伯爵は吉永と並んで歩きながら言った。 れていても、伊東への反応はいつも通りに起るらしい。 「太陽は肉を育て物を熱するが、月は知恵を育て物を冷やすとおっ 「ナン・タウアッチ : : : 」 しゃいましたね」 吉永はその名を呪文のようにつぶやいている。 「ええ、そのとおりですー ナン・タウアッチは、水路で碁盤の目のように仕切られたメタラ l-tL 「とにかくこのトランシルヴァニアは妙なところですよ。まるで魔 ニムの中心に位置し、あたりの正方形の部分より、ひときわ高く ( 術の実験場みたいだ。ここではすべてが、科学に背をむけ、魔法や られているようだった。 呪術のほうへ進んでしまっている : : : 」 「なんとなく、アトランティスを連想させる所だね」 吉永は巨大な石柱や石像のころがる廃墟を進みながら、伯爵に言 山本が言った。ィーゴルが、山本の横をすり抜けるように、トン ネルの出口がある神像から中央部へ下る、ゆるい斜面の石の道を、 「吉永 : : : 」 思いがけぬ軽やかな足どりで進んで行った。四角いナン・タウアッ じよう ) 」 その時、すぐうしろを歩いていた山本が、いつもの柔和さに似 チの内部は、中心に向って一律にへこんでいて、漏斗の底に当る中 心には、円筒状の高い壁が、巨大な煙突のように突きだしていた。ず、珍らしく鋭い声で吉永を呼びとめた。 吉永も伊東も三波も、伯爵までがびつくりして立ちどまった。 その中央の壁へ向いながら、イーゴルは巨大な両手を空にむけ、 「君は今、重大な発言をしたそ」 「ラ 1 クラ : 「俺が : : : 」 と、軋むような声をあげた。 吉永は妙な顔で思い返しているようだった。 「ラクラと言ったそ」 吉永がきっとなって山本をみつめた。山本は自信なげに首を横に「俺が何を言った」 「実は、このトランシルヴァニアへ入ってすぐ、僕はひとつの解釈 振った。 にとらわれていたんだ」 「果してム 1 ン・プ 1 ルなのかどうか : : : 」 「解釈 : : : 」 「とにかく行ってみよう」 「この亜空間に対する解釈さ」 吉永はくるりと振り向くと、足早にイーゴルのあとを追った。 「トランシルヴァニアでも、最もルナの強い地帯といわれるミッテ 「どんな」 ルランドの中心が、このナン・タウアッチらしいのです。自分の意「それを今、君がロにした。 : : : 実験場のようだと」 志を持ったものがここへ入れば、意志の力は外での数十倍にもなる「なんだって」 3 ようです。長年研究の結果、私はそのことを発見したのです。だが「実験場さ。この亜空間には、まずヴァレリアたちが住む中世風の 2 世界があった。野蛮な戦争をくり返していた。平凡な民衆は嘘をつ 昼間は駄目です。夜を待たなければ : : : 」
したのである。その技術は、シティにはないものであった。発振機「逃げよう。奴らは俺たちを探してるに違いない」 は、ただ一つの単純きわまる信号を、この亜空間の外部に送りつけ四人は円盤の光線を避けながら、ド 1 ムの外へ向った。 こ 0 四人がビッグ・ジョンの心臓部にのりこんだのは、その信号が送 4 られたあとである。 「ここだ。伊東、磁気発生機を始動させろ」 ドームの外は砂漠であった。ワイナンとトランシルヴァニアの間 「よし来た」 に横たわる砂漠と、同じような風景がひろがっていた。 伊東は一気に電圧をトップ・レベルへあげた。ビッグ・ジョンの「畜生。ここから見ると、ワイナンもロスポもトランシルヴァ = ア 随所に深い震動音が発生し、あらゆるデ 1 タが消減して行った。シ も、びっしりくつついてやがる」 ティ中の機能がその瞬間完全に麻痺し、科学の粋を誇 0 た鉄鋼都市三波が罵 0 たとおり、ド 1 ムは砂漠の中にポ = ンと盛りあが 0 て は、ガラスとコンクリ 1 トとプラスチックと鉄の混合した、ただの いて、ワイナンもトランシルヴァニアも、すぐそこに見えていた。 かたまりにすぎなくなった。 「どっちへ逃げようか」 「何だ、あの音は」 「ワイナンだ。どうせならヴァレリアたちのいる国へ : : : 」 吉永がいち早く耳なれぬ音響に気づいて外をのそいた。 吉永が叫んだ。 「おい : しかし、すでに大型円盤がワイナンの方向に出現していた。トラ そう叫び、絶句した。 ンシルヴァニア上空にも、数台の大型円盤が浮いている。 「何だ。どうしたんだ」 「仕方がない。海だ」 三人が吉永の異常な態度に、駆け寄って外を見ると、ドームの中四人は方向を変えた。 「あれが死の塔か」 に、一一十ばかりの小型円盤が出現し、青白い光線を吐き散らしてい 山本が恐柿の声を放った。 まさしくそれは異様な構築物であった。高さおよそ二百メート 「いけねえ。宇宙人のおでましだぞ」 ル。一辺が五十メ 1 トル、一辺が言メ 1 トルの立方体である。 三波が叫んだ。 山本を恐れさせたのは、その高層ビルなみの立方体の用途が、全 「やりすぎたのかな」 伊東はうしろめたそうに言い、背中につけた磁気発生機を素早くく不明であるという点であった。 窓がない。出入口がない。風雨にさらされて赤く錆びついた全鋼 外した。 鉄製の巨大な塔なのである。 「俺じゃないからね。俺はしらないよ」 0 5
「まるでじゃない。監獄さ」 「やなかんじだ」 三波が言い、足もとの白骨をみつめた。あっちにも、こっちに 遠望するものにさえ死の塔と名付けさせた、その異様にまがまが しい雰囲気は、円盤に追われし砂の上を逃げる四人の心に、絶望的も、白骨が転がっている。壁によりかかったままのもの、穴を掘ろ うと鉄の床をむなしく引っ掻いたままの姿勢のもの : な影を投げかけている。 「出口なしか」 「来たっ : 四人はさっと散って地に伏せた。青白い光線が、たった今四人が吉永がため息をついてしやがみこんだ。 「誰だい。未来を見たから平気だなんて言いだしたのは」 進んでいた砂の上に当り、激しく砂を推きあげて消えた。 四人は絶望の淵に沈んだ。 「駄目だ、こりや」 長い時間、四人は黙って考えていた。ノン・フルでのおしやべり 身を隠すものひとつない砂漠の上で、伊東がそう叫んだとたん、 西風荘でのチンポ。ワイナンの活劇。トランシルヴァニアの怪異 円盤の放った光線が彼をとらえ、伊東の姿は一瞬の内に消えた。 「おしまいだ。海はすぐそこなのに」 幾日たっただろう。四人は餓え、渇き、そして睡くなっていた。 言いおえぬ内、三波も消えた。 「テストだ。宇宙人のテストなんだ。権力欲を探るのがワイナン 「山本 : : : 」 だ。精神的な力をためすのがトランシルヴァニアだ。科学的な能力 「吉永ツ」 を知るのはド 1 ムのシテイだ。宇宙人は地球人を調べているんだ」 呼びかわす一一人も、たてつづけに光った青白い光線の中へ消え、 「なぜ俺たちをとじこめたんだ。これでも悪意はないというのか あとには四人の足あとだけが、砂の上に残っていた。 風の音だけがしていた。 吉永に三波が反問した。何度もくり返した会話であった。 ☆ 幾度めか、幾十度めか : : : 突然山本が立ちあがった。 「出口はあるそ」 四人は茫然と突っ立っていた。 「えつ」 彼らは巨大な死の塔の内部にいた。五十メートルと百メ 1 トルの 三人が驚いて山本をみつめた。 底部を特ち、一一百メートルの高さがある、それは鋼鉄の檻であっ た。二百メ 1 トル上の天井に光源があり、四人の姿を強烈に照しだ「出口はきっとある。あきらめちゃいけない。宇宙人は俺たちをも テストに使ったんだ」 している。 「なんだって」 「監獄じゃねえか、まるで : : : 」 「想像力さ。的な解釈をしつづけて来たろう。宇宙人はそれを 伊東が言った。 ☆ ☆ 5
伊東が親切に教えてやると、伯爵は事もなげに頷く。 「ああ、ジョーカンジーの教えですな。あの魔術師は、その考えを トランシルヴァニア中にひろめたかったようです」 伊東は吉永と山本をふり返り、肩をすくめてみせた。 廃墟の中での夕食は、シチューであった。味は例のパプリカ。へ ルナティック 「月的な力の根源を解き明したら、あなたはそれをどう利用する ンドルに似ていて、太蒜がたつぶり効かせてあった。 おつもりですか」 ィーゴルは石畳の上に、支那鍋に似た底の浅い大鍋を置き、その 山本が尋ねた。 まわりに鉄で出来た、折りたたみ式の三脚を立てていた。 「すべての魔術師、すべての魔女、すべての錬金術師、すべての死・支那鍋に似た底の浅い鍋に、イーゴルは蝋の塊りに似た固型燃料 者蘇生術師を支配するでしような」 を、太い指でちぎっては投げ入れている。固型燃料は煙もたてず、 伯爵は当然のように言う。 溶けもせず、静かに燃えていた。 「トランシルヴァニアの王になるわけですか」 火の上に、三脚から吊したシチューの鍋がかかっていて、グッグ 「そうです。あなたがただから、率直に言いましよう。私は闇にひ ッと小気味よい音をたてて煮えている。 そむ偉大なものに憧れているのです。私自身、それになりたいと思 伯爵とイーゴル、それに質の日会の四人は、燃える大鍋を囲ん ルナティック っています。月的な力の根源をこの手に握ったとき、私は更に深で、平たい金属の器に入ったシチーを食べていた。彼らの影は鍋 なんびと い闇にひそむでしよう。何人も探ることのできぬ、いかなる光をもの炎に揺れ、あたりの石柱や壁に、薄気味悪い踊りを続けている。 通さぬ闇を作りだし、すべての人々の心に影を落して、畏怖される伯爵が言ったとおり、霧が動きはじめ、それが闇そのものの動きの ものになるでしよう。あらゆる妖怪を用いて叛く者を引き戻し、崗 ドようにさえ感じられた。 の中の闇に、黒の中の黒を着て、死を支配するのです」 そしていま、ナン・マタル湖の闇の上に、月が現われていた。 四人はいっしか立ちどまり、迫り寄る闇の中で伯爵の言葉を聞い 「ああうまかった。ご馳走さま」 ていた。 伊東が石の上に器を置いて言った。 「夜こそ人が人たるべき世界です。闇こそ人の心です。生を支配す「月も昇ったし、そろそろ中へ入ってみようか」 ることより、死を支配することのほうが美しい ・ : そうお思いに伊東は立ちあがり、円筒型の壁に近づいた。壁には入口がなく、 なりませんか」 ポートで運んで来た木製の梯子が立てかけてあった。 「なるほど。私の死があなたに支配されたら、あなたから決してのすると、イーゴルが突然食器を抛りだし、「ラークラ : : : 」 と唸るように言った。 がれられませんね」 山本はおそましさを隠して掠れ声で言った。 淡い月光が円筒型の壁を照し、壁の肌には、その月光にこたえる 2 6 2
し合っているお二人のためにも、早く我々はここを出なければなり ません。池のほかに出口はないのですか」 すると裸で抱き合っている二人は、仲よく同時に右を向いた。よ く見ると、その方角の岩の壁が、どうやら二重になっているらしい のが判った。 「そこにすき間があいているようですね」 「僕はもう、この先に逆戻りの壁みたいなものはないと思うな」 「ええ。わけのわからないガラクタがつまっていますわ。ルグウル 薄暗い倉庫のような場所で山本が言った。 もそのガラクタで作ったのですけれど : : : 」 「どうして。亜空間には、もうこれ以上の世界はないというのか」 「先へ行けますか」 「いや、そうじゃないさ。ここはもうトランシルヴァニアじゃない 「変なんです」 んだよ。三番目の世界へ入ってるんだ」 ィーゴルが言った。 「いっ次元の壁を : : : 」 「ときどきガラクタの量が増えるようなんです。ということは、ど吉永は言いかけて指を鳴らした。 こかに出入口がありそうなものですが、い くら探してもみつからな「そうか。ム 1 ン・プールが壁に相当するわけか。無理に抜けよう いんですよ。僕らはここで満足してますから、出入口があろうとなとすれば結晶化してしまう。ワイナンの時のように、次元と次元の かろうと、どうでもいいんですがー 境い目が、壁のようなものだと思い込んでいたわけだが、こういう 三波が舌打ちをする。 接し方もあったんだな。しかし、それじゃあの二人はどう考えれば いいんだろう」 「僕らはここで満足してますから : : : そりや満足だろうよ。勝手に しやがれ」 「特異体質とでも考えたらいい。次元を超えることは超えてしまっ たんだからね。しかし、二人は愛情であそこに縛りつけられてしま とにかく二人とも美しすぎるのである・まったく欠点の見出しょ うがない若い二人を見ていると : : : ましてそれが来る日も来る日もっている。逃げだすもならず、また逃げだそうとも思わない。実に 裸で愛し合っているのかと思えば、三波や伊東ならずとも、つい我うまくできてるじゃないか。あの二人は、あそこで永劫にお互いの 身とひきくらべて、悪たれのひとつも言いたくなろうというもので愛をたしかめ合うんだよ」 ある。 「一種の極楽 : : : いや、地獄でもあるな」 薄暗い中を歩きまわっていた伊東が、じれったそうに奐いた。 四人は岩の壁の隙間の所へ集った。 「高尚な話も結構だけどさ。すっ裸ってのをなんとかしてくれない と、外へ出たくったって出らんないじゃないの」 刑事の名前にがついている 7 3
「多分そうだろう。そして、月の水と一緒に俺たちも取水口へとび「ラークラ」 こんだ。取水口の扉は一定量の月の水をとり入れてまた閉じたの ィーゴルがまた叫んだ。 さ」 「じゃ、なぜィーゴルは溺れないんだ」 「だって、ここには水なんか一滴もないよ」 三波が言う。 伊東が反論する。 「そいつが判ればな」 「常識人間め」 吉永は考え込んだ。 三波が伊東の発言を抑えようとした。 「イーゴルも俺たちの仲間なんだろうか」 「たしかに水はない」 三波はイーゴルの前へまわって、しげしげとそのフランケンシュ 吉永は苦笑したようである。 タインの怪物風の顔を眺めた。 「しかし、この螢光を見ろよ。水でもなければガスでもない、ただ その時、突洞内の螢光が一斉にゆらゆらと揺れはじめた。 の光だが、。 「あれつ」 とうもおかしい。そうだろ。粘るように感じられるし、 少し距離を置くと、先がかすんだように見えにくくなる。こんな光伊東が奇声を発した。 があるもんか」 「上で掻きまわしてる奴がいる」 「そうすると、あれは : : : 」 たしかに、伯爵が浮いている辺りに、何か光を攪拌するようなも 伊東はまた頭上に浮いた伯爵の体をみあげた。 のが見えていた。上に何者かが存在することは明らかであった。 「ロスポ高原へ出た時と同じさ。俺たちはこの次元の人間じゃな い。だから光は光なんだ。しかし、あの伯爵にとっては、この濃密 全裸の美男美女が月の井戸の奥にいる な螢光は水になっていたんだ。溺れて浮きあがったんだ」 「それじゃ、なぜ斜道へ入ってすぐ溺れなかったんだい。それどこ ろか、上のトランシルヴァニア人は、なぜ月の光を浴びても溺れな いんだ」 太いロープにすがって、まず最初に三波、続いて伊東、山本、吉 三波が言い返す。 永の順で月の光に満ちた空洞を登って行った。 「判らない。でも、多分俺たちが抜けて来た斜道に、何か光を濃縮上へいちばん登りたがったのはイーゴルであったが、上からたら して液化させる働きがかくされていたのかもしれない」 された救いの綱は、どういうわけかィーゴルに掴まれるのを拒否す 「そう言えば、下へ来るにつれて光が濃くなったみたいだったよ」るように、たくみにイーゴルのごっい手をさけ、そういう順番で助 伊東が上をみながら言った。 けあげたのだった。 0 3
その岩の隆起を台にした豪華なべッドから、するりと滑りおり、床すると美女は、イーゴルと名来る美青年をみあげるようにして言 っこ 0 に立った。おり立った美女の肩へ美青年が左手をまわした。 「やつばり、ロープをおろしてあげてよかったわね」 「宝石にならないあなたがたま、 。いったいどういう人なの」 美女が口をきいた。まるで、体の中に黄金のチャイムをかくして美青年は優しく頷き、 いるような、音楽的な美しい響きであった。 「お名前をうかがわせてください。僕はさきほども言ったとおり、 ィーゴルと一一 = ロいます」 「私たちはこの世界の人間ではありません。元いた世界へ戻るた め、出口を探して旅を重ねている者です」 「私の名はラクラ : 全裸の山本が、全裸も忘れて吉永に言った。 山本が言った。こういう場所は何と言っても山本の出番である。 「やつばりメリットのムーン・。フールだ」 品がよくて落着いていて : : 。だがこの時ばかりはそれも怪しかっ 「僕は吉永佐一です」 た。つい身動きをして、シャリシャリ、 パチン、カシャンと衣服が 砕け散り、臍から下、ズボンの膝の辺りまでが一気にむきだしにな「僕、山本麟太郎」 「伊東五郎」 ってしまったのだ。 「同じく三波伸夫 : : : 」 「これは失礼 三波は言ってしまってから、あっ、と驚いて伊東の顔を見た。 流石の山本麟太郎も大いに慌て、横を向こうとしたから、残りの 伊東は両手で顔を掩ったまま、台本を読むようにゆっくり言っ 衣服も派手な音をたててはじけ飛ぶ。 こ 0 「やだ。若様も素つばだか」 伊東が体を堅くして言った。プ 1 ルからあがってまだ柔らかい内「莫迦、何が同じくだ」 に両手を顔へ当てたのが、たちまち結晶化して手をおろせば服が割 れてしまうのである。したがって、いや応なく顔を掩いつばなし 3 「以前、ここから月の池へとび込んで、向う側へ出て行った人があ太古の昔、月的な力に満ちたトランシルヴァニアに、その力を ります」 利用して精神の神秘的な能力を開発した、一大文明が興ったのであ 「ジョーカンジーという人でしよう」 「そうです。お知り合いですの」 人々はその月的な力を単にルナと呼び、そのルナが最も集中して 「僕らは彼の来た方へ、逆にたどっているのです。そうすれば元の いる場所を求めた。 世界へ出られるかも知れませんので」 それがナン・マタル湖の中心であることが判ってから、人々は念 ルナティック 4 3
「地獄の神様かいー 伊東が怯えた声をだす。 「地獄かどうか知らないが、この廃墟が宗教的なものだとすれば、 その宗教は地底の何物かに対する信仰に支えられている」 すると山本が口をはさんだ。 「そうだろうね。でも、だとすると月の件はどうなるのだろう。ト ランシルヴァニア中が月に対する信仰のようなものを持っているん - だけど」 「判らないな、俺にも。だが、それも月が昇ればはっきりするんじ一 やよ、 その時、漏斗の底のほうから・ハンカ 1 伯爵が四人のいる所へ、靴 - 音を響かせて登って来た。 「まもなく霧が出ますそ。ィーゴルに火の用意をさせましたから、 火の傍へどうぞ。この辺りの霧はひどく体を濡らしますからな」 太陽が沈み、透きとおるような翳りが、四人と伯爵の間を満して一 いた。その翳りは、急速に夜の闇に変って行くはずのものである。 「逢が時というのは、こんな時間を言うんだろうね」 山本はそう言いながら、ゆるい坂を下って中央へ向いはじめた。 西の山の上には、まだ赤い残照があって、それが薄い雲を薔薇色に 染めていたが、今は次第に銀色にさめはじめている。 1 「亜空間でも美しいものは美しい 三波は哲学者めいた言い方をした。 「何ですか。あなたがたは、よく亜空間といわれるが」 伯爵が尋ねた。 「ここは亜空間なのですよ。本物の世界じゃない。ごく限定された - 規模で作り出された。贋の空間なのです。疑似世界なのですよ」 囚気ガ弖 2 歹三 1973 年 9 月号分集計結果 : 順位作 作者 ロ ロロ 亜空間要塞・連載① 半村良 1 2 アーサー・ C ・クラーク メデューサとの出会い 大気と闇の女王 3 ポール・アンダースン 河野典生 ザルップルグの小枝 4 半村良氏の新連載が 4 点台を獲得し , 好調のすべり出しを見せてい ます。また , 巨匠クラークのネビュラ賞受賞作も少差でこれに迫る人 気を集め本格 SF への根強い人気を物語っています。 今月 7 篇に対し , 規定の方式 ( 秀作 5 , 佳作 4 , 水準作 3 , それ以 下に 2 , 1 ) に従って葉書にてご投票ください。同評価の作品が何 篇あってもかまいくせん。住所・氏名・年齢は必ず明記のこと . 締切は 11 月末日 , 抽選で 5 名の方にハヤカワ SF シリーズ最新刊を進 呈。今月は下記の方に「爆発星雲の伝説」プライアン・ W ・オールデ イスをお贈りします。 山口県宇部市東本町 1 の 2 の 24 河村義明様 , 新潟市白山浦 2 の 5 岡村静子様 , 高知県高知市塩田町 9 の 10 東川功様 , 神奈川県横須賀 市富士見町 1 の恥田辺一彦様 , 福井県武生市南芝原町 3 の金元 祥郎様 25 評点 4.02 3.92 3.69 3. ・ 3 ッ 0 わ 0 0 ・を・・・ 0