声 - みる会図書館


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1. SFマガジン 1973年10月号

なくなってしまう。あなたがオスデン氏におあいになったとき、あがーー」マノンは話しつづける。そして他の連中は、マノンがしゃ なたの彼に対する情緒的反応が、初対面の人間にだれでもが感じる・ヘっているあいだに、他の話をするという法をすでに学んでいた。 軽い敵意、それからオスデン氏の容貌とか服とか握手の仕方ーー、・そ彼はそれを気にかけるふうもなかったし、またみなの話もほとんど の他もろもろに対する無意識的な嫌悪だったとしましよう。彼はそ聞きのがさなかった。 の敵意や嫌悪を感じとります。自閉症的な防禦法はすでに忘れさら「では彼はなぜわたしたちを憎む ? 」とエスクワナがきいた。 れているので、防禦ー攻撃のメカ = ズムに頼ることになり、あなた「あんたを憎んでいるひとなんていないわよ、アンダーちゃん , オ が無意識に投射した攻撃に反応するわけです」マノンの講義はしばレルーは、エスクワナの親指の爪にビンクの螢光ラッカーを塗りな らく続いた。 がらいう。エンジニアは顔をあからめ、お・ほっかなく笑う。 「人間をそんなひどいものにしてしまう権利はだれにもないはず「われわれを憎んでいるように見えますわ」と統率官 ( イトがいっ だ」とポーロックがいう。 た。純粋アジア人種の優雅な容貌をもっ女性で、卵からかえったば 冫をし力ないので 「われわれの感情を感じさせないようにするわけこま、 かりのうしがえるみたいな、しやがれた、柔らかな声をしている。 すか ? 」やはりハイン人で生物学者の ハーフェクスカい、つ 0 「彼がわれわれの敵意に悩まされているとしたら、たえまない攻撃 「聴覚と同しなのよ」と重科学者のオレルーが、足の指に螢光ラッ や侮辱でその敵意を増幅させているのではないでしようか ? カーをぬりながらいう。「耳にまぶたはないものね。エンパシーに ーゲルド博士の療法は、あたしはあまりかいませんね、マーン。自 はオフ・スイッチはないのよ。聞きたくなくたって、わたしたちの閉症はどちらかといえば : : : 」 感情が、聞こえてしまうのよ、彼には」 彼女はロをつぐんだ。オスデンがメイン・キャビンへ入ってきた 「わたしたちがなに考えているのかわかってしまうんですか ? 」とのだ。 エンジニアのエスクワナがおそるおそる一座を見まわす。 気むずかしい顔をしている。肌は不自然なほど青白く、色あせた 「いや」とポーロックの返事はそっけない。エンパシーはテレバシ ロードマップのように血管が青く赤く浮きだしている。喉仏やロも 1 とはちがうんだ ! テレバシー能力をもっている人間なんて存在との筋肉、手や手首の骨と靱帯などすべて解剖図を見るようにはっ しないよ」 きりと見える。毛髪は干からびた血の色である。眉とまっ毛はある 「しかし」とマーンが薄笑いをうかべて、「ハインを出る直前に、 ことはあるが、光線のエ合でほとんど見えない。見えるのは眼窩と ごく最近、再発見された星から非常に興味ある報告がとどきましたまぶたの血管と色のない目だけだ。しらこではないから目は赤くは よ。ロヤノンというヒルフアからの報告ですが、突然変異の擬人類ないけれども、かといって灰色や青でもない。オスデンの目は脱色 種のあいだでは、訓練によって体得できるテレ。ハシ ー・テクニックされ、たた水のような冷たい澄明さが残されていて、突きとおすよ が存在するそうですよ。ヒルフ公報のシノブシスを読んだだけですうに鋭い。ひとをまっすぐ見すえるということがない。顔は解剖図

2. SFマガジン 1973年10月号

肉のついた、がっしりした感じの年寄りである。「カリフォルニアの手にのせた。彼女は小さく声をあげて、・ほくに渡す。そいつは冷 で、こんな降りかたってないね。降るとしたら、しっとりとまっすたかった。 ぐ落ちてこなきや。あのガラス、きれいにするにや、何日もかかり「雹たね」と、おやじ。「ますますわけがわからん」 まさあ」 ぼくも同じ思いだった。わかるのは、それが新星と何か関係があ 力とんな関係なのか ? またどうして ? 「そうだね」小切手を切りながら、罪の意識を感じた。長いっきあるということだけだ。 : 、・ いだから、信用してくれている。むろん小切手は立派なものだ。預「あたしや、店にもどるよ」おやじがいった。雹は、束のまに降り マリ / 金の裏づけも、ちゃんとある。だが、銀行がひらく前に、 こいつはつくしたらしい。彼は、うんとひとっ気合いをいれると、海兵隊の 天になってしまうし、だいたい世界中の銀行そのものが、太陽熱で突撃よろしく外へとびだした。それが彼を見た最後だ。 煮えたぎっていることだろう。でも、・ほくのせいってわけじゃな 空では雲が沸きかえっていた。形をなしたりまた消えたり、見た こともないほどの速さで互いにすれちがったりーー・・その下面が、街 の灯冫 こ映えている。 袋をカートにつみあげると、彼は入口のところまでついてきた。 ノヴァ しいかね ? 」・ほくは「新星のせいだわ」レスリーが、身ぶるいしながらいった。 「小止みになったら、急いで運びましようや。 とびらに手をかけて身がまえた。雨は、誰かがバケツの水を窓にぶ 「でも、どうして ? 衝撃波がやってきたんだったら、・ほくらはも ちまけたみたいだった。ふと、それがとぎれたが、水はまだガラスう死んでるーーー少なくとも、つん・ほになってるはずだ。どうして雹 の上を滝のように流れている。「今だ ! 」おやじの叫び声に、つきが ? 」 「どうだっていいじゃないの。スタン、もう時間がないのよ」 はなすようにドアをあけ、外へとびだす。気がふれたようにワアワ くるま ・ほくも身震いして、気をとりなおした。「よしわかった。いま、 ア笑いながら、自動車にたどりついた。荒れくるう風が、水しぶき をまきあけ、横なぐりにたたきつけてくる。 いちばんきみがやりたいことは ? 」 「いいとぎを選んたよ。この雨で、あたしが何を思いだしたかわか「野球が見たいわ」 「午前二時だぜ。と、・ほく。 るかね ? 」と、おやじ。「カンサスの、龍巻でさあ」 とつ。せん、小石の雨が降りそそぎだした ! ・ほくらは悲鳴をあげ「やれることは、あんまりないわけね ? 」 て身をちちめ、自動車の車体はビリビリと鳴りだした。ロックして「そうだ。何もないな。芝居もだめだし、ロードショウ映画も。あ ないドアをひつつかむと、レスリーとおやじを中にひきずりこんと何がある ? 」 ど。いたむ頭をなでながら外に目をやると、白っぽいつぶが、いた「宝石店のウインドウが見たいわ」 るところにはねかえっている。 「本気かい ? 最後の夜に ? 」 おやじが、自分の首すじから、白いつぶをつまみだし、レスリー 彼女は、ちょっと考えこみ、そして答えた。「ええ」 / ヴァ 3

3. SFマガジン 1973年10月号

脱出「そうだ」 太陽の一部になってるだろう。ケンタウルス座の伐星かい ? 「お上手に説明してくれるのね」辛辣な口調だった。「炎の衝撃 の加速度だけで、・ほくらは。ヒーナツッパターとゼリーみたいになっ 波。絵のようだわ」 て、壁一面にひろがっちまうーーー・」 「すまない。それについては、考えすぎてるかもしれない。どんな 「もうやめて」 ものなのか、はっきりはしないんだ」 「やめてるさ」 「もういいの」・ほくに寄りそうと、顔を・ほくの肩にのせる。彼女は 「 ( ワイよ、スタン。二十分もあれば、空港にいける。西へ飛べ ば、一一時間だけかせげるわけよ ! 日 0 出までの時間が、一一時間よ声をたてずに泣いて」た。片手で彼女を抱きよせると、もう一方の 手で、うなしをなでてやりながら、流れる雲を見あげたが、もう衝 それも無意味ではなか 0 た。一一時間の価値は、何も 0 にもかえが撃波がどんなも 0 かなどということは頭になか 0 た。 しかしそれは、さ 0 き・ ( ~ = = ーから月をにらんでいたと巻きしめてくる炎の輪のことも考えなか 0 た。 どっちにしろ、ことがそう予想どおりにはこぶとは思えない 「だめなんだよ。それじやかえ き、・ほくも考えついたことだった。 0 て命をちちめてしまう。」」か」、月があんなに光りはじめたと昼側で、大洋が煮えたぎるさまを考えると、衝撃波は、大部分そ き、ここは真夜中だ 0 た。それはこのカリ , ' ~ = アが、太陽が新の蒸気ではじま 0 ただろう。だがそれは、数百万平方イ ~ の大洋 くらか冷え、湿っ を横切ってくるわけだ。ここへ着くまでには、い 星になったとき、地球のちょうど反対側にあったということだ」 ているだろう。さらに地球の自転が、・ ( スタブの中の渦巻きのよう 「そう、そのとおりよ」 ショック・ウェーヴ に、それにひねりを与えるだろう。 「だからわれわれは、衝撃波から最も遠い場所にいることにな 南北両半球を、互いに逆回転する、燃えたっ蒸気の ( リケーン。 る」 そういう形になるはずだ。カリフォル = アは、北側の台風の目の、 「よくわからないわ」 彼女は目をパチ。 ( チさせた。 「 = んなふう」考えてごらん。まず太陽が爆発する。そ 0 ため大気直撃をうける位置」ある。・ほくらは最上 0 席に」るわけだ。 」 0 せ」」、昼側全体で熱せられる。そ 0 蒸気と高温 0 空燃えるような蒸気 0 ( リーそ」 0 は、人間を 0 まみあげ、 や海は、 気は、すみやかに膨張をはじめる。炎 0 衝撃波が、うなりをたてて熱風で料理し、ゆだ 0 た肉をひきちぎり、あたりかまわずまきちら 夜側〈侵入してくる。今もぐんぐん迫 0 てきているんだ。ープをすだろう。まさに地獄の惨禍だ。 日の出はとても見られまい。ある意味では残念なことだ。すばら し・ほるようにね。そいつは、まず ( ワイに達する。 ( ワイは二時間 しい見ものだろうに。 だけ日没線に近いんだ」 雲の群がいくつも平行に、星空をよぎって、ぐんぐん流れてい 9 「じゃ、わたしたち、夜明けを見ることもできないのね。それまで る。木星が、ふっとかすんで消えた。もうはじまるのだろうか ? も生きていられないのね」

4. SFマガジン 1973年10月号

だ。夜景が、いつもよりいくらか明るく思われるだけのことだっ 恐怖へ、さらに怯えへと変っていくのを、・ほくは見た。 「いこう」と、レスリーにいって、・ほくはコインをいくつか、カウた どうしたのか、レスリーがふいに、車道のまん中で立ちどまっ ンターにおとすと、立ちあがった。 た。わけがわからなかったが、彼女の視線を追ってふりあおぐと、 「じぶんのを食べないの ? 」 ・コーヒーはどうだい ? 」天頂のすぐ南に、明るく輝いている星が目にとまった。 「やめた。ほかへいこう。アイリッシュ 「それと、わたしに。ヒンク・レデイもね ? あら、見て ! 」彼女は「きれいだね」と、・ほく。 彼女は、ひどく奇妙な表情になって、・ほくの顔を見つめた。 くるりとふりかえる。 レッド・ ーンの店には窓がない。あわい人工照明は、屋外の奇 学者ふうの男は、テー・フルの上に立ちあがっていた。あぶなっか しく足をふみしめ、両腕をひろげると、叫びだした。「あの窓の外妙に冷たい光よりもはるかに暗く、黒 0 ぽい板壁と、静かだが陽気 そうな客たちの上に光っていた。今夜が他の夜とちがうことには、 を見るがいし 「そこからおりなさい ! 」ウェイトレスが、金切り声をあげて、彼誰も気づいていないかのようだ。 ーにあつまっ 火曜の夜らしくまばらな人影は、大部分ビアノ・・ハ のズボンをひつばっている。 「世の終りがやってきた ! 海のはるか向こうでは、死と、地獄のていた。客のひとりが、マイクを握っている。ふるえるような弱々 しい声で、セミ・ポ。ヒュラーの歌をうたっている彼に、黒服のビア 炎がーーー」 ニストが微笑を送りながら、ねっとりした伴奏をつけていた。 だが・ほくたちは、もうドアの外へ出て、笑いながら走っていた。 アイリッシュ ・コーヒーふたっと、ビンク・レディをひとっ注文 レスリーが、息をきらせながら、「ああ、やっとーー逃げだせたわ した。レスリ 1 のもの問いたげな視線に、ぼくはただ謎めかした徴 ねーーーあそこで暴動が ・ほくは、テー・フルマットの下においてきた十ドルのことを思いだ笑で答えた。 レッド・ ・ハーンでは、何もかもまったく平常どおりの感じだっ した。もうあれを見てよろこぶものは、誰もいない。店の中の予言 者は、耳をかたむけてくれる相手がいるかぎり、その御託宣を垂れた。ゅ 0 たりくつろげる幸福なムードがみちみちている。ぼくたち つづける。天色の髪、かがやく瞳のウ = イトレスは、あの金を見つはテー・フルごしに手をとりあい、微笑をかわしながら、ロをひらく ことをおそれていた。ここで何かうつかり、まずいことをいってし けたとき、こう思うだけだろう。あのふたりも、知ってたんだわ、 まったら : 飲みものがとどいた。・ほくはアイリッシュ・コーヒーのグラスの レッド・ ーンの店の駐車場では、月はビルの影にな 0 て見えな把手をつまんだ。シ = ガー、アイリッシ・ウイスキー、そして濃 5 ・フラック・コーヒ】、その上に、泡立たせたクリームが浮かんで かった。街灯の光と、間接的な月明かりが、そっくり同じ色彩なのい

5. SFマガジン 1973年10月号

この「シップの店」はかなりの混みようだった。二十四時間営 らませ、太初以来のリズムに身をまかせたとき、月のことも未来のに、 ことも、ぼくは忘れていた。 業のレストランで、客の半ばを占める学生たちも、今夜は押し殺し しかし、クライマックスに乗じてよみがえってきたイメージは、 たような声でしゃべり、時折りガラス壁ごしに外をふりかえってい なまなましく、おそろしいものだった。彼女と・ほくを、青く熱したる。月はもはや西の空低く、街灯と競いあうほどの高さにかかって 炎の輪が、ぐるりととりまいていた。・ほくがうめいたとしたら、そ れは恐怖とエクスタシイのどっちだったろうか。彼女はエクスタシ「見たとも」・ほくは答えた。「お祝いしてるのさ。ホット・ファッ ジ・サンデ 1 ふたったのむよ」そして彼女が背をむけたとき、・ほく イだけと思ったにちがいないが。 眠たく、無感覚になって、びったり肌をつけたまま、ならんで横は十ドル札を紙のテープルマットの下にすべりこませた。彼女にそ れを使うチャンスはないわけだが、少なくとも、見つけたとき嬉し たわる。約束を反古にして、このまま眠ってしまいたく、レスリー : が、そうするかわりに、・ほくは彼く思ってくれるだろう。・ほくにしたって、もうその金を使うあては にも眠ってほしい気持だった : ・ ないのだ。 女の耳にささやいた。「ホット・ファッジ・サンデ 1 」彼女はにつ こりして身をもがき、やがてごろりところがって、べッドからおり 何となく呆然とした気分だった。数かぎりない問題が、突然ひと 立った。 りでに解決してしまったのだ。 ヴェトナムとカンポジアに、一夜にして平和が訪れるなどという 彼女に、ガードルはつけさせなかった。「もう真夜中過ぎだぜ。 誰もきみをひっかけようなんてしやしない。不良なら・ほくが叩きのことを、誰が本気で考えただろうか ? めしてやる 。、いだろ ? なら、な・せもっと楽にしないんだ ? 」彼この異変は、ここカリフォルニアでは、十一時半にはじまった。 その時刻、太陽はアラ・ヒア海の上にかかり、周辺のわずかな区域を 女は笑って、・ほくのいうとおりにした。ぼくたちは、エレベーター の中で、もういちど固く抱きあった。ガ 1 ドルのないほうが、ずつ除けば、アジア、ヨ 1 ロッパ、アフリカ、そしてオーストラリアの すべてが、太陽の直射をうけていたはずだ。 すでにドイツはふたたびひとつになり、有名な壁は、衝撃波で融 けるか砕け去るかしたことだろう。イスラエル人もアラ・フ人も武器 をおいた。アフリカの人種差別もなくなった。 そして、・ほくは自由だ。・ほくにとって、これ以上の関心事はな カウンターにいる灰色の髪をしたウェイトレスは、陽気にはしゃ 今夜の・ほくは、あらゆる内心の衝動を満足させることができ いでいた。目をかがやかせ、まるで秘密を打ちあけるようなしゃべ る。盗み、殺し、税金をごまかし、ガラス窓に煉瓦を投げつけ、ク 3 りかたで、「月の光に気がっきまして ? 」 こんな時間、しかもカリフォルニア大学のすぐ近くだというのレジット・カードを燃やしてしまうこともできる。木曜が締切りの 3

6. SFマガジン 1973年10月号

と、おとうさんは言った。 う必要があったのは、右手の親指と人差し指だけだった。いまでは 「死んでる ? 」・ほくはささやいた。すると、ちょうどそれに答えるすっかりきれいになって、顔を湿布でおおい、・ほくの寝棚におとな かのように、黒くなった手の一本があがって、かすかに打ちふられしく横になっている少年の看護をおかあさんにまかせて、おとうさ た。ぼくはそっとその手をとった。力をこめて握ると、ぼくの指のんと・ほくは、午後じゅうぼくが数えきれないほど往復した小道を、 水ぶくれから汁が出た。黒焦げの頭がごろんところがり、ロが声もゆっくり歩いていった。水汲み場には、ほんの手のひらほどの大き なくひらいて、またとじた。顔面が苦痛に歪んでいた。 さの水溜りが残っているきりだったから、・ほくらは・ハケツをさげた ・ほくらは午後じゅういつ。ま、 ー↓かかって、その少年ーーー・ほくより多ままそこを通り過ぎ、さい・せんの火事の現場へ引き返した。 少年上だろうーーーの手当をした。何度ぼくは水汲み場を往復して、 「流星かしら」・ほくは灰になった地面を見まわしながら言った。 ・ハケッ半杯ほどの水を汲んでき、モスリンで泥を漉したことだろ「流星ってのは、夜しか落ちてこないと思ってたんだがな」 う。その水でぼくらは少年の全身を洗って、火傷の箇所をつきと「それは間違いだ。ちょっと考えてみれば、流星には夜も昼も関係 め、冷やした濃いお茶でそこを何度もひたしたうえ、ひどい部分に ないってことがわかるはずだそ」おとうさんは言った。「ときに、 ! ーチャー はさらにお茶の湿布をあてた。おかあさんはずっとぼくらといっし流星というのは正しい呼び名かね ? 」 ょに働いていたが、そのうちとうとう息切れがして、休まなければ ・ほくは、この質問についてはあとであらためて考えることにし ならなくなった。 て、言葉をついだ。それにしてもおかしいなあ、あいつがちょうど さっき少年を運びこんだとき、おかあさんはメリーにパンを一切流星の落ちたそのときに、ちょうどその場所にいあわせたというの れ与えて、小さなポーチの横の囲いに入れておいた。いまメリーは 顔を埃でまだらにし、砂まみれのパンをそばにほうりだして泣いて「それを言うなら、″おかしい″よりも″変た″のほうが適当だ いた。おかあさんは大儀そうに腰をかがめて彼女を抱きあげると、 よ」おとうさんは訂正した。「するとおまえは、あの少年はどこか その頭ごしに、・ほくに疲れたほほえみを見せた。「もうちょっと泣らきたというのかね ? 」 かせておけばよかったわね。そうすれば、涙で顔がきれいになった ・ほくは目の前にひろがる果てしない地平線を見まわした。たとえ どこからであろうと、徒歩で、しかも単独でここを横断してこられ でしようから ! 」 るものがいるはずがないー いったい彼はどこからきたんだろう ? どうやら少年の手当をしているうちに、・ほくの手もたつぶりお茶地から湧いてきたのか、天から降ってきたか。 をい、この考えが気に入 にひたされたらしい。というのも、・ほくの火傷はたいしたことはな「きっと流星に乗ってきたんだよ」・ほくま言 って、にやりとした。 , おとうさんは・ほくにむかって目をばちばちさ かったからだ。たしかに水ぶくれができ、つぶれはしたが、包帯ー ーおかあさんの古いペチコートを引き裂いたものトーーを巻いてもらせてみせたが、笑いかえそうとはしなかった 8 2

7. SFマガジン 1973年10月号

おとうさんと・ほくは、タンカーさんの走り去るのを見送った。動生まれてくるとわかったとき、緊張が日に日に大きくなってゆくの が・ほくにも感じとれた。以前の五人の子のときは、・ほく自身幼かっ きたすやいなや、馬車は土煙につつまれてしまった。それが見えな たから、じつをいうとほとんどなにも記憶がない。・ほくを先頭に、 くなるまで見送ってから、・ほくらは橋のたもとに引き返し、乏しい 水の流れを見まもった。いまたにサムタイム・クリークのほそ・ほそ彼らはみんな年子だった。だが、最後の子とメリーとのあいだに は、十年のひらきがあるのだ。だから「メリーが荒野のまんなか ながら運んでくる水の糸によって、わずかばかりの水溜りがたがい で、おとうさんを産婆さんにして生まれてきたときには、・ぼくらは につなぎあわされていた。ややあっておとうさんが、「ラス・ロミ タスとは、英語でなんという意味だったかな ? 」と言った。・ほくみんな、いまにも彼女が死んでしまうような気がして、息をするの は、毎晩夕食後のテー・フルで覚えこんできた貧弱なスペイン語の知さえおっかなびつくりだった。だが彼女はぼくに似ていたーーでか 識と取っ組み、それから、思わずにやっとしながら、「 " 小さない肺臓と旺盛な食欲、そして昼夜の区別なしにでかい声で泣く。 山″っていう意味だよ」と言うと、いつもとは逆に、・ほくがだしぬ長いあいだおかあさんはこれが信しられなかったらしく、よく、 けになにを言いだしたのかと、とまどい顔で過去の会話を思い返し仕事の途中でふいに手を休めては、メリーがまだ生きていることを たしかめようとするように、彼女にさわってみたものだ。 てみているおとうさんをながめた。 そしていま、つぎの赤ん坊が生まれようとしており、いつぼう おかあさんのお産の時期が近づいでいて、・ほくらはみんな気をも んでいた。もっとも、さっきも言ったように、礼儀上・ほくはそのこうちの農場と周辺の土地一帯には、塵と荒廃の気がどっかり腰を据 とを知らないことにはなっていたが、とはいえ、・ほくとメリーとのえてしまっている。例外はわが家の果樹園たけだが、おとうさんは よ、つこ 0 ま これを、砂漠における川の逆流現象によるもので、それがいままで あいだの長い空白に、気づかないでいるわけこよ、 ・ほ十四年ーーそのあいだにおかあさんは五人の子供を産み、つぎつのところ、うちの若い果樹を救ってくれているのだと説明してい ぎに失ってきた。・ほくだけは馬みたいに丈夫だったが、あとの子はる。 ともあれ、ついにある日、・ほくが水・ハケツをさげて、新しい水汲 みんな、生まれるとすぐ死んでしまったのた。なかには一週間かそ こら生きのびたのもいたが、結局は、弱々しい喘ぎを一、二度漏らみ場を捜しにゆかねばならない日がやってきた。というのも、いま して、それきり、五体満足な赤ん坊がすうっと息を引きとってしままで汲んでいた、クリークが川に流れこんでいる地点は、あまりに う。しかもこれは、ぼくらが東部にいたころのことで、お医者も産浅くなって、・フリキの柄杓でも、汲むたびに砂が半分がたまじって 婆さんもちゃんとした設備も、なにもかもそろっていたうえでのこくるようになったからだ。 ・ほくはもうちょっと深い水溜りを捜して、サムタイム・クリーク とだったのだ。たぶん、五人目の子が死んだあとは、あかあさんは 諦めてしまったんだと思う。なぜ 0 て、フールズ・ = ーカーズに移をすこしさかの・ほり、ちょうどとある岩かげで一休みしようとして 6 いた。そのときそれがやってきたのだ。 ってきてからは、一度もお産はなかったからだ。だから、メリーが

8. SFマガジン 1973年10月号

サムダイム おとうさんはなにも言わずに、くるっと背を向けて山道をくだり ″ときどき〃クリークと呼ばれているのかがわかるさ。さあ、すこ だした。 し涼んだら、行って水を飲みなさい」 「だけど、川はいつだってあったんでしょ ? 」・ほくは流れの岸に腹・ほくらは登るときの半分の時間で山を降りた。途中まできたと 這いになりながら言った。水の流れは非常にはやかったので、ぼくき、・ほくはつまずいて、道ばたの刺だらけの藪に倒れこんだ。おと はそれをすすることができず、ロに含むためにはそれに噛みつかねうさんが引 0 ばり走こしてくれたときには、ち 0 ぼけな刺が猫の爪 ばならなかった。水は冷たく、かすかに沈泥の味がした。流れははのように服いつばいにく 0 つき、・ほくの手の甲と片方の頬 0 べた ゃいばかりでなく、浅かったから、それにほてる顔をひたそうとしに、ひりひりする引っ掻き傷を残していた。 「人間は水を飲まなきゃならんからな」と、おとうさんは言った。 た・ほくは、底に鼻の頭をぶつけてしまった。 「必ずしもいつもあったとはかぎらんさ」おとうさんは・ほくが飲み「それに家畜も」 ・ほくがようやくおとうさんの言葉の意味に思いあたったのは、家 おわるのを待って、一歩上流の小さな滝の下に手を入れ、すくっ の近くの平地にぎてからだった。つまりおとうさんは、すでに、手 て、一口飲んだ。「先週から、すでに流量は半分以下に減ってい る。タンカーが昨日スイカを取りにきたをきに話していたが、コロ塩にかけた若い果樹園を荒野の手に返した、そしてわが家のおもな ナス・アトラスにはもう・せんぜん残雪がないそうだ。まだ夏になっ生業である畑作物と、枯れかかった牧草地のムラサキウマゴヤシ も、きつばり諦めたと言っているのだ。おとうさんは、・ほくら一家 たばかりだというのに」 ! うちの畑と家畜を生かしておくために、厳しく水を制限して使っている。だ 「だけど、そんならうちの果樹園はどうなるんだよ がそれでいて、このフールズ・エーカーズ農場から出てゆこうとは は ! 」ぼくは冷たい恐怖が胃袋を締めつけるのを感じた。 「果樹園は果樹園さ。そして畑は畑だ」おとうさんの声には、どんしないのだ。 おかあさんとメリーは、小道のところまでぼくらを出迎えた。・ほ な気休めも慰めもなかった。 くは黙ってメリーを抱きとると、家へ連れて帰った。あと二カ月ば 結局ぼくらは泉を発見できなかった。とある急斜面に行く手をは かりで、おかあさんがまたお産をするということは、いちおうぼく ばまれ、やむなくその下に立って、・ほくらには見えないてつべんか ら流れ落ちる水の幕をながめるはめにな「たのだ。・ほくはそこに立の知らないことにな 0 ていた。男の子は、こういうことに気のつく ものではないとされているーーーたとえ、十五を過ぎて、もうほとん っているおとうさんを見まもった。片足をその急な斜面にかけ、 まにも垂直の崖をよじのぼりそうに膝を曲げて、落下する銀色の水ど一人前の男といっていい場合でも。 その夜・ほくらはいつものようにテープルをかこんで、たがいに本 を見あげているおとうさんを。 「もしも川が乾あが 0 たら、このクリークだけじゃとても・せんぶにを読んで聞かせあ 0 た。・ほくが最初に読んだ。・ほくはこの農場にき引 て以来、二度目に『ロビンソン・クルーソー』を読みかえしている 水を行きわたらせるわけにはいかないね」ぼくは言った。

9. SFマガジン 1973年10月号

「これはニコルと関係があるんです。たぶん、わたしはいまの映 たしは気がついた、わたしが勝てないようにルールが作られている 話の男と似ているのかもしれない。ただ、わたしはあの男のよう のだと。勝てないときまっているゲームをだれがやりたいものか。 に彼女を : : : ニコルを愛してはいませんーーわたしは彼女が怖い 裏目裏目にかけているのだからね」 んだ。わたしがジュリーを、いや、すべての女性をこわがるの 『シミ = ラクラ』にもまだこのゲームは残っているが、すくなくと は、そのためなんです。わかってもらえますか、先生 ? 」 もこんどは、われわれも無一文にならずにすみそうだ。『高い城の この小説では、やはりアメ 「〈わるい母親〉のイメージだよ。圧倒的で広大な」と、シ = パ 男』の拡大された第三帝国のかわりに、 ー・フ医師はいった。「わたしのような弱い性格の男たちがいるか リカに腰をすえた第四帝国が登場する。ドイツは五十三番目の州と なり、そして、も 0 とも強力な州であるために、ドイツ大統領が欧ら、 = 「ルは支配をつづけられるんです」チ , クはい 0 た。「わ れわれが女性上位の社会をもった、その理由はこのわたしですよ 米合衆国を支配できる。だが、デル・アルテと呼ばれるこれら歴代の まるつきり六つの子供みたいなもんでして」 大統領は、実はぜんぶシミ = ラクラであり、ほんとうに国政をぎゅ 「きみがユニークというわけじゃない。それはわかるね。実をい うじっているのは、大統領夫人の = コル・ティポドーである。四年 うと、これは全国的な / イローゼなんだよ。現代の心理学的欠陥 ごとに彼女の配偶者に選挙されるのが、歴代のデル・アルテという わけだ。 = コル自身、若く美しい女優をえらんで、周期的に首がすだ」 げかえられている。このニコルとデル・アルテの秘密を知っている ゲハイムニストレーガー おとぎ話の中の〈わるいお妃さま〉のように、ニコルは人民たち のは、″ゲス。つまり、秘密保持者だけであるーー大部分の市民は ・ヘーフェルトレーガー の上に魔法のべールをーー・現代語でいえば、集団催眠をーー投げか " ・〈ス。つまり、命名遂行者で、故意に情報から遠ざけられている。 当代の = = ルは怜悧で冷酷だが、彼女は幾多の難問をかかえていけたのだ。彼らが彼女の真実の姿を見るのは、夢の中だけであるー る。まず、大産業カルテルの・ ()5 ・ケミーやカルプ・ウント・ゾ 1 ネンヴ = ルムの勢力の伸長 ( 『太陽クイズ』のヒル・システム参 眠っているうちに、イアン・ダンカンは恐ろしい夢を見た。見 ートルズ・ゴルツに率いられた〈ョ・フの子〉と呼ばれる反 照 ) 。 るもいまわしい老婆が、緑がかった皺だらけの手で彼をひっか 政府運動 ( プレストン会や世直し団のごときもの ) 。また、〈ルマ 彼こよ相手の訴えがよくわ ン・ゲーリングを過去から呼びよせ、ヒトラー政権転覆と第二次大き、彼になにかをしろと訴えるのだ。 , 冫。 なぜなら、老婆の声も、言葉も、聞きとれぬほど からなかった 戦終結を彼と取引しようという計画。そして、やがて = コルは、ク ・ほやけ ( ガビッシ = か ? ーーー筆者 ) 、歯の抜けたロにのみこまれ、 ーデターを画策する国家警察の長官ワイルダー・ペン・フロークとも くねくねとあごに垂れたよだれの糸の中に消えていったからだ。 対決せねばならなくなる。 = コルの唯一の気晴らしはホワイト・、 ウスの = サートだ。そのためにタト・スカウトが全国を駆け彼は自由になろうとした、うたたねから起き、彼女から逃れよう とした : ずりまわり、一方、 = コルを熱愛する人民は、彼女の前に出られる チャンスをつかもうと必死に競い合う しかし、目をさましたダンカンは、タレント・スカウトに認められ 3

10. SFマガジン 1973年10月号

ジャックは、やにわに廊下を走りだした。冷たい恐怖が彼を噛 天井から、ほこりが舞いおりる。部屋が、腐れてぎしぎしとな んだ。 った。ガ・フル、ガ・フル、ガ・フル、と部屋がいった。ガ・フラーが、 「 : : : 感謝する」白衣を着て、すわっている男が、走りぬける彼 お前をガプルするそ、お前をガビッシュにしてしまうそ。 に向って、そう言った。フロックコートを着た灰色の髪の男は、 ( 小尾芙佐訳 ) せきこんだ口調で連疇をとなえた。「 : : : できるだけ早く」 ・トーマス・エデイソンは、うなずきながら言った。「ガプ マンフレッドは、事実、未来を見ているのである。その未来で ガ・フル は、山に近い地域が、国連の手で地球のそれとおなじような ジャックは愕然として、目の前のものを凝視した。それから、 大住宅地に改造される。だが、少年はさらにその百年先、大住宅地 マンフレッドの方をふりかえった。少年は石のようにうずくまっ が壁の崩れ窓の割れたスラム、地球から火星にもたらされた汚物に たままだ。 なった時代を見ているのだ。少年はまた、彼自身の年老いた姿、四 トーマス・エデイソンはまた言った。「ガ・フル・ガ・フル」そし 肢を切断され、人工器官で生かされている姿をも見ているのだ。 てふたたびびたりと口を閉ざした。 それでもまだマンフレッドとの接触をあきらめずに、・ホーレンは ( 小尾芙佐訳 ) そこでは植民者の子供たちが、リ 少年を正規の学校へ連れていく。 ンカーンやカントやエデイソンのような歴史上の著名人に似せたロ ヂットで教育されている。ポーレン自身もこの学校に恐怖をいだ この場面は、タッソー夫人の鑞人形が口をきくところを連想させ る。このアイデアの原型が、『超能力世界』の短いシークエンスに く。それらのシミュラクラは、彼がたえずおそわれている妄想 彼の知人たちが導線や機械じかけの心臓や肺でできあがっているのあることは、付記しておく価値があるだろう。 マンフレッドがコミュニケートできる唯一の人物は、アーニイ・ ではないかという妄想ーー・を思い出させるからだ。ポーレンは、テ コットの料理人をしている火星人のヘリオである。なぜなら、ヘリ 1 チング・マシンをマンフレッドの知覚に合わせて減速できない オのいうように、彼らは二人とも「敵地にとらえられた囚人」だか ものかと考えるが、逆に少年の心は機械をも支配しはじめる。ポー レンが少年を探しにいき、その途中でシミ = ラクラに彼の居所をたらだーー少年は〈墓穴世界〉の幻覚の中に、火星人は地球人の社会 の中に。 ずねる場面は、忘れがたい ヘリオの指示で、アーニイは砂漠の中に突き出たふしぎな岩、火 廊下をまがるとすぐに、フィップ二世の修道僧めいた髯面があ星人たちがタイム・スリップ″と言いったえている岩へ向かう。 そこから過去へもどり、だれよりも先に山の地所を買い占め った。マンフレッドはいなかったが、彼の放散するまがまがしい ようという魂胆である。原住民の祈疇師の助けで、アーニイは時を 空気が、あたりにまだ漂っている。 「いま行ったばかりだ」とマシン・ティーチャーは言った。そのさかのぼるが、彼の訪れた過去は奇妙な変化をとげている 声は、最前の婦人のような、妙にせきこんだ口調だった。「早 次に、ホワイト・ハウスで開かれたレセプションの記事があっ く、あの子をさがして、連れだして下さい。感謝します」