だけだった。この冒険だけは、人類のなしとげた、神の手によるよ岩がからからになるまで舐めつくした。それが最後の一滴たった ! うな、あらゆる業績にもかかわらず、あい変らず神秘の謎につつま その顔に冷静さと諦観とを浮べてオメガは立ち上がった。感謝の 2 れたままだった。 微笑とともに、彼は大空を見上げた。その水は苦かったが、彼は最 もうほとんど無くなりかけてしまったいま、湖は再び彼の注意を後の一カップが自分にあたえられたことを感謝した。 ついで彼は飛行船に乗り込み、青空に駆け上って、別れの世界一 惹き始めた。病人めいた草むらは、もうとうの昔に、後退する水ぎ わについて行くことをあきらめて、いまでは、岸辺からはるか遠く周旅行に出かけた。数時間後に彼は帰って来た。うやうやしく彼は 飛行船をその着陸場に降した。もうこれで使いおさめたのだ。その にとり残された。枯れ果てた陰気な、黄色の帯でしかなかった。 毎日のようにオメガは小さな水溜りのそばに行き、それが日まし有用性はもはや消減した。その偉大な、鼓動する発動機は永遠に沈 に薄れて行くのを冷静に見まもった。恐侑や心痛に襲われることも黙し、まもなく時の経過の塵埃におおわれるだろう。彼はそれを人 なく見まもったのだ。彼は用意ができていた。しかしそういういま類が生きたことの記念碑としてそこに残すのだ。しばらく間、彼は ですら、暑さと疲労に悩みながらも、彼は充分に渇をいやそうとは船内の数々の宝物の間をさまよい歩いた。それらは聖なる物ではあ しなかった。彼は最後の最後まで戦い続けなければならない。そうったが、にもかかわらず、それが死の手を防ぎ止めることができな することこそが人類種族の特権と義務なのだ。彼はその貴重な液体かったのは皮肉だった。 を保存しなければならないのだ。 だが彼はそれらすべてに愛着を持っていたしサルマもまた同様た った。それらはまた、アルフアの遊び相手でもあった。それらの驚 そしてついにある朝、オメガが戸口に立って眺めたところが、い 嘆すべき性能は彼の希望であり、勇気づけであった。真心こめて愛 くら探してもきらきらした水溜りは見あたらなかった。湖のあった撫しながら、彼は、先祖から受けついだそれらの宝物、まもなく死 場所の、彼の眼に映じたものは、ただ岩と砂の褐色の拡がりばかの形見になるであろう宝物に別れをつげた。 り。すでに塩の結晶が、陽を浴びて、ぎらぎら輝いていた。長く尾ようやくにして、一廻りを果すと、彼は静かな空中にただよい出、 をひいた溜息が彼の口からもれた。とうとうやって来た ! かって決然たる表情で住居へと向かった。 は地球の大半をおおっていた、あの強大な海の最後の水が彼を、時死の世界を焼きつくすかのように照りつける真昼の熱した陽光が 代の堆積の死の許にただ一人残して去って行った。 小屋の中に射し込み、最後の人間、オメガがその愛する者たちの間 ほてり、熱つぼく彼は干上った湖床の上空を翔け廻った。そしてにはさまれて横たわっている寝床のあたりに豊かな光輝をふりまい ついに、大地の最も低まった地点に、彼は、岩の小さなくぼみに溜った。その大きな眼は不動のまま、凝視を続けていたが、その顔には ている、ほんの一椀ほどの水を見つけたのだ。渇きに狂した動物のよ平和の微笑が宿っていた。 生命の絶える瞬間の夢を秘めつつ。 うに、彼は大きく喉を鳴らしながら、それを飲み干した。それから、 「後に残るは静寂ばかり」 ひあが にが
。またまた羽扇を使ってみると言葉が通じる。羽扇はこんな小人国でも君臣の義はわきまえているものだと感 万能言語翻訳機の役目もする。おかげで浅之進はごちそ心した浅之進、「ちっとばかり、残酷なことをしてしま った」と反省し、涙ながらに姫君をお城へ帰してやっ うでもてなされた。ところが大人国にも善人ばかりはい ない。二 ~ 三日たっと大人たちは彼を遊山に連れていった。 浅之進はまた羽扇で大空を飛び、大河のほとりにやっ てやるとだまして、見世物にしてしまった。 「さあさあ、生きた日本人の見世物、手に入れて這わせてきた。その周囲のようすを見ると草木の形も水の色も るようなちつぼけな美男子。作りものとちがって、正の変わっている。これは話の種になりそうだから、一つ徒 歩渡りをやってみようと考えた。けれども、始めての国 ものを生で見せる」 などと勝手なことをいう。浅之進はどうしたものかとの河であるから、木に腰をかけてようすを見ていると、 この国の人たちが河を渡ってくる。河のまん中でも腰ま 考えたが、羽扇につかまって大人国を脱出してしまっ こ 0 で水につかっていない。安心して彼が渡ろうとすると、 「いままで日本人が飛行するなどということは聞いたこおそろしく深い。頭のてつべんまで沈んでも、まだ足が とがない。あの男はきっと、日本にたくさん住んでいるとどかない深さだ。浅之進は、あやうく溺れそうになる のを、羽扇で水をかきわけ、どうにか向こう岸に渡っ 天狗だったにちがいない」 「どおりで、手に羽扇をもっていたね。しかし、天狗にた。それにしても、この国の人たちは、よくこんな深い ところを渡れるものだと感心していると、なんとここの しては鼻が低かったそ」 「なに、あれは諸国を遊びまわる天狗で、どごかの色里人々は足の長さが一丈四、五尺もある長脚人でこの国は 長脚国だった。 で鼻を落としたのさ」 実に・ ( カ・ ( 力しい会話をしている大人国を後に、浅之羽扇の霊力を見た長脚人たちは、隣国の 0 ソ泥人種、 進が次に到着したのは小人国だった。身の丈は一尺二、長臂国に呼びかけ浅之進を襲ってきた。長脚人が長臂人 三寸で、一人歩きすると鶴に喰われてしまうので、いつを肩車に背負って攻めてくるのだ。彼は羽扇で長脚人の も四、五人で歩いている。奥にいけばいくほど人々の背向こう脛を片つばしから払った。足長たちは、おもしろ いように。ハタ・ハタと倒れる。国中の足長がみんな倒れて は低くなり、奥小人島というところの人々は、もう豆人 形ほどしかなかった。しかし、こんな小人国にも王様がしまった。長脚人たちは一度転ぶと自分では起きあがれ あって、居城は非常に美しい。浅之進が見ていると、姫ない。ふだん転んだ時は、腰につけてある太鼓をたたい 君がお城から輿に乗って、行列を作ってでてきた。彼はて、ほかの者を呼んで起こしてもらうことにしているの いたずらっ気をだして指で姫君をつまみあげると印籠のだ。ところが、この時は国中の人間が全部転倒してしま このままにしておい 中に入れてしまった。家来たちは右往左往し、奥家老はったから助け起こすものがいない。 たら、飢え死をしてしまう。まるで、どこだかに住んで 責任を感じて腹を十文字にかっ切って死んでしまった。 : ロ 73 .
新連載評論 、夢の言葉こ言葉の夢 ~ 、 幻想小説の方へ 又千秋 カット☆宮崎茂 ~ , 、第 もうなんにも残ってないんだ だけど世界はこんなにもいとおしい。ほとんど愛してしまうほど 車のほかは だ。どうして僕等″少年″の愛を、世界がこれほどテッティ的に拒 結婚しておくれ、可愛いい娘、いますぐに 絶するのか、したのか、僕にはわからない。 なにもかもおまえのものさ だから、こんな風にして撤退戦が、裏返って走りだす愛の速力が おれのギターと 必要とされるのだ。まるで草食獣の怯えそのままに後退戦を、正し おれのギターと車のほかは く、正しく闘いつづけてしまったウィリアム・ホープ・ホジス . ンの ( フリー 'Woman" より ) 方角を想いおこしてほしい。余りにも正しく、ほとんど本能のよう に裏返った少年たちの夢の行方ーーー今、きみような日々、きみよう じゅう な人々のなかでだけ、″社会″が語られる。僕等は、もう僕等が もちろん、最も主要な、唯一の観点は、自由へのそれだ。ちつば ″科学″と呼んだ部隊によっては決して突撃をくり返しは、おそらけな恋の針穴から暴発して闘われたウィリアム・ホープ・ホジスン く、しないのだけれど、国家は、いますでに、その拒絶した愛が形の後退戦は、このように、明瞭な自由の反在地帯へと逆攻する。ほ 成する " 精算性の思想〃によって、堕落するのだ。より、より深くとんど、全くといっていいほど完璧な、一個の自由への意志ー・・・、・引 金の質は関係ない なぜ、どこへ、どうやって転落するか、だ。 ね。きみはもう精算を終えたか。 反在へ : : : ウィリアム・ホー。フ・ホジスンは明確に武装逃走への じゅう 観点を保持している。自由へむかっての方向性は、ふり返れば、す 結婚しておくれ、今すぐに
れなかった場合、警察、米国税関に知らせる用意とではないし、また、の目 的がそこにあるとは思わない。 がある」 しかし、九月三日朝、我々がホテルを後にするはすべての題材を採り上げ 時までには、返されてはいなかった。ビジョーやるべきだが、同時に、常に現実 これからの大会におけるアート・ショウの事を考とロマンのかけはしであるべき えると、その心無い人の犯行に心からの怒りを覚だ、と結んだ。 大会の中心ともいうべきヒュ える。 その後どうなったかは知らぬが返却されている 1 ゴー賞・ハンケットは、この日 事を心から願うものである。 の午後七時半よりメインホ】ル、、 さて、この大波乱のアート・ショウ会場の隣のにおいて催された。 ステージでは連日オークションが行なわれてい 九時半に食事が終 0 て、さあ驫」 ~ ( 、 ? を , た。オークスに出されるのは日本もアメリカも変 いよいよヒ = ーゴー賞の発表で」 わらない ある。しかし、今大会のトース の稀覯本に画である。しかし出される トマスタ 1 、レスター・デル・ 品物は変わらねど、大きな違いはその値段。五ド リイが開口一番告げたのは、ト ル、十ドルは極く安い方で高いのは百ドル以上す ールキン死亡のニュースであっ る。 た。深い悲しみのうちに始まっ これが画になると三百、四百ドルはすぐ見 た受賞式は、しかし、ベストノ てる間にあがるのだ。私達はここでも欧米の ヴェルの受賞者がザ・ゴッド・ ファンの層のあっさと財力に驚かされた。 ゼムセル・フズのアジモフと発表 されたとたん湧き上った拍手と 大会第三日 ( 九月ニ日 ) 歓声に華かさを取り戻し、その 大会のメインプログラムは、連日深夜一二時か後は次々に受賞者が発表され ら始まる映画のプログラムを考慮にいれて、すべた。 て午後」時より始められる。そして九月二日午後ところが、今回のトロフィー 一時より、デビッド・ジ = ラルドの司会で始まつは、上のロケットの部分が未完 たのが『小説』を議題としたパネルディスカ成のため台座だけしかなく、レ スター・デル ・リイも、これで ッションであった。 「 ( ードとハードファクト」という題で講演はまるで、毎年表面に出る事な の席に立ったジン・・フラナーは、初期のでしにのためにつくした人に は予言する事が目的とされている面もあったが、与えられる『透明人間賞』のト その意味では失敗した作品が多く見られた。未来ロフィーみたいだ、と冗談をと ばしていた。 を創るのはあなたがたを含んだ人類全体であり、 この後、私達はのパ 我々作家は、その幻影を見せるに過ぎない ーティに、カナダのファン、ダ と語り、それに応じて壇に上ったポール・アンダ ート・シルニエル・セイに連れられて赴 ースン、・・ウォルハイム、ロ・ ・ハーグ等も、未来の予測は簡単にできるこぎ、ハリー 1 ハリスンや」ロ・、 0 ・プロヅク、ロジャー , ゼ ラズニイらに紹介されたのだ が、これはまた別の話。た ート・ンルヴ . アーく だ、 らーグの熱い手の感触が今でも 知想い出される。 のその他、前述の告知板に、 々 私達も、日本のファンに た会いたい人は来て下さい、と いう案内を出したそのおかけ はで、私達の部屋まで来てく にれ、日本の作家やファン 板ダムについて深く話し会っ 示 掲た、アメリカやカナダのファ のン達の話もあるのだが、もは 会や紙数も尽きた。 私達が最終日を残し、その 日の早朝立ち去ってきたトル コン 2 も、今は既に過去とな った。しかし七四年はワシン トン O 、七五年オーストリ 達 家アと、世界大会は、これ るからも毎年開かれるであろ けう。 をそれらの大会のレポートを 一書くのは、あなた自身かも知 ヴれないのだ。 ン イ ー 05
局から走り出た。 「ごきげんよう」彼女が呼びかける。「いつも頬笑みを」 卿の帽子は取り戻したくないんですか ? 」 「いい加減にしろよ、コーネリアス」 「じゃ何が欲しいんです、キャプテン・マクスウエル ? 」 「正義だ」 12 ・ 28 セテカはドプチェク氏が中央委員会の建物中に監禁さ「それじゃ僕と同じだ」ジ = リーは立ち上ってネルの靴に手を伸ば す。マクスウ = ルはウ = ・フレイ・アンド・スコット四五口径の銃ロ れていると述べた。 を上げて最初の一発を発射した。ジェリーは洗面器に激突し、そし て短い瞬きの内に視野が霞んでいった。彼の右胸には直径二十セン 裸のままジ = リーはべ , ドに腰を下して両切葉巻をふかした。彼チの傷が生じ、その中心に孔があ 0 て周囲は赤く襞にな 0 ている。 は東洋に食傷している。東洋は彼のアイデンティティに何一つ益し傷痕の緑に沿 0 てようやく血が噴き出し始めていた。「世の中には 恐ろしく馬鹿げたこともあるもんだ・せ」彼は言った。 ていないのだ。 ドアが開き、マクスウ = ルが拳銃を手にして肥 0 た顔に嫌悪の表二発の銃声の後、床に転が 0 たままで、ジ = リーはマクスウ = ル のず・ほんが落下したような、そんな気がした。彼は小さく笑う。マ 情を浮かべて入って来た。「君は、なんにも着ていないのか ! 」 クスウエルの声は朦ろげにではあったが凌辱的なものだった。「血 「あなただとは、意外だったな」 マクスウ = ルは撃鉄を起こす。「で、一体君は自分が何様だと思塗れの悪党め ! 人殺し野郎 ! おまんこ殺しめ ! 」 ジ = リーは転がって体の向きを変え、アンナ・ネ・ウインの桜桃 っているんだ、え ? 」 ・、・ツドの裏のスプリングに引掛っているのに気づい 色の靴下留め力へ 「あなたはどう思っているんです ? 」 マクスウ = ルは鼻で笑った。「当方の申し入れ、ご歓迎戴けますた。手を伸ばしてそれに触れると、愉悦のわななきが彼の全身を貫 いて走った。最後の銃弾が彼の脊髄の基底部を撃つのを、彼は感じ かな、ん ? 君を見ると私は反吐を吐きたくなる」 ていた。 「僕は、あなたが為替を手に入れる手助けになりましたか ? 」 彼は身震いし、そして漠然と意識する。自分の肉体の上にマクス 「そんな物は必要ない」 ジ = リーは、乱れたべ ' ド、アンナ・ネ・ウインがあとに残してウ = ルの廃物的肉体の、虫に刺された両手首の、まだ手に持たれた い 0 た伝線の入「たスト , キング、洗面器の上方の紐にぶら下 0 てままの温いウ = ・フレイ・アンド・ス = ットの、それらの重量を、そ 、・ツドの傍の床の上にある綿の座蒲団、衣裳箪笥のてしてキャプテンの呼気の中にある無煙火薬の匂いを。やがて、マク いるず・ほんへ 0 ペんにあるクリケ , ト棒、と視線を移した。「でもぼくはその方スウ = ルは彼の耳元に何事か囁きかけ、そして彼の顔の辺りに手を がうれしかったんですけれどね」彼は両切葉巻を抜き出す。「枢機伸ばして用心深く瞼を折り返した。
ジェリーは一日中郵便局の周辺をうろついた。彼の打電には何のとジェリーは考えたが、少年は駈け出して慌しく裏通りへ曲ってし 返電もなかった。しかし、それが却って朗報なのかもしれない。旧まった。 市街のあるーに入ると、スウェーデン人フォーク歌手に追い払わ ジェリーはどぶに唾を吐き棄てる。 れた。流しの人力車を拾って城壁廻りをした。ネックレスと櫛を買 っこ 0 く ・スウェ通りでは、追い越そうとする市街電車に撥ねられ そうになり、電信柱に倚り掛っていると、カラン・カクサ保安刑事 07 ・ 00 日スポポダ大統領がラジオで個人的声明を行なって冷静 二名に旅券の提示を求められた。旅券は彼らに感銘を与えた。彼らさを要講した。侵略に関する説明は私には出来ないと彼は述べた。 が舗道上の群衆の中をうろついて靴磨きの少年を検挙し、あとから 徐行してくるトラックの上に押し込むのを、彼は眺めていた。カタ ルシス的行為だ、丁重なやり方とはいえないが。 ジェリーが熱線銃のトランジスタを点検する間、マクスウエルは ふと気づいてみると、路上には人の姿はなかった。ジ = リーはブ仕度の出来ていない寝台に横たわってその様子を眺めている。「他 ラシと・ほろ切れと靴墨を拾い上げる。箱に収めてそっと近くの店のには仕事がないのかね、コーネリアス君 ? 」 戸口に置いた。何人かが姿を見せ始めていた。市街電車も動いてい 「あれやこれややっていますよ」 る。向い側の歩道上に、ジ = リーはキャプテン・マクスウ = ルの姿「政治上の説得工作というやつはどんなものかね ? 」 を見た。技師は疑ぐるような眼付でこちらをみつめていたが、見ら「こりや一本取られましたよ、キャ。フテン・マクスウ = ル」 れていることに気づくとすぐに快活に手を振った。ジ = リーは知ら「うちの僧の話によると、君は、政治上の信念をもっということは ないふりをして・ほろの日除けの影へと引っこんだ。店舗自体は通り神への信仰を保つことと同じように幼稚なことだと言ったとか」マ にあるよその店と同じく一時閉店となって、扉もシャッターも重いクスウエルは腰帯をゆるめた。 南京錠がかけられている。或る扉の羽目板に、布告が糊で貼られて「そいつは事実なんですか ? 」 いた。「ビイー・ダウン・スー マイアンマ・ナインガン・ドウ」 「それとも君は、これが言いがかりだとでもいうのかね ? 」 ジェリーは熱線銃の組立てを終えた。「それも一つの可能性です とジェリーは単語を拾った。では、これは当局の公式告示なのか。 ジェリーは、街路に行き交う人力車や自動車や電車、そして時折見ね」 えるトラックに眼を走らせた。 やがて靴磨きの少年は戻って来た。ジェリーは道具類を指し示 す。少年はそれを拾い上げると腋に抱えて歩き出し、ステイトラー ーヒルトンの見える広場へと向った。ついていっても悪くあるまい 0 8 ・ 2 0 " 。ヒルゼンラジオは「チェコスロ・ハキアにおける最後の 自由な放送」であるとして自らを述べた。 ヒーダ 8 9
まうこともあるだろう。それを救うのもまた思考 の省略であった。国家は独裁者へと集約され、宇 4 宙人などは具体的に存在する敵対者へと画一化さ れて、同じく独裁的な立場に立っことになった。 一般庶民もまたホットな人格で統一されて、小説 自体も白痴プロットや天才プロット ( 白痴プロッ トの逆で作者の天才性 ? のゆえに小説が異様に 、早い結末をむかえるもの ) が乱発された。 こうしたものが単純にいえば従来のであっ た。我々はそれを読み、それこそが我々の未来で あると思いこんできたのである。 だがニューウェーヴはこうした傾向に対し闘い を挑んだ。それは全面的な闘争であり、全地球的 特別解説大和田始 人類的な視点は否定されて個人的な視点へと変 り、独裁志向はアナーキー志向へと変った。思考 ′ : ー : ー : - ー : ~ : 、 : ′ : 、 : を : ー : ~ : ー : を : ー 1 ~ : ー : ~ : ー : ま : 、 : ~ : の省略はスベキュレーションによって乗り越えら 総体的に見て従来のに扱われた戦争は第一一一または被侵略テーマ・破減テーマの作品をれ、テクノロジー信仰にもとづく未来史年表は現 . 次世界大戦・核戦争であった。外部の作家た生んだ。これらの作品は直接に核を登場させては実においても公害などによって否定されてきてい ′ちは核戦争が起きるまでの経緯を描き、あるいはいなかったが、間接的には核戦争の不安を内圧さる。ゲリラ戦争との関わりで言えば、兵器科学の 、破壊された世界で死を受け入れるか、運命に対しせていたように思う。しかしここでもいかに切り粋としての核兵器による全面戦争は、ボタンを押 ' て悪あがきする者たちを描くことが多かったが、抜けるかに終始して、やはり地球的なトータルなせば一瞬にして決着がつくという形で戦争を時間 の中へ集約し、殺される人間を平等に否定した ジャンルの作家たちは、核戦争の後の荒廃し思考を採用した。 た世界に生き残った人間たちがいかに英雄的に働そしてまたはタイム・マシンや多次元宇宙が、むしろ原始的といえるライフル銃とゲリラ戦 - き、協力し、かっての地球を再興したかを描くこなど、大ぎなテーマに発展しうるものを単なる小争によってあっけなくも否定されてしまい、戦争 とが多かった。核戦争という重大な危難に際して道具にして小説の中に氾濫させてしまい、それらそのものは時間と人間個々の中へと解放されてい もは徹底的に楽天的で、全地球人類的な視点の多くが御都合主義的な限定をほどこしたものでった。 から、いくらかでも生き残ればいいのだと考えたあったことを忘れ去って思考を省略した。しかも少くとも英国においてはこうした傾向が生ま のだろう。のこうした側面を臆面もなくさらそれをはの上に作られるなどと美化したれ、発達しながら旧を制圧しつつある。ニュ ーウェーヴはそれらを追放するためにも闘い続け 、けだしたのが未来史年表なるものである。そこでのである。 ・は核戦争がまるで人類の新しい段階を画する時点全地球的な思考といい、社会の総体を描こうとなければならないだろう。 ・ででもあるかのように、むしろ誇らしげに記されする姿勢といい、その貫徹は極めて困難であり、 ていたように思う。 徹底しようとしてテーマが叙述の中に埋没してし ゲリラ小説特集
と私たちはずうっと二頭の怪獣を相手どっていたわけなのだな。そ好奇心をかき立てたのだ。湖の方へと空中滑走しながら、グリンナ して今や、こいつが私の水の所有権に対して異議をとなえていやが 1 のことを思い出したことによって、な周囲の環境に対する関心 3 2 がかき立てられることになったのかと不審に思った 6 そして湖の中 水面をにらみ渡すォメガの顔がきびしく、けわしくなり、心臓の 頭 0 海棲笛獣を殺さなければならないなあという考えが再 鼓動が早さを増した。人間のなにひそむ闘争心が、またそろ彼のう。 : の、にんだ。ところで・湖と言えば ! 彼は停止して、あちら ちに頭をもたげた。彼は自分が地球上最後の生命を代表する者だとこちらを見廻した。湖は無くなっていたー ただ一、二土ーカーの 考えていた。いかなるけだものも、その栄誉を要求するわけにはい水溜りが残っているばかり。そしてその中央のあたりで、上機嫌で なんと 遊び戯れているのはーー彼が捜していた怪獣ではなく、 かない。彼はそれを殺さなければならない。 このふくれかえった生き物は、泥の中を それからの二週間というもの、彼は、それが再び出現するのを待グリンナーだったのだー ち構えなから見張りを続け、羊許にありったげのすさまじい原子兵ころげ廻る豚そこのけの無邪気な熱心さで、水の中をころげ戯れて いるではないか。 器を用意した。だが彼はもうそれを見か、けなかった。砂の上ですや すや眠っているグリンナーが、見かけることのでぎ唯一の生命形 態だづた。そしてとうとう彼ばハントに・飽きが来た : そのうちまた ォメガはただただ驚き呆れて見まもっていた。やがてかん高い笑 湖水に電流を流してやろう。だが、それもいそぐことはないと彼は声が彼の口からもれ出た。彼はグリンナーを見て、それが深みにい 考えた。 る別な怪獣だなどと錯覚したのだった。これは生物界における最後 ジョーク ついにオメガは自己の周辺のあらゆることに、興味を失った。グの冗談だった。しかもそれが彼に放たれたのだ。 リンナーは帰づて来たり、また出て行ったりを自由気ままに繰り返それから彼は、自分の手になる、この怪奇な被創造物は、その体 し、オメガはそれにほとんど気づきもしなかった。その体軅は相変組織の中に、この乾燥期における、あらゆる動物・ーー人、けもの、 かわき らず成長を続けたが、オメガはほとんど関心を示さなかった。飛行植物、鳥、そして爬虫類ーー・・の味わった渇を蔵しており、その毛穴 船の内部の数々の宝物も彼には魅惑のない物となった。慰安も希望から水を吸い取って、湖を涸渇させて行ったのだと悟った。水を吸 取るとそれを汗にして出してしまい、それからまた吸い取りにか もなく、しかもいこじに生命にしがみついたまま、彼は死者たちのい そばで時をすごしていた 6 かる。水こそ、こやつにとって生活環境であり、同時に食物であっ ひからびた過去から、水を求める自然の絶叫が、立 彼が数週間ほど小屋から離れずに暮していたが、眠れぬ夜の、あた。ほの暗い、 る寒い翌朝、彼は一晩中姿を見せなかった・グリンナーを探しに行かち現われて、オメガが創ったこの怪物という形で、その欲求を表現 なければならないという、なぜか強い衝動にかられた。このようなしたのだった。ォメガが道連れとして創造した物は、彼の残存の、 ことがここ二カ月間ほどの間、頻繁に起っていたことが、オメガの生命の本拠を急速に消費しつくしてしまう、恐しい脅威に成長した
に長々とのび出ていた。その短い手と足はあひるのような水掻きが し土のだった。 ついていた。それにはそれと認められる耳が無く、その鼻孔は、広 にたにた笑ったような薄い唇のロの上方に開いた、単なる二つ その日、一日中ォメガがこのばけものを驚き眺めながら過した。 の穴でしかなかった。ロは、いつでも、にたにた笑いによって拡げら この不気味な怪物はしきりに飲用噴水のところに行き、噴出する水 れていた。その大きな丸い赤い眼は、知性の輝きをまったく欠いてを舌で巻くようにつつむのを彼は観察した。その夜、彼が夜半に眼 いた。その無毛の皮膚は、徴細な吸盤状の鱗におおわれており、そのを醍すと、グリンナーがいなかった。捜しに行くのも面倒なのでう 大きな胸部を横切って、たるんだ、醜いひだになっていた。その動っちゃっておくと昼になってもどって来た。そのでぶでぶの体はさ 作の大半は、緩慢で不確実であり、床の上を巨大なひきがえるのよらにいっそう大きさをましたように見えた。そして四つん這いにな うに跳びはねて廻り、胸の底深くから響いて来るような喉音を発しってぶらぶら歩き廻るにつれて、汗が、その吐気を催させるような ゆか た。ォメガは猿人を創造するつもりで仕事にかかったのだったが、皮膚からしたたって、床にぬらぬらと痕をひいた。とにかく奇妙な こやつは人でも、獣類でも、鳥類でも、爬虫類でもなかった。それしろもので、オメガはそいつを、どのような眼で見るべきなのかとほ らをすべてひっくるめたもののカリカチアだった。過去の、死のうにくれたが、そのあやしみの念よりも、グリンナーという相手がで 子宮から生じた筆舌につくし難い、恐るべき生物たった。 きたという有難味のほうが先に立った。グリンナーは度々、数時間 しかし、この生物がそういうぞっとするしろものだったにもかか も続けて姿をくらましたが、いつもその自由意志で舞いもどって来 わらずォメガはそれをある程度のありがたい気持をもって眺めた。 た。ォメガはしばしばそいつが岩山の間をぶらぶらほっつき歩いた それは少くとも彼の友だちであり、彼に甘えてじゃれかかったり、 岸辺で大の字になって日なたぼっこをしたりしているのを目撃 彼の手をベろペろ舐めたりすることによって自分の創造者への尊敬した。彼はそいつを勝手気ままに行動ーーそれは極端なぐうたらだ を表わしている様子だった。その赤い舌は、よだれたれ流しの口かったがーー、させておく習慣がついてしまった。しかしその間を通じ ら、いつもだらりと、あえぐ大の舌のようにたれさがっていた。そてずっと、そいつば異常な発育ぶりを示していたのだ。三カ月後に れが常に、身の毛もよだつような笑顔を浮べているところから、オは、それは優に半トンを越える住物になっていたが、それでも可愛 メガはこやつに「笑い男」と名をつけた。彼は長い孤独の時間、そげのある性質と、その主人に対する愛情はあい変らず保ち続けてい れを自分のそば近くにはべらせておこうとして、小屋につれ帰っ た。その夜、そやつは彼のわきで満足しきって、身動きもせずに眠 ォメガは減多に小屋を離れることがなかった。できる限り長生き りこんだ。しかしこの不釣合いな仲間同士の初夜の翌朝、オメガ は、そやつのすさまじい高いびきと、その毛穴からしみ出して、床するという決心を固めたのでーーー生命の根源的本能はまだ失われて いなかったーーーその最期を早めるような行動は一切しなかったのだ へ・ほた・ほたとたれ落ちている、じっとりと冷たい汗の感触で目を醒 グリンナー ゆか - 」 0 228
頭を振りたて、そのすさまじい両眠を、はったと陸の方に向けてい た。それにそいつは彼ら自身に必要な水を毎日、大量に消費してい た。その姿を彼らが見たのは、奴がオメガをもう少しで殺しそうにるではないか。 なったあの晩以来、最初のことたった。 「見て ! 」とサルマが深い息をついた。「あいつは陸に向ってる。 彼らの下方に幾十マイルものびている、地殻に生じたこの巨大な 「ああ、なんとかして殺してやりたいわ ! 」そして激しく身を震わ罅割れは、かって太平洋の青い波が大陸の岸辺を洗っていた頃、そ せながら彼女はなおいっそう強く夫にしがみついた。 の最も深い部分たったところだ。そしてはるか下方の、大地のふと 「心配はいらんよ、お前」とオメガは巨獣が湖岸へよたよたと這っ ころに抱かれた、あの小さな湖は、かっての強大な海の。なんとも て行くのを見つめながら慰めた。「今度こそ、あいつをしとめた哀れな名残りだった。はるか北東の、彼らの双眼鏡の視野の空にく ぞ」狂喜して彼は続けた。「見てごらんーー奴は罠の中に入りこもっきりときわだって、古代の海底から、不気味に荒涼とそそり立っ うとしているそ ! 」 た、偉大な山脈と台地とがあった。 これは古代の日本帝国の在 った場所だ。二人の周囲は、どの方角を向いても、海洋生物たちの だが彼らはまたしても失望を味わわなければならなかった。岸か らものの二、三ロッドのところで、そのぶちのある巨体をほとんど生きていた跡の、物言わぬ、しるしばかりだった。というのは彼ら すべて水面から現わしていた怪物は進みやめ、その頭部を差し上げの坐っていた場所は、海面のはるか下方だったところだからだ。静 て、ゆっくりと四囲を見まわした。それから明らかに危険を感じ取寂で、謎に満ち、絶望的で、やるせなく、これからのことを考える ったらしく向きを変えると、大あわてのていで湖の中央部に急ぎもと彼らの頑丈な心臓すら、ひやりとなるのだった。この高峰の上 どり、水にもぐった。 に、何かの生物が姿を現わすことを、どんなにか彼らはこい願った 「な ことか。彼らの、威圧され震えをおびた声すらが卑俗な響きをおび な・ーーんだか怖いみたい」とサルマは身震いした。 て感じられるような、この究極の、恐るべき静寂は、そのつきるこ 「何も怖がることはないのだよ」とオメガは彼女を安心させた。 とない厳粛さと、仮借ない把握とで彼らをおびえさせた。灰色で、 「怪獣は私たちの家には入れないのだ。そしてそのうちには罠にか かるか、それとも私たちがあいつに銃弾を射ち込んでやることにな埃の棺衣以外には何も着けない裸体で、山々は大空にそそり立ち、 るさ」 その幽霊じみた威厳を永遠に誇示し続ける。そしてその間の暗い谷 ォメガは頼もしげに話してはいたものの、その実彼は、怪獣のこ谷は、死の灰色の唇を持ち、あたかも地獄の、ロを開けた入口のよ とを、そしてそれがサルマに与える影響のことをひどく気に病んでう。 いた。彼は怪物をしとめるためのより良い方法をただちに考案しな「死よ ! 死よー 永遠の、驕り切った死よ。汝は到る所にいるで ければならないと悟った。彼自身は怪獣をそれほど恐れていたわけはないか ! 」とオメガは跳び上り、絶望的な瞳で荒野を見はるかし ではないにもせよ、そいつがいるということは、むの負担になっ ながら叫んだ。