ダニエル - みる会図書館


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1. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

ダニエルは叫ぶや否や、部屋の外にとび出した。 会議室のドアの外は、じかに戸外につづいていた。ーー黄ばんだ椅子の肘かけの上にだらりと腕をなげ出し、眼の上にプラックガ 7 第三の月は、半月となって南西の空にしずみかけ、一面の星空の下ラスの蔽いをおろし、両のこめかみに、大きな電極をかけたアイ に、トクトクトク : : : と節足両棲類が鳴きたて、彼方の神殿の丘か は、まっさおな顔をしてぐったり椅子の背にもたれている。 ら、あの太鼓のようなひびきと、嵐のようなムムたちの祈りの声が器類とスイッチにすばやく眼を走らせたダニエルは投射装置の中央 夜空にたちの・ほっていた。 部にかけよった。 「だめです ! ーー・ーもうアイは投射されました ! 」 十四の星が青白く燃える結晶星団は、、 しま宙天に高く高くの・ほっ ていた。 , ーー思わず星団を見上げた一同の眼に、その六角柱形の中保安委員はあわてて叫んだ。 央が : : : あの″暗黒″を擁した中心部が、ぼんやりと赤く、まがま「隊員以外の侵入者には、警報が鳴るようにはなっていたんです。 がしい色彩に光るのがうつった。 きのうまで、なんの光もみと 交替のためのちょっとの間でした。まさかアイが自分でこんな められなかった、あの″暗黒″が、いま、にぶく、赤く光っている事を : : : 」 「ひきもどせ ! 」トウク・トウクは興奮した声でどなった。「ひき そして、会議室から空地をへだててむかいにある投射型ワープ装もどすんだ、早く ! 」 置を収納したドームが、いま放射された歪曲場エネルギーの一部を「そんな事、できません : : : 」保安委員はおどろいたようにいっ うけて、緑がかったプルーに輝くのが見えた。 た。「いま、アイ 2 は、目標の中央地点にむかっています。なんだ 戸外に出て一瞬たちどまった一同は、ダニエルを先頭に、またド か知らないが、いろんなタイプの奇妙なエネルギー場が、おそろし ームにむかって殺到した。 ーのエネルギ いカでアイ 2 にのしかかっています。対抗上、ワー 「アイ ! 」 ーも安全限界ぎりぎりに立ってしまっています。ホロコンミュニケ ドームの中にとびこんだダニエルは叫んだ。ーー・投射型ワープ装ーターの回線場が、ひきちぎられないように維持するのがやっと 置をおおう光の管は、青に、赤に、黄に、白に、緑に、。ヒンクに、 です。先方の送受ステーションがない、投射型ですから、いまむり 目がくらむようにかがやき、光は渦をまき、のびちちみし、閃き、 にひきもどそうとしたら、むこうの場エネルギーが、回路を通じて 息づき、くるったように走りめぐっていた。 こちらへ逆流してくるおそれがある。そんな事になったら : : : 」 これも今とびこんできたばかりらしい保安委員が二人、必死にな「アイ : : : 」ダニエルは椅子にぐったりともたれているアイの体を って、リークしかけているエネルギーを調整している。 ゆすぶった。「きこえるか、アイ : : タニエルた。調子はどうだ ? なにか見えるか ? 」 「アイ ! 」 ダニエルは叫んで、椅子型のホロコンミュニケーターに走りよっ「暗い : : : 」アイは苦しげにうめいた。「ものすごい重力だ : : : 千 こ 0 1 一一口

2. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

「じゃ、どんな未知の力がはたらいているというんだ ? 」ダニエル 小さい。何も彼もに手がまわるわけじゃない。おまけに宇宙は平和 じゃよ、。 が挑むようにいっこ。 おれたちの超星雲系の中でも、星雲間戦争が三つ、 恒星間紛争は無数 : : : 」 「″超空間映像の方はしらべたのか ? 」 「超光速粒子写真は二度とった : : : 」 「限界宇宙域の局所超星雲系との間に、なにかまずい事が起りそう ・ハラはこたえた。「今の所ー ーあの″暗黒〃の所に、何かがある、としか言えないのだ。よくわだ、というは本当かね ? 」とアイはきいた。 からんがーー物理班の解析では、一番可能性のあるのは、あの″暗「なんともいえんな : : : 」・ハラはつかれたようにつぶやいた。「宇 黒″のある所には、超空間の中で閉じた空間がある、と考える事だ宙はーーひろいし、どうなるかわからん。宇宙文明というやつが、 そうだ」 こうやって拡大して行くにつれて、トラ・フルの方もふえて行く。お 「超空間の中で閉じている ? [ アイは眉をひそめた。「それはどうれたちの宇宙は : いつも一触即発さ」 いう事だ ? ーー説明してくれ」 「アイ : : ダニエル : : : 」突然スビーカーがよんだ。「隊長からの 「できないよ」・ハラは情なさそうこ 冫いった。「わからないんだ。数伝達だ。ーーすぐ、第六地点へ行ってもらいたい 「第六地点 ? 」ダニエルはききかえした。「いったい何だ ? 」 学的に解析して、あの″暗黒″がそうだ、というのは簡単だ。しか し、実際はそうだ、という証明をするためには、まるでデータ不足「考古学班の連中が来てほしいといっている ? 」 だ。物理学者たちは、 いまの所苦しまぎれに、その″超絶空間理考古学班フ アイは思わずダニエルの方をふりかえった。 論″に、何も彼もおしつけてるにすぎない : 「行ってみよう : : : 」ダニエルはパターン時計を見上げて、ぎゅっ 「超星雲系宇宙の科学全部をよせあつめて、それでもわからない と唇をひきむすんだ。「あと二十九時間十分しかない、という事 ″未知の何か″が、あそこにある、というんだな」ダニエルは腕をを、連中に教えてやろう : : : 」 組んだ。「それならー・ーもっと大規模な調査団を派遣すべきだ。宇「君にはあって行かないのか ? 」・ハラはたずねた。 宙連合科学局にお百度ふんで、やっとゾア 4 にワープステーション あ ナ「いいんだ。 「みんな同じ事をきくんだな」アイは笑っこ。 を一つおくりこめただけ、というんじゃ、本格的に″未知の何か″ れとは、訓練期間の長い間一しょだったからな」 にとりくむ体制ができてるとは言えんな。ぎりぎりの装備で、やっ 「そうだ、アイ : : : 」ラは背をむけながらつぶやいた。「君は第 と探査装置をおくりこむところまでこぎつけたと思ったら、お古い五回の観測の報告をよんだか ? 」 所をひっくりかえしている考古班に邪魔されるような事があっては「いいやーー同じようなものだろう ? 」 ならないんだ」 「記録に妙な所が一箇所あってね ? 」 「宇宙はひろいんだ、ダニエル : : 」・ハラはなだめるようにダニエ「何が ? ーーー どうせ、″暗黒″の中では妙な事ばかりおこるんだろ ルの肩をたたいた。「おれたちの文明は、このひろさにくらべればう ? 」 6 3

3. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

が見つかったんだ。いそごう」 アイオノクラフトが再び空中高くまい上った時、突然眼下にひろ考古学班が教えた目標は、もう眼と鼻の先たった。 ーー円い鉢 9 トロイデ がる谷の間から、異様な音がひびきわたった。ーー最初それは、重をふせたような、典型的な溶岩円頂丘で、一面にべっとりとした、 苦しくひびく鐘の音のようにきこえた。だがよくきくと、・ほうん、暗紫色のヒロオビゴケにおおわれている。その山頂部をとびこ、す ・ほうんとうつろに鳴る太鼓のひびきのようにもきこえた。 と、こちらを認めたのか、地上から白い尾をひいてロケットが上っ 「なんだ、あれは ? 」ダニエルも不審そうに眉をひそめて、眼下の た。ダニエルはアイオノクラフトを傾けて、ロケットの上った地点 谷を見わたした。「なんの音だろう ? 」 へすべらせて行った。 「わからん : アイは首をひねった。「ムム族のーー合図か何か そこは、古く巨大なカルデラとも見える、雄大なすり鉢型のスロ じゃよ、 オしかと思うが : : : 」 ープだった。まわりをとりかこむ山は外輪山とも見えるが浸蝕が進 いくつもの断層崖が、スロープの中を放射状に走 . っ こ 1 ん : : : こーん : : : と木のうろをたたくような、石と石とをうんでいる上、 ちあわせるような音は、たちまち二人の足下の谷のあちこちにひろており、クレーターとしても、もとの形ははっきりわからない。す がり、あちらの峯、こちらの尾根からも、ちがった音色の音がよびり鉢型の斜面に、所々火山丘らしいものや、火口湖らしい真円型の あうようにきこえはじめた。 湖が見える。ロケットの上った地点は、ほとんどすり鉢型の中央部 「こちらダニエルーー考古学班はどこだ ? 」 だった。植物におおわれているため、なだらかに見える斜面も、高 ダニエルはのどの通信器のスイッチを入れてよびかけた。 度を下げると、無数の断層や、浸蝕崖にずたずたにきざまれ、地上 「いま、第六地点南の谷の上空ーー考古学班、感度あったら応答し から近よるのがむずかしいほど、大変な嶮路がつづいている事がわ っこ 0 てくれ : : : 」 ・カ / 大気中に炭酸ガスが三 % 弱、若干の亜硫酸ガスもふく 「進路を南々西にとれ : : : 」とアイの内耳内の通信器にも、考古学む、この惑星の雨の浸蝕のはげしさが、想像できるようなひどい地 班の応答がきこえてきた。「そのまま五キロすすめ。正面に見える形だった。 溶岩円頂丘が目標だ。 わかりにくいそ。近くまで来たら、ロケ 二度ほど・ハンクさせて、ダニエルはやっと考古学班の大型アイオ ットをあげる。注意しておりろ」 ノクラフトと、そのまわりに動いている隊員の姿を見つけた。直径 「了解ーー・ところで、今鳴り出した妙な音はなんだ ? 」 十キロはありそうなすり鉢型のほとんど中央部ちかく、深くく・ほん 「わからん。こちらもきいておどろいているところだ。 だ直径四、五百メートルのクレーターの底のあたりである。近よっ どこへ行く ? 」 て行くと、もう一台、見お・ほえのあるアイオ / クラフトがとまって 最後の言葉は、こちらにむかって言ったものではないようだっ いる。ーー火口壁のまわりにおこる大気の渦流に注意しながら、や ダニエルはききかえしたが、通信はそこでブツンときれっと接地させた時、山々谷々にひびいていた、あの鐘とも太鼓とも こ 0 こ 0

4. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

ダニエルは吐きすてるようこ、つこ。 冫しオ「なんとか、奴の脳に流れこぬ邪悪で強力な力が、ホロコンミュニケーターを通じて部屋の中に んでいる回路を切断しなければ : : : 」 噴出し、そこにいるものすべてにおそいかかり、脳を惑乱させ、う 「アイは、なにものかに吸いよせられて行くそ : : : 」アイのつぶやちたおしながらあたり一ばいにふくれ上った。 きや、脳内部におこる刺戟パターンをチ = ックし記録していた隊長空間にひびく、嘲けるような声ならぬ哄笑の声のようなものをひ はいった。「早くなんとかしないと : びかせながら : ・ : なにかが起る : : : 」 「もう手おくれです : : : 」司祭長はおののきながらつぶやいた。 フン・ンに触るるもの、そを犯さんとするもの呪われてあれ : アイは眼におおいかぶさる・フラックグラスの蔽いをゆっくりとは みわざ そはン・ハン・ハの業にさからうものなればなり : : : 」 ずした。ーー眼前に、累々とたおれている隊員の姿があった。ドー 「逆流しているエネルギー場の強度が波うっているだろうーーー」ダ ニエルは、おこりにかかったようにふるえるアイの体をおさえつけ 異能 U)I-L 作家 ながらどなった。 「弱くなった時に、一挙に全入力を切断しろ ? ー ーメイン回路を破壊するんだ。いいか : : : そら ! 」 筒井康隆の傑作集 突然ーーーアイがおそろしい声をあげて椅子から棒立ちになった。 徹底したナンセンスと研ぎ澄まされた感 のどが、張りさけそうに絶叫し、両手両脚をつつばり、全身をはげ 覚を武器に常識を破壊し尽し、の限 しく痙攣させてとび上った。 界へあくなき挑戦を続けて読者に新たな 「アイ ! 」 視野を提供する鬼オ筒井康隆の傑作集ー ダニエルは思わず叫んだ。 アイの全身は、目もくらみそうな日光に包まれていた。 東海道戦争¥三 8 。フ装置が、はげしい爆発音と閃光をあげて煙を噴き出した。パイプ 類がはじけとび、炎が噴出した。 ベトナム観光公社¥三六〇 「爆発するそ ! 」と誰か叫んた。「回路を破壊しろ ! 」 だが、次の瞬間、ごうつ、とはげしい音がして、ドームの内部全 体が青白い目のくらむような光につつまれた。 ″暗黒″につな アルファルファ作戦¥一元〇 がる超空間回路を通して、異様な形態のエネルギ 1 が、アイの体を 通じてドーム一ばいに逆流した。 馬は土曜に蒼ざめる四八〇 ワッ、 とダニエルは頭をおさえてさけんた。ーー何か得体の知れ ハヤカワ・ SF ・シリーズ 既刊 285 点 日本セクション

5. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

ければ この宇宙はどうなっていたんだろう ? 」 「上々た。 いま一応調整を終った」 「わかりません : : : 」キンナは溜め息をつくようにひくくいった。 そういって、ダニエルは腰に手をあてて、岩の傍に立った。 「イハン・ハはこの宇宙をたち去る時、 いくつかのえらばれた種族を「ああ、キンナも一緒かーー今晩は、、、 しし晩だね : : : 」 連れ去ったという事ですがーーーしかし、イハン・ハが去った時、もう キンナは、黒い顔をこっくりうなずかせただけで返事をしなかっ こ 0 この宇宙の運命はきめられてしまったのです。あとは、私たちは、 さだめられたこの宇宙の運命にしたがって生き、終末にむかうより・「そうすると、明日のテストは予定どおりたな : ・ : ・」彼は砂をはら しかたがありません」 って岩かげから立ち上った。「でーーいつ、おれを送りこむ事にな 「その、・ン・ハジ・ハは、もう二度とこの宇宙にかえってこないのかねった ? きまったか ? 」 ? 」彼はムム族の宇宙観に興味をもち出している自分を感じた。 「それがーーー」ダニエルは、岩かげにすわったキンナの方を、ちょ 「いっか かえってくるという事実は、のこされていないのかい っとのそいて口ごもった。「またはっきりしないんだ。いろいろと あるらしくてね : : : 」 キンナは急にだまってしまった。 返事をためらっている、と「なにをもたついているんだ ? ーー・交換部品は、きのう全部ついた いうのではなくて、いまのいままで、彼との間にひらかれていたコんだろう ? 」 ンミュニケーションのチャンネルを、自分の方から、ぶつん、とた「少し冷えるな」ダニエルは、わざとらしく肩をすくめた。「キャ ち切るように沈黙してしまったのだ。 ン。フで、一ばいやらないか ? 」 その時、キャンプの方から、砂をふんで誰かがやってくる足音が ダニエルが、何か二人だけで話したい事があるらしい、と思った きこえた。黄ばんだ月の光に照らされて近づいてくる長身の影法師彼は、背をむけてキャン。フの方に歩き出したダニエルの、ひょろひ はダニエルらしかった。ーーー長い脚をはこぶたびに、その足もとか よろした後姿について歩をうっした。 らアルキグサの草むらが迷惑そうにすべり動いて左右にわかれ、そ「おやすみ、キンナ : : : 」 の影にかくれていた節足両榧類たちがふいにさしこんだ月光におど と、彼は、二、三歩行ってから岩の方をふりかえって声をかけ ろいたように、びよんびよんはねながら、動いて行く草むらを追し おやすみなさい、旦那 : : : とキンナがロの中で言ったの かける。 が、きこえたような気がした。 「やあ・ ・ : : ? 」とダニエルは、二人のもたれている岩に近よりなが 星月夜の下でトクトクと鳴きつづける節足両棲類たちの声の間を いった。「ここにいたのか ? 」 わけて、二人はしばらくだまって歩いた。ーーー低い、アルキグサの 草むらが、二人の足もとからわかれ、月明りに光る岩や砂の上を、 「おれの調子はどうだい ? 」 ざわざわとすべり動いて道をあけた。黄ばんだ、巨大な三日月は、 と、彼は、ひょろ長いダニ ) 一ルにむかって笑いかけた。 こ 0 4 2

6. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

「この穴がどうだというんた ? 」ダニエルは不審そうにトウク・ト つかぬ音は、ふっと消え、あたりは恐ろしいような静寂にかえった。 「なにがあったんだ ? 」乗物からおりるなり、ダニエルは、ひょろウクをふりかえった。「二重火口ー・ーじゃないのか ? 」 「そう見えるかね ? 」とトウク・トウクはいった。「もっとよく見 ひょろと電柱のように細長い考古学班の男をつかまえてきいた。 てみろ」 「なにかおれたちをよぶような事があったのか ? 」 「あちらですよーと茶色のとんがった顔をした隊員は、火口中央アイの方は、ダニエルより先に、その穴の異様さに気がついてい 穴は、さしわたし、百メートルたらず、開口部の角は若干 の、岩かげをさしていった。「あちらでみんな待っています」 二人がいそぎ足で岩かげに行ってみると、そこに、同じようにひ浸蝕されているが、その形は正確な六角形になっている。その正六 よろひょろとした考古学班の連中がムム族の人夫といっしょにむら角形の断面のまま穴の内壁は完全に垂直に、地中へむかって深く切 がって、何かをのそきこんでいた。ーー考古学班の連中は、ほとんれこんでいる。内面のなめらかな、鉄色の肌は、あきらかに人工的 どッパ星人だった。見た眼はいやにたよりないように見えるが、仕にうがたれた穴である事をものがたっていた。のそきこむと、まっ 暗な底の方で、ちらちら明りが動く : 事には熱中するくせに、気の短いので有名だ。 「なるほどねーー」ダニエルは皮肉つぼくつぶやいた。「また新し 「やあ : : : 」と、むらがっている連中の間からつるつる顔がふりか く、この惑星の古代遺跡を発見したのか。おめでとう。 / カ えって声をかけた。「ちょっとここへ来てみろ」 こいつは君たちの仕事だろう ? 」 「なんだ、隊長も来てらしたんですか ? 」アイはちょっとおどろい 「君たちの仕事にも関係してくるかも知れないんだ : : : 」トウク・ た。「いったい何があったんです」 トウクは慎重な口ぶりでいった。 考古学班長のトウク・トウクが手まねきした。その名前が、節足 「トウク・トウク : : : 」穴をのそきこんでいたアイは、考古学者の 両棲類の鳴き声に似ているので、ダニエルがからかっては喧嘩にな ィールド・ワーカーとしては、第一流肩をたたいた。「あのーー岩はなんだ ? 」 りかけるが、星間考古学のフ アイの指さした先に、一個の、ほ・ほ真球型にちかいさしわたし数 で、数知れぬ業績をあげている。 : 」とトウク・トウクはいっこ。 メートルの岩塊があった。穴の入口から二十メートルあまり下った 「来てみろ。アイ、ダニエル・ 「これをどう思う ? 」 所に、にぶく、まるく光っている。上からのそくと、むかいの壁に はまりこんでいるように見える。 二人はみんながむらがってつくっている列の前に出た。そこは、 火口底の中央部で、二人の足もとから、いきなり垂直に、さらにも「あれだよ、問題は : : : 」とトウク・トウクはうなずいた。「あれ う一段深い穴があいていた。ーー暗い穴の底へむけて、ロープが ″ン・ハン・ハの封じ石″だ : : : 」 二、三本おりており、ロープはデリックの先の滑車を介して、小型「なんだって ? 」 のウインチにつながっている。 アイは、ついさっき、第六地点のキャンプで、ムムの老人からき こ 0 4

7. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

t をはるかにこえているそ : 。苦しい どうした ? 闇の底 。おい、エネルギーをた。「見えるものを話してくれ。アイ : もう少し上げてくれ : つぶれてしまう : : : 」 に、なにがいる ? なにが見える ? 」 「どんどんさがっ 「いま、″暗黒″の中心部から、二千キロの所を通過中だーー」隊「温度がさがり出した : : : 」ネク隊長がいった。 ーウェイプ いま四十だ。圧力三、磁場 長が、アイ 2 から超電波でおくられてくる、航跡テレメーターをて行く。重力場もへっているそ。 読みながらいった。「重力は千四百 : : : まだふえるそ。圧力二千百エルステッド : : : 粒子線の曝射は : : : 規則的だ。おや、電場がう ・ : 磁場は二万二千エルステッド、高速重核子の曝射が、十秒間隔ねっている : : 。なんたこれは ? 」 でおそっている。温度は、・ : ・ : 絶対二千五百度 : : : 」 「アイの体温がさがってるそ ! 」トウク・トウクが椅子の背の方か 「もっかな ? 」ダニエルは心配そうにつぶやいた。「対抗上エネレ おい、誰かアイの ノら叫んだ。「代謝率がどんどんおちている。 ギーをもう少し : : : 」 体に、・ハルス電極をつなげ ! 心不全だ」 「いつばいだよ ! 」と保安委員が悲鳴をあげた。「これ以上はとて 「アイ : : : 」ダニエルは、アイの体をゆさぶりながらさけんだ。 「きこえるか ? アイ : : どうした ? 」 ・ : 」とアイはつぶやいた。「今度は : : : ひどい寒さ 「あつい : : : 」アイはかすかに身もだえした。「表面の一部がとけ「 : : : さむい こ 0 ・ : また ! : 粒子線の曝射だ : : : おお ! なんてひどい所た : : : 誰かが : : : 来る」 ・こ ! : : : 場がねじれて、のたうちまわっている : ・ : ・体が : : : ちぎれ そうだ ! 」 さむい : とアイ 2 とつながれたアイは思った。 : ひどい寒さ 「大丈夫か ? アイ : : : 」ダニエルは、アイの腕に手をかけ、スイ ッチにちらと眼をやった。「もし、危いと思ったら、いつでも回路彼はいま、重力、温度、圧力、粒子線、磁場、超電場、ありとあ を切るからな : : : 」 らゆる形態のエネルギーがねじくれまがり、のたうちまわる超空間 「きこえる : : : 」とアイはつぶやいた。「またーーまたきこえてく場の嵐をのりこえ、絶対四度の、こおりつくような空間によろめき る。あれだ、あの声 : : : 」 ながらたっていた。 「きこえる ? 」ダニエルはききかえした。「なにが ? 」 まわりは安全な闇ではなく、たったいまぬけ出したエネルギーの 「なにかがいる : : : 」アイは身もだえした。「この闇の中に : : こ嵐は、ついそこに赤黒い、また毒々しい緑青色の光の渦となっての : うごめいている。おおー : なにかが : のおそろしい闇の底に : たうちまわっていたし、暗灰色の空間の中こ、 冫いくつもの「幅広し よせー : ちかづいてくるそー : こっちへくるな ! ああ ! 黒や灰白色の縞が、頭上をこえ、足もとを通って走り、その先はゆ おそろしいー あっちへ行け ! 」 よしてくれー るやかにねじれてゆるい螺旋形をつくりながらゆっくりまわってい 5 「なにがくるんだ ? 」ダニエルは、アイの腕をつかんでゆすぶつ その螺旋のむこうから、なにかむくむくとうごめく、まっ 0 ( 」 0 こ 0

8. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

あぎと の光の中に照らされてそびえたっ、土砂のビラミッドを見上げた。 七つの星をもち、その顎を蓋したまうなり。ゾ かなめ 。ヒラミッドの尖端部は、上方の六角形の光の中に、かろうじて 4 アの太陽、虚空の要にもっともちかし。われ、 びとおや をおづみおや , とがった先の所たけうかび上っている。 遠祖の頃、 ' ・ゾアの第四の星なるム人の祖先と 「古代ムム族の大いなるロマンだね : : : 」とダニエルは皮肉つぼく 血をわけしものとして、ここに″神の檻″の かたち みわざ いった。「すこしちがうが、地球にだって、似たような神話がいく 模型をつくりて、まことの神の業とその戒めを のちびと つものこってる・せ」 ムの後人、子の子、孫の孫の代まで忘れざらん これによく似た古代伝説は、超星雲系の よすがとなす。神の神、まごとの神、ン・ハイ、 「地球だけじゃない。 の御名をたたうべきかな。ン・ンの名、忌む 中に何億とある。ただ : : : 」トウク・トウクはロごもった。「今度 の場合だけは : : : さすがにすこし考えちまった」 べきかな。ン・ンに触るるもの、そを犯さんと みわざ なにか、その伝説に特別の所があるのか 「考えるって、何を ? ーー するもの呪われてあれ。そわ、ン・ハン・ハの業に さからうものなればなり。 つかさ 「あるように思えるんだ : : : 」トウク・トウクは、ちょっと苦しそ ここにミスラの家六代なるこの星の祭りの司 おさ うに言った。「つまりだな この伝説の、すくなくとも一部は : の長、神の使いにたずねていう。御使いよ。神 このよ ・ : ある種の事実とよく一致するように思える : : : 」 の神、まことの神ン・ハン・ハは、ふたたび宇宙に かえりたまうことなきや、と。神の御使いのた 「いいかげんにしてくれ ! 」ダ一一エルは突然毒々しい声で笑い出し さだめ このよ た。「わかったそ、トウク・トウク。 まわく。創造者ン・ハン・ハ。宇宙の運命、すでに いつもの汚ないやり方たな。 きめられたれば、もはや、終りの日までかえり もったいぶって、大昔の伝説なんかもち出して、こちらの探査 たまわず。されど、もし、ン・ンの : に・フレーキをかけようっていうんたろう。その手は食わんそ」 「そんなんじゃないったら ! 」トウク・トウクはあっくなっていっ 「どうしたんです ? 」とダニエルはきいた。 た。「おい、きけよ、ダニエルー これは大変まじめな話なん 「これで終りだ : : : 」ンカ・・ハ教授は、額からゆっくりと円盤状メ だ。″謎の暗黒″に行く前に、とにかくおれたちのーー一種の危惧 というか、不安というかーーーそんなものをきいてもらいたいんだ : モをとり出しながらいった。「あの岩面にかかれていた碑文は、こ こで終っている。おそらくこのつづきは、土砂の下に埋もれている 別の岩面に書かれている。早くほり出して : : : 」 「″ン・ンに触るるもの、そを侵さんとするもの呪われてあれ : か」ダニエルは肩をすくめた。「ムムの創世紀なんて、おとなしい 「どう思う ? 」と、トウク・トウクはアイにきいた。 おれたちの地球の古代民族の間でらくられた、その アイは返事をせずに、ゆらゆらゆれる作業員たちのヘッドランプものだ・せ。

9. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

「電波観測班の連中が、″暗黒″の中で声をきいた、というんだ : ・ のが見え、その先に青黒い大洋がひろがっていた。反対側は、茶色 や緑、紫の苔におおわれた、峨々たる山脈がそびえ、第六地点はそ 「え ? 」アイはきぎかえそうとした。 の山のむこう側だった。 「行こう、アイ : : : 」とダ = エルが戸口の方から声をかけた。「考アイオノクラフトを駆って、山脈をとびこえた二人は、第六地点 古学班の連中と一合戦やろうじゃよ、 の電波標識にむけて接近したが、山脈の鞍部にある考古学班のキャ ☆☆ ンプには、誰もいないみたいだった。・・・・ー着陸してみると、いるの はムム族の老人一人だった。 ☆☆ 「みんなはどうした ? 」 第四惑星の上に、恒星ゾアの白い光がぎらぎら輝いていた。 ダニエルがきくと、黒い皮膚の老人は、だまって谷のむこうの丸 空はくろずみ、雲はすくない。 い山をさした。 ゾアまでの距離が遠いので地球から見る太陽の三分の二ぐらいの 「あそこか ? 」とアイは小手をかざした。「なにか見つかったのか 大きさにしか見えなかったが、大気中の炭酸ガスの量が多いので、 温室効果で、気温はあたたかかった。 老人は、だまってくるりと背をむけた。 灰緑色の葉の密生したアルキグサの群れは、遠いゾアの光をすこ 「どうしたんだ ? 」アイは老人の様子に、なにか奇妙な気配を感じ しでも多くうけとろうとするように、岩かげから斜面へはい出て、 て、声をかけた。「なにかあったのか ? 」 お互いに影にならないように距離をとって散開し、葉をゆらゆら動「行こうじゃないか」とダニエルは、アイオノクラフトにのりこみ かしている。ーーー夜になると出てくる節足両棲類たちは、い冫 まよ沼ながらいった。「行ってみりやわかるだろう」 地や湿地帯の方に集って・ほちゃ・ほちややっているのだろう。姿も見 アイが、ダニエルにつづいてのりこもうとした時、ムム族の老人 えない ? が、背をむけたままいった。 この星には、背の高い植物はない。 「今夜 , ーーン・ンに行きなさるのかね ? 」 猛獣や有毒生物のたぐいもない。生物の種類そのものがすくな「え ? 」アイは思わずふりかえった。「ン : ・ : なんだって ? 」 、生物班の調査では、微生物をのぞいて、わずか数千種ぐらいし「行きなさるのだね」と老人はロの中でもぐもぐっぷゃいた。「と 、カーし子′し という事だった。化石調査もはじまっているが、この惑うとうー、ーその日が来てしまったのたね。 〃ンくン・ハの封じ 星の主な生物の種は、何千万年とかわっていないという・ 石″も見つかってしまったし : : : すべては : : : のとうりじゃ : 基地のおかれている場所は、ゆるやかな山腹のスロープだった。 「なんのとうりだって ? 」アイはきき耳をたてた。 下の方に、軽い石材をつかったムム族の小屋が散らばっている「行くぜ、アイ : : : 」始動させながらダニエルはせかした。「何か ☆ 3 ☆ 7 3

10. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

行」は、超共振作用を利用した、・ほんやりした限界宇宙図をもとに なく横槍をいれたがっていた・ その数すくない超ワー。フチャ して、行われているにすぎない。 「おとついの幹部会で、実は正式に考古学班長から申し入れがあっ ンネルの特別使用許可をとる事は、局所超星雲系連合の中枢部に顔た : : : 」隊長はほとほと困ったように坊主頭をふりたてた。「″結 のきくネク隊長にとっても、作業開始を一万六千時間延期するより 晶星団″に関してこの星にのこされた記録や伝説のたぐいの調査が むずかしかったろう。 すむまで、あの星団の直接探査は延期してほしい、というんだ」 「まあそうわめくな : : : 」と隊長は、頭をゆっくりさすりながら、 「そうは行きませんよ ! 」アイは思わず大声で叫んだ。「いった おだやかな声でいった。「その事情は本部にも何度も説明してあ 、この星のおとなしい素朴で原始的な原住民の過去の歴史や文化 せつかくこれだけの準備をし る。むこうも了解しているんだ。 が、われわれ天体物理班のドライな仕事と、どんな関係があるとい て、これだけの装備と人数をおくりこんたんだ。一万何千時間も延うんです ? 」 期する、という事にはなるまい」 「それで、連中はどれだけ待てといっているんです ? 」 「そこがよくわからないんですが : : : 」とダニエルが腕組みしてい 「それもはっきり言わんのだ。 いや、言えないのだと思うが : った。「いったい本部からの待機命令というのはな・せ出たんです : ・」隊長はいいづらそうにいった。「一応のめどをつけるために最 なにか理由はわかりましたか ? 」 低二百時間は欲しいというんだ」 隊長よ、 をいいにくそうにまた唇を長くとがらせた。 「できない相談だ : : : 」アイは首をふった。「それじゃ、われわれ 「 , ーーわからん事はないが : : : 喧嘩をするな」と隊長はいった。 の方の。フロジェクトを完全に放棄しろというのと同じです」 「考古学班の方から : : : 本部のジャイジャイ教授へ直接進言があっ 「考古学班はいったい何を見つけたんですか ? 」ダニエルは焦らだ たらしいんだ」 ちをおさえた口調でいった。「どういう理由で、われわれの作業を 「直訴ですか ? 」アイは眉をひそめた。「でも、この探険隊の最高延期しろというんです ? そういうかぎりはもちろんはっきりした 責任は、あなたが : : : 」 根拠をつかんでいるんでしようね」 「そこがやっかいな所でね : : : 」隊長はダニエルのまねをするよう「それが連中にも、決定的な根拠を提出できないので弱っているら に、三本の腕をくみあわせた。「私は一応最高責任者になっているしいんだ」隊長は奇妙な表情をした。 それがウフ星人の苦笑 が、私の直接指揮をとるのはこの班だけで、考古学班と生態班は、 だ、という事を理解するまでに、アイは五つ以上の「異常星間現 キャンプ設営と保安以外、調査に関しての指揮はとれない事になっ象」をネク隊長と一緒に調査しなければならなかった。 ている : : : 」 「考古学班の中でも、意見がわかれる点があるらしい。探査を延期 こちらを 「あの班の連中は、連絡報告会の中ごろから様子がおかしかったすべきだという点では大体一致しているらしいんだが な」とダニエルはつぶやいた。「特別隊の作業日程に対して、何と説得できるだけの積極的な証拠がそろわないので、本部の方にアビ