いなおされる。 きは、根太のゆるんだド・フ板や、コールタールを塗った電信柱や、 新聞配違の自転車など、日本にしかない情景をもっ世界にかえる。 金属活字は、グーテンベルクによって、発明されたと説かれる。 それは、おれみたいに、日本的なもの、アジア的なものを排除すグーテンベルクより、はるかにはやく、朝鮮において実用化されて るよう、意識的に教育された世代にとっては、なんとなく異様な、 いた史実は、意識的に無視される。 だが逞しい風景だった。 マルコボーロやヴァスコ・ダ・ガマには、多くのページをさいて ちょうけん おれは、いつのまにか、仕事で行くさきざきの土地で、神社仏閣も、漢の張驀や明の鄭和については、ほとんど何も触れない。 こうした偏向教育は、小学校からはじまり、自然科学、社会科学 などを訪れるようになった。べつだん、抹香くさい動機からでたこ とでもないし、いわんや、天皇を頂天とする国家神道に奉仕する気など、ありとあらゆる分野にわたる。右も左もなく、イデオロギー などさらさらない。しかし、由緒ある神社の境内に立ち、自然と調とは無関係に、日本の社会の上層部にいる人々は、日本人の全てを 和してたっ白木の社殿などを眺めていると、古代人の素朴な感情が徹底的に洗脳するため、一致協力してことにあたっている。 かん 生んだ神ながらの道といった発想も、なんとなく理解できるような長髪、ジーパン、ロックといったような外面的なことではない。 気になった。 そうした表面的なものはどうでもいい。というよりむしろ、長髪や おれは、アメリカナイゼーション世代のいわば順当な出世コース ジーパンに対して、新しく入ってきたという理由だけで、ジェネレ からはずれたとき、はじめて日本的なものの存在に気づいた。それ ーション的な拒否反応を示す人ほど、心の奥深く根ざす対コーカソ ドロツ・フ・アウト をいわば落伍者としての心情的な共感であったかもしれない。 イド劣等感をいだいている。そして、内面から日本人を改造しよう ロツ・フ・アウト 戦後の四半世紀、日本人の手から落ちこ・ほれていたものを、ふたたとする動きに、すすんで奉仕するようになる。 び拾いあげる喜びであった。 おれは、体制の枠組から放りだされ、一匹狽としてしか生きられ かって、征服者日本人は、東アジア世界の人々にむかって、神社なくなってはじめて、数々の矛盾に気づきはじめた。 ラスティック の礼拝を強要し、日本の文物を強制する、悪名たかい皇民化教育を今この国では、たいへん急激に、日本人のコーカソイド化教育 ほどこそうとした。その日本人が、今度は同じ同胞にむかって、左 が、押しすすめられている。全ての日本人が、コーカソイドの立場 右のイデオロギーを問わず、一致協力して一つの価値体系を強制からものを、 しい、コーカソイドの行動様式でうごくごとを、すこし し、四半世紀にわたる偏向教育を遂行してきた。 も疑問に思っていない。かって、この国の人の行動を律していた フォーク市ェイズモーレス そこでは、日本人は、朝鮮人や中国人の仲間ではなく、コーカソ習俗や掟は、今では影をひそめてしまっている。 イド ( 白色人種 ) の一員であるかのように教えられる。コロン・フス それほどまでにコーカソイドに奉仕した結果、日本人はかれらの のアメリカ到着は、アメリカ発見と言いかえられ、ゲルマン民族のあいだで市民権を獲得できるのだろうか ? かって、明治の日本人 大退却は、コーカソイドの立場から、大移動というきれいごとに言は、欧米諸国とおなじような文明開化がなったあかっきに、日本人 0 9
地史は、億年の単位の物語である。 同様、この地レムリアもまた、みようによっては、インド洋上に その日 おいて、独立したひとつの世界ともみうけられる。古くはナルダマ 3 はや、数十億年の時の頁が、長き地球の地史に刻みつけられたあの地ともいわれた北方インドおよび大島マダガスカルを南端にとり る一日のことであったが、レムリアの世界は、見事に晴れわたってこみつつ、細長く形成された小大陸 : ・ 噫々、レムリア″【 ライト・プルーの白亜の海。鮮かなセルリアン・プルーの空。そ この地、北方大陸より南の水界へむかって、鍵型に張りだしてい る亜大陸は、、 しま、うっそうとした亜熱帯型広葉樹の密林と東南端の無限の広がり。雲ひとつない。底知れぬ深い青空。正午の太陽の のサバンナおよび砂漠によって占められていたが、辺縁部に隔壁の放っ光が、この太古の世界にみちていた。 ようにつらなる火山脈によって、あたかも、ひとつの別天地を形づあたかも眠るような時は、この地史的世界にふさわしく穏やかに くっているのだった。 流れているが、しかし確実で、また新らしい扉を開こうとしている 時は、一億五千万余年の歳月にわたる地史的安定期たる中世代、 この時代はさらに三畳、ジュラ、白亜の三期に分けられるという たしかに権威ある学説によれば、この地レムリアこそ、われら現 が、そのもっとも長かった最後の期たる白亜七千万年がおわろうと世人類の最も古き故郷であったといわれているのだ。この、白亜の している頃のこと。かって、南方世界に君臨していた古き巨大大陸インド洋に、おだやかに岸辺を洗われているこの土地こそ・ : ゴンドワナは、解体して、大部分が海中に没しきっていたが、レム様、この物語の主人公たる彼ら蒼き種族の者たちにとっても、我々 以上に深い意味を持っていた、とおもわれる。 リアはその残滓といわれる。すなわち、オーストラリヤ、南アメリ 力、アフリカなど南半球諸大陸などとともに、ここは超太古世界の 名残りといえた : 事実、かっての世界地図はその様相を一変させているのである。 たとえば、北米大陸よりアトランチス洋を越える巨大な陸橋がヨー 飛行体は、青銅色であった。 ロッパ西海岸に伸び、また陸化した・ヘ ーリング海域はカナダ硎をア この物体は、底知れぬ蒼穹の一点より不意に現われ、目的地を目 ジアにつなげていた。むろんューラシャ大陸自身もまた変貌をとげ指して急速に近づいてきた。かろうじて姿勢を保ってはいるが、儚 ている。地殻変動と海水位の上昇のためか、あの巨大なる大浅海テつきながら傾いていることは確かだった。密林の梢をびき裂きなが ーチスの海 ( 古地中海 ) を奥深くみちびき入れており、北方のフェらかすめ過ぎ、やがて樹海の一点に埋没するように消える。 ノ・スカンディアと南のサハラ陸地や独立したアフリカ大陸を分け青い煙があがった。樹上のキツネザルは、きよとんとその方角を へだてていた。 眺めていたが、すぐに身を翻えして葉陰の中に隠れた。レムリアの
ファンタジイ & サイエンス・フィクシ当ン言志寺約 S 現 ス宙 リレ 平石 正郎 209 男侃男達侃明篤夫 純靖照睛和邦 丑島農島藤村谷 角中畑中斎杉長 紙扉ト博造八子茂 ・ス慶喜苑 次ラ鍋淵井崎 表目イ真岩楢新宮 S F マガジン 2 月号 ( 第 14 巻第 2 号 ) 450 昭和年 2 月 1 日印刷発行発行所東京都 千代田区神田多町 2 の 2 郵 101 早川書房 TEL. 東京 ( 254 ) 1551 ~ 8 発行者早川清 編集者森優印刷所東洋印刷株式会社 でてくたあ トータル・スコープ ・サイエンス・ジャーナル人類進化論にふたたび論す・ 世界ノ連に紹介されだ日本画・ , 、・ー・ 情報世界のファン大会島 : : 三・ : ・ : 三〈・加 ・・てれほーと すべーす・たいむ・あんてな : モンテカルロ法 一自殺ク一フプ = 新春特別企画いソ連画家ソコロラ最新傑作選 、一 ~ ソ・コロ、フ 、、宇宙への航路早川書房↓粤特別契約 、レオーノフ → 0 t.n LI ー ジョン・ヒース・スタップス 岡田英明 、印本〉石ー川喬司 ) →・《海外〉福島 ~ 正実 井日健」・一 / 大伴昌司 . 加藤」喬 〕一「無常 (DLL- 」世界の檜舞台 新しく出た一 gou- 映画研究書・ 人気力ウンタ 一 ( 世界みすて , り亠どびづ g)LL コツッスの世界一第回紅葉の散るルッカ ①宇宙の詩 シマックの最新長篇 特大号特別企画言ばなし , 私のネタ本、秘蔵本 LL 三大コンテスト応募規定発表 石川喬司 福島正実 193 225
昭和十三年という時点をえらんだのは、あてずっぽうだった。 それから私は再び丘の穴の所に行き、木の枝でおおって、さらに ー日本が、ますます深く大陸戦争にコミットして行き、ますます軍土にうめた時間機のリモコン装置をつかって、首尾よく現代、つ 国主義的になり、言論、思想の自由が、ますますきびしく制限されまり一一十一世紀にかえってきた。 こちら側で、八歳の私の意識 て行く時代、という事でえらんだまでである。 波がうまく受信できるかどうか、テストする必要があったし、昭 そして、この時代は、・・ウエルズの「タイム・マシン」は和十三年の時代に出現して一騒動を起すのは、いまのーっまり、 一部の人に知られているものの、タイム ・パラドックスを本格的に七十歳の私自身がやるつもりだったから、意識波の自動記録装置も あっかったは、まだどこにもうまれていないか、たとえ海外で必要だった。テープ以外に、自動音声タイプー高価なのでリース 書かれていても、日本にはまったく紹介されていない時代である。するしかなかったがーーを受信装置に連動させておけば、″八歳 もし 1 ーーもし、「タイム・ パラドックス」や「タイム・トラの私″の意識のつぶやきは、そのまま「原稿」となるはずだったの ・ヘル」が、全然知られていない時代に : いや、近代そのもである。 のが、社会に、ほとんど知られていない、もしくは存在しない時代音声タイプを借りに行く前に、私は、むこうのトランスミッター に、「末来から突然来た人物」が、未来史に関するインフォー が、こちらの受信装置にうまく送信するか、テストをして見た。 ションをもたらしたら、その社会は一体これをどううけとめ、どんテストはうまくいった。だが、そのうち、先方で、なんだか奇妙な な反応をしめし、どう処理するか ? ーー とりわけ、私には昔、大き気配が感じられたので、私はとりあえず、ふだんづかいの原稿用紙 らいだった特高警察の叔父がいたので、特高がどう処置するかしらに、記録をとりはじめた。 べて見たかった、若干からかってやりたかったのである。 そのうち私は、意外な事に気がついた。 その記録を、こちら側、つまり一一十一世紀の側にいて、そのまま なにか先方に、時間機が介在した奇妙なトラブルが、すでに、起 tn にしたててやろうと思ったのである。 りはじめているらしいのだ。 機械の性質もよく知らず、百 % うまく動くかどうか、綿密なチェ私は、胸さわぎにおそわれながら、夢中で記録をとりつづけた。 ックもせずに、マニュアル一つで、浅墓な事をやったものだ。 記録は当然、八歳の私の一人称のものになった。私のすぐ上 それでも、一度はテストをし、この時はうまく行った。私は、六十のしげる兄の身の上に、何かが起ったらしいのだが、私は事件がか 三年という歳月をさかのぼって、まんまと昭和十三年の世界に行なり進行するまで、その老人が、私と関係があるとは気づかなかっ き、その当時、現在のタイムマシンがおちていた丘の近所にあった、た。何しろ、私は現にそこに つまり一一十一世紀にいて記録をと っているのだから、それと時空的に平行位におかれている昭和十三 私の子供時分の家の近くをうろっき、小学校一一年生の齊にあ 0 て、 頭をなでるふりをして、その髪の中に、意識波受信装置の超小型ト年の初頭の世界に、私がいる、という事なぞ考えもしなかったの ランスミッターをかくすことに成功した。 4
おろしていたことに : ・ : ・。現象する万物にとって、本質とはいわばですとか、城壁の模型とか」 ・ : 。なぜなの」 「そお : ・ 故郷のようなものだった。その故郷にあたるものが、いま彼にはな 「わかりません」 いのだった。永遠の故郷喪失者だ。この″世界″にあって、彼は、 「でしよう」といって皇女は、観測資料をめくる手をやすめた。 常に他処者でしかすぎない。どうあがいてみても、彼は″世界″の 「それと同じことよ。商人は物を取引きしてお金を儲けるわ。で 外にあるのである。 「だから、皇女は自分を " 世界。の観察者と見定めているのだろうも、な・せなのか、つきつめていけばわからないとおもうわ。農夫は か。そう自覚しているから、このレムリアの地にきても観ることに作物を育てます。牧夫は家畜を飼います。狩人は獲物をとる。法律 家はもめごとを裁く : ・ : ・。むろん生活のためでしようが、それ以上 専念していられるのだろうか」 の理由があるとおもうの。うまくはいえませんが、それぞれが、こ ナギはそう考えて、彼女に質問してみた。 の″世界との関わりあいの手段だとわたしはおもう。人々は、こ 「そうよ」 の″世界 4 から独立したり、隔絶したり、超然としてはあり得な 皇女の答えはあっさりとしている。 い。なんらかのやり方で、″世界″そのものに関わりあっている。 「では、何のために。何の理由で、何の目的のために、観るのです 参加している。むろんわたしのいう〃世界とは、社会とかアトラ か」 ンチスの領土とかこの地球とか宇宙とかいう意味ではないのよ。も 「むずかしい質問だわ」そのとき皇女は、到着時に集めた円盤から っと次元の高い意味よ。つまり、わたしたちを在らしめているも の観測資料を調べていたが、ちょっと首をかしげた。「そうねえ・ : 。ひと言でいえば、知識欲。本能の一種ね。わたしは、子供の頃の、存在するものを存在たらしめている場所のこと = = = 」 から好奇心が強か 0 たわ。良くいえば知識の探究者、悪くいえば知皇女の話はむずかしい。が、なんとなくナギにもわかるのだ 0 でも、これでは、本当の答えにはなっていないわた 皇女は、急に話題を転じ、仕事台の上に一枚の大きな紙をひろげ ね」 「ナギ、これをみて」 「しかし、他にいいようがないのよ。お前はどうだったの、幼ない 「なんですか」 頃は」 「兵士になるまでは、技「世界地図よ。この白亜紀末期の : : : 」 「そうですね」ナギは考えながらいった。 海洋と陸地の区別がある他、大部分が空白のままだった。 師になろうとおもっていました」 「ここは : : : 」と、文字のある部分を指してナギは尋ねた。 「な・せ : : : 」 ・ : 。たとえば、水車「アトランチス大陸よ」 「創ることが好きでしたから。色々なものを : 7
かくはん 人の怨霊として、ひとつに具像化された。 まく攪拌された国民は、そのためにかえって、かっての騎馬民の故 怨霊は、飛騨盆地に近い出羽平に封じこめられた。そして、その郷である東アジア世界と切りはなされ、これらの地域に対して一人 忿怒の形相を鎮めるため、官選の日本書紀では怪奇な姿をもっ謀叛よがりの肥大した優越感を育ててしまった。女真族の建てた清や、 人として扱いながら、その一方では、その怨念を懐柔する策もとら十四世紀から続く李王朝や、越南の阮王朝などと、日本が没交渉で ちょうりようばっこ れた。ある伝承によれば、・宿儺は最初の天皇を船山へ運び、そこで いるあいだに、新しい外来の力が、東アジア世界までも跳梁跋扈し 即位させるようはからったという。つまり、はじめは外来の征服者はじめた。 にも好意的だったのだろう。宿儺が討伐を受けるのは、騎馬民族征それは、唯一の神を信じる偏狭な宗教体系をもち、かれらの価値 エリミネート 服王朝の最初の天皇 ( 応神 ) の時代ではなく、二代目の仁徳の時代体系と矛盾する存在は、情容赦なく排除することのできるーー、東 になってからである。征服の基礎がかたまり、もはや宿儺の利用価アジア世界の醇朴な人々には、とうてい対抗できそうもないコーカ 値がなくなり、飛騨に独立した宗主権を許しておく必要がなくなっ ソイドの一群だった。 たからであろう。 外来のカの脅威に敏感な宿儺は、この新しい外敵にむかって、久 それから千数百年、出羽平の山塊のなかに封じこめられた宿儺しぶりに闘志を湧きたたせた。しかしながら、宿儺は、ある力によ は、移ろいゆく時の流れを見まもっていた。その歴史のなかでは、 って止められ、行動にうつることができなかった。 けさ かっての征服者と、日本列島土着の人の別は消え、ひとつにまとま 出羽平のすぐ近くにある袈裟山に、一人の遊行僧が逗留しはじめ った民族、国家が成立していった。 たのである。この僧は、山塊のなかに封じこめられたまま蠢動しは すくな 宿儺は、この長い年月に、ひそかな満足をお・ほえたにちがいなじめた、宿儺に気づくだけの法力をそなえていた。そして、僧は、 い。はじめ、征服者の大和は、宿儺の忿怒をやわらげるため、今で ここしばらくのあいだにおこる天変地異をしずめるため、ノミと槌 は祭神すら判らなくなりかけている水無神社などをたて、宿儺を監 をふるいはじめた。 視させようとした。しかし、実際はその必要もないくらいで、宿儺 袈裟山千光寺の住職俊乗が、旅の僧のするがままにまかせておく は半醒半睡の状態で、出羽平の山塊のなかに眺っていた。 と、やがてひとつの像ができあがった。円空と名のる僧は、やがて そして、たた一度だけ、宿儺は目ざめかけた。元禄のころだ 0 寺宝とされる両面宿儺の像を彫りあげて去 0 てい 0 た。 けう た。宿儺は、地下水脈の流れる開口から、外の世界をうかがいしる いったん動きだしかけた宿儺は、ふたたび希有の天才円空の彫っ ことができた。そして、ひとつの変動の芽生えに気ずいた。 た像の法力によって、山塊のなかに封じこめられた。 この日本列島のうちに、たいへん均質な国家ができあがってい おれと中川氏は、そうした事情に気づきはじめていた。そこで、 に割りこみ、これまで判ったことを知らせ る。そのことについて、宿儺は昔の怨みをもちだすつもりはなかっ山城氏のインタビュー た。もちろん 、非礼は判りきっているが、すでに異変がおこってし た。しかし、その均質な国民ーー土着の農耕民と外来の騎馬民がう とど ・ヘトナムグエ / しゅん ー 04
「 : : : 」皇女はこたえない。 鯨は、魚類ではなく、我々と同じ、哺乳類です」 「ケンタウルスからですか」 「ええ、そのことなら」 、え」皇女は、首を振った。 「じゃ、話が早いわ。不思議なことにね、ナギ。鯨類と白亜期の古「いし い有胎動物との間には、それらしい中間形態を持っ化石は一切のこ「教えてください」 ナギは、語気を強めていた。が、皇女の表情は虚で、遠くをみつ されていない。これはどういうことでしようね」 「さあ」ナギは正直に首を振る。「鯨は、我々アトランチス人のよめていた。 「 : : : そこから逃れてきて、鯨たちが水の世界に適応したように、 うに、進化の樹の中でひとつだけ、孤立しているのですか」 「そうよ」皇女はうなずいた。「鯨の先祖は、学者たちの研究によこの″世界″に適応した。丁度、わたしたちがあのアトランチスか ると真獣類だといわれていますが、彼らは古い時期にそこから分化ら逃れてきて、この土地に住みついているように、蒼き種族は、次 元の彼方よりこの″世界″へ逃がれてきたったのでしよか。もち すると同時に、一連の急激な進化的変化をとげたにちがいない : ろん、遠い過去のことだから、その場所は忘却されているが、で 。わたしはそう考えているの」 も、わたしの遠い以前の記億、いわば種族の記憶は、かすかにその 「そして、海洋生活にうまく適応したのですね」 「ええ、その世界は、海における唯一の哺乳類であった鯨たちにと場所を知っているのかもしれない : っては、孤立した世界だった。水中生活へ移行したおかげで、四肢皇女の意識は、次元の彼方、時空の果へさまよいはじめている様 は大きな体重の重みを支えることから解放された。その巨大な体型子だった。 「皇女様、教えてください。わたくしたちの記憶は、その場所を : ・ をうまく適応させることができたのね : : : 」 「なにを、おっしやりたいのですか」 ナギの声に我にかえったように、皇女は、その瞳に彼の姿を映し ナギはまた、新らたな不安を感じていた。そのナギの抱いたある こ 0 怖れは、ある程度あたっていた。 「わたしたちにも、鯨と同じことがいえるのじゃないかしら」イザ「ああ、・ほんやりしていたわ。そのことは、またの機会にね」 その憂いを宿らせた面が、ふうっと青く笑った。 ミナス皇女は、至極、あっさりといった。というよりは、いっての けた、という感じだった。 「ナギ、わたしたちは鯨のように、どこかからこの世界へ逃がれて きたのよ。陸から海へ逃けていった鯨のように、わたしたちは、ど こかから、この世界へ逃げてきた : : : 」 「どこからなのでしよう」 そのあと、ナギは、このことを幾度も考えていた。むろん、漠然 としていて、つかみどころのないこの問題は、ただいたずらに彼を 3 おもて
急速に伸びる樹木におおわれて、傷あとをかくしていた。 ランチスは、その役目をおわって、海の底へ消滅していった」 レムリアは、外部世界からの侵入者ののこした痕跡を一刻も早く 「すると、最終幕たったのですね。この白亜紀末期よりはじまった 隠そうとしているかのようであった。 進化の劇は : : : 」 「そうです。この地球の主人公、人類たちが登場する。この地球とその日、白亜のレムリアはおだやかだった 9 樹海を吹きわってい : ・。もはや、わたくしたちは不要です。皇く風が、下等猿類たちの騒音をうち消していた。 いう進化の舞台の上に : そのジャングルジムをおもわせるような垂直の樹幹をとびうつり 女様。わたくしたち二人は、本当は生きのびるべきではなかった。 ながら、二つの影が素早く移動していく。よくみれば、この世界に 運命にさからって生き残っているのです」 はみなれぬ大型の猿のようにもおもわれた。 「他の皇女たちもそうなのですね。逃げのびた者たちは、わたした いったい、どこへいくのであろうか。猿の本能が、どこかへおも ちのように、仮現の者としてこの世界にとどまっているにすぎない のね。まるで、幽霊のように : : : 。運命が尽きたのに、この世界にむかせているのだろうか。たしかにそうだった。彼らは、まっすぐ とどまっている。いや、そもそもアトランチス人そのものが、そう東方の海岸をめざしていた。 した種族だったのかしら。存在してはならない場所に、現われては やがてジャングルはとぎれる。火を噴く山脈が前方に現われ、昇 いけない世界に、現われた。でも、とするならば、わたしたちの正 るにつれて樹相がかわった。 ・ : 。やはり、わからないわ 9 ″世界″をさまよえるさすら 体は、 遅れがちのやや小型の猿を、もう一匹の猿が、かばっているよう つがい い人なのかしら。時空を越えてあるような世界を、あてどもなくた にもみえた。その番の猿は、峠に達した。 だよいあるいている」 海原が眼下にみえた。 なぜか、語りあう二人の声すらも、樹上の住民たちの発声する叫白亜の海″・ び声に似はじめている。皇女は立とうとしてかなわず、地を這って大きな猿が、何かひと声、鋭く叫んだ。指す方角をみた小さな猿 いる 9 ナギは、背中を丸めてうずくまっていた。 が、うなずく。 紺碧の海原の一点に、白く輝くものが浮かんでいた。 日が暮れ、二匹の猿は、岩蔭でうずくまっている。寒さをかばい 7 あうように、二匹は、躯をよせあっていた。 もはや、皇女の面影はなかった。ナギは、その全身に体毛を密生 以後、変貌は急速に進んでいた。もはや、理性は退化し、本能の させている彼女の躯を抱きよせていた・互いが、けものじみた体臭 ままの二人がいる。 すみかとしていた " 船 ~ は、腐食しつくし、崩れはじめ、蔓類がをかいでいる。内腿のどこかに、傷があるのだろうか。傷口の泥を 6 おとしてやろうとしているように、ナギの舌が、そこをなめてい その上をおおった。拓かれたジャングルのこの一角は、ふたたび、
の政治色を加味されているものの、本来の伝承の原型をとどめてい だ。この異常ともいえる急速なコーカソイド化のなかで、日本的な る部分も少くないこの国の神話は、それがかって侵略戦争の思想的ものが、この国の土着のものが、崩れさっていく。それは、宿儺に 8 背景に利用されたという汚名をきせられ、二度とかえりみられなくとっては黙視することのできない情勢だったにちがいない。 なった。すべての日本的なものが、大東亜共栄圏という侵略戦争の おれたちは、出羽平の麓にたどりついた。そこには、観光コース 元兇として、前科の烙印を押され追放された。しかし、それら日本に入っている飛騨鐘乳洞がある。それは、最近になって発見され、 的なものというのは、大部分は東アジア世界に起源をもつものであ一躍有名になり、発見者が巨万の富を得たことでも知られている り、つきつめていくと、偏狭なナショナリストが主張するような日 が、かっては閉ざされたまま、誰にも知られずに存在していた。 本精神は、皆目なくなってしまう。例えば、ファナティックな皇道もしかすると、宿儺の千載の眠りをさましたのは、この鐘乳洞の 論者が、大和民族の優秀性を立証する根拠としている天孫降臨の伝開発のためかもしれない。 説などは、朝鮮半島にいくらでも見うけられる。 おれと美雪は、鐘乳洞からはるか上方へと登っていった。しばら こうして、戦後、教育、文化一般に、尨大なプランクができた。 く遅れたところから、山城氏やマスコミ関係者がついてくる。おれ すべての日本的なもの つまり、東アジア世界から日本が借用しは、行手の・ ( リケードをとりのけ、ここ数年封鎖されていたとい スケー・フゴート てきたものを、体のいい贖罪羊に仕立てあげ、敗戦のすべての責任う、両面窟への通路へ入りこんだ。 をかぶせ追放してしまったため、途方もない空白ができてしまっ 両面窟の入口は、苔むした岩屋になっていて、かなりじめじめし た。時の為政者は、この空白を埋めた。日本神話のかわりにギリシて、たえす水滴がしたたっている。しかし、案内書にあったよう ヤ・ローマ神話を供給し、崩壊した神道のかわりにアメリカ本国か に、もはや石灰岩の溶蝕はつづいていないらしく、なかへ入ると乾 いた感じにかわった。 らの伝導団を呼びこみ、日本文化の根底からくつがえす改革をやっ てのけた。 岩窟のなかに一歩ふみこんだとたんに、おれも美雪も立ちどまっ それが、戦後四半世紀にわたるコーカソイド化教育だった。日本た。 人は、コーカソイドの一亜種であるかのように定義づけられる。日 そこに、それは立っていた。千数百年の呪縛から解きはなたれ、 プイデンティ子イ 本人のうちには、東アジア世界の国々に帰属感をもつ人間は、ほ一丈八尺 ( 五・五メートル ) の巨体を直立させ、宿儺の姿が立ちは とんどいない。すぐ隣りにあたる国々の言葉ーー朝鮮語、北 京官だかっていた。それは、あの忿怒の形相もすさまじく、二つの顔の 話、福建語、ベトナム語などを習おうとする日本人は、すこしも見ついた首をふりたて、四本の腕に剣と弓矢をにぎり、いまにも動き 当らない。それでいて、日本人の大半は、この異常きわまりない状だしそうだった。 この列島のうちを席捲したコーカソイド化の風潮と対決すべく、 態を、すこしも異常と感じていないらしいのだ。 外来のものに痛めつけられた宿儺の魂は、ついに立上がったの両面宿儺は、ゆっくりとこちらへむかって歩を踏みだした。
中まで戻ると、向こうの砂丘の上に巨大な車輪のよと白状する。そこでロスが、それをとりかえしに行裏に回って、再び、樹の攻撃を浴びる。怒りに狂っ うな生物が現われたのだ。サラたちと合流したロスくから案内しろというと、小人と木馬たちは反抗して、ロスはレーザーガンで樹を打ち倒してしまっ たちは、この車輪生物のカで、もとの世界に戻さようとする。フートが一瞬で彼らを壁にたたきった。その途端、他の樹も攻撃をやめた。ロスたちは れる。 け、彼らを服従させる。 出発し、その途中で無数の小動物が悲痛な声をあげ 驚いたのは、小人と木馬たち。なにしろ別の世界「そんな力があったのか ! 」ロスが驚いていう。フながら走ってくるのに出会う。それはロスが打ち倒 から戻ってきた者はいないのだ。この星にロケットートは恥かしそうに「ああ、君をだましたみたいだした樹に住んでいた動物たちだった。樹は彼らに住 がやってくると、そのあとで必ず殺人波動がやってな」 居と食料を与えてくれていたのだ。今、彼らは死ぬ ぎて、上陸した者たちを皆殺しにしてしまうから、 フートはとてもいい人なのです。 しかない。タックはロスを非難する。だが何ができ 別世界にロスたちを送りこんで、波動をやりすごそところが小人は逃げ出し、首を吊って自殺してしたというのだ。ロスにあるのは行動だけ。この辺か うとしたのだと弁解するのだが、ロスはきかない。まう。サラたちはロスが暴力的だからこんなことにら最初の狩の話が伏線だな、とわかってくる。 彼は小人を脅迫してローレンス・アレン・ナイトのなったと非難するのです。こうしてなんとか木馬たやがて木馬たちは反乱をおこして去っていく。ロ ことを聞きだす。たしかにナイトはロポットを連れちに荷物を積んで、ロスたちはナイトを求めて旅にスはペイントという木馬が山の岩の間にはさまって て、出かけていったのだが、戻ってきたのは傷つい出る。街を出るだけでも何日もかかった。そして街いるのを助け出してやり、三人と一人の異星人と、 たロポットだけだった。そして小人はロスコウの体を出るとそこには新たな危険が待っていた。それは一頭の木馬たちは旅を続ける。 をもってきた。しかし、電子頭脳はない。ロスがま巨大な樹だった。樹はロスたちに向けて、自らの実ケンタウルスたちに出会ったとき、彼らはポロを た脅すと、小人は森のケンタウルスがもっていったを砲弾のように撃ち注いでくる。ロスたちはようややっていた。球はロスコウの丸い電子頭脳。タック シマックの新作「 0 」くのことで、街から少し離れた建物に逃げこむ。どが話し合いで、それを取り戻してくると出かけたが うやらそれは神殿のようだ。その中で手造りの木の嘲笑され、罵しられただけだった。ロスはケンタウ 人形を発見する。それがデスティニー・ドールなの一ルスの首領と戦い、サラの銃の助けで、それをとり です。盲目のスミスはその人形を抱きしめて離さなかえす。力にはカだけが有効なのだ。ロスコウの体 い。ロスはそれを見てますます嫌になってくる。そ一に脳をはめこむのだが、それはこわれていて、ロス してその 夜、スミスは消えた。 コウはただ北を指さすこととたわごとをいうことし 盲目の彼がどこに行けるというのだろうか。フーかできない。 ロスたちは北へ向けて旅を続ける。タ トは、彼はこの星の上にはいない、・ とこか別の世界一ックはケンタウルスの件以来、ロスたちと少しでも に消えたというのだ。あの男は消えたがっていたか一離れていようとし、ロもきかない。ただ木の人形を ら。タックは愛するスミスを失って落胆し、彼のか抱きしめて、黙々と歩く。やがてロスたちは他人の たみの木の人形を抱きしめる。翌日、ロスは建物の存在を忘れるようになってくる。タックは影の存在 (O 「ス、ナ一 0 0 0 - 0 0