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検索対象: SFマガジン 1973年10月号
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1. SFマガジン 1973年10月号

「私たちは別の道を行きます」 そう言って左手の丘へつづく道を指さした。 「どうしたんです」 「さっき通った村に、この先の村から逃げて来た者たちがいたので す。ザウロがそこまで近づいているんです」 四人はヴァレリアに案内され、テコトルの部隊と別れて小麦畑の 中の道を、前方の小高い丘へ向った。 「ザウロとかいう奴はそんなに強いの : : : 」伊東がヴァレリアに尋 ねる。 「それは、ザウロと言えばロスポ王の中でも随一の武将ですもの ね」 「敵の兵力はどのくらいです」 と吉永。 「多分、二百か三百 : : : 」 「多分」 珍らしく若様が厳しい表情で聞きとがめた。 「事前に調べていないんですか」 ヴァレリアは困ったような顔で言う。 「きのう私が襲撃に失敗した時、ザウロは輸送隊をおとりに、その くらいの数の兵士を隠していたのです」 「するとあなたは、きのうの襲撃の時も相手の状況をよく知らない でやったんですか」 ヴァレリアは憤然とした様子だった。 。しいというの。敵をみつけたら一気に襲いかかる : 「どうすれま、 それ以外のたたかい方があるというの」 若様は済まなそうに首をすくめた。 しているのである。 にあったが、時々刻々すさまじい速 こうして、宇宙の彼方に、 2U0 度で太陽に接近し、今年の十二月二 九 0 〇ー四〇として知られている十八日には、太陽からわずか千三百 線源をなしているものは、われわれ万マイルの所にまで接近することが の太陽の四十五倍の質量を持っ恒星わかった。 これはかなり近い距離で、それだⅷ のまわりをそれと引き合いつつ廻っ け接近すれば、非常に明るい天体と ている。ごく小さくつぶれた我々の して我々の眼にうつることが予測さ 太陽の三倍の質量を持った星を包み こんだ目に見えない「プラック・ホれ、米国のスミソニアン天体観測所 でプライアン・マースデンが試みに ール」であることが結論されたわけ 計算してみたところ、この彗星は、 である。 十一月の初めから来年の一一月の下旬 何か不気味な話ではないか ? : : : にかけては肉眼にも見える程の明る さになるだろう、という。 そして、その間、十二月の中頃か 次は、今年のクリスマスの夜の明 方、かってのベスレヘムの星の再来ら一月の初めにかけては、その実視 を思わせる、すべての他の星の光を光度はマイナス十等級にも及び、明 はるかに超えて明るく輝くだろうと方の空に他のすべての星や惑星の光 予想されている星の話ーーといってを制して明るく輝くことになろう、 も、新星や超新星ではない。新彗星という。 まことに楽しみな光景ではある なのである。 が、その際、尾が果して見られるも 今年の三月七日の夜、ドイツ、ハ のか、どうか ? つまり、その尾が ンプルグ天文台のルポス・コホウテ ック氏が、写真乾板を用いて小惑星長くのびて空天を大きく制するもの かどうか、それとも、予想に反して の探索を行っていると、ばっとした 見なれない光の点がその乾板の二枚尾が余り発達せず、余り明瞭にはみ : そこま とめられないかどうか ? ・ : ・ に見つかった。そこで、よく検討し ではまだ予測出来ないでいる、とい てみると、これは小惑星ではなく、 う・。 新彗星であることがわかった。 読者よ、果してどちらに賭けます ところが、 ( 何しろ、毎年一〇位 ずつは、我々の太陽に接近して来る ( 近代宇宙旅行協会提供 ) 新彗星の発見ということだけでは、 そう大した話顯とはならないのだ が ) この新彗星は、発見された時に は太陽から四千五百万マイルの距離 世界みすてり・とびつく一ミミデ 一 3 9

2. SFマガジン 1973年10月号

・ほくがいつものとおり、テー・フルのランプのそばに本を持ってゆこ というわけで、・ほくが彼に説明してやらねばならなくなった もう彼にそのつど桶を持ってきてやるわけこよ、 冫ーし力なし、かわりにうとしているとき、ふと寝棚に動く気配がした。少年がそのふちに 0 2 寝棚の下の室内便器を使ってほしいということを ! だけど、いっ腰かけて、足で床をさぐっていた。急いでそばに駆けつけながら、 おかあさんが部屋にいるのに困ったな、とぼくは思った。ところ たいどうすれば説明できるだろう、目も見えない、ロもきけない、 が、少年の腕に手をかけようとして、偶然おとうさんと目が合った おまけにこっちの言うことを聞いているのかどうかもはっきりしな とき、・ほくのロはあんぐりひらいた。いったいどうしてぼくに、少 い相手に ? 「こいよ、きみ」ちょうど小屋にいるのがぼくたちだけでよかった年のしたがっていることがわかったのたろう。そしてまたどうして と思いながら、・ほくは彼に言った。そして、彼の火傷してないほう彼は、小屋の外の屋外便所のことを知ったのだろう。だがすでに彼 の右腕をひつばって、彼を起こそうとした。しばらくして彼は、歯の手は・ほくの腕を握っており、・ほくは彼を連れてドアに向かうより を食いしばって痛みをこらえると「起きあがって、両足を寝棚のふほかなかった。ドアが背後でかちやりとしまった。星月夜の下を、 ちに垂らした。手が・ほくのほうにのびてきて、・ほくの頬にさわっ・ほくらは屋外便所にむかって歩いていった。彼はなかにはいった。 た。包帯におおわれた顔が・ほくに向けられ、一瞬その手はためらっ・ほくは扉のそばで待った。彼が出てくると、・ほくらはまた連れだっ た。それから、すばやく彼はぼくの顔をなでまわした 目、鼻、て小道をもどり、家にはいった。彼はほっとしたように寝棚に横に なり、顔を明りからそむけて静かになった。 耳、頭、それからさがって肩。ふと、彼の口から安堵の吐息が漏 ・ほくはくちびるをなめなめおとうさんをふりかえった。おとうさ れ、左右の手がちょっとのあいだ・ほくの両肩に置かれた。口が歪ん んはひやかすように口を歪めて、「ちょっとしたかあさん猫ってと で弱々しい微笑のようなものを浮かべ、彼はぼくの手首に触れた。 ころだな ! 」と言った。 「なんたい ? 角でもあると思ったのかい ? 」・ほくは笑った。 だがおかあさんは、・ほくがテー・フルの自分の席に坐っても、ほほ とたんにぼくは驚いて坐りなおした。彼の指先が・ほくのこめかみ えみかけなかった。おかあさんの目は、暗く、大きかった。「でも にのびてきて、ちょうどぼくが、角ーーー二度くるくると螺旋を描い ていて、先端が黒く光った角ーーを思い描いたばかりの場所に触れ彼、ぜんぜん床にさわらなかったのよ、ジェイムズ ! それに一歩 たからだ。 も足を動かさなかったわ ! ただ ただ浮かんでったのよ ! 」 一歩も足を動かさないー 一ほくは急いでいまの歩きかたを思いか 「ひやあたまげた ! きみは読心術師なんだな ! 」・ほくは言った。 ちょうどそのとき、おかあさんとおとうさんが小屋にもどってきえしてみたが、たしかに思いだせるのは、・ せんぜん歩行のリズムが た。少年はまたのろのろと寝棚に横たわった。まあいいや、説明は感じられなかったということだったーーあったとすればぼくのだけ いざ実際にその必要が起こったときにすればいい。 ・こ。・ほくの目は問いかけるようにおとうさんを見たが、おとうさん ぼくらは夕食をしたため、ぼくは後片付けを手伝った。そのあとはこう言ったきりだった。「もしわれわれといっしょにやってくっ つの

3. SFマガジン 1973年10月号

ラフはその時代の典型的なアメリカ人だった。また今日のアメリ ジュニアが聞いた。「あれは何なの ? 」 カ人の基準から計っても著しく醜かった。顎は恐ろしく骨ばって、 「どれたい ? 」ラフは頭を上げ、肩越しに見た。「ああ、あれは全 9 ・グ 筋肉がそれに合わせてく 0 ついている感じだ。鼻は弓なりに曲がつく新しいものだよ。 " 原始霊長類。の複製さ。ノース・ て太く、黒い目は小さく、この鼻によ 0 てだいぶ聞隔をつけられてルー。フが父さんに送 0 てきたんだ。なかなかいいもんだろう」彼は いる。太い首、幅広い体軅、〈ら状の指、その爪はひどく湾曲してわずかの間満足な気持に浸りながら自分の仕事に戻「た。 " 原始霊 いた。彼がよく肥えた太い両の足でま 0 すぐ立上が 0 たなら、その長類。は少なくとも一週間ーー適当な環境を備えた見ごたえのある 高さは二ャード半を越していただろう。立 0 ていようと坐 0 ていよ場所が出来上がるまで展示に出さない予定でいた。目下のところ、 うと、彼のかさは四分一トン近くあったのだ。 彼の事務所の中に納まっていて、自分の秘密の恋人となっているか 《り・こ 0 だが額はこの上なく弓形に盛上がり、頭蓋容量を切り詰めてはい なかった。巨大な手は微妙にペンを走らせ、机の上に屈んでいる間 しかし、ラフは全く違った感情でその″すてきな作品″を眺めて 彼の心は心地よく遊び回るのだ。 いた。彼が見たものは、言うに足らない大きさでひょろ長い格好を 実のところ、彼の妻と仲間達は彼を男前だと認めていた。 しており、細い脚と腕、全身毛で被われ、醜いちつぼけな顔には大 これは、時の流れにより物の価値観は変わるという話である。 きな目玉が飛出していた。 「それじゃ父さん、あれは何 ? 」 ラフ・ジご一アは我が典型的アメリカ人の少年版である。少年と ラフはじれったく感じてきた。「何百万年も前に生きていた生物 はいっても幼児期のあの毛が生え残っている。それは黒い短い巻きだろう。顔かたちから判断できるんだ」 「なぜ ? 」少年はなおもせがんだ。 毛の敷物のように胸から背中にかけて伸びていたが、すでに薄くな りつつあり、恐らくその年のうちに成人して立派な無毛の皮膚を包ラフは観念した。明らかに、彼は問題を根底から掘起こし、片付 む大人のシャツを着れるだろう。 けてしまわねばならなかった。 「そうだな、ある物を調べてみると、骨のかたちとか、腱がついて だが、話変わって、彼は半ズボンをはいて坐ると、横隔膜のすぐ 上にあるお気に入りの場所をものうげに掻いた。彼は好奇心が旺盛 いたりいくつか神経が通っている位置からその筋肉が分かるんだ。 だが、それもちょ「びり鼻についていた。人が集まる博物館へ父と歯からはその動物が持 0 ていた消化系統の型が分かるし、脚の骨か いっしょに来ることは悪くはなかった。しかし、今日は休館日た。 らはどんな姿勢をとっていたか判断できる。その他は、類推の原理 誰もいない廊下を歩くと寂しく足音が響き渡る。 でいく。つまり、同じ種類の骨格を持って今日生きている動物の外 その上、彼は主に骨とか岩石とかーー中に陳列してある凡てのも形を調べてみるんだ。例えば、あれが赤毛で被われているというの のを知っていた。 もその理由なんだよ。今日の霊長類のほとんどはーー絶減したも同 マット

4. SFマガジン 1973年10月号

れた資材を猜疑深く外部から守りながら、とりかえすすべもない昔 移民が、一方通行のテレポート機で送られている。このテレポート トレールス・オプ・ホフマ / 会社〈ホフマンの通路〉の出現で、父親の経営する宇宙連送事業をの日を懐しんでいる。ウ = スト・マリンの田舎町は、その中では運 倒産させられたラフメール・べン・アップル・ハウムは、たった一隻のいいほうで、二台のラジオ、ウイスキーと葉巻を作る工場、それ ハリントンという神秘的なほど腕のいい便利屋をかか 残った宇宙船オンパロス ( 臍 ) 号に乗りこみ、〈くじらのロ〉で事にホッビー 実なにが起こっているかを調べようと、往復三十六年の旅に出発すえている。 る。〈くじらのロ〉での生活については、無線通信でラ色の報告 ウエスト・マリンには、秘密をもった人びとが何人かいる。・フル が送られてくるのだが、アップル・ハウムは、最悪の状況ーーードイツ ートゲルト博士 ( 題名の″プラッドマネーしは、戦前の核実験で の言いなりになった国連による、世界の人口問題の究極的解決法ー大災厄をもたらした罪悪感から気の狂った物理学者で、戦争の責任 ーがそこにあるのではないかと疑ったのである。 が自分にあり、秘密機関員が自分を探しまわっている、と信じてい 早くいえば、〈くじらのロ〉は一種の死者の国で、そこへは片道る。彼は偽名のもとに羊を飼い、そして発見されはしないかと毎日 旅行しかない。アップル・ハウムはいったん″死に久死後の生を調びくびくもので暮らしている。エディ・ケラーという女の子は、子 査したあと、地球へ帰ることによって蘇えらねばならない。しか供によくあるように、目に見えない遊び友だち ( ビルという名の ) し、彼はほかの方法で、この植民惑星が、実は〈ホフマンの通路〉をもっているが、それがまだ彼女の体の中に囚えられたままでいる の企図する地球侵略のための、強制労働と、地下工場 ( 『準究極的双生児の弟であることは、だれも気がっかない。機械工のホッ。ヒー 真実』風な ) と、軍事訓練の地獄であることを知る。彼はまた、テは、巧妙な設計の義手を備えた車イスで動きまわる戦前のサリドマ レポート機が実は両方に作動できる以上、移民たちを″生き返らせイド児 ( あざらし肢症体またはフォースと呼ばれている ) だが、そ る″のが可能であることをも見出す。この状況をそれまで知らなかの熟練の秘密は彼の念動能力にある。 った国連も、〈ホフマンの通路〉軍と戦うため、自己の軍隊を送り この奇妙な町の唯一の過去との接触は、地球の周回軌道に乗った 出す。 宇宙飛行士ウォルト・デンジャフィールドをつうじたものである。 ディックの最高作が、三冊とも彼のトレードマークであるテンボデンジャフィールドは火星への旅をあきらめ、全世界へのディスク の早いアクションとミステリ風の筋立てを捨てて、性格描写と設定 ・ジョッキーと情報センターの役をつとめている。音楽をかけ、 に重きをおいた作品であることは、意味深い。深みと説得力の面で説を朗読し、天気予報を知らせ、孤独な村落をおたがいに接触させ 得たものが、表面な動きの点で失ったものよりも、はるかに大き、 しることで、彼は真下にある荒廃の世界へなにがしかの正気と結合カ のである。『プラッドマネー博士、あるいはわれわれはいかにしてをもたらしているのだ ・ストレンジラブ 水爆と仲よくするようになったか』 ( 『博士の異常な愛情、あるい は私はいかにして心配するのをやめて、水爆を愛するようになった 眼下の世界は、夜の側を彼のほうに向けて、闇に包まれてい た。しかし、すでにその端には昼の緑が現われているのが見え、 か』の明らかな盗用 ) には、またもやからつぼの世界が現われる が、それは『準究極的真実』の″みどりの楽園″ではない。核戦争まもなく彼はふたたびその中を通ることになるのだった。あちこ ちに見える明りは、惑星の表面をつついた穴のように輝いてい 後の社会はほとんど部族レベルにまで退化し、孤立した小村が限ら

5. SFマガジン 1973年10月号

るのに、アレシボの望遠鏡をフルに使ったとしてというのも、グラスファイバーは、一方から入した。 も、まず一〇年はかかるだろうというのだ。 射した光線を、内部へ内部へと反射し、もう一方純粋石英の屈析率は、高珪酸ガラスのそれより この望遠鏡には、さまざまな観測計画が目白押の端へ送るものだが、そう理くっ通りには反射せも大きい。このため一方の端から入った光線は、 しだから、とてもフルに使うわけこよ、 ず、一部の光は、ファイ、、ハーの壁から外へ飛び出石英の内部から外へ出ることなく、もう一方の端 もっとも利用しても、宇宙の文明探しに使える時 に出る。 間は四分の一。とするとざっと四〇年を必要とす 石英もガラスも光線を透過するから、たちまち る るわけだ。 外に出てしまいそうだが、実験の結果によると、 だが直径三〇〇メートルのアレシポ型電波望遠 て伝送の損失は、波長六三二八オングストロームの 鏡は七五〇〇万ドルほどでできる。本当に一〇年 光線の場合、長さ一メートル当りわずか〇・四六 間で、高度な他の文明を発見できるなら、こんな カ % であることがわかった。 に安い投資はないのではあるまいか。何しろ地球 これが意外に少ないかは、厳重に被覆した通信 光 人は、一〇〇年以上も、宇宙に仲間がいるかいな 一用ケープルの伝送損失と、この新しいガラスの電 いかを、気にし続けて来たのだ。 ザ線の損失が、ほ・ほ同じということで理解していた 今後、このような計画が、どのように実施され だけるだろう。 レ るかは予断を許さない。第一位の米国も、 て 0 1 号 ( エトロフ日電子技術研究所光 インフレやドルの低落で、科学に振り向ける予算 っ学ファイバーの頭文字を綴った名称 ) と呼ばれる を、かなり締めている。しかし全米科学アカデミ このガラスの電線は、溶かした材料もうまく組み へ ーは、報告書の中で、このように呼びかけている 合わせて冷却するたけで、簡単に作ることができ のだ。「遠くの文明がどのあたりにあるかの手掛 右る。製造コストも安く、金属の電線と同じよう りをつかむため真剣に耳をすまし、位置をつきと に、どれだけでも長くできるという。 線 め、彼らと会話する努力を早く始めなければなら レーザー通信は、伝達できる情報量が多いの ない。お互いの訪問を可能とする新しい物理法則 白で、金属電線を使った従来の通信より、はるかに が、いま発見されるかも知れないのだから」 の効率が良い。例えば電話線ではテレビ画像は伝送 できないが、このガラスの電線を使えば楽々と伝 送できる。 ■高性能のガラスの電線 机 いまのところ同研究所のレーザー研究室では、 号紫外線や赤外線を使った消化器、泌尿器などの診 宇宙通信はじめさまざまな情報伝達に、レーザ 断、治療に役立てようと考えている。ガラスの電 ー光線が広く使われるようになったが、実用化が 0 線はごく細いので、胃カメラなどもこれを使用す 進むにつれ、むずかしい問題にぶつかり始めた。 れば、患者に苦痛を与えることなく、診断ができ 一般に使われているのは、空中に光線を発射し るだろう。 て、伝送する方法。ところがこれだと天候によっ てかなり影響を受け、降雪の場合などはほとんど 情報化はますます進み、必要とする情報量も日 途絶してしまう。 ましにふえるにちがいない。ノ 従来の金属電線では それならガラスの電線と呼ばれるグラスファイしてしまうのだ。 この情報を処理しきれず、やがてはガラスの電線 ーで、レーザー光線を″有線伝送″したら問題そこで工業技術院の電子技術総合研究所は、フが街に張りめぐらされる、ということも考えられ はあるまい、と考えたくなるが、このグラスファイアイバーの中心部を純粋石英にし、そのまわりにる。グラスファイバーは、未来の通信の主役とな ・ハーは光線の損失が多く、実用にはほど遠かった。高硅酸ガラスをつけた新しいガラスの電線を開発ることだろう。

6. SFマガジン 1973年10月号

うに正確に刺激に対して反応しているだけなのだ、と。細胞や細胞 穴の入口から一センチメートルほど離れたところまで運んできた。 そこでいったんアオムシから離れると、かの女は頭から穴の中へも組織に加えられた特定の化学的、物理的刺激が、特定の閉鎖的反応 ぐりこんでいった。すぐ出てきて穴から体をさしのべ、アオムシの系を構成し、そこから選択の余地のない二次的反応が神経系に興奮 頭をくわえると後向きに、ずるずるとアオムシを穴の中へ引きずり状態を作り出すのだ、というわけだ。かくてあらゆる生物は組織切 片と化し、試薬と微電流の中に分解してしまった。あとに残ったの こんでいった。 はグラフと対数と方程式と加うるに電子計算機のマニュアルだけ 五秒ほどたっとかの女は穴の中から出てきた。すばやく周囲をう かがうと、穴の周囲の土粒を大顎でかみ取っては穴の中へ落しこだ 0 た。 ( ああ、私の恩師よ。このような悪口雑言をお許しくださ む。その王はかの女がこの穴を掘る時、積み上げたものだから乾い 小石をスコツ。フがわりに使うジガバチは今見たとうりだが、決し て軽い。つぎからつぎへと穴の中に落しこむ。かの女は穴を埋めて いるのだ。力を入れるたびに翅がななめに高く持ち上り、翅端がはて小石を使おうとしないジガ・ ( チもかなりいる。使おうとしないも のたちは、穴埋め作業をしているそばに適当な小石をころがしてや げしくふるえる。 っても、それをひろい上げると穴の外へ投げ出してしまう。何回や 穴埋めはどんどん進行し、穴を埋めた部分の底が見えるようにな ってきた。かの女は穴の周囲の土を前肢でかきこんでは穴の中へ落っても同じだ。かの女たちは小石を使うと仕事が早く進むし、仕上 りも丈夫になるということを知らないのだ。頭のいいやつがたまた しこみ、頭でぎゅうぎゅう押しつける。その作業の途中で、ひょい と頭を上げたかの女を見て、私はかの女がすっかり気に入ってしまま小石を使ってみたらうまくいったので以後、穴埋めに積極的に小 った。かの女は大顎でくわえた小石を使って埋めた土を押し固めて石を使っているのだろうか。その親から生れた子はどうだろうか ? いたのだ。ジガ・ ( チが穴を埋めるとき、このように小石を使って土ジガ・ ( チの世界では親と子が顔を合わせることは先ず絶対と言って を押し固めるものと小石など全く使わないで自分の頭でつき固めるよいほど無いことだ。親のやり方を子が見習うということができな いかの女たちは世界では、穴埋めの技術もそのつど自分で開発して ものとがあるのだ。かの女は前者なのだ。 道具を使うのは知恵のあらわれであり、人類と、それからかろうゆかなければならないのだろう。 もし、一度、かの女たちが身につけた技術が、イデン的に子に伝 じてサルがそれにあずかっていると言う。 これもあとでふれるが ( あとで、あとで、で ってゆくとしたらー 道具を使うのが知恵のあらわれなら、ジガ・ハチが穴埋め作業にス コツ。フを使うのもひとしく知恵であろう。しかもかの女たちは小石恐縮だが ) かの女たちのなかには実はたいへんななまけ者がいる。 を使う前に、適当な大きさの小石をくわえて一、二度、作業をここ他人の掘った穴を使い、他人が捕えてきた獲物を横どりして自分の 卵をうみつけるというもので、そいつは人がはたらいている間、自 ろみ、それが手頃でないと知ると小石を使いやすいものにとりかえ るのた。動物の世界を語るとき、《本能》という言葉がごくふつう分は花蜜すすったりひなた・ほっこをしたりして遊んでいるのだ。な に使われる。小さな動物たちーークモや昆虫やミミズなどの行動をまけ者は泣きを見る、というのは実はかの女たちの世界では通用し なんでも《本能》で片づけてしまう悪いくせが動物学者の間にでさない。なまけ者はなまけ者でりつばに世渡りしてゆくし、ちゃんと えある。かれらの行動は、その《本能》の命するままに、機械のよ子孫も残してゆく。真夏の炎天の下で穴を掘り、えっちらおっちら 6

7. SFマガジン 1973年10月号

ることを願 0 て、ふたたび忠実にジャグ・パンド ( 壺の中、息を吹きこんすべてうろお・ほえのまま、意地で読みつづけるしかなくなる。ここ 器演 ) の・ ( ッ ( とモーツアルトの練習にとりかかる。彼にと「て不運にはストーリイはない。一連の ( 。フ = ングがあるだけである。それ 4 ック・リリ なことに、 ニコルはアマチュア・タレントになんの興味もいだいては笑いのわかない喜劇的息抜き場面の連続に似ている。 おらず、念動。ヒアニストのリチャード・コングロシアンの演奏のほ もう一つは、権力争いのレベルと心理的レベルとの分離が、あま うを好んでいる・・・ーーたとえコングロシアンが、自分は恐ろしく不快 りにも大きすぎることだーー・・登場人物の行動には十分な動機づけが な体臭をもっているとか、自分の姿は人に見えないとか信じているなく、その心理状態は十分に行動で表現されていない。 ような狂人であっても。 つぎの『アルフアの月の繩張り』では、登場人物を減らし、彼ら 念動能力と時間を変える能力をもったコングロシアンは、ニコル の心理状態の表現に巧妙きわまる方法を使うことで、この欠点がす 対三つの党派の権力争いにおける重要な因子である。カルテルの武くなくとも部分的には是正されている。ディックの異常心理学の領 器は、彼女の政府の二つの秘密を″ベス″に暴露するぞという脅迫域における最初の試みは『宇宙の眼』だったーーあの長篇の中で、 ートルド・ゴルツの武器はタイム・マシン。そして、ワイル ディックは四人の人物の神経症を、彼らがそれそれ最高の支配力を ダー・。ヘン・フロークは警察を動かしている。 もっ四つの幻想世界に託して、象徴化してみせた。『アルフアの月 この戦いの結果は、ついに知らされずじまいに終わる。ゴルツはの繩張り』における象徴は、精神分裂病の各タイ。フがべつべつに住 タイム・マシンに乗って現われたり消えたりするだけ。アルとイアむ、いくつかの都市なのだ。 ンは演奏の練習に余念がない。コングロシアンは、「音楽をとめ滑稽なほどパルプ小説的な題名の中の″繩張り″は、アルフア・ ろ ! また新しい幻覚を見たそ ! 」と叫んでは、登場と退場をくりケンタウリ系の一惑星の月に移住した、狂人たちの共同社会であ る。彼らは七つの派に分かれている。まず、アドルフヴィルの偏執 かえす。人びとは、ルーニイ・ルークの宇宙船で火星へ脱出するー ーそこなら、彼らはシミュラクラと隣合わせに住めるのだ。そして、者は、いわばこの世界の政治家にあたり、つねに他からの襲撃に対 ″チャツ。、 ース″と呼ばれるミータント穴居人が、世界を乗取ろする警戒を怠らない。ダヴィンチ・ ( ィッの躁病者は、エネルギッ うと待ちうけている : シュで破壊的なタイプで戦士や発明家の仕事をうけもっている。ハ ハムレット ムレット小村の幻覚妄想症の人びとはさまざまな思考作業にあたっ こっちの頭までおかしくならないうちに、このへんでやめておこ う。「シミュラクラ』は『タイタンの賭博者』ほど支離減裂なごっている。強度の分裂病者は、ガンジータウンの破瓜病者とおなじ 、視者ないしはエスパーである。強迫神経症の人びとは、商店主 た煮ではないが、やはりディックが一時あまりにも多くのことをな エステート しとげようとした嫌いがある。場面と登場人物、仕掛やどんでん返や店員として働いている。そして、コットン・マザ 1 私有地の鬱病 しが、矢つぎばやにくり出されるので、こちらはただあれよあれよ者は、もちろん、いかにすべてが絶望的かをかこつだけで、なにも というばかりだ。とにかく、二、 オしこれらの集落は、曲りなりにもおたがいに協力しあってい 三ページおきに、新しい副プロッしよ、。 トの中へいきなり投げこまれるのだから。ついには、ヴィンスと、 しるが、その協力がいっそう要求されるときがやってくる。地球から うのは兄貴の細君を寝取った男だったかなとか、イアン・ダンカン調査隊が彼らの平安をおびやかしにきたのだ。調査隊長メアリ・リ というのよレ ~ ノーニイ・ルークの下で働いていた男だったかなとか、 ッタースドルフ博士の使命は、七つの繩張りの人びとに治療をほど