彼らが眺め渡した景色は、実際荒涼極まるものだった。どの方角った。他の世界を訪問したことすらあったし、神を知り、理解もし を見ても、山岳や丘陵の上にも、岩塩の浮いた平野上にも、岩山のた。にもかからず死は、その冷酷な行進をやめなかった。それとい いけにえ 表面にも、過去の生命の骸骨や貝穀がころがっていた。動物及び植うのも、天地創造の根源的な瞬間にすら、天地はその犠牲の目星を 物界の化石が、どこへ行こうとたちまち目にとびこんで来る。とうつけていたからだ。ゆっくりと、しかし確実に、死はその冷やや の昔に消減した海洋生命の不気味な名残りをまといっかせた、深海かな手を地球の周囲に閉じて行った。太陽は高熱の光線を放射し の巨大海草の葉が、く・ほ地や高地に、ひょろ長くやつれ、わびしげて、地球の湿気を次第に吸いとり、宇宙空間に消散させて行った。 に、さびを浮かせてつっ立っていた。いまや、砂漠の砂と同様にから森林は少しずつ消失し、次いで河川や沼湖が縮んでは消えて行っ うみごけ た。この時までには、大気層はほとんど存在を感じとれぬまでに稀 からに干上り、死減しきった海草や海苔の長い茂みは、まだ海水に 洗われていた、はるか昔と同じように花輪や花ずな状をなして、相変薄となり、ただ科学器具の助けによってのみ、人はその稀薄度を量 らず岩や植物にしがみついていた。かっては、白色や。ヒンクや赤色り知ることができた。雨量はいよいよと・ほしくなり、ついには極地 いろど の万年氷も小川となって流れ去った。この地方は長い長い夜の間、 に彩られ、うようよとした生物のひしめいていた珊瑚の大樹林は、 今や物憂く死にたえながら、なおもめいめいが、かっての美を、年冷え冷えと物寂しい陰の中に、音も無く生命も無く横たわってい 月という埃によって、蔽いつくされ歪められてしまった腕々を、上た。それが静寂な夏の陽光の中に天色の幽霊のような姿をゆっくり 方に差し上げていた。鯨や鱶や海蛇や、その他多種多様な種や大きとさらけ出した。太陽は仮借なく燃え盛り続け、七つの海の岸辺は さの魚類が、巨大鰻や、深海の怪獣と枕を並べて地上にぎっしりと時代を経るごとに後退した。しかし科学力と機械力とをそなえた人 横たわり、ミイラ化した残骸は強烈な熱にあぶられて縮み上り、そ類は退去する海岸線を、かたくなに追い求め、海洋利用に精根を使 い、かくして生命の絆をなおもとりとめていた。 のそっとするすさまじさを、年月の天によって柔らげられていた。 しかし今や、ついに、地球上の生命は、最後の戦場にたちいたっ 闘争ーーー迫り寄る死に対抗する地上の生物の戦いーーーが始まって 以来、幾百万年という星霜が転び去った。そしていまや死は、邪悪なていた。戦闘計画は鋭意練られはしたが、その帰趨には疑いの余地 、いたるところを堂々とのし歩いてもなかった。このことをオメガ、は誰よりも熟知していた。太陽はい 勝利の快感にほくそ笑みながら いた。もうあと一勝負を果しさえすればいいのだ。すでにその気味ささかも減じることのないカで照り続けたからだ。しかし、地球の の悪い把握の手は、勝利の旗じるしを一握りするばかりに迫って い自転は、二十五時間が一日をなすまでに遅くなり、いつぼう、一年 は三七九日と少々の長さになっていた。新しい条件と環境とに次第 る。人類は生命を思うがままに支配できた。しかし死を克服するこ とはできなかった。科学という魔法のつえによって、人類は宇宙にに適応して来た人類は、負け戦に直面しながらもなお、勝利の快感 5 ほこら 到達し、はるかかなた・の世界の生活ぶりを望見した。迷信と恐怖とを味わって来た。何故なら、死のうつろな洞にほほ笑みをむけ、人 R 利己心とを駟逐した。疾病を追放し、自然のあらゆる秘密を学びと生のむなしい約束ごとに、滑稽を感じることを学んだのだから。 まろ
を上げて水面を打ち、視界から姿を消した。二、三分間、水面上の体が、生存のための最後の戦いを戦っている。どうやら自然は彼に 泡の跡が、怪物が湖の中央部へ向う、急速な針路を印していたが、薄気味の悪い悪智恵をあたえたように思われた。生命をあたえる水 の所有権をめぐって、いかなる人間もこの二人に挑戦しなかった・ やがてもとどおり、すべては不動で無音の状態へとたちもどった。 「お怪我はなくて ? ォメガ」彼の横に跪いてサルマは気づかわししかしこの敵はかって地球上に生きた、野蛮人文明人とを問わず、 如何なる人間にもまさって恐るべきものだった。 げに叫ぶ。 「少しばかりショックを受けただけさ」彼は辛くも起きなおって、 オしか、私たちは」と笑いな そう答えた。「たいしたハンターじゃよ、 この気のもめる、見張りに明け暮れる日々の間に、オメガとサル がら続ける。「もうちょっとのところで獲物に ( ンターが狩られるマはしばしば鏡面のところに行き、水蒸気を含んだ雲を見つけよう ところだった ! さて船にもどるとするか。この次には奴をやつつとしてのそきこんだ。そして一度ならず、あの蜘蛛の糸のような生 けてやる」 成物が世界の様々な場所に現われているのを見て、二人は心から喜 んだことがあったが、それはいつも二人の眼前から消えてしまうの しかし危うく命を落しかかったことで、彼らの神経は参ってい だった。こういった雲の萌芽が鏡に映じることは、日数がたつに た。終日、安全な船内にひきこもったまま、銃を湖面に向けて据え つれて次第に頻度が減じて来た。ォメガとサルマは、水蒸気が地球 つばなしにし、怪獣が姿を現わすのを待ち望んでいた。あの時いっ にもどって来ることを希望するのは無理な相談であることを悟っ どうやって怪獣が湖を出たのか彼らは推測することができなかっ た。彼らの、極めて精妙にセットされているため、知性を持ってい た。しかし怪獣は彼らが考えていたよりずっと恐しい動物であると いうことは今や確かなように思われた。そしてオメガは科学の助けるかにすら思える計器と、過去の記録と、彼ら自身の常識とが、そ を借りるべきだという結論をくだした。そうすることにより怪獣のう判断したのだ。実際、上空の自然界、生命界は二人の希望と同じ 息の根を止めることができることは確実だと彼は思った。 程度に死にかけていた。彼らが見た、上空に現われた現象は、単に それで翌日、彼は高圧電流を通したケープルを潮の周囲全体には 断末魔の苦闘を表わす兆候だったと彼らは悟った。ところが、湿気 りめぐらし、それを水中と陸上の両方に設置した様々な形状の罠をはらんで、黒ずんだ本物の雲が突然、鏡面に出現したのである。 に接続した。日が暮れた後、戸外で怪獣をしとめようとするような地図を調べて、彼らはそれが、かってのアメリカ合衆国の一部だっ 命知らすなことは、もうするまいと彼らは誓った。 た、平野と山脈の広大な地域の上空をただよっていることを知っ こ 0 それからの暑い、沈黙の日々は、この生命の最後の子らにとっ て、まことに気のもめる日々ではあった。罠はただの一つもはねな 「この天からの贈り物を調べに行こうじゃないか」とオメガ。「か かった。怪物は、高圧電流の通じたケー・フルを、そのぬらぬらしたっては美しかったあの国の上空をただよっている。歴史の声の語る 胴体と尾とを引ずって横ぎったりはしなかった。この種の最後の個ところによると、それは幾百万年の昔、自由の民たちが住んでいた たみ 幻 2
る。その衝撃の間に、橋の向こうでも攻撃が始まって小火器の射撃島に送り得たのは二十万たらずの兵で、それは数十もの民族解放軍 音が響いてきた 1 。ヒアソンは貧弱な肩に軽機関銃をかけてトンネルを相手にした全地球戦争においてここが遠隔の入江にすぎないから であった。毎夜偵察へリコ。フターが頭上を飛ぶトンネルの中でビア に駈け戻った。 ソンとテューロックが躰を縮めながら聞いている地下ラジオの自主 「何のおかげで我々は足止めを喰らっているんだ ? 軍曹。このラ 放送は、ビレネーからパ・ハリア・アルプス、コーカサス、カラチに ジオは大隊で検査しておくべきだったな」 彼は泥の飛び散ったコンソールに手を伸ばしたが、テ = ーロック至る連続した戦闘を伝えていた。東南アジアでの最初の紛争から三 はその手をスパナで払いのけた。若い少尉の意識的な敬礼を無視し十年経った現在では、地球全体が巨大な反逆の烽火であり、世界ヴ エトナムなのである。 て、テューロックは呶鳴る。「じきに使えるようになるさ、少佐。 それともあんたは今撤退したいのかい ? 」 「べンソン ! 」伍長はびつこを引いていて、その細腕には分捕品の 少尉の視線を避けながらビアソンは言う。「我々は命令に従う、重いカービン銃があった。ビアソンは苛立たしげな身振りで、砂袋 軍曹。いっか知らんがこの装置が直ればな」 に躰を投げ出している部下たちを指し示した。「伍長、半時間後に 「直しますよ、少佐。あんたが心配する必要はない」 攻撃開始だ ! 少なくともみんなを起こしておけ ! 」 ビアソンはヘ . ルメットの顎紐を解いた。三カ月間行動を共にし疲労した敬礼で答えると、伍長は陣内を歩きまわり、気乗りしな て、軍曹はビアソンが戦意を喪失したと決めつけていた。むろんテい様子で男たちを長靴でこづいていった。ビアソンは河流の樹林を ューロックは正しいのだ。ビアソンは、葉の繁った柳によって空中凝視した。北方のウインザーの荒廃した城の近くに煙の柱が何本か 攻撃から保護されている要塞堅固な陣地を見渡し、野生ストしフに立ち昇り、その上空でヘリコ。フターの群が突進し急降下しながら、 やっ 群らがっている部下たちの婁れた顔を数えていった。アメリカ製の空虚な郊外道路の間に成長した深い森林に向けてロケット弾を射ち 帯紐で結んだポの制服を着て地下の穴ぐらで何カ月も暮らし、食込んでいる。この広大な暴虐の平原にあっては、ただ下方の草地だ 物も武器も不足状況にある彼らを支え続けているものはいったい何けが流出した河と共に静寂を守っているようだ。水は兵員輸送車の か ? アメリカ人に対する憎悪ではない。死人を別にすれば、アメ周囲から退却して死体の脚を揺り動かしていた。。ヒアソンは再び無 リカ人の姿を見ることはほとんどないのだ。安全な基地内で、無限意識に部下の数を数えはじめていた。全員が開けた大地を走り抜け て河を渡り、対岸に並ふ樹林に突入しなければならないのである。 の戦闘技術によって保護されているアメリカ遠征軍は、アーマゲド そこにはアメリカ軍がガトリング速射銃を手にして潜み、藪から飛 ンの日の天使軍団か何かのように遠い存在でしかなかった。 僅かでも幸運だと言えるのは、アメリカ軍が地球上に非集中的にび出してくる餌物を待ち構えているかもしれない。 : ビアソン少佐」少尉が彼の肘を突っいた。「捕虜に会ってお 5 散開していたことで、そうでなければ全解放戦線は遙か昔に壊減し「 : ・ ていたはずである。二千万の兵力を有しているアメリカ軍が英国諸いた方がいい」
2 作者モロウについては、三〇年代のエア・ワンみるとすっかり乾上がって沼地や陸地と化してい この『人間ォメガ』は、オラフ・ステープルド こショックのせいだろう、といづ・ています。現 2 トーリーズ誌専門に活躍した作家というナ ンにその典型が見出せる哲学的な叙事詩の伝・ダー・ス ことぐらいしかわかりません。この作品は珍らし在、われわれの住んでいる時代にも、・そのような 統に立っ作品です。 トーリーズ誌三三年一月号に現象が日常起っていることは周知の事実です・ 荒廃した終末の地球で、進化と進歩の果てに残くアメージング・ス された男女と、有史前以来の生残り恐屯とが地上発表したもので、当時読者のあいだに大きな反響モロウの他の作品は、今日ほとんど見る・ヘきも 最後の水の所有をめぐって争う戦いの物語ですを呼びおこし、後年、当時の代表的ファンジンのはありませんが、 - この一作だけは別です。ふし ・マガジンの要請に応えて、ぎなことに、なぜか彼はこの作品を最後にふつつ が、そこに象徴されているのはむろん人間と自然だったファンタジー とのやむことなき永遠の闘争です。それだけでは「『人間ォメガ』の背後の物語」という小文を寄りとの筆を絶ちました。さしずめを白鳥の絶 唱″というところでしようか。 なく、人類はいっか自然資源を食いつくし、必然せました。 的に減亡への道を歩む運命を背負っているのだとその中で彼は、この小説に描かれている世界そ いう鋭い洞察さえ読みとれます。アメリカの揺藍つくりの悪夢にうなされたのがヒントになって書 期、一九三〇年代の生んだ素朴な傑作ですが、そきあげた、と語っています。そしてそのような悪 の意味で現代にも相通じるものをもっている点、夢を見た原因は、幼いころ過ごした北部ミシガン の美しい豊かな湖水が、大人になってから帰って リ・ハイ・ハルの意義が大いにあると思います。 銀色の飛行船が熱した稀薄な空気を切り裂いて突き進む。真昼のた。それは開口部のところまで来て立ち止り、びからびた大地をじ っと眺めおろした。やがて、 地上、七十五フィートの高さにい 太陽が飛行船に、そして下界にぎらぎらと照りつける。周囲、はすべ て死の厳粛な静寂ばかり。空中にも、物憂い灰色の地上にも、生きるにもかかわらずーーーいささかの恐れもなく、また緊張の色もみせ しるし 物はまったく姿を現わさなかった。いささかでも生命の徴を見せるず、彼らは船外へとで、地上へただようように舞いおりた。 この二人の人間こそーー地球人類の子孫の唯一の生き残りの のはただこの飛行船のみ。藍のように青い空には雲の影すらなく、地 男女のカップルーーー・オメガとサルマの両人だった。彼らは強烈な陽 平線では山々の稜線が巨大な鋸の刃のように空に喰いこんでいた。 飛行船はやがて空中に停止した。それから、表面に岩塩を浮ばせ光に日焼けして、底深い桜色の肌をしていた。彼らの背たけはいま た平野へと急速に下降した。そして、巨大な地割れの端に位置すの地球人の水準をぬきんでていた。脚部は、人類が歩行することを やめて以来多世紀を経ていたため、ほっそりとして、ほとんど肉がっ る、広大な椀型のくぼみの底に達してようやく静止した。その地割 いていなかった。足は、単に足首に接続した、指のない突起部でし れの、灰色をした、岩石のごろごろしている両面は、後方幾マイル かない。腕は、その脚部同様、やせぎすだったが、しかし手は、 にもわたって、けわしいひな段状をなして、大空に向ってそそりた っていた。数瞬の後、船の側面の一部分が音もなく巻き上り、まばぶりとはいえ、よく均斉がとれており強力だった。腹部は非常に小 さかったが、その上部には、とほうもない力をそなえた肺を蔵した ゆい光がもれいで、間もなく飛行船の内部から、二つの姿が現われ
マが叫ぶ。「さあ、もう一度、世界一周族行に行きましよう。アル んだ。そして彼らはそのことを深く感謝した。もはや彼らは、地球 フアはまだ遠くへ行ったことがないのですから」 最後の水の、議論の余地のない所有者たったのだ ! 今やアルファ 「そうだな」と彼。「さっそく出発だ」 は、平和に安全に岸辺で水遊びしたり、浅瀬で泳いだりできるの 彼らは銀の飛行船に乗り込み、熱く乾燥した不毛の荒野を飛び越 だ。それで危険な垣はとりのそかれた。 え、古代の都市跡の上空を通過して行く。ニ = ーヨーク、ロンド ノ丿その他、古代の商業中心地の廃墟を彼らは命をかけた捜索 ォメガは、初めに創造の神が人間に、自己の運命を支配する能力を のために訪れた。しかしこれらの都市の遺跡の位置すら定かではな あたえ給うたことを知っていた。神は人に理性をあたえ、大地を人の かった。ただ、ワシントン記念碑や、オフィス・ビルの摩天楼な 管理に委ねた。ォメガは宇宙を支配する神の力をよくよく認識して ど、最高の建造物の頂上だけが、幾世紀もの塵埃や砂の堆積面から 。彼は幾十億の世界の中心部にまで浸透している神の命令を正 頭をのそかせているばかり。雲の一片の影すらも見いだせない。だ しく認識していた。それだからこそ彼は地球人類がもうおしまいで が彼らはなおも飛行し続けた。極地の暗い荒野をかすめ、水の有無 あることを認識していた。にもかかわらず彼は、人間を万物の霊長 を探しに深い谷間に降り立ったりすらしたのだった。新しいよりよ たらしめた、あの、何物にも屈しない執念を持っていた。彼は宿命 いすみかを求めて、赤道地帯を二周もしたが、徒労に終った。水を 論者の徴笑を浮かべながら、独自の人工降雨機を設置した。幾百マ 求める絶えざる叫びは、彼らの魂の中で燃え、そして彼らはまた小 イルにも渡って、そのくねくねとした電波が大空へと駆け上り、あ さな湖ーーー自然がその最後の子供らにあたえた最後のおしめり たかも巨大な、餓えた大蛇のように、うねりにうねって、その吸収 へと帰ったのだった し、受容する大爪を振って荒れまわり、うねりつつ地球にもどって 来たが、ただの一滴の水すらもたらさなかった。 日中は相変らず暑かったが、夜は冷え込み、岸辺に近い湖面には しかしある日、鏡面が再び、小さな、かすかな雲を映し出した。 氷が張り、陽に照らされるまではとけきらなかった。ォメガはその それは世界の様々な場所に散在しており、そのような雲の存在はオ 事態を理解し、再びひやりとした恐怖が彼の心臓をわしづかみにし メガには劈に落ちなかった。その存在する理由がないように思えた た。天からの何らかの奇蹟によって、地球に充分な湿度が帰って来 のだ。 冫ーいかなる人間の ない限り、日中の高温と夜間の氷点下の気温こよ、 「私にはこの雲がわからない」と彼は、サルマとアルフアと一緒に 珊瑚樹の影に坐 0 ていた時、妻に言 0 た。「恐らく湿気を保 0 た場生命も長くは堪えられないのだ。 所かどこかにかくれているのだ。それが今まで、鏡の受信光線にひ湖の貴重な水をさらに長く保存するために、オメガは今度は雲の カーテンの層を湖岸にまで引き下し、それによって湖面を完全につ つかからないでいたのだな」 つみ込んだのだった。そしてこれが、蒸発の量をさらに著しく低下 「さあ、行って見ましようよ」眠に新たな希望の光を輝かしてサル 22 ー
「 : : : あたしは、おまえたち幻魔によって 減亡した地球世界の生き残りよ : あたしは・ : ・ : 幻魔がなんであるか知っ ているわ ! おまえたち幻魔は 宇宙の侵略者で、狂った凶暴な ただ破壊のためだけ 破壊者だわ ! 存在する悪鬼よー おまえの腹の裡はわかっている。おまえの 野望とは、この地球を支配し、人類を幻 魔につくりかえること : : : 人類のすべてを 魔道におとすことだわー・そんなことを させるものですか : ◆レ だから ど、つしたと いうのだー 地球人類はそんな 高等な種族だという のか ? ・狂暴残忍、 野蛮な悪鬼、それは 人類自身のことではない か】それはおまえには わかっているはすだぞ。 お時ーーーおまえはみず からをあざむいている にすぎぬのだ : 13L
まうこともあるだろう。それを救うのもまた思考 の省略であった。国家は独裁者へと集約され、宇 4 宙人などは具体的に存在する敵対者へと画一化さ れて、同じく独裁的な立場に立っことになった。 一般庶民もまたホットな人格で統一されて、小説 自体も白痴プロットや天才プロット ( 白痴プロッ トの逆で作者の天才性 ? のゆえに小説が異様に 、早い結末をむかえるもの ) が乱発された。 こうしたものが単純にいえば従来のであっ た。我々はそれを読み、それこそが我々の未来で あると思いこんできたのである。 だがニューウェーヴはこうした傾向に対し闘い を挑んだ。それは全面的な闘争であり、全地球的 特別解説大和田始 人類的な視点は否定されて個人的な視点へと変 り、独裁志向はアナーキー志向へと変った。思考 ′ : ー : ー : - ー : ~ : 、 : ′ : 、 : を : ー : ~ : ー : を : ー 1 ~ : ー : ~ : ー : ま : 、 : ~ : の省略はスベキュレーションによって乗り越えら 総体的に見て従来のに扱われた戦争は第一一一または被侵略テーマ・破減テーマの作品をれ、テクノロジー信仰にもとづく未来史年表は現 . 次世界大戦・核戦争であった。外部の作家た生んだ。これらの作品は直接に核を登場させては実においても公害などによって否定されてきてい ′ちは核戦争が起きるまでの経緯を描き、あるいはいなかったが、間接的には核戦争の不安を内圧さる。ゲリラ戦争との関わりで言えば、兵器科学の 、破壊された世界で死を受け入れるか、運命に対しせていたように思う。しかしここでもいかに切り粋としての核兵器による全面戦争は、ボタンを押 ' て悪あがきする者たちを描くことが多かったが、抜けるかに終始して、やはり地球的なトータルなせば一瞬にして決着がつくという形で戦争を時間 の中へ集約し、殺される人間を平等に否定した ジャンルの作家たちは、核戦争の後の荒廃し思考を採用した。 た世界に生き残った人間たちがいかに英雄的に働そしてまたはタイム・マシンや多次元宇宙が、むしろ原始的といえるライフル銃とゲリラ戦 - き、協力し、かっての地球を再興したかを描くこなど、大ぎなテーマに発展しうるものを単なる小争によってあっけなくも否定されてしまい、戦争 とが多かった。核戦争という重大な危難に際して道具にして小説の中に氾濫させてしまい、それらそのものは時間と人間個々の中へと解放されてい もは徹底的に楽天的で、全地球人類的な視点の多くが御都合主義的な限定をほどこしたものでった。 から、いくらかでも生き残ればいいのだと考えたあったことを忘れ去って思考を省略した。しかも少くとも英国においてはこうした傾向が生ま のだろう。のこうした側面を臆面もなくさらそれをはの上に作られるなどと美化したれ、発達しながら旧を制圧しつつある。ニュ ーウェーヴはそれらを追放するためにも闘い続け 、けだしたのが未来史年表なるものである。そこでのである。 ・は核戦争がまるで人類の新しい段階を画する時点全地球的な思考といい、社会の総体を描こうとなければならないだろう。 ・ででもあるかのように、むしろ誇らしげに記されする姿勢といい、その貫徹は極めて困難であり、 ていたように思う。 徹底しようとしてテーマが叙述の中に埋没してし ゲリラ小説特集
け焦げているばかり。 巨大な胸部がのっていた。自然は地球の大気層の稀薄化に対して、 人間をこのような形に、身を鎧わせたのだった。しかしこの、まこ とに注目すべき夫婦の、最も注目すべき部分は、短い、きやしゃな いまや、遊び戯れる子供たちのように手をむすびあづて、オメガ 頸部の上に据っている重々しい頭部だ。その頭蓋発達は異常なほどとサルマは湖に近づいた。彼らは、ただ地面の高い部分に足をふれ だった。その膨隆した前額は強大な頭脳力を表示していた。広く離るだけで地の上を滑走し、とうとう、温い、静かな水に足をひたし れあった両眼は、大きく丸く、黒く、知性の光にきらめいていた。 て停止した。 彼らの耳は、人生のあらゆる音楽、あらゆる声音のために調整され ォメガは杯の形にした手で水をすくうと、むさぼるように飲ん て、驚くほどに大きかった。その鼻孔が大きく、拡張している反・こ。 面、ロのほうば、感性的で、唇こそ厚かったが、非常に小さかっ 「素晴しい」と低い音楽的な声で言う。「それにふんだんにある。 た。彼らは全くの無毛だった。ーーー人類は幾世紀も前に、その眉毛 ここでなら私たちは長生きできるだろう」 や睫毛すらも失ってしまっていたのだ。そして彼らがほほ笑む時、 サル々はただもう嬉しくてたまらないといったようすで笑い声を そこに歯並みのきらめきをうかがい見ることはできなかった。人類あげる。その赤くふちどられた大きな両眠は、母性的な光と愛情に の進化過程中、自然はとうの昔に、歯を振りすててしまっていたの輝いている。 ・こづこ 0 「嬉しいわ」と叫ぶ。「アルフアもここでなら、きっとしあわせに 空を飛ぶ銀の大船は、いまや、かって太古の海だった地床の、深い育ってくれるわよ」 く、ほ地のなかに休息していた。幾百万年という年月が、太陽エネル 「そうともさ 6 それにお前ーーー」 ギーという吸取り紙と、幾多の風というむち打ちのもとに、その海水ォメガは急に言いやめて、鏡のような湖面の向うを凝視した。そ を吸いつくし、もはや、塩からく浅い湖が残るばかり。百工 1 カー の真ん中辺に、なにやら落ち着きなく波立っているところがあっ あるかなしかの、この湖岸に沿って、黄色がかった緑の草地のふちた。大きな水泡が水面にぶくぶくと浮き上って、片側へ渦巻き寄っ どりが、水ぎわを追い、水分という必要不可欠な物を求めて、ひしていた。やがて突然、大きな水柱が、地下からの圧力で噴射された めきあい、そしてそこここに、草の間から、色あせた花弁と痩せ細ように空中に突き上げられた。二人が無言の驚愕のうちに見まもっ った蕚をつけた花々が、燃え盛る太陽に向って、雄々しく頭をもたていると、この騒擾は突然終りをつげ、湖面は以前同様、平静にも げていた。そしてこの、かっては太平洋の海底をなしていた、山並どった。 みや谷間の間の、最も低いあたりに抱かれたように存在する孤独なー「あすこには火山活動がある」とオメガは恐ろしげに言った。 湖は、いまや地球上における最後の水をたたえていた。世界のそれつなんどき地面が口を開けて、この湖を猛火渦巻く穴の中に呑みこ R 以外の場所は、無慈悲な太陽の下に、不毛で生命の影すらなく、焼んでしまうかわかったものじゃない。だが、いや、そんなことがあ
ーーーこれが人 問の真の姿た これでも地球 人類は高級な〔 ' 第・代物といえる 極悪非道な悪 鬼は幻魔か、 それとも人類 お時 ! : どうだ
SF の初心を伝える 冒険とロマンの ハヤカワ S F 文庫 既刊 24 点 最新刊 荒市子コナン , 、ワード & ディ・キャンプ 群がる敵を倒しつつ、戦・栗の魔境ャネイダーノレに乗り込んだコナンを待つものは ! 皆殺し軍団 宇宙の不死者 セイ / ヾーへーゲン リオの狼男 地球人のお荷物 平井和正 宇宙囚人船の反乱 銀河の日、空を抜けて ダーノレトンイ アンドロイド 砂の惑 平井和正 砂漠の救世主 霊狩り 平井和正 地球の汚 六つの月の要 豊田有恒 シェ。ーノレ & ダ・一。ノレトン 銀河の果ての惑星 暗黒界の妖精 砂の惑星 2 モンス 、ロウス・ 銀河よ水なれ 狼よ、故郷を アンダースン 平井和正 砂ま星 輝く星々のかなたへ ノ、ミノレトン ゾンガーと竜の都 放浪惑星骸骨の洞窟 、冫ンヨー - ン・、ス・ 〔 11 月刊行作品〕 火炎の塔 ( 仮題 ) のくイ、ン 核戦争起こらず 270 2 7 0 Y 2 4 0 アンダースン & テ・イクスン 、 2 5 0 Y 2 7 0 2 4 0 \ 2 6 0 V 3 3 0 \ 2 6 0 2 3 0 Y 3 5 0 3 2 0 4 Y 2 7 0 0 2 4 0 2 5 0 \ 2 3 0 2 3 0 3 3 0 カーター 2 4 2 6 0 2 4 0 ( 仮題 ) マーノレ & ダーノレトン A6 判 ( 文庫サイズ ) カラーロ絵・挿絵つき