ーカーの立っていた場所へ向けて注ぎこむ。が、むろんもう二人とびとびついてクリンチにもちこんだ。たがいに脚をからませ、どう もそこにはいない。闇とともにすばやく身を伏せ、、三人の敵めざしと床の上に倒れる。ごろごろところがりながら、殴打につぐ殴打の 応酬。つかみあい、蹴りあう。あたかも二匹の獣のように、あらゆ て迫っていたのだ。 ピストルの炎で、その動きは見えたかもしれない。が、事態の変る理性を、どこかへけしとばした闘いぶりだ。 ふいに、両者はまた立ちあがり、闇の中でこぶしをふるいあっ 化は早すぎた。いま、そこに、なすこともなく立っていた二人が、 た。プロドールがよろめくーー・思わずもアランは、相手のからだを 次の瞬間には闇の中に身を伏せ、たちまち三人の足をとらえてひっ くりかえしたのだ ! ・フロドールは、サレットに折りかさなって倒がっちりととらえた。一方の腕で、相手の肩の下を、万力のように しめつけ、もう一方の手が、あごを押しあげる。指先は、くちびる れこみ、いつ。ほう。ハーカーは、あとの二人をタックルしていた。 炎を吐く口ケット・。ヒストルが、暗黒の宙に舞いあがり、どこかを歯の上に押しつぶし、挺子の原理で、彼の頭は、徐々に反りかえ っていった。プロドールの、しめつけられてあえぐ呼吸の音が、か へ落ちたーー闇の中の闘いは、素手の肉弾戦となった。 凶暴な喜びにかられて、サレットは相手のからだをたよりに手をすかに聞こえる。やがて、闇をつんざくおそろしい悲鳴。思わす彼 が、そのとき、コリイの死にぎわの あげ、のど首をさぐりあてた。頭の中を、叫びがよぎるーープロド は、手をゆるめようとした ールをつかまえろ ! 両者は立ちあがったーー・よろめき離れたが、姿が目に浮かびー彼の筋肉は、さらに無情な力を加えていった。 またすぐぶつかった。平手打ちのような衝撃であった。 ・フロドールは、アランの胴を両脚でしめつけた。死の恐怖にから プロドールをつかまえろ ! アランのくちびるが、荒々しくゆがれた、絶望的なあがきだった。それを感じると、サレットはいきな んだ。こいつが、彼を、あの木星の牢獄に叩きこむように命じた男り前のめりに床に倒れこみ、全身の重みを、相手の頭と首にかけ し、いやなひびきとともに、マックス・・フロドールは、動 こいつが、天王星の奴隷商人なのだ。コリイとタールの死た。にぶ、 も、この男のせいなのだ ! 身うちに、紅蓮の闘志がもえあがり、 かなくなった 氷のような復讐の念が、それを横からあおりたてる。片手を相手の はげしく息をつき、全身をふるわせながら、アランはのろのろと がっしりした肩にくいこませ、もう一方の手を、むきだしのあごに立ちあがった。リーフ・パーカーと、二人の敵は、どうなったの 叩きこむ。 か ? 彼は耳をすました。 「さあーーどうした ! もうかかってくるやつは、おらんのか ? : おい、アラン、そっちはどう 悪態を吐きながら、・フロドールは、両手でアランののどをつかん二人もいてーーーもろいやつらだー だ。身をよじってのがれる彼の向こうずねを、足が蹴りあげる。蹴してる ? 」 「すんだーーー」と、アランは答えた。「明かりをつけよう」 られた骨の痛みにわれを忘れて、彼は・フロドールにつかみかかっ た。短いジャプがあごをかすめ、彼はいったん身を退くと、ふたた操縦パネルを手さぐりし、やっとメイン・スイッチをさがしあて 30 ー
いた霧のヴェイルを切れぎれに吹きとばすいきおいで、毒々しい火力チュアだ。巨大な胴体の両側に、強靱な力を秘めた腕が、プラン 焔が天に沖したのだ。この超弩級の爆発につづいて、これまで誰も・フランゆれている。一見したところ、ひどく粗暴な感じだが、頑丈 きいたことのないような、ドロドロという轟音がまきおこった。大な頭蓋骨から高く秀でたひたいが、その知性を充分に示していた。 地がはげしくゆれ、うずくまる三人は、ひどい目まいにおそわれ「よくない このばくはっ 」低くこもった・ハスで、ほえるよ こ 0 うにいう。「計画が、だいなしになる。はやく逃けないとーー・この 「火山が生きかえった ! 」 場所、長くもたない」 ・ハネじかけのようこ、。、 ノーカーがかけよった。「そうだーー早く コリイの叫びも、轟音の中では、ささやきにすぎないーー・硫黄を 含んだ雲烟が、台風のようにそのことばを吹きちらし、三人は、もビラミッドをつくるんだ」 ろに壁に叩きつけられた。新たに生まれた火山の噴火にともない、 六フィート三インチの地球人を、タールは軽々と肩の上にほうり 大地はおそろしいほどゆれつづける。さらに、焔に励起された雷雨あげた。そこに立って背をのばすと、大地の震動で投げ出されそう になるが、タールは彼の足首をしつかりとっかんだ。 が、びりびりする液粒をそそぎはじめた。 アラン・サレットは、ショックでガタガタになったからだで、よ火山の鳴動のあい間をみて、天王星人が合図する。「コリイ、お まえの番だ」 うやく立ちあがった。 数フィ ート向こうで、コリイとパーカーも立とうとしてもがいて やせぎすのコリイが、タールの肩の上で、パーカーと向きあう。 いる。幸い誰も大きな傷はうけていないらしい 巨大な指が。ハーカーの足をしつかりとおさえ、コリイがその手のひ パ 1 カ 1 が、れいの片頬だけの笑いをみせた。轟音にまけずに声らに足をかけーー・一瞬彼は、壁の上縁から六フィート下で、辛うじ をはりあげて、 て・ハランスを保った。ようやくパーカーの肩の上によじのぼると、 「木星人に、たつぶりサービスしてやれたぜ。こっちが思った以上壁にしつかり身をよせる。それからがもっともむずかしい。アラン だ。これであと、タールがくればーーー」ふと口をつぐむ。 ・サレットをうけとめるために、からだの向きを変えなければなら コリイが、あとをうけた。「うむ。タールがやってきて、早くこ ないのだ。どうにかこうにかそれをやりとげると、彼は、なめらか こをぬけだせれば、追っかけられる心配もなさそうだ。しかし、やな壁のひろがりに肩をしつかりつけて、下に声をかけた。 つがこの中をぬけてこられるのは、奇蹟に近いんじゃないかな」 「いそぐんだー このままじゃ、長くはもたんそ ! 」 アラン・サレットは、ロをキッとむすんで、天王星人の前に立っ 「その奇蹟ってやつが起こったそ ! 」とアラン。「タールがやって くる ! 」 た。この軽業の中でも、彼の役割は、もっとも危険なものである。 9 8 真紅の炎を背景に、大きな人影が、重々しい足どりで近づいてき霧をすかして見上げると、コリイの肩はひどく小さく、しかも前後 2 た。木星人にまけない背丈の彼は、まっ白な皮膚をもつ人間のカリ にゆれている。タールにつかみ上げられながら、彼は歯をかみしめ
は鋭い叫びをきいたように思った。ふいに、触手がゆるみー・ースル ふたりの男は、息をはずませながら、顔を見合わせた。骨ばっ ールの巨体がぐらりと傾いて、地ひびきとともに倒れると同時に、 て、内気そうな、コリイの六フィートの長身。それより六インチも 8 2 アランは牢獄の地上にほうりだされた。神経の一本々々に、苦悶が背は低いが、黒髪で、日にやけたサレットのからだには、カがみな よみがえってくる。硫黄くさい大気を、彼はあえぎといっしょに、 ぎっている。ふたりとも頭のてつべんから、サンダルをはいた足の 焼けつくような肺へ、夢中で吸いこんだ。身心が暗黒の深淵へと落先まで、木星人の返り血をあびている。無言のまま、どちらからと ちこんでいくのを感じ、彼は必死で意識をとりもどそうとっとめもなく手をだすと、しつかりと握りあった。 こ 0 ぎごちない沈黙を、コリイが破った。 「うまくいったな ようやくにして、彼は立ちあがったが、両脚はまるで叩いた藁の この調子でつづけようや」あけっぴろげな笑 ようにたよりない。十フィートほど向こうに、木星人が、血まみれみをうかべながら「さっそく逃走にかかろうぜ」 サレットは、うなすいた。 の見るもおそろしい姿で、三本脚をなげだしたままうずくまり、コ リイのふりかざす熊手から身を守ろうともがいている。ふいに、そ「うむ。だが壁のところへ、 パーカーとタールが来てくれないと。 いつは前向きに、血だまりの中へ倒れこんだ と同時に、頭の触もっとも、やつらは、おれたちよりずっと手早く、スルールを片づ 手がのび、地球人にからみついた ! 死にかけた怪物からしぼりだけたと思うがね」 される勝利のうなり声ーー・そのまま、煮えたぎる水面のほうに、退雪靴でもはいたようなかっこうで、鏡のような床の上に足をひき いていこうとするー ずりながら、ふたりは牢獄を横切りはじめた。急いで前進しようと アランは恐怖の目を見ひらいた。かけつけようとするのだが、足すると、脚の筋肉が、よじれて動かなくなりそうだ。どちらも口を 冫をし力ないのだ。そ がいうことをきかない。スルールの動きはもはや鈍っているが、こきかない。会話で呼吸を無駄づかいするわけこま、 っちのペースはさらに遅い。ようやくの思いで、硫黄かき熊手をとれそれ自分の考えで頭はいつばいだったーー・もうすぐ自由に手がと りあげると、彼は休みなく前進をつづけた。もうほとんど池の縁どきそうだという今、心の中にはさまざまの思いが渦巻いていた。 で、コリイはなんとか振りもぎろうと、必死に身をもがいている。 いまから二カ月ほど前、サレット、コリイ、パーカーの三人は、 インタープラネタ やっと、アランは間に合った ただ一撃、彼はその武器をふりあこの木星へ運ばれてきた。三人ともそれそれ、・惑星 リー・トランスポート・ライン げると、木星人の大きな目玉から脳髄へと突きとおしたのだった。運輸航路ーー・に所属する巡察艇の指揮官であったが、ふいに 何の審問もないまま、反逆者の烙印をおされてしまったのだー・ーそ れも、— e t•-äの代表者たるマックス・ゾロドール自身の命令によっ コリイがようやく自由になったとき、スル】ルは完全に死んでい た。一瞬、池のふちで釣りあいをとるかにみえたが、やがて縁をこてである。 えると、泡立っ水面の下に消えていった。 反逆とは ! サレットのくちびるが、苦々しくゆがむ。何とも呆
にや、相当に暇がかかるーーー入れかえの時間は充分だよ」 て、回路をとじた。 パーカーの片頬の笑みが、顔全体にひろがった。 チラチラと照明がまたたいた。接続がゆるんでいるような、不安 定な光である。ビストルの炎でひどく焼けこげた床の上に、三人の「頭は使いようだな ! 」と叫ぶ。 男が長々と倒れていた。その一人は、もう永久に動かない。他の二「月へ着陸しよう」 と、アランはことばをついだ。「そして、地球の—»-ä本部へ、 人は、まだ息があった。 : : : 操縦パネルは、さっきのロケット・。ヒ ストルで傷つけられ、もうどうにも直しようがない。奇蹟的に、テ無電で報告を送るんだ。それから、そのあとはーー・・そう、おれたち レスクリ 1 ンが二面だけ、まだついていたが、それによって事態のは、お尋ねものってことになるんだろうな・ー・」 パーカーが、興奮したように、そのことばをさえぎった。 絶望的なことが明らかになった。スクリーンの一つに太陽が映って 「ああーーーそのあとは、いわなくても、わかってるよ ! 月のどこ いる。それが、しだいに大きくーー・おそるべき早さで、スクリーン かで、新品の恒星船を一隻手にいれて、飽きがくるまで大宇宙をの 全体にひろがろうとしているのであるー いやになるほど、いろんなものを見た りまわすのさ ! うん 船は、太陽に向かって、墜落しかかっているのだった ! 即座にサレットは、操縦席にとびつき、エンジン噴射をためしてり、いろんなことができるそ ! じゃ、やるかい ? 」 アラン・サレットはピストルの炎に焼かれずに残ったもう一つの みた が、何の反応もない。もう一度やってみたがーーー無駄だ。 彼は肩をすくめた。この故障は、もう手のほどこしようがない。無テレスクリーンに目をやった。そこに映じている幾百万ものはるか な世界ーーっめたく、挑発するような光を放って、じっとこちらを 言のまま、彼はパーカーをふりかえった P リーフ・パーカーは、くちびるをゆがめて片頬で笑い、目を半眼見つめているかにみえるーーーたとえ百万回生まれかわっても、探険 しつくすことが一できないほど多くの世界だ。内心の輝きを反映し に閉じている。 「駄目なのか、おい ? じゃーー・おれたちも、タールとコリイのあて、彼の顔に、暖かみがもどってきた。その手が、いきなり前に出 て、 がっしりと。 パーカーの手を握りしめた とを追うことになるなーー憎い仇も、もろともにだ ! 」 「いこうぜ」 床のほうへ、あごをしやくると、「それでいい。満足だよ」 っこ 0 と、彼よ、、 . をしー サレットは、顔をしかめた。 「しかし、船倉の乗客や船員たちは、どうするんだーーこ 口をつぐむ。が、やがてゆっくりと、笑顔がもどってきた。 「おいーー大丈夫だ、逃げられるそ ! 『ミネルヴァ』がある ! あそこの空気を入れかえ、『ヴァルカン』のタンクから燃料をいれ て、そのエンジンで脱出するんだ。太陽まで約四千万マイル落ちる 302
コリイが首をふった。 無限とも思われる瞬時、あらゆるものが動きをとめたようだった が、やがておそろしい大音響とともに、残っていた地面が壁か「べつに、始末をつけたくてもいいんじゃないのか ? 少なくと 船がはげしく揺れ、 パーカーとその相も、一応話をきいてやったらどうだ。畜生ーー・あの地獄から、なん ら離れてただよいだしたー 手の男は、取っくみあったまま通路にころがりだしたーーっぎの瞬とかぬけだそうとしたことを、責めるわけにやいくまい ! おれた 間、エアロックが音を立てて閉じ、船はふわりと空中に浮かびあがちのやったことも、似たようなもんだからな」 サレットは、うなずいた。 っていた。 「そのとおりだ、コリイ。おれたち四人は、同じ運命にあって 地上にわきあがる、身も凍るような大勢の悲鳴が聞こえるように こいつも、唯一の機会をつかんだのさ。もしこいつが、まっとうな 感じて、アランは思わす「神よ ! 」とつぶやいた。が、その耳につ やつで、おれたちの裏をかいたりしなければ、生きのびるチャンス いた声も、やがて消えていった。 を与えてやらなくちゃな」 コリイが、重々しく口をひらいた。 「サレット。タールをあんなふうに置きざりにしたのは、まったく パーカーは、気むずかしい口調で、 残念だ。だが、あの死を無駄にしたら、それこそ申しわけないこと「むろん多数意見には従うがねーーーだが、おれは、始末したほうが になるそ ! 」 いいと思うぜ。ともかく、おまえのいうとおり、目をさまさせて釈 明だけはさせてやることにしよう」 数分後、その男は目をあけた。三人の宇宙の男が、黙って、無表 補給船「ミネルヴァ」の操縦盤の前に立って、アラン・サレット は黙ったまま、じっとテレスクリーンをにらんでいる。正面に映っ情のまま、まわりをとりまいてつっ立っている。彼は、ゆっくりと ている木星の緑の円盤、それがしだいに縮んで、ばやけた光の点に身をおこすと、三人の顔につぎつぎと、するどい視線を向けた。仔 なり、やがては暗黒の背景にちりばめられた星々のひとっとなって細に検分する、その目つきに、ふと敵意の影がみえたが、ただちに いくのを、彼の目は追っていた。が、ようやく彼は、室の中央へ向消えうせた。それから微笑をうかべる , ーー・ロもとだけの微笑であ る。やおらロをひらいたその声には、かすかな傲慢のひびきがあっ きなおった。 片頬で笑うリーフ・パーカーが、足もとに倒れている姿にあごをた。 「乗せてもらえたことは、もちろん感謝している。あのひどい場所 しやくると、こぶしをなでながら、 「さて、こいつをどうしたもんだろう ? 頭をぶちくだくか、それから助けてくれて、本当にありがたい。きみらのくるのがあと一分 とも、冷凍庫へでもおしこめておこうか ? 」やおら、金属製の ( ッ遅れたら、おれは天になっていたところだ」 ふとことばをきって、何となく横柄ともみえる表情で、三人を見 9 チに目をやると、「あそこからほうりだしちまえば、こいつも まわす。 害にはならんだろうな ! 」
をひくーー「ヴァルカン」に通じる広い通路が、一同の目の前にひ眼中にはない。 「コリィー怪我は、どうだ ? 」 らけた ! 悲痛な表情で、そうっとゆさぶりながら、聞きとれないほどの声 前方に並んで身がまえている九人の男。うち三人が士官、六人は で、「コリイ、も、もう駄目なのか ? 」 一般船員だ。が、その一人ひとりが、ロケット・。ヒストルを持ち、 こちらへ銃口を向けているではないかー コリイの目が、かすかにひらいた。弱々しい笑みをうかべ、必死 半呼吸ほどのあいだ、四人の反逆者たちは、呆然と立ちすくんでに何かいおうとする。そのくちびるの、わずかな動きから、サレッ トはことばをよみとることができた。 いた。彼らの逃走は、すでに報告されていたのだーーサレットは、 とっさにさとったーーー・そのあとのなりゆきは、あっというまのことー「プロドールを、つかまえろ ! 」と。 そして、ぐったりとなった。 だ。ビストルをかまえていた船長らしい男が、ロをひらいて何かい いかけ、はっとしたように手をあげてのどをかきむしりながら、ぐ憤怒と胸の中の痛みに蒼白となって、アラン・サレットは立ちあ がると、周囲を見まわした。床には、気を失った船員たちのからだ が、倒れながらも、彼の目が、ガラスのヘル らりとくずおれたー パーカーとジョーンズの姿はみえない。足 がくりとつが折りかさなっている。 メットにつつまれたジョーンズの顔に釘づけになり っ伏す直前まで、信じられぬ驚きにうたれたように大きく見ひらかもとのからだをまたぎこえて、彼は油断なく歩をすすめた。船の中 央通路へはいる。星をくねらせたかっこうで、ひとりの男が倒れて れていたのを、アランは認めた。 いる。向こうにもう一人ーーーこれは女だ。チラリと目をやっただけ 数秒間の出来ごとだった。相手の男たちは、驚きのあまり、手に している武器を使う余裕もなく倒れていった。それに向かって四人で、通りすぎながら、彼の目は、仲間の二人を求めている。そこへ 当の二人が、かけよってきた。 が迫る。倒れかけた敵のひとりが、電光の速さで、ふり向きざま、 パ 1 カーが、れいの片頬の笑いをうかべながら、満足げにいう。 レ・ハーに手をかけたーー・エアロックのドアが閉じるーー・が、コリイ が一瞬早かった ! 長身を大ぎくのばして、閉まりかけた隙間に身「すっかりガスにやられてるーー正気なのは誰もいないよ」 そこで、サレットのきびしい顔をみとめ、笑いかたの頬から消え をおどらせる。そのからだめがけて、大きな金属のドアが落ちかか こ 0 「どうした ? 」 おそろしい、ぐしやりというひびき・、・ーーコリイが、・ほろきれのよ 「コリイが死んだ」 うに押しつぶされたのだ。一瞬、すべての動きがとまった。サレッ 鼻孔がひろがり、目が細くなった。「畜生、・フロドールめーーふ トをまっさきに、三人はドアにとびついた。全身の力をかけて、 たりぶんの復讐をしてやるそ ! 」 アをこじあける。コリイが、ぐらりと前向きにくずれおちるのを、 パーカーも、厳粛にうなずいた。 サレットが抱きとめて、しずかに床に寝かせた。もう周囲の何も、 296
でないかぎりは ! そして、もし彼らがーーー彼らのどっちか一方で れた話だ。三人は、天王星の奴隷貿易について、少々知りすぎた。 その母星から、元気なエルギーたちが引きはなされ、水星のウラニもーー・失敗したとしたら、それは他の三人の死をも意味した。それ ウム鉱山に送られて死んでいく。その組織を牛耳っているのが、。フも、あの硫黄の大釜へ投げこまれての死である。囚人の力をあわせ ることが、逃亡にはどうしても必要なのだった。 ロドール自身であったとはー コリイが、こっちを振り向かないままで、しゃべりだした。 だから、何としてでもプロドールをつかまえなければならないー 惑星間通商の大立物であり、その風貌には、誰もまだ接したことが「タールのいってた、仕掛けってのは、何だと思う ? 覚えてるだ この前の睡眠時間にいってたやつだ。木星人が、こっちに ない。だが、何とかして彼を見つけだし、そしてーー・破壊させてやろう かまってるひまがないようにするんだという話だったが らなければ腹がいえないというものだー サレットは、肩をすくめて、 「だいたい、このへんだな」 コリイが、うなるようにつぶやき、眼前にそびえる崖の、霧に包「おれも、きみ以上には何も知らんよ。しかし、何かうまい方法に トのちがいないさ。あいつ、そのへんは心得てるようだーー夫王星人の まれた上のほうを、まっすぐに指さした。ほとんど三十フィ 高さにそびえ、上縁がするどく内側へ曲りこんでいるため、この牢中でも育ちはいいらしい。頼りになるやつだよ」 獄ができて以来、まだびとりの囚人も乗りこえたことがないという天王星人に怒りの感情があるとすれば、彼のそれは、三人にまさ 障壁である。その下にたたずむふたりは、しばし今きた道のほうをるとも劣らぬものであるはずだ。・フロドールの特命狩猟隊が、奴隷 ふりかえった。 用のエルギーどもといっしょに彼をとらえようとしたのである。そ われのない罪で、ここに送ら 何も見えないーー・見えるのはただ、半透明の怪物が荒れくるっての連中を殺して逃げたため、彼は、い いるような、永遠の霧ばかりである。この霧が、太陽系内のあらゆれてきたのだった。 コリイが、アランの腕をつかみ、ふたりは息をころし る住人の目から、数千におよぶ囚人の姿をかくしてきたのだ。彼ら が煮えたぎる地のほとりで苦役に従い、掘りあげる木星硫黄の中に た。どこか霧の奥から、さらさらと引きずるような音が、かすかに は、マ 1 チン・クイグレイ博士による驚くべき回春効果の発見以聞こえたのだ。もし、木星人だったらーーーしかし、そうではなかっ 来、黄金にもまさる貴重なものとなった神秘の結晶が含まれているた。現れたのは、がっしりしたリーフ・。 ( 1 カーの体驅ーー・それも 血まみれになり、まるで速い流れにさからってかきわけていくよう のである。 ふさまな恰好だ。しかも、ひとりだけだった。 アランは、ちらりとコリイに目をやった。コリイは一むに、後方な、・・ しわがれたささやき声が、ふたりの耳にとどいた。 の霧の中を見つめ、待ちこがれている様子だ。思わず眉をしかめ コリィーーーきみたちか ? 」 る。。ハーカーとタールが、うまくやってくれていることを、彼は祈「サレット 「そうだ。タ 1 ルはどこだ ? 」 った。もうそろそろ、ここへやってくるはずだーー・・もし失敗したの 287
た。息もっかせず、上へーーそこで、コリイの長い腕が、辛うじてった。このペースじゃ、補給船に着くのに一年もかかってしまいそ うだーーーそして、こうしているうちにも、あの牢獄の底では、コリ 彼を抱きとめる。一瞬、木星の大きな重力のため、くずれそうにな イとパ 1 カーとタールが、熔岩にのみこまれているかもしれない。 りながら、必死の努力で人梯子は形を保った。 噴火のとどろきは、ときたま途切れながらも、まったくおとろえを 「もうひといきで出られるそ ! 」 コリイが、サレットの耳に口をよせてはげます。 みせてはいないのだ。 進むにつれて、心臓の動悸は高まり、足は耐えがたいほどに痛み アランは、ぶつきら・ほうにうなずくと、注意ぶかくコリイの肩にだした。呼吸の苦しさも、あの穴底の硫黄まじりの大気の中に劣ら よじのぼった。牢獄をかこむ崖の上縁は、すぐ上にーー立ちあがれない。火口からとびだす焼石や灰が、やけどしそうな熱い塵の雲と ば手のとどくところにある。コリイが、彼のくるぶしをつかみ、彼なって、あたりにたなびき、たちこめているのだ。しかしサレット は背をのばした。壁に手をかけてバランスをたもつ。壁の上縁を求は、背をまるめ、こぶしをかたく握りしめて、着実に前進をつづけ めて手をのばす。 とどいたー だが、その上面は、まるくなめらかだった。手がか 船が着陸しているところまで、わすか四分の一マイルかそこらだ りもないところに、どうしてよじの・ほれよう。絶望的な疑念が心をが、アランにはその距離が果てしなく遠いように思われた。しかし 襲うーーそのとき、 パーカーの深みのある声が、耳にとどいた。 彼は、ついにやりとげた。息もたえだえになりながら、彼はロケッ 「しつかりやれよ ! プロドールを忘れるな ! 」 トの炎で焼かれた区域の縁にたどりつき、そこに根を生やしている 岩かげによって、動くものの影はないかと周囲をうかがう。この発 筋肉も千切れそうな力をふりし・ほって、サレットは、よじの・ほっ 冫しつも人がいることはわか 着場の向こう側にある e »-a の建物こ、、 ついに脱出したのだ ! たーー崖の上の地上へ っているが、どうやら外へは出ていないらしい。あたりに人影は見 足を大きく投げだしたまま、彼は周囲を見まわした。誰もいな 。半マイルほど向こうの、木星人の出入りする場所には、看守やえなかった。 の連中がたむろしているはずだが、こっちにやってくる気配手足をかがめて腹這いになると、いままで身をかくしてくれた草 のあいだからすべり出すように前進をはじめた。この姿勢なら、ず はない。補給船の広い発着場を横切って、彼はスタートをきった。 密生する下生えーー木星の温帯全域を蔽っている。黄色つぼい太っと見つかりにくい。球形の補給船めがけ、黒すんだ焼けこげ区域 い草ーー・が、彼の前進をさまたげる。かきわけていくのだが、そのを、ゆっくりと這い進んでいく。 ト以内に達したとき、大勢の巨人がうろっく足 歩みは遅々たるものだ。その速さでも、ひどい労力が要るのは、木船から二十フィ 星の巨大な重力が彼をひきつけ、磁石の上の針のように、表面にひ音のようなとどろきが、大地に反響しはじめた。身をおこして、牢 らたく押しつけようとするせいだ。この惑星を、彼は声に出して呪獄のほうをふりかえるとーー噴火の恐柿におびえて逃げだしたスル こ 0 2
ールの一群が、下生えの上に半身をみせて、こっちへかけよってくのうちに彼の目は、見なれたボタンやメーターやダイアルの列の上 るのだ。巨大な体驅にもかかわらず、彼らの多節脚は、たいしたスを、いそがしく走っている。ひとつのボタンをおすと、空調装置が ピードを出している。もうすぐ、焼けこげ区域に達しそうだ。いまスタートし、硫黄の臭気がうすれはじめる。つぎのスイッチで、船 や彼らは、ロケットに近づいている地球人の姿を目にとめ、裂けめに人工重力を与える重力ジャイロが発動し、彼の身うちに軒昻たる のような口から、いっせいに不気味なうなり声をあげた。 自信がもどってきた。この船は、いまや彼の手中にあるのだ。 恐慌が、アラン・サレットの全身をかけめぐった。もしやつらが 先に船に着いたら、彼はあっさり踏みつぶされてしまうだろう ! レ・ハーを一目盛り押しさげると、気化した燃料が噴射室に流れこ そうしたら、穴の中の三人はーー・熔岩の海で焼け死ぬほかないのむ。二目盛りめで、エネルギーが発生し、船は身ぶるいした。三目 ・こ ! 顔から血の気がすうっとひいていく。 , 彼は、キッとくちびる盛りで、船は空中に舞いあがる。前に五つならんでいるスクリーン をかみしめた。 のスイッチをいれると、その一つひとつが、周囲の各方向の眺めを 必死で身をおこす : : : 自分でも思いもよらぬほどの超人的なカうっしだした。下方では、木星人どもが、ロケットの噴射する炎を を、ふらっく両脚にこめて、補給船めがけて彼は走りだした。船内さけようと、逃げまどっている。の建物からとびだしてきた にとびこむと、エアロックのとびらの閉まるのがもどかしい ! 息ひとりのスルールは、その触手の中に、必死にあらがう地球人の士 を切らし、汗を流しながら、ようやく閉じたドアの内側にへなりこ官を、しつかりととらえていた。アランは、ニャリと笑うと、もう んだ。 一目盛りレバーをさげて、エネルギーを送りこむーー船はぐいと上 が、つぎの瞬間、彼はよろめきながら、また立ちあがった。船内昇し、北へ進路を向けた。前方では、牢獄の底から噴きあげる炎 よ、。じっと聞き耳をたてが、硫黄の煙で黄色い空を真紅に染めている。 には、の男たちがいるにちがいオし る。しかし、自分の息づかいと、噴火のとどろきのほかには、何も数秒後、すでに球形の船は、深くうがたれた牢獄の上空に達し、 聞こえてこない。ェアロックを横切って、船の内殻にはいり、第二あざやかな操縦で空中に停止した。眼下の光景に心を痛めながら、 のドアを背後に閉める。操縦室と見当をつけた方向へ、通路の金属彼は船を急速に下降させていった。広い牢獄の凹み全体が、煙と炎 床の上を、足音をしのばせて進んでいった。入口を細めにあけてのにふちどられている。鮮やかに照りはえるまっかな熔岩が、その穴 そきこみ いっきにドアを大きくひらいた。室内に、人の姿はな底のあらゆる場所に押しよせ、黄白色の煙がそこから渦をまいて立 かった。どうやら船には誰も残っていないようだ。経験上、彼は、 ちの・ほる。その真紅の中のそこここに、黒ずんだシルエットが浮か ふつう宇宙船の乗員が、着陸後一、二時間、大地の上で足をのばすんでいるのは、この炎の海にわずかに残って孤立している島の部分 だ・・ーそれも、情ないほどの数である。こうなったことの一部は自引 ために船を離れるものだということを知っていた。 が、マ ただちに手をのばして、コントロール・レ・ハーをつかむ。無意識分たちの責任だと思うと、良心の痛みが彼をさいなんだ
の底の、黒ずんだ石質の地面をがっしり踏みしめて立っているこの アラン・サレットは、重苦しく立ちこめる暗いもやをとおして、 ビット 。球根みたいなからだを支 こっそり前方を盗み見た。木星の地表にうがたれた。縦穴式の牢獄スルールは、背の高さおよそ十フィ の中である。足もとでも煮えたぎっている水面から立ちのぼる、息える三本の受節脚の先端は、大きな吸盤になっている。頭部は もつまりそうな黄色 0 ぽい硫黄の蒸気が、ヴ = イルのようにあたりそれが頭といえるならだがーー・その胴体の延長そのままで、全面を を包んでいるのだ。その向う岸には、やせて肋のうかんだ半裸体で蔽っている筋肉のあいだから、昆虫の複眼のような一個の巨大な目 と、歯のない口がのそいている。頭のてつべんには、針金のような 苦役に服しているジョン・コリイの姿が、・ほんやりとのそまれた。 ・ハネ鋼の強靱さ が、そのとき、木星人の看守の烈しい怒声とともに、針金のような長い触手が六本ーーーこいつがいちばんおそろしい。 触手がとんできて、むきだしになった彼の背中に深々とくいこんを秘めたしろものなのた。 サレッ ' トが、ぐっと身をひきしめ、硫黄かきの熊手を固くつかん だ。アランの顔が、いがみたてる犬の鼻づらのようにゆがむ。泡立 っ水面に身をかがめると、鉤のついた道具で、ひ 0 きりなしに浮きだ。さらに高まりつつあるロケットの轟音を切りさくように、木星 だしてくる硫黄をかきよせはじめた。足もとに、、レモンイエロ 1 のの重い大気をつらぬくかすかなヒーンというひびき。合図だー 彼はくるりと身をひるかえすと、木星人看守の、つるりとした黄色 細片の山ができていく。 細めたまぶたのあいだから、が 0 しりした木星人の姿を見あげるい顔のまん中にひらいている、まっかな裂けめのような口をめがけ 彼の目には、憎悪が燃えていた。このスルールのやつにも、き 0 とて、熊手を突きあげた。みごとに命中 ! ば 0 くり裂けた大きな傷 、いドロリとした血があふれだす。 計画は、もうすっから、黒 思い知らせてやる・ー・それも、いますぐにだー サイレンのようなスルールの悲鳴は、補給船の音にかき消されて ーカーと、それに、 かりできあがっているーーー彼と、コリイと、パ : イしまった。痛みと激怒にのたうつ触手が、サレットに襲いかかる。 もう間もなく合図が聞こえるはずだ。・ 天王星人のタール オからやってくる補給船の轟音、それが合図である。そのときことびのこうとしたが、木星の巨大な重力下では、両脚を地から離す そ、このスルールどもを煮えたぎる池の中にぶちこみ、彼ら四人のがせいいつばいだ。おそるべき力を持ったそのひもが、彼の脚と は、自由の身となるのだ。自由ーーーそして、めざす敵は、マックス腰とのどにからみつき、高々と空中につりあげたー 「コリイ ! ・・フロドール あえぎながら「彼は、最後の力をふりしぼって、硫黄かき熊手 補給船のロケットの音が耳にとどきはじめると同時に、彼はぐっ と身をひきしめた。合図がくるまで、からだは動かしながら、黄色を、相手の頭にめりこませた。触手がけいれんするように・引きしま り、肉が断ちきられそうだ 0 のどにかかった一本が、し・ほるように い皮膚の看守に目をやる。容易ならぬ相手だ。この筋肉のかたまり くいこみ、目の前に暗いもやがかかりはじめた いや、たとえ半ダー みたいなけものは。地球人たったふたりで 絶息の寸前、彼は、静まっていく補給船の轟音にかさなって、彼 スでもーーこいつひとり倒すのは、容易なことではあるまい。縦穴 285