。長い間の友人として卒直十四個の輝やく恒星を、整然と配した″神の檻 3 6

8. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

「じゃ、どんな未知の力がはたらいているというんだ ? 」ダニエル 小さい。何も彼もに手がまわるわけじゃない。おまけに宇宙は平和 じゃよ、。 が挑むようにいっこ。 おれたちの超星雲系の中でも、星雲間戦争が三つ、 恒星間紛争は無数 : : : 」 「″超空間映像の方はしらべたのか ? 」 「超光速粒子写真は二度とった : : : 」 「限界宇宙域の局所超星雲系との間に、なにかまずい事が起りそう ・ハラはこたえた。「今の所ー ーあの″暗黒〃の所に、何かがある、としか言えないのだ。よくわだ、というは本当かね ? 」とアイはきいた。 からんがーー物理班の解析では、一番可能性のあるのは、あの″暗「なんともいえんな : : : 」・ハラはつかれたようにつぶやいた。「宇 黒″のある所には、超空間の中で閉じた空間がある、と考える事だ宙はーーひろいし、どうなるかわからん。宇宙文明というやつが、 そうだ」 こうやって拡大して行くにつれて、トラ・フルの方もふえて行く。お 「超空間の中で閉じている ? [ アイは眉をひそめた。「それはどうれたちの宇宙は : いつも一触即発さ」 いう事だ ? ーー説明してくれ」 「アイ : : ダニエル : : : 」突然スビーカーがよんだ。「隊長からの 「できないよ」・ハラは情なさそうこ 冫いった。「わからないんだ。数伝達だ。ーーすぐ、第六地点へ行ってもらいたい 「第六地点 ? 」ダニエルはききかえした。「いったい何だ ? 」 学的に解析して、あの″暗黒″がそうだ、というのは簡単だ。しか し、実際はそうだ、という証明をするためには、まるでデータ不足「考古学班の連中が来てほしいといっている ? 」 だ。物理学者たちは、 いまの所苦しまぎれに、その″超絶空間理考古学班フ アイは思わずダニエルの方をふりかえった。 論″に、何も彼もおしつけてるにすぎない : 「行ってみよう : : : 」ダニエルはパターン時計を見上げて、ぎゅっ 「超星雲系宇宙の科学全部をよせあつめて、それでもわからない と唇をひきむすんだ。「あと二十九時間十分しかない、という事 ″未知の何か″が、あそこにある、というんだな」ダニエルは腕をを、連中に教えてやろう : : : 」 組んだ。「それならー・ーもっと大規模な調査団を派遣すべきだ。宇「君にはあって行かないのか ? 」・ハラはたずねた。 宙連合科学局にお百度ふんで、やっとゾア 4 にワープステーション あ ナ「いいんだ。 「みんな同じ事をきくんだな」アイは笑っこ。 を一つおくりこめただけ、というんじゃ、本格的に″未知の何か″ れとは、訓練期間の長い間一しょだったからな」 にとりくむ体制ができてるとは言えんな。ぎりぎりの装備で、やっ 「そうだ、アイ : : : 」ラは背をむけながらつぶやいた。「君は第 と探査装置をおくりこむところまでこぎつけたと思ったら、お古い五回の観測の報告をよんだか ? 」 所をひっくりかえしている考古班に邪魔されるような事があっては「いいやーー同じようなものだろう ? 」 ならないんだ」 「記録に妙な所が一箇所あってね ? 」 「宇宙はひろいんだ、ダニエル : : 」・ハラはなだめるようにダニエ「何が ? ーーー どうせ、″暗黒″の中では妙な事ばかりおこるんだろ ルの肩をたたいた。「おれたちの文明は、このひろさにくらべればう ? 」 6 3

9. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

った。さらに三十分ほど進み、ふたたび周囲をうかがった。さえぎろしの海があらわれ、白い波がしらをくずして陽が翳るように薄れ るものもない砂の海だけだった。さらに三十分ほど進んだ。おりかていった。スホーイの地上車は、そのま・ほろしの海に頭部を向けて えし地点はとうに過ぎていた。操縦席の屋根には、雲母のようなキ静止していた。風はま・ほろしの海からわたってきて背後の砂漠へ吹 ラキラと光る微細な砂が厚く積り、宇宙靴で踏みしめるとそのままきぬけていった。 フサは遠い海への想いをふりきってスホーイの地上車へ乗り移っ ずるずると屋根の端まですべり、積荷を固縛するロー。フ穴のふちに かかとがひっかかってかろうじて止った。太陽『コスモフォラ・べた。 スホーイはハンドルに上体をあずけて気を失っていた。 ータ』はすでに十時の高さにまぼろしのような光輪を浮かべてい しいつもならこの時間ならば八度 O ぐらいまで上っている「しつかりしろ ! スホーイ ! 」 た。寒、 ほほに二、三度平手打ちをくわせると、スホーイは低くうめい のに、今日はそれより二、三度は低いだろう。 その時、双眼鏡の亜鈴形の視野のすみに、目にしみるような真紅た。一、二本の注射を打っとスホーイはようやく生気をとりもどし た。笛のようにのどを鳴らすと、スホーイはとっぜん、フサの体に の光点が映った。地上車の非常用信号マストの先端の警報灯にちが いなかった。針路から左へ、十一時の方向だ。フサはエンジンを全しがみついてきた。 フルイを見つけた」 開にして突進した。十五分ほど走ると、肉眼でも警報灯がはっきり「フサー 「なに ? フルイがいた ? 」 と見えてきた。 スホーイは操縦室のうしろの荷台を指した。 「いた。フルイが」 わずかな起伏もなく海のようにつづいていた平原は、そこで二、 「そうか。よく見つけたな。やつはこんな所まで来ていたのか。さ 三メールの落差を持っゆるい斜面を作っていた。太古の裂溝の跡で でもあるのだろうか。斜面の前方はさらになだらかなかたむきを持っそく葬ってやろう」 パ』のかたわらに埋めるか、それともかれが っ岩石混りの荒れ果てた平原につらなっていた。その大傾斜の果で死体を『キシロコー どうなっているのか、ここが地球ならば、この地形では遠い地平線最期の息を引きとったこの平原に埋めた方がよいか、フサは決心が つかなかった。 のかなたには海があるはずなのだが、この惑星には海と呼べるよう 「おまえはどうしたんだ ? 」 な大水面を持っ水量はないことはあきらかだった。もしかしたら、 今フサが立っている場所は、はるかなむかしには波の打ち寄せる海スホーイは犬のようにあえいだ。ひどい熱だった。 岸だったのかもしれない。長い年月をかけて、水面はしだいに後退「なんだか急に気分が悪くなって」 してゆき、ついにこの広漠たる視界の中から消え失せ、あとにゆる「こういう酸素分圧の低い所で風に吹かれるとひどく消耗するん だ。少し休め。おれはその間にフルイを埋める」 やかな大傾斜を持っ平原を残したにちがいない。フサの目に、まば

10. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

老人は宇宙省の役人をふりかえってあごをしやくった。役人もす ぐには気がっかなかったらしい。老人が指にはさんだままの。ヒン 0 絞首台の影の中で と、かすかに朱を浮かべた老人の顔を交互に見くらべていた。 「これではとめられんじゃないか ! 」 老人はそれがおのれの失態であるかのように低くさけんだ。役人語された。ジー , ・ジ " クソ , は、音ないものを食〈たにちがいないと言 物楽にあわせてやわらかくハミングし った。しぶしぶ彼は同意し、そのこ は棒立ちになった。 奇ながら家の中をかたづけているとこ とは、それでおしまいになった。 幾十の眼が、裸のままのフサの上体に注がれた。 怪ろだった。というのも、彼女は朝食 ジャクソン夫妻が住んでいたテラ 界のあとかたづけをする時、二階で眠スのある家は、ヘクサムのバス発着 人工心肺を収め、代謝調節装置の熱交換組織を埋めこんだ胸は厚 世っている夫をおこさないようにと、 マイクロ 所のとなりに約六十年はど前に建て 大変気を配っているからであった。 られたものであった。ジョンが、家 い人工ひふでおおわれ、人工心肺を駆動する超小型モ 1 ターとその ジョンは、ちょうど近くのバス発が一軒、売りに出されている事に気 電源の水銀電池をセットした背中はガラスファイ・ハーの保護膜で閉 着所での徹夜動務を終えたばかりで がついて、それを買って仕事場の近 とても疲れていた。その朝は、そのくに住むというのはいい考えだと決 じられていた。それらはもともと熱風吹き荒れる金星の熱あらしの 週の他の日と少しも変わったところ 心し、彼の妻も発着所の売店で働い 中でも、メタンの大気が渦巻く木星のジェットストリームの中で などないように思われた。そして一 ていたので、喜んで賛成した。そこ 九六二年には、ジャクソン夫妻は、 で、数週間の後、彼らは新しい家に も、簡単な装具をつけただけで船外の作業ができるように造られた ノースアンバ ーランドのヘクサムに移ったのだ。最初の二年間は、ジー あるその家にもう二年以上も幸福に ンがしばしば夫に、ここには何か 体だった。 くらしていた。 「おかしな」ところがある、と話す 宇宙省の役人はおろおろとつけ加えた。 その時突然、大きな叫び声がひび以外には、何も変わったことはおこ きわたった。ほうきを取り落とし、 らなかった。そして彼はいつもそん 「長官。かれらは衣服を必要としないのです。ことにこのたびはか 彼女は驚いて階段を寝室へとかけ上なことを笑っていたものだった。し った。驚きで目を見開き、べットの かし、その「首」をみてからという れらの、サイボーグとしての身体的形状もおおかたのお目にかけ、 上に起き上っている彼の顔を汗がし もの、彼は真剣に考えるようになっ かれらの : : : 」 たたり落ちていた。 た。 彼はやっとのことで説明した。目 夫妻には子供がなかったが、五年呷 「そんなこと、わかっておる ! 」 をあけたら、頭の上に女の首がかが前に家を与えてやった大きな黒い雄 老人は激した声で言った。 みこんでいるのを見た、と : : : しか犬を熱愛していた。その犬は、一番 し、見えたのはそれだけだった。た上等のものを食べ、たちどころに意 「これ。これだ。このままでは胸にとめられまいが ! 」 だ首だけがーーベッドの上数フィー のままになるニ人の人間を従えてい トのところで宙に浮いていたのだっ た。 たしかに裸の胸に。ヒンでメダルをとめるわけにはい、 数日後の夕方、ジャクソン夫人は家咽 彼はそれを容易に説明することが 役人はうろたえた。こうした事態を生んだ当の責任者は誰なの にひとりでいて、編物をしながら椅 できた。なぜなら、彼は、その長い 子にすわっていた。大は彼女の夫の 0 か、そのことだけが頭に浮かんだすべてたった。 プロンドの髪や、美しいが全く表情居心地のよいひじかけ椅子を占領し ホのない顔を、よくおぼえていたからていた。 「は、これはどうもゆきとどきませんで」 である。数秒間彼を凝視したあと、 突然、彼女は、犬が総の毛を逆立 役人は救いを求めるように周囲に視線を泳がせた。老人はいらい その顔は消えてしまった。 てて飛びさるのを見た。それから、 0