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検索対象: SFマガジン 1973年10月号
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1. SFマガジン 1973年10月号

なんと説明すればいいのか見当もっかないが。なにか、自分で動く しかかろうとした」 もの。木というか喬木というか、そのあいだにいるんだ。森のはずその晩の二十四時、いつものようにオスデンから連絡があったと 5 き、 れの」 ハーフェクスは、ポーロックの報告を伝えた。「なにかに出あ ハーフェクスは厳しい顔つきになった。「ここには、きみを襲う いませんでした。オスデン君 ? 自分で動くもの、知覚のある生命 ようなものはいないよ。ポーロック。発酵微生物さえいないんだ。体というポーロックの印象なんだが、それを裏付けるようなものに 大きな動物がいるはずがない。着生植物がとっぜん枝からおちたと出あいませんでしたか ? 」 か、ったがとっ・せんぶらさがったとかしたんじゃないか」 ススススス : : : 無線があざけるような音をたてた。「ばかばかし 「ちがう」とポーロックはいった。「おれにむかってきたんだ、枝い」オスデンのザラザラした声で聞こえた。 のあいだからさっと。ふりむいたら、さっと上にあがってしまっ 「あんたは、・ほくたちより森にいる時間が長いですからね」ハー た。ビシビシいう音がした。あれが動物でないというなら、いった ェクスは言葉をくずさずにいった。「あの森の樹木は、五感に幻覚 いなんなんだ ! 大きかったよーーー少くとも人間ぐらいの大きさは的な影響をおよぼすらしいという印象には、賛成ですか ? 」 ある。赤味がかった色をしていた。よく見えはしなかったが、たし スススス。「ポーロックの五感が、影響を受けやすいという意見 かだ」 になら賛成だね。あいつは研究室にとじこめておいたほうが安全 「オスデンだったんじゃない」とジェニー・チョンがいった。「タだ。ほかに ? 」 「いまはない」とハーフェクスよ、 1 ザンごっこをしてたのよ」彼女は神経質な笑い声をたてた。トミ 。しい、オスデンは無線を切った。 ーフェクスはわらわなかっ ポ 1 ロックの話を信用するものはいなかったし、信用しないもの コは、狂おしい笑いをおしころした。ハ こ 0 もいなかった。なにか、とても大きなものが、とっ・せんおそいかか ってこようとしたとポーロックは主張した。それは頭から否定はで 「人間、樹の下にいると不安な気持になるものだ」と彼は抑制した 声でいった。「・ほくもそれは感じていた。森での調査をやめたのはきない、彼らは異形の世界にいるのである。森へ入っていった者は そのせいかもしれない。枝とか幹の色とか間隔とかに、催眠的な効びとしく、〈樹〉の下である種の悪寒におそわれた。 ( 「〈樹〉と呼 果があるね、ことに螺旋状のものは。胞子もきわめて規則的にとびんでもいいだろう」と ( ーフェクスはいった。「あれはどれも同じ だすから、とても不自然に思われる。主観的にいえば、非常に不愉ものだ、が、全体的にみるとちがうものだ」 ) みんなが、不安な気 、うしろでなにかに見られているような 快ということだね。この種の、もっと強烈な効果が幻覚を生むこと持でいることはいなめない 感じがすることも。 ーしい、オスデン 冫したた「この問題に決着をつけなければ」とポーロックよ、 ポーロックはかぶりを振り、唇をしめした。「あそここ、 しかに。なにかがいた。目的をもって動いている。うしろからおそのように、生物学者の臨時の助手として、森に入って調査と観察を

2. SFマガジン 1973年10月号

たかもしれないが、誰にもそれはわからない。そのときは、太陽は 「はじめてってわけでもない」 もとどおりになった。こんどもたぶんそうだろう。太陽はもとも 「何ですって ? まさか。そんなの聞いたことないわ」 「最初の月着陸のことは知ってるだろ ? ォルドリンとアームストと、約四パーセントの変光星なんだ。たぶん、ときによっては、そ の変動がいくらか大きくなるかもしれない」 ロングの ? 」 寝室で、何かのこわれる音がした。窓だろうか ? 湿った空気が 「もちろんよ。わたし、月着陸にかこつけたアールのパーティで、 肌に感じられ、嵐の叫びが高まった。 ずっとテレビ見てたんだから」 「じゃ、生きのびられるわけね」レスリーが、ためらいがちにいっ 「彼らは、月でももっとも大きな平担地をえらんで着陸した。そこ から数時間ぶんのお粗末なテレビ画像を送ってよこし、きれいな写た。 いたるところに足跡をきざみつけた。それか「それが一番重要な問題ってことさ。さあ、乾杯 ! 」・ほくは自分の 真をいくつもとり、 グラスを見つけて、大きくひとロのんだ。もう朝の三時を過ぎ、暴 ら、ひとっかみの岩石をとって、もどってきた。 「覚えてるかい ? その石の研究には、長い時間がかかるという話風は依然として戸口を叩きつづけていた。 だったが、まず誰にでもわかったのは、それに、融けかかったあ「それで、何もしないの ? 」 「やってるじゃないか」 とがあるということだった。 「過去のあるとき、いや、たぶん十万年かそこら前のことーー・そう「何か、山の上へ逃げるというようなことよ ! スタン、洪水にな いう痕跡を残すものはほかにはないーー・太陽のフレアがあがったんるのよ ! 」 だ。地球上にまで痕をのこすほどは、長つづきしなかった。しかし「あたりまえさ。でも、この高さまではあがってこない。十四階だ からね。そのことも考慮したんだ。この建物は耐震設計だって、き 月には、大気の防護膜がない。どの石ころも、片面だけが融けてい をノリケーンくらいじや無 み自身いってたね。こいつをこわすのよ、、 たんだ」 室内は暖かく、湿っていた。・ほくは上衣を脱いだ。雨を吸って重理だよ。 くなっている。そのポケットから、タ・ ( コとマッチをひつばりだし「山へ逃げるとして、どこがある ? 道路はもう水びたしだし、今 夜じゅうに遠くまではいけない。たとえば、サンタモ = カ丘陵だ て、火をつけ、レスリーの耳をよけて煙を吐きだした。 「そういうことなのね。でも、こんなひどいことはなかったわけでが、あそこ〈い 0 て、どうなる ? 土砂くずれ、それだけさ。あの あたりは、こんな事態むきにはできていない。フレアは、ひと海ぶ しよう」 「何ともいえないな。もし太平洋上で起こったのなら、さほどのこんの水を蒸発させたろう。これからは、雨が、四十日と四十夜、降 りつづくのさ。ね、ここが、今夜のうちに到達できる、いちばん安 9 とはなかったかもしれない。アメリカ大陸の上で起こったとした ら、何種類もの植物や動物を根絶やしにし、大きな山火事をおこし全な場所なんだよ」

3. SFマガジン 1973年10月号

させてもらいたいと申し出た。オレルーとジェニー ・チョンも二人森の肌に足が触れたとぎ、トミコはホルスターの蓋をあけた。そ ししハーフェクスを見て、銃には手を触れなか いっしょに行かせてもらえれば行きたいと申し入れた。ハーフェクして武器をもって、な、 スは三人を森へ送りだした。大陸国の五分の四をしめる広大な地った。しかし手は知らずしらずホルスターのところへ行くのだっ 域、キャン。フが設営できる地域に近い森へ。武器の携帯は禁止さた。物音はまったくしない。やがてゆるやかに流れる茶色の河に出 れ、半径五十キロの半円の外へ出てはならないと申しわたされた。 た。あたりはうす暗い。巨大な樹幹はどれも似たような形で、だ、 この半円の中には、オスデンの最近のキャンプが含まれている。彼たい等間隔に並んでいる。樹皮はやわらかで、茶または灰色、また らは二日間、日に二度ずつ報告をしてきた。ポーロックは、なかばは緑がかった茶。なめらかでスポンジに似た感触、針金のようなっ 直立した形の大きなものが河を渡って木立のあいだを動いていくのる草がからみつき、着生植物が枝からぶらさがり、皿の形をした黒 をチラリと見たと報告した。オレルーは、二日目の晩に、テントの つぼい大きな葉がゴワゴワと重なりあい、二、三十メートルの厚さ の屋根になっている、足もとの土はマットレスのようにフカフカし 近くでなにかが動く気配がしたといってきた。 「この惑星には動物はいない」と ハーフェクスはがんとして主張しており、一インチごとに根がもりあがっていて、・ほってりした小さ な葉の下ばえが、パラバラと生えている。 「テントよ」トミコはいって、自分の声の大きさにおびえた。テン そしてオスデンが朝の連絡をしてこなかった。 トにはオスデンの寝袋と本と食料があった。彼の名を呼ぶほうがい ハーフェクスといっしょ トミコは一時間ほど連絡を待ったのち、 いと思ったが、そう仄めかすのもためらわれた。ハーフェクスもま に、オスデンの前夜の連絡地点へ飛んだ。ヘリジェットが広漠とし た、光も通さない紫色の樹海を飛んだとき、彼女は恐怖に近い絶望た。二人はテントを出て、たがいに見失わないように用心しながら 密生した樹木のうす暗がりのなかを進んだ。テントから三十メート を感した。 ルほどはなれたところでトミコはオスデンの体につまずいた、そば 「この中からどうやって探しだすの ? 」 「河岸に着陸したと報告してきましたからね。ェアカーを探すんでにおちていたノートの白いかがやきに目をうばわれた。オスデンは す。そのそばにキャンプしているにちがいない。キャンプからそう大きな根をはった二本の木のあいだにうつぶせにたおれていた。頭 遠くへは行くまいと思いますよ。種の数をかそえるのは根気のいると手が血だらけで、ある部分の血は乾いていたが、まだ生々しい赤 い血もあった。 仕事だから。河がある」 ハーフェクスが近づいた。ハイン人の青白い顔は、緑色に見え 「エアカーが」とトミコがいった。植物の色彩と影のあいだに、キ た。「死んでいるの ? 」 ラリと人工物の輝きが見える。「さあ、行くわよ」 トミコは〈リジ = ッターを空中に停止させ、ステップをおろし「ううん。なぐられたのよ。うしろから」トミコの指は、血まみれ 5 いのち の頭部、うなじ、こめかみをさぐった。「なにかの武器か道具で : た。二人はステップをおりた。生命の海が二人の頭上を閉ざした。

4. SFマガジン 1973年10月号

いる。闇と熱とカのこも 0 た強烈な法の一服のように、それは・ほ巨船のような足どりだ。ドアを大きくあけると、ひらいたままから くの体内をかけめぐった。 だの向きを変え、とたんにその大きな黒いシルエットをとおして、 2 テー・フルに金をおこうとすると、ウ = イトレスが押しとどめた。 あやしい青白い光が外から流れこんだ。 「あのタートルネックの人、ビアノ ・バーの端にいる、わかるでし イヤな野郎だ。誰かがその意味をさとって叫びだすのを待ってい よ ? あの人が買いき 0 たのよ」面白がっている声だ。「二時間ほ る。炎と破減 ど前にはいってきて、 ・ ( ーテンダーに、百ドル札を渡したの」 「ドアをしめろ ! 」誰かがどなった。 とすると、この幸福感は、そこからくるものだ 0 た。無料という「出ようか」・ほくは静かにい 0 た。 わけかー い 0 たいその男が、何を祝おうとしているのかと、ぼく「どうしてそんなに急ぐの ? 」 はそっちに目をやった。 「急ぐって ? あいつ、自分でいえばいいんだ ! でも、・ほくには タートルネックにスポーツ・コートを着こんだ、頸の太い肩幅の いえない : 広い男だった。大きなグラスを片手に握りしめ、のめりこむように レスリーは、手を、・ほくの手にかさねた。 背をまるめている。。ヒア = ストがマイクをさしだしたが、手をふつ 「いいの、わか 0 てるのよ。だって、どうせあれからは、逃げられ てことわる、そのとき、顔がはっきり見えた。四角ばった、ごっい やしないでしょ ? 」 顔だが、すっかり酔いがまわって、たよりなく、おびえているよう 心臓が、ぐっと握りしめられるような感じだった。 , 彼女は知って にみえる。恐怖で叫びだす寸前の表情だった。 たんだ。どうしてそれに気づかなかったのか ? これで、彼の祝っているものがわかった。 ドアが閉じ、レッド・ ーンは、赤つぼい暗がりの中にとり残さ レスリーが、顔をしかめた。「だめだわ、このビンク・レディ」れた。買いき 0 ていた男は、し 、ってしまった。 レスリー の好みのビンク・レディがつくれる店は、世界にひとつ「何てことだ。いっからわか 0 てた ? 」 しかない。それは、ロサンゼルスにはない。 ・まくよ、だからそう、 「あなたがうちへくる前からよ」と彼女。「でも、たしかめてみよ ったじゃないかという微笑をみせ、もうひとつのアイリッシ、・コ うとしたんだけど、うまくいかなかった」 ーヒーを彼女のほうに押しやった。 , 彼女は微笑み返し、グラスをと「たしかめるって ? 」 りあげるといった。「青い月光のために」 「バルコ = ーに出て、望遠鏡を木星に向けてみたの。火星はこのと ぼくもグラスをあげ、ひとロのんだ。が、この乾杯は、ぼくがしころ、地平線の下にあるのよ。太陽が新星にな 0 たとしたら、惑星 たくてしたわけじゃない。 もみんな月みたいに光りだすでしよう。そうじゃなくて ? 」 タートルネックの男が、ストウールからすべりおりた。慎重に、 「そのとおりだ。畜生」どうしてそれに気がっかなかったんだろ ドアのほう〈歩きだす。ゅ 0 くりと、ま 0 すぐに、ド ' ク入りするう。も 0 とも、レスリーは天体観測「 = アだ。ぼくは少しは天文を

5. SFマガジン 1973年10月号

かわりにおとうさんは言った。「見ろ、あそこにこの火事の原因た。「空からきたもの。流星とおなじだ。しかもこんなに熱く焼け になったものがある」・ほくらはふわふわする灰のなかを、そこにこるくらいだから、流星に負けないぐらい速かったにちがいない。あ ろがったなにかの黒い塊りのほうへ歩いていった。 いったいあんなところでなにをしていたんだろう ? 」・ほくの 「博物館に送れば喜ばれるかもしれないよ。流星ってのは、たいが棒切れがその金属の塊りを揺さぶり、それはまたごろんところがっ い地面に落ちる前に燃えっきちまうものなんだから」近づいてゆき た。ころがったはずみに、割れた先端がひらいて、なかから、小さ ながら・ほくは言った。 な四角い金属の物体がころがりでた。・ほくは棒でそれを掻きだす おとうさんは足でその丸太のような塊りを押してみた。それが揺と、注意ぶかく持ちあげた。こびりついた煤が、・ほくの包帯と手の れると、いままでその下になっていたところから小さな焔があがひらをよごした。それは見たところ箱みたいで、大きさはちょうど り、一群れの草が焦げて、葉の先がちりちりよじれながら丸まって・ほくの両手にのるくらいだった。しばらく・ほくはそれをながめてい たが、そのうちふと、空を引き裂いて飛んでくる流星や、虚無の空 「まだ熱いな」そう言いながらおとうさんはそのそばにしやがみこ 間や、燃えひろがる野火のことなどが頭に浮かぶと、きゅうに空恐 がらんと音がした。「金属だ ! 」ろしくなって、急いでとある岩かげに穴を掘り、箱をそこに埋め おとうさんの眉がつりあがった。「しかも中空だそ ! 」 て、上から土を踏みかためた。それから、おとうさんを迎えにゆ ひとしきりぼくらは棒切れでそれをつついてみたり、火傷しないき、・ほたぼた滴の垂れている・ハケツのひとつを受け取った。連れだ ように石でたたいてみたりした。それからしやがみこんで顔を見あって家に帰る途中、・ほくらはどちらもそのひしやげた金属のものの わせた。なにか恐怖に似たものが身内にひろがるのが感じられた。 ほうはふりかえらなかった。 「これは これはひとの造ったものだよ ! 」・ほくは言った。「長 い金属の管かなにかなんだ ! そしてあの子はこのなかにはいって 翌朝、少年の火傷のようすを調べたとき、おとうさんは信しられ いたにちがいないー だけど、どうしてそんなことができたんだろないというように目をまるくした。「もう治りかかっているそー う ? どうしてあんな空高くにあがり、あんなふうにして降りてくごらん ! 」おとうさんはおかあさんに言った。 ることができたんだろう ? そして、もしもこの小さなものがひと ぼくも急いでそばににじり寄り、あやうくおとうさんが傷に塗っ の造ったものなら、これがとびだしたあの大きなものはなんだったといたオリー・フ油をひっくりかえすところだった。少年の左手首、 んだろう ? 」 服のカフスがちょうど終わっていた箇所には、大きな、生身の露出 「とうさんは水を汲んでくる」そう言っておとうさんは立ちあがるした、じくじくした傷があったはずだった。いま見ると、そこはき 5 0 と、・ハケツをとりあげた。「これ以上火傷するんじゃないぞ」 れいに乾き、やわらかなビンクの薄皮がうっすら張っているではな 2 、、 0 ぼくはその黒く焦げた金属をつつきながら、声に出してつぶやい

6. SFマガジン 1973年10月号

間動物園はだめだ : : : あのおろかしいじゃがいもにがまんできさえがぼくの救いは拒否だ。あれは知性はもたない。だが「ぼくはも 0 すれば ! あれがこれほど強くなければ : : ぼくはいまでも、恐ている」 以上のものを感じているんだ。 , あれが恐怖を感じる前にはーーのど「その考え方はまちが 0 ている。た 0 たひとつの人間の脳が、とほ かさがあ 0 た。そのときは、あれを受けいれることができなか 0 うもない大きさのものに対抗していけると思うのかね ? 」 た、あれがどれほど大きなものか気づかなか 0 た。とどのつまりは「た 0 たひとつの人間の脳だ 0 て、星や銀河を織りなすことができ 昼のすべてと夜のすべてを知ること。風となぎを知ること。冬の星るのよ」とトミ 0 はい 0 た、「そして愛をうたうことも」 と夏の星を知ること。根があって、敵のいない。全体である存在。 マノンは一座の者をひとりひとり見まわした。 ( ーフェクスは無 わかるか ? 侵略もない。他者もいない。全体であること : : : 」 言であった。 彼がこんなことを話したことはない、とトミコは思った。 「森のほうが暮しやすいだろう」とオスデンよ、つこ。 。しナ「だれが、 「あなたはそれに対して無防備なのね、オスデン」と彼女はいっ連れていってくれるかね ? 」 た。「あなたの個性はすでに変 0 てしまった。あなたはそれに対し「いっ ? 」 て傷つきやすいのね。あたしたちは気が狂わないかもしれないけれ「いまだ。あんたたちが、まい 0 てしまう前にだ」 ど、あなたは狂うわ、ここを立ちさらなければ」 「あたしが行く」とトミコがいた 彼はためらうようすでトミコを見あげた、はじめて彼はトミコの 「だれも行かないだろう」と ( ーフ = クスがいった。 目をまっすぐに見た。水のように澄明で静かな目。 「おれは行けない」とマノンがいった。「とてもこわいんだ。ジェ 「正気がぼくになにをしてくれた ? 」と彼は嘲笑するようにいっ ットをこわしてしまうかもしれない」 た。「でもあんたは、わかっているね、 ( イト。あんたは、あそこ 「エスクワナをいっしょに連れていくわ。うまくいけば、彼が媒体 でなにかをつかんだ」 をつとめてくれるでしよう」 「逃げだすべきだ」と ( ーフェクスがつぶやく。 「感覚担当の。フランを受けいれるのですか、統率官 ? 」ハーフェク 「もしあれに、屈服したら、コミ ュニケートできるだろうか ? 」 スはあらたまった口調で質問した。 「〈屈服する〉というのは」とマノンが神経質な早ロでいった、 「ええ」 「あの植物、存在から受けとった情報を送りかえすことをやめると「わたしは反対だ。だが、同行しましよう」 いうことだね、恐怖を拒否することをやめ、それを吸収してしまう「そうしないわけこま、 ~ をし力なしのよ、 ハーフェクス」とトミコはし ことだね。それはきみを殺すか、完全な心理的退行、つまり自閉症って、オスデンの顔を見た、醜い白い面は、変貌をとけ、恋する人 へとひきもどすかするだろう」 間の顔のように燃えていた。 「なぜ ? 」とオスデンはいった。「あれのメッセージは拒否だ。だ オレルーとジェニー・チョンは、悪夢にうなされるべッドやわき 8 6

7. SFマガジン 1973年10月号

いのままにしている。喉もとに胆汁のようにつきあげてくる憎悪を あるトミコは平気だった。「まだ思いだせないかもしれないけれ 感しながら、トミコは彼を見おろした。人間の感情を餌食にしてい ど。なにかがあなたを襲ったのよ。あなたは森にいてーー」 るこの怪物のようなエゴティズム、徹底したこの自己中心主義は、 「おお ! 」と彼はさけんだ。目が光りをとりもどし、顔がゆがむ。 肉体のどんな奇形よりもおそましいものだ。先天的なバケモノのよ 「森ーー森のなかーー」 うに、彼は生まれてきてはいけなかったのだ。生きていてはいけな 「森の中でなにがあったの ? 」 : 、。、ツクリと轡れてし いのだ。死ぬべきなのだ。どうしてこの頭カ / 彼は深く息を吸う。鮮明な記憶がよみがえったようだ。しばらく まわなかったのだろう ? してから彼はいった。「わからない」 オスデンは蒼ざめた顔をして寝ていた。両手はカなくわきに置か 「襲いかかってきたものを見なかったのか ? 」と ( ーフ = クスがき れ、色のない目は大きく見開かれ、そして目尻に涙がうかんでい こ。トミコは、だしぬけに彼のほうへかがんだ。オスデンはビクッ 「わからない」 として体をちちめた。 「おもいだしたね」 「やめろ ! 」と弱々しいかすれた声でいって、両手で頭をかばうよ 「わからない」 「わたしたちの生命がかかっているのだ。なにを見たか、話すのうにした。 「やめろ ! 」とオスデンは、もう一度いった。 が、ぎみの義務だ ! 」 トミコは・ヘッドのわきの折りたたみ椅子にガックリと腰をおとし 「わからない」オスデンはすすり泣いた。 ひどく衰弱しているので、知っていながら隠しているという事実た。しばらくしてから彼の手にそっと片手をのせた。オスデンはひ っこめようとしたがその力がなかった。 を隠すことができないのである。だが、どうしても答えようとしな 。ポーロックがそばにいて、こしよう色のヒゲをかみながら、耳長い沈黙が二人の上におちた。 やがてトミコがつぶやくようにいった。 をすませている。ハーフェクスは、オスデンにおおいかぶさるよう トミコは、腕づくで彼「オスデン、ごめんなさい。ほんとにごめんなさい。あなたに、よ にした。「どうしても話してもらおうー・ー」 心力らそう思うようにさせてちょうだい、オ くなってもらいたい。、、 をおしとどめなければならなかった。 ( ーフ = クスは見るもいたいたしい努力をして自分を抑えた。そスデン。あなたを傷つけたくないの。ええ、いまわか 0 たわ。あれ して無言で自宅〈ひきあげてい「た。おそらくトランキライザーをは = : = あなたを襲 0 たのは、あたしたちの仲間なのね。ええ、そう いのよ、答えなくても、あたしがまちがっていた にちが 二粒か三粒のむだろう。みんな、長い廊下の十の小さな寝室をもっ らいってちょうだい。でもまちがうはずは : : : この惑星には、動物 7 大きな建物にちりちりに散らばっていった。だれもなにもいわない が、暗い不安な表情だ 0 た。オスデンは、いまもみなを自分のおもがいるのよ。あなたをいれて十匹。だれがや「たのか、それは問題

8. SFマガジン 1973年10月号

ままよ、彼女がそういうのだ。これ以上馬鹿《《しいことは、ぼ類 0 宝石や貴石に飾られて並んでいた。道路をわたると、ヴ , ・ くなどにはとても思いつけない。 「ウエストウッドにしようか、ビ ヴァリー . クリーフとアーベルが、プロ 1 チや、 = レガントな男ものの腕時計 3 ヒルズにしようか」 や、時計のついたプレスレットを展示しており、しかもウインドウ 「両方とも」 のひとつはそっくりダイアモンドばかりだった。 「でも、これから , ーー」 「きれいだわ」まばゆく光るダイアに心をうばわれたように、レス 「じゃ、ビヴァリー・ヒルズにするわ」 リーは吐息をついた。「昼間はどんなふうにみえるでしようねー 雨と雹がこもごも降りそそぐ中を、ぼくらは自動車をとばした。 「かまわないし℃ 、考えだよ。想像してごらん。朝が来て、さしこ ティファ = ーのシ , ールームから半プロックのところこ。、 冫 , ークすむ新星の光にウインドウが粉みじんになり、その光をうけて、これ がいっせいに輝きだすんだ。ひとつまし、 をし力し ? ネックレスにし 歩道は水たまりの連続た 0 た。頭上のビルのあらゆる階層から、 ようか ? ・」 しずくがふりかか「てくる。レスリーがい 0 た。「たいしたもの 「ほんと ? うそ、うそ、冗談よ ! よしなさい、おスカさん。警 ね。半ダースもの宝石店が、足で歩きまわれる範囲にあるなんて」報装置があるわ」 「ドライヴするだけかと思ったよ」 「でもね、いまから朝まで、誰もこれを身につけることはできない いえ、それじゃだめ。正しいやりかたとはいえないわ。ウィんだぜ。よさそうなのをもら 0 て、何が悪いんだ ? 」 ドウ・シ ' ' ピングというのは、歩いてするものよ。それがルール 「逮捕されるのよ ! 」 なのよ」 「ウインドウ・シ = ツ。ヒングしたいとい 0 たのは、ぎみだぜ」 「しかし、この雨たぜ ! 」 「最後の夜を、留置場で過ごしたくないわ。でも、自動車をここへ 「肺炎にかか 0 て死ぬ心配はないわ。時間がないのよ」ひどく不気も「てくれば、少しは , ーー」 味な調子で、彼女がいった。 「ーー・逃げるチャンスがある。そうだ。・ とうせ自動車をまわさなく ティファニー宝石店は「ビヴァ リー・』ルズに小さな支店を出しちゃーー」しかし、ここまででふたりとも気力が尽き、互いに支え て」るが、夜間は何も高価なも 0 は並〈ていな」。みごとなオ、あ 0 てよろめきながら、そ 0 場を離れるよりほかなか 0 た。 がいくつか、それたけだった。 ロデオ通りには、た 0 ぶり半ダースの宝石店以外にも、いろいろ ぼくらは 0 デオ・ド , イヴ〈道を折れーーそ = で大穴を掘りあてなも 0 があ「た。おもちミ本「〉とネ , , イ、」ずれも奇妙 た。一一→ポー 0 ウイドウ = 0 、無限と思われるほど 0 指輪が、凝前衛的なや 0 だ。 , 一 = ・ー ~ = 嫉新し」一 ~ 、玉 0 「たっくりのや現代的なのや、大きいのや小さいのや、あらゆる種 い「ばいつま「た大きなプラスチ ' クの立方体があ 0 た。そのさき / ヴァ

9. SFマガジン 1973年10月号

「明日の日の出ごろには、ぼくらは荷造りを終えているさ・もう眠 だ ! きっとたいした見ものになるだろうー 樽は急速に空になりかけていたし、水溜りは熱い日ざしに焼かれれよ」 て、そりかえった、かすかに湿った泥の塊りになろうとしていたか「じゃあそれなしでやらなきゃならないな」ぼくの言葉など耳にも ーニイ、もしぼくに《お召 ら、その午後ぼくらは荷造りを始めた。といっても、持ってゆけるはいらぬようすで、彼はつづけた。「・ハ のは、千し草ぐるまに積めるものにかぎられていた。すでにここにし》があったら、だれかが取りにくるまで、・ほくのカヒラを預かっ きたときに乗ってきた幌馬車は、農機や洗濯槽ひとそろいと交換さていてくれるかい ? もしそれを取りにくるひとがいたら、それは ピープル ぼくの《同胞》なんだ。そうすれば彼らにも、・ほくが行ってしまっ れてしまっていた。だがせつかくのその農機具も、ここに置去りに たことがわかる」 して銹びつかせるか、いっかばくらが取りに帰ってくるときまで、 いったいなんのことだい ? 」・ほくはたずねた。 「《お召し》 ? 放置しておくよりほかないのだった。 その夕方、おかあさんはメリーを連れて、丘の斜面にある樫の木「あの赤ちゃんのようにさ」彼はそっと言った。「ぼくらのやって みくら の下の小さな墓に行った。長いあいだおかあさんはそこでタ日に背きたところ、《御座》に召しかえされることだよ。・ほくが自分ひと を向け、頭を垂れてじっとしていた。それから、ぐっすり眠りこんりの力だけであれを上げなきゃならないとすると、カが足らないお それがある。だからきみ、・ほくのカヒラを預かってくれるね ? 」 だメリ 1 を抱いて、無言でもどってきた。 「うんわかった」彼がなにを言っているのか呑みこめぬままに、ば 寝床にはいってから、ティモシーが・ほくの手首をさぐりにきた。 「ねえきみ、きみたちのこの地球には衛星があるんだろ ? 」彼は言くは約束した。「預かるよ」 「ありがとう。じゃあおやすみ」 葉は使わずにそう質問した。 「衛星 ? 」ぼくが声を殺してささやき返すと、大きいべッドでだれそしてまたしてもランプが吹き消されるように、目覚めがふっと ・ほくから遠のいていった。 かが落ち着かなけに寝返りを打った。 「うん」彼は答えた。「地球のまわりをまわっていて、夜になると 光る小さな世界のことさ」 一晩じゅうぼくは夢を見ていた。あらしと地震と、洪水と、竜巻 「ああ、月のことだね」・ほくはささやいた。「たしかにお月さまなとが、ぜんぶいっぺんにすごい勢いでぼくの上を通り過ぎてゆく夢 らあるけど、今はあまり明るくないよ。日没後わずかな時間だけ、だ ! それからふと気がつくと、ぼくはなかば夢うつつで横たわっ 1 の指からカが抜けて、いまの夢のいくぶんかが現実であることを恐れて、目をあける かけらみたいなのが見えていたたけさ」ティ ことに抵抗していた。そしてとっぜん、それは現実となった ! るのを・ほくは感じた。「な・せだい ? 」 7 床がめりめりと軋みながらぐらりと持ちあがり、またどすんとも 2 「日の光と月の光がいっしょにあれば、大きなことがやれるんだ」 彼の答が伝わってきた。「ひょっとして、明日の日の出ごろーー」とにもどったので、・ほくはあわてて藁ぶとんにしがみついた。鍋や

10. SFマガジン 1973年10月号

「馬がいないね。牛ばっかりだ」 「そう言えばそうだな」 9 姿なきコンパニオン 「それに、車もない。荷車、手押車 : : : 車らしいものがまるで見当 らない」 天文学的な話題を二つばかりご紹することは既報のとおり臆測されて 三波が素っ頓狂な声をあげる。 ^ しよう。 いたのであるが、それが他の星のま 貴方のまわりをいつもウロウロしわりを廻っているのが、今回発見さ 「なんだか物足りないと思ってたら、それかア。みんなエッチラオ て離れない目に見えないコン。ハニオれたのである。 ッチラ、背中にかついでるんだもんな」 ンっまり仲間影のようなものがあっ これを発見したのは、オーストラ 若様がうなずく。 たとしたら、何か不気味だし、また リアのストロムロ山天文台で 2 DO 居心地が悪いだろうと思うのだが、 九〇 0 ー四〇という X 線星の観測を 「なるほど。馬がいないか。でも、馬がいなくても牛がいる。牛に 天体の世界では、目に見えない伴星行っていた五人の天文学者で、この 乗ってもよさそうなものだし、牛に物をのせて歩いてもおかしくな を持った恒星というものがあるらし 線源と関係があると思われる可視 つまり、目に見えない星がいっ星のスペクトルやその他を研究して硼 いのに、誰もそんなことはしていないね。ひょっとすると、僕らは もそのまわりを廻っているのであ いるうちに、この線源が一定の周 この世界でずいぶんやる事があるのかもしれない」 る。 期でこの可視星によって蝕される模 「そうらしい」 といっても、その目に見えない伴様であることから、それが連星で、 星というのは、透明でもなければ、 この可視星がその一方であるらしい 吉永が同意した。 幽霊でもない。このところ天文学的ことがわかって来た。 「何やることがあるの」 世界の話題をさらって本誌でもたび ところが、この可視星の方は、我 たびとり上げられている「プラック我の太陽の質量の四十五倍もあるよ 伊東が尋ねた。 ・ホール」なのである。 うな大きな恒星であることがわかっ 「牛の力をもっと利用することや、車輪のことを教えてやろうと言 この「プラック・ホール」という たが、もう一方の方は、太陽の三倍硼 うんだよ」 のは、星の進化の段階で、それを構位の質量しかない小さなものである 成している物質が極端な原子的崩壊ことがわかって来た。しかし、この 「そんなこと、ここの人たちは知らないのかい」 を行って直径わずか十キロ内外とい 大きさの星ならば、当然見えるはず : だろう」 「だって見たとうり : ・ う途方もなく小さな空間に凝縮して のものである。ところが、それが見 しま「たため、そこから発生する重えないと言うことは、それがすでに 「それはいいや。車を売ってひと儲けしようよ。フォードとかシポ 力が非常に強く、その影響でそこか死滅した星であることを意味してい レーとか名前つけちゃってさ」 ら発せられる光の進路はすべて強力る。しかし、それでいてこれだけ強 に彎曲させられてしまって外へ出ら い線を放出する線源をなしてい 「荷車にかい」 れなくなってしまい、それ自体で閉るということは、それが原子崩壊を 「そうさ、売れるぜ。俺、一度ライバルなしの商売って、やってみ 鎖した世界をつくって、その存在が起してっぷれた中性子星でしかもそ 視覚的にその外部から認めることが の質量が太陽の質量の二倍を超える たかったんだ」 出来なくなった状態のことである。 ということは、それがすでにプラッ その時、ヴァレリアが先頭のほうから戻って来た。 こういう状態は、従来単独に存在ク・ホールを形成していることを示