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1. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

ン 土星 知られる児童向き作家・科学解説家 ) ◎ベルト形宇宙都市 ( 緒形健一一「科学朝日」所 一◎・ポレタフキン「電離層発電」他の載 ) 強靱な材料で地球の人工衛星軌道をぐるり 一紹介 ( 信 ) 地上より六〇〇万電子ポルト以上のガンマ ととりまくべルト形構築物をつくり、遠心力 線を上空に照射して空気を電離し、電離層がとなるように回転させて、その内側に と地表との電位差一〇〇万ポルトを利用し生活する。 ラリイ・ニヴン「リングワールド」より規 て。フラズマを地表まで誘導、発電を 地球 太陽 水星 カリスト 月 冥王星 火星 海王星 おこなうもの。これによっ模は小さいが、それに先鞭をつけたアイデ ア。 て本来地表に到達しないは ずの太陽エネルギーが利用◎宇宙船が小惑星にのって宇宙旅行の燃料を節一 可能となる。 約するという小説は理窟に合わない。結一 これらのほか、随時紹局燃料の消費はほとんど同じになるからだ。 介されたアイデアをいくっ◎太陽系文明の三要素 かひろってみると 物質 ・ : 惑星からの距離 2 エネルギー ◎六角太陽系の提唱 ( 賀梨譲 「宇宙塵」所載 ) ・ : 太陽からの距離 太陽の周囲に、ラグラン 3 情報 ジュの特異解を利用して、 ・地球からの距離 内惑星と大きな衛星を同一 ( この三つによって文明のレベルが左右さ一 3 軌道上に六角形に配置。場 れる ) 星 王図合によっては小惑星ベルト の外側に外惑星を同様に並◎静止衛星軌道に衛星が満員となった場合を考 べる。こうしておけば、通慮して、いろいろ変 0 た軌道がすでに工夫さ一 りすがりの宇宙人にも、これているという話。 こに文明をもっ生物のいる ことがわかるだろう。 ( 図 6 3 ) 00000

2. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

「フ科会」初期のメイン・テーマとしてとりあ 4 社会ーーー個体分布の大域的性質 一げられたもののひとつに、「太陽系開発論」が ある。このテーマにそって、まずリーダー格の◎横堀栄「重力加速 が項目のメモを提出、その線にそっていくっ度と生体」その他 の関係論文紹介 かのレポートがあつまった。 ( 当 地球上各地お 一◎太陽系開発論メ・モ ( ) よび各惑星の重 太陽系開発の目的 カ 人類のため 2 2 いろいろな場 人間の幸福のため ? 合の重力加速度 系内の ( 宇宙の ) 全生命のため ? の値 宇宙進化の必然 ? 3 直線加速度が図一 2 開発空間の分類 生体に及・ほす影 太陽系全領域 ( 半径一光年 ? ) 響 ( 血圧低下、 外惑星、内惑星、太陽周辺、太陽内 脈拍増加、その 部、各惑星周辺、地球磁気圏、大気 他 ) 圏、地表、地下、ベルシダー 4 無重力状態下 人間と機械の関係 の生理 ( 方向感 間接的共存↓高能率の機械使用 覚表失、エネル 直接的共存↓サイボーグ化 ギ 1 消費低下、 離反、競争 循環機能低下、筋肉萎縮、カルシウム排一 泄、アドレナリン増加、感覚異常 ) 空想科学 ) ンゾホジプん ~ ①一 ( は本誌にも評論連載のドクター ) ◎太陽系開発にともなう人体改造 ( ) 太陽系開発レポート 前期 ( 火星・金星等の探検時代 ) 部分的サイボーグ化スタート 中期 ( 系内惑星に恒久設営時代 ) 全面的サイボーグ化が主体 O 後期 ( 植民地自給、恒星進出時代 ) 胎児改造の義務化もしくは染色体改変一 南極一 赤道 一朝 フ科会報告 0 ℃ ーロ 0 ℃ ー田 0 ℃ 一円 0 ℃ ー 200 ℃ ー 2 ℃ ー 220 ℃

3. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

ったが、その一部すらもうかがうことはできなかった。しかたなくサはオリオーネ山脈を越えて平原に入った。すでに食料は無く、水 計算板の上でコ 1 スを算定しながら前進した。このあたりの風はつだけがタンクの底に二センチメールほど残っていた。灰色の砂の上 ねに山肌から吹きおろしてくる。そして幾つかの谷間をつたって砂に美しい風紋が刻まれ、しだいに高くなる陽がそれらから陰翳をう 漠に吹き出すので、風の流れと方向をたしかめてゆけば、確実に目 ばっていった。 指す谷間へ入ることができると言われていた。 フサはふと自分のかたわらに誰かが坐っているような気がした。 地上車が進むにつれて急速に風が弱まってきた。ヘッドライトのフサは前方の砂の海に眼をすえて地上車を走らせつづけた。それが 光の中に、イグルーほどもある岩石が無数に浮び上った。『火星人誰であるのか、見なくともわかっていた。 の道』だった。その谷間は長くのび、オリオーネ山脈の鞍部のひと「フサ。どこへ行くつもりなの ? この先に何かがあるとほんきで つをなしてさらに山脈の向う側の、まだ人類の足の踏み入っていな思っているの ? 」 い荒野へとつらなっていた。そのむかし、古代の火星人たちはこの ほんき ? ほんきとは何のことだ ? 価値の転換に意味をもたら 道を通って西の荒野にしりそいていったと言う。千万年もむかしのし、選択を必然づけようとする一瞬のあの酩酊のことか ? オしか。フサ。火星人はいるかもしれないし、いよ、、 ことなのかもしれない。もとより誰も知るはずもないのに、信じて「いいじゃよ、 いる者は多かった。東キャナル市を出てから七日目の夜明けに、フもしれない。それがわかる所まで行ってみろよ」 ′、ヤカワ・ノンフィクション 虫の惑星 く知られざる昆虫の世界 > ハワード・エヴァンズ 日高敏隆訳 昆虫は人類が出現する数億 年前から生き続けている。 殺されても死なない ( ? ) ゴ キプリ。小さな白い風船を 作ってプロポーズの言葉に 代えるフウセン / ヾ工・・ 昆虫の生態を精密にまたユ ーモラスに語り、昆虫学者 の視点から現代文明を批判 した名著 ! \ 00 マーシャン・ アリマキを専門に襲って産卵するコマ ュノヾチ。この寄生ノヾチの幼虫はアリマ キの体内で発育し、成虫になると穴を あけて外に出る。 《早川書房 205

4. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

さわやかな風が吹きわたってゆくたびに、開け放された窓から黄 なせ ? ばんだ木の葉が舞いこんで、ならんでいる人々の間を蝶のようにひ るがえっていった。 「これから久しきにわたって、子供たちはあなたがたをたたえた詩 レリーフ を口ずさみ、女たちはあなたがたの姿を刻んだ浮彫をみがきつづけ どこかで死の匂いがする。 るでしよう」 ならんでいる人々と、それを囲むさらに十倍以上の数の人々は、 背をまっすぐにのばし、にこやかなほほ笑みを浮かべてこのひとと久しきにわたって ? なぜ永遠に、と言わないのだ ? きを形作っていた。 死の匂いがする。木の葉はあとカらあとから舞いこんでは、壮大 「 : : : 今や人類は宇宙に向って力強く足を踏み出しています。開発な円天井の下をまるで意志あるもののように浮游して回った。どこ の前線は遠く木星にまでおよび、十四個所の根幹的施設と一二九個かで秋の鳥が鳴いている。人々はうっとりとほほ笑みながら、拍手 所の開発のための基地ならびに天体観測拠点は、人類に明日の文明するきっかけを待っている。 をもたらす強力なプルドー ザーの役目を果しつつあります。すなわ「私たちは、あなたがたのことを、子供たちに話してやることがで ち、月から送られて来る多量のウラン鉱。同じく金星のポーキサイきるのをたいへんうれしく思います。それは私たちの夫や兄弟、子 ト、。フラチナ、すぐれた集光性を持っ結晶性炭素化合物。また木星供たちの : : : 」 の衛星上に設けられた化学工業プラント。火星の宇宙開発ステーシ女の白い顔が窓の外の碧い空に向いたとき、そのほほをなみだが ョン等、どれひとつをとってみても、人類の文明を飛躍的に向上さったうのが見えた。 せ、世界経済への安定剤として多大の : : : 」 自信と威厳は単にかれの口調に有るだけではなく、この時まこと に人類そのものの上に在った。 夜明け近い頃、ほんのわずか砂の上に霜が降りた。それは微細な 氷の結品で、たちまちけむりのように消え、あとには霜よりも白い 砂の海がまぼろしのようにひろがった。とけた霜は砂の下の地衣類 濃藍色の夜がくると、もはや砂はほんのわずかな動きもとめ、凝までとどくはずもない。 結した夜気に耐える。一秒が億兆年の一部分なら、夜は明けぬも明 けないも同じことだ。火星人は海の唄を歌っただろうか ? 旅立ち の唄を。一秒が億兆年の一部分なら、砂に埋める夢があってもい 、、とは誰が一 = ロう ? ・ ファンファーレが高く鳴りひびき、一人の小がらな老人がならん でいる人々の前へ進んできた。数歩、歩いては立ち止り、立ち止っ ては歩き出す。老人の後には何十人もの男や女がつづいていた。老

5. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

岩棚の下に朽ち果てた列柱がならんでいた。崖をつたってたえず カビになって横たわっているフルイが背後の荷台から言った。 「それをたしかめたところで、おまえの何が、どう変化するという流れ落ちる石塊や砂が軽石のように磨減したアーチに乾いた音をひ びかせていた。アーチの奥は白い壁でかたくふさがれていた。その のだ ? 」 スホーイがつぶやいた。 壁に、亀裂とも文字とも思われる奇妙な線描がはしっていた。フサ そう。それをたしかめたところで、いったい何がどう変化するとの手から地図が落ち、たちまち風にさらわれて高い絶壁の上方へと いうのだ ? 舞い上っていった。 そこに火星人が立っていた。まぶたを持たない二つの大きな目が 「ちがう ! ラルラ。スホーイも、それからフルイも。火星人がい るかもしれない。ということがどんなに魅力的なことなのか、おまじっとフサを見つめていた。 「おまえに会ったことがある。そうだ。地球の記念ホールでだっ えたちにはわかっていないんだ。好奇心なんかじゃない。現実がい やになったのでもない。もちろん火星人を発見して有名になろうな た」 んてものでもない。わかるかい ? 火星人をさがし求めるおれの心 フサの足もとで砂がかすかにきしんだ。 の問題なのさ ! おれはスペース・マンなのさ。夢を求めてさがし火星人はうでをのばしてフサの首にメダルをかけようとしてい 回るおれはスペース・マンなのさ」 ま・ほろしは消えた。はがねのような氷雪につつまれた海王星の平 原に降り立った時も、金星の熱あらしの中でひたすら救助船を待ち わびていた時も、また、第四アルテアの千古の静寂を秘めた入江の ほとりでアンテナの支柱を立てていた時も、あるものはただ生きて いるという実感だけだった。その実感をもう一度、さらにもう一 度、味いたいがために憑かれたように宇宙船に乗り、くりかえしく りかえし不毛の荒野に身をさらした。 そのひたむきだった日がふたたびフサの上によみがえってこよう としていた。若かった日々。くじけることをしらなかった日々。夢 と生命を引換えても悔いないと心底から思いこんでいた。あれら栄 光に満ちた日々。それらの中に今、フサはいた。フサは若者のよう に声を上げて笑った。 SF マガジン用の美麗・堅牢な特製フ ァイルです。簡単な操作で 6 冊ずつの スマートな合本にすることができます 価 190 円送料 85 円

6. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

近づいてくるフサの姿を見てデロイは機械人形のように立ち上行って、この眼でたしかめてやろうと思って長い間、誰にも言わず っこ 0 にこの地図をかくし持ってきた。だがこの足じゃとてもだめだ。お 「フサ。おまえにやろうと思ってな。これ」 まえにこれ、やるよ」 デロイは汚れた上着のポケットから古びて色の変った紙片をとり デロイはおり目から千切れそうな紙片をフサの手に押しつけた。 出した。 今はめずらしい合成パルプ質の紙片に、何かの塗料で稚せつな地図 「なんだ ? それは」 が描かれていた。こまかな書きこみの大部分がもう薄れて読み取る デロイは慎重な手つきでそのたたまれた紙片を開いた。 ことも難かしくなっていた。 「地図だよ」 デロイは地図をフサに押しつけると、満足したように別れていっ こ 0 「地図 ? 」 キャ・フテン 「ずうっと以前に手に入れたんだよ。『カサンドラ』の船長が書い たものだそうだ」 その夜はしきりにアマゾン砂漠に流れ星が落ちた。フサたちのよ 「どこの地図だ ? 」 うな市の生活保護を受けている者たちの専用食堂はほとんどひと晩 「アマゾン砂漠の西。オリオーネ山脈の山すそだ。古代の河床の跡中開いている。かれらには明日の仕事はないし、何段にも積み重ね だといわれる北へのびる峡谷だ」 られたべッドのひとつだけがかれらに与えられた専有面積であり、 マーシャン・ロード 「『火星人の道』じゃねえか」 空間であってみれば、早くからそこへ収まりたい者はいない。フサ 「ああ。そのずっと奥だ。むかし『カサンドラ』の船長はそこで火は窓口で食券と引きかえた貧しいトレイをテー・フルに運んだ。薄暗 星人の廃虚を見つけたのだそうだ」 い電灯の光の輪の下にデロイがいた。フサはかれのとなりに座を占 めた。 デロイはフサのほかには聞く者もないのに声をひそめた。 「火星人 ? デロイ。火星人が存在しないということは宇宙省の例「今日の昼間聞いた話だが。デロイ。あれはほんとうのことなのか ソラリア・レ第ート の《太陽系報告》ではっきりしているじゃないか」 「科学者や宇宙省の役人どもに何がわかるものかよ ! 『カサンド デロイは食物のかわりに取ったものらしい淡黄色の飲料をなめる キャ・フテン ラ』の船長はおまえ、スペース・マンだよ。おまえもおれもスペー ようにすすっていた。 ス・マンよ。どっちの言うことを信ずるんだ ? 」 「火星人の廃虚のことか ? おれがおまえにうそをついてどうす 「わかったよ」 る」 3 デロイは深くうなずいた。 「いや。おまえがどうのこうのということじゃない。あの話がほん 0 「そうともよ。それで、この地図をおまえにやろう。おれは自分でとうのことだと思うか、と聞いているんだ」 キャプテン シティ

7. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

「それがすぐわかった。誰でも知っているらしい」 だあたたかくてかぎりなくやわらかく、うでもももも、にぎりしめ ればくぼんだ筋肉をとおして、反対側の指先の硬さが感じられたほ 「今どうしているの ? 」 どだった。その頃のラルラと、今のラルラと、どちらがほんとうの 「年金で生活している。ほんとうはまだ退職してはいないのだが、 ラルラなのか、フサはかすかにめまいを感した。 仕事が回ってこなくなってから何年にもなる」 「どうして ? 」 「わかったよ。あっちでもこっちでも言われた。たぶん、ほんとう なま 「どうして ? 今では太陽系内の航行ならサイボーグでなくとも生なんだろうよ」 身の体でっとまるよ。それにここ一「三十年というもの、惑星探察「みんなそうなんじゃない ? 夢を見ている間は変らないのよ」 「おまえはどんな夢を見たんだ ? その体で ? 」 なんてやってないのさ」 「ほんとうはあなたにはそれを聞く資格はないのよ」 「でも太陽系の外まで、手がとどくかぎり惑星全部しらべつくした 「そんなこと、わかってら」 というわけではないんでしよう ? 」 「連邦は惑星開発に意味を認めないんだ。金ばかりかかるといって「私を抱く ? 」 「この光はおまえの心象スケッチだと言ったな。おれはこの色は好 な」 かないんだ」 「金星や火星はすいぶん開発が進んでいるそうじゃない」 「ほんとうは」 「おれが言ってるのはそんなことじゃねえ」 「おれたちには性的能力はない」 「むかしと変らないわね」 ラルラはふとほほえんだ。フサの知っているむかしと少しも変ら「残酷だと思っているんでしよう ? 」 ない笑顔だった。変らないのはその笑顔ばかりではなかった。東キ「おれは詩人じゃない」 「あなたはむかしの私に会いにきた。会いにきたあなたがむかしの ャナル市などでは見たこともない上質のファイ・ハーグラスで織った 着衣のひだをとおしてくつきりとうかがわれる肉体は、むかしフサあなたでなければ」 の知っていたものと少しも変らなかった。ラルラは音もなく立ち上「残酷だと思っているんだろうな ? 」 った。フサの視線を満身にむかえてラルラはゆっくりと体を回し「私は詩人じゃないわ。それにおたがいに手をとりあってむかしの た。身につけていたものが一瞬の飛沫となって床に落ちた。年齢を思い出を語り合うほど若くもないわ」 「悪かったよ。どんな夢を見たか、なんて聞いて」 加えたつややかさと厚みはこれはフサの知らなかったものだった。 腰や太ももの筋肉は触れれば応えるような躍動を示すだろう。首す「いいのよ。人は時に語るために夢を見ることもあるわ」 ネプチュニア・プルー しから背へ流れるよどみのない円みは、時にどのような姿態にも耐部屋をみたす光はじよじょに海王星の菁から落日のような深いオ円 レンジ色に変りつつあった。波紋のような光輝と翳が、あとからあ え得る強じんさをも秘めていた。フサの知っているラルラの体はた

8. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

フサはかすかに哀しかった。 ぬめぬめした光沢などが、それを実際に見たはずもないのに頭の中 にずっしりした現実感をともなって浮かんでくる。さらに、そうし 列のさいごの一人がフサの前を通り過ぎていった。かれはふと足 た生きている器官や組織の間に硬い金属や電子器具を埋めこまれるを止めると、向きを変え、フサの前に歩み寄ってきた。フサの足も というなまなましい受身の苦痛のやりきれなさが、かれらの胸に陰とを、木の葉がくるくると回って走りぬけていった。まぶたを持た ない二つの大きな目が、じっとフサを見つめていた。その目は、燈 惨な恐怖を与えた。それはひどく猥雑なことであり、野蛮なことだ った。しかしそれを滑稽に転化してしまえば逃げることは容易であ台のレンズのように、周囲から同心円を描いて階段のように厚さを 増した透明な角膜でおおわれていた。その同心円の中央に、小さく り、他人の事として苦痛は感じないですむ。 はえ この栄ある儀式に、裸体で参加している男ーー裸の胸にメダルをフサの姿が写っていた。 「火星人じゃよ、 子ーし、刀」 とめることができずに、ひもで首からつるしている男。転化するに は、それだけのきっかけがあれば充分だった。女たちの間で、小さ フサはこれまでただ一度も火星人など見たこともなかったが、た な忍び笑いがもれた。 ぶんこれは火星人であろうと思った。フサはひたいの汗をてのひら でぬぐった。その指先から汗の滴がたれて床に幾つもの小さなしみ かれらは救われたのだ。 。そんな意味のささやきがもれ、それを合図にしを作った。火星人はやって来た時と同じように、また足音もなくフ あら、かわいい たかのように人々の列はざわざわとフサの前を動いていった。表彰サの前を離れると、人々のあとを追って歩み去った。フサはどろが 崩れるようにゆっくりと床に沈みこんでいった。 者に送られるはずの握手は完全に忘れられた。 「おい。気にするなよ」 気がついた時、フサはペッドに横たえられていた。薄緑色に塗ら ハルが太い息を吐いた。 なんということはないのだ。係の役人が、誰の胸にもピンでメダれた壁や天井が、間接照明の下で若葉のようにやわらかく目に映っ ルをとめられるのだと思いこんでいたまでのことだ。ひもでメダルた。体を動かすと黒い人影がのそきこんだ。 「目がさめたか ? 」 を首からつるしたとて、どうということはないのだ。流れるような 、レ・こっこ 0 儀式が、わずかな失態で、ほんのひとときとどこおったとしても、 それはもとよりフサのせいでもなければ長官のせいでもない。汚れ「おれ、どうしたんだ ? 」 ハルはスイッチをひねって部屋を明るくした。 たびもでメダルを首にかけてやったとしても誰も笑う者はいないだ テしふ疲れたようだな。脳貧血を起し ろう。だが、そんなことを嫌う者もいるだろうし、こつけいと感じ「いや。眠っていただけだ。・こ、・ たんだ」 る者もいるだろう。やはりメダルは。ヒンで上着の胸にとめるものな フサはペッドの上に体を起した。 のだろう。

9. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

◆ を ′、一ド S F 特集第 未来の翳、豊田有恒 宇宙 25 時こ、荒巻義雄 \ 結晶星団ー ~ 小松左京 " 火星人の道光瀬龍 ◆◆支

10. SFマガジン 1972年9月臨時増刊号

ら′ャン′・ロ . 火星人の道 光瀬音巨「画☆釜森達 冷厳非情の経済法則か 人類の華やかな宇宙探険期を 過去の遺物に変えた時代に ひとり虚しく幻を追う男 ! 5