知りたかったんだよ」 颶風が起り、そして去った。壁は半回転し、上下が入れかわって 元のようにとじた。 「じゃ、泳がされたわけか」 「逃げるんだ。力いつばい漕げ : : : 」 「だからここも出られる。自由濶達な発想さえすればだがね」 吉永が怒鳴り、伊東と三波が必死にポートを沖へ出した。 山本は自信ありげだった。 ゆらり、ゆらり : 「よし、やってみよう」 。平和な海であった。 四人はよろよろと立ちあがり、必死に出口を探しはじめた。どこ「凄え : : : 凄えどんでん返しだったなあ」 かに出口がかくされているはずなのだった。 「まさか、あんな。フリミティヴなしかけを宇宙人が用意してるなん てな : : : 」 ☆ 四人は死の塔を海上からふり返って言った。沖へ出るにつれ、死 死の塔が四人をのみこんでから幾日かしたあと、突然その死の塔の塔も砂浜も急速に影がうすれ、やがて見えなくなった。 「あれ : : : 」 に異変が起った。 山本がポートの進路を指さして叫んだ。 海に向った五十メートルの壁の基部が、ゆらりゆらりと動きはじ 「伊豆じゃねえか」 めたのである。 「白浜が見える・せ」 内部では、四人がその壁を押していた。 「別荘だ。山本んちの別荘が見える。俺たちは帰ったんだ : : : 」 「動くそ。もうひと押しだ」 こおど ゆらり、・ゆらりとわずかに振れはじめた、幅五十メートル、高さ 四人は雀躍りして叫びあった。 二百メ 1 トルの巨大な一枚の壁が、中央百メートルの辺りを軸に、 やがて岸辺に近づいた時、山本麟太郎は、四人を代表するよう ぐらりぐらりと動きは P めた。 に、今はもう消えてしまった亜空間の浜へ向ってつぶやいた。 「それつ : 「きっとある。このままですむわけがない。亜空間要塞の逆襲があ 四人は一、気に押した。壁は予めその力を待っていたかのように、 るはずだ・ : : こ 急激に回転した。 いったい今日は何月何日なのだろう。伊東五郎は一日の休暇しか 海が見えた。砂浜が見えた。砂浜にはポートが置いてあった。 なかったはずである。 「それ、逃げろ三・ : 」 ポートが岸につき、四人が元の世界へ戻った時、新しい物語が始 四人はポートめがけて壁をくぐり、脱出した。巨大な壁は一気にるはずであった。だが今は、四人が無事に脱出できたことを祝おう 回転し、恐ろしい風圧を生みだした。砂が舞い、四人が海へ向ってではないか。 ころがされた。 ☆ 2 5
「まるでじゃない。監獄さ」 「やなかんじだ」 三波が言い、足もとの白骨をみつめた。あっちにも、こっちに 遠望するものにさえ死の塔と名付けさせた、その異様にまがまが しい雰囲気は、円盤に追われし砂の上を逃げる四人の心に、絶望的も、白骨が転がっている。壁によりかかったままのもの、穴を掘ろ うと鉄の床をむなしく引っ掻いたままの姿勢のもの : な影を投げかけている。 「出口なしか」 「来たっ : 四人はさっと散って地に伏せた。青白い光線が、たった今四人が吉永がため息をついてしやがみこんだ。 「誰だい。未来を見たから平気だなんて言いだしたのは」 進んでいた砂の上に当り、激しく砂を推きあげて消えた。 四人は絶望の淵に沈んだ。 「駄目だ、こりや」 長い時間、四人は黙って考えていた。ノン・フルでのおしやべり 身を隠すものひとつない砂漠の上で、伊東がそう叫んだとたん、 西風荘でのチンポ。ワイナンの活劇。トランシルヴァニアの怪異 円盤の放った光線が彼をとらえ、伊東の姿は一瞬の内に消えた。 「おしまいだ。海はすぐそこなのに」 幾日たっただろう。四人は餓え、渇き、そして睡くなっていた。 言いおえぬ内、三波も消えた。 「テストだ。宇宙人のテストなんだ。権力欲を探るのがワイナン 「山本 : : : 」 だ。精神的な力をためすのがトランシルヴァニアだ。科学的な能力 「吉永ツ」 を知るのはド 1 ムのシテイだ。宇宙人は地球人を調べているんだ」 呼びかわす一一人も、たてつづけに光った青白い光線の中へ消え、 「なぜ俺たちをとじこめたんだ。これでも悪意はないというのか あとには四人の足あとだけが、砂の上に残っていた。 風の音だけがしていた。 吉永に三波が反問した。何度もくり返した会話であった。 ☆ 幾度めか、幾十度めか : : : 突然山本が立ちあがった。 「出口はあるそ」 四人は茫然と突っ立っていた。 「えつ」 彼らは巨大な死の塔の内部にいた。五十メートルと百メ 1 トルの 三人が驚いて山本をみつめた。 底部を特ち、一一百メートルの高さがある、それは鋼鉄の檻であっ た。二百メ 1 トル上の天井に光源があり、四人の姿を強烈に照しだ「出口はきっとある。あきらめちゃいけない。宇宙人は俺たちをも テストに使ったんだ」 している。 「なんだって」 「監獄じゃねえか、まるで : : : 」 「想像力さ。的な解釈をしつづけて来たろう。宇宙人はそれを 伊東が言った。 ☆ ☆ 5
したのである。その技術は、シティにはないものであった。発振機「逃げよう。奴らは俺たちを探してるに違いない」 は、ただ一つの単純きわまる信号を、この亜空間の外部に送りつけ四人は円盤の光線を避けながら、ド 1 ムの外へ向った。 こ 0 四人がビッグ・ジョンの心臓部にのりこんだのは、その信号が送 4 られたあとである。 「ここだ。伊東、磁気発生機を始動させろ」 ドームの外は砂漠であった。ワイナンとトランシルヴァニアの間 「よし来た」 に横たわる砂漠と、同じような風景がひろがっていた。 伊東は一気に電圧をトップ・レベルへあげた。ビッグ・ジョンの「畜生。ここから見ると、ワイナンもロスポもトランシルヴァ = ア 随所に深い震動音が発生し、あらゆるデ 1 タが消減して行った。シ も、びっしりくつついてやがる」 ティ中の機能がその瞬間完全に麻痺し、科学の粋を誇 0 た鉄鋼都市三波が罵 0 たとおり、ド 1 ムは砂漠の中にポ = ンと盛りあが 0 て は、ガラスとコンクリ 1 トとプラスチックと鉄の混合した、ただの いて、ワイナンもトランシルヴァニアも、すぐそこに見えていた。 かたまりにすぎなくなった。 「どっちへ逃げようか」 「何だ、あの音は」 「ワイナンだ。どうせならヴァレリアたちのいる国へ : : : 」 吉永がいち早く耳なれぬ音響に気づいて外をのそいた。 吉永が叫んだ。 「おい : しかし、すでに大型円盤がワイナンの方向に出現していた。トラ そう叫び、絶句した。 ンシルヴァニア上空にも、数台の大型円盤が浮いている。 「何だ。どうしたんだ」 「仕方がない。海だ」 三人が吉永の異常な態度に、駆け寄って外を見ると、ドームの中四人は方向を変えた。 「あれが死の塔か」 に、一一十ばかりの小型円盤が出現し、青白い光線を吐き散らしてい 山本が恐柿の声を放った。 まさしくそれは異様な構築物であった。高さおよそ二百メート 「いけねえ。宇宙人のおでましだぞ」 ル。一辺が五十メ 1 トル、一辺が言メ 1 トルの立方体である。 三波が叫んだ。 山本を恐れさせたのは、その高層ビルなみの立方体の用途が、全 「やりすぎたのかな」 伊東はうしろめたそうに言い、背中につけた磁気発生機を素早くく不明であるという点であった。 窓がない。出入口がない。風雨にさらされて赤く錆びついた全鋼 外した。 鉄製の巨大な塔なのである。 「俺じゃないからね。俺はしらないよ」 0 5
てはじめた。 「該当登録者なし。ただし人間である」 「おい、どうした。煙がでてるそー 伊東が言うと、吉永はその肩に手をおいて静かな声で教えた。 「こいつら、アンドロイドだ」 「えつ。ロポットかい」 山本が一歩前へ出て悠然と言った。 「解散してよろしい。我々は上級者が来るまでここにとどまる」 命令していた。そして、集った男たちはそれを聞くと、ほっとし たようなそぶりで、一斉に踵を返して去りはじめた。 その時、小型四輪車にまたがって、一人の別な服装の男がやって 来た。 警視総監は個室を持っていた。ドアの曇りガラスに、 「有難う。そうしてくれなければ、警備員が一人死んでしまう所でス・エンダービイ」の文字が浮きだしている。 したよ」 エンダ 1 ビイ総監は眼鏡をかけていた。 その男は車をとめると、軽い身のこなしでとびおり、山本に礼を「どうそお坐りください」 言った。 どことなく、クロード・レインズを思い起させる身ぶりで、総監 「あとで見てやって下さい。回路が焼けはじめていましたからね」 は四人に椅子をすすめた。・ダニールは総監のデスクの右端に立 山本は男のさしだした右手を握り返した。 って、椅子に腰をおろした四人を、柔和な表情で眺めていた。 吉永は何やら落着かぬ風情で、しきりに部屋の中を見まわしてい 「僕は山本麟太郎 : : : 」 「いや、お名前はすでに聞きました。近くをパトロール中だったもる。 のですから」 「我々はかなり複雑な事態に対処しなければならんようです」 ーいかにも弱ったというように肩をすくめて見せたが、ど 「あなたも警官ですか」 ことなく楽しんでいるようでもあった。 「ええ。 0 ー 5 級刑事です」 「僕らの出現が、だいぶご迷惑なようですね」 山本の瞳にけむるような表情があらわれた。 山本は詫びるように言った。 「 O ー 5 級だと、かなりいろいろな特権を与えられているのでしょ「何しろ、シティは何から何までビッグ・ジョンによってコントロ エキスプレス・ウェイ うね。たとえば高速自動走路における座席とか」 「ええ。よくご存知ですな」 「で、お名前は」 横から吉永が、たまりかねたように顔を紅潮させて尋ねた。 「 c4 ・ダニール : : ・食・ダニール・オリヴォーです」 刑事はいともにこやかに言った。 史上最大のどんでん返しに遭遇する 「ジェリア
総監は寛大に言う。 なのに : 「市民の階級は何段階に分れているのです。その最高位は : : : 」 「あなたは、この・ダニール・オリヴォーなるロポット刑事を、 「便宜上、三十の階級を作っています。しかしそれは固定されたもうまくコントロールしているに違いない。ビッグ・ジョンのコント のではなく、状況に応じて適当に上下されます」 ロールから、うまく外れさせているんだ」 「三十ね。すると、 o ー 5 級は」 「ちょっと待ってくれ」 吉永は・ダニールを見ながら言った。 総監は額の汗を拭いながら言った。 「の最高は一応ー 5 となっています」 「どうしてそこまで推理できたんだ。まだ若いのに」 伊東が口をだした。 「なるほど。、、 O がそれそれ十の区分をされていれば、 o ー 5 というのは比較的下層ですね」 「読んでるおかげさ。ハウ・ツーものばかりしか読まない奴に は、死んだって判りつこないね」 「いや、そうとも言えんでしよう。ではかなりの上級者です」 吉永は急に立ちあがり、総監のテスクに両手をついた。 「ゴミ処理場は、多分最下級の管理システムで充分に運営して行け 「あなたの味方になりましよう。お望みどおり、この都市を混乱にるはすだ。したがってあそこからビッグ・ジョンとやらへのイン・ おとしいれてお目にかけます」 ・フットなどは、ごく粗雑に扱われているんだろう。僕らはたまたま 伊東も三波も、目を丸くして吉永の背中をみつめていた。 そこへ出現した。いわばビッグ・ジョンの監視の盲点さ。たしかに の警備員たちがいたが、彼らの回線は上級刑事のように直接ビッ グ・ジョンにつながってはいないはずだ・一旦処理場のセンターに 2 集められる : : : あの時そこにあなたの腹心の・ダニールが居合せ たのは、あなたにとって千載一遇のチャンスだったに違いない。 「懐古主義者はを嫌うはずだ。足の骨が折れる心配がなければ、 ・ダニールは僕らのデータを、ビッグ・ジョンに送らなかった。だ の尻を一度思い切り蹴とばしてやりたいと思っているに違いな から彼一人で僕ら四人をここまで連れて来れたのだろう。さもなけ 。その懐古主義者で、しかも多分の上位にあるはすのあなた れば、健らは 0 ー 5 から 0 ー 4 へと、次々に上級者にリレーされ、 が、僕ら四人を O ー 5 のロポット刑事に案内をまかせ、途中どんな もっと大げさな扱いで別の所へ移されただろう。なぜなら、未知の 窓口をも通さず、いきなりこの総監室へ連れ込ませた。の刑事と 同室するだけでも嫌なはずだ。やむを得ない場合でも、もっと上級四人の人間の出現は、ビッグ・ジョンというコンビ = 1 ターにとっ て、生死にかかわる重大事件だからだ」 の、恐らくずっと精巧にできたを使うはずじゃないですか」 総監は立ちあがり、窓際へ歩いて行った。 総監は目をそらせ、つぶやくように言った。 「とほうもない名探偵が現われたものだ。シティははじめてのはず「見なさい。我々は完全にとじこめられている。千年このかた巨大 7 4
吉永はひとりごとのように低い声で言う。 じまった。 「なぜだ。なぜ市民番号がない」 ふるわすような音がはじまった。 男は問い返した。 「何たろう」 「ここの市民ではないからだ」 オいかな」 「警報じゃよ そう言い合ったとき、カッカッと幾つもの堅い足音が、広い建物「未登録の格納者か」 の中に交錯した。四方八方から、四人と似たような服を着た男たち「変なことを言いやがる」 伊東は頭へ来た様子だった。 が駆け寄って来る。みな細い警棒のようなものを握っていた。 「とまれ。とまらんと撃っそ」 「格納者って、品物みたいな言い方はしないでもらおうか。立派な 中の一人が真正面にたちはだかって叫んだ。四人はとまり、まわ人間様だぜ」 「人間 : : : 」 りを二十人ほどの男がとりかこんだ。 二十人ばかりの男たちが、声を揃えて言った。 「名を名乗れ」 「人間がなぜこんな所にいる」 厳しい声で命令された。 リーダーらしいのが、かすれ声で尋ねた。ジーツと妙な音をたて 「山本麟太郎」 ていた。 「吉永佐一」 ・ : あんまり啖呵にな 「よそから来たんだ。ゴミ棄て場の底から。 「三波伸夫ー らない所から来たわけだけど」 「同じく伊東五郎」 伊東は照れて頭を掻いた。 すると、警棒のようなものを構えた一人の男が言った。 「警察に照会する。少しそのままで待ってもらいたい」 「何が同じくだ」 ーダーは、ジーツという音をたてつづけながら言った。 伊東は首をすくめて三波を見た。 「親分、あいつのほうが早かったね」 「早く照会しろ。話の判る奴に来てもらいたいからな」 だが、誰もその場を動こうとはしなかった。 三波は憮然としている。 「早く照会しろよ」 「市民番号を名乗れ」 「今している」 さっきの男がもう一度命令した。 リーダーは答えた。 「市民番号 : : : 僕らはここの市民ではない」 「該当登録者なし。ただし人間である」 警報の鳴り続ける中で山本が言った。 丿 1 ダーは抑揚のない声で言い、首筋の辺りからキナ臭い煙をた 「ひょっとすると、あれは神経衝撃棒かな」 3 4
あすこには 古代人猿類の 文明遺産が ぎっしりねむって おる : おれの殺す 人サルめは どこだい ? ・ あれが 遺跡じゃよ 、を思うだけでも 胸が高鳴る 、わい ・ ( ⅶⅢ〃川 い物 三マ どれ はいっレ」る かね ? これは 遺品の ひとつだっ たぶん遺跡から ころげ出したのを 村人がひろったん でしよ、つな これを とどけた 男は ? 村の男が これをとどけて ・、土 6 ーし 4 」 かえりました まて ? ~
二人は異ロ同音に言った。 「その可能性は否定できない。召使いロポットは決して嫉妬なんて できない。あの時ラクラは顔をあからめていた・せ」 「服も着たし、お二人さんにお別れの挨拶をしておこう」 山本は唸った。 山本はそう言って螢光の洩れだす隙間へ向った。 「男女の愛の理想像だと思ったのに : ・ 四人が不用意に岩の隙間から、美男美女の愛の巣へ入ったことを 「今はたしかにひとつの理想像に昇華している。それは否定しない責めてはなるまい。ビアもなかったし、ノッカーもなかったのだ。 さ。でも、彼らが内にこもって自分たちの愛を永劫にみつめつづけ岩のべッドの白い綿のようなクッションの上で、ふたつの裸体が からみ合っていた。白い肌は。ヒンクに染まり、互いの名を呻くよう て行こうとしている姿勢には、それなりの理由があるはずじゃない に呼び合っていたのだ。 か。若い二人の愛なら、もっと積極的に未来へ向うはずだろう」 四人は声も出ず、そっと引きかえした。 「たしかに、言われてみればあの二人は、過去も未来も見てはいな いようだ。見つめているのは現在だけだな」 「だろう。あれは刹那主義じゃないか。ただ、次元の境い目の特殊 な環境を利用して、刹那の愛を永劫に続けているにすぎない。ィー ゴルにだって、見たくない過去があるのさ」 出口を発見したのは、伊東の手柄であった。 「ハンカー伯爵か」 「ここんとこのゴ いきなり盛りあがったぜ」 「ああそうだ。ラクラと会う前、イーゴルと伯爵の間に愛情関係が実を言えば、伊東は出口探しに飽きて、そこにしやがみこんでサ あったと考えてもおかしくない。それでなかったら、あのルグウレ ノボっていたのである。 を、イーゴルの変身したものと信じこんで、醜怪さをしのんで身辺しやがみこんでいると、目の前のゴミの山が、急に何メートルか に置いていた理由が判らないだろ。伯爵はイーゴルを愛し、イーゴ 盛りあがったのだという。 ルもまた伯爵にどれほどかの愛を与えていなかったら、ルグウル、 「どういうことだろうね」 イコール、イーゴルという伯爵の勘違いの図式は成立しない」 山本が首を傾げた。 「よそう」 「これと似たようなことが、ロスポのてつべんで起ったじゃない 山本は急に背筋をしやっきりと伸し、その話を打ち切った。 か」 「でも、僕はそういう見方のできる吉永も羨む」 吉永は目をキラキラさせていた。 「実は自分が一番人から羨ましがられているくせにな」 「ロスボで : ・・ : 」 吉永は三波と伊東に同意を求めた。 「ほら、鉱石の山が一度に消え、かわりに倉庫に製品が入っていた ろう。あれとおんなじだよ」 「そうさ。若様って贅沢すぎるんだよ」 3 4
「地獄の神様かいー 伊東が怯えた声をだす。 「地獄かどうか知らないが、この廃墟が宗教的なものだとすれば、 その宗教は地底の何物かに対する信仰に支えられている」 すると山本が口をはさんだ。 「そうだろうね。でも、だとすると月の件はどうなるのだろう。ト ランシルヴァニア中が月に対する信仰のようなものを持っているん - だけど」 「判らないな、俺にも。だが、それも月が昇ればはっきりするんじ一 やよ、 その時、漏斗の底のほうから・ハンカ 1 伯爵が四人のいる所へ、靴 - 音を響かせて登って来た。 「まもなく霧が出ますそ。ィーゴルに火の用意をさせましたから、 火の傍へどうぞ。この辺りの霧はひどく体を濡らしますからな」 太陽が沈み、透きとおるような翳りが、四人と伯爵の間を満して一 いた。その翳りは、急速に夜の闇に変って行くはずのものである。 「逢が時というのは、こんな時間を言うんだろうね」 山本はそう言いながら、ゆるい坂を下って中央へ向いはじめた。 西の山の上には、まだ赤い残照があって、それが薄い雲を薔薇色に 染めていたが、今は次第に銀色にさめはじめている。 1 「亜空間でも美しいものは美しい 三波は哲学者めいた言い方をした。 「何ですか。あなたがたは、よく亜空間といわれるが」 伯爵が尋ねた。 「ここは亜空間なのですよ。本物の世界じゃない。ごく限定された - 規模で作り出された。贋の空間なのです。疑似世界なのですよ」 囚気ガ弖 2 歹三 1973 年 9 月号分集計結果 : 順位作 作者 ロ ロロ 亜空間要塞・連載① 半村良 1 2 アーサー・ C ・クラーク メデューサとの出会い 大気と闇の女王 3 ポール・アンダースン 河野典生 ザルップルグの小枝 4 半村良氏の新連載が 4 点台を獲得し , 好調のすべり出しを見せてい ます。また , 巨匠クラークのネビュラ賞受賞作も少差でこれに迫る人 気を集め本格 SF への根強い人気を物語っています。 今月 7 篇に対し , 規定の方式 ( 秀作 5 , 佳作 4 , 水準作 3 , それ以 下に 2 , 1 ) に従って葉書にてご投票ください。同評価の作品が何 篇あってもかまいくせん。住所・氏名・年齢は必ず明記のこと . 締切は 11 月末日 , 抽選で 5 名の方にハヤカワ SF シリーズ最新刊を進 呈。今月は下記の方に「爆発星雲の伝説」プライアン・ W ・オールデ イスをお贈りします。 山口県宇部市東本町 1 の 2 の 24 河村義明様 , 新潟市白山浦 2 の 5 岡村静子様 , 高知県高知市塩田町 9 の 10 東川功様 , 神奈川県横須賀 市富士見町 1 の恥田辺一彦様 , 福井県武生市南芝原町 3 の金元 祥郎様 25 評点 4.02 3.92 3.69 3. ・ 3 ッ 0 わ 0 0 ・を・・・ 0
「うへツ」 で相手の二の腕の辺りをつかんでいた。 えんや 足もとに、世にも艷治な女体が、すべっこくもまたつややかな尻何とも美しい乳房の片方が、男の脇腹の辺りに押しつけられて少し 3 を持ちあげたものだから、伊東五郎は遂にたまらずとびのいた。と歪んでいた。 びのいた拍子に、そのとなりに伊東同様突っぱらがっていた三波に 「どうしよう、親分。色つぼいったって何たって、俺、困っちゃ ぶつかってしまった。 う」 パチン、ガシャンと派手に音をたて、池のはたの二人の服が粉々伊東は両手で前を隠してオロオロしている。 に砕け散り、一部は月の水の中へ、小さな飛沫をあげて沈んだ。真「あの二人、ああや 0 てずっとイチャイチャしてたんだろうか」 珠の色の月の水へ、アル・べニーとイーダからせしめたジョーカン と三波。 ・スタイルの服が、ダイヤかルビーかサファイアかと言った美「きま 0 てるんじゃないの。ここにあるのは、この月の池と岩の・〈 しい結晶体に化けて、ゆらりゆらりと沈んで行った。 ッドだけだもんね。しまいにやくたびれるだろうにな」 遂に四人とも裸になったわけである。 伊東の声は震えている。 「私たち、もうここからどこへ行く気もありませんの」 ラクラはそれを誇るように言った。 4 「月の井戸を満たしたルナが、時の力をさえぎっているのです。こ こでは歳をとらず、力も衰えません。睡ることさえ必要ないのです 「伯爵は、月の井戸から這いだしたルグウルを、イ 1 ゴル君が無残 な姿で戻って来たのだと思い込んでしまったわけか」 イ 1 ゴルが説明した。 吉永は右手を前へ当てたまま、結品化した伯爵に歩み寄ってみお ろした。 「畜生、あんなこと言いやがる」 伊東は泣声だった。 「あいつ、案外恰好いいケッしてやがるな」 三波がつぶやいた。 「スタミナも衰えないし、睡くもなんないんだって : : : 親分、それ じゃあの二人、あの、ほら : : : 」 「やだ。親分、そんな趣味ありかい」 「莫迦。何てこと言いやがる」 三波も生唾を含んだ。 「つまり : : : ああ、畜生」 三波が我を忘れて伊東をどなりつけた。 「するとお二人はそれ以来、ずっとここに」 吉永がくるりと振り向いた。何か意を決したらしく、もう手で隠 山本がラクラとイーゴルに言った。その時ラクラはイーゴルにもしたりはしていなかった。 たれかかり、しなやかな右腕を恋人の引き締った腰にまわし、左手「ここは小さな場所ですから、お二人が暮すのでいつばいです。愛