にびったりの肩書ーー著者注 ) に仕事があるとすれば、ただやかま 社会を想像してみればよいだろう。 実際、ガロウ・グルー。フのすべての仕事は , ーー″仕事″とは定期しく騒ぎ立てるだけだからだ。確かにそれは彼らが好んでやること 的な業務を指して言われ、その収益は労働者自身の他に他の者にもで、被害を蒙るのは決って大人達なのである。明らかに子供達の耳 ランダリー・ジ 忠実に見返りがあるーー二種類に分かれている。一つは″自発的仕の鼓膜は騒音などには不感症になっているのだ。 インボランタリー 行政官はしいっと言って周りを静まらせた。 事″、もう一つは″強制″あるいは″共同仕事″と呼ばれる ラフは葉巻を一本受取った。 ものだ。最初に分類されるものはすべて平等である。あるガロウが 役に立っ溝掘り作業を楽しく行っているとすれば、彼の性質は尊敬「ラー、しばらくの間このグルー。フを離れようと思っているんだ」 され、その仕事は名誉とされる。このような穴掘りを誰も好んでや「仕事のためなんだよ」 「君が行っちまうのはおもしろくないな、ラフ。長くはないんだろ らなかったり、生活の安楽のためにさらにそれが必要だと分かった 場合、″共同仕事″となって、都合によって抽せんまたは交替で行う」 「そう願いたいね。″共同基金″はどのくらいある ? 」 われるのである , ーー煩わしいが避けることのできないものである。 「ああ、君の目的に適うぐらいは十分あるよ。どこへ行くつもりな そんな訳で、その行政官は、他の仲間がそうでないのと同様に、 広い贅沢な家には住んでいなかった。委員会の議長でもなく、仕事んだい ? 」 「イースト・ ・グループだ」 の名前以外に特別な肩書は持たず、ねたまれたり憎まれたりするこ 行政官はうなずくと考えにふけるように煙を吐き出した。「あい ともなければ崇敬もされなかった。 ーにや利益金が余っているがうちの帳簿に 彼は好んでグループ間の取引をまとめたり、グループの一般収入にく、イースト・、 よかったら証明できるがねーーしかし、″共同基 を管理したり、たまに起る不和を審判したりした。もちろん、彼が登録済みだ 好んで行ったことに対する付加的な食物あるいは能力の特権は受け金″なら旅費とか必要な経費は出るだろう」 「そりゃありがたい。だが、″共同仕事当番表″で俺はどうなって いる ? 」 それ故に、ラフがその行政官に会いに立寄ったのは、許可をもら うためではなく自分の話の道理を体裁よく通すためだった。休館日「うーむ、名簿を見てみなくては。しばらく待っていてくれ」彼は はまだ終っていない。行政官は肘掛け椅子にゆったりと坐り、食後巨体を揺るがせて部屋を横切り、廊下へ出て行った。ラフは自分の ためら の葉巻をくゆらせていた。手には食後に読む本を抱えている。六人前に転がり込んできた一番下の子供を突っくのを躊躇った。歯を光 らせ獰猛な顔付きをして唸り声をあげているーーー五十万年前の動物 の子供と妻は食後のくつろぎを満喫していた。 部屋に入るやいなや、ラフは家族の皆んなから挨拶を受け、思わの祖先の形態からいまだに広がりきっていない、長くて子供つばい ず両手を耳にあてた。というのも、いろいろな″小行政官″ ( まさ鼻を持った、厚い毛皮の真黒い小さな固まりだ。 コミュニティ・ジョブ
告した。「ぼくらのひとりかもしれない。変てこな名前ならほかに ちょうだい ! 」 も聞いたことがあるからね ! 開拓者の暮しは、・ほくらの命名のセ 3 「彼は目が見えませんのよ」おかあさんが穏やかに言った・ 2 ンスを混乱させる傾向があるようなのさ」 「まあ」女はまた顔を赤らめた。「そうでしたのーーー」 イ 「とにかく呼んでみる。呼んでみて、もし返事があったらーー ! 」 「いまライサという娘を知っているとおっしゃいましたか ? 」テ 「彼女に聞こえればね」と言いながら・ほくは、彼の″呼ぶ″という ミーはかすれた声でたずねた。 「いえ、あたし自身はよく知りませんけどね」女はあやふやな口調のが大声を出すことではないのを、そして、マージンまでの距離は こよっこ、 「ただ一、二度見かけたことがあるというだけでーー」まったく問題にしないのを悟っていた。「ひょっとすると彼女は、 ティ ーの指がのびて、彼女の手首に触れた。女はまるで火傷できみとおなじに、ほかのみんなは死んでしまったと考えているかも は言っしれない。もしそうだとしたら耳をすましていないかもしれない」 もしたようにそれを振りはらった。「すみません」ティ 「それでも、《故郷》のことはたびたび考えるはずだ」ティ た。「あなたはどちらからいらっしゃいましたか ? 」 きつばり言った。「そしてもし考えれば、きっと・ほくの呼んでいる 「マージンです」 向きなおったとき、ティ ーの手はかすかに震えていた。「ありのが聞こえる。いまからすぐ始めてみるよ」そして彼は、池のほと りのクルミやャナギを巧みに縫って進んでいった。 がとう」 ばくは彼を見送って、溜息をついた。ぼくは彼をしあわせにして いいえ、どういたしまして」女はつつけんどんに言った。それか ら、不思議そうに・ほくらを見送っているおかあさんに向きなおつやりたかったし、もしそれが彼のライサなら、二人を再会させてや いま流行のドレスはーー」りたかった。けれども、彼が呼んでも呼んでも答がなかったとした た。「ところでお聞きになりました ? 「残念だけど透視がきかなかった」二人してみどりの草むらを果樹ら ミーが・ほくにささやいた。「彼女池の・そばのとある岩に腰かけた・ほくよ、、 をしま一度・ほくらの計画し 園のほうへ歩きだしたとき、ティ ている小さな湖を思い浮かべた。・ほくらはそこに魚を放し、できれ が・ほくにさわらせてくれなかったんでね。マージンっていうのは、 ばポートを浮かべるつもりだた。・ほくはその冷たい水のなかで手 どのくらい遠いんだい ? 」 ミーカくるまて これはティ 「デソレーション峡谷を横切って二日の道のりさ。鉱山町だよ」答をばちやばちやさせながら、考えた えながら、・ほくは興奮に湧きたっていた。 は塵だったのだ、と。彼もずいぶん頑固なやつだったをその頑固さ 「二日 ! 」ティ ーはだしぬけに立ち止まって、そばの小果樹にすが、この荒野についに水を湧きいださせたのだ。 ミーが呼べば」と、 . ・ほくは、ふいに水 がりついた。「わずか二日なのに、いままでなにも知らずにいたの 「まあいいや、とにかくティ の上に突きだした小枝で、ひょこびよこ・ハランスをとりだした小鳥 「もしかしたら、きみのライサじゃないかもしれないよ」・ほくは警にむかって話しかけた。「だれかが答えるだろうさ ! 」
れにまにあうといいんだが・ー . 」 く押しているのが感じられた。たった一カ所岩を割ってやるだけ ぼくはすばやくふりむいた。ティ ミーが身動きしていた。手が顔で、水が噴きでてくるはずなんだ。だが岩はなかなか割れなかっ ・ほくは《全能者》に呼びかけては、何度も何度も思念を凝ら の包帯をそろそろとさぐってみていた。 イした。とうとう最後にちっぽけな破片が欠けて、噴ぎあがった。水 」・ほくは彼の手首を握った。「だいじようぶだよ、テ 。ただかさぶたがむけただけなんだ。それでまた包帯しなきやの勢いはーーーまるでーーーまるでーー爆風みたいだった。もうぼくに ならなかったのさ」 はわずかな力も残っていなかった。それきりぼくは意識を失った」 「みーー水はーーー」彼の声は、やっと聞きとれるか聞きとれないく「あれだけの土を、たったひとりで掘りだしたのか ! 」おとうさん ら、・こっこ。 がテ の片手をとって、そのなめらかな手のひらを見つめた。 ティ は言った。「ぼくらは物を上げたり割ったりするのに、 「ここら一帯水びたしさ ! 家が浮いて流れだしちまった。まあき またこれが冷た必ずしもそれに触れる必要はないんです。ですが、長時間それをつ みにあの池を見せてやりたいね ! それから川 ! づけたり、重いものを上げようとすると、カがたくさん要ります」 い水なんだ ! 」 彼の頭が力なくころがった。 「喉が渇いた」彼は言った。「水を飲ませてください」 ・ほくのさしだした冷たい水のコップを、彼は一滴残らず飲みほ「ありがとう、ティモシー」おとうさんは言った。「きみの井戸は し、それからくちびるのはたを吊りあげて、かすかな笑みを浮かべわれわれの救いの神だ」 た。「荒野に水わきいで 「ああ、溢れるほどの水がね」ぼくは笑った。それから真顔になっ とまあこういうわけで、・ほくらはよそに移らずにすんだのだ。こ ・フロミス・ポンド た。「それにしても、ひとりで外に出てなにをしてたんだい ? 」 ういうわけで、ここに″約束の池″ができ、農場をみどりに保って フールズ・エーカーズ いまではおとうさんとおかあさんも、・ほくらのそばの床に坐りこ いるのだ。こういうわけで、ここはもう″愚か者の土地″ではな フル・エーカーズ んでいた。 ″豊饒の土地″となったのだ。こういうわけで、カヒラ・クリ 「井戸のなかの土を掘りださなきゃならなかったんだ」・ほくの手首 1 クが、その名をスペイン語に結びつけようとする人びとの首をひ ミ 1 ーン J ま、、カ をさぐりながら彼は言った。「一晩じゅうぼくは上げつづけた。ゅねらせるようになったのだ。おとうさんでさえ、ティ るんだ土を、また穴のなかに逆もどりしないよう支えておくのは大なぜぜこの流れを″カヒラ″と名づけたのか知らない。ばくらがあ 変だった。ぼくはポーチに坐って、上げに上げた・そしてとうとう の小さな箱のことを思いだしたときには、池はあやうくそれを呑み 土を・せんぶかいだして、岩を露出させたんだ彼は溜息をつき、一分こんでしまいそうになっていた。 デソレーション・ヴァリ 間ほど無言でいた。「・ほくにはそれだけの力があるかどうかわから とまあこんなわけで、″荒廃の谷″を横断する幹線道路は、 なかった。岩にはひびがはいっていて、水がそれを下から強く、強いまではこの准州でいちばん甘い、いちばん冷たい水の湧く、うち 230
「明日の日の出ごろには、ぼくらは荷造りを終えているさ・もう眠 だ ! きっとたいした見ものになるだろうー 樽は急速に空になりかけていたし、水溜りは熱い日ざしに焼かれれよ」 て、そりかえった、かすかに湿った泥の塊りになろうとしていたか「じゃあそれなしでやらなきゃならないな」ぼくの言葉など耳にも ーニイ、もしぼくに《お召 ら、その午後ぼくらは荷造りを始めた。といっても、持ってゆけるはいらぬようすで、彼はつづけた。「・ハ のは、千し草ぐるまに積めるものにかぎられていた。すでにここにし》があったら、だれかが取りにくるまで、・ほくのカヒラを預かっ きたときに乗ってきた幌馬車は、農機や洗濯槽ひとそろいと交換さていてくれるかい ? もしそれを取りにくるひとがいたら、それは ピープル ぼくの《同胞》なんだ。そうすれば彼らにも、・ほくが行ってしまっ れてしまっていた。だがせつかくのその農機具も、ここに置去りに たことがわかる」 して銹びつかせるか、いっかばくらが取りに帰ってくるときまで、 いったいなんのことだい ? 」・ほくはたずねた。 「《お召し》 ? 放置しておくよりほかないのだった。 その夕方、おかあさんはメリーを連れて、丘の斜面にある樫の木「あの赤ちゃんのようにさ」彼はそっと言った。「ぼくらのやって みくら の下の小さな墓に行った。長いあいだおかあさんはそこでタ日に背きたところ、《御座》に召しかえされることだよ。・ほくが自分ひと を向け、頭を垂れてじっとしていた。それから、ぐっすり眠りこんりの力だけであれを上げなきゃならないとすると、カが足らないお それがある。だからきみ、・ほくのカヒラを預かってくれるね ? 」 だメリ 1 を抱いて、無言でもどってきた。 「うんわかった」彼がなにを言っているのか呑みこめぬままに、ば 寝床にはいってから、ティモシーが・ほくの手首をさぐりにきた。 「ねえきみ、きみたちのこの地球には衛星があるんだろ ? 」彼は言くは約束した。「預かるよ」 「ありがとう。じゃあおやすみ」 葉は使わずにそう質問した。 「衛星 ? 」ぼくが声を殺してささやき返すと、大きいべッドでだれそしてまたしてもランプが吹き消されるように、目覚めがふっと ・ほくから遠のいていった。 かが落ち着かなけに寝返りを打った。 「うん」彼は答えた。「地球のまわりをまわっていて、夜になると 光る小さな世界のことさ」 一晩じゅうぼくは夢を見ていた。あらしと地震と、洪水と、竜巻 「ああ、月のことだね」・ほくはささやいた。「たしかにお月さまなとが、ぜんぶいっぺんにすごい勢いでぼくの上を通り過ぎてゆく夢 らあるけど、今はあまり明るくないよ。日没後わずかな時間だけ、だ ! それからふと気がつくと、ぼくはなかば夢うつつで横たわっ 1 の指からカが抜けて、いまの夢のいくぶんかが現実であることを恐れて、目をあける かけらみたいなのが見えていたたけさ」ティ ことに抵抗していた。そしてとっぜん、それは現実となった ! るのを・ほくは感じた。「な・せだい ? 」 7 床がめりめりと軋みながらぐらりと持ちあがり、またどすんとも 2 「日の光と月の光がいっしょにあれば、大きなことがやれるんだ」 彼の答が伝わってきた。「ひょっとして、明日の日の出ごろーー」とにもどったので、・ほくはあわてて藁ぶとんにしがみついた。鍋や
べし』」と、彼は一語一語に力をこめて注意ぶかく言った。 ・ほくは・ほんやり・ハケツを拾いあげると、なかにはいっていた石の 「ばかのひとつお・ほえだな ! 」おとうさんが背を向けながら苦々し かけらを捨て、慎重に・ハケツをポーチの端に置いた。 げに言った。 「もしも水があの石の下にあるとしたら ! 」・ほくは叫んだ。「おと「お食事よ」重そうにメリーを抱いたおかあさんが、静かに声をか うさん、いっか向こうの牧草地で、メスキートの切り株を掘るのにけた。 を連れてきた。彼は思いのほかいそいそと ・ほくは行ってティ 発破を使ったことがあったね。あの石をそれで爆破できないかしら やってきた。前庭のく・ほみのそばまできたとき、彼は・ほくの手首に 納屋へ急ぐおとうさんの足どりは大股で、威勢がよか 0 た。「切手をかけてちょ「と立ち止まり、それからいっしょに薄暗い小屋に り株以外にこいつを使ったことはないんだがな」そう言いながらおはいった。 食事のあと、・ほくは例によって本を持ちだした。ところが、なに とうさんは、おかあさんとメリーを納屋の裏に避難させ、ティ ーはテー・フルに手をのばすと、本の山をさぐりあ と・ほくを井戸のふちからさがらせて、自分だけその底に降りて爆薬を思ったかティ を仕掛けた。おとうさんが大急ぎで梯子をよじの・ほってくると、・ほてて手もとに引きよせた。それから、両手を重ねてその山に置き、 くはとびだして梯子を引きあげるのに手を貸し、それから・ほくらもさらにその上にあごをのせて、しばらくじ「としていた。包帯の下 の顔は考えぶかげで、かぎりなく静かだった。 また納屋の裏手に避難した。 ナしふ言葉 ティ ーは・ほくの手首にしがみついていたが、やがて爆破音が聞やがて彼はのろのろと言いだした。「いまでは・ほく、・こ : こえてくると、なにか・ほくには理解できないことを口走り、それきを覚えました。なるべくはやく覚えようとしてきたんです。あるい り、井戸にもどる・ほくらについてこようとはしなか 0 た。彼は納はときどき間違うかもしれませんが、それでもいまは話さなくては なりません。あなたがたは、よそへ行ってはいけません。な・せなら 屋の裏手にうずくまって、膝に顔を伏せ、両手で頭をかかえてい ここには水があるからです」 おとうさんはあんぐりあけていたロをとじて、呆れたように言っ ぼくらは井戸を見た・それは前庭の小さなく・ほみにすぎなかっ た。「するときみは、最初からずっと、われわれを驤していたの た。爆発でまわりの壁が陥没してしまったのだ。もはやそこには、 ばくらの苦役のあとを示すものとしては、くぼみの周囲に盛りあげか ! 」 の指 おとうさんの言葉につづいた短い沈黙のあいだに、ティ られた土と、梯子と、把手にロープを結びつけた・ハケツがあるきり は・ほくの手首をさぐった。それから彼は言葉をつづけた。「騙して だった。く・ほみの上で土くれがほろほろとくずれ、小さな流れにな ーニイ以外のた いたのではありません。言葉がわからないので、・ハ ってその底に落ちてゆくのを、・ほくらは茫然とながめていた。 「『砂漠に川ながるべし』か」と、おとうさんが言って、背を向けれとも話せなかったのです。それに、彼と話をするとき、彼の言葉 こ 0 2 幻
に恋する男のものだった。ヴァレリアは唇をかんでうつむいてい 三波がヴァレリアにつきつけて来た彼女の長剣を投げる。ヴァレリ る。よく見るとご丁寧にさるぐっわまでされていた。 アがうけとめる。ザクリ : 二人のロスポ兵は伊東と三波だった。ヴァレリアにさるぐっわを ザウロはヴァレリアに胸を深々とっきさされ、信じられないとい しないと、いざご対面の時、何を言いだすか判らなかった。何しろうように目を剥いた。 嘘がつけないのだから : : : 。 三波と伊東が悲鳴をあげて、休止中の部隊へかけ寄って行く。 「ザウロ殿がこの女にご執心なのは、全兵士の間に隠れもないこ 「ザウロ殿がやられた」 と。我らの手柄さえ認めていただければ、喜んで献上いたします」 「ヴァレリアにザウロ殿が殺されたそ : : : 」 「何しろジャジャ馬で、本隊まで引っぱって行く自信がないので ヴァレリアは剣をザウロの体からひき抜き、これみよがしにもう ひと突き。 三波と伊東はお世辞たつぶりに言い ややツ、と色めき立ったザウロの兵士は、てんでに武器をとり直 「さあ、お好きなように」 してヴァレリアのほうへとび出そうとする。その時反対側の森から とヴァレリアをつき放した。ヴァレリアはトントンとつんのめ 0 わ 0 と一度に奐声があがり、テ 0 トルの一隊が襲いかかる。 てザウロの胸に。 「輸送隊は前へ逃げろ」 「ザウロ殿。しばし部隊に休止のご命令を」 三波と伊東は黒衣の荷かつぎ部隊を抜身でおどしながら、荷物ご 三波にうながされても、ザウロはヴァレリアを胸にだきとめてぼと前方のガル・ ( ラン村へ連れ込んで行く。 んやりしている。 ロスポ兵は側面の敵に夢中で、ガル・ ( ランへの道がガラあきなの 伊東が大声で言った。 にも気づかない。 「ザウロ殿のご命令だ。全員そこでひと休みツ」 丘の中腹ではヴァレリアがザウロにとどめをさし、その背後から 妙な命令のしかたた 0 たが、ヴァレリアをかかえたザウを見せも吉永に率いられた一隊が湧きだして丘をかけおりて行く。 られては疑う者もない。隊列が崩れ、みな一斉に腰をおとす。 「さ、ザウロ殿もおくつろぎください」 3 三波は甲斐甲斐しくザウロの革の鎧を外しはじめる。伊東が大薙 刀をとりあげる。 嘘をついてほめられたのははじめてと伊東が言ったが、ザウロの 鎧を外すとき、ザウ 0 がヴァレリアの体を離した。そのとたん、部隊を敗「てベルヴ = ラスの洞窟〈戻ると、四人は以前にもまして ヴァレリアの繩尻りを伊東がさっと引っ張った。パラリと縛った繩下へも置かぬ扱いをうけることになった。 がとけ、ヴァレリアはじれったそうにさるぐっわを自分で外した。 何しろ、嘘をつけるのは高貴な身分のあかしというのだから、四 8
「馬がいないね。牛ばっかりだ」 「そう言えばそうだな」 9 姿なきコンパニオン 「それに、車もない。荷車、手押車 : : : 車らしいものがまるで見当 らない」 天文学的な話題を二つばかりご紹することは既報のとおり臆測されて 三波が素っ頓狂な声をあげる。 ^ しよう。 いたのであるが、それが他の星のま 貴方のまわりをいつもウロウロしわりを廻っているのが、今回発見さ 「なんだか物足りないと思ってたら、それかア。みんなエッチラオ て離れない目に見えないコン。ハニオれたのである。 ッチラ、背中にかついでるんだもんな」 ンっまり仲間影のようなものがあっ これを発見したのは、オーストラ 若様がうなずく。 たとしたら、何か不気味だし、また リアのストロムロ山天文台で 2 DO 居心地が悪いだろうと思うのだが、 九〇 0 ー四〇という X 線星の観測を 「なるほど。馬がいないか。でも、馬がいなくても牛がいる。牛に 天体の世界では、目に見えない伴星行っていた五人の天文学者で、この 乗ってもよさそうなものだし、牛に物をのせて歩いてもおかしくな を持った恒星というものがあるらし 線源と関係があると思われる可視 つまり、目に見えない星がいっ星のスペクトルやその他を研究して硼 いのに、誰もそんなことはしていないね。ひょっとすると、僕らは もそのまわりを廻っているのであ いるうちに、この線源が一定の周 この世界でずいぶんやる事があるのかもしれない」 る。 期でこの可視星によって蝕される模 「そうらしい」 といっても、その目に見えない伴様であることから、それが連星で、 星というのは、透明でもなければ、 この可視星がその一方であるらしい 吉永が同意した。 幽霊でもない。このところ天文学的ことがわかって来た。 「何やることがあるの」 世界の話題をさらって本誌でもたび ところが、この可視星の方は、我 たびとり上げられている「プラック我の太陽の質量の四十五倍もあるよ 伊東が尋ねた。 ・ホール」なのである。 うな大きな恒星であることがわかっ 「牛の力をもっと利用することや、車輪のことを教えてやろうと言 この「プラック・ホール」という たが、もう一方の方は、太陽の三倍硼 うんだよ」 のは、星の進化の段階で、それを構位の質量しかない小さなものである 成している物質が極端な原子的崩壊ことがわかって来た。しかし、この 「そんなこと、ここの人たちは知らないのかい」 を行って直径わずか十キロ内外とい 大きさの星ならば、当然見えるはず : だろう」 「だって見たとうり : ・ う途方もなく小さな空間に凝縮して のものである。ところが、それが見 しま「たため、そこから発生する重えないと言うことは、それがすでに 「それはいいや。車を売ってひと儲けしようよ。フォードとかシポ 力が非常に強く、その影響でそこか死滅した星であることを意味してい レーとか名前つけちゃってさ」 ら発せられる光の進路はすべて強力る。しかし、それでいてこれだけ強 に彎曲させられてしまって外へ出ら い線を放出する線源をなしてい 「荷車にかい」 れなくなってしまい、それ自体で閉るということは、それが原子崩壊を 「そうさ、売れるぜ。俺、一度ライバルなしの商売って、やってみ 鎖した世界をつくって、その存在が起してっぷれた中性子星でしかもそ 視覚的にその外部から認めることが の質量が太陽の質量の二倍を超える たかったんだ」 出来なくなった状態のことである。 ということは、それがすでにプラッ その時、ヴァレリアが先頭のほうから戻って来た。 こういう状態は、従来単独に存在ク・ホールを形成していることを示
たいのが五人。手に手に短剣をきらめかせて追って来る。 みつめたまんま伊東はそれを三波に渡す。三波も夢中で斬り合い をみつめたままそれを受取る。 三波が棒を受取るとすぐ、伊東は持ち前のゴロゴロした声で、 3 「そら行け : : : 」 と怒鳴り、三波の背中を押した。前をみつめたままである。 四人の見ている前で斬り合いが始った。 きっかけは美女が草に足をとられてころんだからだ。すぐ立ち直背中を押されてつんのめりそうになった三波伸夫は、中腰だった ったが、もう逃げるには遅すぎる。すらりと長剣を抜き放ち、五人のがはずみでひょいと腰を伸した。つまり、立ちあがったというこ とだ。隠れていた繁みから、上半身があらわれる。 の敵に身がまえた。 「ややッ 革の制服に身をかためた兵士たちは、かさにかかって突っ込んで くる。美女はひるむ様子もなく、先頭の兵士がっきだす幅の広い短と、兵士たちが新手に向って身構えた。三波は自分の手にある棒 を意外そうに見た。 剣をなぎ払う。 ・ : と刃の触れ合う音。ひつばずされた男は短剣をつきだ「何者だ、責様」 したまま、たたらを踏んで四人の隠れている繁みへ : 。思わす四繁みの中で伊東が今度は尻を押した。棒を手に、三波はふらふら っと前へ二、三歩。 人は目をつぶる。 その間にも二番手、三番手。美女はしだいに後退し、今は泉の岩美女はそれに力をえて逆襲に出る。その美女に三人、三波に二 人。兵士は二手に分れて斬りかかろうとする。仕方がないから三波 を背に、肩で烈しく息をする。 が無雑作に棒をふりまわした。 「いけどりにしろとのご命令だ」 枯枝の棒が三波の大力で宙に念り、兵士の横っ面へ。ハシッ : 兵士の一人が叫んだ。 当った所から先が粉々に砕け散り、兵士はよろよろっと美女の方へ 「できるならしてごらん」 よろけて行く。その剣を美女の剣がはねあげると、剣は兵士の手を 岩を背に、美女が言い返す。 はなれてキーンと宙にとぶ。 「小癪な」 と、からみのきまり文句で一人がまた突いてでる。危うくそれを「ワーツ」 山本、吉永、伊東の三人が同時に叫んで繁みをとびだした。兵士 かわすと、今度は反対側からもう一人。兵士の剣が岩に当ってガシ ッという音をたてる。 たちは胆を潰して踵をかえし、今来た道を一目散に逃げて行く。 9 伊東は夢中でそれをみつめながら、手さぐりで足もとから太い枯「やったやった : : : やったぜ親分。凄いカじゃねえか。ぶん撲った 7 枝をつかみあけた 0 長さが一メートルとちょっと。手頃な棒だ。 ら粉々になっちゃったね」
なハーフェクスの心にくすぶっていた偏執病的な不安の火種に油を彼女はほかの人たちを見た。そして絶望を感じた。トミコとオス そそぐ結果になった。トミコとオスデンが共謀して、なにが重大なデンとのいわば新しい関係、脆いけれども深い相互依存の関係が、 彼女にある力をあたえていた。しかしハーフェクスですら、取り乱 事実とか危険を、みんなに隠しているのではないかと疑った。 トミコよ、つこ。 をしナ「盲人が象を説明するのに似ているわ。オスデさずにはいられないのだとしたら、他のみんなが、どうして取り乱 ンは、あの : : : 知覚のあるものを、見もしなければ、音を聞いたのさずにいられないって ? ポーロックとエクスワナは部屋にとじこ もり、他の人々は働くか、なにかをしていた。トミコは彼らのすわ でもないのよ、あたしたちと同じように」 「しかし彼はそれを感じたんですよ、 ( イト」 ( ーフ = クスは怒りっている位置が奇妙なことに気がついた。はじめはなにが奇妙なの を押し殺した。「エンパシーによってではない。頭蓋骨で感じたんかわからなかったがそのうちにわかった。彼らはみんな近くの森の だ。そいつは彼のところへやってきて、鈍器でなぐったんです。彼ほうをむいてすわっていたのだ。アスナニフォイルとチェスをして いるオレルーは、椅子にくつつけていた。 はそいつをぜんぜん見なかったんでしようかね ? 」 トミコはマノンのところへ行き、パズルをとくようにといった。 「なにを見ればいいの、ハーフェクス」トミコの言葉の深い意味を ( ーフ = クスはくみとろうとはしなかった。彼は理解することを拒彼はくもの巣みたいな茶色の根を切りむすんでいる。すぐにさとっ んだのである。われわれが怖れているのは異形のものだ。殺人者はて、いつにない簡潔さでいった。「敵から目をはなさないように」 アウトサイダーで、われわれの仲間ではない。悪魔は、わたしの中「どの敵 ? あなたはなにを感じているの、マノン ? 」不意に希望 カわいた。 / をー 彼よ、い理学者だ。生物学者がとまどうような暗示とか感 にいるのではない。 「最初の一撃で彼はほとんど気を失ってしまった」とトミコは疲れ情移入などの曖昧模糊とした分野の専門家ではないか。 「特殊な空間的定位に強い不安を感じますね。しかしぼくはエンパ た表情でいった。「彼はなにも見なかったのよ。でも森の中で気が ついたとき、はげしい恐怖におそわれた。彼自身の恐怖ではなくスではありませんから。したがってこの不安は、特別なストレス状 て、外から感じるもの。それはたしからしいわ。あたしたちのもの態という言葉で説明しうる、つまり森の中で仲間が襲われたという ことですね。それから総体的なストレス状態、それはまったく異質 ではないこともたしからしいわ。だからここの生命体は知覚がない とはいえないのよ」 の環塊におかれているということですね。つまり〈森〉という言葉 ハーフェクスはチラッと彼女を見た、暗い表情だった。「あなたの本来的字義は避けがたい暗喩を提示しているわけです」 は、・ほくをおびやかそうとしている、ハイト。あなたの気持がわか それから数時間後、オスデンが悪夢にうなされている声で、 コは目をさました。マノンがなだめているのをきいて、彼女はま らない」彼は立ちあがり、実験室のテープルのほうへ歩いていっ た。ぎくしやくとした足どりで四十とはおもえない、まるで八十のた、黒い枝をひろげる夢の迷路のなかへ沈みこんだ。朝になっても エスクワナは目をさまさなかった。刺激剤でも目がさめなかった。 老人のようだった。 6
か、皮をはがれた顔のように表情がない。 の文句をつぶやく。 「賛成」とオスデンは甲高いかすれ声でいった。「自閉症的内向性「彼がチームに加わったのは、テラ政府の仕組んだ陰謀としか考え は、ぼくをとりまいているあんたらの安つぼい、手あかのついた感られないな。この調査を失敗させようという魂胆ですよ」 情よりはましだろう。あんた、いまどんな憎悪をかきたてていると クスはチラッとうしろを見ながら小声でいった。ポーロックはズボ ころかね、ポーロック ? ・ほくを見るにたえないか ? ゅうべやっ ンの隠しボタンをまさぐっている。目に涙があふれている。まった ていたような発情訓練でもしたらどうだ、そうすれば どこのどく彼らはみんな狂人だ、とわたしはいいたしが、あなたは、きっと いつが、・ほくのテー。フをいじったんだ ? ・ほくのものには手を触れ誇張だと思うだろう。 るな。・、 カまんならないんだ」 むろん彼らは、調査隊員としての資格がないわけではない。隊員 「オスデン」へアリ・セチアンのアスナニフォイルが、ゆっくりし たちは、チームのメイハーがそれそれ知性もあり、教育もいきとど た大声でいう。「きみはどうして、そういやらしいんだ ? 」 き、情緒は不安定だが、個人的には気のあう仲間たと思っている。 アンダー・エスクワナは体をちぢめ、顔の前に両手をひろける。彼らは、せまくてむさくるしいところでいっしょに仕事をしなけれ いさかいは彼を脅すのである。オレルーは無心な表情で二人を見あばならないし、いわば人格のあらわれともいえる軽度の。ハラノイア げる。永遠の傍観者である。 や憂うつ症や躁病や恐怖症や脅迫観念などとも、たえずつきあわな 「いやらしくって、どこがいけない ? 」とオスデンはいう。アナナければならない。オスデンは知性はあるが、教育がお粗末である ニフォイルを見ようとはしない。せまいキャビンで、なんとかしてし、人格は惨たんたるものだ。彼がチームに加えられたただ一つの みんなから遠ざかろうとむなしい努力をしている。「・ほくが態度を理由は、彼にあたえられたただ一つの天賦、エンパシーのためであ 変えなくちゃいけないという理由を考えつくやつはいるかね、あんる。つまり、広域にわたる生物感情の受信能力である。彼の能力は たらのなかに ? 」 種を問わない。感覚のあるものなら、なんでも。ヒックアップしてし アスナニフォイルは肩をすくめる。セチアンは明言することをあまう。白ネズミの色情、たたきつぶされたゴキ・フリの苦痛、蛾の向 まり好まない。控え目で忍耐強 いハーフェクスがいった。「理由は光性などを感じとることができる。異星の上では、周囲にあるもの ありますよ。これから何年もいっしょに暮すのだから、あんたが態が知覚を有しているか否か、有しているとすれば、われわれにどの 度を変えてくれれば、おたがいにもっと暮しよくなるとおもいますような感情をいだいているかということを知るには、彼の能力が役 がねーー」 だつだろうと当局は判断したのである。オスデンの肩書は、耳あた 「あんたらにぼくが迷惑をかけているかね ? 」とオスデンはい、 しすらしい。感覚担当である。 てると、マイクロテープをもって出ていった。エスクワナはいきな「感情ってなにかしら、オスデン ? 」 り眠りこんだ。アスナニフォイルは空中になにやら描きながら経典ある日、ハイト・トミコはそうたずねた、なんとかして彼に近づ 7 4