時間 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1973年4月号
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1. SFマガジン 1973年4月号

黒道化この年齢で ? あれほどの失敗ののちに ? 今や我らはるのかい ? 奴は五年間も歯医者に行っていないのだぜ。さあ、開 いて見せてやれ ! ( と、黒手袋の手をゴットの顔の前に突き出 会釈して大いなる嘘に前進しておるわ ! 黒ネル ( 感情を害した声で ) いかにも ! ( それから再びゴッす ) トに ) 第一点。あなたは自ら、強い愛国心、深い愛社精神、現実ゴットは挑発に耐え切れず、声高に「うせろ、くたばれ ! 」と罵 的な利己性、青年のあらゆる理想主義や反抗性への厳しい侮蔑、とると、重い書物を左手で投け出して黒の道化師の鼻を・ハタンと挾 いった評価を獲得した。第二点。あなたは実業生活に於いて、なしむ。二つの黒い人影は勿ち崩壊する。 得れば同僚を秘かに貶めるが出世のためには彼らと手を結ぶことも ジェーンは鉛筆を紙東から二、三十センチ持ち上げて素速く振向 厭わない 、という建設的憎悪を培った。第三にして最も重要な点。 くと、い詰める。「我が神ゴット、どうしたの ? 」 あなたはある程度、人間像について超越者幻想を創り上げるに到っ 「ただの冬蠅さ、おまえ」と彼は彼女を宥める。「十二月に姿を隠 たが、その人間の持つ物は、秘密の情報源、他者よりも迅速な思考して春になると黒い雲を殖む肥ったやつらの一匹だよ」彼はプル と断乎とした行動を取り得る秘密の技法、優越的な秘密の縁故と交タークの中のその箇所を見つけると、顔を近付けて両側の頁とその 友関係ーー即ち、他者すべてがへつらいながらも嫉むような、そん間の溝を調べる。彼は狡猾に彼女の方を見回して言う。「彼女を潰 な新たな暗黒の力。 せなかったよ」 黒道化 ( 一種の対位法としてソフアを周回する ) だが彼は大い 宇宙船の椅子がカタンと音を立てた。ジェーンは尋ねる。「どう なる職を失って地上に堕ちたのだそ。ナショナル・モーターズは少したの、 ( イニー ? 」 なくとも正しい方向への第一歩であったが、ハグボルトーヴィンセ 「隕石が爆発したんだよ、ママ。・ほくは大丈夫。再び宇宙に、航路 ントは自社の飛行機も社室も狩猟小屋もコールガールさえも持たなのまん中に出たよー かったのだそ ! その上、大酒飲みときては。イナー・サークルは ジェーンは、ゴットの書物の閉じる音が宇宙船に届くまでに時間 落ち目の飲んだくれのためにあるのではないのだ。 を要したことを印象に留めた。彼女が″樹″の高い枝に懸けた・フラ ンコの子供たちをインクのしみで軽くスケッチし始めると、子供た 黒ネルお願いだ ! あんたがいるとすべてぶち壊しだ。 黒道化奴はもう壊れているよ。 ( ゴットに近づいて ) さあこちは峡谷を越えて星へと飛んで行く。 いつを見てみろ。眼は遠くを見るにも近くを見るにも支えが必要。 ゴットはマティニ水を一口呻るが、孤独と無能を痛感する。彼が 耳はというと、簡単な言葉すら聞き違える。 プルタークの縁越しにソフアの下の暗闇を覗いて新たな希望に苦笑 ゴット離れていろと言っておるのだ。 したのは、巨大な平板な黒パテのしみと化した道化師とネルの男を 黒道化 ( 警告を無視して ) 肥大した下腹部、軟弱な性器。脹れ見たから。俺は黒い刺激を受けている、と彼は考える、なぜ黒なの 5 上った踵。ロは悪臭を放っ虫食いだらけ ! ーーおまえさん知っていだ ? ーー忘れたいことは、最初に暗い寝床に横たわっていた時に臉

2. SFマガジン 1973年4月号

「いえないわ」 と彼女はいった。 まるで心を奪われているように、アジタの瞳は、中央の広場の光 景にそそがれている。月桂樹のような樹にかこまれたその広場自体 のかたちが、何かあるものを連想させるのだった。裸形の者たち で、びっしりとあふれていた。い りみだれて何かをおこなっている のだった。どきっすぎるくらい、細部まで描写されているので、ア ジタは恥しかった。 目を左手の下の方へ移すと、大きな水の広がりにむかって漕ぎだ していく二人の少年と少女がいた。 「あの少年、あんたとそっくりね」 「うん : : : 」 「けど、女の子はわたしじゃないわ。ちょっと似てるけどね。だれ なのかなあ : : : 」 ポーディは黙っていた。 「あの二人、どこへいくのかしら」 「かすれているけど、点線がついてるんだ。わかる : : : 」 「ああ、ほんとだ」 と、アジタはつぶやいた。 理由はわからないが、その部分だけつづき物のように、描かれて いるのだった。少しずつかたちが変わっていって、点線のおわりの 方では、まったく異様なものになっているのである。 「この黒い影のようなものはなにかしら。二人をのみこもうとして いるみたいね」 アジタのいうとおりで、その黒いものは、水の中から現われて、 氷河期についての新説 地球上の氷河期の原因についてはその途中にある物質にはほとんど反 応しないというのだから ( 何しろ、 従来から様々な説が出されてきた あの量のニュートリノの半分の彙を が、今度全く思いがけない方面から 新しい説が提出され、目下太陽の内さまたげようと思えば、数光年もの 部構造について「従来の考え方を根厚さの鉛の璧が必要だという ! ) 太 本的に変えなければならないかも知陽の中心部からその表面までの物妻 い距離をあっという間に走り抜けて れない、という危機が取沙汰されて しまい、地球上にほんの何分間かで 到着する。 まず、現在太陽の内部構造につい ところが、なんと問題の焦点とな て定説となっているところから説明 すると、太陽の内部では四個の水素ったのは、このニュートリノなので から一個のヘリウムを合成する熱核ある ? 米国サウス・ダコタ州リードにあ 融合が行なわれており、その結果へ るホームスティク金山の地下一マイ リウムとエネルギーとニュ ルのところに、レイモンド・ディビ とが発生する。 1 ス・ジュニア氏によって考案され この時、ヘリウムはそのまま太陽 たニュートリノ探知器が設置されて の内部に蓄積されるが、エネルギー いる。この深さは、ニュートリノの は太陽の内部を通って表面に出、そ こから莫大な量の光として四方に放探知用としてはまことに理想的で、 この深さに到着するまでに他の粒子 散される。 だが、この光のエネルギーは、太はほとんど皆途中でストップされて 陽の表面まで出てくるのに非常に長しまい、主としてニュートリ / だけ い期間がかかり、それが地球に到達が、ここまで達するのである。 この探知器は、四塩基エチレン するまでには一千万年の時間を必要 とするので、いま太陽の表面から放 (Tetrachloroethylen C2C14) 射してくるエネルギ 1 の具合を点検という″、ニュ 1 トリノ捕獲液″を四 0 万リットル満たしたタンクから成 したところで、太陽の中心部におけ ってい・て、深さ一マイルの地般をつ る現在の状況を知ることはできな らぬいたニュートリノの粒子が、こ の液の中の原子量の塩素核につか ここで問題となるのが一一ユートリ まって原子量のアルゴンに変化す ノの存在である。しれは、質量のな い粒子で、光の速度で飛び、その上るので、その数をはかれば、ある一 0 3

3. SFマガジン 1973年4月号

奈落の底から エム“ンエフ & ′レノフ 訳深見弾画 = 斎藤和明 彼か宙船ごと閉じ込められたのは 時の流れがせき止められ 空間すら存在をやめた 虚無そのものの絶望的な奈落だった ! 、、・ , ・イ 3 をりい、卩を ・ミ ~ ツツこ 1 0 目 3 r Yb 目 H 日 最後の星が突然 掻き消えたのを私 は見ていた最後の 光を追い抜いて、 私は宇宙の る銀河系が光造の範囲 内にある空間の領域 外へ飛び出した。 船になにか起ったのか ? 静止しているのか、それと も果し無い奈落に向って落 下しているのか ? 皆目分 らない。計器は死んだよう に動かなくなってしまっ スペクトルフォトメーター た。分光光度計は盲にな り、重力波計が唖になり、 荷電粒子計測器は呻き声ひ とったてなくなってしまっ フォトン た。船外には光子ひとっ宇 宙塵ひとっすら無かった。 フィールド 物質も場も空間も無かっ た。そして、時間すら無か 私は連続の感覚を失って いた。船は、熱湯の中の砂 糖のように静かに、異常の

4. SFマガジン 1973年4月号

by KOSEI 72 カ《ト☆水野良太郎 やつは、泥絵具の紙芝居よりも、もっとあかぬけていて、 すべてはタイトルからはじまる 敢えていえば、もっと軽くて、スマートなのだが、それ は、それだけ、オモチャ性が強いということかもしれな 映画というのは、結局は、タイトルが、すべてなのでは なし力と思うことがある。 紙芝居のほうは、近頃、はやらなくなっているけれど 映画館の客席が暗くなって、スクリーンに、その映画会も、私も、小学生の頃「黄金・ハット」なんか、夢中で見て 社のマークが映し出されると、もう、期待感でいつばいに いた覚えがある。あれも、もちろん、なんとも安つ。ほいも なって、わくわくする。この気持は、映画が好きな人たちので、それはいいのだけれど、映画と比べると、オモチャ なら、だれでも知っているはずだ。そのあとに、すぐタイの感じが少ない。・ とうしてなのかと考えてみたのだが、つ トル文字が出る場合もあるし、それまでに、しばらく時間まり、それは、映画は、ただ、パーフォレイションのある 一種の がかかる作品もあって、そのどちらでも、かまわないけれフィルムが、機械じかけでカタカタと動いていく、 ど、タイトル文字が、画面を走り出すと、さあ、紙芝居が高級 ( ? ) カラクリなのに、紙芝居のほうは、大のおとな はじまるぞ、という気分が盛りあがる。まあ、映画という : 、ほんとに、肉声をはりあげて説明しなくてはならない 連載コミックスの世界 続・スビリット き、 68 ー

5. SFマガジン 1973年4月号

人たけが唯一の生ある者だったと言えよう。話しながらもクリフのが無かったから彼は泣いた。 ・眼は時折りペリスコープのほうにさまよっては、今や、天空を半分しばらくの後、彼はかなり気分がよくなった。自分が非常に空腹 以上も昇った地球の輝きにくらませられるのだった。それが七十億だったことに気づきさえしたのである。何も空腹をかかえたままで の生命を擁するところと信ずるのは不可能だった。彼にとっては三死ぬにはあたらない。それで彼は戸棚大の厨房の中の宇宙食糧をひ 人だけが問題だった。 つかきまわし始めた。彼が鶏肉とハムのペーストのチュープを口の 四人と言うべきかもしれない。しかし最大の善意をもってしても中に押し出していた時、発射コントロールが呼びかけた。 彼は赤ん坊を他の三人と同列におく気にはなれなかった。彼は末の さっきとは違う声がラインのはしにあったーーー遅い、しつかりと 息子を見たことがなかったし、今となっては決して見ることはないした話し方の、非常な有能さのこもった声であり、機械の機能の怠 のだ。 慢は絶対許せぬといった語気の響きがあった。 彼はとうとうもう言うべき言葉が思いっかなくなった。一生涯を「こちらは宇宙船局の保安部長ヴァン・ケッセルだ。注意深く聴い かけてもまだ充分でない事柄があるーーしかし一時間が充分過ぎるてくれ、レイランド。救助の方法が見つかったようだ。難かしい方 場合だってある。彼は肉体的にも感情的にも消耗しきったことを感法だがーー望みをかけられるただ一つの手段だ」 じた。それにミラにとっても緊張状態が同様に重い負担だったに違希望と絶望の交替は神経にはたえがたいものだ。クリフは突然、 いなかった。彼は自分の心を落ち着け、大宇宙との和解を試みるた 目がくらくらとした。倒れる方向があったら卒倒したかもしれな め、一人で自分の心と星々とに対面していたくなったのだ。 「一時間ほど電話を切るよ、ミラ」と彼は言った。説明する必要は 「続けてください」気分がおさまってから、彼はかすかな声で言っ こよっきりと通じあった。「また後で なかった。二人の心はたがい冫冫 た。それから彼はヴァン・ケッセルの言葉に熱心に耳を傾けたが、 ずっと後で電話する。それまでさようなら」 その表情は次第に懐疑的なものに変って来た。 彼は地球からのさようならの返事を聞くために二秒半ほど待つ「信じられない ! 」と彼はついに言った。「理窟に合わないんだ た。それから電話を切ると、小さな制御。ハネルをうつろに凝視し た。全く予期しなかったことには、欲や意志とは無関係に、涙がど「コンビーターと議論したってはじまらんぜ」とヴァン・ケッセ っと眼からあふれ出し、次の瞬間には彼は子供のように泣いてい ル。「この数字は二十通りの方法でチェックしたんだ。それに大丈 夫、ちゃんと理窟にあっている。遠地点では君の速度はさほど大き くない。だからその時なら君の軌道を変えるのにそれほど大きなカ 家族のために、自分自身のために彼は泣いた。彼が体験できたは ずの未来を惜しみ、間もなく白熟の蒸気となって星々の間をただよは要らないのだ。君は遠宇宙用の宇宙装備を身につけたことはない うだ ) つう数々の希望を思って彼は泣いた。また、他に何もすることのだろう ? 」

6. SFマガジン 1973年4月号

ったのだ。その時までには地球は地平線から分離し、速やかに空をに夫の安否を気づかっているから、ただちにばっちりと眼を醒す。 昇っていた。 しかし二人は寝室に電話を置くことを嫌 0 たから、彼女が電灯をつ 9 け、赤児を起さないように育児室のドアを閉め、階段を降り : : : と それは四分の三ほど満ち、まばゆくてほとんど眼も向けられない いったようなことに少くとも十五秒ぐらいは ほどだ。鈍重な岩や、砂埃におおわれた平原によってではなく、雪 と雲と海とによって作られた宇宙の鏡がそこにあった。事実、それ彼女の声は宇宙の空漠をよぎって明瞭に甘く彼の耳にとどいた。 はほとんど海ばかりでできていた。太平洋がこちらに向けられてい大宇宙のどこからだって、彼は妻の声を聞きわけるだろう。その声 たからだ。陽光の眼もくらむような照り返しが ( ワイアン群島をつの底に不安の響きがこもっているのも彼はただちに感じとった。 つみかくしていた。数時間後には彼の降下を柔げる役割りをはたし「レイランド夫人ですか ? 」と地球側の交換手の声。「御主人から たであろう柔かな毛布のような大気層のかすみが、すべての地理的のお電話です。二秒間の時間のずれをお忘れなく」 冫いったいどれほど多くの人たちがこの な詳細を消し去っていた。夜の部分から現われかけたあのやや黒す月と地球と中継衛星とこ、 んだしみは多分、ニューギニアかも知れなかったが、定かではなか通話を傍受しているだろうかとクリフは思った。どれほどの数の立 ち聴き者がいるかがわからずに、愛する者と最後の会話をかわすの あの麗わしい、輝く惑星へと直進していることを意識して、彼ははつらいことだった。しかし彼がいったん話し始めるや否や、ミラ 運命の辛辣な皮肉を感じた。あと時速七百マイルくわわっていればと彼自身以外、何者も存在しなかった。 そこへ行きつけたのだ。あと時速七百マイルーーそれだけで充分な 「ミラ」と彼ははじめた。「こちらクリフだ。私は約束どおり家に のだ。しかしそれは七百万マイル望むのと同様だった。 帰ることができなくなるかもしれない。つまり : : : つまり操作上の ミスがあったんだ。今のところは私は全く無事だ。でも、重大なビ 上昇する地球は、抗しがたいカで彼に家庭を想い出させた。はた すべき義務を彼は恐れはしたが、それ以上、延期するわけにはいか ンチに立ってるんだ」 彼はロの中の、からからの乾きに抗して唾を呑みこみ、彼女のほ 「発射コントロール」非常な努力をもって声を平静に保ちながら彼うからの言葉が来ないうちに、ロ早に先を続けた。できるかぎり手 は言った。「地球との通信回路をこちらに接続してください」 短かに彼は事情を説明した。彼女のためは勿論、自分自身のために それは彼が生れてからなした最も奇異な行為の一つだった。月のも、彼はすべての希望を捨て去ってはいなかった。 上空に坐って、二五万マイルもはなれた自分の家の電話のベルが鳴「みんな最善をつくしてくれている」と、彼は言った。「間にあう るのを聞くのだ。アフリカでは今は真夜中近くだろう。だからむこうちに、救助船をまわしてもらえるかもしれない。でもそれができ とまあそれで君と子供たちに話をしておきたいん ない場合 : ・ うが電話に出るまでにはちょっとてまどるだろう。ミラは眠たげに 寝がえりを打つ。それから、彼女はス。ヘース・マンの妻であり、常だ」 すみ リレ

7. SFマガジン 1973年4月号

つく。頭のてつべんの禿には毛が生え、眼は輝きを帯び、顔の皺はが、本人が委員会へ出頭すると、向うの連中が胆を潰した。頸など の腕白どものサッカーチームで攻撃の主力 5 伸び、大体が大変元気旺盛になった。我々は途方に暮れ、頭をかかは牛みたいで、アパート えた。正確に一一一口えば、頭をかかえたのは私で、この時分にはコップになる。ところが最近一、二年はまた痩せて来て、耳などはまった ーを集め出し スにはもうどうでもよくなっていたのだ。しかしながら永遠の若さく洗わず、近頃では、見ていると、マッチ箱のペ 1 たようだ : ・ : ときに君は以前、まだ本物の事務長だった時のコップ ということは非常に結構だが、実際に人間が年を取らないであべこ べに若くなって来ると、これはもう冗談ではなくなる。あちこち走スを知らなかったかい ? 」 り廻って、どこかにフェオナズの組成が書留めてないかと探し廻っ 我々は勘定を払って、酒場を出て、いまは街路を歩いていた。 て、クリスタルを復原しようとするんだが、当時は万事がいい加減「以前にも知らなかった」と私は言った。「いまだって知らない。 ったい彼は、何といったらいいか、その、いまもピン。ヒンしてい で、クリスタルの組成など確めてもなかった。その間にも時がた ち、表向きにはコツ。フスは定年が近くなるんだが、知的にも、肉体るのかい ? 」 ? コップスが ? さっき酒場の店先で私が話を交したのが 的にも万事逆のことが起るのだ。容貌も、習慣も、しぐさも変って「誰が くる。以前は奴はひとり暮しの家へ。あらゆる新案特許の家庭用品奴なのだ。昼めし代を遣ったのだ。いまはもう奴を見棄てることは を持ち込んで喜んでいたものだった。テレビでサッカーの試合を観できない。ずいぶん長い間一諸に暮して、クリスタルの事件もみな るのも嫌いじゃなく、推理小説以外は何も読まなかった。時がたっ私の眼前で起ったことだ。そのまま一諸に暮しているよ。私は研究 に従って、居心地のいい家にも関心が無くなり、自分の道楽 , ーー例所を勤め上げて、恩給を貰うことになった。私個人としては生盾費 のクリスタルーーも捨ててしまい、図書館では『人生問題を扱っはあまりかからないし、奴だっていまでは同様だ。十八歳の頃は流 た』小説を探すようになり、集合では暴露演説をやらかす。また何行の背広をつくるんで、裾の切り込みを一つにするとか、二つにす 年かたっと、一人住まいの家では退屈になり、アパート へ引越しとるとかで、大変だったがね。十四歳になっては、もうどうってこと : ・ところで、奴は知っていたことをどんどん忘れて行くん 来るし、サッカーも直接竸技場で観る。『人生問題を扱った』小説もない : も顧みなくなり、スポーツ雑誌ばかり購読する。また何年か過ぎるで、この秋には小学校へ遣ろうと思っている、九年へね。それから と、スポーツも捨てて、ジャズに熱中する。ギター、オートバイ、 八年、七年、六年、五年とだんだん下って行くわけだ。まったく教 ーティに女の子と来る。さらに何年かたっと、また変化が起る。育をしないでもいられないからなあ」 女の子は以前の通りだが、もつばらプラトニックな愛というやっ赤ら顔の男は嘆息した。 で、自分の髪型をあれこれ変えてみたり、詩をつくったりする。仕「私の最大の希望は、勿論、誰かがこの間題に関心を持って、クリ 事のことは頭になくなり、研究所をクビになる。私は奴のために恩スタルを復原する手段を発見し、コップスを元通りにしてくれるこ 給を請求してみたが、飛んでもないこった。書類の上では六十歳だとだ。だが、誰にも自分の仕事があるし、皆時間が足りないんだー

8. SFマガジン 1973年4月号

ハヤカワ・ノヴェルズ / 最新刊 イアン・キャリスン 幽霊船団 フライアン・キャリスン / 井上一夫訳¥ 500 第二次大戦のさなか、娵秘の使命を帯ひて南 大西洋を南下する一輸送髜 } 団。連合国の死命 を制する機密文書をオーストラリアに運ひ込 む、それか、この髜 } 団の真の任務だった 大 : 羊のいたるところに張りめぐらさネした、独 : ′、 U'%¯トの死の罠に、敢然と強行突破をキ兆む ジョン・プル魂を描く海洋冒険 / ト説の傑作ー カートヴォネガット「 / 伊藤呱夫訳プ ビリいピル乞リム、、経験・するけい才しん的 時間旅行 ! ! ー、下。デ 年 - 、・一 - ト。ラルフ アマドール星動物園 ニューヨク 1955 年 ・シカゴ 1976 年・・・・・・断片的人生を 発作的に繰リ返しつつ明らかにされる歴史の 屠殺場 5 号 アイロニ 、、現代アメリカで最も重要な作 ユニヴァーサル映画 家の一人クと評された彼の全作品の集大成 ! ! / 古沢安二郎長 , : つ - 0 アドベンチ ポセイドン

9. SFマガジン 1973年4月号

「はい。花弁はだいたい輝かしい赤い色をしております。わたしが ″燃ゆるこうべ″というようないい方をしたのはそのためです。だ がまた同時に、それによって、熱、赤い頭髪、生命の火というよう なことも表わしたいと思いました。薔薇そのものは、刺のある茎と 緑色の葉、それにごくはっきりした、かぐわしい香りをもっており ます」 「できれば見たいものですね」 「なんとかお見せできるのではないかと思います。ひとっ当たって みましよう」 「ぜひお願いします。あなたは〇〇です ( と彼女は、イザヤとかロ 1 カーのような″予言者″ないし宗教詩人といったものに当たる言 葉を使った ) 。あなたの詩には霊感があります。ブラクサにはわた しからこのことを話しておきましよう」 わたしはその名称を受けるのは辞退したが、悪い気持はしなかっ そのあと、そうだ、きようならうまくやれる、とわたしは判断し た。マイクフィルムの機械とカメラを持ち込んでいいかどうか 訊いてみるのだ。実はあらゆる文書の写しをとりたいのですが とわたしは説明した とても手ではそれだけ早くは書けないので す。 驚いたことに、彼女は即座に承知してくれた。おまけに招待して くれたのだからわたしはあわてた。 「よろしければ、その仕事のあいだ、ここにとどまりませぬか。そ のほうが夜も昼も、あなたの望むときに仕事ができるでしよう。も ちろん、寺院が使われているときはいけませぬが : : : 」 わたしはお辞儀をした。 ので、このニ人とペニーとがその物び声や銃声に応じて茂みの上に姿を 体の見張りをし、その間にボアーと現わしていたのだが、結局空の彼方 に飛び去ろうとはしなかった。 ボアーが近くから狩り集めてきた三 これは一体何故であろうか ? ひ 人の労働者とが、その物体の方へ接 よっとするとーーその飛行物体は何 近し、それを深い樹オの茂みの奥か か故障をしていて飛び立てなかった ら追い出す作戦に取りかかり、その のではないだろうか ? 四人が攻撃地点から横にはずれたと もし遠く地球外の空間からやって ころで、べニーとキッチング軍曹が きて、故障を起こして困っている他 さらに何発かの銃弾をその物体目が けて浴びせかけた。すると、ピカビ の天体からの宇宙艇であったとした ならば、その搭乗者に対して、十五 力と黒光りする物体が一つ、茂みの 中からとび出してくるのが認められ発も弾丸を発射するなんて、何とも ひどい応待をしたことになるのだが 「それは黒から赤、それから黄と 事件後何週間にもわたった現地で 色を変えたが、金属製だったのでは ないかと思われる。」と准尉は証言の大騒ぎの中で、七月ニ十八日付 している。 のネイタル・マーキュリイ紙が皮肉 こうして射撃は続けられていた って書いている文句に耳を傾けよう が、その物体が下方へ姿をかくそう 「もしそれが他の天体からやって とした時、ペ一一ーはその物体の右上 きた知的な生物を乗せた乗物だった の光目指して一発発射した。する と、それが当たったらしく、それか としたら、その生物たちは、現在、 ら後は、その物体はもう赤や緑に色われわれ地球の住民を、好戦的だと を変えることはなく、ずっと暗いガ 思っているだろうか ? 攻撃的だと 思っているだろうか ? それとも、 ンメタル色の外観を保っていた、と 単に、『どうしようもない阿呆』と思 っているだろうか ? 」 やがて、その物体は左へ移動し このような大ぎが起こるという て、もっと深いフォーディス・ブッ シュと呼ばれている未開拓地帯へ逃のは、やはり空飛ぶ円盤というもの げこんでしまい、もうそれ以上どう が実在するせいなのではあるまいか しても追究することができなくなっ てしまった。 ( 近代宇宙旅行協会提供 ) この時、時間はすでに正午をまわ っており、四時間半近く物体はアフ リカの深い茂みの中に潜み、時々叫 世界みすてりと・びつく

10. SFマガジン 1973年4月号

準からすればとるに足らぬものだったが、彼を新しい軌道へーー数た。この回転を止める手段を彼は何も持たなかった。それに実際、 マイルの高さで月を通過でぎるとヴァン・ケッセルが保証してくれ彼は常に移り変ってゆく景観を楽しんでいた。もはや彼の眼は、時 た軌道へ彼を押しやるには充分なはずだった。たいした高さとは言おり視野の片隅にあらわれた太陽によって妨けられなくなったの えなかったが、この空気のない世界では、それで充分だった。彼をで、それまでは数百の星しかなかったところに幾千もの星々を眺め 爪にかけてひきずりおろそうとする大気層がそこにはないのだかることができた。おなじみの各星座は濃密度の星々の中に溺れ去 ら。 り、最も輝かしい惑星すら、この光の洪水の中では見つけることが 突然の良心のうずきとともに、クリフは、ミラへの、約束した二難しかった。月面の夜の平原の暗い円盤が星空を横ぎって、日食の 度めの電話をしなかったことに気がついた。それはヴァン・ケッセ影のようにかかり、彼がそれに向って落下して行くにしたがい、ゆ ルのせいだった。この技術官は彼にずっと待機の姿勢を保たせて、 つくりと成長していた。あらゆる瞬間に、明るい、あるいは光の弱 個人的な事柄をくよくよ思い悩む余裕を与えなかった。そしてヴァ い星が、そのヘりの向う側を通過し、まばたいては見えなくなって ン・ケッセルは正しかったのだ。このような状況下では、人は自分行った。あたかも宇宙空間に一個の穴が成長し、天空を食べつくさ のことだけを考えていなければいけないのだ。精神的肉体的のすべんとしているかのようだった。 ての能力を生存への一点に集中しなければならないのだ。心を分散彼が移動してゆくことを表示するものは他にはなかったし、彼の させ、弱気にする愛の絆を思うべき時でもなければ場所でもなかっ規則的な一周十秒間の回転運動を別にすれば、時の経過の指標とな るものもなかった。自分の時計を見た時、カプセルから跳び出して 彼は今や、月の夜の側へと突き進んでおり、日に照された三日月から半時間もたっていることを知って驚愕した。彼は星々の間にカ 形の面は見ている間に縮小していった。彼が目を向けることを恐れプセルを見つけようとしたが駄目だった。今頃はそれは数マイルも た太陽の堪えがたい白熱円盤は湾曲した地平線に向ってすみやかに彼から遅れているのだろう。しかしそれは彼よりも低い軌道を進ん 落下しつつあった。半円形だった月の景観は一本の燃える光の線、でいるのだから、やがては彼の前方に位置するようになり、彼より 星空にかかる一筋の火の弧線へと痩せおとろえた。やがてその弧線も先に月面に到着するだろう。このパラドックスがどうも理解でき は一ダースほどのびかびかしたビーズ玉へと分断され、彼が月の影ずクリフがいろいろ頭をひねっているうちに、この数時間来の緊張 の奥へと突入して行くこしこ : 、、 冫ナカしそれらも一個また一個と、まば による疲労が無重力状態による陶酔感と一緒になって、彼が到底予 たいては消えた。 期し得なかった結果をもたらした。自分の呼吸音を子守唄のように 日が没してしまうと、地球光は今までよりもさらに光輝をました聞き、どんな羽毛よりも軽く、星空の下に浮びただよって回転して ように見え、自分の就道上を、ゆっくりと回転してゆく彼の宇宙服 いるうちに、彼は夢のない眠りに落ちいったのである。 、つ潜在意識からの、うながすような呼びかけに眼醒めた時、地球は を銀色の霜のようにきらめかせた。一回転ごとに十秒ほどかカ こ 0