言っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1973年4月号
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1. SFマガジン 1973年4月号

めに全力をあげているのだ。今は臆病風などを吹かしている時では 「はい、勿論ありません」 ない。君よりもはるかに悪い状況下に置かれた者は何十人もいる。 「残念ーーだが心配するな。指示に従っていれば誤るはすが無い。 ーー重傷を負い、救助の手から百万マイルも距たった難破船に閉じ 船室の隅のロッカーに宇宙服がある。封印をこわして、ひつばり出 こめられた者だっている。ところが君はひっかき傷すら負っていな したまえ」 。それでいてもう早々と泣き声をあげてるのか ! ちっとは性根 クリフは制御。 ( ネルから船室の後尾までのまるまる六フィ ーー遠宇宙用宇宙服一七をひきしめろーーさもないと俺たちは無線連絡をうち切って、貴様 ただよって行き、「緊急時 / ミ使用 / コト 型」と記されたレ・ ( ーを引いた。扉が開き、びかびかした銀色の衣がのたれ死にしようとどうしようと勝手にさせてやるそ」 クリフの顔がゆっくりと赤くなった。彼が返答するまでに数秒間 服が彼の前に、たるんだまま、ぶらさがった。 経過した。 「下着だけになって、その中にもぐりこめ」とヴァンケッセル。 「わかりました」と彼はやっと言った。「指示をまた続けてくださ 「生命維持タンクにはかまうなーー・・それは後から取りつける」 「着用しました」とほどなくクリフ。「今後は何をするのですか 「そう来なけりゃな」と満足そうにヴァン・ケッセル。「今から二 ェア・戸ック 「二〇分間待機ーーその後にこちらから合図を送るから、その時に〇分後、遠地点に達した時、君は気閘に入る。その時点から、君 ェアロック と私たちとの間の連絡はとだえる。君の宇宙服の無線通信機はわず は気閘を開けて跳べ」 「跳べ」という言葉の意味するところが突然はっきりと把握されか十マイルの有効範囲しかない。しかし私たちは君をレーダーで追 た。クリフは今や親しみを覚え始めた、居ごこちのよい小船室の中跡し続け、君が私たちの上空を通過する時には再び君に語りかける を見まわし、それから星々の間の孤独な空漠・ーー落下し始めたら時ことができる。さて次に、宇宙服の各調節装置に就いてだが : : : 」 二〇分間はあっと言う間に過ぎ去った。その終り頃にはクリフは のはてるまで底にとどかないだろう反響の無い深淵を思い浮べた。 自分のするべきことを正確に知っていた。この方法が効を奏するだ 彼は解放空間に出たことはなかった。出るべき理由が無かった。 彼は農学の学位をとった農家の息子に過ぎず、サ ( ラ砂漠農地化計ろうと信ずるようにすらなっていた。 「跳び降りる時が来た」とヴァン・ケッセル。「カプセルの位置は 画での仕事から転して、月面で作物を育てる研究にたずさわってい 正しいーー気閘は君が跳び出すべき方向に向いている。しかし方向 た。宇宙空間は彼向きではなかった。彼は土壌や岩や、月の砂や、 が重大問題ではない。速度が問題なのだ。ありったけの力をその跳 真空中で生成した軽石やの世界に向いた人間たった。 「それはできない」と彼は小声で言った。「他に方法はないもので躍にかけるよラーー・それでは幸運を祈る ! 」 「つい弱音をあげてしま 「有難う」とクリフは不器用な礼を言い しようか ? 」 「ない」とヴァン・ケッセルはどなりつけた。「俺たちは君を救うた

2. SFマガジン 1973年4月号

具を覆さずに立ち直ると、彼女は笑って「あなた、またマティニ水 突然ハイニーが叫ぶ。「線がなくなってしまったよ。・ハ・、、 を濃くなさ 0 たのね」と彼を非難し、 ( イ = ーは〈ルメ ' トをぬい マ、ぼくは迷ってしまったよ」 いえ、違いますよ、 ( イニー。すぐにで「だっこして」と大騒ぎし、彼らが寄り添って半分彩色された絵 ジェーンが鋭く言う。「い ″こどものいえ″が深い峡谷に懸かった樹の上に立っ 宇宙から出ていらっしゃい」 を見下すと、 ておりインクしみの子供たちがそこから冷たい真珠色の月と曲りく 「ぼくはもう宇宙にはいないんだよ。猫の墓場にいるんだ」 ジェーンは、こんなに突然驚くのは気違いじみているわと自分にねった宇宙道に向って飛び出し、手を繋いでプランコに連絡してい 言いきかせる。「帰ってらっしゃい、どこにいるにしても、 ( イニる子供たちの最初から二人目の子供は一方の手で最後の子供の手を ー」と彼女は冷静に言う。「おねむの時間ですよ」 み、一方、絵の左下隅から一匹の肥った黒い蠅が羨ましそうに見 「迷っちゃったよ、 パパ」とハイニーが叫んだ。「もうママの声が上げている。 きこえないよ」 揺れながら平衡に向かう部屋をわが眼で探ったゴットフリート・ ヘルムート・アドラーは、開いた台所のドアの蝶番の隙間から覗き 「お母さんの言うことを聞きなさい、坊や」とゴットは太い声で言 って闇の中であとの言葉を手探りする。 込んでいる死神を見た。 するとことばがゴットに戻り、彼が喋ると彼の声が流れた。「お再び半ば気が遠くなりながらもゴットは、苦心して、冷笑を死神 スペース・ワ にあびせた。 まえの原子発電機は倒れていないかね、ハイニー ? ープ・レ・ハーは動くかい ? 」 「うん、パ。ハ 、でも線がなくなったんだよ」 「そいつは忘れなさい。わたしが亜空間を通じておまえを見守って、 帰還の方法を指導してあげよう。彼女を右に二単位上に三単位旋回 せよ。わたしが合図を出したら着火するのだそ。準備はよいか ? 」 「了解。三、二、一、着火進行 ! 彗星を避けろ ! 左に旋回、惑 星を周行せよ ! 大塵雲は気にするな ! 第三信号所に帰着。今 だ ! 今だ ! 今だ ! 」 ゴットがプルタークを手落して盲目的に躓きながら部屋を横切 り、最後の今だ ! を口にした時に闇が晴れ、彼は ( イニーを宇宙 崎子から抱え上げるとよろめいてジェ 1 ンにぶつかり、彼女の絵の マ SF マガジン用の美麗・堅牢な特製フ ァイルです . 簡単な操作で 6 冊ずつの スマートな合本にすることができます 価 190 円送料 85 円

3. SFマガジン 1973年4月号

ー見給え、皆駈けてゆくよ」 件」 「あそこに奴がいる、見給え ! 」赤ら顔の男は走り出しそうにし 実際通行人は走るように通りすぎて行った。気味の悪い速さで、 建物の壁の上のネオンサインが変って行った。我々の眼前では、機た。「案の定、昼めしを食っていない」 械が一棟の巨大な建物を建て終ろうとしていたが、向うの端ではも実際、群集の中、案内嬢の傍にあの二メートルもある痩せた若者 うその建直しがはじまっていた。足の下で唸り声が聞えた , ーー地下が聳えていた。若者は切符を渡すと、扉の間の闇の中へ消えた。 鉄の新線をつくっているらしかった。 「ところで」と私は赤ら顔の男を顧みて言った。「本当のことを言 えば、あれは君の友人のコップスではないじゃないか。実際には彼 「面白い話た」と私は言った。「少々気味の悪いところもあるが」 私たちは立止まった。私たちの眼前に突然赤い遮断機が出て来は他人で、『反世界』の人間なのだ」 て、たちまちその向側でアスファルトがふくれ上って、はじけ、何赤ら顏の男はびくっと身体を震わせ、それから肩をすくめた。 かの機械の動く部分が現われたのだ。 「知っているよ」と彼は弱々しい声で言った。やがて彼は善良そう 「だが、も 「時には私もいらいらすることがあるよ」と赤ら顔の男が考えこみな眼差をあげて私を見た。彼の声はしつかりしていた。 ながら言った。 「向うの『反世界』で私とまったく同じように考し私が奴を見棄てると、向こうの世界でもこっちのが見棄てられ え、行動する者がいるのだからな。始終こうして、同じことをやつる。それを別にしても、私は奴に馴れてしまって、同時に奴等二人 ているのは不愉快だ。だが、時には反対に、私が一人ではなく、向のことを考えるのだ」彼は突然私の手をとらえた。「まあ聴き給 うにも同じような運の悪いのがいて、そいつの首っ玉にももう一人え、君の専門はアトモグラフィとか言ったね ? この問題を研究し のコツ。フスがぶら下っていると思うと、愉快になる。我々は互いに給え。ともかくも大きい問題じゃないか ? 二人のコツ。フスを元へ 相手のことを考え、同情しているのだ。もう一人の『私』に逢いた戻すことができれば、君自身も永遠の若さをむことができるかも 子ノし、刀 ? ・」 いものだが、それは不可能だ。現にフェオナズのレンズがあって、 知れないよ。興味深々じゃよ、 その中へもぐりこんで『反世界』へ行ってみたところで、向うも同私は彼の肩を抱き、小さな公園へ連れて行った。そこの菩提樹の じ瞬間に、同じ目的で、こっちへ這い出して来てしまうだろうか下のべンチに二人分の席が空いたところだった。 ら。それに第一、対話などできっこない、我々は同じことを同じ瞬「非常に興味がある。だが、私は君の話をたしかに最後まで聴い 間にしゃべり出すだろうから : : : 」 た、そうだろう ? 今度は私のテーマに取り組んで貰おう。君はい 我々の眼前に掘り上げられた濠は埋められはじめ、全部埋まってま、コップスがまともな成長をしないといって悩んでいる。だが、 しまい、遮断機は取除けられ、我々は先へ進んだ。公園の向う側のもし私が発明した器械、ついでに言うが、私はその効果を実証でき 映画館の中へ、大勢の若い連中がなだれこんで行くところであつるんだが、これを使えば君のその悩みなど : : : 」 た。巨大な看板の文字が光っていた。「第八六五四三八三〇七号事 9 5

4. SFマガジン 1973年4月号

「それじゃあ、君はどうして逃げ出したんだ ? 火星で妊娠するこわたしたちは死ぬんです」 とにどんな不都合がある ? タマ 1 は間違っている。君たちはまた「死なない」わたしはいった。 「じゃ、どうするの ? 」 生きることができるんだ」 1 ニが弾いているよう「ほくといっしょに地球へ行くんだ」 彼女は笑った。またあの、狂ったバガニ な、気違いじみた・ハイ十リンの音だった。あまりひどくならないう「だめよ」 「よし。じゃあともかく、いまはぼくといづしょにきてくれ」 ちにわたしがそれをとめた。 「どこへ ? 」 「どんなふうにしてそれができるの ? 」彼女はやがて頬をこすりな 「ティレリアンへ戻るんだ。、ほくが教母たちに話そう」 がら説いた。 「そんなことだめよ ! 今夜は儀式があるのよ ! 」 「君たちはぼくらよりずっと長く生きられる。もし・ほくたち二人の わたしは笑った。 子どもが正常だったら、二つの種族は結婚できるってことになる 「君たちを打ちのめし、そのうえ踏んだり蹴ったりする神のための 君たちの種族のなかには、ほかにもまだ受胎できる女の人がいるに 儀式かい ? 」 違いない。どうして生き伸びられないわけがある ? 」 「それでもやはりマラーンは神よ」彼女は答えた。「わたしたちは 「あなたはロ 1 カーの書をお読みになったでしよう」彼女はいっ た。「それでもまだそういうことをお訊きになるの ? 死は決めらやはりその神の民なんだわ」 れたこと、可決され、宣告されたことなんだわ。こういう形で現わ「君と・ほくのおやじとは、きっとよく話が合ったに違いないよ」わ ほくはいくそ。君も連れていく。たとえ でも、ずっと前からローカーの信者たたしは毒づいた。「だが、・ れてきたすぐあとでね : ・ なにしろ・ほくのほうが君より大きいからな」 ちは知っていました。ずっと前にそう決めていたの。″われらすべかついでもだ 「でも、あなたはオントロほゼ大きくはないわ」 てをなせり″その人たちはいってます。″われらすべてを見たり。 われらす・ヘてを聞き、感じとりぬ。舞いそよかりき。いまやそを終「そのオントロってのは何者だい ? 」 わりとやせん″とね : ・・ : 」 「あの男ならあなたを止めてしまうわ、ガリンジャー。それはマラ ーンの″拳″とされている男なの」 「君はそんなこと信じてはいない」 「わたしが信じようが信じまいが、そんなこと問題じゃないわ」彼 4 女は答えた。「マックワイ様と教母たちが、わたしたちは死ななけ ればならないと決めたのです。あの人たちの肩書きなんかもうお笑 い草だわ。でもその決定はこれからも支持されるでしよう。予言が わたしは車を飛ばし、わたしの知っているただひとつの入口、つ たったひとっ残されてはいます。でもそれは間違っているんです。まりマックワイの居所に通ずる入口の前で停めた。さっき、ヘッド 226

5. SFマガジン 1973年4月号

人たけが唯一の生ある者だったと言えよう。話しながらもクリフのが無かったから彼は泣いた。 ・眼は時折りペリスコープのほうにさまよっては、今や、天空を半分しばらくの後、彼はかなり気分がよくなった。自分が非常に空腹 以上も昇った地球の輝きにくらませられるのだった。それが七十億だったことに気づきさえしたのである。何も空腹をかかえたままで の生命を擁するところと信ずるのは不可能だった。彼にとっては三死ぬにはあたらない。それで彼は戸棚大の厨房の中の宇宙食糧をひ 人だけが問題だった。 つかきまわし始めた。彼が鶏肉とハムのペーストのチュープを口の 四人と言うべきかもしれない。しかし最大の善意をもってしても中に押し出していた時、発射コントロールが呼びかけた。 彼は赤ん坊を他の三人と同列におく気にはなれなかった。彼は末の さっきとは違う声がラインのはしにあったーーー遅い、しつかりと 息子を見たことがなかったし、今となっては決して見ることはないした話し方の、非常な有能さのこもった声であり、機械の機能の怠 のだ。 慢は絶対許せぬといった語気の響きがあった。 彼はとうとうもう言うべき言葉が思いっかなくなった。一生涯を「こちらは宇宙船局の保安部長ヴァン・ケッセルだ。注意深く聴い かけてもまだ充分でない事柄があるーーしかし一時間が充分過ぎるてくれ、レイランド。救助の方法が見つかったようだ。難かしい方 場合だってある。彼は肉体的にも感情的にも消耗しきったことを感法だがーー望みをかけられるただ一つの手段だ」 じた。それにミラにとっても緊張状態が同様に重い負担だったに違希望と絶望の交替は神経にはたえがたいものだ。クリフは突然、 いなかった。彼は自分の心を落ち着け、大宇宙との和解を試みるた 目がくらくらとした。倒れる方向があったら卒倒したかもしれな め、一人で自分の心と星々とに対面していたくなったのだ。 「一時間ほど電話を切るよ、ミラ」と彼は言った。説明する必要は 「続けてください」気分がおさまってから、彼はかすかな声で言っ こよっきりと通じあった。「また後で なかった。二人の心はたがい冫冫 た。それから彼はヴァン・ケッセルの言葉に熱心に耳を傾けたが、 ずっと後で電話する。それまでさようなら」 その表情は次第に懐疑的なものに変って来た。 彼は地球からのさようならの返事を聞くために二秒半ほど待つ「信じられない ! 」と彼はついに言った。「理窟に合わないんだ た。それから電話を切ると、小さな制御。ハネルをうつろに凝視し た。全く予期しなかったことには、欲や意志とは無関係に、涙がど「コンビーターと議論したってはじまらんぜ」とヴァン・ケッセ っと眼からあふれ出し、次の瞬間には彼は子供のように泣いてい ル。「この数字は二十通りの方法でチェックしたんだ。それに大丈 夫、ちゃんと理窟にあっている。遠地点では君の速度はさほど大き くない。だからその時なら君の軌道を変えるのにそれほど大きなカ 家族のために、自分自身のために彼は泣いた。彼が体験できたは ずの未来を惜しみ、間もなく白熟の蒸気となって星々の間をただよは要らないのだ。君は遠宇宙用の宇宙装備を身につけたことはない うだ ) つう数々の希望を思って彼は泣いた。また、他に何もすることのだろう ? 」

6. SFマガジン 1973年4月号

は孤につかれたような女史が未来をにらんでいる、といったエ合だち変え、右手を引抜く。我々は魚どもを見たが、異状は無く、悠々 本当に『永久動力』を発明して、実施に証明してみせることも出来と泳いでいる。私はその時フェオナズの中へ、手と一諸に肩と顔の る御仁にとつつかまるおそれもあるんだ こっちもその男の話半分を入れた。レンズに入った部分はすぐ向うに現れ、私の顔の半 を聴いてやる代りに、その話が終ったら、すぐこっちの発明した分が二つ、鼻と鼻を突き合わせることになった。私が頭をレンズの 『万能プレーキ』の話を聴いて貰う約東をさせるという時代だから中心から遠ざけると、もう一つの顔の半分が同じ距離だけひきさが なあ。誰もおどかすことは出来なくなった。私の時代には、というつこ。 クリスタルの中 ナここで自然に新しい試みが頭に浮かんだ のは私の若い頃は、我々は自分の仕事以外にも何かに興味を持っこへ足、胴体を入れ、いったんまったく反対側へ出てから、戻って来 とが出来たんだがなあ」 るということだ。最初にこれをやる決心をしたのは天体物理学者 赤ら顔の男は嘆息した。 で、この男は当時我々のところでまる一週間ぶらぶらしていた。彼 「なぜ君は『私の時代』なんて言うんだ ? 」と私は訊ねた。「見たが我々に背を向けて入ると、出て来た者は我々に顔を向けていた。 ところ、ー君は私よりもそう年上でもないようだが。いまいくつなんそのあとですぐ同じことを反対の方向にやった。ここで注意すべき は、彼がクリスタルをまさに偶数回通過したことだ この場合は 「いまいくつかって ? 」彼は眼をあげて、考えこむように低い天井二回だ。他の連中も皆、よそから来た者も、研究所の人間も、なぜ を見詰めた。「この騒ぎが持ち上った時には五十たった。あれから かフェオナズを二回すっ通り抜けた。地下室へ誰か旅行者が来る いまではもうはっと、我々はクリスタルのことを教えてやる。旅行者はそれに入って 二十年たった。で、いまは六十五ばかりかな きり計算することも出来やしない。何年かは逆に数えなければなら抜け出ることを一回やり、その後しばらくしてもう一回やりーーそ んからだ。年ばかりではないーー・・月も日もだ。また何をか言わんれで納得した。ここにどんな力が働いていたのか知らないーーー何か や、私はこの私が本当の私であるかどうかにさえまるで自身がないの本能かも知れない。だが、あとでクリスタルに入った人全部の人 んだ」 生にとって、このことは大きな意義を持ったのた。莫大な ! 」 彼はもう一度嘆息した。 「なぜだい ? 」 「まあそういったわけだ。人々はその時地下室でちょっとびつくり「いまにわかるよ : : : 一言で言えば、毎日毎日が過ぎてゆき、我々 して、また自分の仕事へと散って行った。ところで、我々のところは依然としてこの不可思議なレンズを慰みにしていた。実はコップ の窓に金魚鉢が置いてあって、十匹の小さな黒い魚ーーーたしか『グスはまだクリスタルを磨いて、あの実験所のための仕事ができると ラミ』という名だったーーー A 」三匹の金魚が入っていた。天体物理学 いう妄想を抱いていた。何回か奴はダイヤモンドの型を持ってフェ 者がこの金魚鉢を右手に持ち、それをレンズに差入れるーー・・勿論金オナズに近づき、その度毎に切削の道具が力も入れないのにクムイ 5 5 魚鉢はそれを持った指と一諸に突き出て来るーー・金魚鉢を左手に持ス色の靄の中へめりこんでしまい、すぐ隣に出て来るということを

7. SFマガジン 1973年4月号

「はい。花弁はだいたい輝かしい赤い色をしております。わたしが ″燃ゆるこうべ″というようないい方をしたのはそのためです。だ がまた同時に、それによって、熱、赤い頭髪、生命の火というよう なことも表わしたいと思いました。薔薇そのものは、刺のある茎と 緑色の葉、それにごくはっきりした、かぐわしい香りをもっており ます」 「できれば見たいものですね」 「なんとかお見せできるのではないかと思います。ひとっ当たって みましよう」 「ぜひお願いします。あなたは〇〇です ( と彼女は、イザヤとかロ 1 カーのような″予言者″ないし宗教詩人といったものに当たる言 葉を使った ) 。あなたの詩には霊感があります。ブラクサにはわた しからこのことを話しておきましよう」 わたしはその名称を受けるのは辞退したが、悪い気持はしなかっ そのあと、そうだ、きようならうまくやれる、とわたしは判断し た。マイクフィルムの機械とカメラを持ち込んでいいかどうか 訊いてみるのだ。実はあらゆる文書の写しをとりたいのですが とわたしは説明した とても手ではそれだけ早くは書けないので す。 驚いたことに、彼女は即座に承知してくれた。おまけに招待して くれたのだからわたしはあわてた。 「よろしければ、その仕事のあいだ、ここにとどまりませぬか。そ のほうが夜も昼も、あなたの望むときに仕事ができるでしよう。も ちろん、寺院が使われているときはいけませぬが : : : 」 わたしはお辞儀をした。 ので、このニ人とペニーとがその物び声や銃声に応じて茂みの上に姿を 体の見張りをし、その間にボアーと現わしていたのだが、結局空の彼方 に飛び去ろうとはしなかった。 ボアーが近くから狩り集めてきた三 これは一体何故であろうか ? ひ 人の労働者とが、その物体の方へ接 よっとするとーーその飛行物体は何 近し、それを深い樹オの茂みの奥か か故障をしていて飛び立てなかった ら追い出す作戦に取りかかり、その のではないだろうか ? 四人が攻撃地点から横にはずれたと もし遠く地球外の空間からやって ころで、べニーとキッチング軍曹が きて、故障を起こして困っている他 さらに何発かの銃弾をその物体目が けて浴びせかけた。すると、ピカビ の天体からの宇宙艇であったとした ならば、その搭乗者に対して、十五 力と黒光りする物体が一つ、茂みの 中からとび出してくるのが認められ発も弾丸を発射するなんて、何とも ひどい応待をしたことになるのだが 「それは黒から赤、それから黄と 事件後何週間にもわたった現地で 色を変えたが、金属製だったのでは ないかと思われる。」と准尉は証言の大騒ぎの中で、七月ニ十八日付 している。 のネイタル・マーキュリイ紙が皮肉 こうして射撃は続けられていた って書いている文句に耳を傾けよう が、その物体が下方へ姿をかくそう 「もしそれが他の天体からやって とした時、ペ一一ーはその物体の右上 きた知的な生物を乗せた乗物だった の光目指して一発発射した。する と、それが当たったらしく、それか としたら、その生物たちは、現在、 ら後は、その物体はもう赤や緑に色われわれ地球の住民を、好戦的だと を変えることはなく、ずっと暗いガ 思っているだろうか ? 攻撃的だと 思っているだろうか ? それとも、 ンメタル色の外観を保っていた、と 単に、『どうしようもない阿呆』と思 っているだろうか ? 」 やがて、その物体は左へ移動し このような大ぎが起こるという て、もっと深いフォーディス・ブッ シュと呼ばれている未開拓地帯へ逃のは、やはり空飛ぶ円盤というもの げこんでしまい、もうそれ以上どう が実在するせいなのではあるまいか しても追究することができなくなっ てしまった。 ( 近代宇宙旅行協会提供 ) この時、時間はすでに正午をまわ っており、四時間半近く物体はアフ リカの深い茂みの中に潜み、時々叫 世界みすてりと・びつく

8. SFマガジン 1973年4月号

大伴さんの仕事場へ行った者も少ない。私は二回ほど入れてもら えた。立派な独立家屋で、内部には大量な資料が、きちんと整理さ れてあった。「ここで生活しているのか」と聞いたら「いやあ」 と、またもはぐらかされた。 そして、あの悲劇的な死である。「身よりがいないのじゃない か。われわれでお葬式を出してあげなければならないのでは」と の友人たちがお通夜にかけつけてみて、だれもが、あっと驚い 仕事場のとなりの家にご両親が健在で、大伴さんが上流階級の資 産家の子息だったことが、はじめてわかったのである。彼の父上と 私の亡父とが友人だったことも、その時に知った。 地味な服装をし、こまめに動きまわっていた大伴さんの印象と、 そのこととのずれを、私たちはどう理解したものか、それそれ呆然 と持てあました。 時にはどなりあったり、苦言を呈しあったりした経験者ばかりで ある。彼の家庭を知っていたら、ある距離を意識した交際となって いたことだろう。大伴さんはそれをきらって、最後までかくしつづ 一けてきたのだろうなと、いまになって思い当るのである。恥ず・ヘき ためでなく、よすぎるがために、かくすという演技をしつづけた。 告別式の日、小松左京は葬儀委員長なり、各誌の締切りをほうり 出し、二日がかりで弔辞を書いた。心のこもった文章で、私もこみ あげる涙を押さえきれなかった。 彼について語りたいことは、山のようにある。今後、作家が 会えば、必ず彼が話題に出てくるだろう。いつまでも。彼と交友の あった者が生き残っている限りは、思い出がくりかえし語られるに ちがいない。そのさきにおいても、伝説の人となって残るのではな かろうか。子供らには空想力と夢があり、巨大な生物へのあこがれ がある。そのなかのだれかが、ふと「こんなの、だれが作ったの」 と思う時、答えられるおとながいなくても、そのたびに大伴さんは どこかで満足した笑いを浮かべることだろう。 こ 0 筒井康隆 最初皆は、彼のことをャカモチと呼んでいた。それがいつのまに かトモさんになった。 ぼくが彼とはじめて親しく話したのは、彼が大阪へやってきて、 ・ほくのやっていたスタジオへふらりとあらわれた時だった。話しな がら、世の中には変った人もいるものだなあと思ったりした。 作家には喜劇的人物が多い。彼も喜劇的人物であったが、他 の人のように、モデルとして類型化することはどうしてもできなか った。それだけ特異で、複雑な人物でもあったわけだ。 笑い顔、笑い声も独特だった。 ・ほくが何かつまらない冗談をいう。 一秒か一一秒、彼は黙っている。その間彼はぼくの言った冗談と結 びつく、自分の内部のもっとも笑いを誘う事象を模索しているの だ。そして突然笑い出す。口を大きくあけ、あまり大きくない押し 殺した声で、本当に面白そうに笑うのだ。たいへん高度なユ 1 モリ ストであったと思う。 彼への親しみが次第に深まった。 最近は疎遠だったが、思い出せばいつでもまざまざと瞼に浮かぶ 人物だった。 トモさんにはもう会えないのだろうか。おそらくもう会えないの だろうが、そうだとしたらたいへん淋しい だが、トモさんのした仕事の中のいくつかの傑作は、ぼくの胸に 残っている。四歳になる・ほくの息子の心にさえ、傑作「セラファ ン」三部作として残っている。スト 1 リイを暗記してしまっている のだ。 まだまだ楽しく、面白おかしく交際したい人物だったが、広瀬正 がタイム・マシンに乗って去っていった直後、彼も怪獣の背中に乗 ってどこかへ行ってしまった。もう戻ってこないのだ。・ほくが歳を とってから見るであろう、作家馬鹿話時代の夢の中にしか戻っ トモさんの思い出 9

9. SFマガジン 1973年4月号

夜空を背景に、上のほうで彼女が叫んでいた。 「それならあの方が嘘をいったのです。あの方は知っています」 「ガリンジャー」 「何をだい ? 何を知っているっていうんだ ? 」 わたしはまだじっとしていた。 彼女は全身をふるわせ、それから長いあいだ黙っていた。突然気 「ガリンジャー」 がついたが、 / 彼女は薄っぺらな踊りの衣裳しか着ていなかった。彼 彼女の姿が消えた。 女を身体から引き離すと、わたしは上衣を脱いで彼女の肩にかけて 石の転がる音がした。彼女がどこかの道を通って、わたしの右のやった。 ほうへ降りてくるのがわかった。 「なんてこった ! 」わたしは叫んだ。「君はこごえ死んじまうそ わたしは跳び起きると、風に削られた丸石の影に身をひそめた。 彼女は近道をしようとしていた。おぼっかない足取りで、石のあ「 いいえ」彼女はいった。「わたしは大丈夫です」 いだに道を探していた。 わたしは薔薇の小箱を自分のポケットに移そうとした。 「ガリンジャー、・ とこ ? ・」 「それは何ですの ? 」彼女が詛いた。 わたしは踏み出すと彼女の肩をつかんだ。 「薔薇だよ」わたしは答えた。「暗闇のなかしゃよく見えないけど 「プラクサ」 ね。前に一度、君をこれにたとえたことがある。覚えているかい 彼女はまた声をあげ、それから泣き出し、わたしに身体を押しつ けてきた。彼女の泣くのをはじめて聞いた。 「え、ええ。わたしが持っていてもいしカ ゝしら ? 」 「なぜなんだ ? 」わたしは訊いた。「どうしてなんだ ? 」 「いいとも」わたしは上衣のポケットに箱を押しこんだ。 だが、彼女はわたしにしがみついたまま、すすり泣くだけだっ 「で、どうなんだい ? ぼくは相変わらず説明を待っているんだ やっとしまいに「あなたが自殺したのかと思ったんです」といっ 「ほんとうに知らないんですか ? 」彼女は説いた。 こ 0 「知らないんだよ」 「あるいはそうしたかも知れないよ」わたしよ、つこ。 。しナ「どうして「あの雨がやってきたとき : : : 」彼女は説明をはじめた。「どうや ティレリアンからいなくな 0 たんた ? ぼくから離れてい「たんだら男の人たちだけが影響を受けたようなんです。でも、それだけで もう十分でした : ・ : というのは、わたしはーー・そのーーー・影響を受け 「マックワイ様があなたにいいませんでしたか ? あなたに察しが ようなんですーーどうやらーーこ つきませんでしたか ? 」 「そうか。そうだったのか」わたしはいった。 「つかなかったね。それにマックワイも知らないといったよ」 話が途切れ、わたしは考え込んた。 こ 0 225

10. SFマガジン 1973年4月号

ルスから、月から。猫たちはそうしたことが出来るのだ。彼は帰還 もここに来たことがないから、楽しがるわよ。 黒老婆あとで、彼がつつましうなったらの。わしの言うとるこする猫なのだ。 ジェーンは画筆を置いて再び鉛筆を手にする。一番遠くまで揺れ とが理解できるか、奴隷よ ? もしわしがそなたの妻をして娘たち の晩餐を作り娘たちの足を洗い娘たちに寄り添うそなたの姿を見せている子供二人がまだ・フランコに繋っていないということに彼女は しめよと言うたら、そなたはそうせねばならぬのじゃぞ。そしてそ気づいたのである。彼女は二人を鈎で留め始めるが、しばし躊躇す なたの小伜はわしらの使い走りをするのじゃ。さあこちらへ来やる。子供たちの何人かは星にまで出かけているけれど大丈夫なのか れ、フロージーの傍に坐れ、その間にわしはドライアイスで烙印をしら ? どこか夕暮れの世界ーーーたぶん午後遅い月ーー・で赤ん坊の 押してつかわそう。 雨が降るというのは素敵じゃないのかしら ? 彼女の願いは、家の ゴットの戦慄は、老婆の腕が伸びて迫ったことによるものであ屋根をかすめて飛ぶ飛行機がこの疑問の答を電波誘導してくれるこ り、彼が汗を流し始め、「天なる神よ」と呟くと、恐怖の香は彼かと。すべての疑念を自分ひとりの胸に抱いていたくなかったのであ ら抜け出て壁ヘーー・無数の吸息分子の中へ。 る。それは彼女に罪の意識を感しさせるのだ。 寒風がハイニーの宇宙道路の塀を越えて吹き込み、星々は揺らめ 「ゴット」と彼女は言った。「以前に書いてらした物語だけでも完 いて塀の前にダイヤモンドの落葉のように身をひそめる。 成なさっては ? 象の墓場のお話よ」そう言ってから彼女は言わね ジェーンは呟きと恐怖の香を察知するが、 ″こどものいえ″の窓ばよかったと思う。その着想はハイニーを悲しませたものであった 、ら。 を温かな濃い黄色に塗っているところであったので、やや声高にう っとりとした幸福な声でこう言った。 「いっかはね」と夫は呟いた、とジェーンは考える。 「天国はこどものいえに似ているでしようね。住人はあなたが子供ゴットは弱々しく安堵を覚えるが、なぜであるかは忘れ始めてい の頃から億えている人たちだけーーーなぜならあなたは子供の頃にそる。均衡を保って頭を慎重に書物に向けて彼はマティニ水を一口分 の人たちと一緒にいたからであり、また、彼らがあなたに子供の頃残して呑み干す。いつも底に近づくほど強くなる。彼が強制的な二 のことを正直に話したからでもあるわ。本物の人々」 焦点眼鏡の下半分で頁を眺めると、一瞬、″シーザー″という単語 本物のという語に、黒い老婆と黒い娘は窒息し、強い炎にさらさが活字の中で二、三センチ盛り上り、吹流し型のひげ飾りが裂け目 れた細い蝓燭とやや太い蝋燭のように曲がって熔け始める。 を見せ、白い紙がごわごわとした繊維を露わにした。そこで、頭は ハイニーは宇宙船を旋回させると勇敢に帰途に着き、星一つない そのまま動かさずに眼鏡の上半分を通して見ると、鈍い黒パテの厚 暗闇を、道路の中央を示す幽霊のような白線に沿って進む。彼は自い塊が波立っ青い寝椅子の上に見えたので、機械的にパテを寄せ集 分をわが家で飼っていた猫だと老える 。パパは猫が帰って来る話をめ、親指と掌の光線で素速く形造った物は黒い寛衣の老哲人、一度 工のスタイルの組造りであ も完成させたことがなく口ダンかド 1 ミ してくれた・ーーーダウンタウンから、ビッツ・ハ ークから、ロサンジェ に 6