ー 1 を集 アメリカのマンガ家て最も 鋭い文明批評て定評のある ファイファーの作品群の中 から厳選した代表作 ! ! がです ・特集・ 号円で フランス漫画の展望 4 0 中 伝統あるフランス漫画の歴史と体質を明らかにする第 発 とともに現在のフランス漫画界の傾向をさくる。 《評論》 伊藤逸平・小野耕世 《マンガ》 ポーレット・ーコマもの 空コ十ン SF 界にその名も高いロバ ート・ E ・ハワードの原作 をタイナミックに劇画化し たアメリカン・コミック ! ! 日本唯一の 海外コミック 専門誌 ますます好評 ! ! 5 ぐ 刻叫十ト , ト アメリカ・アンタ - ーグラウ ☆フランス漫画界の第一人 ンド・コミック界の巨匠ロ 者ボスクのくリひろげる、 バート・クラムが描く退廃と 工スプリとサタイアに満ち 混乱の世界。映画化公開 ! ! た 1 コマ・ナンセンス ! !
「にくは、小学生のときから、アメリカの = ミ ' クスを読戦争のため・・・・・・こうして三人、い 0 し = にル ' 力で食事を一 0 んで育った。だから外国マンガにはずっと接して、親しくできるようになった。ううむ : : : 」 なっていた。それは、大学を卒業しても続き、アメリカだ「ここへ集ったひとりひとりに、そのいきさつをきいてみ たら、それそれ変った話がきけるかもしれないな」と私。 けでなく、世界中のマンガに接するようになっていた。と ころが、ばくは、数年前スキ 1 で足を折って、二か月ほど「ぼくはね、以前は、人の一生というのは一直線がひかれ 入院しなくちゃならなかったんです。それは、つらかったていて、それをたどっていくようなものだと思っていたん けど仕事から解放されて、二か月の自由な時間があったこ だけど」と、ジジが言った。・「そうじゃないんだと、近ご とになる。それまでにも、フランスの雑誌で、マンガ研究ろ思うようになったよ。その一直線に、いろいろな人たち 誌のことを知っていたけど、忙しくて連絡をの別々の線が交錯しているんだ。それがどこで、どうから とるひまがなかった。入院中、ひまにまかせて、・ほくは手みあうか予測がっかないものなんだな」 紙を書いた。そしたら、のモリテル = 氏「たとえば、私がここで、食事していて、ソースを服にこ は、親切にも、 Z —の・ハック・ナン・ハー全部と、 ・ほしたとする」と教授。「そしたら私は、着替えのためホ フランスのコミックスをどっさり送ってきてくれたんでテルに戻るだろう。そのとき、たまたまロビーにいた若い す。それが、そもそものはじまりだった。手紙のやりとり女性と恋におちいって、私の運命が変るーー・などというこ がつづいて、ぼくはの日本からの通信員ともありうるね」 になり、やがて国際コミックス組織—OOZ の日本からの私たちは三人は、しばらく、そのことについて、つぎせ メン・ハーとして登録された。それやこれやで、私は各国のぬ興味をもって話しつづけていたことを、・私は思いだす。 研究組織と関係するようになり、今回、ルッカ大会に来ら いまでも私は、自分が、「ルッカ 8 」に出席してきたこ れるようになったわけなんですよ。だから、もしぼくが、 とが、信じられないような気がしているのだ。 スキーで骨折しなかったら、いま頃はこうして、ルッカに ( なお、「ルッカ 8 」は、前半が、アニメ 1 ション大会で いなかったろうと思う。それを思うと妙な気がしますね」後半がコミックス大会であった。日本の久里洋二氏の作品 「ぼくの場合はね」と、ロべ 1 ル・ジジがいった。「ぼくも上映され、結局久里氏も、どたんばになってルッカにや は、もともとフランス生まれじゃないんだ。戦争のとき、 ってきたのたった。私は大会で、参会者に久里氏を紹介し 両親はフランスに強制移住させられて、それで、フランス たり、インタビューの仲介やらで楽しくかけずりまわっ に来て、・ほくはフランスに育ち、マンガ家になって、いまこ た。久里夫妻は私よりも一日早くルッカを去った。アニメ こにいる。戦争がなかったら、別の生き方をしたろうな」部では、クラム原作による「フリツツ・ザ・キャット」も 「こりや、とても興味深いはなしだ」と教授がいった。「私上映されたし、また、私はほんとうに久しぶりに、フライ ぐち は、卑劣な同僚のつげロのおかげで、いまここにいるし、 シャ 1 の「ガリヴァー旅行記」を見たのだった。アニメー ションの収穫もかなりあったことを付記しておく ) きみは、スキ 1 で骨折したおかげでここにいる。ジジは、
1 タース、異星人の乗り移ったエジンスラ侯の ママと、そのママのしりにしかれつばなしでち はすべて原地ロケが行なわれ、問題のサンニコ ロウ人形にロン・ ( ドリック他。 っともうだつの上がらない・ハ・ハのいるお高くと フ島シーンは北部太平洋のカムチャッカ半島に 〈フランス〉 ある実在の活火山ウゾン・カルデラで行なわれまった家に反抗して、今日も仲間とルナ・ハーク tLe<Soleils De L'iIe De Paques 』。 のお祭りへとやって来た。そこで皆とはぐれて る。このカルデラは直径約 6 の大火口で中に フランス資本でプランス・プラジル・チリ しまったシャーリーは偶然にも地球侵略を企ら は無数の小火口から噴煙が立ちの・ほり、間欠泉 ・イースタ 1 島にロケされた映画。前記の む異星人と出会ってしまった。しかもその異星 や氷河と隣り合わせて巨木の密林があるとい う、正にサンニコフ島そのままといった感じの人がこともあろうに飾ってあったエジン・ ( ラ侯『 Sh ミ : : ・』と同様の異星人ものだが、こち のロウ人形に乗り移ってしまったから話しがやらは、間違った方向へ進んでしまいそうな地球 所だそうだ。 やこしくなってくる。人はシャーリー 監督はアルベル ト・ムクルチャンとレオニ の話しなを正しい道へと導びこうとする善人宇宙人を描 いた哲学的な作品。 ド・ポホフ。アル ( ンゲルスク航海学校の全面んか信じてくれないし、その内シャーリー自身 フランスの人気監督クロード・ルルーシュが 的協力のもとで北極ロケから撮影が開始されにもだんだん自分がわからなくなって、ついに た。 は精神病院入り、しかし侵略の日は刻々とせま主催するフィルムプロの配給だが、若い・ヒ工 ってくる。 ール・カスト監督があまりに文学的に撮りすぎ 〈オーストラリア〉 だいたいこんな国に映 製作・監督たため、地球を半周する大口ケーションの効果 ん もあまり上がらず、たいした作品にはならなか 画産業があるのかと思っ はジム・シャ ているような国でもちゃ ーマン、脚本ったようだ。 なおフランスではこの他にもプラジルとの合 んと映画が作られていて はシャ 1 マン しかも映画が話題に いと映画で ( ロ作でアーシュラ・アンドレス ( ドクター・ノ ウ、レッド・サン ) を主役にした tWho's なったりするのだから楽 可ルドを演じて Beta 』という作品が企画されている。 しくなってくる。これも もいるヘルムー ( 井口 ) ・その内の一本、去年の夏 ト・スケイテ よ シドニ 1 で開かれた映画霧】 かイスの共作 祭に出品され話題になっ なで、監督自身 」 0 ダスリラーコメ 『 Shirley Thompson 。、ディー・ロッ Versus The と iens 』。 。クと称す シャーリーは、ちょっ 続るこの作品、 と太り気味を気にしてい 評論家のうけ る女の子、、いつでも小言 もよかったよ ばかりいいながらシャ】 ラうだ。出演は リーを優等生のハロルド イシャーリーに を結婚させたがっている ー 253
久里洋ニ氏とディビッド・パスカル氏をかこんで ( ルッカにて ) グラフィスの「コミックス」を見るディビッド・パスカル氏 ( ニューヨークにて ) グ、メキシコ、 / ルウ = ー、オランダ、ルーマニア、スペ借りきった形になる。必要な会場や設備は、一か所にまと イン、スイス、ハンガリー、 ロシア、ウルグアイ、スウ = まっている。といっても、どんな小都市でもいいというわ ーデン、アメリカ : : : であり、以上の国からは、マンガ家けこよ 冫をいかないだろう。やはり、魅力的でなくては、遠来 かジャーナリストか、またその両方か、とにかく、だれかの客をむかえるにはふさわしくないだろう。ルッカは、小 が参加していることになる。 さくて美しいから、 いいのだ。 ( フランスでは、アヌシー ルッカ大会の名誉会長は、当然のことながらルッカ市長で、国際ア = メーション・フ = スティヴァルが一年おきに であり、実際のディレクターは、ローマ大学のコミック・ ひらかれるのも、まったく同じ理由にもとづいているので アート研究部門のリナルド・トレイニである。 あり、理想的なケースである ) こんな・せいたくな大会は、大都市ではできない。 では無理た。東京でも、ニューヨークでもむずかしい。協 3 ニューヨ 1 クの孤独なマンガ家 カ態勢がととのわず、混乱がおきるだろう。大都市での大 会などはどうということもないが、費用だけはかかりすぎ るほどかかってしまう。 実際、今年の四月に、大都市のニューヨークで、はじめ だが地方都市が協力すれば、いわば、大会が、一都市をて国際コミックス大会がひらかれ、ルッカにや「てくるよ うな人たちはみ んな参加したけ れども、実際的 な運営に当っ た、アメリカ漫 画家協会の海外 部長ディビッ ド・パスカル氏 ( 彼は、ルッカ 大会の重要な運 営委員で、大会 のポスターは、 毎年彼が描いて 3 いる ) のはなし によると、内幕 )
記録し、特に先史時代か ところでどっこいドーヴ らの聖地であると言われ アーの、海の向うのフラン る聖レーザンヌ教会のく スは、カペー王家のその時 だりが興味深い。私の産 に、シャルル 4 世が死んだ 霊山は勿論聖レーザンヌ あと、血筋がぶつつり切れ のもじりである。 ちましいとこはとこの数 ある中で、フリ ィップ 6 世 Der Geheimnis der Kö・ 密が名乗り出る。 mgreicher 秘さあお立合い問題だよ。 の 〈諸王朝の秘密 プランタジネット家はイギ 朝 クラウス・フォン リスで、王様の名はエドワ 王 ・クラウス ードの 3 世た。その王様が 諸 さあてお立ちあい。ご 大反対。 3 世なのに大反対 用とお急ぎでない方は、 とはこれいかに。それもそ 寄ってらっしゃい見てら のはす 3 世の、おふくろさ っしゃい。急いで死んだ まのイザベラは、シャルル 馬鹿がいる。お前死んで 4 世の妹た。 も誰泣くものか、山の鴉が啼くばかり。 フィリツ。フ 6 世はシャルルのいとこ、イザベラさまはお妹。さあ とまあ、これを英語でどう言ったらいいのか知らないが、ふうてどうするねイギリスさん。あのフランスを血のうすい、フィリップ んの寅さんが、ロンドンのどこかに店をひろげてイしたら、羽根 6 世に呉れてやる、そんなチョポイチあるもんか。 がはえて飛ぶように売れることうけ合いというのがこの本だ。 呉れろ呉れないやるやらぬ。やって減らぬはアレばかり。ゆずれ : ええお立ちあい。恐れ多くも畏くも、ご当地イギリスの王室ぬ同士がつの突き合って、起ったいくさが百年戦争だよお立ち合 は、もとを辿れば九世紀、かのエグバート王からのお血筋で、ノル マン、カペ 1 ランカスター ヨーク、ヴァロアにステュアート。 ところがここに真相は、あにはからんやわからんや。兄がはかっ オレンジ経由ウインザーと、王家の名前は変れども、千代に八千代てだめならば、おととに測れるわけがない。奈良の大仏背くらべと にさざれ石、ずっとつながるお血筋た。 来た。 3
: とそこで。ヒオ その証拠に・ 人間の集落は、地形のあり方 ッティは世界の各大都市に共通 によって必然的に位置が定まる : 、レイン・ヒオ する地形、地質などをことこま のだというのカ / かに述べたてる。 ッティの説く骨子である。 地価の値上りが激しく、巨額 古美術商の原さんを紹介した の金が土地投機に動いている今 〈産霊山秘録〉中のヒ一族 日、私はこの本を高斎氏が翻訳 のネタとなった〈神統拾遺〉に して出版すれば、ひょっとする ついて自然に触れてしまったの と大ベストセラーになるのでは で、〈神統拾遺〉については省 ないかと考えている。 略するが、〈産霊山秘録〉の生 みの親は、実はこの本なのであ なぜなら、ビオッティの説を る。 マスターすれば、将来どこが高 騰するかすぐに判るからであ この世界には、或る一定の 「気」のようなものを持っ土地 だがビオッティはそんなこと がある、と。ヒオッティは一一一一口う。 都市の必然性 に自説が利用されるとは思って 彼は東洋の思想を学ぶのに、中 国よりは日本の文献に多く頼ったらしく、「気」をキ又はケとそのもいないだろう。彼は「気」に従って世界の国境を再編成すること を主張しているのだ。強い「気」の大都市と、やや強い中都市、か まま訳している。 私が〈産霊山秘録〉で「ヒ」を持ちだしたのは、勿論〈神統拾すかにある村や部落 : : : それらを更に高所から案すれば、世界は幾 遺〉の「日ノ民」からであるが、同時にビオッティの「キ」にも触っかの「気」の集団と見ることができるからだ。 私はそれを〈産霊山秘録〉で語ってみたが、とても。ヒオッティの 発されている。 そのような土地は、人間の精神活動を活発にさせる「気」を持つような具合には行かなかった。 とにかく私は田舎道を歩いて部落へ入るとき、何となく心が和む ているのだ。人はその土地に入ると浮きたち、勇気が出、多弁にな ( リ然り、ロンドン然り。世界のを知っている。ピオッティが主張していることは、だからきっと り、より知恵が湧く。ローマ然り、 の大都市はそのような「気」を強く持ち、なるべくしてなった大都正しいにちがいない。 なお、著者はフランスのレーザンヌ地方で「気」の実態を精密に 市なのである。 Uitta 2
クロード・モリテルニ氏 ( スタジオにて ) 氏よ、、 じてくれ、彼が描いている新聞連載「ンガ「秘密情報部員一 なま かにもマ コリガン」の生原稿を一枚くれた。もちろん、フラッシ ンガ家と ュ・ゴードンも、描いてくれたけれども、彼は、生年月日 いう感じでいえば、もう四〇代のはずなのだが、若く、二〇代のよ ・カュ / うに見え長身のいい男だった。 おおまか ビジネス・マン化しているアメリカのマンガ家たちをみ で、ゆっ 1 ト・クラム ていると、サンフランシスコで会った、ロく たりと、 などのアングラ・マンガ家や、マ 1 ベルや AO のコミッ 楽しい ク・・フックのマンガ家たちのほうが、いかにもマンガ家ら 親切な人しかった。シンジケ 1 ト・システムは、マンガを漂白して で、彼のしまうだけでなく、マンガ家の体質まで変えてしまうので 作品を訳はないのか。アンダーグラウンド・コミックスが抬頭して している くるのも無理もないと、つくづく思う。マンガ家らしくな こと、 いマンガ家たち。 私一は、、つ ススカル氏は、もう二度と、あんな苦労をしてまで、ニ れしく思った。やはり、マンガ家はビジネス・マンのよう ューヨークで、コミック大会をひらくのはごめんた、とい に、ギスギスしていては、楽しくない。 っていたつけ。 ルッカ大会で、アメリカのマンガ家が壇上にならび、参 会者と交流をはかる場面があった。「アメリカのマンガの 6 三人の男、運命について語る 将来について、どう思うか」という質問に対し、ただひと り、「アンダーグラウンド・コミックスに、突破口がある と思う」と答えた男がいた。アル・ウィリアムスンだっ ルッカのナポレオン広場にあるレストランに、われわれ こ 0 三人がすわっていた。 後で、ウィリアムスンに会ったとき「アングラ・コミッ 三人とは、プラジルからやってぎた、フランシスコ・ア クスについて触れたのは、あなただけでしたね」といった ラウジョ教授 ( 彼は、世界でただひとりの、コミックスに ら、「そうなんだ。そこが問題なんだ。みんな、あの連中ついての教授だといわれている。・フラジル大学のコミ = ニ はすっかり体制になってるんだよ」と答えた。 ケーション部のチーフだ ) と、マンガ家のロべール・ジジ ウィリアムスンは、たいへんな人気で、いつも人にかこ ( フランス ) と私である。 まれていたが、私のインタビューに時間をやりくりして応「では、あなたが、あの、世界でただひとりのマンガ学の
ともに、これに似た羊水感覚に揺さぶられたものだった。そのことランだ」そんなささやきが聞こえてきた。 「・ハ力な、・ハ力な : : : 」 を・ほくは遠い肉体の記憶として思い出した。 左隣りの老人が黒い手帖をのぞきこみながら、舌打ちを繰返し ぼくは目をつむった。 ( よし、それじゃあひとつ、今度はどんな数が出るか当ててやろた。 ・ : すると三十六倍だから十八万フランか。日本円 ( 五千フラン。・ ・ : 2 だ ) 目をあけると、女が自分のチップを全部ばくのチッ。フとごっちゃに換算すると、えーと、千八十万円 ! ) それまで見たことのなかった金。ヒカの下足札のような大きなチッ にして、係員に渡そうとしているところだった。 。フが十八枚、女の前に積まれた。 「あの : : : 」 ほくが問いかけようとするのを、女は芝居がかかった優雅な仕草女は目尻に笑いを刻んでぼくを見上げた。トビ色の瞳がチップと 同じ妖しい黄金色に変色していた。 で唇に手を当てて制止、片眼をつむってみせた。 「どうなさいます、これをもう一度すっかり賭けてみません ? 」 「これを全部 2 に」 「もちろんですとも。あなたのチッ。フですから、あなたのお好きな 女が係員にそういった。 ように」 「これ全部ですか ? 」 「あら、何をおっしゃいます、東洋の若い紳士よ、これは全部あな 「ええ」 胴元が無表情にうなずいて、賭けを受ける意思を示した。そしてたのものですわ」 ・ほくは東大でフランス文学を専攻したが、正直なところ語学力は 運命の玉を取り上げた。 ぼくは夢の中の出来事のように、ぼんやりとそのやりとりを眺め皆無で、羊水感覚の昻揚した気分に支えられてカタコトを操ったも のの、はたしてこんなエ合にいったかどうかは保証の限りではな ていた。 ルーレットが回り始めると、女は椅子をずらせ、びったりとぼく にくつついて、目を閉じた。かすかに汗ばんだ胸のふくらみが上下・ほくは顔中の筋肉をゆるめながら、チラリと胴元の様子をうかが った。そして愕然とした。 するのがのそけ、静脈がうっすらと透けてみえる白い肌が、意外に なんと胴元はアクビをしているではないかー なまめかしかった。よくみると小さな黒子がいくつかある。急激な すこしは焦っているかと思ったのだが、とんでもない話だ。たか 衰えに向かう寸前の充実ーーそんな感じだった。 玉がルーレット盤を転がる乾いた音が止まり、テー・フの周囲でどが一千万円・ほっち、この連中にとっては路傍の石コロ同然の ( シタ 金にすぎないのだ。そのことを、ぼくは痛いほど思い知らされた。 よめきが起こった。 その途端、猛烈な偏頭痛がやってきた。これも子どもの頃の〈予 「見ゑ 2 だ」「驚いたな、あの女が賭けたんだよ、全部で五千フ 2
「ルッカ 8 」事務局のようす ( 上 ) ルッカ市のコミックス大会城壁の外は川にかこまれていて、その外側にも街は伸び 今年で通算 8 回目になるており、ガソリン・スタンドが見える。ビサまで続く広い ので、「ルッカ 8 」といわれ道を、自動車が疾走していく。 この美しい街に一度でも来た者なら、忘れることはでき ているーーは、十月二十九日 から十一月四日まで開催されなくなるだろう。だが、ほとんど、この街については知ら た。私は、ミラノから汽車で、れていない。だからルッカ市としては、この街を宣伝した くて、国際コミックス大会のスポンサーになっているの 二十八日の夜、十一時頃にル ・こ。レッカ市は費用をもち、場所を提供しているだけであ ッカ駅に着く。むかえの車オ / 《で、ルッカ市の中央広場 ( ナって、主催者や、実際に大会の内容をつくっている者は、 ローマやミラノ、フィレンツェ、・ シェノヴァから、そし ポレオン広場 ) にある、古く、 ハリからやってきている。 格式のある劇場に行く。このて、 これは、国際大会としては理想的な形だと思う。開催地 劇場が、大会の主要舞台であ では、全力をあげて、大会を後援する。各国からの参加者 ' 、、 ( 慮一り、ここに事務局がある。 このナポレオン広場には、 にしてみれば、ほこりにまみれた大都市ではなく、おだや 】一劇場のほかにレストラン・ホかで、まるでおとぎばなしの昔の街そのままの、きれいな 地方都市の風情にひたることができる。街の人たちは愛想 谷謦テルがあり、国際大会には、 《 ~ ( 第′まさにおあつらえむきだ。そがよく、好奇心まるだしで、私を目で追う。ここまで、日 して、なによりもいいのが 本人が来た例は少いのだろう。 全体にこじんまりとしている この古い街では、どこにモデルをたたせても、そのまま ことである。 絵になってしまうな、と私は思った。 ナポレオン広場にあるホテルには、各国からやってきた そう、ルッカは、小さい街だ。だが、小さいからこそ、 ジャーナリストたちが泊っていて、私は、事務局関係者 こんな大会が、理想的な形で運営できるのである。 ルッカは、美しい街だ。それは、中世がそのまま残ってや、マンガ家たちといっしょに、少し離れたところにあ いるというのがいちばんびったりしている。街全体が古いる、城壁の外の、ホテル・ナポレオンに泊っていた。各国 城壁でとり囲まれている。その城壁の上が、広い道となっからの代表者はそのホテルに泊っているようだった。 ていて、いまは落葉の季節なので肩に、紅葉が舞いおりる参加国をあげると、アルゼンチン、オーストラリア、オ ーストリ ア、ベルギー、プラジル、・フルガリア、カナダ、 のを感じながら、陽光に、きらめきながら散っていく葉の なかを歩く。そして、城壁から街の内側をながめると、教チ = コスロヴァキア、コロンビア、フランス、フィンラン ド、日本、イタリア、ユーゴスラヴィア、ルクセンブル 会の鐘塔が木の葉の上に伸びているのがみえる。 ⅱ 2 ー
出走したが・ぼくはモンテカルロの思い出にちなんで、番の馬とけるよ。たとえば、その後ぼくと謎の女が再会して今度は・ハカラで 2 番の馬の単勝を買った。番はフランスの人気騎手サンマルタン大勝負、あれこれあった末、ついにべッドを共にしたところ、なん の騎乗するレスクース ( 救い ) 号で、 2 番は日本から遠征したメジと女とぼくは同じ年の同じ日の同じ時刻に地球の表と裏の正反対の ロムサシだった。メジロムサシは野望むなしくビリから二頭目だっ場所で生まれていたことがわかった、なんてね。第一、女をもっと 若い美人にするはずだ。 たが、レスクースはゴール前鋭い伸び脚をみせて二着に入った。 ・ほくは迫力あるレースにすっかり満足して二枚の馬券を破り捨で、ぼくとしては、偶然説と演出説をまぜあわせたような解釈を て、思い出に別れを告げた。 ほどこして、この原稿を書き始めたんだ。最初は『わが恋せしエス ー』というふうの題をつけていた。 ところが、いざ書き始めてみると、『マガジン』にこんなノ 帰国後は時間に追われる生活がつづき、気にはなりながらもその ンフィクションみたいなものが向くかな、と不安になってきた。そ 寄妙な体験を反芻する暇がなかった。 こで、半分ほど書いて一息入れ、読み落としていた朝刊を開いた。 最近やっと余裕ができて、あれは一体どういうことだったのか、 そして「しまった」と思った。こんな記事が出ていたのだ。 とときどき考えこむ。 「オトギの国へ空路 解釈は三つあると思うんだ。 その一、偶然説。つまり自分では〈予知〉と思 0 ていたが、それ人口六千人余り、世界で一番小さい国の一つ、南太平洋のナウル は異国で神経が昻ぶ 0 ていたための錯覚で、本当は単なる偶然の一共和国から、鹿児島、沖繩に国際航空路が開かれることにな 0 た。ナ ウル共和国はニューギニアの東北東、赤道のちょっと南に浮ぶサン 致にすぎなかった。 とし ゴ礁の島。世界の独立国の中ではパチカンに次いで小さな国。日本 その一一、説。年齢をとって弱まっていたぼくの中の隠れた 能力が、日常生活のわずらわしい桎梏を離れた旅でよみがえり、女からの観光客誘致がこれからの国の生きる道だと大統領がご執心。 運輸省は〈日本の航空会社に圧力とはならない。夢があって大いに のそれと共鳴しあって、二人で一人前の働きをする結果となった。 結構〉とイキなはからい。ただ〈お客がいるかどうか〉を心配、需 しかしその効力は短時間しかつづかなかった。 その三、演出説。胴元が単独で、あるいは女とグルで、 ( その動要をみるため、当分は不定期扱いにする方針という。テスト・フラ 機はわからない ) 、ぼくらの張った目を、わざと出してみせた。カイトの結果がよければ十二月中旬にも第一便が飛ぶ予定」 ジノではときどきのために特定の初顔の客に大儲けさせて人気ナウル共和国とはー ぼくは驚いて百科事典をひっくり返し、その面積を調べてみた。 をあおることがあるらしい。 二十二平方キロもある。安心した。モナコ公国よりは大分大きい 以上の他、読者によっては、すべて作者のデタラメな作り話さ、 と解釈する向きもあるだろう。しかし作り話なら、もっと面白く書その夜はもう書きつづける気になれず、ばくは久しぶりで就眠儀 263